獣人世界大戦④~赫々たる狂気艦隊
●お久しぶりの、赤い果実
――獣人戦線。
他世界より現れたオブリビオンの『超大国』が支配権を争い続ける世界。
超大国の1つ、『ワルシャワ条約機構』の支配者が、かつて自分達に痛手を与えた『はじまりの猟兵』の手がかりを掴んだと言う。
その情報は他の超大国へも伝わり――そして世界は変わった。
「ワルシャワ条約機構への大規模な軍事侵略が各地で始まってしまった。と言うわけで、皆には、かの世界のサンクトペテルブルク沖の海上に行って貰いたい」
集まった猟兵達に、ルシル・フューラー(新宿魚苑の鮫魔王・f03676)は目的地を告げる。
サンクトペテルブルグには、超大国の1つ『クロックワーク・ヴィクトリア』の新生『狂気艦隊』が迫っている。
「この艦隊は強力な『UDCアースの邪神』の守護を受けていてね。しかも姿を見るだけで深刻な狂気を周囲に与える類だ」
邪神を撃破しない限りは艦隊を沈める事はできそうにない。
だが、常人が近づけば正気を失う。
現地の獣人に抗う術はないだろう。
――で、どんな邪神?
「ああ……うん。やっぱりそこ訊いて来るよね。そりゃ訊くよね。私が君達の立場でも訊くよ」
誰かの発した問いに、ルシルは珍しく歯切れの悪い反応を返す。
「またお前かと言うか、個人的には懐かしさすら感じてしまう邪神なんだよね……」
なんだろう。この反応。
「――トマトだ」
諦めたようにルシルが告げたのは、野菜の名前だった。
目にした者の正気度を奪うと云われるトマト型のUDC怪物が、いるのである。そう言えばいたね。
「しかも今回の、かなりデカい。空母二隻の甲板の上に載ってる」
誰だ、そんなにデカく育てたの。
「幸いと言うか、トマト型だから自発的には殆ど動かない。まあその代わり全身を硬質化してほぼ無敵になる能力持っているんだよね。どうもその辺が何か良い具合に応用されて、艦隊もほぼ無敵になってるっぽいんだよね」
的はデカいが闇雲に攻撃するだけだと、ちょっと苦労するかもしれない。
「あとは空腹感を与えて来たりもするから、行く前にご飯食べていった方が良いかな」
戦争のアドバイスです。これ。
「それじゃあトマト狩り、よろしく」
●現地映像
サンクトペテルブルクの北、まだ沿岸も遠い海上。
そこを進む狂気艦隊。
その1つは、艦と言う艦が赤くなっていた。それはそれは美味しそうな、サラダに入っててもおかしくなさそうな瑞々しい赤色になっていた。
そしてその中心には――巨大なトマトがいた。
泰月
泰月(たいげつ)です。
魚類じゃないのかよ、と思った方。怒らないからトマト|狩り《食べ》にいらっしゃい?
と言うわけで戦争です。
戦場は【獣人世界大戦④】、戦線は【第一戦線】となります。
空母に載ってるトマト邪神を海上で倒すお仕事です。
マップの説明だと『艦隊に潜む邪神』ってなってますけど、こいつ潜んでねえですな?
と言うわけで海戦です。戦場は海上です。まあもう、皆、飛んだり水に浮かんだりは出来るでしょう?
●プレイングボーナス
邪神のもたらす狂気に耐えて戦う。
プレイング受付は5/5(日)8:31~とさせて頂きます。
GWをほぼ含めず申し訳ないですが、泰月のGWの休みがほとんど無い為、第一戦線の締切に間に合う範囲で設定させて頂きました。
オバロは期間前でもOKですが、今回は戦線の締切を優先しますので、オバロでも採用確約は無いです。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 ボス戦
『正気を奪う赤い果実』
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POW : 硬化する赤い果実
全身を【硬質の物質】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD : 振動する赤い果実
【高速で振動することで衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 空腹を満たす赤い果実
【空腹】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【無数のトマトの塊】から、高命中力の【トマト弾】を飛ばす。
イラスト:井渡
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠赤城・傀」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
山吹・慧
そういえば昔トマトが襲ってくるホラー映画が
あったと聞きますが……。
トマトは嫌いではありませんが、これだけ大きいと
ちょっと気持ち悪いですね。
早いとこやっつけましょう。
海上戦にはエンジェリックウイングで飛行して対応。
狂気には目を閉じて【気功法】で敵の気を感じ取り、
戦闘のみに【集中力】を向ける事で対抗します。
敵の放つ衝撃波は【オーラ防御】を展開した上で、
こちらも【衝撃波】を放って【吹き飛ばし】ます。
敵の攻撃を凌いだならば【セカンド・イグニッション】を発動。
【浄化】の力を込めたクラッシュ49による【神聖攻撃】の
