心を立つ先に八雲
●血脈
己は知っている。
我が身に流れる血の意味を。
「違和感、とと言えば良いのだろうか。そういうものが常に身につきまとっているように思えてならなかった」
源・朔兎(既望の三日月・f43270)は己の生を顧みる。
未だ齢十二に満たぬ年頃であれど、その体躯は偉丈夫と呼ぶに相応しいものであった。
その体の大きさだけ見れば、とてもではないが年齢通りの印象を受けることはできなかったかもしれない。
己が生まれを薄々気がついていたが、それを見ぬ振りで頭の片隅に追いやったのだ。
体躯はこれ以上なく頑強に育ち、その武威は極まる所へと至るものであったが、その内側……精神は性急過ぎる肉体の成長には追いついていなかった。
人間というのは、いや、生物というのは成体に至るまで多くの生命の危機に晒される。
それは当然であろう。
自然界というのは弱肉強食である。
成長していない、ということは即ち弱者。
故に他の全ては脅威へと成り代わるものである。
それは己にあっても例外ではなかった。
何度も致死に至る事故に見舞われても、『偶然』助かる。助かってしまうのだ。
「わかっている。それが『偶然』などではなかったことも。『必然』であったことも」
独白を聞くものはない。
今は、と言えるのは己が『可能性』を見出しているからだ。
たしかに己の生まれには何かが隠されている。
けれど、己は恋を知ってしまった。
死ねない運命から、生きる運命に変わった瞬間だった。
今でも覚えている。
今も尚、己は歪なるバランスの上に生きている。
「それでも彼女を幸せにしたいと願う。そうせずにはいられないし、そうしなければならないし、そうできなければ死ねるに死ねない」
それに、と己は思う。
己が生まれを訝しみ、その答えを求めて転がり込んだ音律の陰陽師の家。
あの家族たちは妖たちによって殺されてしまったが、己が想い人だけは生き残っていた。
世話になった彼らの死に目に立ち会うことすら許されずに逃れるしかなかったあの日のことを思い出す度に、二つの感情に己の心は押しつぶされるような痛みを覚える。
「これもまた生きるということ。死へと向かうために生きるという矛盾。それを俺は愛する」
そして、彼女のことも。
己が生きる意味は其処に在る。
死せずという『必然』にある己が為すべきはただ一つ。
彼女を必ず幸せにするということ。
「故に俺は願う。弟子入りを――」
成功
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