獣人世界大戦⑤〜アドリア海の対空砲
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速く鋭い力の上昇を、地対空と言う。噴煙も爆発も無く空へと昇っていくそれは、紫電の迸りが伴っていた。
『散開しろ……!』
ビーム砲だ。数は複数。地上から突き立った光柱は、アドリア海の上空を一瞬にして切り取っていった。
狙われた複数の戦闘機は皆、散り散りとなって柱間を飛んでいく。それは編隊と言うには統制されておらず、群れと形容するには機体のサイズや種類、年代さえもばらばらだった。
どれもこの地で根強く活動するレジスタンスたちの機体だった。
『今が好機だ。きっとこれ以上に無い』
●
レジスタンスの隊長は己の緊張や興奮を抑えるため、平坦に言った。今も自分たちは砲火に晒されているが、構わなかった。
ゾルダートグラードがワルシャワ条約機構へ突如急進したことは、レジスタンスたちも知るところだ。そして、機構に反応したのはゾルダートグラードだけでないだろうということも。
機構の"発見"によってすべての超大国が対応を迫られ、一つの流れが生まれているのだ。
『――世界大戦。連中は全力の介入を選び、つまり私たちを省みられない』
ゾルダートグラードをはじめ、超大国は人民を消費し尽してでも目的を遂げるだろう。事実、ベルリンは道中を"食い潰しながら"進んでいる。
座していても結果は見えていた。
ならば、
『今が好機だとも。――対空砲を潰すぞ!』
『――!』
加速を選べば、他の機体も続いた。
行く。砲火の中、風を切りながら。
●
グリモアベースでは、急ぎの動きで転移が進められていた。
「獣人戦線にて世界規模の戦争が始まりましたの」
ワルシャワ条約機構の"発見"、それによって引き起こされた一連の状況を説明したフォルティナは、言葉を続ける。
「ゾルダートグラードは本拠地であるベルリンごと東進を決定。レジスタンスたちはこの機を逃さず、反攻作戦としてイタリア半島に突入しましたの。
これはゾルダートグラードの後背を突く形にはなりましたが、基地に敵勢はいまだ健在であり、残っている対空砲だけでも彼らにとって絶大な脅威ですの」
ならばどうするか。
「かなり急ぎですので、皆様を今からアドリア海上空三千メートル付近に転移させますの。――ええ、生身で。
転移した瞬間に自由落下が始まると思いますがまあ……、各々が現場でどうにかしてもらい、レジスタンスの飛行機乗り達と協力して、ゾルダートグラードの対空砲を破壊してくださいまし!」
シミレ
●目的
・アドリア海に存在するゾルダートグラードの基地で、対空砲として働くパワード・キュートルーパーの撃破。
●説明
・獣人戦線で戦争イベントが始まりました。始祖人狼のもとへたどり着くために猟兵たちは戦っています。
●プレイングボーナス
以下に基づく行動をプレイングに書いていただければ、プレイングボーナスが発生します。
プレイングボーナス……飛行機乗り達と協力し、空中戦で戦う。
※プレイングボーナスとは、プレイングの成功度を複数回判定し、最も良い結果を適用することです(詳しくはマスタールールページをご参照下さい)。
●他
皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これを言ってますが、私から相談は見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
第1章 集団戦
『パワード・キュートルーパー』
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POW : エネルギーバッテリー
自身の【耳部アーマー】を【敵を追尾するエネルギー弾を発射する砲身】に変形する。変形中は攻撃力・射程が3倍、移動力は0になる。
SPD : スパーキングストーム
自分の体を【放電】させる攻撃で、近接範囲内の全員にダメージと【感電】の状態異常を与える。
WIZ : ブレストビーム
【胸部砲撃装置】から【破壊光線】を放ち、レベルm半径内の敵全員を攻撃する。発動前の【チャージ】時間に応じて威力アップ。
イラスト:SOYA−001
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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アドリア海沿岸基地に配備されたオブリビオン、パワード・キュートルーパーは窓から外を見ていた。