【乱れ撃ち】を放ちましょう。
アドリブ等歓迎です。
イコル・アダマンティウム
「ん、食べてく。」
お菓子とか可能な限り、食べてからいく、ね
<大食い><エネルギー充填>
僕は愛機、キャバリアで出撃する、よ
【水中奇襲】
衝撃波も狂気も厄介
余り影響を受けたくない
だから
「奇襲する。」
海底をキャバリアで歩き、艦隊の下へ
着いたら、海底を蹴ってジャンプ
スラスターも併用し一気に接敵する、ね
<ジャンプ><推力移動><水中機動>
【使用UC:螺旋爆散掌】
硬い敵
だから、内部を破壊する
「せい。」
水中から跳び出したら、勢いよく水面を蹴って足場に
<功夫><水上歩行><足場習熟>
水面を蹴った反発力をキャバリアの全身で活かしつつ
[螺旋爆散掌]を使う、ね
掌から覇気と衝撃破を内部に送り込む、よ
「ジュースに、なれ」
夜久・灯火
【黒猫】
うわぁ…本当に巨大なトマトだ。
トマトは好きだけど、あれは何だか狂気を感じるなぁ…。
とりあえず、目の前の光景は狂気耐性で耐えて、落ち着こう。
有栖ちゃん達もよろしくね。
空腹対策に予め料理して用意したBLTサンドもあるから、良ければどうぞ。
今回はスカイ・ホエールに乗って空から出撃するよ。
飛んでくるトマトは、船体に装備したガトリング砲台の弾幕で破壊して対処。
落としきれないなら、シールドドローンを展開して、結界術で防御しよう。
硬質化してるとも聞いたし、UCで炎属性のエレメンタルミサイルを召喚して攻撃。
固くなっても炎の熱までは防げないだろうし、船と一緒に焼きトマトにしてあげるよ。
結城・有栖
【黒猫】
…何と言うか、凄い光景ですね。
「まさに狂気ダネ。…食べたら美味しいのカナ?」
お腹を空かせたら、トマトが飛んできますよ。
灯火さんもよろしくです。BLTサンドも頂きますね。
BLTサンドを貰ったら、召喚したトラウムに乗り込み、シュトゥルムで飛翔して出撃です。
【狂気耐性】で狂気を防ぎつつ、飛んでくるトマトは【野生の勘で見切り】、シュトゥルムの風の【オーラ防御】で切り裂いて吹き飛ばします。
今回は灯火さんのUCに合わせましょうか。
UCで実体化する幻影から、影の触手を召喚し、トマトに巻き付けて【捕縛】です。
幻影の効果でトマトの力を奪って弱体化させ、灯火さんの攻撃を通りやすします。
栗花落・澪
念のため事前に軽くご飯も食べて行きつつ
戦闘中も口の中に飴を含んでおきます
お腹が空いたけどすぐには食べれないって時なんかは、意外と役に立つんだよね
あとは傘を持ち込み、自分ごと傘にオーラ防御を纏わせ
トマト弾に対する盾として利用
自力で避けれるものは避けるけどね、空中での機動力には自信あるし
傘なら汚れても払い落とせるし?
トマト、勿体無いけど
翼の空中戦で挑みつつ指定UC
高速詠唱、多重詠唱で水魔法からの氷魔法の連携範囲攻撃
艦隊自体がほぼ無敵くらい強化されてるなら
その艦隊ごと凍結させてまず動作を奪う目的
あぁ、もし魔力に余裕があれば更に氷魔法で生成した氷塊を乗せまくって
いっそ重さで沈没狙いもいける?
ガーネット・グレイローズ
…何なんだい、この艦は。まるでトマト菜園じゃないか。
いや、勿論ただのトマトじゃないことは分かってる。
UDC怪物なら、やっつけるしかないね。
ガーネット商会所有の「シルバーホエール号」に乗って出撃。
ユーベルコードで船乗りを呼び出し、《船上戦》だ!
空腹対策に、あらかじめ船に積んであった水や食料を皆で口にしながら
戦うよ。
ブレイドウイングによる《ジャストガード》と《シャドウパリィ》で
トマト弾を捌きつつ、スラッシュストリングを《念動力》で振るって反撃。
糸を通して《斬撃波》を飛ばし、輪切りにしてやる!
…戦いには勝ったけど、この大量のスライストマトはどうしよう。
取り敢えずマヨネーズでもつけて、みんなで食べる?
朱酉・逢真
【逢魔ヶ刻】
心情)おう旦那、トマトだぜ。ヤ・食べるな食べるな邪神だぞアレ。何ンか腹に詰めてきな、俺ァモノ食えねェし、食欲自体持ってねェからイイとして。アレ食ったら腹パンして吐かせにゃならん。お前さんに腹パンしたら俺の腕が折れるからな。アレにも畑になってた時期があったンかねェ…。
行動)眷属《鳥》からでかい鳥を2羽出して、片方は俺が・もう片方は旦那が乗る。俺ァヒトじゃないからね、空腹は感じないよ。《虫》の群れを喚ンで、トマトにざんざと降らせよう。触れた場所からドンドンと、病毒を与えて腐らせたり・湿潤を奪ってカサカサにしたりしてやるよォ。
深山・鴇
【逢魔ヶ刻】
トマト?食べるのかい?違う?
食べたら不味いトマトか…邪神ね、なるほど
行く前に腹ごしらえした方がいい?じゃあ丁度あった焼き鳥を食べていくとしよう
しっかり食べたからトマトの誘惑には負けないと思うよ
俺は飛んだり浮かんだりできないので逢真君の鳥の背を借りよう
うわ、本当にデカいトマトじゃないか
邪神にも色々いるもんだな
なるほど、カサカサに…逢真君、ドライトマトって知ってるかい?
いや食べない、食べないとも、腹パンされたくはないからね!
さて、それじゃ逢真君の力を借りるとしようか
(UC狂爛使用)
食べ物だというなら、腐らせてしまうのが一番じゃないかい?
