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獣人世界大戦⑨〜魔鎧

#獣人戦線 #サクラミラージュ #獣人世界大戦 #第一戦線 #幻朧帝国 #黯党

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「みんな、毎日戦争お疲れ様! 獣人世界大戦も、あとちょっとで前半戦終了ってとこだね!」
 グリモア猟兵クイン・クェンビーは、まず最初に集まった猟兵を労った。
「それで早速なんだけど、クインからは『量産型アングラマンユ』の破壊を依頼したいんだ。
 場所はウラジオストクにある『|黯《あんぐら》党』の前線基地。かなりの数の影朧甲冑が配備されてるんだけど、その一つ一つがどれも物凄く強くてね……。
 なにせ量産型とはいえ、|悪魔《デイモン》を燃料にしてるから、出力がすごいんだって」
 クインは、影朧甲冑という非人道的兵器を躊躇なく運用する黯党に、強い嫌悪の表情を浮かべる。
「しかも乗ってる奴らは、戦うことに迷ったり、躊躇ったりなんて全くしない。自分を疑ってもいないんだ。
 だから、説得は通じないと思う。どうにかして|悪魔《デイモン》の力を弱めないと、みんなでも危ないよ!
 絶対に油断したり、たかをくくらないようにね。まだ戦争は序盤なんだし、ここで負けるわけにはいかないもん!」
 強い信頼と期待に裏打ちされた、だからこそのおふざけのない警告は、無視すべきではないだろう。
 これは本当の意味での「戦争」だ。少なくとも、敵はそのつもりで影朧甲冑に乗り込んでいる。

「前線基地には罠や防衛線があるけど、みんななら突破するまでは問題ないと思う。
 とにかくアングラマンユをぶっ潰す! そのことだけを頭に入れて、頑張って!」
 クインに出来るのは、送り出すことと励ますこと、そして帰りを待つことだけ。
 グリモアの光が、猟兵達を包む。その背に、祈るような眼差しが最後まで向けられていた。


唐揚げ
 戦争シナリオです。
 10日16時締切なので、それまでに完結させます。
 プレイングボーナス条件も含め、戦争説明ページをご覧頂き、ご理解の上ご参加ください。
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第1章 ボス戦 『量産型アングラマンユ』

POW   :    憤怒兜割
単純で重い【上段から】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    赫魔召喚
【籠められた影朧の憤怒】から、【獄炎】の術を操る悪魔「【アスモデウス】」を召喚する。ただし命令に従わせるには、強さに応じた交渉が必要。
WIZ   :    不浄剣
自身と装備を【憎悪の瘴気】で覆い、攻撃・防御をX倍、命中・回避・移動をX分の1にする。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

紫・藍
党員さん達への説得は通じないでっすかー。
ですが、ええ。
影朧さん達にでしたらどうでっすかー?
歌うのでっす。
心を込めて歌うのでっす。
祈りよ届けと歌うのでっす!
影朧さん達を慰め癒やす、それがユーベルコヲド使いでっすので!
藍ちゃんくんの歌で甲冑に込められた憤怒や憎悪を鎮めるのでっす!
悪魔さんが影朧さん達の憤怒から召喚されているように、影朧さん達を癒やすことは悪魔さんの弱体化にも繋がるかと!
影朧甲冑としても機能しなくなるでしょうからねー!
動きの鈍った兜割りをしのぎつつも、影朧さん達を甲冑に利用している元凶であるパイロットな党員さん達を、装甲に遮られない藍ちゃんくんの歌はがつんと揺さぶるのでっす!


朱酉・逢真
心情)最近は|ナイ坊《千顔の無貌》みてェな新参に限らず、お前さんみてェな古参もよくよく名前を使われるなィ。向こうサンも必死ってこった…いわば希望であり祈りってワケだ。ひ、ひ…量産された絶対悪って。おっかしィ…。ああ、すまんすまん。そォさな、本神としちゃア腹立つだろうて。じゃ、壊しといでな、|俺の異面《きょうだい》。
行動)登場者にゆらぎはない。だが|悪魔《ダイモン》はさぞかし腹立たしいこったろうよ。何ンせ燃料扱いだ…|怒りや憎しみ《悪意》でいっぱいだ。それらが俺らの力になる、地形を壊す一撃さえ受け止められるほどにな。病んだ心を食らい、毒毒しい|鎧《檻》を壊そう。サア迎えだ、かみさまが来たよ。


オリヴィア・ローゼンタール
魔を祓うは聖職者の務め、邪悪断つべし!

