リーズン・コーデ
●一時帰宅
「えっ!? 帰ってきた!?」
ゴッドゲームオンライン、その仮想の世界にて今日もノンプレイヤーキャラクターたちはせわしなく働いている。
そんな中、ヌグエン・トラングタン(欲望城主・f42331)の妻の一人であるノンプレイヤーキャラクターは彼が他世界から帰還したという報を受けて飛び上がった。
あまりにも急なことであった。
他世界で勃発した戦争。
オブリビオンと争う世界の命運を賭けた戦いは、一ヶ月はかかると聞いていたし、以前の戦争もそれくらい時間が掛かったのだ。
だからこそ、早い。
まだ十日も過ぎていないではないか。
「どうして?」
妻たちを前にしてヌグエンはどうもこうもないと手を振る。
そう、己が力を取り戻すこと。
即ち、『デスペラティオ・ヴァニタス』を取り戻すいことが予想より早く成ることを連絡したももの、理由を告げていないことに気がついて彼は帰還を果たしたのだ。
それならば、書面であったり通信であったりでもいいのではないかと思わないでもない。
けれど、ヌグエンは大事なことなのだから直接顔を見て説明するべきだと思ったのだ。
「そりゃまあ、思いがけず敵が強かったからだ。『有頂天道人』と言ったか、それがまあ滅法強かったもんでな」
加えて言うならば、第一戦線がもうすぐ第二戦線へと移り変わっていく。
そうなれば、第二戦線にて待ち受ける強敵との戦いは、さらなる激しさを見せるだろう。
となれば、真の姿である『デスペラティオ・ヴァニタス』を取り戻すのは、早くなる。予想よりもずっと、だ。
「予想外と言えば予想外だ」
「それは私達にだってそうだよ」
「帰って来るっていう連絡一つくれてもいいのに」
「いや、それはまあ、そうかも。だがまあ、タイミング的に今しかないな、と」
「にしたってすぐなんだけど!」
「なにこのなんとか総統って!? まだそれも控えてるんでしょ? 早くない!?」
妻たちはあまりのことに実感がなかった。
伝え聞くところに寄る他世界の命運をかけた大いなる戦いは、いくつかは早期に決着を見せるものもあった。
けれど、彼女たちが知っているのは、一つ前の戦争からだ。
期限いっぱい使っての決着となった戦争しか知らぬが故に、このハイペース差にどうにも実感できないのだろう。
ヌグエンにしてもそうだろう。
ここまで早く、そしてここまで強敵揃いだとは思ってもいなかったのだ。
「だからこそ、だよ」
その言葉に妻たちは納得する。
けれど、やはり不安であることは間違えようがない。どんなに言葉で示されても、不安なものは不安なのだ。
そんな彼女たちの様子を見てヌグエンはいつものように笑った。
彼女たちを安心させるには、たった一つのことしかできない。
それはつまり、いつも通りである、ということだ。
汎ゆるものが変わっていくだろう。
これは止めようのないことだ。自分にだってわかっている。
ドラゴンプロトコルである自分だって変わったのだ。
けれど、妻たちに示すことのできるものがある。
「俺様を誰だと思っている」
胸を叩く。
重たい音が響いた。
それはただの言葉だ。
けれど、彼女たちにとっては言葉以上の力に満ちたものであったことだろう。
「もーそんなふうに言われたらさ」
「そうだよ。もう納得するしかないなじゃない」
「ていうか、だったら証明して見せて!」
彼女たちが口々に言う。
証明。
それは無事に帰って来る、という事柄だけである。
「お安い誤用だ。任せておけ。この俺様だぞ? いくらでもやってやらあ!」
予想通り、と妻たちは笑った。
その笑顔がヌグエンの戦う理由の一つに成るのだった――。
成功
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