腐ったトマトなぞ、誰も食べたくはないだろうからね
木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と
大丈夫、朝ごはんは抜いてきた
獲物は桜色フライパンに矛先3本の魚突用モリ(灯る陽光)
UC発動
白いエプロンにコック帽
背中にはコンロを背負い
今日のわたしはD・M・S(ドコカラ・ミテモ・シェフ)
まつりんと息を合わせ赤い悪魔に向かいぎゅんと飛翔
低空飛行で海面波立て、跳ねる魚もゲットしてくね
トマト弾はフライパンで受け
モリで本体こ削ぎ取ろう
大きな欠片は絞りトマトソースに
持参のスパゲティ茹でてフライパンで炒めナポリタン
魚介入れてトマト入り魚介パスタ
ご飯と炒めて卵で包めばオムライス
トマトジュースにレモンを添えて
ふう(満足
さ、まつりん
冷めないうちにいただこう
トマト、手強かったね
木元・祭莉
アンちゃん(f16565)、でっかいトマトだ!
コレ見ると、正気を失うんだって。
んー、このままだと扱いにくいし、ダイスにするのがいいかな?
煮込むには時間が足りないから……すり下ろすか搾る?
まいっか、獲れたモノに合わそう♪
低空飛行で、魚を探すよ。
えーと、バルト海のお魚……結構なんでもありだ!
このサンマみたいなの、どう?(手掴み)
手早く開いて、塩振って。
コダちゃんにもらったお野菜も捕まえておいたよー♪(アイテム)
トマト弾は綾帯で受け止め、フライパンに、パス!
そろそろいいかな?
召喚された塊を、メダルでばりあーして。
へへ。美味しそうでしょ?
喰らえ、たまこ弾!
ルシル兄ちゃんにお土産持って帰らなきゃだね!
ユディト・イェシュア
赤くて瑞々しいトマト…
恐ろしく巨大ですし
確かにある意味狂気ですね
とりあえずお腹が減らないようにしっかりご飯を食べてきました
あとは狂気に耐えるため
義姉が作ってくれた美味しいトマト料理を頭に浮かべましょう
ミネストローネにガスパチョ
カプレーゼやトマトで作る無水カレー
トマトは食べ物
美味しく料理するだけ
…よし、大丈夫そうです
海上での戦いなので
足場になる船のようなものを用意出来ればいいのですが
このトマトを撃破しなければ艦隊を沈めることができないようですし
UCで焼きトマトにしてしまいましょう
チーズをかけたりしたら美味しいですよね
…大丈夫です
お腹は減ってないです
敵の攻撃にも注意を払いながら
仲間と共に攻撃します
●トマトと猟兵
獣人戦線、サンクトペテルブルク沖合。
冷たい北の海の一角が、その日――赫々と赤く染まっていた。
夕陽に照らされた海を赤い海と称する事もあるが、そう言う事ではない。海面はおろか周囲の空すらも赤くなっている。
その中心にいるのは、速度を合わせてピタッと並んだ二隻の空母の上に鎮座せし巨大な赤い果実。
「……トマト?」
それを空から見下ろす深山・鴇(黒花鳥・f22925)の口から、何処か気の抜けたような呟きが零れた。
あまりにトマトが巨大で驚いたのか、鴇にしては胡散臭くない反応だ。
「おう旦那、トマトだぜ」
その様子に珍しいものを見れたと、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)が笑みを浮かべる。
そんな2人の足元では、大きな翼がそれぞれ広がっていた。逢真の眷族の『鳥』達だ。
海上の敵に、空からアプローチ。
それを選んだ猟兵は2人だけではない。
「……何この、空気までトマト」
「トマトは嫌いではありませんが、これだけ大きい上に光ってるとちょっと気持ち悪いですね」
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は自前の翼で、山吹・慧(人間の玄武拳士・f35371)は聖なる力を秘めた光の翼を広げて。
そんな4人のさらに上空には、大きなクジラが空に浮かんでいた。
「うわぁ……本当に巨大なトマトだ」
クジラ型の飛空艇『スカイ・ホエール』の中で、操縦桿を握る夜久・灯火(キマイラの電脳魔術士・f04331)が溜息を零す。
「……何と言うか、凄い光景ですね」
同乗している結城・有栖(狼の旅人・f34711)も、思わず乾いた笑いを零している。
一方、海の上からは、大きな帆船がトマト艦隊へ向けて進んでいた。
「……何なんだい、あの母艦は。まるでトマト菜園じゃないか」
商船『シルバーホエール号』の船首で、ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)が眉を顰めている。
空からのアングルよりも、正面からの方がトマト感が強い光景であろう。
「アンちゃん、でっかいトマトだ!」
「何人前かな……」