白き翼の姿に変身
縦横無尽に飛翔(空中戦・空中機動)し、不浄なる剣を躱す
その力、もはや後戻りはできない――否、するつもりもあるまい
ならば鎧と共に果てるがいい!

聖なるかな聖なるかな聖なるかな――
聖句を繰り返し唱え、場に満ちる瘴気を【浄化】する(結界術・霊的防護)

手に携えしは、悪を穿ち、邪を破り、魔を切り裂く、至高の聖槍
聖なる輝き(破邪・破魔・神聖攻撃・祝福)を束ね(武器に魔法を纏う)、束ね(全力魔法)、束ね(限界突破)……形成、【赫怒の聖煌剣】

全霊を以って【なぎ払い】、黄金の【斬撃波】を解き放つ!


アシェラ・ヘリオース
さて。出陣とあいなったが、強敵だな
ビジネススーツに帝国士官外套を引っ掛け、十文字の赤槍を携えて参戦する

・悪魔の弱体化
闇理力を高め、赤槍を地面に刺して闇理力力場を形成【結界術】する。そして「多機能ミラーシェイド」で捉えた奴の中の悪魔エナジーを【念動力】で捉え、気合で押し出すように【吹き飛ばし】をかける
一次的処置に過ぎない力技だが、今はこれで十分だ

攻撃
奴の兜割の振りかぶりに合せ懐に入り、両掌を奴の胴体に押し当て、自身を空間アンカーで固定。「対艦船モード」からの一撃で勝負だ【闘争心、零距離射撃、砲撃】


リーオ・ヘクスマキナ
SPD
勘弁してよ……もしも現地勢力に鹵獲されて、影朧甲冑なんて惨い代物が万が一にも解析・普及されたらたまったものじゃないってのにッ!

「拾伍:妖精の粉の檻」に「拾肆:泡沫へ消える」を組み合わせる!
呼び出された悪魔は重力の檻に、甲冑は反重力で空中に釣り上げる
「拾肆」の歌声なら、かなり感情には訴えられる
搭乗者にはダメでも、込められてしまった悪魔の憤怒に対して訴えかける事は出来る筈!
そこに対消滅を起こす泡を一気に叩き込めば、いくら影朧甲冑といえどッ!

……問題は、その状態に持ち込めるまで俺が耐えないといけないって事だね
障壁魔術にグラップリングフックでの撹乱・移動……使えるものは全部使ってやってみようか!


神酒坂・恭二郎
さて、厄介な相手だね
力業で倒すのはちょいとばかり無理がありそうだ

・悪魔の力への対処
地面に刀を差して風桜子を流し、地脈の力を借りて、悪魔の力を制限する結界を敷く【竜脈使い、結界術、破魔】

・攻撃
すくい上げる様な切り上げで風桜子の斬撃を放って獄炎を切り裂き【衝撃波、ふきとばし、切断】
【二回攻撃】の返す刃で肉薄して切っ先を添え、零距離から全身のバネで「捻り突き」を放つ【零距離射撃、鎧無視攻撃、急所突き】

「生半な攻撃じゃ、お前さんには徹らねぇからな」



●悪魔が笛を吹くならば
 十重二十重に罠が張り巡らされた防衛線を越え、猟兵たちは量産型アングラマンユの集団を捉える。
 方々で戦闘が始まるなか、一体のアングラマンユが6人の猟兵の前に立ちはだかった。
「我ら|《あんぐら》党の前線基地にノコノコ攻め込んでくるとは、敵ながら見上げたもの。
 しかし! たかが6人程度で、このアングラマンユをどうにか出来ると思ったか!」
 ガシュン! 影朧甲冑が重々しい駆動音を立て、関節部から蒸気を発する。
 すでにその身を憎悪の瘴気でさらに鎧い、行く手を阻むさまはさながら断崖絶壁。やすやすと突破出来るとは、とても思えなかった。

