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【⚔️決戦】いつか旅立つあなたに選択肢をあげよう

#シルバーレイン #決戦 #土蜘蛛戦争

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●4月XX日:n回目の朝
 奈良県A市B町。
 四方を山に囲まれた小さな町。
 町おこしのため町を上げて作られて、そして失敗した温室群の廃墟がホラースポットとして皮肉にも有名になってしまった小さな小さな、退屈な町。
「そうして私、四片・恵は唯一残った高校の大温室の整備作業のため朝から働いてますー!」
「旧校舎に寝泊まりしながらの作業とかアオハルじゃんって言ってたのは誰だっけ、園芸部部長さん?」
 セーラー服姿の女子高生、四片・恵と八仙・ことねの最近の日課は旧校舎からの登校だった。
 園芸部総出での温室整備作業。朝と放課後の肉体労働は大変ではあるが、校舎に寝泊まりする非日常を体験できているのでプラスマイナスゼロだ。なんて冗談を言い合っていた二人の視界の端に黒が映り込む。
「あ、まゆりん!」
「四片さん、八仙さん、おはようございます」
「おはよう!」「おはようございます生徒会長」
 まゆりんと呼ばれた黒髪の女子高生がにこりと笑い挨拶をした。
「生徒会長の仕事忙しいのに資材運びさせちゃってごめんねー!」
「大丈夫ですよ。腐葉土の在庫がそろそろ無くなりそうでした」
「教えてくれてありがとう。昨日ことねにも同じこと言われたから、ネットで注文しておいたよ」
「領収書を後で副会長の八仙さんに提出してください」「うん!」
 四片は頷き、そしてはっとした様子で声を上げる。
「あ、まゆりんのきれーな黒髪土仕事したら汚れちゃうよね。私お泊り用にブラシとかゴムとか持って来てるから取ってくる! 綺麗に結ってあげるね!」
「恵!」
「もう聞こえていないですね。今日も彼女、元気そうで何よりです」
 小さくなっていく四片の背中を見送りながら八仙と眞由璃はその場に佇む。
 先ほどまでの和やかな空気が、僅かにつめたくなることに気が付く生徒は今この場には居ない。
「他の園芸部員は大分疲労しています。蜘蛛童への精気供給量が不足する可能性もあります」
「わかりました。檻を拡大しても問題は無いと思いますが、小規模であれば繭に保管している他の部員で補いましょう。他の鋏角衆にも伝えてください。くれぐれも、捕食などしないようにお願いいたします」
「……承知いたしました」
 恭しくお辞儀をし八仙は教室に入っていく。
 残されたのは黒いセーラー服の上から作業用のエプロンを纏ったまゆりん──土蜘蛛の女王、国見・眞由璃。
 赤い唇をぺろりと舐め、温室へと優雅な足取りで向かって行った。

 人間の四片・恵は知らない。
 学校全てが『土蜘蛛の檻』に覆われ、何週間も学校の外に出ていないことを。
 放課後学校の人間全てが蜘蛛糸の繭で眠りについていることを。
 ネットで注文した園芸用品は、とっくに使ってしまったことを。
 親友の八仙・ことねと国見・眞由璃が、人間の捕食者たる存在であることを。

●グリモアベース
 「シルバーレインの世界にて大規模な『土蜘蛛の檻』の存在を感知しました」
 腕に人形では無く、銀誓館学園から提供された資料を抱えたアルム・サフィレット(愛し子抱えし宝石人形・f02953)が猟兵に声をかける。

「まず、過去の話をしましょう」
 人々を襲い、その力を得て繁栄していた蜘蛛の来訪者、土蜘蛛。
 銀誓館学園の能力者たちが初めて接触し、対峙した土蜘蛛は土蜘蛛戦争、葛城山殲滅戦を経て女王たる国見・眞由璃を討たれ、組織は壊滅した。残存勢力はその後銀誓館学園に保護され、適正な教育を受け、共存共栄の道を歩み始めた。

「次に現在の話です」
 シルバーレイン世界ではかつてこの世界を脅かした敵対者がオブリビオンとして蘇った。
 しかし、昨年発生した第二次聖杯戦争のようにオブリビオンとして蘇った敵対者は『前回』とは異なる考えを持ち、予想外の行動に出ることもある。グリモア猟兵が予知した光景もまた、以前の「国見・眞由璃」とは様子が異なるというのだ。
 まず彼女は高校を「土蜘蛛の檻」に取り込み外部との交流を完全に遮断した。檻の外の住人たちは高校の存在を忘れ、内部の学生や教員は何週間も外界との遮断に違和感なく日常生活を過ごしている。土蜘蛛たちは精気を奪い、更に人間の肉をもを喰らう土蜘蛛オブリビオンを増殖を試みようとしているというのだが。
「理由は不明ですが、彼女達は檻内の人間の殺害実行には至っていません。現状を維持したまま学生生活を続けているようです」
 グリモア猟兵は学校の地図、そして数枚の写真を提示した。
 現在生徒・教員の大半は生気の無い人形として教室と旧校舎、蜘蛛糸の繭への移動を往復している。
 正気を保っているのは、旧校舎と後者の間にある大温室の整備作業をしている四片・恵を始めとした園芸部員。そして、『生徒会副会長』の八仙・ことね、国見・眞由璃に与する鋏衆角達だけ。
「転校生、通りすがりの人間等身分はいくらでも用意できます。園芸部員と接触し、違和感を増大させ、現在の環境に疑問を持たせてください。旧校舎に眠っている人々を物理的に引きはがし強引に現実を見せつけることも可能です。それは土蜘蛛側の心証を大いに下げる結果となりますが、それもまた選択肢の1つです。
 繭の損傷、あるいは生徒が自主的に退避すれば土蜘蛛側は鋏衆角に率いられた土蜘蛛オブリビオンをもって猟兵の皆様を排除するでしょう」
 全てのオブリビオンを退けることが出来れば、最後に残るのは国見・眞由璃のみ。

「最後に、未来の話です。オブリビオン国見・眞由璃の討伐、或いは『交渉での停戦』を皆様にはお願いいたします」
 オブリビオンとの交渉。猟兵達の間にどよめきが起きる。
「ええ、ええ。驚かれる方もいらっしゃると思います。国見・眞由璃は猟兵を学園内で見つけても即座に排除する姿勢は見せていません。むしろ、皆様との接触を待っているかのように学園生活を送っています。交渉のテーブルにつけば紅茶の一杯でも出してくれると思います」

 シルバーレイン世界、銀誓館学園では土蜘蛛との接触以降多くの来訪者と対峙した。
 そして、時には彼らと共存する道を選んだ。
「この戦い、『新・土蜘蛛戦争』に正解はありません。過去を排除し、未来とつなぐか。過去の後悔を塗り替え、未来とつなぐか」
 全ては皆様の選択次第です。
 グリモア猟兵は最後に付けたし転送ゲートを展開した。


硅孔雀
 ここまで読んでいただきありがとうございます。
 君と、蜘蛛と隣り合わせのアオハルを。
 硅孔雀です。
 シルバーレイン世界、決戦シナリオです。
 NPC・シナリオギミック多めなのでマスターより、各断章に目を通していただけますと幸いです。

●目的
 ・👿土蜘蛛の女王『国見・眞由璃』の撃破or同盟を結ぶ。
  シナリオの結果は今後硅孔雀がリリースするシルバーレインシナリオのみに影響します。

●構成
 第1章:🏠『温室にて』
 学校全体を覆った檻の中、体育館とほぼ同じ面積の巨大な温室内で園芸部の部員たちが植物の世話をしています。「平凡な日常を過ごしている」彼・彼女に対して、外からの来訪者(引っ越してきた人や転校生など)として共に日常生活を送りつつ、徐々に彼らの違和感を増大させ、現在の環境に疑問を持たせてください。
 彼らへのアプローチに成功すれば、1章終了時点で旧校舎から生徒・教員が脱出します。
 旧校舎に乗り込み、蜘蛛糸の繭を破壊し強引に目覚めさせるのも手です。(土蜘蛛サイドは猟兵を明確な敵だと認識します)

 第2章:👾『絡新婦』
 檻が破られたことに対し、異物を排除すべく、配下のオブリビオン軍団を送り込みます。
 配下は全て「土蜘蛛化オブリビオン」と化しており、通常のユーベルコードの他に、蜘蛛の部位が追加されており、それらも利用して攻撃してきます。
 詳細は断章にて。第1章の結果次第では難易度が上がる、もしくは下がっての開始になります。

 第3章:👿土蜘蛛の女王『国見・眞由璃』
 国見・眞由璃との戦闘、あるいは交渉です。
 詳細は断章にて。
 交渉の結果、土蜘蛛と同盟を結ぶ場合はシステム上🔴の累積による失敗でシナリオが完結します。
 同盟を結んだ場合、檻は残されたままになります。

●プレイング受付
 各章断章を投下後プレイング受付をいたします。
 その他連絡事項はシナリオのタグ及びMSページでお伝えします。

●連絡事項
 ・飛び入り参加、特定の章のみの参加大歓迎です!
 ・過度に性的・グロテスクなプレイングは採用しません。
 ・キャラクターシートの年齢が20歳未満のPCさんの飲酒・喫煙は描写しません。
 ・連携希望などについてはMSページに簡略化の項目がございます。一読して頂けますと幸いです。
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第1章 日常 『温室にて』

POW   :    温室をのんびり歩き回る

SPD   :    様々な植物を観察する

WIZ   :    秘密のお喋りをする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●4月XX日:n+1回目の温室
「ことねってばー機嫌なおしてよ。まゆりんも気に入ってくれたじゃん!」
「まゆりん、じゃなくて眞由璃さん、でしょ。生徒会長が寛大な人だからって揶揄うのはやめた方が良いわよ」
「えー。ツインテール可愛いじゃん。原宿で流行っているって動画で言ってたよ。あーあ、大都会のファッションはいいなー。大学デビューしたらお金貯めて、部屋もぜーんぶ私好みに変えたい!」
「……恵、関東の大学志望は変わらないんだ」
「そーだよ。この町寂れていくだけだし出ていけるなら出て行っちゃう。そりゃー長年温室の廃墟に囲まれてきて、何とか町を元気にしたいとは思うわけだけど、どうにもならないだろうしねぇ」
「……そう」
「あ、でも大阪でもいいかも。アメ横とか行ってみたい! ことねは将来どうするの? 推薦でいい所狙えるじゃん」
「私は、家から通える範囲の大学でいいから」
「えーもったいなくない? ことねってさ夢とか無いの? 昔はほら、日本の遺跡を巡って発掘したいって言ってたよね?」
「それは、もう、……って恵!」
「あ、わ、わ、ちょ!」
「話しながら作業するのやめなよ。危ないじゃない」
「ん。いつもだったら余裕なんだけど、なんか最近、ふらふらしちゃって……」
「……恵。ここは私が代わりに掃除してくるから、保健室で休みなよ。目の下、ちょっとクマが出来てる」
「うそー。うう、言われたらなんか寒気もしてきた。ごめんねことね。温室の整備終わって中間とか模試とか色々終わったら埋め合わせはするから!」