その巨大さに、木元・祭莉(これはきっとぷち反抗期・f16554)は声を弾ませ、木元・杏(ほんのり漏れ出る食欲系殺気・f16565)がじゅるりと緩みそうになった口元を引き締める。
邪神だろうが食えそうなものに対する反応がぶれない、木元兄妹。
「えっと、お頭?」
「あれ、食えるんっすか?」
その反応を真に受けたのは、ガーネットによって召喚された『ガーネット商会』の商会員たる船乗り達である。
「そんなわけ……」
「確かに赤くて瑞々しいトマトそのもの……ですね」
――そんなわけがない。
そう言い切れないでいるガーネットの様子に、船に便乗させて貰ったユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)が、彼らの反応もわかると苦笑する。そう思わせるくらいには、トマトなのだ。
そしてそのトマト感に、ガーネットは既視感を覚えずにはいられなかった。
トマト邪神の巨大さやら瑞々しさに、猟兵達が様々な反応を示す。
『来たか……』
その視線や気配、困惑や食欲を、トマト邪神は感じ取っていた。
『硬質化した我が外皮、破れるものなら破ってみるがいい!』
そしてトマトが、赫々とした輝きを更に強める。
「わかった」
同時に空母のすぐ横で海が盛り上がり、何かが飛び出して来た。
●海中より火蓋を切る一撃を~イコル
トマト邪神が放つ光は、何処までも伸びていた。
空と海の上のみならず、海の中深くにまでも。
|愛機《キャバリア》【T.A.:L.ONE】の中、海底で息を潜めていたイコル・アダマンティウム(ノーバレッツ・f30109)の元にまで。
「む……お菓子とか沢山、食べて来たのに」
僅かに、しかし確かに感じた空腹の先触れにイコルは思わずお腹をさする。
トマト邪神が放つ狂気は、この深度でも全く影響を受けないとはいかないようだ。
「まだ影響は軽微。でも時間はかけたくない」
ならばイコルが打つ手は一つ。
意気を潜める時間は終わりだ。
「奇襲する」
短く告げて、イコルは|愛機《キャバリア》の脚で海底を蹴った。同時に脚部スラスターも展開し、海面まで一気に浮上する。
生身ならば自殺行為に等しい深度からの急浮上も、猟兵がキャバリアに乗って行えばノーリスクで可能だ。
「見えた」
『なに!?』
海底からの奇襲。
イコルの取った手は、見事にトマト邪神の虚を突くことに成功した。
トマト邪神の驚きを感じながら、イコルは更に海面を蹴ってトマト邪神と同じ高さまで跳び上がる。
「せい」
トン、とキャバリアの掌がトマト邪神に当てられる。
『な、なんだ驚かせおって。そんな打撃でこの外皮が――』
「うるさい」
トマト邪神の声とも思念ともつかぬものを、イコルが遮る。
【T.A.:L.ONE】は人造神経を操縦者と直結させ、操縦者の生命エネルギーを燃料とする機関も持ち合わせているキャバリアだ。海面を蹴ってみせたように、イコルは己の身体の様に機体を操れる。機体の掌に、気を集める事だって。
螺旋爆散掌。
「硬いなら、内側を破壊する」
イコルは【T.A.:L.ONE】の掌に集めた気を渦巻かせ、トマト邪神の中へ一気に注ぎ込んだ。
それはトマト邪神の中で螺旋のねじれとなって、荒れ狂う。
『うごごごっ!?』
内側で渦巻く衝撃に、硬質化していたトマト邪神の外皮がひび割れていく。
「ジュースに、なれ」
内から噴き出したトマトの果汁が、イコルの|愛機《キャバリア》を返り血の様に赤く染め上げた。
●逢魔ヶ刻~逢真、鴇
『ま、まずい!』
硬質化してようがしてまいが、トマトが単独で動ける筈もない。
その上で硬質化を破られると言うのは、トマトいきなりピンチだった。
『ええい、貴様らにはトマトを食わせてやる!』
逃げる事も出来ないトマト邪神に出来るのは全身を震わせる衝撃波か、赤い輝きを今まで以上に強めて猟兵達に空腹感を与えるか。
選んだのは、後者であった。
「トマト、俺達が食べるのかい?」
空まで届くトマトの声だか思念だかに、鳥の上で鴇が首を傾げていた。
「ヤ、食べるな食べるな、邪神だぞアレ。食っても不味ィに決まってる」
逢真は肩を竦めながら返す。
「食べたら不味いトマトか……邪神ね、なるほど。邪神にも色々いるもんだな」
「アレ食いてェなんて思ったら、トマト飛んでくるみてェだぞ」
「ああ、だから腹ごしらえして来いと」
トマト色の空の上で、鴇は軽口を交わしながら逢真に小さな笑みを向ける。
「それなら大丈夫さ。焼き鳥を食べて来たからね。トマトの誘惑には負けないと思うよ」
「そいつァ重畳」
逢真が笑みを返せば、鴇がふと真顔になった。
「それより、逢真君は良いのかい? 何も食べてないだろう?」
逢真がヒトでないのは、食事を必要としない「かみさま」であることは鴇も知っている。
それでも――邪神が相手なのだ。
敵も「かみ」なのだ。
「ああ――俺ァモノ食えねェからな」
ヒトではない身は、空腹など感じない――筈だった。