「ウーン。ボクたち足遅いから東部戦線送り後回しにされたけど……。そう悪いことでもなかったかもね」
海の向こう、空の上に小さな黒影が見える。直に基地内に警報が響き渡った。
敵機飛来という言葉に沸いた基地の中、身に着けたパワードスーツを標準稼働させ、自分たちはすぐさま所定の位置についていく。
見上げる。そこにいるのはどの勢力かと思えば、
「ワオ。見えるアレ? 複葉機だ。三枚羽もある!」
「あんなの使うのレジスタンスの連中だけだろ」
「戦闘機っていうより、ヒコーキって感じ」
沸いた興奮も一段落ちた。相手が格下で、狙いもすぐに解った。世界大戦が始まった今、好機だと考えたのだろう。普段であれば数発撃てば決着だ。それだけで撃墜か逃走を相手に押し付けられる。だが今は、
「決死って感じ」
「じゃあ十発くらい必要かな? まさか二十発?」
「面倒だ――」
ね、という言葉は続かなかった。
「……んン?」
レジスタンスらと自分たちの間、上空に新たな影が生まれたのだ。
突然のことだった。
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アドリア海上空三千メートル前後。そこで猟兵たちは様々なものを見た。
きらめく空と海の青、地中海地域特有の乾いた緑と大地、セメントで護岸された基地や埠頭、そして、
『……!』
戸惑った動きを見せる後方の複葉機たち。
そこまでだった。すべての景色は一瞬で、頭上へと流れていく。
落ちていっているのだ。
眼下、ゾルダートグラードの基地に眩い光が灯った。光は収束しながら、加速度的に膨らんでいっている。
エミリィ・ジゼル
この自由落下。ケルベロスブレイド時代を思い出しますね。
いっそ懐かしさすら感じます。
そんなわけで戦場に転移したら、即座にサメ子に乗り、対地攻撃に参加しましょう。
戦闘では【空中戦】と【見切り】で対空攻撃を回避しながら、【弾道計算】で攻撃位置を測定。
敵施設の位置を特定し、地上に向けて暴走鮫鱗弾を連射します。
そうして極めて屈強なサメの群れによる攻撃で地上に混沌と混乱をもたらすことで、味方航空部隊が対地攻撃を行えるようにするってすんぽーです。
飛べないサメなんてただのサメだぜ!
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「――遅れてすみません。ポジションは、ぁァああおおおぁオぁ……」
次の瞬間。エミリィは己の口に地中海の大気が流れ込んできたのを感じた。
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落ちていく。
……この自由落下、ケルベロスブレイド時代を思い出しますね。
思い出す。あの時は皆ヘリっぽいのから飛び降りて、なんやかんやしながら日本中でデウスエクスをシバいて回ってた。着ぐるみで落下しながら高風を受けるこの感覚は、やはり懐かしさを感じる。
……この味は、シロッコですね。
アフリカ大陸沿岸、サハラ方面からヨーロッパへ吹く春の季節風は砂を含んだまま地中海の湿気を含むので舌触りが悪い。人の食べるものじゃありません。
「嫌ですよね黄砂って……。――ね、サメ子」
言って、一緒に落ちてきていた鮫を手繰り寄せた。そうしてその背に座ると、サメ子も応じるようにヒレや姿勢を伸ばす。
揚力を得たサメ子がやがて安定した飛翔と移っていくの確認すると、己は労わるようにサメ子の肌を撫でた。
「お肌ザラザラしてますねサメ子! おのれ黄砂! おのれデウスエクス……!!」
次の瞬間。地上から伸び上がって来た鋭い光が、自分たちがいた空間を貫いた。
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レジスタンスの先頭を飛行していた隊長は、否応無しにその結果を目の当たりにした。
前方に突如として現れた鮫の着ぐるみを着た女が、空飛ぶ鮫に騎乗したかと思えば、間髪入れずに地上から砲撃されたのだ。
異常な光景だった。
そして、
「……!?」
そんな異常な光景は今も続いていた。女が無事なのだ。
