守れ、盗られるな、尻子玉!
逃げている。少女が何かから逃げている。
「ハッ……ハッ……!」
怖ろしい物を見たかのように、また悍ましい物を避けるかのように。
ただ駆けている。脇目もふれず闇雲に。捕まりたくない、逃げきらなければと。
「っ……!?」
だが奮闘空しく、目の前には巨大な壁が立ちふさがっていた。
恐る恐る、髪を揺らしながら少女は振り返った。
――何故こうなった? 少し自慢していただけ、武器の事を説明していただけなのに。
「くっ!」
こうなればやるしかない、と構える。されど此方を追跡していた【影】は既に居ない。
一体どこに? そう思った彼女は……だがすぐに上を向く。
「いただきでヤンス! 喰らえ河童直伝盗玉術!!」
気配を感じた通り、その影が頭上から跳びかかってくる。
少女は睨みつけ己の武器をすらりと抜いた。
「来い、変態盗人がっ! そんなものに私は」
「うっひょー! 綺麗な銀灰色!」
「通じな……えっ、あっ?」
振り向いたその視線の先、【影】の手に握られた宝玉を目にした、次の瞬間――。
「―――ホンッ!?!」
迅速にて迸るは驚愕と衝撃……!
●『彼女のトラウマにクリティカルヒット』
「――という……予知を見たんだ……うん……」
何やら放心した顔でぶつぶつ呟きながらに、フロッシュ・フェローチェス(疾咬の神速者・f04767)が疑似ARホログラフを起動させようとしている。
本当に何があったのか。
集まっていた猟兵達は、その唐突な異変とグロッキー状態に最初は首を傾げていたが――冒頭の説明を聞いた後に何人かがちょっと察し始める。
それと同時に流れる空気と、視線。知ってか知らずか、フロッシュは事件の詳細を語り続けた。
「とある町の広場で、武人達や術師達による武具の品評会があるんだけれど……其処がオブリビオンに狙われるよ。しかも『尻子玉』を狙って」
そして此処で全員が理解した。
つまり今回の件は、彼女のトラウマにピンポイントで攻め込んで来た類だったのだ。
……ネタに好かれているのだろうか。
「どんな宝石より綺麗で……更に武に長けた者、知に長けた者、秀でた者が持つ玉は美しいって理屈らしい。他のどんな玉より集め甲斐があるんだってさ……」
幸いなのが河童本人ではなく、【怪しげな本で技術を学んだ盗人集団】だという事。
普通に倒せばそれだけで尻子玉は戻ってくる為、一切の遠慮はいらないらしい。
そしてまだ被害は起きておらず、この事件さえ解決すれば広がる事なく此処で食い止められよう。
「でも抜かれた際のデメリットはやっぱりあるみたいだよ……」
何でも戦ったりは可能との事。だが何時もよりは力が抜けた状態となってしまう。
そして手際だけで言えば河童以上。冒頭の如く気付いた時には既に抜かれ、力入らず膝をつく羽目になりかねない。
後ろを護っていればOKと言う訳でもない為……ゆめゆめ、油断は禁物であろう。
「河童も盗人も、ほんとアイツら懲りないね……! だから潰して潰して潰しまくれ」
明らかな敵意100%で言い放った後、一度深呼吸してから――フロッシュは〆の言葉を口にした。
「健闘を祈るよ。完膚なきまでに叩きのめして来て……ね」
青空
河童って聞くと、皆さんは何を思い浮かべますか?
自分はやっぱりキュウリ。
そして某アニメのあの爆笑回。色々な意味でインパクト強過ぎでした……。
と言う訳(?)で尻子玉依頼です。
第一章・第二章・第三章の全てで、男女構わずしつこく狙われますのでご注意を。
力が抜けようともOP通り走ったり戦えないなんて事はありませんが、取り戻す機会のある第二章・第三章の最後まで「抜かれている状態」が続きます。
またどちらかと言えば「ギャグ要素」の方が強くなる予定です。
そして “尻子玉展開でも構わない方” は【▼】や明記をお願いします。
明記が無い場合は取られません。
他の皆さんの尻子玉を頑張って守る役割に回ります。……無理な時は無理ですが。
章ごとの流れは――。
第一章は自分達や武具をアピールし、泥棒達を誘引する事が目的です。
ぜひ、自分の武器や強さの設定を「これでもか!」と自慢しちゃいましょう。
第二章は追走劇。
盗られた武器や宝(と尻子玉)を奪い返すべく、必死に追いかけてください。
第三章はいよいよ戦闘!
何かしらのペナルティやリスクは無いので、思う存分闘ってください!
さあフロッシュの二の舞に――ではなくそうならない様、奮闘しましょう!
第1章 日常
『武器品評会』
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POW : 大きな声で自分の武器のアピールをする。
SPD : 実践しながら自分の武器のアピールをする。
WIZ : 性能について細かく説明しながら自分の武器のアピールをする。
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
とある町の、とある広場。
其処にはお立ち台が用意され、武芸者達の登場を皆が今か今かと待っている。
武具の紹介でも良い。
技術の紹介でも良い。
――「優れたモノ」を紹介し、観客の興味を引くのが目的だ。
そして勿論、本来の目的は己たちが“秀でた者”と知らしめ、あの泥棒達を引き寄せる事。
もう既に尻子玉を手に入れんと、会場内に潜んでいると思ってよいだろう。
……守りと盗みの戦いの火花は、既に切られている――!
二天堂・たま
▼武器。武器を自慢すれば良いのだな。
鈴と、シューズと、ボビンケース…。武器かなコレ?
まぁ自慢できるものといえば(UCで呼びだす)ワタシの相棒達だな。
騎乗も出来る、料理も出来る、罠張りなんかも得意なのだ。
最近呼びだせるようになった相棒達は、“めろめろういんく”とやらが得意らしい。
きっと相棒達の尻小玉?とやらは美しいに違いないぞ。
というか尻小玉ってどこから盗るのだ?
どうせとるなら、時々ワタシの毛にからまっているバネとか歯車をとってもらえないだろうか。
ジーマ・アヴェスター
【SPD】対抗
よく分からないが、武具を自慢すればいいとな?
であれば俺の出番だなッ!
我が身は鍛えられぬ流体なれど、武具は鍛えられし珠玉の逸品
我が盾は鉄塊の如く!
地に突き立てば竜のブレスすら容易く防ごう!
我が槍は流星の如く!
魔導と蒸気の奔流は城塞すら貫くだろう!
蒸気を吹き出しつつガッシャンガッシャンと武具を稼働させ見せつけます。
鉄、蒸気、ギミックとは即ち浪漫。
これに惹かれぬ男などおるまいて…!
しかし、万が一に備えて尻と口を入れ替えておこう
ブラックタールなら鎧の中で誤魔化せるはず…
※抜く抜かれる改変共闘アレンジ何でも歓迎!
モルツクルス・ゼーレヴェックス
【▼】
「さぁさ皆様、お立ち会いっす!」
こういう【パフォーマンス】は得意っすよ
「こちらに取り出しましたるちっちゃな桜の樹の杖っすが!侮るなかれ、南蛮渡来の魔法の杖っす!」
商売人っぽい【礼儀作法】をあ抑えた軽妙なセールストークっす売らないけど!
「自分、この通りのお調子者っすが!魔法の腕はちょっとしたもの!」
さらっと嘘ついて
「その魔力をもってして、この奇妙キテレツな杖を振ったらあら不思議!美味しい食べ物出すことも!」
【高速詠唱】で【超光霊糖】振り撒き
「こっちの何て事ない紐にも、ちちんぷいぷいー、で魂吹き込めるっす!」
【生きている紐】と連携して演出
【コミュ力】で観客の意識をグッと惹き付けて見せるっす!
クリミネル・ルプス
基本方針は
【殴られたり叩かれたりして、武器よりも強い身体を魅せて、興味を引かせる】
興行主に武器は?と問われたら
「……身体の強さでもエェんやろか?」
と他の商人の武器で自分を打たせる実演。
実際には『身体が頑強』というよりも【不壊手の型】で耐えている。
UCを発動させている間は尻子玉は取られないだろうが、舞台への出入り、待ちの間も、気は抜けない。
「……力が入らない状態で闘うコトもあるやろから……」
抜かれたら抜かれたで良い経験になるとポジティブに。
「抜くっちゅうコトは…抜かれる覚悟があるんやろからなぁ……」
クックッと笑顔?で喉を鳴らすように嗤ってみる。
・連携は勿論オッケーです。
流観・小夜
武器の自慢……と、言われましても……どう説明したものか、ですね。
ひとまずコンパウンドボウを取り出してその頑丈さと活用できる場面を口頭で説明した後、自身から離れた位置にある的や柱に次々と矢を命中させてでも行きましょうか。そのまま目立つようにして泥棒達を【おびき寄せ】てみようとしましょう。
そのまま私の武器を盗もうとする輩が近づくのならば、鋼鉄鎖を素早く取り出し、【早業】【ロープワーク】で器用に縛りつけた後、なぜこのような行いをしているのか尋ねていきましょう。そう簡単には答えないと思われますので、組織から習得した尋問術と拷問具を使用して問い詰めていきます。
※尻子玉展開?でも大丈夫。アドリブ・協力歓迎
百目鬼・那由多
自慢のお宝を紹介し、盗人集団をおびき寄せれば良いのですか?
ふっふっふ、では先日仕入れたとっておきの品をご紹介致しましょう!
実は僕、高そうな物…失敬、骨董品を収集するのが好きでして
この度皆様にご紹介させて頂きますのはこちらの刀剣、
美しき黒い刀刃を持つ打刀、墨染でございます!
かの有名な刀工、安曇義正が生み出したまごう事なき逸品です
僕のこの橙色の眼にかけて真作ですよ!たぶん
それにしても、どんな宝石よりも綺麗な玉ならば僕もお一つ頂きたいですねえ!あっはっは!