「食欲自体持ってねェからイイ……と思ってたんだけどな」
逢真が今感じつつあるそれは、ヒトが感じる空腹とは似て非なるものなのだろう。
敢えて言語化するのであれば――渇き、が最も近しいか。
「邪神と呼ばれんのは伊達じゃねェってわけか――アァ、面倒くせェ」
やはりオブリビオンは敵だ。
若干の苛立ちを露わにしながら、煙管を加えて逢真は深く息を吸い込んで。
「――お行き」
短く告げるとともに、煙を吐いた。
――晦冥の呼声。
漂い広がる煙は逢真の病毒に戯ぶ神としての権能。
煙に触れたものに病毒、冷寒、湿潤、凶荒を奪うも
更に召喚した《虫》の群れを煙に突っ込ませれば、トマトに病毒、冷寒、湿潤、凶荒を奪うも与えるも意のままに。
「湿潤を奪ってカサカサにしてやるよォ」
「なるほど、カサカサに……」
トマトへ雨と降らせて嗤う逢真の横で、別の鳥の上が興味深そうに呟いた。
「逢真君、ドライトマトって知ってるかい?」
ドライトマト。その名の通り、乾燥させたトマトだ。カラカラになるまで乾燥させたトマトは、生よりも旨味が凝縮されていると言う。トマトの種類によっては生だと酸味がキツイ為、ドライトマトの方が市場に出回っているものもあるのだとか。
「何度も言うが――食うなよ?」
トマトを食材と見てそうな鴇に、逢真がジト目で念を押す。
「いや食べない、食べないとも!」
訝しむような逢真の視線に、鴇は少し慌てたようにそれを否定する。
「本当だろうな? アレ食ったら腹パンして吐かせにゃならん。お前さんに腹パンしたら俺の腕が折れるからな」
「腹パンされたくはないね!」
正気を疑うような逢真の視線を笑って受け流し、鴇は鳥の上で立ち上がる。
「さて、それじゃ逢真君の力を借りるとしようか」
――狂爛。
鴇が振り下ろした得物が風を裂き、衝撃波となってトマトへ向かって飛んで行く。
『トマトで相殺してくれる!』
それに気づいたトマト邪神がトマト砲弾を放つが――。
『!?』
負けたのはトマト砲弾の方だった。
衝撃波とぶつかった瞬間、纏っていた猛毒によってトマト砲弾が腐って落ちる。衝撃波は止まらずに、トマト邪神に撃ち込まれる。
衝撃が外皮のヒビを広げ――そこからグズグズと、赤い皮を黒く腐らせていく。
「――うちのかみさまの加護はちょっとばかり刺激的だろう」
ましてや今日は、その猛毒を与えた「かみさま」がすぐそこにいるのだ。
いつも以上に、毒々しい。
「食べ物だというなら、腐らせてしまうのが一番じゃないかい? 腐ったトマトなぞ、誰も食べたくはないだろうからね」
「まァそうだろうな」
猛毒の衝撃波と、病毒の煙雨。
鴇と逢真の容赦のない攻撃が、トマト邪神の瑞々しさを奪っていき――硬質化していた外皮が崩れ落ちる。
その欠片は幾つもの小さな――カボチャくらいはありそうだがトマト邪神に比べれば小さい――トマトとなって、海に落ちていった。
その全てが壊れ、或いは腐っていた。
●魚とトマトは良く合う~杏、祭莉
「まつりん、大変。トマトが小さくなった。早くしないと、トマトが減っちゃう」
「うんそうだね。大丈夫? アレを見るとお腹が空いて、正気を失うんだって」
硬質化していた外皮を砕かれたことで、トマト邪神が一回り小さくなった。
それを見て肩を揺さぶって来る杏に、祭莉は大丈夫かと声をかける。
「大丈夫」
杏は祭莉の肩を掴んだまま、こくりと頷いて。
「朝ごはんは抜いてきた」
「アンちゃんが……!?」
「杏が!?」
その一言は祭莉のみならず、船員に指示を出していたガーネットも驚かせるに充分だった。
とは言え、それも1つの手だ。
満腹の度合いと言うものを|数値《パラメーター》化できたとして、例えばそれが30%を切ったら空腹を感じるものと仮定しよう。100%の状態でこの戦場に臨んだ者には、70%の余裕がある。
対して、最初から30%を切っていればどうなるのか。
いくら0に近づいた所で、その空腹感はトマト邪神が与えたものではない。本人が元々抱えていた空腹が増しただけ。
それでは、トマト邪神が空腹感を頼りにトマト砲弾を放つ対象にする事はできないだろう。
ただ一つの問題は――その空腹感に耐え続けなければいけないと言うわけで。
「アンちゃん、大丈夫?」
「大丈夫。なぜならわたしはクールな女」
きゅるるるーくきゅるぅぅぅー。
案ずる祭莉に、口とお腹で別々の答えを返した杏の全身が、光に包まれる。
――どれすあっぷ・CBA。
程なく光が消えた後、杏の姿は白いエプロンにコック帽をかぶりコンロを背負った姿に変わっていた。
「今日のわたしはD・M・S」
「DMS?」
「ドコカラ・ミテモ・シェフ」
なにそれ、と訊ねる祭莉に杏は桜色に輝くフライパンと魚用の三叉銛を両手にくるりと回ってみせた。
白いエプロンの裾がふわりと舞い上がる。
よし、くーるびゅーてぃーっぽさの演出おわり!