●4月XX日:n+2回目の放課後
 温室の裏口と旧校舎は渡り廊下1本で繋がっている。
 黒髪をツインテールに纏めた国見・眞由璃が旧校舎の入口を開けた。
 巨大な白の塊、否、蜘蛛糸の繭で覆いつくされていた。繭の中で四片・恵が深い眠りに落ちている、その姿をじっと見下ろす眞由璃の横顔は美しく、そして、威厳に満ちていた。
「蜘蛛童達は元気にしてしましたか?」
「腹をすかしていました。人間への捕食欲求を抑えられないようで」
「苦労した、と。貴方もお腹すいているのに大変でしたね」
「わ、私は……恵を、人間を食べることは……その……」
 俯いた八仙の視線が僅かに四片へと向けられたことを、眞由璃は気が付いていた。
 お互いの吐息が絡み合う。沈黙を破るのは眞由璃の嬌笑。
「何も貴女だけに意地悪く選択を迫っているわけではありません。紛い物の生を受け、かつて銀誓館の手にかかり葛城の御山で滅びた運命を知りながら無限繁栄を再び夢見る私も同じです。土蜘蛛は人間の捕食者。人間との共存は不可能ではない。しかし、それは、」
 絶対的な捕食者である我らの奢りであり。だからこそ彼ら≪銀誓館学園≫に滅ぼされた。
「オブリビオンとして蘇った今、私の敵は猟兵。待ちましょう。私と、私達を選定する彼らの来訪を」
 眞由璃の囁きに八仙は息を吞む。
 平穏な「日常」を脅かす存在の排除、先鋭部隊として己の本性を晒すことに迷いはない。
 ただ。女王が命じれば、
(「私は……私も、土蜘蛛オブリビオンとして、人を、恵を……」)

●状況
 奈良県A市B町、街唯一の高校が『土蜘蛛の檻』に覆われ、閉じ込められた生徒・教員が繰り返し「日常生活」を送っています。
 人間は朝登校し、夕方には旧校舎に戻り、設置された蜘蛛糸の繭で眠りについています。
 『生徒会長』国見・眞由璃と彼女の忠臣兼警護の鋏角衆『副会長』八仙・ことねの元、既に大半の生徒や教員は登校と下校を繰り返す人形と化しましたが、四片・恵を始めとした園芸部員は温室の整備作業に勤しんでいます。

●できること
 温室、若しくは蜘蛛糸の繭が置かれている旧校舎で行動が可能です。 

●会えるひと
 ・四片・恵(人間。園芸部部長。明るく行動的。ことねとは大親友。朝昼放課後園芸部部長として働いている。洗脳を受け、夕方には旧校舎に戻る)
 ・八仙・ことね(鋏角衆。生徒会副会長。真面目で少々堅物。国見・眞由璃の命に従い、温室で園芸部を手伝いながら人間の監視をしている)
 ・国見・眞由璃(女王。生徒会会長。旧校舎の一室で何かを待っている)
 ・園芸部員達(国見生徒会長と四片部長の指示に従い作業中)
 ・その他モブNPC(園芸部員以外の生徒・教員は洗脳され、意思疎通がほぼできません)
 
●シナリオギミック
 第1章の展開によって下記のパラメータが変動します。
 ・生徒・教員の覚醒度(高くなる程繰り返される日常の違和感に気が付き、土蜘蛛の支配から抜ける。第2章での戦闘で一般市民の安全確保任務を考慮する必要が無くなる※自主的に避難します)
 ・土蜘蛛達の好感度(猟兵達が自分達を斃しに来たと警戒すればするほど下がる。第2章の戦闘で土蜘蛛オブリビオンへの指揮として鋏角衆が加わる可能性があり、その場合戦闘難易度は上昇する)
●NPCの第1章開始時の心情※追記
 ・四片・恵(過疎化していく町を憂いている。が、無力な学生がどうあがいても無駄だと思い諦めている)
 ・八仙・ことね(人間を食べる土蜘蛛オブリビオンには嫌悪感がある。猟兵との対立は出来れば避けたいが、眞由璃を攻撃するなら迎撃もやむなし。恵が好き)
 ・国見・眞由璃(猟兵と会い、現在のシルバーレイン世界の情勢について知りたいと思っている。本意は不明)
神楽崎・栗栖
WIZ 連携・アドリブ歓迎
土蜘蛛殲滅戦……「能力者」としての私が持っている、最後の記憶
無益な戦いであったと、後に聞きました
今回はオブリビオンによる再演とはいえ……同盟の道は、選べないものでしょうか

転校生を装い、四片さんに接触
「美しい花々ですね。皆さんの、日頃の努力に応えてくれているようです」
「花の手入れに、休みはないものです……長期休暇の間も、やはりお家から毎日登校しておられたのですか?」
「手入れもですが、資材の調達も大変でしょう。やはり、こまめに買い出しに行かれるのですか?」
かつて自分で花園を育てていた経験談にUCも併用し、話しているうちに違和感を持たせる



●n+3回目:温室
「こんにちは。園芸部の方でしょうか」
 神楽崎・栗栖(銀朱の魔剣士・f42945)に声をかけられ、四片は驚いた様子で振り返った。
 猩々緋の双眸を持つ男性が、艶のある黒髪を揺らし微笑む。
 温厚そうな印象を与える生徒に心当たりの無い四片が僅かに眉に皺を寄せれば、彼はすみませんと声を発し。
「転校生の神楽崎です。クラスで温室が有名なことを聞きました。とても細やかに手入れされていますね」
 温室の手入れを褒めてくれた。植物の手入れに気が付く人に悪い人はいないはずだ。
 そう『転校生』に対して判断した四片は今度は笑顔を見せた。
『褒めてくれてありがとう。私は部長の四片・恵。よろしくね!』
「はい、よろしくお願いします。ところで……」
 温室のガラスに沿って大きく成長したブーゲンビリアへと神楽崎は視線を移す。
「美しい花々ですね。皆さんの、日頃の努力に応えてくれているようです」
 花だけでは無く葉にも虫がついていない。
 丁寧に毎日世話をしていないと生み出せない出来栄えに対し、神楽崎は心の底から賞賛の言葉をかけた。
「昔自分も花園を持ち、育てていました。朝早くの水やりは大変でした」
『花園って素適! 屋外だと暑いし毎日外での作業は疲れるよね』
 同好の士である神楽崎をすっかり信じた四片はうんうんと頷く。
「花の手入れに、休みはないものです……長期休暇の間も、やはりお家から毎日登校しておられたのですか?」
『うん。私朝早く起きるのが苦手で、夏休みとの朝とか怒られっぱなしで。あ、でも今は旧校舎に寝泊まりしていいってまゆ、生徒会長……あれ?』
 長期休暇でもないタイミングで、何故自分は旧校舎に寝泊まりしているんだろう。夏休み中は温室以外の立ち入りは先生の許可が必要だって言われたのに。
『先生よりまゆりんは偉い、ってことなのかな……うん……?』
 恵は思案に耽る。普通であれば突然会話を止めた四片の様子を不審に思うだろう。
 しかし、現状に違和感を覚えるよう誘導した神楽崎にとってはむしろ予想通りの反応だった。
「(ここからですね)」
 神楽崎は畳みかける所だ、と思いユーベルコード:オープン・ダイアログを発動する。
「手入れもですが、資材の調達も大変でしょう。やはり、こまめに買い出しに行かれるのですか?」
『あ、うん、地元の商店とかホームセンターで買っていたよ。でも、副会長にレシートの処理が面倒と言われてネットショッピングにしてるんだ』
「ネットショッピングですか。私も利用したことが有りますが、交通事情の影響があって遅く到着した時もありました」
 そうなるとやはり直接買った方がいいのではないかと考えた時もありますね。
 ユーベルコードを重ねた神楽崎の声が、四片の心を揺さぶる。
『あ、あの、初対面の人にこんな話するのは変かもしれないけど』
「……大丈夫です、聞きましょう」
『あのね、ここの学校、生徒会長と副会長が園芸部にすっごく優しいの。予算とか、作業の手配とか、沢山してくれる……でも、なんでだろう』
 土蜘蛛の勢力が生徒を日常生活という檻に閉じ込めるための行動。
 転校生との会話で彼女達の行動、特に動機に疑問を抱き始めたことに神楽崎は内心安堵した。
「生徒会の方も温室で綺麗な花達が咲くのを楽しみにしているのではないでしょうか?」
『うん。そうか、そうだよね……』
「そうだ。折角お会いできたことですし、同じく植物を愛する者として何か手伝いをさせてください。掃除でもなんでも」
 神楽崎の提案に先程まで悩んでいた四片はぱっと顔色を明るくし、是非お願いしますと返事をする。
『ありがとう! 折角だから、これ、使って!』

 四片が渡した赤いシュシュで黒髪を結び、神楽崎は鉢植えを運ぶ。
 背の高い観葉植物達の間を通ると、まるで山の中を進んでいるような錯覚を覚える。
 山。土蜘蛛。殲滅戦。先行部隊。赤。花の色ではない、赤。
(「『能力者』としての私が持っている、最後の記憶」)
 たとえそれが土蜘蛛の策略だとしても、日常生活穏やかに繰り返す学校に赤い雨が降り注ぐことになるのを神楽崎は危惧していた。
「……今は、土蜘蛛ではなくオブリビオン。オブリビオンによる再現」
 小さな呟き声は葉の擦れる音で消える。
 自分の行動で人間を脅威から遠ざけることには成功した。次に待ち受けているのは、オブリビオンと猟兵の対峙。

「……同盟の道は、選べないものでしょうか」
 赤に沈み、途絶えた最後。それをもしやり直せるとすれば、その赤は。

●状況変化
 ・四片・恵が現状に疑問を持つようになる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜


土蜘蛛の繭……牧場のつもりか、本能に抗った結果なのか。
こうするに至った一番の理由がどこにあるか、明確じゃない事には如何ともし難いね。
別世界だけど、UDC-Pなんかもあった訳だしさ。
だから……宅配便の業者に変装して【ことねとの接触を試みる】。

温室の外に腐葉土を積んで運搬してきたカブを停めて、入り口から中で作業してる面々に「すいませーん、注文あった腐葉土お届けに上がりましたー」と大声で呼びかける。
注文を繰り返してた日数分大量になった腐葉土をみんなで運びこみながら、「宛先が生徒会名義だから」と八仙さんにサインを求めるよ。
そうして少し離れたならひそひそ話さ。
戦いに来たんじゃない、話し合いに来たとね。



●n+4回目:県道■■■号沿い
 三重県A市B町へ続く県道を1台のカブが走る。【宇宙カブJD-1725】の乗り手、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)はヘルメット越しに周囲を観察しながら進む。
(「あそこが高校。普通に見えるけどやなオーラが渦巻いているのは感じる」)
 土蜘蛛の女王国見・眞由璃が展開した土蜘蛛の繭は不可視ではあるが、ユーベルコードを抱く猟兵前には真実の姿を見せる。
(「……牧場のつもりか、本能に抗った結果なのか」)
 グリモアベースでのブリーフィング時から数宮は、今回の事件について思いを巡らせていた。
 彼女達土蜘蛛勢力、正確には土蜘蛛オブリビオンが何故土蜘蛛の檻を作り出し、学校を取り込んだのか。
(「兵隊を作って維持するんだったら先手で人間を喰いつくせばいい。なのに牧場のように人間を匿っているままだ」)
 学生生活を送り続ける理由がはっきりとしない。明確じゃない事には如何ともし難いね、など考えながら数宮はシルバーレイン世界に転送された。
 地元の商店、農家、小さな役場──数宮が通り過ぎてい町は、あまりにも長閑だ。
「……さて、一度寄り道だ」
 彼女達の目的を知るためにも、と数宮は【宇宙カブJD-1725】を止め、ホームセンターへと向かって行った。

●n+4回目:温室
「すいませーん、注文あった腐葉土お届けに上がりましたー!」
 温室の入り口から聞こえてきた明るい声。
 過疎化が進む地方、狭いコミュニティでは自然と顔見知りは限定される。
 そして、聞きなれない若い女性の声に聞き覚えのある生徒はいない。
『誰?』『なんかすっげー都会っぽい人がいる!』
『誰かの保護者ではないみたい。私が話してきます』
 興味深げに或いは野次馬根性を丸出しに騒ぎだした園芸部員達を八仙・ことねはじっと観察していた。その眼光は鋭い。
 侵入者だ、と誰にも聞こえない声が温室を僅かに揺らす。