冗談はさておき、盗人がどこから現れるか分かりませんので周囲の状況には十分注意を払うつもりですよ
(アドリブ、絡み、尻子玉展開可)
「寄ってらっしゃい観てらっしゃい! 今月も無事開催――古今東西の武芸・技術自慢達がどんどこ集まる、『品評会』の始まりだぁ!!」
外に即席で用意され、しかし中々に立派な構えに舞台の上に立った……司会らしき男性の声が青空の元に木霊した。
そして、その開幕宣言と同時に歓声が上がる。
「いよっ待ってました!」
「面白いものが今年も見れるんだろうね~」
「良い刺激になるからのぉ、今回も開いて良かったわい」
「……さて、交渉に値する者は……」
その舞台の前には、真剣な面持ちな者から物見雄山な者まで、様々な雰囲気を湛える大勢の老若男女が。
「はっはっは! 俺様の力を存分に見せつける好機だな!」
「大丈夫だ。仕掛けは上々って奴か」
「すぅー……はぁー……うん、頑張ろう……!」
そして舞台の裏には自信満々な大男から、少し緊張している少女まで、様々な人物が待機している。
稼ぎ時と見た商人達が行きかい、屋台もずらり立ち並んで美味しそうな香りを漂わせては、煌びやかな小物を宣伝する。
……盛り上がりの熱気と、ざわめきの緊張感が否応なく走り、大広場の空気を支配していた。
――そんな中――
少々雰囲気の違う者達が、ざっと六名ほど募っていた。
彼・彼女らこそ……今回の事件解決に当たる猟兵達。
無論、目立つことが大前提であるため、彼等も武芸者側に回っている。故に今現在は、舞台袖や裏にて待機中であった。
黙々と準備をしていたり、何やら悩んでいたりするものの、その思考の対象は“自分が持ち得る武器・技術を披露する”事についてであろう。
純粋に武器を眺める者。
バシッ! と素手で音を打ち鳴らす者。
何やら呪文を唱えている者。
正しく十人十色……その準備の内容は、実に様々で。
「なるほど、武器を自慢すれば良いのだな」
まず青味がかった灰毛を持つケットシー、二天堂たま(ひよこマスター・f14723)が、己の持ち物を幾つかとりだし首をひねっている。
出て来るのは鈴や、シューズに、あとボビンケース。
一見すればアクセサリや家財道具でしかない。
しかして、埒外の存在“猟兵”であるのだから、無論どんなものでも『得物』と成り得る可能性は持つ……のだが。
「うーむ――武器、かなこれ? そりゃあ、中には鋼糸とか入ってるものの……」
たま本人でも首をかしげる位、そのラインナップに少し自信がなかった様子。
ならば何が良いかと考え【自慢できるもの】を一つ思い付く。
「そうだ、ワタシの相棒たちが居るじゃあないか!」
――続いて。
嬉しそうに機械をガチャガチャと調整する、魔導機械鎧を纏うブラックタールが目を引いた。
「詳しい趣旨はよく分からないがとどのつまり、武器を自慢すればいいと言う訳だ」
ジーマ・アヴェスター(姿持たぬ粘体・f11882)はガジェッティアという職を活かし、己が開発したとある武装を、この機会にお披露目しようとしているらしい。
何やら大振りで、多少分解されている所為か察しがつかない形状でもある。
壁か盾のようにもみえるが……。
「であれば俺の出番だな――我が身は鍛えられぬ流体なれど、武具は鍛えられし珠玉の逸品なのだからッ!」
自信満々に整備しつつも、その道具を鎧越しに確り握りしめ、ジーマは力説した。
浪漫あふれるギミックに惹かれぬ男など居ぬまいと。
また別の所では、学ラン姿の青年が用紙を手に何やら段取りを確認している。
そんなヒノマルムクゲを黒髪に咲かせるオラトリオ、モルツクルス・ゼーレヴェックス(自由を飛ぶ天使・f10673)は――1人熱心に呟く。
「セールスポイントはきっちり抑えてある筈っす。となると、礼儀作法を確り活かして――高速詠唱で噛んだり間違えなければ……」
彼自身はどうやら持っている杖を主題に、話術を用いて観客の目を引くという催しを考えている様子。
かちゃり、と懐に入れた数々の仕込み道具も、自分で触れては確認している。
「よーっし! 自分本番には強いっす、確り目立って見せるっすよー!!」
熱血な武芸者・術師達よろしくモルツクルスもまた、拳を握って気合を入れた。
「武器か、武器言うてもなぁ……?」
またある場所では武器や道具、また段取りを整える訳でも無く、ちょっと悩まし気に頬を掻き、白の髪揺らす筋肉質な人狼の姿もあった。
そんな彼女――クリミネル・ルプス(人狼のバーバリアン・f02572)は別に、拳一つで闘う! 的な感覚で武器を持っていないという訳でもない。
ないのだが、それを振るうにしても総合的なインパクトでは、仲間達に少しばかり押されそうでもあった。
「こいつ一本じゃあただ埋もれて終了やし……どうせならウチらしいオモロいこと、1つやってみるか」
拳を二回ほど握り――上腕二頭筋を自らバシッと叩いて立ちあがる。
どうも“肉体を自慢する”、独自のプランを立てたように思えるが……。
そして興味引ける武具を有していてもやはり、別側面から悩む者もいる。
「……どう説明したものか、ですね」
【武器の自慢をして欲しい】
目的自体はさして複雑ではなかろう。
が、武器そのものが複雑、且つ多様性を持つとなると――改めて説明する折いささか思案する場面もあったらしい。
そんなプレゼン組み立て中のアーチャー、流観小夜(駆動体α・f15851)がコンパウンドボウを取り出し、不備がないかをチェックしていく。
「兎も角、見た限りでは的もありましたし……活用させて貰いましょうか」
言いながらに周囲へ視線を巡らせ、盗人たちの影が無いかどうか探りつつも、彼女は決まった案を脳裏で反芻していく。
「フッフッフ……僕の高そうな物――じゃない、骨董品収集の嗜好がこんな形で役に立つとは!」
更に言うならこの大会は武具・術理だけが披露の対象ではない。
優れた逸品を持ちより、己の技術とその宝の素晴らしさを広めるのもOKだった。
要するに秀でた者を集めているのだから、【質の良い宝物を収集する嗅覚】だって勿論対象なのである。
「それにしても、件の“宝玉”……」
言いながらに百目鬼・那由多(鬼の灯・f11056)は、20過ぎという年に反して中々に幼い顔へ、ニヤリとした笑みを浮かべながら独り言ちる。
「何か素晴らしいものがあったなら、是非ちょっとした交渉でもして……」
どうも見せるのみならず、手に入れる散弾も立てていた様子。
ともあれ周囲を警戒しながらに、【お宝】を手に部隊の方を見やっていた。
そんなこんなで……会場も、そして猟兵達も準備は整い。
いよいよ『品評会』が幕を開ける。
「上物がいっぱいいるでやんすなぁ」
「これは宝の山っすねぇ」
「良きかほりが頼って来る様でゲスっ」
怪しげな【影】を人ごみに潜ませ、紛れさせたままに―――。
〇
催し物は滞りなく行われ、またお披露目会も順調に進み。
会場は……これ以上ないぐらいの盛り上がりを見せている。
熱気だけで思わずのけぞりそうな程だ。
肉体美を披露し、其処まで鍛え上げた波ならぬ経緯をも想像させる者。
美しき剣を振るい、武具のみならず己の技術でも観客の興味を引く者。
どれ程の利便さ、どれ程の発展性を持つか、面白可笑しく説明する者。
様々な人物が舞台の上に立っては完成をもらい、また引っ込んでいき……そして。
「次は中々期待が持てる御仁――二天堂たまの、登場だ!!」
猟兵達の出番がいよいよ始まる……!
「ではワタシの……秘められた力を見せよう!」
言いながら、たまが先ず召喚したのは大きなひよこ、ひよこ、【ひよこ】の群れ。
タイラントとも呼ばれるドデカイひよこがわんさと出てきた。
中々の奇術、かつ愛らしい容姿をしているからか、観客たちの目もくぎ付けだ。
「相棒たちは凄いのだぞ? なにせ――」
説明を終える前に、たまはピョンと跳びまず騎乗して見せる。外見から想像もつかないほど素早い走りを見せ、騎乗に適している物だと行動で示して見せた。
……そしてその傍らでは器用に料理を作っているひよこも居り。
かと思えば、即席の罠を組み立てているひよこもいる。実に多芸だった。
「更に魅せるぞ――最近呼べるようになった、自慢のひよこ達だ!」
発動した【守護霊降臨(アイドル・ユニット)】により、今度はたまと同じサイズのひよこの霊が次々登場。
そのモフモフな事、そのつぶらな瞳の可愛らしい事、一発でメロメロになる者が続出している。
「うむ、これは大成功ではないかな」
確かな手ごたえを感じながら、たまは出番を終え――舞台袖に引っ込んで行った。
次鋒として登場し、しかし大将の如き迫力を湛えて部隊へ上がったのは、ジーマ。
その手に握られている武器の全貌が、陽射しの元に晒されたことでついに明かされる。
整備していた物の正体は何と――守護と攻勢を入れ替え請け負う【蒸気槍壁】。もう片方の腕にはパイルバンカーすら装備されている。
【蒸気供給機関:衝煙】からエネルギーを供給された武具達が、派手に魔導蒸気を吹き上げその存在感を見せつけた。
「さあ見よ! 俺の武器をっ!!」
バシュウゥゥッと両の腕から、そして鎧からも再び蒸気が吐き出され、観客たちがその迫力に身を乗り出す。
「我が盾は鉄塊の如く! 地に突き立てば竜のブレスすら容易く防ごう!!」
ガシュン! とアンカーが飛び出たかと思えば、正面に構えた刹那、内蔵された大杭が勢いよく射出される。
「我が槍は流星の如く! 魔導と蒸気の奔流は城塞すら貫くだろう!!」
もう片方の手にあるパイルバンカーもそれに負けず、拳の威力を受けてよりドデカい轟音を奏でてみせる。
鉄の無骨な力。蒸気の派手な力、そして可動式と言う浪漫。
幾重にも乗せられたこれには耐えきれず、町の男達が一斉に歓声を上げている。
それを聞きながらに……ジーマは鎧の中で嬉しそうに笑み大笑していた。
三番手としてそれに続くモルツクルスは、クルクルとまず視線を誘導する動作で己の杖へと着目させる。
「さぁさ皆様ご注目! こちらに取り出しましたるちっちゃな桜の樹の杖っすが! 侮るなかれ、南蛮渡来の魔法の杖っす!」
ほぅ……と今度は商人たちが興味の意を示す。
外様の国こそ無いが別所から来た凄みが確り伝わった様で、熱心に眺め始めた。
されど――生来のモルツクルスのお調子者加減に、訝しく思う者もまた居るのは、否定できない。
「自分、この通りのお調子者っすが! 魔法の腕はちょっとしたもの!」
だがそんな物は想定済みだ。
さらり嘘を交えつつ、本命の芸へと移行する。
「その魔力をもってして、この奇妙キテレツな杖を振ったら―――あら、不思議! 美味しい食べ物出すこともっ!」
あっという間に詠唱を終わらせた【超光霊糖(アート・オブ・ザ・チョコレート)】の効力により、“チョコレートの霊”というトンデモなものを召喚して見せるモルツクルス。
更に口にした者の好む味に変わるという、またユニークな性質も持っている。
お陰で今度は配られた子供達や、女性に大好評。
「こっちの何て事ない紐にも、ちちんぷいぷいーで、ほーれ魂吹き込めるっす!」
これは【生きている紐】という事前に持ち込んだアイテムとの連携なのだが、観客達は当然それを知らない為……驚愕な現象に大盛り上がりだ。
得手がパフォーマンスなのも相まって、ダレる事なくやり切ったと言えよう。
「よーし、何時でもええで」
言いながら仁王立ちするクリミネルの前には、屈強な男が武器を構えている。
彼女らしいパフォ-マンスとは恐らく、この武器を受け止める事なのだろう。