「さ、いこうまつりん」
「おっけー」
杏の空腹感がこのままだとマイナスになりかねない。
いそいそと飛びたった杏に続いて、祭莉も冷たい海へ飛び出した。
意気揚々と飛び出した木元兄妹は、巨大トマトに――向かっていなかった。
「んー、このままだと扱いにくいし、ダイスにするのがいいかな? 煮込むには時間が足りないから……すり下ろすか搾る?」
祭莉は視線こそトマト邪神に向いているが、海面すれすれを飛んでいる。
「まいっか、獲れたモノに合わそう♪」
言うが早いか、祭莉は海の中にざぶんッと頭から飛び込んだ。
「プハァッ! アンちゃん! このサンマみたいなの、どう?」
しばし後、顔を出した祭莉の手には、シュッと細長く鼻先が尖った魚が握られていた。流石に手掴みが慣れている。
「食べよう。食べられない魚は無いって言ってた」
「じゃあ開いておくねー」
頷く杏に返して、祭莉は海上に浮かび上がるとそのまま魚を捌いて腸を取って――。
「野菜は鮮度が命ィィィィッ!」
そんな祭莉の目の前を、何かやたらとイキの良いキャベツが走っていく。
「あ、やっぱり逃げ出したか。コダちゃんの野菜」
何で食べようとしたら逃げ出す野菜なんて備蓄してるんでしょう、この子。
一方の杏は、くーるびゅーてぃーの飛翔速度でトマト邪神の周りを飛び回っていた。
「わたしとまつりんの分、貰うから」
銛をぐるぐる振り回し、グサグサ、ザクザクと巨大トマトを削ぎ取っていく。
「もっと大きな欠片も欲しいな」
硬質化が砕かれた今が、収穫のチャンスだ。
『欲しいな、じゃねぇえぇぇぇ!!』
「ありがとう」
反撃のトマト弾は、しかし杏のフライパンに受け止られめた。
「アンちゃん、パス!」
綾帯で受け止め、杏のフライパンに放り投げる。
この2人、食材にする気満々だ。
「これだけあれば充分かな。まつりん。お魚は?」
「はい、捌いといたよ。あとコダちゃんの野菜も捕まえた」
「ん。じゃあパスタ茹でる」
トマト邪神の元を離れた杏は、祭莉から捌いた魚と活きの良い(?)キャベツを受け取ると、背負ったコンロを降ろして火を付ける。
何か調理始まったけど、まだまだ戦闘中――!!!!!
『貴様ら……!』
トマトも何か不満げに、トマト砲弾を飛ばして来る。
調理に忙しい杏に変わって、祭莉がそれを受け止めた。
にわとりっぽいものが描かれた白と銀のメダルに、トマト砲弾が吸い込まれて消えていく。
「喰らえ、たまこ弾!」
『うぼぁっ!?』
そして、祭莉が手にしたメダルから、受け止めたトマト砲弾と全く同じトマトが撃ち出された。
●海の男たちとトマトの宴~ガーネット
ぐぅぅぅぅっ!
ぐごごごごっ!
ぐるぎゅぐるぎゅ~!
シルバーホエール号のそこかしこで、船員達の腹の虫が鳴いている。
「お頭、腹ぁ減りましたぜ!」
「あのトマトの周りにいると、腹が減って来るんだよ!」
空腹を訴える船員達に、ガーネットも軽い空腹を抱えながら声を上げる。
「で、腹が減ったやつにはトマトが飛んでくるからね! こんな風――に!」
そこに飛んできたトマト砲弾を、ガーネットは振り向きもせずにマントの中から放った|液体金属の翼《ブレイドウイング》で遮って、海へと弾き飛ばした。
「だから積み荷の食糧を食べとけって言ったじゃないか」
敵が空腹を与えて来るのはわかっていた。だからガーネットも対策は取っていたのだ。
しかし、如何に|海洋世界《グリードオーシャン》の船乗りと言えど、食べるのと船を動かすのを両立するのは難しい。あらかじめ食べたのは少し前の事。その分では、そろそろ持たない者も出て来るのも仕方がない事か。
「かくなる上は――アレを解禁するしかないかねぇ」
「良いんですかい?」
ガーネットが呟いた『アレ』を何か察して、近くの船員がニヤリと笑みを浮かべる。
「ああ。但し飲み過ぎんじゃないよ!」
「ラジャー! よぉし、酒の許しが出たぞぉぉぉ!」
――おぉぉぉぉっ!
ガーネットの判断に、船員達のやる気が俄然アップする。
これでまだしばらくは持つだろう。
『二日酔い対策にトマト如何かな!』
そこにトマト邪神が新たなトマトを飛ばして来る。
「要らないよ!」
甲板を蹴って跳んだガーネットは、空中で|液体金属の翼《ブレイドウイング》を広げ、トマト砲弾を再び弾き飛ばす。
「輪切りにしてやる!」
次々飛んでくるトマト弾を捌きながら、ガーネットは|戦闘用ブレードワイヤー《スラッシュストリング》を念動力で伸ばして振るい、糸から放つ斬撃を巨大トマトに浴びせていく。
「また船の上貸して!」
そこに、祭莉がまた船の上に飛び乗って来た。
「ふぅ」
少し遅れて、杏も甲板に降り立つ。
やり遂げたシェフの顔である。
「さ、まつりん。冷めないうちにいただこう。ガーネットも、船員の皆さんもどうぞ?」
ナポリタンをベースに魚介と追いトマトをしたトマト入り魚介パスタ。まさしくトマトケチャップで作ったチキンライスを朝獲れ卵で包んでオムライス。トマトケチャップは、トマトと肉をキャベツで包んだロールトマキャベのソースにリメイク。さらにトマトジュースには、レモンを添えて。