「すいませーん! 誰かー!」
 ライダースーツの上に作業着を羽織り、宅配便の業者を装った数宮は荷物を小脇に抱えもう一度叫ぶ。
『何か、御用でしょうか』
 温室の奥から出てきた女子高生、八仙は数宮をじっと見つめていた。
(「不審な大人を警戒する目つきじゃない。迎撃まで考えている、土蜘蛛側の目だ」)
 などと数宮が考えていることは恐らく読み取れなかっただろう。それほどまでに数宮の演技は完璧だった。
「お、生徒さんか。さっきあっちで入校の手続きは終わったんだけどさ、生徒会が宛先の荷物は生徒会にサイン貰ってくれなんて言われて」
 用意された『入校許可書』を掲げながら数宮は気さくな様子で八仙に己の状況を説明する。
『配達の方ですか』「そうさね、ほら、あそこに置いてあるの全部でいいのかい?」
 温室の外には数宮の愛車【宇宙カブJD-1725】と、大量の腐葉土が積まれていた。
『え、量多くない?』
 2人の会話が気になっていたのか、顔を出した部員の一人が驚いた声を上げる。
「量が多いからあたしが配達担当になったのかな。何日かの注文分纏めてお届けしたんだよ」
 何日か?と園芸部員達はまたも顔を見合わせる。部長が追加で資材を頼んだのは1度だけのはずだ。
『……!』
 八仙は慌てた様子で顔を上げる。檻の中と外と出の差異への疑問を持たれてはまずい。話題を変えようと口を開こうとし──。
「さて。それじゃあ腐葉土を運ぼうとするかね」
『手伝いますよ!』『カブかっこいいですね!』
 珍しい客人を手伝おうと部員達は数宮を囲み、それに数宮はありがたいと礼を言う。
『……ありがとうございます。皆さん、手伝いましょう』
 はーい!と明るい声が温室に響いた。

「いやー悪いね、若い子に飲み物まで貰っちゃって」
『構いません。暑い中来ていただいてありがとうございました』
 温室から離れた自販機前。八仙からサインを受けた数宮はにっこりと笑う。
 部員全員での運び込みは賑やかで、生徒達は数宮からカブの話や都会の話を聞いて楽しんでいた。
『……あの』「安心しな、今ここでドンパチやる気はない」
 風が一瞬二人の間を吹き抜ける。 正確には猟兵と土蜘蛛との間だ。
 目を見開いた八仙を落ち着かせるように、ユーベルコード:罪暴く言の葉(ディテクティブ・ロイヤー)で言葉を選ぶ。
「さっき皆と話してたんだけどさ、『生徒会長や副会長は優しい。一緒にいて楽しい』って言ってた。少なくとも人間を餌とは思ってはいないんだね」
『……少なくとも、私はそう命じられているから、食べるつもりはない』
「ん? そうかい。言っちゃ悪いけど、人間を襲えって言われてもあんたはそれを選ぶとは思えないけどね」
 優しくて園芸部員思いのいい子なんだから。
 数宮の言葉に八仙の瞳は僅かに揺れる。戸惑いか、或いは、命令を下す女王への恐怖化は不明だが、数宮はある意味確信めいたものを抱いていた。
(「UDCアースの中にもUDC-Pがいた。破壊衝動を抑えているのなら」)
「戦いに来たんじゃない、話し合いに来た」
 そうはっきりと数宮は目的を告げる。嘘偽りの無いその言葉に八仙は絞り出すように言葉を発する。
『私も、私も話し合いで終わるなら……でも、土蜘蛛オブリビオンは私の命令を聞くかは分からない』
「成程。オブリビオンが人間に危害を加えるのならあたしはそいつらは斃す。八仙さんがそれに対してどう出るかは……女王様次第か」
 放課後の後者に西日が射しこむ。 土蜘蛛の影はゆっくりと、そして、確実に校舎を覆っていた。

●状況変化
 生徒達が外の世界に興味を抱く。覚醒度上昇。
 八仙・ことねが猟兵と接触。好感度は変化せず。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大町・詩乃
人々を護る為、眞由璃さんと戦った。
人々を護る為、メイド服姿の眞由璃さんを愛でつつ、共闘してフェンリルを倒した。
人々を護る為にスクール水着強制着用の上で独りレジャープールに突貫させられた眞由璃さんを助けに行き、ついでに思いっきり愛でたおしつつ、眞由璃さんとのスク水姉妹合体攻撃で敵オブリビオン達を倒した…

そう、言わば私は眞由璃さんの酸いも甘いもかみ分けた『眞由璃さんマイスター』と言っても過言ではない存在!
眞由璃さん達に虚心に向き合いますよ~。

セーラー服を着用の上、転校生として振舞います。

《慈眼乃光》を使用

ほんわかした雰囲気と大阪のおばちゃん並のコミュ力を発揮して校内の皆さんと仲良くなり、学校内外や家の事も色々と聞いてみて、現在の環境に疑問を持たせますよ~。

疲労している方には「飴ちゃん食べますか?」と持参した飴を配ります。

土蜘蛛さん達には「生きていく為にやむを得ないとはいえ、この状態を続けるのは感心しませんね。他に道は有る筈ですよ。眞由璃さんなら判っている筈です。」と飴を渡しつつ微笑みますよ。




「はじめまして、今日からお世話になります大町・詩乃です~」
 セーラー服姿の『転校生』大町・詩乃(|阿斯訶備媛《アシカビヒメ》・f17458)の明るく良く通る声が教室に響いた。
『あー……よろしく。皆も、あいさつしなさい』
 生気の無い顔をした担任の教師が掠れた声で生徒達を促せば、まばらな拍手が大町を歓迎する。
(「皆さんお疲れですね~」)
 植物と活力を司る神である大町は人々の営みを誰よりも愛している。彼、彼女らが疲労困憊しているのであれば見過ごせない。神たる神秘を見せる時だ。神秘の力。それは──。
「顔色悪いみたいだけど大丈夫ですか? 飴ちゃん食べますか?」
『あ、ありがとう』
 朝の日差しを受けべっこう飴が宝石のようにキラキラ輝く。転校生大町・詩乃の一日が始まった。
『大町さんって神社の生まれなんですか!?』
「はいそうです。神社の補強工事がありまして折角なので県外の学校に転校したんですよ~」
 なにそれ面白い。大町さんたしかにそんなオーラがある。女子高生巫女なんて凄い。
 持ち前の明るさとコミュニケーション能力、特に挨拶代わりに差し出される飴ちゃんに興味を惹かれた生徒達に囲まれ、大町は校内を案内されていた。
「皆さん親切にありがとうございます。大きな温室があるなんて素敵ですね~」
 大町の弾けるような笑顔と暖かく慈しむ視線が生徒を包み込む。
 それはユーベルコード:慈眼乃光(ジガンノヒカリ)を強め、無意識の内に生徒は大町を信用できる素晴らしい『転校生』だと認識を強めた。
(「皆さんに受け入れて貰えたようです。それでは始めましょう」)
「園芸部の皆さんが入れ替えの作業をしているとのことですが、何日も何日も大変ですね。飴ちゃんの差し入れをしましょううか~」
『1週間位だっけ?』『いや、1ヶ月だって生徒会からは聞いたけど』
「まあまあ。それでは親御さんも心配でしょうね~」
『親……?』
 生徒達は顔を見合わせる。日が沈んだ学生達は皆土蜘蛛の繭の中で眠っている。女王による強い洗脳は今や大町のユーベルコードの力にかき消されようとしていた。
『あれ、最近お母さんと会話したこと無い気がする……』
 その場にいた生徒の数だけ違和感が膨れ上がり、誰かが違和感を言葉に使用と口を開きかけた時だった。
「……!」
『皆さん廊下いっぱいに広がるのは危ないですよ。転校生の案内は我々が行います』
 生徒と同じく制服に身を纏った少年・少女達。その正体を見破ることは簡単な事であった。
 ──僅かに混じる殺気は、人の子の放つそれでは無い。
「お誘いありがとうございます~。それでは生徒会のみなさんよろしくお願いしますね」
 平穏な日常に変化を齎した『転校生』は生徒会室へと足を運んだ。

「生きていく為にやむを得ないとはいえ、この状態を続けるのは感心しませんね」
『……!』『こいつ!』
 生徒会室という名の空き教室に置かれた椅子に座るなり大町は先ほどと変わらない様子で言葉を紡ぐ。柔らかな転校生の言葉の真意を悟った思わず生徒会──土蜘蛛勢力はたじろぐ。
『どこまで我々のことを知っているんだ!?』
「落ち着いてください。あなた達も緊張して、気が張り詰めていて、疲れているのを感じます。飴ちゃんいかがでしょうか?」
 土蜘蛛の檻の中での日常生活。土蜘蛛オブリビオンの誕生とその維持、外部への進出を命じない女王。
『な、何故それを』
「理由は分かりませんが膠着状態に陥っているのはお互いに不幸であると思います。他に道は有る筈ですよ。眞由璃さんなら判っている筈です」

『私の真意ですか……? ふふ、待っていて正解でした』

 国見・眞由璃が空き教室の扉を開け言い放った。
 土蜘蛛の女王、そして、オブリビオンとの邂逅。生徒会室の空気が一層張り詰めた。


「改めてご挨拶させてください。私は大町・詩乃。この世界は異なる世界出身です」
 相手がオブリビオンとはいえ虚心坦懐で向き合おうと既に心に決めていた大町は自身──猟兵であることを伏せない。下手なごまかしは無礼であり、虚心に向き合うのに不要なことだ。
『私は国見・眞由璃、銀の雨降る世界にて蘇った土蜘蛛の……今は生徒会長です』
「なるほど。今回の眞由璃さんは生徒会長、と」
 ふむふむと頷く大町の言葉に国見は首を傾げる。
「実はですね。私、眞由璃さんとは何回も会っているのですよ~」
『……というと?』
 大町は語る。
 人々を護る為、眞由璃さんと戦った。
 人々を護る為、メイド服姿の眞由璃さんを愛でつつ、共闘してフェンリルを倒した。
「さらにある時は、人々を護る為にスクール水着強制着用の上で独りレジャープールに突貫させられた眞由璃さんを助けに行き、ついでに思いっきり愛でたおしつつ、眞由璃さんとのスク水姉妹合体攻撃で敵オブリビオン達を倒した……!」
『え、ええ?』
 聞きなれない単語に思わず疑問符を浮かべる国見の手をがしり、と大町は握った。

「そう、言わば私は眞由璃さんの酸いも甘いもかみ分けた『眞由璃さんマイスター』と言っても過言ではない存在……です!」
 言い切り微笑む。数秒後、国見の瞳が細められ……土蜘蛛の女王が噴き出すように笑う。
『ふ、ふふ。そんなにたくさんの私が居たのですか』
「その通りです」
『私は、猟兵の皆さんが私のような存在をどう思っているのか知りたかったのです。問答無用で討伐されなくて幸いでした』
 かつて銀誓館の手にかかり葛城の御山にてその命を絶たれた少女の瞳が暗く輝く。
「そうですね~。園芸部のみなさんや、生徒さんに害をなすのであれば、」
 オブリビオンは斃す、と大町は微笑んだまま言葉を紡ぐ。それは半分本心であり、もう半分は土蜘蛛の女王が別の答えを持っている事への期待である。
『山で散ったあの時と全てが違うようです。私に残った本能は、貴女を食べてしまいたいと囁いています。しかし、残った理性は……」
「理性は?」
 国見は今度は自ら大町の手を取り、手のひらに握られていた飴を取り。
『美味しい飴さんを、猟兵さんと一緒に食べながらお茶を飲みたいと思います』