地上からの光を見た瞬間。自分たちは既に回避機動を取っていたが、それは女も同じだった。傾いた視界の中、自分たちと同じように傾いている鮫の身体が見える。バレルロールをぶち込んだ証拠だ。明らかに航空戦に慣れた動きだった。
こちらに向けて尾びれを小刻みに揺らしているのも、もしかして挨拶のつもりなのだろうか。
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エミリィは行った。サメ子と共に、気楽に空を飛んでいく。
突如として現れ、挨拶代わりの砲撃を難無く回避したこちらに、今、地上のオブリビオンは釘付けだ。
現に、砲撃が再び飛来した。今度は二発、否、三発だ。
サメ子の前方を狙った偏差射撃と、それを回避することを見越してタイミングをずらした左右狙いの二発だ。
バレルロールを封じる狙いだろう。
「ふむ」
それに対し、己はサメ子の首を少し下げ、下降。迫る砲撃とは相対速度で一瞬にしてすれ違い、光柱の間を縫うように進んで行けば、どんどんと地上が近づいてくる。
「ビームっていいですよね。光の棚引きで、発射源が解りやすい」
もはや目視でオブリビオンの姿が見える。大衆的なデザインの白いパワードスーツ姿の名前は、確かパワード・キュートルーパー。
「……私もよく"キュート"とか"パー"とかいう評価をいただきますが……」
あのオブリビオンもそうなのだろうか。どうだろうか。多分違う気がします。
「はい、どーん!」
刹那。サメ子から鮫魔術、|暴走鮫鱗弾《シャークボム》が放たれた。それは勢いよくオブリビオンのもとへ突き刺さり、周辺地形を一気に破壊。
そして、
「――えっ」
「な、なんか出てきた!」
敵の戸惑った声を聴きながら、サメ子を上昇をさせていく。上向きの視界の中、基地を振り返って見てみれば、爆弾から生まれた屈強な鮫たちが周囲を蹂躙していっているのが見えた。
「硬い! 硬いよコイツ!」
「か、囲め囲め! うわァ! も、持ち上げ――!?」
一体が、パワードスーツごと海に投げ飛ばされた。
もはや地上は混沌と混乱に支配されており、オブリビオンたちは最初に見せたような連携した動きは難しくなっていた。
「――!」
そして、それを見逃すレジスタンスたちではなかった。彼らは地上の混乱へ一気に近づくと、一瞬、現場の光景に戸惑ったような挙動を見せたが、すぐに爆撃や銃撃による攻撃を成功させた。
基地から上がる爆炎に押されるようにして離れていく赤い三枚羽が、こちらに向けてフラップを揺らしている。
なので自分もサメ子のヒレを激しく揺らしながら、応えた。
「飛べないサメなんてただのサメだぜ!」
離れた地上から、また水音が上がった。
大成功
🔵🔵🔵
神酒坂・恭二郎
うぉっと、いきなりだね
「スペース手拭い」を落下傘のように広げ、減速しつつ戦況を見やる
ここは気合の入った飛行機乗りと連携すべきだな
方針
空中で風桜子(フォース)を上手く使って【衝撃波、推力移動】で空中機動。本家の飛行機程じゃあないんで、共闘する飛行機乗りの一人に屋根を借りたい
「足代りすまんね。代りにあの連中は任せろ」
兎メカの追尾弾を、風桜子をこめた布操術でいなして【受け流し】て僚機を守る
攻撃は伸ばした手拭いの【早業、ロープワーク、捕縛】で蹴散らそう
※UCは命中力重視
「今の内だ。あの対空砲を黙らせてくれ」
対空砲は飛行機乗り達に任せよう
●
「――うぉっと」
恭二郎は何が起こったのかをすぐに悟った。青一面の視界と、自分の身体を殴りつけてくる激しい風。己は既にグリモア猟兵の言通り、アドリア海の上空に転移しているのだと。
「いきなりだねぇ。――それっ」
危険な状況ではあるが予告はされていたのだ。特に慌てることもなく、手に持っていたスペース手拭いを風に広げた。
同時に|風桜子《フォース》を与えられていたことで、手拭いはどんどんと伸長していき、大きな一枚布となった。まるで落下傘のように広がった布が風を捉えて、落下していく身体を減速させていく。
落下速度が落ちれば、状況も把握しやすい。眼下にゾルダートグラードの沿岸基地が存在するのは、ここからでも見えた。あそこに存在する敵を撃破しなければならないのだが、敵は対空手段が豊富だという。そして、
『……!?』
「お。やっぱり本職には敵わんね」
己の後方から、レジスタンスらの戦闘機が来た。彼らは突如として現れたこちらに慌てた様子を見せつつも、巧みに機体を操作し、回避。通り過ぎて行く。