「良くもまあ、この短時間でこれだけ作ったもんだ」
ガーネットが感心するほどの数のトマト尽くしの料理が、シルバーホエール号の甲板に次々と並べられていった。
●探偵は見ていた
そんなシルバーホエール号の、上空。
「なんか……あそこ食べてない? トマト」
「なんで食えんだ、アレ……」
鳥の上からその様子を見ていた鴇と逢真が、思わず顔を見合わせていた。
●浄化の旋撃~慧
くぅ~と、慧の意に反して腹の虫が鳴り出した。
海の上では、トマト邪神の放つ光から身を隠す場所もない。まだ耐えられる程度だが、慧の中にじわじわと空腹感が溜まっていた。
「……」
それを振り払おうと、慧は目を閉じる。
呼吸を意識し、気を巡らせて周囲の気を感じ取ろうとする。
敵の気を感じ取る事で、空腹感を遠ざけて戦闘に意識を集中させようと言うのだ。
けれどその空腹感は、敵のユーベルコードにより与えられたものだ。一度感じてしまえば、遠ざけるのは容易な事ではない。
それだけの時間を、敵が与えてくれる筈もなかった。
(「忘れろ……忘れ――っ!?」)
空腹感を遠ざける事に集中していた慧の身体が、衝撃で吹っ飛ばされた。
「ちっ!」
全身を震わせ放たれた、トマト邪神の衝撃波。
オーラでの咄嗟の防御が間に合ったが、戦闘に集中する為とは言え、戦闘中に目を閉じるのは好手とは言えないか。
「やってくれるじゃねぇかよ!」
普段は抑えている面を覗かせ、慧は空を蹴る。
「起動せよ、詠唱兵器! 更なる力を見せよッ!」
慧が横に伸ばした腕の先、ドリルガントレット『クラッシュ49』のドリルが勢い良く回り出した。
――セカンド・イグニッション。
回転するドリルに、浄化の力を込めていく。
神聖なる輝きが、渦を巻く。
「おめぇが邪神の類ってんなら――これはさぞ効くんじゃないですかね?」
昂りを抑えいつもの口調に戻しながら、慧は間合いの遥か外で『クラッシュ49』を叩きつける様に振るう。輝き渦巻く気弾が、立て続けにトマトを穿ち、硬くない外皮をへこませ削り取っていった。
●銀風奔る~ユディト
空腹を与える赤い光は、シルバーホエール号から小舟で離れたユディトにも浴びせられていた。
「しっかりご飯を食べて来たのに、心なしかお腹が減って来たような……」
まだ空腹、と言う程でもない、という程度で済んでいるが、それもいつまでもつか。
戦いが長引けばどうなるか、わからない。
「その前に焼きトマトにしてやりましょう」
小舟の上で、ユディトは愛用の銀の戦棍を構える。
「俺の思いは、夜明けを齎す光と共に」
払暁の戦棍が、煌々と眩い程の輝きを放ち出す。
「ふっ!」
そのままユディトが戦棍を振るえば、陽光の如く輝く銀色の風が放たれる。
――暁光の希望。
ドォンッと響く爆発音。
銀風が当たったトマトの表皮が、燃えていた。
「……焼けた匂いもトマトなんですね。チーズをかけたりしたら美味しそう……」
焼きトマトの匂いが、辺り一帯に広がる。
降って来るその匂いが、ユディトにトマト料理を連想させた。
被弾すらも空腹感を与えるスパイスとすると言うのか。
このトマト、ただで焼かれる気はなさそうだ。
何とか耐えないといけない。
「……無水トマトカレー、ミネストローネ、ガスパチョ、カプレーゼ……」
ユディトの口から、小声で様々なトマト料理が飛び出していく。
義姉の創る美味しいトマト料理を思い浮かべる事で、空腹感と言う狂気に対抗しようと言うのだ。
「トマトは食べ物。美味しく調理するだけ……よし」
大丈夫? 逆にお腹空かない?
「心なしか飛んでくるトマトが増えてる気がしないでもないですが、この程度なら!」
飛んでくるトマト砲弾を銀風で散らしながら、ユディトは次々とトマト邪神に爆ぜる銀風を浴びせていく。
●影と炎~灯火、有栖
空腹と言う狂気を与える、トマトの赤い輝き。
それは灯火が空で駆る『スカイ・ホエール』の内部にすら、届いていた。
「トマトは好きだけど、これは何だか狂気を感じるなぁ……」
『まさに狂気、ダネ』
少しずつ空腹が増しているのを感じた灯火の呟きに、有栖の中のオオカミさんが同意するように返す。
「でもまだ大丈夫です」
「うん、BLTサンドが効いてるね」
「美味しかったです」
空腹対策に、と灯火が作って来たサンドウィッチを2人で食べていなければ、今頃はもっと空腹を感じていただろう。
ところででBLTサンドって、大抵トマト入ってないですかね。Tついてるし。
さておき、直前に食べたのは良かった。
「それでも――いつまで耐えられるかな?」
「あまり長くはなさそうですね」
狂気耐性だけでは長くはもちそうにない――そう感じた灯火と有栖は、どちらからともなく顔を見合わせる。灯火も有栖も、狂気耐性を持ち合わせているとは言え、そこまで高くはないのだ。
そこに響く、警告音。
「こっちに来るかぁ……」
トマト砲弾の飛来を告げる音に、灯火は慌てずにスカイ・ホエール搭載のガトリング砲台を操り、弾幕で撃ち落とした。
まだ怖い程の攻撃ではない。だが、既に空腹を与えたと、トマト邪神に認識されていると言う事だ。
「トラウムで出ますね!」