●状況変化
 国見・眞由璃と猟兵が接触。
 国見・眞由璃の目的:『猟兵と会話し、現在の戦況を把握する』がある程度達成された。
 現在国見・眞由璃はご機嫌。

大成功 🔵​🔵​🔵​

酒井森・興和
ここでも国見女王は蘇られたか
僕としては歪でも同胞達が生き延びて欲しいが…
まずは巣に接触を

出られないが侵入は容易らしい
顧問から電話で発注があって温室の土や肥料を納品に、とでも言うかな
町の園芸店で購入、日付入り領収書を手に
男子や女子部員がいれば声を掛け部長に取り次いで貰おう
その際部員、部長に領収書と日付を確認させる
(不意に思い出し)四片…てまりさんは元気かねえ

手帳に配達済と書きながら彼らの空白期間の天気の話題を世間話に持ち出す
学生が興味を持ちそうなネットニュースも【情報検索】で話題振り
いやあ、スマホは苦手だけど娘と話を合わせたくてねえ。等と言いつつ彼らの表情など見ておく

さて
蜘蛛族感知は鋏角衆が生得するもの
仔達も同胞の気配も懐かしい
副会長に会えば互いの素性はバレるが構わない
…むしろ僕は同じ鋏角衆と会えて嬉しいぐらいだ
空腹は元気な証拠だが捕食願望の個体に精気だけはつらい
搾取される人間側もね

配達ついでに手伝いましょうか、力仕事なら得意ですよ
気さくに部員に申し出て【言いくるめ、運搬】や作業手伝いを



●n外:園芸店
 平日の昼、園芸店は人影はまばらだった。その大半は老人で、彼らは代わり映えしないが平穏な日常を過ごしている。
『お兄さん本当に車使わなくて平気なのかい?』
 肥料の入った袋を担いだ若い男性に老人が心配そうに声をかける。
 酒井森・興和(朱纏・f37018)は柔らかに微笑み大丈夫ですと答えた。
『この町には高校も無いし、お兄さんみたいな活発な子なんてとんと見かけなくてついお節介してしまってすまないね』
「お気遣いありがとうございます。『工事予定の山間』まで一人歩きします」
 人当たりのいい、正に好青年といった男を信用しきった老人は会釈し去っていく。
(「何もない、か」)
 土蜘蛛の女王、国見・眞由璃が作り出した『土蜘蛛の檻』によって隔離された高校の存在を外部の人間は忘却している。
 その強力な洗脳は、まるでシルバーレイン世界を覆う世界結界のようで。
(「……ここでも国見女王は蘇られたか」)
 銀の雨降る世界において、土蜘蛛達は聖域葛城山で殲滅された。
 女王が自らが『最初で最後の死』を迎える間際に残した言葉は、残される土蜘蛛達への助命を銀誓館に嘆願するものであった。
 その言葉によって、銀誓館へと招かれた鋏角衆である酒井森は今、かつての戦場から近い奈良県の山奥にいる。
(「僕としては歪でも同胞達が生き延びて欲しいが……」)
 外界と隔離された高校内で、土蜘蛛オブリビオンを従えている女王の動向によっては再び銀の雨降る世界が赤く染まる。
 今はまだ答えを見い出すことは出来ないが、同胞の血を流す結末を見たいとは望まない。
「さて、何がでるか……」
 高校へと続く山道に酒井森は足を踏み入れる。
 昔も今も、山の間を吹き抜ける風の心地よさだけは変わらななかった。

●n+5回目:温室前入口
「こんにちわ。注文のありました園芸用品はこちらの温室用で間違いないでしょうか」
 見知らぬ男、酒井森に声をかけられた男子生徒は顔を上げる。
 顧問から電話で発注があって、という彼の言葉の裏付けを取ろうと口を開いた。
『領収書か何かは、』「はい、これでいいでしょうか」
 酒井森が見せた領収書は地元の園芸店で使われているもので、日付の筆跡も見知った店員のそれだ。
『あ、ありがとうございます。えっと、部長呼んできます。四片さーん!』
 男子生徒が温室の奥へと消えていくのを、酒井森はじっと見つめる。銀の雨降る世界でかつて出会った来訪者の事を不意に思い出し改めて決意する。
(「……見極めなければ、ね」)
『注文のあった物全部確認しました! ありがとうございます!』
 温室に集まった生徒を代表して四片・恵が酒井森に礼を言う。ぺこりと頭を下げ、にっこりと笑う彼女の姿に場の空気が和やかになった。
 が、僅かに混じる鋭い視線を酒井森は感じ取っていた。園芸部の様子を観察するように生徒会の人間が温室の中にいるようだ。
「……どういたしまして。昨日の雨の中の配達ならば大変だったかもしれませんが、今日は快晴でよかったです」
 運び入れが楽にできた、と手帳に配達済と書きながら酒井森は生徒達に話しかける。
『え、雨?』『雨なんてふってた?』
 四片を始めとして何人かの生徒が不思議そうに顔を見合わせた。
 土蜘蛛の檻の中で繰り返し日常を送る彼らにとっては天気という情報は曖昧にぼやけている。
 そして、天気の話題を『さりげなく振った』酒井森を止める理由が思いつかないか、生徒会の人間は止めに入らない。
 チャンスだと酒井森は続ける。配達済と書いた手帳をしまい、スマートフォンを取り出し画面をスワイプする。
「職業柄毎日の天気をアプリで確認しているもので……と」
『あ、スクショモードになってます』
「はは、スマホは苦手なんだけど、持っておくと娘と話がしやすいもので」
『娘さんいらっしゃるんですか?』「ええ。写真も確か保存して」『見たい!』
 四片を始めとする生徒達は、『めったに見かけない外部からの来訪者』の穏やかな笑顔にすっかりを気を許し。
 酒井森もまた生徒達と打ち解け彼らと盛り上がった。彼らの表情は明るかったが、時々酒井森の話す話題に困惑したそれを浮かべる。
『……そういえば温室の花、時々萎れているんですよね』
 花は生徒達とは異なり、繰り返すことはなく咲いては萎れていく。
 酒井森が現状に違和感を覚える生徒達に声をかけようとした時。
『随分と騒がしいと思ったら、恵』『げ! ことね!』
 酒井森が感じていた気配──警戒と殺気が混じったそれが膨れ上がる。生徒会副会長八仙・ことねは仰々しく酒井森に礼をする。
 まるで今温室に立ち入ったように振舞う彼女が、温室に身を潜めていたことを酒井森は既に知っている。
(「蜘蛛族感知は鋏角衆が生得するもの。警戒と殺気は感じていたが、」)
 同胞や仔達の気配は、懐かしさすら覚えるものであった。
 八仙を始めとした同胞と対立するか、それとも対話するか。
「注文の確認を生徒会の人に、と会社からは聞いています」
『……わかりました。案内します』
 対話を選んだ酒井森は生徒達を振り返る。さようならと手を振る彼らの笑顔は生気に満ち溢れ。
「つらいだろうに」
 誰にも聞こえないほど小さく、酒井森は呟いた。

 酒井森を先導する八仙は校舎を通り過ぎ、旧校舎も通過する。
 裏山と学校の境界、木々が生い茂る雑木林の前で漸く足を止める。
『き』『鋏角衆と会えることが出来て、僕は嬉しいくらいだ』
 赤茶の髪を揺らし、オレンジの瞳を細め、酒井森は笑う。目を見開いた八仙は咄嗟に後ずさる。
『ごめんなさい。外部から来た鋏角衆と会うのは初めてなの。私の一族や他の子は戦の後目覚めたから』
 鋏角衆が口にする山。それは葛城山。女王を失った聖地。
「僕は山で眠りから覚めて、山で銀誓館に下った」
『え!? それじゃあ、あの戦の』
 酒井森は静かに頷く。
八仙は狼狽え、迷うように視線を彷徨わせ、やがて何かを決意したかのように深く頭を下げる。それは詫び。
『重ね重ねごめんなさい! 噂には聞いていたけど、まさか、あの時を知っている鋏角衆が』
「顔を上げてください。僕も、生き延びている同胞と会えて本当に良かった」
 おずおずと顔をあげた八仙は酒井森の声に安心したのか、肩の力を抜き木にもたれ掛かる。
『同じ鋏角衆に?偽りを伝えるのは好きじゃないから……ここで起きていることを、伝えるわ』
 八仙は語る。
 数か月前高校前に国見・眞由璃が突然現れたこと。死んだと伝えられていた女王の復活に新世代の鋏角衆達が驚き、女王を匿ったこと。
 彼女がある日土蜘蛛オブリビオンを従えると言い放ち『蜘蛛糸の繭』に次々と生徒や教師を閉じ込めたこと。
 オブリビオンに戸惑う鋏角衆に世話を任せ、土蜘蛛の檻の中で日常を繰り返すようになったこと。
「……成程」
『女王が今何を考えて、あなた達猟兵の浸入を見逃しているのかは分からない。だけど、このままじゃ』
「捕食願望を持つ土蜘蛛に精気摂取だけで生活を続けるのは辛いし、搾取される人間側も辛い」
 無為な消耗を続けるだけの日常と、衰弱する人間達と接して八仙達もまた苦しんでいる。
『もし、あなた達が私達を滅ぼすというのなら、私は容赦しない。だけど、』
 共存の道があれば、と八仙は小さく呟く。
(「檻の中の事情は分かったが……」)
 酒井森は思案する。同胞達が生き延びる道があれば、その道を先導しようと覚悟は決めている。
 国見女王の真意を確かめる必要があり、万が一の時は生徒達を守り避難させる必要もある。
『突然、敵である私に言われたら戸惑うかもしれないけど……私達も、困っている。人間と共存できるのであれば、それでいいの』
「ええ。今この場で回答するのは難しいかもしれません。今できることと言えば……力仕事で人間を助ける事、ぐらいです」
『え?』
 憔悴した八仙に酒井森は、自分の力を見せるように力こぶしを作って見せた。
「共に生きたいと思っているのであれば彼らの力になるのも自然な流れかと思って」
 気さくな微笑みを浮かべた酒井森に八仙もまた、笑う。
『そうね。恵達も助かると思う』
 
 繰り返す日常の非日常に気が付く人間達。
 人との共存共栄を望む鋏角衆。
 沈黙する女王。
 そして猟兵。

 全ての役者は揃い、夕闇が旧校舎を包み込む。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『絡新婦』

POW   :    鋼糸使い
【鋼糸】が命中した対象を切断する。
SPD   :    蜘蛛の領域
レベルm半径内を【蜘蛛の巣】で覆い、[蜘蛛の巣]に触れた敵から【若さ】を吸収する。
WIZ   :    さらなる絶望
【蜘蛛の巣】が命中した敵から剥ぎ取った部位を喰らう事で、敵の弱点に対応した形状の【部位を持つ蜘蛛の部分は分離し、人間】に変身する。