「こっちとしても、戦わないで済むならそれに越したことはないんだけどさ」
 リーオ・ヘクスマキナは嘆息した。
「もし万が一、|影朧甲冑《それ》が他の勢力に鹵獲・解析なんてされてごらんよ。
 |黯党《おまえたち》だけでも手に余るのに、普及したらたまったもんじゃないんだッ!」
 リーオは叫び、片手を突き出した。するとその掌から、淡雪のようにキラキラと光る"粉"が周囲に振りまかれた。
「むっ!?」
 影朧甲冑は、"粉"を警戒し、見かけによらない機動力で大きく飛び退る。"粉"は徐々に広がり制空権を拡大していく……触れたものを特殊な重力の檻に閉じ込め、行動不能に陥れる|妖精の粉《フェアリー・プランク》だ。

「|獄炎の悪魔《アスモデウス》よ、焼き払え!!」
 ウオオオン……と、地の底から響くような重く物悲しい唸り声。それは目の前の影朧甲冑全体の振動によって発生している。
「影朧を燃料にするばかりか、その力で悪魔を召喚しようと……!?」
 オリヴィア・ローゼンタールは愕然と目を見開き、そして怒りに細めた。
「許せません。魔を祓うは聖職者の務め、ですが私が祓うべき魔は一つに非ず。
 ……呪われし甲冑を鎧い、傲慢の罪に染まりし駆り手よ。あなたをこそ祓います!」
 影朧甲冑の前面に陽炎めいた揺らぎが|凝《こご》り、悪魔が顕現する。
 アスモデウス。地獄の業火を以て、万物万象を焼き払うもの! 妖精の粉は一瞬にして焼却され、熱波は猟兵にも迫る――だが、それをオリヴィアの聖気が阻んだ。
 彼女の背中から、ばさりと白い翼が広がった。まさに天使の|相《それ》である。
「おっと、敵よか味方のがおっかねェや……ひ、ひ」
 その本質ゆえに、オリヴィアの聖気と相性最悪の朱酉・逢真は、墓掘り人のような陰気な笑みを浮かべてひょいと退く。よろめくように倒れ込んだその身体を、地面からわさわさと溢れ出した蟲の群れが玉座めいて集い、ゆったりと受け止めた。
「す、すみません! 私としたことが……!」
「いいさ、ひひ……慣れてるし、ひ弱な俺ぁ邪魔になンねェように隅っこにいっからよ」
 恐縮するオリヴィアに、逢真はひらひらと手を振る。冗談めかしているのか、本気で卑下しているのか……あるいは。
「何がおかしいッ!!」
 陽炎甲冑が、逢真のあるかなしかの笑みを嫌い斬りかかった!

 しかしその軌道上に、燃える燎原の火のように割って入る者がいた。士官外套が火の粉のようにたなびき、そして彼女は真紅の十文字槍を掲げ……ぎぃん!!
「……なるほど、この打ち込み。強敵と警告されただけはある」
 長柄をしかと握りしめたアシェラ・ヘリオースは、今にも押し潰されそうなすさまじい影朧甲冑の膂力を耐えながら、涼しげに呟いた。
「ぬうう……!!」
「私は力押ししか出来んが、仕事があったようでなによりだ……なッ!!」
 アシェラは剛から柔へと力の質を切り替え、跳ね上げるように剣を押し退けた。影朧甲冑は、打ち込んだ力をそのまま返されたかのごとく大きくたたらを踏む。
「アスモデウスよ、もっと力を振り絞れ! この敵を焼き尽くすほどに!」
 ごう、ごう――空気さえ焦げ付かせる地獄の獄炎が、ドーム状に拡大する。刺突を繰り出すため踏み込もうとしたアシェラは、半歩その領域に入った瞬間、超高温で焼き尽くされる未来を幻視。舌打ちし、オリヴィアの聖気の境界線まで下がった。
「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな……!」
 オリヴィアもまた、至高の聖槍を杖のように胸元で握りしめ、目を閉じ、一心に聖句を唱える。満ちゆく瘴気を祓い、清め、浄化する。それは文字通り水際の攻防だ。
「|悪魔《デイモン》さんの瘴気が濃すぎるでっす! 影朧さんに歌を届けたくても、藍ちゃんくんの歌声まで焼き尽くされちゃいそうでっすよ!」
「ふむ。なら、ひとつ炎を斬ってみせるとしようかい」
「おー?」
 紫・藍はぽかんと、前に出る神酒坂・恭二郎の背中を見送った。
 あと一歩踏み込めば、たちまち体中の水分を蒸発させ、皮も肉もすべて黒焦げにしてしまう地獄の焦熱が眼の前にある。しかし、男の口元の笑みは涼やかだ。
「|風桜子《ふぉうす》てのは、何処にでも宿っているもんよ……」
 おもむろに地面に刀を突き刺すと、目を閉じて精神統一する。刀を通じて地脈を探り、大地に流れる力を引き上げようというのだ。