その際に生まれた突風に煽られたが、こちらには風桜子がある。生み出した風桜子の衝撃波で突風を相殺し、そのまま飛行機と同じように推力移動へと移ったが、本家の飛行機乗りを間近で見れば"やはり"という感はある。
なので、近くにいた一機の近くへ身体を運ぶと、アイコンタクトや手のサインで操縦手の注意を引いた。そして、
「よっと」
「!?」
その機体の背に降り立った。見た目通り、木製で布張り。そんな風に足裏からの感触を判断していると、機体のキャノピーが開き、そこから驚愕した顔の操縦手がこちらを見上げてきた。彼はスズメの獣人だった。
「あ、あんた何を、そこで……、えっ? えっ!?」
●
スズメのレジスタンスは、自分の機体に降り立った男を見て驚愕していた。そうだ、"降り立った"のだ。突如として空中に現れ、あろうことか拡大した手拭いで身体を運び、今、機体のルーフ上に危なげなく立って、コックピットにいるこちらを覗き込むようにして見ている。
「いや、足代わりにしてすまんね」
苦笑している男は事態に動じていないようで、緊張や張り詰めた雰囲気というものを感じさせなかった。彼は手拭いを持った腕を自然に構えると、
「代わりに、あの連中は任せてくれ」
一閃。確かにそう言える動きが空を走った。
遅れて、機体の下方の空から電撃に似た音が聞こえて来る。
何事かと思い、男から視線を剝がして下に向ければ、地上からの対空攻撃を示す発光と、長く伸びた手拭いが視界の中に飛び込んできた。
男の手へ引き戻っていく手拭いの表面には光の、否、雷の飛沫にも似た残滓が見えた。
それが意味することは何か。
「砲撃を弾いたのか!?」
●
恭二郎は、アドリア海上空を翔けていた。レジスタンスの戦闘機と共にだ。
最初は戸惑いや驚愕が見られたレジスタンスも、状況を理解するなり行動は早かった。彼は操縦桿を掴むと、
「行くぞ!」
機体を一気に加速させ、他のレジスタンス機よりも突出していく。進路は前方下方、地上を目指す動きだった。当然、そんなことをすればオブリビオンの注意を引き、砲火がこの機体に集中するが、それこそが今の自分たちの狙いなのだ。
地上を目指して下降していく視界の中、光弾が迫り来る。相対速度で一瞬の最中、伸ばした手拭いを正面から光弾へぶち込んだ。
手に返って来る感触で、弾の真芯は捉えていないことは解る。だが、それでよかった。
軌道をずらされた光弾は彼方へ飛んでいき、手拭いはそれとは逆方向へ押されていく。そこは機体の右翼側だった。そちらから複数の光弾が迫ってきていたのだ。
追い縋るような動きを見せていることから光弾は追尾式で、その動きはまるで獰猛な獣のようであった。今にも襲い掛からんとしていたそんな群れのもとへ、手拭いが薙ぎ払うように飛び込んで来る。
刹那。着弾音が鳴り響いた。
音は、連続していく。その度に布の向こう側で激しい光が迸った。
だがそれだけだった。手拭いを戻せばもはや周囲に光弾は存在せず、開けた視界がある。
「今のうちだ。あの対空砲を黙らせてやれ!」
「ああ!」
機体の下降は果たされ、地上は目前と言っていい距離だった。上空から見えた光の源、そこに白いパワードスーツの姿が見えた。それが対空砲の正体だった。
「食らえ!」
『!!』
レジスタンスの吠えるような声と共に機体の機銃が唸りを挙げ、そこから弾丸が連続して放たれた。
十分に近づいた上での射撃だ。弾丸の雨のほとんどはパワードスーツに命中し、その装甲を引き裂いていった。
衝撃や損傷によってスーツは地面に崩れ落ち、やがて大きな爆発に飲み込まれた。
「上手くいったな」
爆風に背を押されるように機体は上昇し、再び空に戻っていく。その最中、他のレジスタンスの戦闘機とすれ違った。
こちらが生んだ隙を狙って、彼らも攻撃を続けていくのだ。直に、先ほど聞いたような爆発音が再び背後の地上から聞こえた。
ゾルダートグラードの基地に、痛打を与えられている証拠だった。
大成功
🔵🔵🔵
仰木・弥鶴
現着と同時にディバインデバイスで空中浮遊
レジスタンスを白燐奏甲で援護するため
ピンマイクを通して共闘を要請する
許可を取れたレジスタンスの戦闘機に白燐蟲を纏わせ、攻撃力と装甲力を強化
そのまま対空砲の撃破に向かってもらおう
俺は敵にもユーベルコードを使用するため
レジスタンスとは別行動で所定の位置にいるパワード・キュートルーパーに接近
発動前のチャージに入った個体を狙い
破壊光線の発射前に白燐奏甲で不幸を呼び寄せてもらう
チャージは終わった?