――こうもすんなりと手伝いを用意できたのは、先の会話に理由がある。
実はクリミネル、興行主や審判役に対し一つ確認を取っていたのだ。
「己の体が武器ってのはダメなん? 身体の強さでもええんかーって事なんやけど」
「勿論、それでも大歓迎だ! ぜひ皆を盛り上げてくれ!」
二つ返事で了解を得て、更に別の男がボディビル顔負けのパフォーマンスを見せたため、ならば全力で挑む為人を用意してくれないか……と交渉したのである。
「全力で行くぞ!」
「寧ろそうした方がええよ?」
他の商人から買い取った、それも豪快武骨な武器を構えた男が、不安と期待の入り混じった顔で両手剣を振りかぶり――。
「ぜぇいっ!!」
――思い切り振り下ろし、佇んだままのクリミネルに真正面からヒット。
……だが全く傷つける事無く、逆にバガァン!! と【砕け散った】ではないか。
余りの離れ業に会場を一瞬静寂が支配。だがそれも直ぐに興奮の叫びへと変わっていく。
振り下ろした男も信じられないと思いつつ、期待通りで良かったと嬉しそうだ。
「ん、上手く行ったみたいやな」
その身を決して壊れえぬ不欠の鋼へと変貌させる【不壊手の型(フエテノカタ)】の調子は、今日も先ず変わらず。
クリミネルは満足そうな笑みを浮かべていた。
豪快さとは対照的な、静かさを持って舞台に上がるのは小夜。
「…………」
しかし並ならぬと感じさせるオーラを、観客達も感じ取ったらしく、また手元にある見た事ない武器に興味津々……釘付けだ。
此処はサムライエンパイア。弓はあっても、コンパウンドボウなど存在しない。
形状からそれに類ずるものだとは理解できよう。
だからこそと言うべきか――弓だが弓ではない、その彼等にとっての矛盾が期待を高めさせている。
故にこの会場と言うシチュエーションもあり、より興味を引くのは当然と言えた。
よく見えるように前へと掲げつつ、小夜はお披露目を始める。
「この武器の名はコンパウンドボウと言います。折り畳みが可能でして――」
一度閉まってからすぐに展開させ、その滑らかな変形におぉっ……! と皆から声が漏れた。
「改造により展開は素早くも容易で、更に滅多な事では折れず曲がらずな、頑丈さを持ちえます」
次に小夜は矢を取り出しコンパウンドボウの活用できる場面を説明しだす。
「また音が鳴り難い他、備え付けられた機能により高い威力と、命中率を誇ります。このように――」
言うが早いか矢を番え……スムーズな動作でまず一射。
よどみなく二射、三射と放ち、その全てが的の中心近くに当たっている。
「とても、優れた逸品なのです」
最後にそう占めつつノールックショットで的の中央を射抜き、客たちの心をこれでもかとバッチリ掴んで見せた。
猟兵達のおおとりを飾るのは那由多。自慢の一品の中から「これ!」と決めた、優れた宝物を手に取り……自信満々に袖から舞台へ歩いてくる。
「僕は宝や骨董品に目が無いのですが、だからこそそれらの質には自信がありましてね……故に、先日仕入れた“とっておき”の品をご紹介致しましょう!」
皆に負けず劣らずの身振り手振りで、客たちの目線を一同に引き寄せると、布に包まれた状態でも尚圧倒的な存在感を放つ、その一本の宝を堂々見せつけた。
――それは艶のある、黒い刀身の剣であった。
「この度皆様にご紹介させて頂きますのはこちらの打刀、その名も【墨染】でございます!」
途端。刀好きが、刀の収集家達が一斉に目の色を変え、那由多の宝に視線を注ぐ。
そうでなくとも、専門知識が無くとも感じる、至高の一品であると伺えるオーラを放っていた。
光を吸い込んでしまいそうな闇色の刃。
打刀とは燃えない美麗さの中に、確かに感じる実践向きの鋭さ。
見る物を魅了する輝きだ。
「かの有名な刀工、安曇義正が生み出した紛う事なき逸品です! 僕のこの橙色の眼にかけて……真作と断じましょう!」
偽りなし、との那由多の発言にはどよめきが――疑いではなく好奇に寄るざわめきが一斉に広がっていく。
無駄かもしれないと思いつつ、交渉しようかと商人が考える程だ。
……まあ実は最後【“多分”】と小さくつぶやいていたのだが、その刀の美しさが優れていることに変わりはなく。
十分すぎる程に、那由多はおおとりの役目を見事果たす。
――そのまま舞台袖へ戻り仲間たちと合流。
まだひよこを出したままだったり、武器を展開しているが、概ね発表が終わったからか一番の硬い緊張は解けている様子だ。
「上手く行って良かったな」
「はぁ……もっと自慢したかったな俺は!!」
「自分のパフォーマンス、受けててよかったっすよ~」
「ま、コレで目立つことは出来たか」
「ええ。歓声が違いましたから、多少は」
そう言って感想を言い合う中で。
「結局、まだ来ませんでしたね盗人」
「まあ、まだ続いとる中で来られても困るんやけども」
「綺麗だなんだで、尻子玉を取られるのはキツいからな」
「しかし尻子玉がどんな宝石よりも綺麗ならば僕もお一つ頂きたいですねえ……あっはっは! なんて冗談ですよ冗談」
色々と悶着挟みつつも、閉会式まで続いて行くのだった――。
「おお、白と橙の縞模様……美しいでゲス!」
「「「は?」」」
訂正。やはりそう簡単にはいかない様子で。
手に何かを握ったままに、謎の【影】がたま達のすぐ近くではしゃいでいた。
その影の対角線上にいるのは……“那由多”。
「ちょ――――ホウッ!?」
そして彼の瞳と髪の色を、より良い比率で混ぜ合わせた様な宝玉を目にした途端、
那由多は奇妙な叫び声をあげて膝から崩れ落ちた。
もう言うまでも無い……影が握っているのが、抜かれてはいけない『尻子玉』なのだ――!
「い、痛いというか、衝撃がと言いますか……なんですかこの変な……!」
喋る事自体に支障は無く、立ち上がれそうでもあったが、未知の感覚が駆け巡ったからか那由多はまごついている。
「守らねば!」
「当たり前だぁ!!」
其処からの行動は早く、たまはひよこを、ジーマは武装を、盗人から那由多の尻子玉を取り返さんと構えた。
モルツクルスも若干浮きつつ杖を構え、クリミネルは一歩前へ。
小夜は手にしていたコンパウンドボウを既に展開させている。
そのまま……異質な戦闘が始じまった。
「おらあああっ!!」
最初に仕掛けたのはジーマ。
蒸気を一斉に噴出し、影を近寄らせない構えだ。……が、しかし。
「き、消えた……!?」
「ふ……こっちでヤンスよ」
もう既に後ろを取られていた。焦るジーマは振り向こうとして。
「って尻子玉が無い!?」
しかし影の驚愕する声にストップ、次いで安堵する。
実はジーマは鎧の中で、ブラックタールの特性を活かして上下逆になっており、それに気が付かず影はすり取ろうとして失敗したらしい。
尻子玉を抜くあの妖怪本人でないからこそ、騙せたのかもしれないが――ともあれ戦略勝ちだ。
「邪魔っすー!?」
「ああワタシの相棒たちが!」
たまの方でもまた、ひよこ達がまるでつぶらな瞳の様な、しかも色取り取りの尻子玉を抜かれて悶絶している様が見えた。
ぎゅうぎゅうと押しくら饅頭するようにたまを守っている為か、流石に泥棒達も手が出ないらしい。
しかし相棒が殆ど倒れてしまった事実に変わりはない。たまの中には怒りが湧き上がっていた。
(しかし、やはり相棒たちの尻子玉は可愛かったな)
一方のクリミネル、モルツクルス、小夜の三人は、意外と早いその影に苦戦していた。
何とか他の出場者のいない場所で襲ってきたことが幸運だが、逆に大規模的に戦う事も出来ず動きが制限されているのだ。
「中々当たらへんわコイツ……けど」
「ふん! って、残像じゃないっすか!? ……でも」
「――予測できても、掠る程度ですか。なら短期決戦も可能でしょう」
それでも小夜のお陰で追い詰める事は出来そうである。
……これじゃあ不味いでゲス。
焦れてそう思ったらしい影が、モルツクルスの魔法弾を避け、クリミネルの脇をそれつつ、小夜にせまる。狙いは武器――!
「甘いですよ」
「ぎゃあ!?」
しかし想定済みであった小夜は鋼鉄鎖をさっと取り出し、迎え撃って捕縛して見せた。淀みなく早業でしばりつけた後……。
「さて、何故この様な行いをしているのか吐いて頂きましょう。言えないというのなら――」
尋問術と拷問術、その二つを持って影に迫る。
「何という綺麗な尻子玉でやんすか! まるで藍色混じりの黒真珠!!」
「え――――ハンッ!?」
「小夜はん!?」
だが実行できぬまま、何と今度は小夜がやられてしまう。
武器を取られないようしていた所為か、僅かなズレを捉えきれなかったらしい。
その結果新手の元には煌めけば藍色に光を放ち、遠ざかれば黒く艶めく尻子玉が握られてしまっていた。
クリミネルは咄嗟に【不壊手の型】で防御したがもう迂闊に動けない。
「ひいぃ、こいつ等やばいっす!?」
高速詠唱で【マジックミサイル】を発動できるようにしたモルツクルスも、舞台袖からはみでんまで飛行している。
「隙ありっス」
「ちょ――フォア!? ってギャアァァァス!!!」
だが及び腰になった隙を突かれ、宙を跳ねて接近され見事に撃沈。
地面に墜落した。
そして無駄に格好つけた陰の手元には、ヒノマルムクゲにも似た色合いの、暖かくも美しき花色の尻子玉が握られ、艶弱くも淡く確り光っていた。
「幸先良いっすねぇ! もう9個も手に入ったっす!!」
「しかもそのうち三つはかなり質が良いでゲス!」
「ささっ、トンズラしちゃうでやんすよ―!」
「今何といったアイツラは!」
「じ、9個やて!?」
逃げていく盗人たちの口から語られた驚愕の事実に、たまもジーマも、クリミネルも驚きを隠せない。
悲鳴が飛ばなかっただけで既に被害が出ているというのだ。離れた場所にいたとはいえ……警戒していたのに何という隠密制度か。
ならば、自分達の仲間の分も合わせて、もう悠長にしてられない。
「ぼ、僕の尻子玉が……!」
「あいたた……なんか余計に痛いっす」
「く――返して、もらいますよ……!」
那由多、モルツクルス、小夜の抜かれた者達も体自体は動くと分かり、本調子ならずとも追いかける。
たまも動けるひよこ達を引き連れ、ジーマは機械鎧の出力を引き上げて、クリミネルも【不壊手の型】を解いてそれぞれ走り出す。
こうして大事なものを取り戻す、影なる盗人たちと猟兵達との、熾烈な鬼ごっこが開幕した――!!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『神の座へ至る迷いの森道』
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POW : 気合で攻略する
SPD : 技量を駆使して攻略する
WIZ : 幻術の性質を解析して攻略する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
鬱蒼と生い茂る森の中……盗人達は其処へまんまと逃げ込んだ。
だがまだ追える明るさである事と、猟兵達の方が幾分か上であることが功を奏し、うがい返すのは出来そうだ。
だが努々油断は出来ない。
何故ならば何処からともなく、またもや盗賊たちが集まって――取り損ねた猟兵達の尻子玉を狙っているのだから。
もっと言えば誰が、誰の尻子玉を持っているのかも分からない。
全て捕まえ、または退ける他ないだろう。
猟兵達は駆ける。
尻子玉を取り戻すため、尻子玉を取られない為。
そして仮にも登録し参加した身として――解除へ戻る為に。
盗賊を追って、ひた走る……!!