イラスト:koharia

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●4月XX日:n+n外の旧校舎
 旧校舎に夕日が差し込み、繭を赤く染める。
 虚ろな顔をした生徒達の寝床は今日も変わらず彼、彼女達を包み込もうとするが──。
『みんな! これおかしいよ!』
 四片・恵を始めとした園芸部員達の顔に生気が戻る。
 巨大な繭に閉じ込めた人という非日常極まる光景に戸惑いながらも、反射的に人々に声をかけ、繭から引きずり出した。
『絶対にここから逃げた方が良いよ!』『そ、そうだ!』『温室までいこう!』
 園芸部員達を中心とした避難活動は、彼らが正気に戻ったことにより無事完了する。
『ことね……ことねどこ……!』
 旧校舎に逃げ遅れた人がいないか確認していた四片は姿の見えない親友の八仙・ことねを探していた。
 夜闇へと差し掛かる旧校舎に伸びた影が大きく歪み、何かが破壊される音が響く。
『きゃ! ことね、ことね……!!』
 慌てて音のする方、旧校舎の講堂に飛び込めば。
『……ことね?』
『恵……?』
 古びたパイプ椅子に半ばその身を埋めながら、傷だらけの八仙は四片へと視線を向ける。少女の制服の袖は大きく裂けていた。そこから伸びるのは。
『な、なにそれ……蜘蛛!?』
『あ、あ、あ……! 見ないで、見ないで……!』
 鋏角衆の証である蜘蛛の腕を必死に八仙は隠そうとする。
 が、八仙は『それ』に気が付き蜘蛛の腕を広げ立ち上がる。
『恵! 逃げて!!』
 八仙はそう叫び、講堂の天井を見上げる。思わず四片もまた、天井を見上げ──悲鳴を上げた。
 無数に蠢くオブリビオン 『絡新婦』。
 双頭の口から牙を剥き出しにしたそれらは身を震わせ口から糸をまき散らした。
『きゃあああ!』
 咄嗟に講堂の入口まで逃げた四片。
 対して絡新婦と距離を取った八仙は蜘蛛の糸を手に取り、力を込める。
 たちまち無数の手足を麻痺させ、しかし、それでも絡新婦は狂ったように鋭い手足を振りかざす。
 猟兵達が駈けつけたのは、正にその時であった。

●状況
・旧校舎の講堂に大量発生した『絡新婦』との純戦です。
・講堂の入口に四片・恵が、奥に八仙・ことねがいます。
・国見・眞由璃は姿を見せていません(2章では接触できません)
・旧校舎にいた生徒達は既に安全な場所まで脱出し人間に友好的な鋏角衆が警備しています。避難や守る行動は不要です。

●土蜘蛛オブリビオン『絡新婦』
・強化された【二つの頭】を持ち、【絶え間なく鋼糸】で巣を作り出す・鋼糸を放出し攻撃します。
・が、八仙・ことねがユーベルコード:土蜘蛛の檻似た力で[蜘蛛の巣]に触れた絡新婦から【生命力】を吸収することによって動きを鈍らせています。
・上記2点を利用したプレイングに対してはボーナスを追加します。絶対的な正解は無いので自由な発想で状況を利用してください。

●ギミック
①八仙・ことねを講堂に残すか
プレイングに指定が無い場合、第2章後四片・恵を連れて脱出し第3章には登場しません。
彼女を講堂に残す場合、第3章に登場します。
第3章に登場した場合、今までの猟兵の行動を踏まえ『人間との共存共栄』に関することを発言するかもしれません。

②四片・恵を講堂に残すか
プレイングに指定が無い場合、第2章後八仙・ことねと共に脱出し第3章には登場しません。
彼女を講堂に残す場合、第3章に登場します。
第3章に登場した場合、今までの猟兵の行動を踏まえ『土蜘蛛との共存共栄』に関することを発言するかもしれません。

プレイングにNPC2名への記載が無くても判定に影響はしません。
戦闘にプラスのボーナス、マイナスのボーナスもつきません。
安全圏へと自主的に避難した扱いになります。
●NPCの第2章開始時の心情
 ・四片・恵(日常への違和感を気付かせてくれた猟兵達を最大限に信用している。親友ことねの正体やオブリビオンとの接触に驚いている。とても怖いがそれでもことねには助かって欲しいし、この場を切り抜けられたらちゃんと会話したいと思っている)
 ・八仙・ことね(土蜘蛛オブリビオンの暴走に戸惑いつつ対峙していた中親友に正体を見せてしまった。その場にいる人間、猟兵達全てを助けたいと思い土蜘蛛オブリビオンの動きを封じることに尽力している。四片に拒絶されることを恐れているが、化け物と罵られる覚悟もしている)
 ・国見・眞由璃(不明。どこにいるのかも、何を考えているのかも全てが不明)
数宮・多喜


これは……ギリギリ間に合った、と見たいね!
講堂の入り口から飛び込んで四片さんを庇いつつ、奥の八仙さんに助けに来たと声を掛けて『鼓舞』し、合流するよう促すよ。
そして二人とも、ここでこの戦いを見届けておくれ。
即座にテレパスを全開にして、講堂全体を【超感覚網】でカバー……まずは攻撃の意図が何を基にしているかを探りながら専守防衛だ。
絡新婦たちの攻撃衝動が本能に因るものなら可能な限り非殺で、明確な敵意によるものなら遠慮なしと言う風に気合いの入れ方を変える。
周囲に張り巡らされてるのが鋼の糸だってんなら好都合、『マヒ攻撃』を込めた『電撃』の『範囲攻撃』を鋼糸伝いに放ってさらに動きを鈍らせつつ迎撃するよ。



●nの観測外:講堂
 講堂の入口に座り込む四片・恵の耳に、かすかな音が聞こえた。土蜘蛛オブリビオン『絡新婦』の放つ耳障りな声とは異なるそれは。
『バイク……?』
 学校ましては校舎の中ではあまり聞くことの無い音に、四片は振り向く。
「悪いね、伏せてな!」
 響くのは【宇宙カブJD-1725】に騎乗した数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)の声。
 目の前に飛び込んできた【宇宙カブJD-1725】は、数皆の華麗なハンドルテクニックによりその宙を舞う。
 そして、地面に着地したタイヤは激しいスリップ音を立てた。八仙・ことねに迫っていたオブリビオンが一斉に数宮へと牙を剥ける。
「ギリギリ間に合ったね! それ蜘蛛達、あたしに轢き殺されたくなきゃ逃げるんだよ!」
 四片を庇い、かつ八仙からオブリビオンを引き離すようにカブは縦横無尽に講堂を走る。
 あくまでも女子生徒2人の安全確保を前提とした専守防衛に徹し。
『助かる』
「早く四片さんの所へ!」
 数宮の意図を汲んだ八仙は講堂の入口まで無事に移動し、四片は親友を抱きしめる。
 カブに降り注ぐ鋼糸を雷を纏ったサイキックパワーで振り払いながら見ていた数宮は言い放つ。
「二人ともここでこの戦いを見届けておくれ」
(「土蜘蛛と人間。その行く末を見届けるためにも、彼女達は絶対に守る!」)
 土蜘蛛との共存を選ぶか、それとも決別するか。
「あたしがこいつらが暴れている意図を探る。女王様との謁見前に一仕事させてもらうよ……!」
『ァアアアア、アアアアア!!!』
 オブリビオンが双頭を揺らし、吼え、鋼糸をまき散らす。鋭利なそれは講堂内のあらゆるものを切り裂き、蜘蛛の巣の礎となる。
 講堂のありとあらゆる場所を足場としたオブリビオンは、圧倒的な数を持って数宮を包囲した。
 その絶望体な光景に思わず悲鳴を上げる二人の女子高生であったが。
「大丈夫。それじゃあちょっと繋がらせてもらおうか……!」
 ユーベルコード:超感覚網(テレパシー・ブロードリンク)の力で全身にテレパスネットワークを纏った数宮は蜘蛛の巣に触れる。
 巣を足場にしていたオブリビオンの悪意が、思念が、流れ込む。

──スハヤブラレタ!コウゲキアルノミ!
──ハラガヘルハラガヘルウエル!
──テキダテキダスベテテキダ!

 飢えへの恐怖。止められない衝動。
 講堂全体に潜むオブリビオン達の多数が恐慌状態に陥り、本能に従い暴走している。
「成程。蜘蛛の巣をつついちまったのは謝る。……八仙さん! こいつらを一度撤退させるよ!」
 叫んだ数宮は顔の近くにあった鋼糸を握りしめる。麻痺攻撃を込めた電撃の力を注げば、数宮を中心に稲光が生まれる。
『ギャアアアア!!』
『お前たち、一度女王の元へ引け!』
 八仙が叫ぶ。猟兵の力をその身をもって知ったオブリビオンは我先へと旧校舎の奥へと撤退した。
「よし。これであとは──」
 女王との対峙だ、と数宮は呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神楽崎・栗栖
連携・アドリブ歓迎

恵に声をかけてから、ことねを援護
「大丈夫ですよ、私たちも彼女も敵ではありませんから」
「必ずお守りしますから……逃げずに、ここにいてもらえますか?」

ことねのそばで戦う
UCで剣を召喚し、敵が恵の側に来られないよう妨害しながら攻撃
「ご支援、ありがとうございます。蜘蛛は私たちが止めますから、ここで恵さんを守ってあげてください」

次章で将来への意見を聞きたいので、二人にはできれば逃げずに残っていてほしい



●nの観測外:講堂
 土蜘蛛オブリビオン『絡新婦』が歪な足を持ち上げる。鈍く光る、鋼の外骨格が四片・恵に振り下ろされそうとしたその時だ。
「──危ない!」
 赤いシュシュでまとめられていた艶のある黒髪が四片の視界を覆う。
 次に映り込むのは猩々緋の双眸。
『転校生さん!?』
 神楽崎・栗栖(銀朱の魔剣士・f42945)、温室で出会った花を愛する『転校生』との再会に四片は驚いた。
「怪我はありませんか?」
 戦場と化した講堂の中で神楽崎の穏やかな声色や柔らかな笑みは温室で触れ合ったときのそれと全く同じであった。
 しかし、彼の瞳には静かな炎が灯されている。
 異形。
 繭。
 異形の体持つ親友。
 そして、日本刀を手にする転校生。
『……その』
 転校生もまた自分≪一般人≫とは違う。僅かに身構える四片に対し神楽崎はゆっくりと目を伏せた。
 そして落ち着かせるように声をかける。
「大丈夫ですよ。私たちも彼女も敵ではありませんから」
 来訪者──土蜘蛛を殲滅するために神楽崎は今この場に立っているわけでは無い。
 土蜘蛛との同盟の道を選べるのであれば、自分はそれを選びたいのだ。
 そして、
「日常を守ろうと奮闘する『人』がいるのであれば、私はその方を守ります。必ずお守りしますから……逃げずに、ここにいてもらえますか?」
 穏やかでいて、それでいて芯の通った力強い言葉に四片もまた落ち着きを取り戻す。
『うん。私は転校生さんとことねを信じる。だから』
「ええ、彼女もまた日常を守るために戦っています。助太刀に参ります。──舞えよ我が剣、花のごとく!」
 ユーベルコード:剣の舞(ツルギノマイ)が発動する。講堂中に複製された日本刀が神楽崎を、四片を守る。
『ガァアアアア!!』
 ユーベルコードの発動に反応したオブリビオンが一斉に鋼の糸を吐き蜘蛛の巣をつくる。
(「蜘蛛の領域に迂闊に近づけば生命力を失う」)
 神楽崎は四片にその場に待機するよう声をかけ、一気にことねの元へを距離を詰める。
 鋼糸を躱し、日本刀を振るうその姿を視界に捉えたことねは、どこかほっとした表情を見せていた。
『優しそうな見た目して、随分と強いのね』
 銀誓館学園の生徒、その実力を目の当たりにしたことねを守るように神楽崎は日本刀を水平に構える。
「ご支援、ありがとうございます。蜘蛛は私たちが止めますから、ここで恵さんを守ってあげてください」
 恵とことねとの間にオブビリオンは存在せず、安全が確保されている。
『分かったわ……!』
 ことねが力を強め、再度接近してきたオブビリオンの動きを止める。
「この争いが終わった後、話し合いましょう。必ず道は開けるはずです……」
 水平に構えた刃を振り上げ、オブビリオンを一斉に切り払った神楽坂の声が講堂に響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

齋藤・齋
アドリブ/連携大歓迎

過去に戦ったといえ、私も資料でしか見たことのない方ですね、【土蜘蛛の女王】国見・眞由璃さん。
彼女の立場として、これは倒してもいい相手かどうか……交渉への影響も考えるべきでしょうか。