うまく当てられるようにお祈り申し上げるよ
●
弥鶴は判断を迷わなかった。転移の完了と同時、己の装備を稼働させていたのだ。
光背にも似たその白く硬質な姿は、ディバインデバイスだ。天使核を動力としたその装備によって安定を確保すると、彼はそのまま後方に視線を向けた。
そちらにいるのはレジスタンスたちの戦闘機だ。近づいてくる軌道だからこそ、戸惑っている気配が弥鶴からは見て取れた。戦場だ。片手で上げるだけで挨拶とし、伝えるべきことを伝える。
「レジスタンスへ、そちらとの共闘を要請します」
ピンマイクに向かって告げた言葉は果たして彼らのもとへ届き、一拍の後に返事が来た。
『感謝する。そちらも随意にしてくれ。我々はもう――』
その時、地上から砲撃が来た。遥か眼下に見える沿岸が光った瞬間、レジスタンスの全機は回避機動を叩き込んでいた。
『動き出しているからな!』
一直線に伸び上がった鋭い光が、レジスタンスの一機を捉える。狙われている機体も全力で回避しているが、間に合わない。
光柱が、機体を下から貫く。
そのはずだった。
『!? これは……』
砲撃は機体の直前でまるで何かに防がれたように飛沫き、そして散っていった。残光が消えた後に現れたものは無傷の機体と、その周囲に漂う燐光にも似た白い光だった。
ユーべルコード、"白燐奏甲"。弥鶴が有する白燐蟲がレジスタンスの機体を強化したのだ。
戦場は動き続けている。すぐに次の砲撃が飛来するが、己の状況を知ったレジスタンスは直感的に舵を切り、他の機体よりも飛び出すと、迫る砲撃の先端へ突っ込んでいった。
衝突。
思い切ったことをするね、とそう呟くが、弥鶴としても結果は解っている。やはり、機体は先ほどと同じ無傷なのだ。
『――ハ! 共闘、まさしくその言葉通りだな。この蟲は』
「装甲だけじゃなく、攻撃力も強化されているから――」
『なら、尚のこと前に出なければな!』
「ああ、そういうことだね」
機体が機首を下げ、落ちるように加速していった。
地上へ、急速接近していく。
●
上空から最短ルートで直進してくる戦闘機を見上げる複数の対空砲、パワード・キュートルーパーたちは、レジスタンスを迎撃するべく一斉に照射を開始した。
光の疾走が幾重にも空を走り、遅れてスパークのような音を響かせる。
幾本もの光柱が敵機へ連続で衝突した。その度に激しい飛沫が巻き上がるが、それが異常なのだ。
……チャージ砲だぜー!?
そう思わずにはいられない。あの布と板張りの旧式機体など、貫くどころか爆散や霧散させてなければおかしいのだ。だがこちらの砲撃が弾かれ、飛沫を挙げるなど。
しかし、結果は依然として空の上にある。相手の姿は無傷で、止まるどころか失速すらしていない。
来る。
●
「うおおおお、やばくない!? 向こう!」
「あっちもう駄目だよ! 駄目駄目! ――だったら!」
離れた位置にいる別の対空隊のうち、一体が身体の向きを変えた。せめて他のレジスタンスの機体を狙おうと考えたのだ。奴らは先頭の一機を何らかの方法で強化し、その後方を余裕を持って追随している。
不意を撃つ。そのつもりで、胸部にある砲撃装置へ緊急でチャージを命じた。
先ほどの白光を纏った戦闘機が、向こうの部隊へ致命的な掃射を浴びせた後に離脱していく。視界の端にそんな光景が見えたが、もはや構ってられなかった。
チャージは目前なのだ。破壊の光が胸部で膨れ上がり、今にも解放されんとする。そんな最高潮の瞬間だからこそ、己の光の異変に一体が気付いた。
……?