流観・小夜
【OK】▼
……くっ、酷く奇妙な感覚ですね……義体ですのに、通常時よりも走ることがままならないほどとは、想定外です。
この場合ですと、下手に追いかけて発見しても対処に遅れる可能性が高いはずです。義体に取り付けていたドローンを展開し、森の中を捜索していきましょう。
カメラと自身の視覚を共有し、高機能カメラによる【視力】【暗視】万全の状態で怪しい動きをしたものがないか見つけていきましょう。
あの盗人どもの姿が見えたのなら、音をたてないようにしつつ【ダッシュ】で接近し、組織で教わった【戦闘知識】内にある組手術を使用して対象の足をへし折って……封じていき、そのまま尻子玉を回収しましょう。
モルツクルス・ゼーレヴェックス
「待て待て待てーい!返すっすよ自分の尻子玉!そんなもん持ってっても、一文にもなりゃしねぇっす!」
【空中戦】を駆使して追っかけるっすよ
【鷹の眼】で全ての盗っ人の位置を把握して、順番に捕まえようと試みるっす
自分だけの問題じゃないっすからね、皆の尻子玉のため、逃がす訳にはいかないっすよ
魔術で【情報収集】して割り出した森という【地形を利用】して、空中機動ロスなく追いかける……上手いこと追い込めないか試みる
「お前は完全に包囲されてるっす!大人しくお縄につくっす!おっかさんは泣いてるっすよ!……いや面白くって笑ってるかもっすね!」
同行してる方の尻子玉の警護も気は抜かないっす
自分の【高速詠唱】が火を吹くっす
クリミネル・ルプス
【匂いを追跡しつつ、盗っ人を捕まえる】のが基本的な方針。
尻子玉の匂いも嗅ぎわけれるが、どうも申し訳ない気持ちになる。
鬱蒼とした森の中でも匂いはするもの、会場と違い防御はできないが、探知は出来る事を生かし、探索と防衛に徹する。
キュッと鍛えられたお尻が尻尾振り振りとか、『誘ってんのか?』な感じであるが、手枷や技術で捕まえたら←こんな顔で「返してもらいます」かね?
【予想】
接触があれば、抜かれる。抜かれた瞬間は必ず、コチラに触れているのだから捕まえられる。
尻子玉が抜かれたら尻を天へと突き上げる状態となっても、「返せ!!」と凄む。
連携、囮、なんでもエェですよ!
二天堂・たま
尻子玉を盗られた相棒達はUC:妖精の里でかくまう他あるまい。
改めてUC:タイラント召喚で陣形を整えるとしよう。
いつもより相棒達の鼻息が荒い気がするな。
ワタシも聞き耳と野生の勘で奇襲を警戒しつつ、相棒達を少し落ち着かせながら進むとしよう。
盗人達と遭遇したら森の中を騎乗したままジャンプし、群れによる空中からのもふもふボディーアタックでたたみかけるのだ。
相棒達におしくらまんじゅうされれば身動きなどとれまい。
さぁ、大人しく盗った物を返すのだ。
ジーマ・アヴェスター
【SPD】
守るつもりがこうも抜かれるとはな!
しかし、追うにも鎧と盾が重過ぎる。
…そうだな、手が足りなければ増やせば良い。
ガジェットショータイムで細長い機械柱を6本召還する。
【防具改造】で鎧と接続すれば蒸気迸る八脚異形の完成だ。
【操縦】と合わせれば悪路にも対応できるだろう。
ついでに追加補助腕を起動して攻守に回そう。
何かあれば【盾受け】【武器受け】からのカウンターで叩き落す!
尻子玉を抜かれたヒヨコの数だけケ○の穴を増やしてやろう…!
※ネタ絡み玉抜きなんでも歓迎。相乗りしていかないか?
百目鬼・那由多
奴等はとんでもないものを盗んで行きました、僕の尻子玉です
他人の物を奪い去る下衆な行為、断じて許しません!
走れなくはありませんがなんだか体に力が入りにくいと言いますかなんとも摩訶不思議な感覚が全身にありますね~!
気を抜くとへろへろ~っとなってしまいそうですよ!
しかしここは気合と根性と執念で追跡しましょう!
盗人達は奪い損ねた尻子玉を狙ってくるかもしれませんので、
そこを狙い【護符】を投げUC【七星七縛符】で捕縛してしまいましょう
【恫喝】すれば他の仲間の居場所も聞けるでしょうか?あは!
がさり、がさり……と茂みが何者かの侵入を受けて、音を立て。
どんっ! と樹木の幹を蹴る音がする。
また枯れ枝や枯葉を踏み鳴らす、小気味よいサウンドが辺りに絶えず木霊する。
……聞いただけならば動物たちの足音とも捉えられるだろう。
だがその本質は全く違った。
追いかけているのだ――多種多様な種族の、埒外足り得る猟兵達が。
追い掛けられているのだ――様々な物品と『宝玉』を盗んだ盗人集団が。
片や十人十色な手段をもって、片や影となり間を縫い素早く走り。
盗るか盗られるかの勝負を繰り広げているのだ。
――しかしこの鬱蒼とした森の中で、一番素早い手段を取ろうとするならやはり、盗人達の走行法が一番効率良いとも言える。
足音は最小限に、気配を察知し障害物利用、時に踵を返し、逃げ足を存分に発揮。
突発的か否かにかからわず『最大速度』という面では、当然彼等に勝る猟兵など山ほどいる。が、今この場所に限っては盗人達の方が僅かに速い。
必然、猟兵達はかなりの苦戦を強いられていた。
まあ実の所ただ追い掛けるだけならまだ簡単であろう。
……されど今は件の宝玉・【尻子玉】を取られた上、しかもまだ狙われている異常事態。
見つけるだけでも気を張るというのに、気を付ける事が多すぎた。
だがそれでも駆けねばなるまい。
己の、そして他の武芸者達の、ある意味失ってはならない物を取り戻す為――。
〇
「待て待て待てーい! 返すっすよ自分の尻子玉!」
モルツクルス・ゼーレヴェックスがそう叫びながら、翼を広げて空中より銛を探し回っている。
タフな彼は持ち前の元気の良さでデメリットを幾分か克服しているようだが、やはり飛翔速度は何時もより遅い。
本来ならもう少し広く見回れる筈だが、目に見えてスピードが減じていた。
「っていうか! そんなもん持ってっても、一文にもなりゃしねぇっす!」
故に返せっす、と叫ぶモルツクルスの子の言動も……半分は誘き出したり何かしらのリアクションを引き出して、位置を探る為だろう。
力が抜けたと言っても、死角なく見切る力【鷹の目】は発動可能――力が入りず落準備に時間がかかってはいるが、これさえ発動すれば後は……。
等と思っている内――すると、向こうから反応が返ってくる。
「何言ってるでヤンスか! これだから素人は困るでヤンス!」
「なにおう! 何の根拠でそう言うっすか!」
「金に換えると思ってる時点で甘い、集めることに意味があるでヤンスよ!」
「集められても困るっすよそんな物!!」
ホントにご尤もなセリフを吐きつつ、何とか情報を引き出せたことに安どするモルツ。だが、怪しげな術でも使っているのか全貌は把握できない。
「自分だけの問題じゃないっすし――だから、絶対に逃がさないっすよー!!」
それでも。と、言いながらに今度は探知魔術を展開して、索敵範囲を広げ始めた。
――そことは少し離れた位置で、ドローンの様な物が飛行し辺りを探っている。
肉眼や生物とはまた違う観点から……どうにか盗人達を捉えてしまおうという作戦らしい。
その機械の操り手は、此方もまた尻子玉を取られてしまった、流観小夜だ。
(……くっ、酷く奇妙な感覚ですね……通常時より走る事が儘ならないとは……!)