背丈ではそう変わりませんが大人ですから、お二人の前に庇うように立ちます。
絡新婦に対して全力で喪心響を叫び昏睡状態にして倒します。国見さんとの交渉で『遺物排除のための防衛装置である土蜘蛛』を殺した失点としてカウントできなくなる……と、いいのですが。まあ、今更感はあるかもですが、殺害数は少ないほどいいでしょう、きっと。

お二人は好きにしていただいて構いませんが、危険な事はなさらないようにお願いします。




 講堂の入口を蹴破り、齋藤・齋(呪言士・f43758)は土蜘蛛オブリビオン『絡新婦』が群れなす戦場へと飛び込んだ。
 数刻前。旧校舎に潜入した齋藤は、オブビリオンの姿は見かけたが彼らを率いる『土蜘蛛の女王』国見・眞由璃を発見することは出来なかった。
(「姿を隠しているか、既に学校を放棄したか……戦場で彼女と対峙した経験がない以上、彼女の心境を推測するには材料が足りない」)
 銀誓館学園と土蜘蛛の交戦について自分は資料の上でしかそれを知らない。
 猟兵と土蜘蛛オブリビオンの交戦は、猟兵からみれば一般人の解放、女王から見れば侵略を意味する。
(「──倒してもいい相手かどうか」)
 齋藤はそう思案しながらオブビリオンを追跡し、群れなす敵を殲滅すべく現在に至る。

『せ、先生……?』
 齋藤の突然の登場に四片・恵は困惑しつつも声をかけた。
 背丈は自分達と同じだが大人の女性の登場に四片は『自分の知らない先生がやってきた』と思う事にしたようだ。
『ことね! せんせー来たよ!』
『……!』
「お二人とも下がっていてください」
『ガァアアアア!』
 四片と八仙を庇いながら齋藤はゆっくりとオブビリオンの前に出る。
「ご協力ありがとうございます。お二人は好きにしていただいて構いませんが、危険な事はなさらないようにお願いします」
 冷静に言葉を紡ぐ齋藤に呼応するかのように二人も冷静さを取り戻し、それぞれ安全な場所へと逃げられるよう立ち上がる。
『ありがとうございます』
「行動から校舎外へ続く経路の安全は既に確認しています。お気をつけて。大丈夫です」
 『先生』にそう力強く声を駈けられた二人は顔を見合わせ講堂を去っていく。
 その姿を横目で捉えながら齋藤は安堵するように言葉を漏らした。
「これで……力を解放させることが出来ます」
 呪言。
 日本古来より存在していた、森羅万象を汚染する呪われた「言葉」の使い手として齋藤は銀の雨降る世界に存在している。
 言葉は人と人とを結びつけ、そして、全てを喪わせる言の葉。

『ーーーーーー!!!』

 ユーベルコード:喪心響(ソウシンキョウ)を込めた絶叫が講堂を包み込んだ。
 その場で四肢を出鱈目に動かしもがき、己の作り出した巣に倒れ込み、次々に土蜘蛛オブリビオンが昏睡状態に陥る。講堂という音が響きやすい室内でより威力を増したユーベルコードの前に対応できるものはほぼいなかった。

「さて、これで殺した失点にはならないといいのですが……」
 女王国見に対し『異物排除のための防衛装置は殺さなかった』と主張出来れば、マイナスの材料にはならないだろう。殺害数はより少ない方が良い、と考えた齋藤は【天輪】を掲げ、ユーベルコードの直撃を受けても尚立ち上がる土蜘蛛オブリビオンへと視線を向ける。
 屠るのではなく講堂から撤退を促すように繰り広げられる攻撃は、思惑通り土蜘蛛オブリビオンを講堂から逃がすことに成功した。
 無血の選択肢を選んだ猟兵の、その結果は。

大成功 🔵​🔵​🔵​

剣未・エト
僕も大切な、でも正体を明かすのを恐れる人の友人がいる。

(剣で振り下ろされそうな手足を防ぐ)
第二幕には間に合った、ようだねくーちゃん
(肩上の姉貴分視肉もやる気満々で敵に向かって飛び掛かっていく、その隙に背中の地縛霊の鎖を揺らして)
「僕は剣未エト、見ての通り銀誓館学園の生徒で、|人外《ゴースト》さ。だから|八仙さん《貴女》の恐怖も少しはわかる心算だ。その上で、敬意を。助力させてほしい…|起動《イグニッション》!」
(制服姿から王子様姿に変身してUCを歌い八仙さんの傷を癒し再行動可能に)
大切な人の傍に!
(入口まで移動し四片さんを守りつつ再行動の力で敵を鈍らせてほしい)
「色々驚くのも当然だが…どうか彼女の『手』を、握っていてあげてくれないだろうか?」
(入口で合流出来たら四片さんに頼む。言葉を交わす暇はなくても、心を伝える事はきっとできるだろうから)
「牙無き者の剣たらんとする。故に共に存えんとする想いに、指一本触れさせるものか!」
(強い意志で詠唱銀を剣に変え、UCを歌い回復と再行動しつつ戦闘)



●nの観測外:講堂
『ガァァァアアア!!』
 ギチギチと牙を鳴らし吼えた土蜘蛛オブリビオン『絡新婦』が講堂に残った二人の生徒を狙う。
 絶体絶命の状況に二人が思わず目を閉じたその時であった。
「させないっ!」
 見知らぬ学校≪銀誓館学園≫の制服を纏った少女が講堂の中央に躍り出る。
 金の髪は揺らしながら、剣未・エト(黄金に至らんと輝く星・f37134)はエトの剣≪エトワール≫を振りぬく。
 エトワールからの光はまるでスポットライトのように猟兵を照らし、オブリビオンの手足を薙ぎ払う。八仙を背中で庇った彼女は口を開いた。
「第二幕には間に合った、ようだねくーちゃん」
『!』
 肩上に乗る姉貴分視肉はぷるりと体を震わす。言葉は発しないがやる気満々だなと剣未にはその心が伝わっている。剣未の死角から鋼糸を飛ばす不埒なオブビリオンなど許すものかと更に体を震わせ視肉が反撃する。
 土蜘蛛オブリビオンと人ならざるモノの戦いが繰り広げられる中、剣未もまた攻撃を再開する。
『ガァアア!』
「甘い!」
 土蜘蛛オブリビオンの鋭い手足とエトワールの剣戟が金属と金属がぶつかり合うような激しい音を立てた。
 そして、その音にじゃらりという金属の擦れた音がまじる。それに気が付いた八仙は思わず顔を上げ驚いたように声を上げる。
『鎖……?』
 戦闘に乱入した少女の背中から伸びた鎖は、正に人ならざる者の証であった。
「僕は剣未エト。見ての通り他校≪銀誓館学園≫の生徒で、|人外《ゴースト》さ。だから|八仙さん《貴女》の恐怖も少しはわかる心算だ」
『!』
 人外である自分を庇う人外の登場に、八仙は目を丸くする。あなたは私を、私達≪土蜘蛛≫を滅ぼしに来たのかと口にしようとしたその時剣未が振り返る。
 銀の瞳の中に灯る炎は大きく、真っ直ぐに守るべき存在を見つめていた。
「その上で、敬意を。助力させてほしい…|起動《イグニッション》!」
 剣未の良く通る声が舞台の上で響く。解放された力は風を生み、奔流となり、講堂中に吹き荒れた。
 思わず四片も八仙も、そしてオブビリオンも耐えられず膝をつく。
「……準備完了! さあ、続きと行こうか!」
 白で統一された、王子様のような出で立ちへと姿を変えた剣未。彼女へと向けられた視線に土蜘蛛オブリビオンの悪意が混じり、じりじりと距離を縮める。しかし、それに怖気づくことも、動揺することも無い。
 すうと息を吸い、剣未の口から零れだすのは歌であった。
「♪ ~~」
 ──其れは銀の雨降る時代。死と隣り合わせの青春を駆け抜けた勇猛無比なる生命使い達が放つ、無限の輝き、生命の賛歌!
 ユーベルコード:独唱曲『生命賛歌(偽)』(アリアセイメイサンカ)によって床に蹲っていた八仙の体に生命力が沸き上がる。剣未の行動の意図を理解した八仙は、講堂を覆う蜘蛛の巣を握りしめ土蜘蛛オブリビオンから更に生命力を吸収する。
『恵の元に早く……!』
「ああ、勿論!」
 自分の作戦が成功することを確信した剣未は、四片の元へと移動する。
 ユーベルコードの力は一般人の彼女にも効果を与えているのか、顔色も良く瞳に力がみなぎっていた。
『わ!』
「落ち着いて聞いて欲しい。色々驚くのも当然だが…どうか彼女の『手』を、握っていてあげてくれないだろうか?」
『え?』
「人と、人ならざるもの。僕や彼女は今までこの世界の神秘に隠されてきた。けれど心は同じだ」
 人外の力を持っていてもその心は人と同じ。誰かを支え、そして支えられなければ立っていられない。
(「僕も大切な、でも正体を明かすのを恐れる人の友人がいる」)
 人ならざる存在の、その心に寄り添って欲しいと、わがままを言って申し訳ないと剣未を微笑む。
 そして、
『……はい。ことね、今そっちに行くから! こいつらみーんなやっつけちゃって!』
『ええ! 貴方も早く!』
 人外の、しかし、人と共に歩む存在を受け入れた八仙が叫ぶ。
「了解だ!」
 鋼糸をエトワールで裂きながら剣未は再びユーベルコードを発動する。

「牙無き者の剣たらんとする。故に共に存えんとする想いに、指一本触れさせるものか!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

大町・詩乃
武器巨大化した一対の天耀鏡を、一つはことねさんに、もう一つは恵さんに配して、盾受けでかばえるように。
更に結界術・高速詠唱で自分達の周囲に防御結界を形成。

その上でオーラ防御を纏い、彼女達を絡新婦から護る為、前に出ます。

二人には「ことねさん、恵さん、貴女達は私達猟兵が護ります。
ですが、これからどうするか決めるのは貴女達です。
後悔しないよう自分の心を正直に見つめて決めて下さいね♪」
と優しく語り掛ける。

絡新婦に向き合い、「眞由璃さんは本能と理性の間で思案されていました。
私は共存できればいいなと思っています。
でも貴方達が本能に従って生徒さんに害なすのであれば、眞由璃さんにお話した通り、斃させて頂きますよ。」と警告。

防御結界を越えてくる鋼糸は衝撃波・範囲攻撃で吹き飛ばして対応。
響月で楽器演奏し、《帰幽奉告》発動。
敵対する絡新婦を斃します。
(ことねさんの援護と連携)

絡新婦の亡骸に手を合わせた後、ことねさんと恵さんに向き合い、
「それでは今後を決める為、眞由璃さんに会いに行きましょう。」と提案しますよ。



「させません」
 戦場に大町・詩乃(|阿斯訶備媛《アシカビヒメ》・f17458)の声が響く。
 その声色は昼間の明るい転校生のそれでは無く、猟兵としての凛としたもので。
 転校生ではなく【戦巫女装束】を纏った少女、否、神の登場に土蜘蛛オブリビオンが一瞬動きを止める。
 威光に怯みを見せた敵であったが、それでもオブリビオンとしての本能は講堂にいる全員を貪りつくすことを選択した。
『ガァアアアアアア!』
「きゃああ!」
 四片が悲鳴を上げ、八仙は身構える。
「ことねさん、恵さん、大丈夫です」
 大町は宙に浮かせた【天耀鏡】に結界術を込める。ヒイロカネ製の神鏡は瞬時に超硬の盾と化しその大きさを変え四片と八仙を守る役割を果たす。
「もっともっと防御を重ねましょうか」
 状況を好転させるために神の権能を最大出力で開放し、結界術を高速で展開。完璧な防御結界が完成した。
『ガァアアアアアア!』
『わああ! ……って全然攻撃が当たらない!』
「はい♪ 絡新婦の鋼糸も牙ももう通用しませんよ♪」
 ようやくいつもの明るく、そしておおらかな心を写し取ったかのような朗らかな声で大町は2人に声をかけた。
「ことねさん、恵さん、貴女達は私──いいえ、私『達』猟兵が護ります。ですが、これからどうするか決めるのは貴女達です」
『え……?』
『っ、』
 四片と八仙はそれぞれに驚いた顔を見せる。
「後悔しないよう、自分の心を正直に見つめて決めて下さいね♪」
 学校で見知った共に声をかけるように、大町は言の葉を紡ぎ一歩、また一歩と土蜘蛛オブリビオンに向かって歩み続ける。最強の盾が2つ完成したのであれば、次は最強の矛──猟兵がオブビリオンを斃す存在となるのみだ。
 敵の濁った双眸と、神の藍色の瞳とがあう。その青に滲むのは憐憫のそれで。
 威嚇するもの。鋼糸を吐きだそうと構えるもの。怯え逃げようとするもの。
 大量の異形──土蜘蛛オブリビオンを前に大町は向き合っていた。
「眞由璃さんは本能と理性の間で思案されていました。私は共存できればいいなと思っています」
 