「いぇやあああっ!!」
 猿叫の如き奇怪な雄叫びを上げ、再び影朧甲冑が迫る。今度はアシェラだけでなく、リーオも前に出た!
「やれやれ、触れずに念動力で極めるというわけにはいかんか」
「こう見えても、力を押しを耐えるのは得意なつもりだよッ!」
 兜割りを赤槍が防ぐ。アシェラの足元が凹み、蜘蛛の巣状のヒビが放射的に刻み込まれた。遅れて、一回り外の周囲が破砕音を立てて岩片を舞い上げる。影朧甲冑はすぐさま剣を振り上げ二の太刀を叩き込まんとする。そこがリーオの出番だ。
「――せいッ!!」
 転がる大岩が鉄の塊に激突したような轟音が響いた。グラップリングフックつきの大手袋で、魔力を籠めた打撃を繰り出し後退らせようとしたのである……しかしリーオは、あまりの手応えにプラプラと手を振った。
「っ|痛《たた》……硬いなんてもんじゃないよ!」
「ひひ……それだけ|悪意《燃料》たァっぷりってわけだ」
 逢真は相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべている……いや、何かがおかしい。あるかなしかの笑みは、まるで戯画化した道化師めいてぎゅるりと上向きに歪んだ。口の端だけではなく、目も指も髪も肌も、右半身すべてが水に溶けた絵の具のように歪み、そして……分かれた!
「そろそろ出番だぜ、壊しといでな。|俺の異面《きょうだい》
 左側の口が呪文めいて呟くと、溶け出た"何か"は蠢く爬虫類の群れとなり、群れは再び集いひとつになった。オリヴィアの清浄なる気が、それを焼く。明らかにこの場にあってはならぬものである。
「……見えたぜ」
 恭二郎が、カッと目を見開いた。地面に刺さったままの刀を抜き、そこから掬い上げるような斬り上げを放つ。
 びょう、と重々しい風切り音がひとつ、戦場を駆け抜けた。

 ……直後!
「何!?」
 アングラマンユの乗り手は驚愕した。寸前まで猟兵たちを追い詰めつつあった獄炎の熱波が、まるでカーテンを勢いよく開け放つように散ってしまった……否、斬られたのである。
「生半な攻撃じゃ、お前さんには|徹《とお》らねぇからな」
 そしてその仕手は、眼前。一瞬の踏み込み!
「一撃に籠めさせてもらうぜ……神酒坂風桜子一刀流、捻り突きッ!」
 ゴッ!! 莫大な風桜子が、至近距離で爆ぜた。
「ぐおおッ!!?」
 影朧甲冑が、浮いた。
 アシェラほどの強者をして、三合撃ち合うのは危険と感じさせる憎悪の瘴気もろとも、真正面から突き上げたのだ。なんという剣技……!
「もらった!」
 すかさず、リーオが再び妖精の粉を展開。今度こそ光る粉は、獄炎に焼かれるよりも先に影朧甲冑を、そして召喚されたアスモデウスを重力の檻に閉じ込める。
「お……おのれ!」
 反重力で地に落ちることを禁じられた甲冑は、無様に悶えた。
「だが、影朧の怒りと憎悪をさらに引き出し、瘴気を凝らせれば……ッ!」
 ズズズ……と、影朧甲冑を薄いヴェールのように包む瘴気が色濃さを増す。それは末期症状を引き起こした病人の動脈血、あるいはこの世のありとあらゆる汚泥を煮詰めた魔女の釜の底を思わせる。
「ひ、ひ、ひひ! おっかしィ……!」
 分身を差し向けた逢真は、他人事めいて最後方で笑い転げた。
「量産された|絶対悪《アングラマイニュ》てな、どォいう|冗談《アイロニー》かね……ひ、ひひ!」
 ぐぉう、と毒滴る|異面《アングラマイニュ》が吠えた。くろぐろと煮え立つような影は、オリヴィアの清浄なる気が静かに甲冑を包み込むのに先んじ、稲妻じみて接近。不可思議にも、近づくにつれその姿は膨らむ風船じみて巨体と化した!
「なんだ、これは……!?」
 それが喰らうのは、怒り、憎しみ、悪意。すなわち影朧甲冑の燃料にされた影朧の感情。同じパワーソースに属するがゆえに、憎悪の瘴気に阻まれるどころか……むしろ、逆に力となす。愚かなる僭称者に、怒りの鉄槌が……下った!