彼女の種族は“サイボーク”であり、体の殆どを義肢へ換装している。
厚着はそレを隠す為なのだが――しかしその上からも取られた事、そして何より義肢であるにも掛からわず上手く力が入らない事。
流石に想定外だったらしく、故に一度思考し、別の追跡手段に変更していた。
この状態で追跡しても対処が遅れてしまう可能性が否定できない。
そこで義肢に取り付けられたドローンを放ち、『観測行動・飛空物体展開(モクヒョウ・タイショウノハッケン)』を発動。高機能カメラでの探知に切り替える。
拡大、及び暗視機能の付いたドローンなら、より隅々まで索敵できるだろう。
「資格情報共有完了……」
怪しい動きをしたものを、見つけて決して逃さない。
逃がす訳にはいかない。
強い意志のまま、力が入らないならばと音を消して、小夜は小走りで森を駆ける。
「おっと――なんや、えらい興奮しとるな」
「むう……仲間がやられた事に腹出ているのかもしれんな」
別の個所では素のまま走るクリミネル・ルプスと、タイラント(ひよこ)に騎乗した二天堂たまがそれぞれ並んで駆けている。
クリミネルの言う通り、たまの操るひよこは何故だか鼻息がとても荒い。
怒りの発露のようにも思えるし、また違うようにも見える。
召喚主であるたまも詳しくは分からない様で、しかし調子はとても良いからとそのまま突っ走らせている。
ちなみに尻子玉を取られたひよこ達はと言うと、何らかの効力で戻すに戻せなかったこともあり、今は様々なひよこが跳ね回る森林世界【妖精の里(ホームタウン)】へと匿っている。
「少し落ち着け相棒達よ。その血気は戦意ではなく、進む力に注ぐのだ」
未だに少しでも気を抜けば走りだしそうな、タイラント達を宥めながら。
たまはケットシーの特徴を活かし、聞き耳を立てる。
その中の音の一つに、自らの勘を揺さぶるような朗報があると期待して。
(まあ何かあっても多分……あんだけ張り切っとるなら、良い追い風になるやろ)
そしてクリミネルもまた、野性に準じた索敵行動をとっていた。
彼女が索敵に使っているのは【嗅覚】。
個々人で違うその匂いを嗅ぎ分けて、盗人達の位置を特定するつもりの様子。
幾分か紛れられてはいるが、探知自体は可能であり……クリミネル自身は探索と防御に重きを置いた形で動いている。
無論、相手が逃げてしまう以上、会場の時のように【不壊手の型】は使えない。
「それに何と言うか、二つの匂いがいっぺんに動いてたりするって事は……うん」
しかも尻子玉の匂いまで嗅ぎ分けてしまっているのか、何というか申し訳なさそうな顔しつつ走っていた。……気持ちは分からなくもない。
ともあれ、粗くでも特定は出来そうである。
そして多少遅れた二つの影が続く。
どちらも訳合って、其処までスピードが出ていないのだ。
片方はジーマ・アヴェスター。理由は単純に鎧が重いから。
片方は百目鬼那由多。理由は尻子玉を取られたからである。
「気を抜くと、へ、へろへろ~っとなってしまいそうですよ……!」
「えーと……大丈夫か?」
「はい、今の所は何とか……!」
大変なものを取られていった那由多は何時にもまして遅い。
しかし“遅い”とはいってもそれは猟兵目線からであり、一般からすればまだ速い部類。つまり走れなくはないのだ。
だが力を入れようとしても、どうにもうまく入らず抜けてしまう、奇妙な感覚が今の那由多を支配しており、コンディションは良くない。
しかも今まで無意識で行っていたことを、意識してやらねばならない現状。
余りに摩訶不思議な現象の二乗だ。――これ以上のスピードは見込めなさそうだ。
それでも那由多は走り続ける。
盗人達が許せないから、だから己で走り続けている。
そう……。
「他人の物を奪い去る下衆な行為、断じて許しません!」
正義感の為に。
――いや彼が言えた事かは正直微妙かもしれないが、それでも冗談でしかなかったのに、本気で……しかも仲間の分まで尻子玉を奪われたとあっては流石に黙ってはいられないのだろう。
「しかし、守っていたのにこうも抜かれるとはな……!」
鎧内で“上下逆さま”という奇策により難を逃れていたジーマはしかし、鎧の重さに悪戦苦闘している。
今は既に盾を置いているが、それでもまだ腕を振れるだけマシといった程度。
泥棒共に追い付けるかは五分五分と言ったところだろう。
それではダメだ。
彼は決めているのだ、たった一つ強い決意を。
(尻子玉を抜かれたヒヨコの数だけ、“穴”の数を増やしてやろう…!)
――その決意を。
…………ヒヨコが好きなのだろうか。それとも一番数が多かったからだろうか。
されども熱意持てど、追い付けなければ意味がない。
と、そこでジーマは妙案を思いついた。
「そうだ、あの手がある……!!」
言うが早いか彼は何やら鎧内部より口走りつつ、準備を始めていた。
――そして――
只逃げるだけの盗人達に、猟兵の技能が負ける訳も無く。
とうとうその尻尾を捉える。
「「「見つけた!」」」
そして彼らをある程度囲い込み、逃げ場を限定させ。
いよいよ……捕物帳の開幕である――!!
〇
「いやー、それにしても良いもの盗ったでやんす!」
さささっ……と森の中を依然として消音状態で移動する盗人は、気配を感じないからかかなり油断している。
そしてその手に握られている尻子玉は――青色。
恐らくは会場に来ていた誰かのモノだ。
(……運が良かった、というべきですね)
ドローンで盗人の一人を発見出来、またここまで接近できたことで小夜の中に安堵が訪れ、次いで怒りが湧き出る。
だがそれを表には出すことなく。音を立てない様、近道するように追随した。
そして一瞬力を込めてダッシュし……。
「はっ!」
「のええぇぇ!?」
見事捕縛。次いで積み重ねた戦闘知識が自然と組み手術を行使させ、足払いから掴んで地に叩きつけ、跳ねた反動でそのまま足を圧し折って手段を奪う。
「返して頂きますよ」
そのまま泡を吹いている盗人を縛り付け、“あるポイント”まで運ぶと再び走り出した。
(よーし、次の得物を狙うッス……ひひひ)
とある一人の盗人が目を付けたのはクリミネル。その視線は彼女の臀部へ向いていた。
鍛えら挙げられたその肉体は、腕や足のみならずお尻も対象であり、キュッと閉まっている――上に人狼の証である尻尾まで付属。
それがフリフリと降られる様は、彼等にとっては挑発にも等しく、故に今度は彼女から狙う事に下らしい。
狙う理由からして殴り飛ばされたっておかしくないのだが、気配を消すことにかけては超一流の彼等。今だ気付かれてはいなかった。
「どこにおるんや……」
スンスンと鼻を鳴らして探り続けるクリミネルの背後から、隙アリとばかりに盗人が迫る。
そして手がブレ、姿が消え、そのまま――。
「うぃっ!?」
――否、その挙動は目の前の【護符】に遮られた。
しかもよく見ると、目の前でもまた同じことを考えていたらしい仲間が、彼女の手枷の一撃で捕まっている。
オマケにどういう訳か、全くではないが上手く動けない。
「漸く捕まえましたよ……?」
其処に来たのは、那由多。
どうもあの後、猟兵達は一度合流してから陣を組みなおし、散開した様子だ。
ユーベルコード『七星七縛符』で封じ込めた、盗人に那由多は不気味に笑んで見せた。
「な、なんのつもりッスか……ひい!?」
その首元に突きつけられたのは先の黒刀【墨染】が握られており、それをチクッと首に軽く突き刺し恫喝し始める。
「大人しく返してくれませんかね? 尻子玉を――さもないと」
表面上は無邪気に、しかし中身は怒りとドス黒さを秘め、盗人はたまらず尻子玉を差し出した。その色は『赤』……自分のではないものの、何とか一つ取り返せた。
「おら、さっさと返さんかいや!」
「アイデデデデデデ!?」
一方のクリミネルも、笑っている様なキレている様な、不気味な表情で盗人を振り回していた。
使っている場所が場所なので、それはもう痛かろう。まあ普通に腕を握られても、彼女の筋力ではどの道ダメージがマシマシになるがそれはさて置き。
強引な形で“返してもらった”尻子玉の色は――『藍色の光る黒』。
「お、小夜はんのやん!」
「へげぇ?!」
尻子玉を勢いよく奪い取った反動で盗人は叩き付けられ、潰れた蛙のような声を上げた。自業自得である。
そしてこちらが一番派手で、一番とんでもなかった。
「見つけたっすよー! 観念するっす!」
「何でバレたんでゲスかー!」
どれだけ頑張っても“低速しか出せない”ことを逆手に取り、モルツクルスは木々の間を縫ってまず一人目を追い掛けていた。
今だからこそ狂いなく木々の間を、ロスなく飛び抜け追いかけ続ける。
「大人しくお縄に作っすよ! こんなことして……お前のおっかさん、泣いてるかもしんないっすから!」
「おっかさん……!?」
「あ、でもやってる事が奇妙だから笑ってるかもしれないっす」
「どっちでゲスか!!」
即席漫才の様なやり取りをしながら……故に次々仲間が捕まえられ、別の仲間も自分も包囲の中央へ誘き寄せている事にも気が付かず、泥棒は走り続ける。
そして遠くに仲間が複数見え、盗人はこれで攪乱して逃げられると一息ついた。
……だが次の瞬間。
「ハハハハハハハ! どうだぁ!!」
「さあ畳みかけるのである!!」
その後方からトンデモない二名が飛び出して来て、彼の目が点になった。
「作戦は順調のようだな!」
まずはたま。
もふもふっとしたひよこの大群だけでも充分目を剥くに値するのに、全て固体の大きさが1m代越え。大人の鶏だってもうちょっと小さい。
お世辞にもそんなに背も高くない、足も長くない盗人だ。脅威にも程があった。
しかも可愛い。
コレを強引に蹴散らすのは余程興味がない人間でもない限る無理だろう。
なんという恐ろしい集団だろうか。
「中々に良いアイデア……思い付いたのが幸運だ!」
そしてジーマはなんと、あろうことか“八本足のクモ形”になっていた。
即席の防具改造にしてもこれは余りに並外れすぎている。
カラクリは簡単であり、『ガジェットショータイム』でこれらの追加武装を呼んだのだ。
悪路も何のそのである。
しかもどうやら移動だけでなく、追加武装まで起動しているようであり……。
「こ、こうなったら盗んで逃げてやるザンス!」
「そうだ、あっし等の技をなめるない!」
「行くぞ行くぞ、盗人魂ー!」
窮鼠猫を噛む、と言うべきか。信じられない速さで、まだ尻子玉を盗られていないたまとジーマの二人へ殺到。
「なんの! こんどは逃がさないっす!」
しかしそれは中空にいるモルツクルスに背を向けると同義。追い詰められて尚、欲望を優先したのが仇になっていた。
【単純難解針(アート・オブ・ザ・バーサタイル)】――放たれる引力の針が、彼等の動きを極端に鈍らせていく。
「モフモフアタックを仕掛けるのだー!」
援護を受けたたまはひよこ達と共にジャンプし、盗人の方へ空中から突撃していく。……だが、衝撃音は聞こえず、撃破に至ったようにも思えない。
失敗か?