それは何か。
「蟲?」
自分の胸にも纏わりつかれたことで、先ほど見た白光の正体を今になって知った。
自分たち全員の意識が、突っ込んで来るレジスタンスやその後方に集中していたのがまずかったということも、やはり今になって気付いた。
「――チャージは終わった?」
こちらの後方を浮遊している男の姿に、今の今まで気づかなかったからだ。
「お前……!?」
「うまく当てられるようにお祈り申し上げるよ」
悠々とした声を吐く姿に対し照準を変更するどころか、それ以上毒づくこともできなかった。
「!」
スーツの視覚素子が寄越す視界の中、システムのエラーメッセージが積み上がっていったからだ。
メッセージは、どれも危険を示す赤一色だった。
直後。メッセージに書かれている通り、胸部砲撃装置の圧力が限界まで達し、スーツが内側から爆散した。
大成功
🔵🔵🔵
風吹・香織
アドリブ連携歓迎
空中から、対空砲の破壊だって?
任せな、私の|P-38 ライトニング《相棒》は爆撃だって得意なんだ。
ユーベルコードを発動して僚機を召喚。
飛んでくるビームを回避しながら、ダイブブレーキを展開し、速度が出過ぎないようにしつつ急降下し、まずはロケットランチャーで攻撃を開始する。
敵もかなりの数のようだが、私の僚機も数なら負けてない。おまけに周りには友軍もいる。
的の数が多ければ多いほど、対空砲の狙いも甘くなるはずだ。
ユーベルコード製の僚機達の犠牲はやむを得ないと割り切るよ。
十分に急降下したら今度は爆弾を投下、速度を乗せて対空砲を攻撃だ。
離脱時が一番危ない。警戒を忘れずに
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レジスタンスたちは、それを見た。何もかもが突然のことだった。
上空三千メートル。風がすべてを支配する場所に現れたスズメの女は、しかし翼で風を捉えなかった。
彼女の姿は既に、突如として現れた航空機のコックピットへ移っていたからだ。一瞬のことだった。
こちらが呆気を取られるのも束の間、通信機から声が聞こえてくる。それは女の声だった。
『――空中から、対空砲の破壊だって? 任せな』
その航空機は、左右に胴を持った広いシルエットだった。双発に力を送り、動き出すのが見える。
『私の|P-38 ライトニング《相棒》は爆撃だって得意なんだ』
「……!?」
直後。その姿が一気に増えた。
何の前触れも無く、同じ双胴機が百以上。アドリア海上空に突如として現れたのだ。
●
香織はライトニングのシートの上で、余裕の表情だった。この作戦が、己にうってつけの作戦だと理解していたからだ。
全天を把握できるキャノピーからは、自分がユーベルコードで召喚した僚機らがよく見えた。そのどれもが、やはり自分と同じライトニングだ。数は約百四十機。既に皆、始動を終えている。
「さぁいくよ、僚機たち」
|散開《ブレイク》。己を含めた全機が、一糸乱れぬ動きで地上からの対空砲を回避した。
「――爆撃開始だ」
空を大きく使った動きは、順次下降へと移行していった。急降下だ。エンジンを回しながらも、しかし速度は求めず、ダイブブレーキを展開。
地上を視界に収めた全機は、先ほどの砲撃の源を認めると、その地点へ目がけてロケットランチャーを一斉に放った。弾けるような軽い音がコックピットの中でも聞こえ、白の噴煙を伴ったロケット弾が一発、また一発と空を走っていく。
数発でも、百を超える僚機と共に撃てば、それは圧倒的な数になる。そして、自分たちは緩むつもりはなかった。
全弾を、発射していく。
「……!」
上空から沿岸へ目がけて、白の噴煙が一気に降り注いだ。それらを空中で迎撃せんと、敵は光砲を放っていたが、千発以上の破壊の雨は、あらゆる方角から沿岸基地を襲っていく。
上空からの砲撃は一瞬のうちに連続着弾し、基地の各所で爆発と衝撃波が生じさせた。それらは連鎖していき、施設のあちこちで破壊や崩壊が起こっていく。
痛打は明らかだった。
眼下の基地は今の大規模な攻撃によって混乱していたが、半島沿岸に配置されたゾルダートグラードはかなりの数でもある。すぐに、別地域から報復の砲撃が放たれ、
「――!」
ユーベルコードで生み出した僚機たちに被弾し、そのうち何機かが撃墜されていった。しかし、それは自分にとっては想定の内だった。
重戦闘機の大群と言っていい自分たちだ。敵と同様、数なら負けていない。レジスタンスも含めれば、さらにだ。空を飛ぶこちらの数が多ければ多いほど、対空砲の狙いは甘くなる。現状においても、百を優に超える戦闘機がいまだ残っているのだ。