 ──私は、猟兵の皆さんが私のような存在をどう思っているのか知りたかったのです。問答無用で討伐されなくて幸いでした。

 昼に出会った土蜘蛛の女王、眞由璃は猟兵が土蜘蛛勢力を殲滅しない選択肢を選んだことに安堵しているようだった。
(「眞由璃さんの姿は見えませんが、彼女は今でも思案しているのでしょう。無暗に殲滅することも、力の無い方を巻き込むのも避けたいです……」)
 女王が自分の進退を考えている今も尚配下の土蜘蛛オブリビオンは飢えている。
 猟兵との交戦で興奮し、生存本能を昂らせ攻撃してくる個体がそれでもいるのであれば。
「でも貴方達が本能に従って生徒さんに害なすのであれば、眞由璃さんにお話した通り、斃させて頂きますよ」
 最後通告です、と言い漆と金で装飾した龍笛【響月】を大町は構える。猟兵が戦闘の態勢を整えたことを理解し撤退する個体もいれば、目の前にいる生気溢れた存在に飛び掛かる個体もいる。
『……同胞が迷惑をかけるわ』
 鋏角衆である八仙の目の前で、土蜘蛛オブリビオンは最後の一線を越えてしまった。
 土蜘蛛との共存を目的に冷静な話し合いをしてくれたことへの感謝と、それでもこれから始まる戦闘へのやるせなさが混じった声に大町は振り向き、困ったように言葉を紡ぐ。
「なるべく、苦しませないように終わらせます」
 神代に存在した不死の怪物の骨が月の光に照らされた。

「この曲は貴方達の葬送の奏で。音に包まれて安らかに眠りなさい」

 ユーベルコード:帰幽奉告(キユウホウコク)。魂を震わせる音色は奏でられ、襲い掛かった土蜘蛛オブリビオンは次々に斃れていく。鎮魂歌のように静かに、祝詞のように神秘の力が込められた音が講堂を包み込んだ。


 土蜘蛛オブリビオンの亡骸が一つ、また一つと講堂に並べられる。
 切り裂かれた緞帳を大町と四片、そして八仙は協力して縫い合わせていた。
「……と、完成しましたね♪ 二人ともご協力ありがとうございました」
 お礼と飴ちゃんです、と差し出されたそれを二人はゆっくりと手に取り口に含む。
 自然な甘みが広がり、場の空気が和む。
『……甘い』
「一仕事終えた後に甘いものいいですよね」
 うんうんと頷いた四片と共に、大町は緞帳をばさりと土蜘蛛オブリビオンの亡骸に被せた。
 骸の海へと還っていくその体はすぐに塵と化すだろうが、それでも絡新婦の亡骸に手を合わせ、祈りを捧げる。一人の猟兵、一人の人間、土蜘蛛。そして土蜘蛛の亡骸。
 先程までの戦闘が噓のように静まり返った講堂で、猟兵はゆっくりと口を開く。
「それでは今後を決める為、眞由璃さんに会いに行きましょう。ことねさん、恵さん」
 弔いの次に待ち受けているものは何か。
 猟兵は少女達と共に次の選択肢を選ぶため、歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

酒井森・興和
【第六感】に従って逆鱗を【咄嗟の一撃で投擲】し八仙を援護
同時に恵を背に【かばう】
女王の新しい仔達なのか?でも今は実害ある敵と見るよ

僕が庇ってもここは危険だけれど
僕は四片さんに現実を見て欲しい
世界結界ですぐに忘れても
八仙さんのあなたを護る覚悟のもと
身内に向かい弱った身で蜘蛛族の本性を晒して戦う姿を
若い娘には酷なのは承知だが
…蜘蛛族が生き残るには人間との共生無くしては無理だと思うので

さて八仙さん
絡新婦を敵とし僕も彼女らを討とう
僕は陣ヶ峰の酒井森
あなたより七百年も古いがまだ戦えるよ
【落ち着き】のある声掛けで励まし八仙の行動援護

恵と自分への敵UCは【気配感知】して三砂で【なぎ払い、怪力でカウンター】三砂の刃で敵の糸【切断】
【早業で追撃】UCの飛斬帽に【重量攻撃】乗せ敵を切断しながら傷口焼く

彼女らが暴走なのか女王の指図なのか
ともかく理性は無さそうだ
狂った同胞より正気の同胞を優先する
八仙さん達は正真正銘、この世代の若者
理解し合って欲しい
死なぬ程度の負傷は【覚悟】済みだ
僕を盾にしても二人を護って戦おう



●nの観測外:講堂
 鋏角衆である酒井森・興和(朱纏・f37018)は、躊躇することなく講堂に飛び込んだ。
 軋む板張りの床を蹴り上げ、結んでいる赤茶の髪が振りほどけるのを気にも留めず状況を確認する。
 同胞である八仙と彼女を囲むように牙や硬質の手足を伸ばす土蜘蛛オブリビオン『絡新婦』が睨みあう。オブリビオンの二つの顔、その瞳は殺意と狂気に塗りつぶされていた。
(「まずい!」)
 自身のの第六感は数秒後の惨劇を予知していた。脳内に警鐘が鳴り響くのと同時に酒井森は蜘蛛の巣を足場に飛び上がる。
「届け!」
 講堂に差し込む月の光を浴びながら、朱塗の逆鱗【朱纏】が投擲された。
『ギャァアアアアア!』
 鋼の頑丈さを持つ蜘蛛の糸の噴出速度よりも早く無数の刃がオブリビオンに降りかかる。
 悲鳴をあげ距離を取った隙をついて酒井森は八仙と四片を庇うように陣取った。そして、八仙にむかって問いただす。
「……女王の新しい仔達なのか?」
『女王が連れてきたのは確か。だけど、』
 自分達とは違う。
 鋏角衆の八仙は恐怖が入り混じった声で答えた。
 土蜘蛛オブリビオン──世界の理を捻じ曲げて蘇った存在──は同胞では無いと彼女は考えているようだと酒井森は解釈した。
(「今は実害のある敵とみなして問題ないだろう」)
 敵として斃しても猟兵と土蜘蛛の交渉に支障をきたす恐れは限りなく低いだろう。
 しかしこのまま二人を庇い続けての戦闘は、そもそも交渉のテーブルに辿り着ける可能性を減らしてしまう。
 一か八かだ、と酒井森は一つの考えに至る。
 心を落ち着かせ、普段通りの穏やかな声色になるよう心がけながら、口を開いた。
「……このまま。僕が庇ってもここは危険だけれど。僕は四片さんに現実を見て欲しい」
『え』
「すまない。煙に巻いたり胡麻化すのは得意ではなくてね。今この場所、いや、この世界≪シルバーレイン≫では、昔から争いが起きていた」
 シルバーレイン世界に存在する世界結界によって超常の存在や現象は覆い隠されてきた。
 人類と生命根絶を目的とするゴーストの存続をかけた争いを一般人は『認知』することが出来なかった。
「八仙さんは、あなたを護る覚悟の元この場にいる。あなたは……僕、いや、僕達が怖いか?」
『……!』
 弱った身で蜘蛛族の本性を晒して戦うこと。それは若い土蜘蛛にとって何より苦痛であることは理解している。
(「若い娘にとっては猶更酷なのは、承知している」)
 人間とは大きく異なる外観をしている蜘蛛族がこの先、人間との共生共存を選ぶのであれば避けては通れない。
『ううん。最初は驚いたけど今は怖くない。この場を切り抜けられたらちゃんと話がしたい』
 分かりあうってそういうことじゃないの?
 緊迫した講堂に響く少女の声。八仙ははっとした様子で四片へと振り返る。
 笑い合う少女達の向こうに、人間と土蜘蛛の未来が見えるようで。
「よかった。……では八仙さん。僕らは敵を討とう」
『……はい!』
「僕は陣ヶ峰の酒井森。あなたより七百年も古いがまだ戦える」
 親友四片が自分を受け入れ同胞で先輩の酒井森が味方として参戦する。
 八仙はもう一人で戦う必要はないのだ。酒井森の落ち着きのある声に緊張も和らぎ、土蜘蛛オブリビオンを冷静にあしらう余裕すら生まれていた。
『が……アアアアア!』
『一時的だけどこれで動きは止まるはず!』
「ああ。はっ!」
 移動速度の鈍った土蜘蛛オブリビオンが放出する鋼糸を躱すのはとても容易く、むしろ大きな隙が出来た所を酒井森は迎撃する。
 愛用の【三砂】を振り回し、力を込めてオブリビオンを鋼糸ごと薙ぎ払う。
『やった!』
 歓声をあげる四片のすぐそばにオブリビオンの牙が迫るとその気配を察知すれば。
「暴走しているのか、女王が指図しているのかは分からないが……!」
 理性なく人間を襲うのであれば、斃す敵だと素早く身を翻し、ユーベルコード:追笠(オイガサ)を発動。
「飛斬の笠を繰るは、我ら鋏角衆の得手とするところ!」
 摩擦熱で炎を纏った飛斬帽【丹霞】を投げつける。炎と仕込まれた刃はオブリビオンの硬い外骨格を切り裂き、中の肉を焦がす。
『ギャアアアアア!』
 生命力を奪われたオブリビオンにとって、裂傷とその傷を焼く熱は致命傷だ。次々と倒れるオブリビオンを前に、酒井森は追撃を止めない。
 追い詰められたオブリビオンが咆哮を上げ、鋭い牙で首を食いちぎろうと迫っても決して臆することはない。
「負傷は覚悟の上……!」
 新世代の土蜘蛛と、新しく彼らと絆を結ぼうとしている人間。
 彼女達指一本触れさせないという覚悟を抱いた猟兵を前に、オブリビオンは全滅したのであった。


「狂っているから、と判断したが……」
『気にしないでください。貴方が助けてくれなかったら、私達は今頃助からなかったから』
 八仙は酒井森に頭を下げる。
 土蜘蛛オブリビオンの残滓、否、亡骸を弔いながら四片を合わせ三人は講堂を清掃していた。
『まゆりん、どこ行っちゃったんだろう……えっと、女王様は、土蜘蛛の皆を大事にしてるんだよね?』
 八仙と酒井森から土蜘蛛のこと、銀誓館学園のことを聞いた四片は周囲を見回す。
『さっきの怖い奴がいなくなったの知ったら、見に来るだろうなって思うんだけど……』
 様子を伺うだけでは無く、最悪猟兵達と交戦する可能性もある。
(「……葛城山の時を、繰り返すのか」)
 酒井森は二人に気が付かれないよう距離を取り、奥歯を噛みしめる。
 四片と八仙。
 二人を講堂に残す選択肢を選んだ彼の元に──女王が、来る。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『土蜘蛛の女王『国見・眞由璃』』