「あぁ~何というモフモフ!」
「癒されてしまうでげす~!」
いや、寧ろ大成功だった。
そうやって堪能しているうちにあれよあれよとおしくらまんじゅうされ、全く身動きが取れなくなっていく。
「く、くそぅ何という恐ろしい攻撃を!」
「ならこっちからっすー!」
針の影響から逃れた者達はジーマへ一斉に突撃するものの――数秒間、時間を与えてしまったことが命取りだと、気が付いていない。
その間にも補助武装腕を起動させ、準備満々で待ち構えているのだから。
「ふん!!」
展開された盾は通過させることを許さずはじき返し
刃はその殺気で素早い足さばきを否応にも止めさせる。
「そこを……叩き落とすっ!!」
「「ぶえぇ!?」」
綺麗にカウンターまで炸裂し、泥棒達は地に叩き伏せられた。
一度姿を捉えればごらんのとおり。
あっと言う間に、盗人たちは一網打尽にされてしまったのだった……。
〇
捕物帳は無事猟兵側の勝利で終わり、奪われた尻子玉もすべて回収。
その中にはもちろん、モルツクルスの花色玉や、那由多の橙&灰のマーブル玉、そして一足先にクリミネルが奪い返していた小夜の藍光の黒玉もある。
「しかしこうしてみると色取り取りと言うか、既存の宝石にはない輝きがありますね……」
冗談と言った手前、そしてメリットよりデメリットの方が多い現状、本当にしまい込むことはできないが……だからこそ那由多が興味深げに、桃色の尻子玉を眺めていた。
「質感なども既存の宝石類とはまた違う……奇妙なものだ」
「クリスタルともパールとも違うっすからね!」
「こう言うと悪いが、泥棒達が必死こいて集めようとしてたのもちょっと分かるな」
たまが冷静に、モルツが改めて頷いて、そしてジーマがちょっと苦い顔で。
それぞれ感想を言い合っているのは、もう既に収束した証。
泥棒達も改めて縛っているのだし、万が一が合っても準備しているユーベルコードがある。
心配は無かろう。
「出所が出所じゃ無ければ、ウチかて綺麗とも思うんやけどなー」
「……全くです」
特にクリミネルは“匂い”を嗅ぎ取り、嗅ぎ分けてしまっている為、他のメンツよりも微妙な顔が目立っている。
小夜の顔にも珍しく、分かり易く疲れの色が浮かんでいる。
まあコレで平然として居たら逆におかしいのだし、当たり前かもしれない。
「あとは倒せば元に戻るんだったな?」
「そう言ってたっすからね」
「ならさっさと仕留めてしまいましょう!」
まあもう生かしておく理由などないのだし、此処は手早く骸の海へ還してしまうべきだろう。
念のためにか、各猟兵毎に最大火力をぶつけてようと、各々武器を確り構える。
「あ、そや。……小夜はんの尻子玉返しとく」
「すみません――有難うございます」
「ええってええって。さーてこれで一件落着やな」
「ああワシらの勝利でな」
「……は?」
明らかにこの場の誰でも無い声に、クリミネルは振り向いた。
そしてその声の発生源を見て、思わず目を丸くする。
其処に居たのは、何処か貫禄のある盗人であり……。
「ほぉ~、これまた見事な白銀色じゃのう」
その手には取り返したどの物とも違う――輝きに気高さ宿り、しかして何処か艶やかな魔力を持つ白銀色の尻子玉が握られていたのだから……!
「返―――ホォン!!」
「何だと!?」
言い切る前にクリミネルの体中を衝撃が突き抜け、なまじ痛みに耐性が会った所為か妙な声が出てしまい……受け身も取れず、尻を天へと突き上げる格好で倒れ伏す。「ヒヒヒ、やはり豊作豊作」
「あ! 自分の尻子玉っす!」
しかもよく見れば握られているのは1つじゃあない。
「僕のも!?」
「また取られ……! 返してください、いい加減に……っ!」
一般武芸者達のは捨て置かれているが、肝心の猟兵達の分はすべて取られている。
クリミネルの尻子玉も既に盗まれてしまっている。
――そしてよく見ると、見た事ないものが二つ混じっており。
「まさか――ニャギャアァ!?」
「ウベホッ!? ――し、しまったぁ?!」
たまとジーマがそれぞれ悲鳴を上げ、ひよこ達に宥められては、衝撃の勢いで転がった。
柔らかな光を纏う青灰色で、その所為か毛玉の如く何処かふわっとしている、たまの尻子玉。
強い黒色の中に琥珀色の球体があり、その道の仕組みが興味を引く、ジーマの尻子玉。
ともに手中となっていた。
「いやー、コレだから宝集めはやめられん! しかも尻子玉であれば――ムフフフ……ではサラバじゃ!」
「この変態が! 尻子玉返せやぁ!!」
ギャグマンガみたいな恰好で倒れ伏した、その状態でも怒鳴れるクリミネルだったが、盗人親分は遠くへ逃げ去ってしまう。
「ドローンで逃走経路は把握しました……このまま追えば予測地点で追い付くはずです」
「クソ、追わないとな……!」
盗り返したと思えば、盗られた分が増えてしまい、にわかに慌ただしくなる猟兵一行。
盗賊達のトドメはあと回しにし――今は奴を追わねばと、肩を貸し道具を貸し、そのまま走り始めた。
決して逃がさないようにと……!!
大成功
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第3章 集団戦
『名もなき盗人集団』
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POW : これでもくらいな!
【盗んだ縄や紐状のものまたはパンツなど】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : これにて失礼!
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ : ここはおいらに任せておくんな!
【なけなしの頭髪】が命中した対象を爆破し、更に互いを【今にも千切れそうな髪の毛】で繋ぐ。
イラスト:まっくろくろな
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「くぅ……! ここら辺の事情をもう把握して折ったか、厄介な奴等め!」
何処まで逃げても追ってくる猟兵達に痺れを切らし、とうとう盗賊親分を追い詰めることに成功する。
集団戦が持ち味のオブリビオン相手――なら、単体ならばなんとかなるだろう。
しかし此処で終わらないのが、この変態……否、泥棒の厄介な所だった。
「珍しい宝を手に入れる度、ワシの力は増していく――ヘアッ!」
奇妙な叫び声と共に本を取り出し、印を結べば、なんと『分身して』ものすごい数にまで増えたではないか。
「「「ははは、これぞ直伝分身術じゃ!」」」
何直伝の分身なのかは解らないが、面倒な事になったのに変わりはない。
しかも何やら尻子玉を握りつつ唱えている。
「……ほ~れ完成じゃ。これで力を意図的に抜いてしまう事も可能じゃぞぉ?」
――まあ少しの間だけだけど、とボソッと呟きつつ、盗人は自信満々に告げた。
「さて。……ふわふわで柔らかい青灰の尻子玉、ヒノマルムクゲに似た花色の尻子玉、美麗な藍に光る黒の尻子玉、黒と琥珀色が力強い尻子玉、灰色と橙の混ざり合いが心惹く尻子玉、気高く艶ある白銀の尻子玉……これらを取り返したいんじゃろ?」
ニヤ~ッと笑い、親分は分身したまま告げる。
「「「じゃが絶対に渡さんぞ! これはぜ~~~んぶワシものじゃあ!!」」」
余りに傲慢な事を言いながら、盗人親分は構えを取り、猟兵達へと突っ込んだ。
「「「特におなごの物は死守するわい!」」」
――あ、最後に本音出た。
モルツクルス・ゼーレヴェックス
「じゃあ!この一般的成人男性の尻子玉は要らねえっすよね!返すっす!」
さて【パフォーマンス】の時間っす
【高速詠唱】で【単純難解針】をバレないように行使
「女性陣の尻子玉はともかく、自分のは返すっす!」
いや全員逃がさねえっすけど
注目集めながら細胞大針を盗人達の体内に送って足の爪先を目指すっす
「返さないと呪うっすよ!ちちんぷいぷい!」
準備完了
「今かけたのはっすね、尻子玉に触れると痛風になる呪いっす」
おっさん特攻
【情報収集】と【コミュ力】タイミング読んで針をチクチク……痛いっすよ
「はーっはっはっは!既に貴殿方にとって尻子玉は呪いのアイテムっす!」
まあ、嘘っすけど
尻子玉に触るのも怖けりゃ勝ったも同然っすね
流観・小夜
【OK】
「……くたばれ」
力が入らない。逆に考えれば、無駄な力が入らないという事に、繋がります。
見通しやすく、相手からは察知されにくい場所に移動し、狙撃銃を構えて対象をスコープで【視力】【暗視】で正確に捉え、対象の行動に隙と思われる場面を予測し、狙撃して攻撃していきましょう。
対象の機敏な行動や奇怪な跳躍術を思い起こし、此方まで奇襲してくる可能性を考慮し、狙撃ポイントを【ダッシュ】で素早く変更しながら、【早業】でリロードを手早く済ませ、再度狙撃を行えるように準備して攻撃再開します。
また、ダッシュ中にコンパウンドボウによる、あえて相手に躱されるような攻撃を仕掛け、味方の攻撃の隙を作っていきます。
リルラ・メローメイ
【OK】【▼】
「うわぁ~、お尻から抜くなんてマジでヘンタイでドン引きなんですけどぉ」
遅れて参戦だけどぉ盗人なんかに負けないよぉ
艶獣化をさっそく使って羽の生えた人魚に変身、尾びれでビシビシ叩いて倒していくよぉ
でもでもぉ、尻子玉を抜かれちゃったら初めての感覚でしばらくはまともに動けないかも、その隙にロープとかぁパンツで全身ぎちぎちに拘束されちゃうかもぉ、ひょっとしたらそのままお持ち帰りとか……
まぁ、不安なことはちょっとあるけどぉ遅れてきた分超がんばるよぉ~
二天堂・たま
(たまは ぐったりして うごかない。
UC:タイラントの相棒達に担がれている。
尻子玉が戻るまで置物と化している)
【相棒達】
ぴよっ!(なんだ?!相棒が動かないぞ!)
ぴぴよっ!(く…っ、相棒が!)
ぴよっぴぃ!(落ち着け!本体であるワタシ達で取り戻すのだ!)
ぴっ、ぴぴーよ!(陣形を組むのだ!璧隊、本隊、遊撃隊編成!)
ぴよーっ!(いくぞー!)
璧隊:盗賊を囲んでのぼでぃーあたっく。
本隊:相棒(たま)を死守。璧隊が囲んだ盗賊をおしくらまんじゅうで封じ込める。
遊撃隊:先行し、木々を利用して空中を跳ねまわって盗賊をかく乱。
クリミネル・ルプス
【戦闘方針】
体に力が入らなくなるならば、速さも遅くなる可能性が高い。
声、音ならば速さは変わらず、放てると考え、集団に対して放つ。
捕縛されたり、繋がれたりした時は力が入らなくとも、返せ?!とぐいぐいと近づいていく。
(勿論、協力、アドリブ、連携歓迎です)
捕まえたら一一体にトドメを刺していく。
「ヒトの大事なモンを盗った以上アンタら覚悟出来とんやろなぁ……」
タマか、毛か、選ばせる。
「…………両方や♪」
かつてない爽やかな全く笑ってるとは思えない最高の笑顔でフルボッコにする。
ジーマ・アヴェスター
宝の数で強化される手合いか?
バフデバフを両立するとは厄介な…!
そも、数が多くて素早いのはどうにも不得手だ。
そのうち火炎放射器でも積んでおこうか…?
基本は変わらず【盾受け】【武器受け】からの【カウンター】で確実に仕留めよう。
ついでに【バウンドボディ】【フェイント】で補助腕を伸ばし、尻子玉を奪い返せないか試してみようか。
奪い返せないまでもなけなしの頭髪くらいは毟り取ってやろう…!
