富貴たる花を思えば
●十二花神
「『牡丹』」
葦原・夢路(ゆめじにて・f42894)は名を呼ぶ。
己に侍る花の化神は己に振り返り、壮麗と呼ぶに相応しき姿でもって恭しく夢路に一礼する。
「お呼びでございましょうか」
静かなる声はどこか奥ゆかしさを感じさせるし、理知的な雰囲気を帯びていた。
しかし、同時に強く凛とした佇まいでもある。
のびた背筋。
華やかなる美貌とは裏腹な態度に夢路は微笑み頷く。
「あなたの所作はいつ見ても心が洗われるようです」
「もったいなきお言葉でございますが、主様には及びますまい」
「そんな謙遜をしなくたってよいのですよ」
本当のことなのに、と夢路は思ったが、それが『牡丹』の気質なのだろう。
奥ゆかしく、しかして、その美貌、所作をひけらかすことはない。
主人である己を立てることを第一に考えているのが見て取れる。
「以前、『桃花』が言っていた東国へと向かわれた『皐月』なる御仁のお話は覚えていて?」
夢路は宮中で噂になっているという眉目秀麗たる御仁『皐月』のことを尋ねた。
そう、宮中における感情は良くも悪くも妖を引き付ける原因になる。
故に彼女は噂話の絶えぬ『皐月』のことで気をもんでいたのだ。どうやら東国には夢路と同じ猟兵が赴き、彼を救ったのだという話を聞き及んでいる。
そんな彼が東国より戻ったと聞けば、また噂をする者たちが増えるだろう。
備えはいくらでもあった法が良い。
己が霊力と魔除けの力を持つ花の化神たちも働いてくれているが、しかし、内情を知らぬのであればどうしようもない。
「はい、どうやら宮中にて出世目覚ましい平安貴族の方との逢瀬がもっぱらの噂となっているご様子」
「まあ!」
どうやら『皐月』は、噂話が好きな者たちの間では、特に話題の中心であるようだ。
「『桃花』が嘆いておりました」
「それは……とても大変なことです。浄化の力が足りぬ、ということはないでしょうか」
「主様の心をかき乱されるようなことは何一つ」
『牡丹』はやはり美しい所作でもって一礼する。
主人である夢路の懸念を既に先回りして対処しているのだろう。
それは『牡丹』の気質を示すものであった。
何事にも冷静に対処し、優れたるを示す。それが一切誇示するものではなく、当然のこと、という奥ゆかしさの現れであると自然と伝えるものであった。
「そう、それは良きことです。ありがとう、『牡丹』、あなたはわたくしの吉祥。この上ない幸福よ――」
成功
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