今も回避機動は取っているが、地上に近づけば近づくほど僚機は被弾し、撃墜の頻度も多くなる。自機の周囲で爆発が起これば、その衝撃波が大気を走って己の機体も揺らされる。視界の端に、見慣れたパーツが散っていった。緊張と焦燥が膨らむ状況だったが、全体の動きは依然として急降下を継続している。
やがて、その時がやって来た。
「――今だ!」
十分に地上へ接近したのだ。対空砲の正体がパワードスーツの兵士だということも、もはや視認出来ている。ライトニングに搭載されていた2000Ib爆弾の拘束を解放すれば、その白の敵兵に目がけて、速度の乗った一発が行った。
光砲では迎撃に間に合わないと判断したのか、敵がパワードスーツから放電を走らせた。
「くっ……!」
が、見えたのはそこまでだった。己は既に操縦桿を引き上げ、機体を上昇。視界は地上や海面から一転、空へと戻っていく。降下爆撃からの離脱時が、最も危険な瞬間なのだ。
身体に一気にかかるGに顔を歪めながら、地上からの光砲に反応。機体を傾けることで、追撃の一射を何とか躱した。
直後。地上から大きな爆発音が聞こえた。爆弾は多数のライトニングによって順次放たれたため、爆発音は一発を皮切りに、次々と連鎖したように聞こえた。
マニューバによって回る視界の中、仰ぎ見るようにして見れば、爆心地となった地点から爆炎と黒煙が上がり、その赤と黒のコントラストを彩るように、パワードスーツの白の破片が四方八方へ散っていく。
そのような光景が、沿岸のあちこちで確認できた。
「どうやら、作戦がうまくいったようだね」
ゾルダートグラードの対空砲が、破壊されていっている瞬間だった。
大成功
🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
好きな爆撃機発表黒髭が好きな爆撃機を発表しますぞ
|Ju87《スツーカ》
という訳で落下しながら機体を空中召喚!空中で乗り込んで勢いそのままに地上の奴らを急降下爆撃だァ!
終末の喇叭を鳴らしていけ!
レジスタンス共も爆撃好き?マジ?拙者も超オタクでござるよ!
爆撃機とか全部呼べるし超好き!
でもしょぼい複葉機じゃ荷が重いでござるよね!
なので拙者が先に機関砲と爆弾で対空砲になる耳部分からねんいりにころころする
UCで弾数気にしないでいいからバチクソに撃ちまくるでござるよ!爆撃ダイスキ!!
スッキリしたらレジスタンス共もめっちゃ爆撃しろよな!ビュッフェ形式でござるからお残し厳禁でござるよ!
支払いは相手の命でいいぞ
●
「――好きな爆撃機発表黒髭が好きな爆撃機を発表しますぞ」
一拍。
「|Ju87《スツーカ》」
次の瞬間、エドゥアルトはアドリア海上空へ転移していた。
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全天と、太陽光。耳の奥で渦巻く突風に、身体にかかる真下方向への重力。己にとって全て慣れ親しんだものだと、エドゥアルトは理解していた。それは自分がパイロットということもあるが、
「ケルベロス時代を思い出すでござるなあ……」
思い出す。あの時は皆ヘリっぽいので運ばれていた。さっきみたいに、話もそこそこに放り出されることなんて無かった。ヘリっぽいのに皆で乗って現場に向かっていた。人の温かみがあったでござる。
……人間の心も、シロッコになっちまったでござるか……。
口の中に飛び込んで来るサハラ砂漠からの熱く乾いた容赦の無い風は、アフリカ戦線を思い出す。常人の行く戦場ではござらん。あの時は敵ですらこんなに乾いてなかった。水着がどうのとか節分の豆がどうのとか、皆熱心で本物のビルシャナだった。硬派だったでござる。全部殺したでござる。出せるなら自分はよくパンジャンドラムとか出してた。
「こんな風になぁ!」
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レジスタンスは、上空でその一部始終を見た。突然現れた男のそばに、またもや巨大な姿が一気に生じたのだ。
そのシルエットは航空機で、全長にして十メートル以上。曲線と無骨さが同居したその金属製のフォルムは軍用機であり、その中でも爆撃機であると一見して解った。
その機体は、ゾルダートグラードの機体にどこか雰囲気が似ていた。そのため全員がにわかに沸き立ったが、謎の男は特にこちらを気にする様子もなく、空中を泳ぐようにしてコックピットへ乗り込むと、
『――もしもしレジスタンス!? 拙者拙者!拙者でござるけど!』
あちらから通信で一方的に話しかけてきた。こちらが反応するまでもなく、男は一方にまくし立てていく。
『レジスタンス共も爆撃好き? マジ? 拙者も超オタクでござるよ!