※絡みアレンジ何でも歓迎
余りに身勝手、ついでに変態……そんな盗賊親分の弁を受けた猟兵達の胸中には、怒りの炎が渦巻いていた。
すり盗られた事は勿論、盗って置いて勝手に優先順位つけていたり、聞き逃せない酷い本音が漏れた事。
――これまでいい様にやられ、其処まで反撃しきれなかった彼等の中にくすぶっていた、“火種”を燃え上がらせるには十分だったと言える。
それに加えて厄介さ倍増の【何某直伝分身術】。
敵う事なら全力で塵にしたくなっても、何らおかしくはなかろう。
……無論そうするためにはまず、兎にも角にも『尻子玉』を取り返さねばならないのだが。
「ざっけんな、さっさと返せやこのド畜生が……!」
真っ先に声を上げたのはクリミネル・ルプスだった。
ずっとイラつき続けていたが、おなごの物は死守する、という酷過ぎる&あほ過ぎる発言で余計に我慢できなくなったらしい。
「な―にを言うとるんじゃ、輝かしい白銀色かつ逞しきおなごとくれば、渡す道理が何処にある!」
「道理しか無いわアホンダラッ!!」
ご尤もな事を屁理屈に対しぶつけながら怒鳴る彼女の後方、もう一つ声が上がる。
「そーっす!」
モルツクルス・ゼーレヴェックスも声を張り上げる。
「だいたい死守するものがソッチなら、一般的成人男性の尻子玉は要らねえっすよね、返すっす!」
「ヒヒヒ、一般を装うったってそうはいかんぞ。故にコレもわたさぬ!」
「このぅ! 拘りが分かんないっす!!」
割と元気いっぱい、と言うか生来の気質のお陰で表面上は一番平気そうに見える。
……それでも先程、割と内心余りにも必死な為か若干ギリギリな事を口走るが、幸い敵意は盗人親分一直線。何とかなった様子。
「宝の数で強化される手合い……か? そうでなくてもデバフはある――厄介だな本当に」
そして、言葉の応酬に参加していない者も当然いる。
機械鎧と言うアドバンテージがあるジーマ・アヴェスターは小さく情報を口にし、思考し、周りに広がる分身達を見やっていた。
此処まで多くの数を相手にするのは、彼にとって不得手。
いっそ火炎放射でも詰んでいれば話は別だったが……今は無い物ねだりだ。
幸いにして武装は動く。コレを活かさない手は無かろう。
「…………」
「――――」
更にその傍らで、不気味なまでに無言を貫く猟兵が二人いた。
それが流観小夜とニ天堂たまの両名である。……とはいっても両社とも沈黙の理由はまるで違う。
小夜は当然の如く怒りと殺意から。そして呆れからだ。
「…………」
端から盗られて苦労させられ、その果てに出て来るのはこんな盗人親分――そりゃあ、黙る程の感情を湛えてもおかしくない。
故か、コンパウンドボウの位置を調整しつつ、狙撃銃を静かに構えていた。
……一方のたまはと言うと。
先の尻子玉抜きの衝撃が相当大きかったのか、もはや置物と化して相棒のタイラント(ひよこ)達に身を預けている。
「ぴよっ!(なんだ?!相棒が動かないぞ!)」
「ぴぴよっ!(く…っ、相棒が!)」
「ぴよっぴぃ!(落ち着け! ワタシ達で取り戻すのだ!)」
……外見ではわからない、中々に勇ましい会話を繰り広げているところから察するに、彼等が直々に戦うらしい。
モフモフ戦法は強力だ。後は恐れず陣形を組むのみ。心配することは無いだろう。
十人十色、猟兵万色。
それぞれのやり方で盗賊親分を相対しながら、力が上手くは要らないというデメリットを気合で、技術で、装備で、助っ人で解決しようと動く。
……彼等の意思が限界まで高まった時。
――戦闘は唐突に始まる――
〇
「「「そいやぁ!!」」
盗人親分達が、盗んだ品物と思わしき縄や布を放り投げ、猟兵達を捕縛しようとしてきたのだ。
当然とばかりに【ユーベルコード】扱いであるそれの直撃を受ければ、身動きが取れなくなる――等では済むまい。
上手く力が入らずとも、全員が何とか第一波を回避。
「悪いがブッ叩かせて貰うでぇ……!」
「こっちの方が得意でな!」
クリミネル及びジーマは前衛へ移動。
力が入らないとは言えだからこそ思いついた事があるのか、歩に迷いはない。
「ぴっ、ぴぴーよ!(編成!!)」
「「「ぴよー!!(いくぞー!)」」」
タイラント達は璧隊・本隊・遊撃隊へと組みなおしていく。
見事な統率力と組織力を発揮し、素早く別れていた。
「もう少し離れないと……」
狙撃手である小夜は当然後衛……見通しと隠蔽力を両立できる場所を探し駆ける。
彼女も“力が入らない”要素の活用法を見出し、実行するべく離れている様子。
モルツクルスは空へ舞い上がり、何やら策を行使する気らしい。
「このワシの動きに!」
「付いてこられるかのぉ!」
「ひょひょひょ!」
優位で調子に乗っているのが、丸わかりなほど声色に感情を乗せて、矢鱈と上手く盗人親分は跳ねまわる。
これが忍者だったら格好良かった……しかし現実は、見た目通り非常である。
「こんにゃろこんにゃろ!」
「どこを狙っておる? ほれ!」
「あぶな!」
魔法弾を次々放つモルツクルスに飛来するのは、盗人本人となけなしの頭髪。嫌な予感がしてさっと避けて魔力を盾にしてみれば――なんと大爆発。
まともに受けていれば本当に危なかっただろう。
「降りてこいや!」
見上げているクリミネルの形相からするに、なんとか追い詰めようとして空中に逃げられたのだろう。……スカイステッパーにも似た空中歩法とは地味に厄介だ。
「ふん!」
「ほいっ!」
「っと……おら!!」
ジーマは八本腕を駆使し、死角から捕縛しようとしてくる盗人を武器で受け、盾で受け、そのまま寒波と数にカウンターを放つ。
決定打は今の所与えられていないが、其処にモルツクルスやクリミネルが割り込む為、中々の“崩し”になっていると言えた。
「ぴぴよー!(遊撃隊、行けー!)」
「ぴよぴよー!(壁隊、囲めー!)」
「このぅ、何と厄介な!」
そしてそれを外野から支えるのが先ずひよこ部隊――タイラント達である。
まず遊撃隊が木々の間を……それこそ盗人に負けず劣らずの超軌道で跳ね回り、一定範囲から出ないよう抑制。
分身した盗人親分を、更に超える数で少しずつ囲んで動きを制限しているのだ。
捕らわれれば行動不能のぼでぃーあたっく。喰らってなるかと敵も逃げ回る。
「はがぁ!?」
更に後方、彼等の見えない位置からは小夜の銃弾が遅いくる。
スコープを覗き引き金を絞るその姿には、余計な力など一切入っていないのが分かる――恐らく、力が入らない現状を逆手に取っているのだ。
「……くたばれ」
静かに呟かれ一射放たれ、クリーンヒットこそしないが勢いで回転させられる盗人達。中にはそれだけで消えていく分身も居り――これで『脆い』事が先ず明らかになった。
……しかし順調なのは其処まで。
やはり常にフルで動ける者と、何時ものパフォーマンスが出来ない者達の差は、徐々に開いて行ってしまう。
何より向こうが随時デバフをかけ良い所で力が抜けてしまい、スタミナを消費する一方。
真面に動けるのはタイラント達のみだが、決定打は兎も角たまを守らねばならない為、此方も動きが制限されている様子。
「クソッ、これじゃ近づけないな……!」
「準備整ってるっすのにぃ!」
「ハハハ!! どうやら本当にこれで終いの様じゃな」
嘲笑うように跳ね回り、そしてついにそのなけなしの髪の毛が、クリミネルをを射程間近まで捉える……!