 天と地がぶつかったようなすさまじい衝撃が波打った。
 可視化されるほどに濃密となった憎悪の瘴気は、集いし異面の憤怒の一撃をもって相殺された。群れなす爬虫類は己の毒で死に絶え、ボロボロと散り、崩れ果てる。屍を、広がりゆくオリヴィアの浄化の光が包んで塵に還す。死とは再生の前段階……邪悪と聖性は表裏一体だ。
「一撃で鎧を砕きます、もう瘴気も、獄炎も纏わせはしない……!」
 オリヴィアはゆっくりと垂直に浮かび上がり、聖なる光を凝縮した至高の聖槍を構えた。タイミングを合わせるため、アシェラは念動力を練り上げる。
「あ、アスモデウスよ、もっと力を……囚われし影朧よ、狂え、嘆け! この世を憎悪し憤れ!」
 オオオオン……再び甲冑が鳴動する。砕かれた瘴気を一から汲み上げようというのだ。崩した体勢を整えられてしまえば、再び趨勢は逆転する。

「ここからが、藍ちゃんくんの――いいえ!」
 つま先がリズムを奏でた。
「歌声の、出番でっす!」
 藍は心を籠め、あるがままの祈りを歌った。穏やかで、優しく、あの世界に咲き誇る影朧桜のような優しい歌を。
「何をするかと思えば……! そんなもので、我が覚悟は揺るがぬ!」
「ええ、ええ! ですが……影朧さん達にでしたら、どうでっすかー?」
 オオオ……音叉のように空気を震わせる唸り声が、鎮まった。
「何……!?」
「藍ちゃんくんの歌は、刀のように斬ることも、光のように浄化することも、何かを捕えて縛ることも出来ないでっす!
 ですが、ええ……この祈りを届けて、何かを揺さぶることは出来るはずでっす!」
「歌声か。それなら、人魚姫の歌声を届けてあげようじゃないかッ!」
 リーオもまた、歌を奏でた。聞いた者の心を、悲しみと嘆きによって"揺さぶる"|人魚姫《マーメイド》の歌声。それは、たとえ甲冑の纏い手の心に響かなくとも、望まずして囚われ、望まずして怒りと憎しみを掻き立てられた影朧には響く。
 痂のようにへばりついていた悪感情の汚泥を異面に砕かれ、風桜子に吹き散らされ、そして二度と汚されぬようオリヴィアの光が抱きしめた今、透明になった心に、ふたつの歌声はスポンジが水を吸い取るような勢いで沁み込んでいく!
「あ、アングラマンユの出力が、落ちていくだと……!?」
「燃やすモンがねェんじゃ、当然だわなァ……ひひひ!」
 遠く最後方にいるはずの男の笑い声が、まるで耳元で囁くように聞こえた。
「サア、迎えだ」
 鎧の纏い手はなんらかの方法で足掻こうとしたが、その手を優しく、呪わしい両腕が抱きとめ、遮った。
「|不可避の死《かみさま》が来たよ――」
 不退転の覚悟で凝り固まったはずの眦が、驚愕と絶望に見開かれた。

 天に羽ばたくは光の乙女。後光は広げた翼よりもなお眩く、巨大。
「邪悪断つべし――その鎧とともに、果てるがいい!」
 オリヴィアは全霊を以て、黄金の光剣を形成……それを、雷霆の如く叩きつける。
「微塵も遺さず骸の海へ還れるよう、とっておきのをくれてやる」
 地に立つはアシェラ。至近距離に潜り込み、ゆったりと添えられた両掌に闇の|理力《フォース》を籠め……光の炸裂に合わせ、発動した。
 巨大な宇宙艦をも粉砕する一撃は、アングラマンユの残骸が地に遺ることをすら認めない。
 天と地の同時攻撃。己を守るべき憎悪の鎧はなく、燃やすべき憤怒もなく。
「うわあああ――!!」
 死という不可避の絶望を誤魔化すための覚悟さえも砕かれ、乗り手は絶望の断末魔を上げ……白と黒のうねりのなか、呪わしき鎧とともに無へと還った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年05月10日


挿絵イラスト