爆撃機とか全部呼べるし超好き!
でも、しょぼい複葉機じゃ荷が重いでござるよね!』
事実だろう。ゾルダートグラードの後背を突いたとしても、自分たちでは依然として不足であり、そしてあの男が"呼べる"というのも、やはり同様だ。
「なら――」
お前はどうするのだ、と問おうとしたが、それは無意味だと知った。
男が、機体のエンジンを始動させると、
「……!」
地上の沿岸基地に向け、落下するような軌道で降下していったからだ。
パワーダイブだ。
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爆撃機が戦場でそれを行えば、何を示すか。
「急降下爆撃ィ!!」
エドゥアルトはコックピットの中で、狂的に叫んだ。動力と重力加速度が合わさった速度の中では、キャノピー越しに見えるものは二種に大別される。
すなわち、一瞬で背後へと流れて行くものと、キャノピー中央に捉え続けているため、視界の中でただ大きさを増すだけのものだ。
光。
「イイイイイイ! セーーフ!」
それは二種のうち、後者だった。一瞬、見えたかと思えば、次の瞬間には視界のほとんどを埋め尽くさんと迫る。現状はそういった速度域なのだ。発光の前兆が見えた時には、もう既に回避機動をぶち込んでいなければならない。光砲に押された大気が主翼の下側を掠めていったのを、スツーカ全体が僅かに震えたことで知った。
もはや対空砲であるオブリビオンの姿がよく見えるほど、地上に近づいている。白の巨体はパワードスーツ姿で、慌てたような動きで退避しようとしているのが見えた。
そんな様子に己は、ああ、と笑みを深くさせながら、言う。
「そっちも聞こえてるんでござろう? この終末の喇叭の音が!!」
スツーカの特徴である地上を圧する音は、翼や爆弾に取り付けられたものにしろ、一つの意味を示す。
その意味通りのことが、たった今生じた。沿岸基地の一角が巨大な爆炎に包まれたのだ。護岸された大地が粉々に砕け散り、海へと落ちていく。
「次ぃ!」
そのような戦果を見届けるのもそこそこに、機体を回す。ユーベルコードで強化された機体は、本来であれば不可能な機敏さで、次のオブリビオンへ旋回を果たした。
距離が近づいていくこちらに対し、相手は速射狙いでスーツの耳部分を展開したが、こちらの機関砲の方が早い。太く重い音とともに放たれ、前方を突っ走って行った砲弾の群れが、パワードスーツの両耳を砕き、引きちぎっていった。
止まらない。そもそもが電脳魔術で召喚した機体だ。そのまま低空を飛行しながら、残弾を気にせずに機関砲や爆弾を撃ちまくり、次々とオブリビオンを粉砕していく。
「んんん! やっぱスッキリするでござるなぁ爆撃! ダイスキ! 拙者、爆撃ダイスキ!!」
そうしてあらかた攻撃し終えると、一旦上昇し、自分の戦果を上空から確認する。基地はあちこちが爆撃で抉られ、建材の破片や破壊されたパワードスーツが、大地や海面に散らばっていた。
それを満足げに見ながら、自分は通信機に声を張り上げる。
「レジスタンス共もめっちゃ爆撃しろよな! ビュッフェ形式でござるから、お残し厳禁でござるよ! 支払いは……」
一拍。
「相手の命でいいぞ」
『ハ! 望むところだな』
スピーカーから意気のある声が聞こえ、スツーカの周囲をレジスタンスの複葉機たちが降下していった。
勝敗を決定づけるため、敵を掃討していくのだ。
大成功
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