「しまっ……!!」
「ヌハハハ――」
「えいっ」
「――ぬはっ!?」
しかしここで幸運の光が差す。
間一髪で誰かが割込み、見当違いの方を爆破させるのに成功していた。
だがこの場で、咄嗟に蹴り飛ばせるほど満足に動ける者は……いや、居る。
そも、尻子玉を盗られたのは『あの時あの場に居てここに来た』者のみ。
即ち――。
「セーフっと、お待たせぇ~」
あれより後から参戦した者、離れていた者は依然として健在なのだ。
「不安なことはちょっとあるけどぉ……遅れてきた分、超がんばるよぉ~」
駆けつけてきた猟兵の名は、リルラ・メローメイ(マジカルメロウ・f06017)。
桃色のツインテールを揺らしながら、何処か間延びしたような口調で語りつつ、盗人親分と猟兵達の間に立っていた。
……実の所、彼女も会場にはいたのだが、披露前でスタンバイしていた事で難を逃れていたのだ。
その後、何とか此処まで追い付いたらしい。
「なんとまだこんな、おなごが控えておったとは……!」
その手の内に白銀色や黒色、花色に黒橙混合、青灰色の尻子玉を持ったままなのを見て、リルラは当然というべきか顔をひきつらせた。
「うわぁ~……お尻から抜くなんてマジで、ヘンタイで、ドン引きなんですけどぉ」
「好きに言うが良いわ! この輝きを見よ、そんな事など些事にうわっちゃぁ!?」
反論(?)を遮り跳んできた弾をギリギリで避ける盗人親分。
その弾丸には二つの言葉が籠っていた事だろう。
“些事な訳がありますか”“おなごがどうとか言っていたでしょうが”と。
割と情けない姿を見たからか、そして後ろのクリミネル達から希望の視線を受けているからか、リルラの中にあった不安が自然と消え、また気合を入れ直せている。
「盗人なんかに負けないよぉ? いざ、へんしぃ~ん♪」
その一声と共に彼女の姿は、見る見る内に変化していく。
それは彼女の親の血が影響した、軌跡のユーベルコード。
鳥の要は翼を持ち、人魚の様な下半身となり、また大人びた妖艶な容姿へ。
地空海を行く【艶獣化(アダルティックローレライ)】へと変貌を遂げた。
「よし切込みは任せたぞ!」
「もっちろん、頑張るよぉ~」
再び始動した戦は、無事なものが一人加わるだけでも大きかった。
モルツクルスの魔法弾をつい、ぎりぎりで避けた盗人へ飛行しすれ違うや否や、尾ビレをぶつけて数体一気に殲滅完了。
リルラに気を取られれば、タイラント達のぼでぃーあたっくが待っている。……モフモフを堪能しているうちに、頭へ一発ヒレアタックが来るのは言うまでもない。
「何というおなごじゃ! アソコまで別嬪になるだけでなく強いとはグホ?!」
「ぶ、分身よぉ!!」
暗がりに退避しても無駄。遠間から飛んできた弾丸に眉間を撃ち抜かれる。
暗視機能の付いたスコープを覗いている小夜からすれば、そんなものその場しのぎにもならないのだから。
「じゅ、術がぁ!?」
「あ! なんか薄くなったっす!」
――そして遂に分身に綻びが生まれ、【はっきりと見える尻子玉】を抱えている盗人親分の本体が、白日の下にさらされた。
チャンス! とばかりに呆気に取られた数体をクリミネルとジーマが抑え、カウンターで打ち転がす。
「それじゃあ変態さんはぁ……」
「ひ、ひぃぃい!?」
「ここで成敗しちゃうねぇ――それぇ~」
モルツクルスの援護で逃げられぬ盗人親分の頭部を、その艶ややかな尾ヒレのハンマーの軌道が捉えた。
たった一人が来るだけでも、その力量差は埋められる。
これぞ、絆の力による逆転劇だった。
「隙ありぃ!」
…………だった、筈なのだが。
何故だろうか。盗人親分の手の内の尻子玉が、一個増えている気がする。
「あれぇ~……?」
その色は可愛らしくも何処か誘うような、魔性の風漂う桃色の尻子玉。
こんな色は見た事なく、ジーマ達の物では断じてない。
まさか! と全員の視線が……もれなく、リルラに殺到した。
「―――ハキュンッ!?」
それと全く同時に、奇妙な悲鳴を上げてリルラのユーベルコードが解け、その場に倒れてしまう。
ヒレを振りかざしたそれを隙とみて、尻子玉を狙い抜き取ったのだろう。
何という執念か。
「ち、力がぁ……?」
突き抜ける衝撃と痛み、合わさる未知の感覚から、リルラはまともに動けない。
コレで全員が取られてしまった事態に逆戻りだ。
しかもそれで力を取り戻したのか、徐々に薄い分身が元に戻っていく。
「ふぅー、危うい所じゃったわい」
「く――これ以上動かせてなるかい!」
「おっと」
「ぬぁっ……!?」
クリミネルが動こうと先手を打つも、尻子玉の力で体勢を崩される。
モルツクルスが落下しかけていたり、今し方飛んできた小夜の弾丸が僅かにずれており、遠距離封じをも行使している――周到にも程があった。
オマケに。
「ふむふむ。一人ぐらい、連れ帰っても良かろうかのぉ?」
「ふ、え……はぅ!?」
「尻子玉に関してはまだ未知が多い……誰にも渡さんワシの宝だからこそ、より理解を深めんとのぅ!」
どういう理屈かモロ変態丸出しで、盗人親分がリルラを縛り、そのまま去ろうとしているではないか。分身達も立ち塞がり、とても追える状況ではない。
今度こそ終わり――。
「ちちんぷいぷい!」
否、終わりになる筈であった。モルツクルスがいきなりそんな呪文を唱えなければ。
しかもかなりしたり顔だ。
「さあ女性陣の尻子玉は兎も角、自分のは返してもらうっすよ!」
「兎も角てなんやねん!!」
思いっ切りツッコミが入り、思わず飛んだままのけ反るモルツクルスだったが、何とか体勢を立て直し指を突きつけた。
「今自分は呪いをかけたっす! 取っても恐ろしい呪いっすよ~? それは――」
「恐ろしいじゃと? ふん、尻子玉を死守できればこのワシに怖ろしいものなど……」
「――尻子玉に触れると痛風になる呪いっす」
「ない……えっ?」
今、オッサンである盗人親分としては聞き逃せない単語が口走られた。
おっさん特効が発動したような気がした。
そしてそれを頭で確り理解する前に、その呪いが作動する
「ぎゃぁ!? つま先が、足がぁぁぁーー!?」
「はーっはっはっは! 既に貴殿方にとって尻子玉は呪いのアイテムっす!」
綺麗な高笑いを決めるモルツクルス。が、彼は呪いなど使えない。
これを実現したカラクリは【単純難解針】にある。
細胞単位まで小さくした魔法の針を、コッソリ忍ばせて置いていたのだ。
リルラが暴れてくれていたお陰で何とか仕込みに成功したらしい。
「ぐ、ぐぅぅ……! 負けてなる者かっ、娘っ子は連れていけんがしかし! 欲を出さずにこのまま尻子玉を持ちかえればワシの勝ちじゃぁ!」
「――させると思いますか?」
親分の声を遮り、飛んでくるのは鋭い一矢。
少し近くまで来ていた小夜がコンパウンドボウを展開し、間断なく射出している。
だがやはり力が入らず狙いも甘い。
痛みで苦しむ分身達にも、割とギリギリでドヤ顔にて避けられてしまう。
「ぴよよぴよー!(甘いぞ! もふもふあたっくー!)」
「「「アタック―!」」」
「よお、コッチに来てくれた……かっ!!」
「ぬわぁにぃ!?」
ああ避けられて当たり前だろう。小夜は始めからサポートのつもりで撃っていたのだから。
右方へ跳べばタイラント達がぼでぃーあたっくで囲い込んでぎゅうぎゅう惜しくらまんじゅうし、そのままある一点へ押していく。
左方へ跳べば八腕を思い切り広げたジーマが待ち構え、未だせる渾身の力で受け止めるや否や、弾力を活かした恐るべきカウンターで一転目掛け吹き飛ばす。
残る者達も小夜の矢から、転がるように逃げる他ない。捕縛を狙おうにも味方が居る中、撃つたびに移動されてはどうしようもなかった。
「じゃ、じゃが一点に集めてなに――」
「よぉ」
「――を」
そして反論する前に、盗人親分達は悟った。
目の前にあったクリミネルの“良い笑顔”を前に。
声も無く慌てて、ユーベルコードを駆使しようとするも、空中に出ればモルツクルスの呪い・痛風(仮)の所為で動けず、足掻いても即座に小夜に叩き落され。
左右からはジーマやタイラント達が配置している。
リルラも拘束が解けたか、別位置まで移動済みだった。
「このぉぉお!!」
「うぐっ、う――かえ、せ……返せぇ!!」
「何という執念!?」
クリミネルもクリミネルで、捕縛や爆破され繋がれても強引に進んで行く。お前が言えた事かな叫び声をあげる。
そして一歩、何かが切り替わった、瞬間。
「力で無くとも、速さ足りなくとも! “音”なら関係ないやろっ!!」
一喝から即座に空気を吸い込んで――解き放つは【人狼咆哮】――!
「ヴォオオオオオオオォオォォオオォアアアァァァァァッ!!!」
「「「ぎええぇぇぇぇ?!」」」
彼女の身の丈から放たれるパワフルな、この高威力無差別範囲攻撃の前には堪らず、分身達もかき消えた。
盗賊親分と残り数人になり、しかもまだ暴れ足りないクリミネルにつかまってボッコボコにされていく。
「おおおおおい何をしとるかっ! 尻子玉が割れても知らんぞ!?」
「あ、悪いがそれは回収済みでな?」
「え――――あっ」
意地悪い声を出したジーマの両の腕の先、其処には全員分の尻子玉が握られているではないか。
どうやらカウンターの際に【バウンドボディ】を活かし、すり取っていたらしい。
最早何も出来ない盗人に待つ運命は1つ。
「とっとと散り失せろや!!」
「そーれどんどこ振るっすー!」
「……速やかに消えろ」
「ぴよっ!ぴよぉー!!」
「流石に怒っちゃったかもぉ」
「まあ、そう言う訳だ――じゃあな?」
ただのフルボッコ、それ一つのみ。
「ちょっとまってほんとごめんなさギャアアアアアアアァァアアアアア!!!」
こうして哀れ――いや全然哀れじゃなく完全な“自業自得”で、盗人親分は轟音と共に消えていく。
後に煌めくのは、皆の尻子玉のみであった……。
〇
「これで後は、尻子玉が戻るのを待つだけっすね!」
「……本当に苦労しました。こんな敵とはもう会いたくないと思うぐらいに」
モルツクルスが片腕を腰に当てて空を仰ぎながら、小夜がかなりげんなりしながら。
そして彼等だけに掛からわず、何とかから元気を見せたり、またどっと疲れた顔をして……各々自分の尻子玉を手に『品評会』の会場まで戻っていく。
最初はすぐ戻らなかったために不安があったが、段々と尻子玉の輝きが強くなっているため、時間の問題だろう。
――ちなみに途中で縛ってあった盗人子分達も軒並みサクッと退治ずみ。
一般人達の尻子玉も回収済みである。
「ぴよー」
「可愛いなぁ~ひよこさん。持って帰っちゃダメかなぁ?」
「ぴよっ!ぴよ!(当然!相棒の元を離れる気はない!)」
「ダメかぁ~」
たまも依然運搬中の様子。リルラと話をしているのも、やっぱりタイラントであった。……何故言葉が通じるのかはさて置き。
「しかし戻ると言っても、スゥーッと消えていく感じじゃあなさそうだな」
「バシュッ! と光ったりするんやろうか? ――ってメッチャ光った!」
そしてクリミネルとジーマの会話を遮る形で、とうとう尻子玉が星の如く眩い光を放ったかと思えば、宙に浮かんで輪を描いていく。
出自さえ気にしなければ、とても幻想的な風景と言えた。
ぐるぐる、ぐるぐる、円を描きまわり続ける尻子玉達は――そのまま流星の如く、空を翔けて持ち主達の元へ帰っていく。
そして藍黒色の、濃淡二色の、白銀色の、花色の、青灰色の、桃色の尻子玉達も、持ち主の元へと一直線。
「いやちょっと待ってくれ」
正確にはその持ち主達の、『とある一部』へと一直線。
……そいう言えば“元に戻る”とは聞いていたが、“どんなふうに戻るか”は分からなかった訳で。
皆思わず青ざめ咄嗟に抵抗の手が出るも――時既に遅し。
「ハアゥ!?」
「クアアァカッ!」
「ホォ!!!」
「フルアアァァッ?!」
「ギノゥニャァーーー!!」
「ムュアン……!?」
奇声の大合唱。抜かれた時とは比べ物にならない衝撃が突き抜け、皆が皆して思い切り転がる。
彼らはこの時思った事だろう。
『盗人オブリビオンと河童だけは、今後絶対ゆるすまじ』と。
こうして己たちの自慢を広める一幕から広がった珍事件は。
新たなものを得て、またある意味失いながら、ようやく終息を見たのであった。
――余談だが。
会場に戻った際、一部の武芸者や術師達の顔が気不味かったり、猟兵達を見て顔に感謝と同情を浮かべていたのは、決して気の所為では無かろう。
……本当にお疲れ様であった。
大成功
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