ナイトメア・コーデ
●夢
悪夢というのならば、悪夢であろう。
己たちを見下ろす瞳の色を知っていても、浮かぶ感情を知らなかった。
そんな目で見ないで欲しい。
知っていることは多くはなかったのかもしれない。
多くを知っていたと思っていたのは思い違いであったのかもしれない。
うぬぼれがあったのかもしれない。
ヌグエン・トラングタン(欲望城主・f42331)の妻であるという自負が、曇らせていたのかもしれない。
ゴッドゲームオンライン上のノンプレイヤーキャラクターであったとしても、結局は別個体だ。
同じデータから生み出されたAIであったとしても、それは人間と変わらない。
結局、個を得ることは、他者を得るということである。
知らぬ他者を知るからこそ、他人ではなくなるのだ。
どんなに心通わせても、他の心の奥底までは見出すことができないのだ。
それを怠った時、不和は生まれるのだろう。
きっとヌグエンもまた理解していないことだろう。
己の言葉が、所作が、考えが、その一つ一つが他者である以上完璧に理解されるものではない、ということを。
だからこそ、彼は言ったのだ。
妻である彼女たちの悪夢。
アーティフィシャル・インテリジェンスは、夢を見るのかという命題が此処に帰結している。
存在しないはずのデータがノンプレイヤーキャラクターである彼女たちに夢を見せる。
「やめてよ、そんな目で見ないでよ」
「知らない。怖い顔をしないで。興味ないなんて、無関心な顔をしないで」
「声、そんなんじゃなかったはずだよ」
果たしてはそれは、本当に悪夢であっただろうか。
現実ではないのか。
ヌグエンは言った。
無神経にも彼女たちに伝えてしまったのだ。
彼女たちの知らない『デスペラティオ・ヴァニタス』を取り戻す時がすぐ来るかもしれないと。
それが如何に不安を煽るものかも考えていなかったのかもしれない。いや、考えていたのかもしれない。
けれど、それが彼女たちに悪夢という不定形を与えたのならば、皮肉でしかない。
渾沌たる夢。
有り得たかもしれない可能性と、あり得ないと否定したい思いが綯い交ぜになった事象。
アーティフィシャル・インテリジェンスは、人と変わりないのか。
肯定するのならば、それがいかなることかを知るべきだったのだろう。
彼女たちは起き上がる。
互いに顔を見合わせる。
縁起でもないよね、と互いに告げる言葉は、きっと慰めの言葉だった――。
成功
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