言うが早いか、有栖はスカイ・ホエールの外に飛び出すと、空中で魔女型キャバリア、トラウムを召喚して乗り込む。
そこに早速飛んでくる、トマト砲弾。
『……食べたら美味しいのカナ?』
「試しませんよ?」
オオカミさんの声に返しながら、有栖はトラウムに搭載した『シュトゥルムシステム』を起動。風を操る事で受け流し、間に合わない時は機体を急旋回させてやり過ごす。
「――幻影乱舞」
そうしてトマト砲弾が止んだタイミングで、有栖はトラウムに杖を掲げさせた。
想像具現――幻影乱舞。
トラウムの持つ、操縦者の想像力を読み取り具現化する能力によって実体化されたのは――巨大な影。
それを有栖がトマト邪神に巻き付ければ、影はトマトの力を奪っていく。
『ち、力が吸われていくだと……!』
トマト邪神が気づいた時には、もう遅い。
「灯火さん、今です」
「オッケ。ミサイルパーティの始まりだよー!」
有栖の合図に応えて、灯火はスカイ・ホエールの両翼に備えた2つの大型ミサイルを撃ち出した。ミサイルは少し進んだ所で自ら割れて――中から大量の小型ミサイル群が飛び出した。
――エレメンタルミサイル。
「船と一緒に焼きトマトにしてあげるよ」
白い幾何学模様を空中に残し、4桁にも上る炎の属性を付与されたミサイルが四方八方からトマト邪神に殺到する。たとえトマト邪神が動いたとしても、何処までも追い続ける。その性能が発揮されることはないだろうけれど。
上からは、灯火の炎のミサイル。下からは、爆発するユディトの銀風。
有栖の影で力を奪われたトマトが、上下から炎に包まれる。
――海の上に、ピザのような良い匂いが漂い始めた。
●氷のプリンセスつゆりん~澪
(「軽く食べて来たけど……飴も持ってきといて、良かった」)
念のためにと持参していた飴玉を、澪は口の中で転がす。
たかが飴1つ――とは言え、何か口に入れるだけでも違うものだ。
(「お腹が空いたけどすぐには食べれないって時なんかは、意外と役に立つんだよね」)
舌の上で飴を転がしながら、澪は傘を開く。
飴で誤魔化したと言えど、空腹感を与えられてしまったのは確かだ。
トマト邪神が見逃してくれるとは思えない。
「ほら来た」
砲弾代わりに飛んできたトマト砲弾にやっぱりと肩を竦め、澪は身を翻し次々飛んでくるトマトを躱す。
「勿体無いけど――食べられる気もしないし!」
避けきれない分は傘にオーラを纏わせて、払い落とす。
そんな事を何度か繰り返している内に、飛んでくるトマト砲弾が止んだ。
「わあ、炎上中」
見ればトマト邪神は絶賛、燃えている。
『ぐぉぉぉぉっ、あ、熱い!』
外から穿たれた所に、炎のミサイルと爆ぜる風で燃やされ、トマト邪神は苦悶に呻いていた。
この隙を逃す手はない。
聖杖【Staff of Maria】を掲げた澪の全身が光に包まれた。
光は揺らめきながら明滅し――程なく、パッと弾けた様に消える。
そしてその場に現れたのは、さながら何処かのお姫様のような豪華絢爛なドレス姿に変身した澪の姿。
マジカル☆つゆりん――プリンセスフォーム!
「はっ、恥ずかしいから一瞬で終わらせるよ……!」
どうにも恥ずかしさを隠しきれないようだが、それでも澪はプリンセスフォームの性能を存分に発揮し、先程までよりも遥かに速くトマト邪神と、その下の空母の周りを飛び回る。
ドレスから、鮮やかな花びらを舞い散らしながら。
「艦隊もほぼ無敵っていうなら――艦隊ごと、凍っちゃえ!」
何周か飛び回った所で、澪は【Staff of Maria】をトマト邪神に向けた。その先端から清浄ながらも冷たい輝きが迸り、澪が飛び回って残した花弁を輝きが伝っていく。
キィンッと冷たい音が響いて、燃えていたトマト邪神が氷に包まれた。
ピシッ――!
その表面に亀裂が入る。
「えぇ……」
破られるのかと、げんなりした顔になる澪の前で亀裂がどんどん増えていき――氷が砕けた。
中のトマト邪神ごと。
トマト邪神の砕けた欠片はまた小さなトマトとなって、海に落ちていく。
その下の空母から、赤い輝きが失われて。
「これなら――沈んじゃえ!」
トマト邪神が小さくなって空いたスペースに、澪が残る魔力で生成した氷塊を落とした。
●さらばトマト
澪の氷塊でバランスを崩した空母が、もう片方も巻き込んで転覆していく。
その狭間で、随分と小さくなったトマト邪神は成す術なく沈没に巻き込まれていた。
『オ……オォォォォ……』
怨嗟の様に響く、トマト邪神の断末魔。
「アレにも畑に成ってた時期があったンかねェ……」
海に沈みゆくその姿を空から眺め、逢真がしみじみと呟いていた。
「畑に? 成るの? 邪神が……? その畑が怖くない?」
「違ェねェ」
真顔な鴇の呟きを、逢真はケラケラと笑い飛ばす。そんな畑、あってたまるかと。
ともあれ、トマト邪神の力は艦隊から失われた。残されたトマト艦隊は勝てないと悟ったか、その場で反転、撤退を始めている。
正気を奪う赤い果実を倒したことで、敵の勝機を奪ったのであった。
大成功
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