POW   :    眞由璃紅蓮撃
【右腕に装備した「赤手」】が命中した部位に【凝縮した精気】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
SPD   :    疑似式「無限繁栄」
自身の【精気】を代償に、1〜12体の【土蜘蛛化オブリビオン】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
WIZ   :    土蜘蛛禁縛陣
【指先から放つ強靭な蜘蛛糸】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:柊暁生

👑11
🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※注意事項※
 第三章は土蜘蛛の女王「国見・眞由璃」との決戦です。
 ただし、プレイングで【土蜘蛛勢力と同盟を結ぶ】ことも可能です。
 同盟を結ぶ提案をしたい場合は、プレイング内に【同盟】を、戦闘を行う際は【戦闘】を、【】も含め必ず記載してください。
 記載の無いプレイングについては自分の読み間違いによる判定・リプレイ執筆を防ぐため返却、もしくは執筆を行わない場合があります。

 交渉の結果、土蜘蛛と同盟を結ぶ場合はシステム上🔴の累積による失敗でシナリオが完結します。
 同盟を結んだ場合、檻は残されたままになります。

●nnnnnnnnnnnnnnn:未来予測不能地点到達
 夜の旧校舎。埃をかぶっていた室内灯が一斉に灯った。
 猟兵達と八仙・ことね、そして四片・恵がその眩しさに顔を覆い目を細める。

「先生方に『協力』して修理してもらったのです。──今後、暗いままだと園芸部の皆さんが『寝起き』する際に危ないと思って」

 土蜘蛛の女王『国見・眞由璃』の声はステージの上から響く。どこからか吹き込む風は女王の黒く長い髪を揺らし。
『まゆりん、それ……』
 四片が指さすのは、女王の右手に装備された巨大な【赤手】。八仙が咄嗟に猟兵達を庇うように飛び出す。
『国見様! この方達は私を助けてくださいました! どうか争いは』
『ことね。オブリビオンを屠るのは猟兵の皆様の使命です。我儘を言うのは感心しませんよ』
 女王としての威厳が込められた言葉に八仙は膝をつく。つい数時間前の『大人っぽい生徒会長』とはかけ離れた国見の様子に、四片は言葉を失っていた。

『改めまして、『私の学校の生徒』を助けていただいたお礼を言わせてください。ありがとうございました』
 女王は優雅に猟兵達へと一礼し、僅かに口元を綻ばせる。
『単刀直入に申しましょう。私は、土蜘蛛勢力として猟兵勢力に交渉をしたいのです。……いいえ、これはきっと、命乞いに当たるでしょう。
 私は紛い物であれ、いまひとたびの生を得ました。ならば土蜘蛛の女王として、私は「新たな子供達」を育ててきました』
 子供達。
 それは土蜘蛛オブリビオン。
 そして、新たな世代の土蜘蛛達。
『私は今度こそ使命を果たし、そして、生き延びたい。無限繁栄を続けたい。ふふ。あの時一斉殲滅の憂き目にあい、今日この日に二度目の殲滅を受けようとしている中でも、私の本能は変わらないまま』
 だから、と女王は言葉を紡ぐ。
『土蜘蛛の檻を大規模化し、内に取り込む住民を増やしたいのです』
 猟兵達が騒めく中、四片が慌てた様子で手を上げる。
『そ、それって学校だけじゃなくて町の皆を食べちゃうってこと!?』
『いいえ。私達が求めるのは人間の精気。その対象が増えれば一人から頂戴するそれも減り住民を捕食して命を奪う必要は無くなります』
 国見の言葉に四片は首をひねる。彼女はうーんと考え込んでいる傍らで、八仙は不安げに女王と猟兵達の顔を交互に見やる。
『し、しかし、それだけでは……猟兵の皆様が、土蜘蛛を見逃すわけが』
『承知しています。そこで提案です。この世界で他勢力への対処が必要になった際、【土蜘蛛勢力は猟兵の要請があればその指示に従い戦力を提供します】』
 学校内に存在する十数名の土蜘蛛勢力と、尚繭の中に眠っている土蜘蛛オブリビオンの群れが三十体程。
 大規模な作戦を遂行するに辺り斥候や突撃部隊として運用してください。
 女王の言葉に八仙も納得したようだ。

 女王からのカードは卓上に揃った。
 提案を受け入れるか。
 土蜘蛛オブリビオンを率いる国見・眞由璃を今この場で斃すか。

 講堂の空気が張り詰めていく中で、四片は顔を上げた。

『あのさ! 精気を吸うってこう、体力が足りなくなっちゃう感じ? 超疲れる的な?』
 数秒前までの緊張感を台無しにす、いつもの明るい園芸部部長からの問いかけに、思わず国見は笑ってはいそうですと回答する。
『大勢の人から少しずつ頂戴できれば疲労感はそこまで……』
『大勢の人がいればいいんだね! じゃあさじゃあさ、【町に人がたくさん集まる様になったり、イベントか何かで活気づけば広く浅くで大丈夫なんだね!】』
『ちょ、恵!』
 八仙は慌てて四片を止めようとするが、これは人間側からの相談だからと話は続けられる。
『この町も高校もこのまま過疎化が進んだらたとえ土蜘蛛の新しい拠点になっても意味なくなっちゃうじゃん。こんな廃墟だらけの町できょーぞんきょーえいを願うのなら、土蜘蛛の皆もいいアイデアを考えてよ!』
 共存共栄。
 その言葉を耳にした猟兵達の選択は。
 
●各勢力からの提案
 眞由璃は以下の事を猟兵に提案しました。また八戦が講堂に残っていたことで更に1点提案が追加されました。

 ・土蜘蛛の檻を大規模化し、内に取り込む住民を増やすことで住民の命を奪わず人間と共存できる。
 ・今後土蜘蛛勢力は猟兵の要請があれば指示に従い戦力を提供する。
 同盟を結んだ場合今後硅孔雀がリリースするシルバーレインシナリオ内で、【女王の助言、土蜘蛛勢力に援軍を頼む】選択肢が追加されます。
 
 講堂に残っていた四片は人間側?の意見として以下の事を提案しました。
 ・町を檻の中に含むのであれば、町の人から精気を吸収する問題の解決が必要。
 ・町に人がたくさん集まる様になったり、イベントか何かで活気づけば広く浅く精気を与えるだけで住民の負担が減るのではないか。

 NPC四片の提案は一例です。
 土蜘蛛との共存共栄の方法に正解はありません。
 皆様の自由な発想、行動でこれは!と思ったものにはばんばんボーナスが乗ります。

●戦闘
 眞由璃との戦闘を選ぶことも勿論可能です。
 戦闘が発生した場合NPC2名は即座に講堂を離れ、安全な場所へと避難します。
 残存する土蜘蛛勢力は学校を去り、硅孔雀がリリースするシルバーレインシナリオ内で集団での行動は当分行われなくなります。
神楽崎・栗栖
女王と【同盟】を結ぶ
町の人間を増やしたほうが共存共栄につながる点については、四片さんの案に賛成
町おこしの手段の一つとして、園芸部のみなさんが作ったこの見事な花園も役立つかもしれませんね

最後に、四片さんにシュシュを返す
「先ほどは提案をありがとうございました。あなたと最初にお話ができて、本当によかった。どうかこれからも健やかに」



●n測定不能領域
 土蜘蛛の女王『国見・眞由璃』の提案と、人間四片・恵の提案に静かに耳を傾けていた神楽崎・栗栖(銀朱の魔剣士・f42945)はゆっくりと手を上げる。
『発言して頂いて構いませんよ。神楽崎さん』
「ありがとうございます。私は、昼に温室を訪れてから土蜘蛛の皆さんとは同盟を結びたいと考えていました」
『土蜘蛛側が共存共栄を提示する前からですか?』
「その通りです。個人的な話になりますが葛城山を繰り返したくはなかったので」
『……ほう。それで、神楽崎さんは私達を受け入れると』
 葛城山という言葉に僅かに国見が反応するのを神楽崎は見逃さなかった。
(「葛城山殲滅戦。戦いの記憶」)
 神楽崎の心に残る楔、殲滅戦は今回再現されることはなかった。
「土蜘蛛の檻を拡大し多くの町民から少しずつ土蜘蛛勢力を維持できる量の精気を摂取する。そのためにも多くの町民や観光客で町を活気にあふれた場所としたいという四片さんの考えに私は賛同します」
『ありがとう!』
 いつの間にか近くにいた四片はにっこりと笑う。
「人を集める方法を私なりに考えましたが、園芸部の皆さんが作った花園を外部に公開するというのはいかがでしょうか?」
『あ、それいいかも!』
「銀誓館学園の卒業生や在校生の中には植物に関わる仕事に就いたり、私のように園芸を嗜む人もいます。猟兵の方々の中にも花園に興味を持つ人もいるでしょうから、口コミ効果は期待できると思います」
 土蜘蛛勢力と人間の同盟締結後、銀誓館学園を窓口として猟兵や一般人にB町をアピールし、観光客を増やすという提案に人間・土蜘蛛は共に肯定的な反応を示す。
『また皆や皆の仲間に会えるのなら大歓迎!』
『わかりました。猟兵と銀誓館学園は私達土蜘蛛勢力をある程度監視することが出来、土蜘蛛は皆さんを通じて今の世界情勢を把握できると。町が賑わうだけでなくお互いに利益のある事業になるのであれば大歓迎です』
「良かったです」
 猩々緋の双眸に眠る炎は穏やかに揺れ、神楽崎は微笑む。

 花園の宣伝や各機関との連携について大まかな話し合いは和やかなムードの中完了した。
 謎の転校生であった神楽崎は猟兵として次の戦場へと向かう。
(「その前に」)
「四片さん」
『え?』
「先ほどは提案をありがとうございました。あなたと最初にお話ができて、本当によかった。どうかこれからも健やかに」
 そう言って神楽崎は己の髪を纏めていた赤いシュシュを渡す。
『うん……この学校に来てくれてありがとう!』 
 そう四片が感謝の言葉を発するのと同時に、葛城山から穏やかな山風が吹き込むのであった。

※トミーウォーカーより……戦闘と区別をつけるため、眞由璃の交渉に応じた場合は、結果を失敗でカウントしています。シナリオ失敗すると、眞由璃の檻はそのまま残ります。

失敗 🔴​🔴​🔴​

齋藤・齋
【提案を受け入れる】

正直なところ、直ちに頷くのは難しい案件です。
生命力の提供者、あるいはその知人などが「精気を騙し取られたせいで体調不良、病気、あるいは死亡した」と訴えた場合、土蜘蛛と人間の人口比が逆転して一人頭の負担量が増大する場合、ずっと閉じ込めるわけにもいかないでしょうし、旅先などではどうするか。耐える、あるいは携行することができるとなおいいかもしれません。
今できないから受け入れない、などという気はありません。課題としてクリアしていくために、忌避する理由は必要でしょう。

オブリビオンである事については私は詳しくありませんが、万が一の場合でも個人の罪科を種に求める事はありません。ご安心を。



●n測定不能領域
「正直なところ、直ちに頷くのは難しい案件です」
 壇上に立つ土蜘蛛の女王『国見・眞由璃』からの提案に齋藤・齋(呪言士・f43758)は静かに返答した。
『土蜘蛛の檻を大規模化し、内に取り込む住民を増やすことで住民の命を奪わないという提案を受け入れないということですか?』
 国見からの問いかけに、齋藤は金の瞳をゆっくりと伏せ、首を振った。
「土蜘蛛側からの提案を否定するわけではありません。勿論、土蜘蛛という種を拒絶し、否定する意図もありません」
 齋藤はまず、自らが土蜘蛛の討伐を行わないと明言した。あくまでも国見の言う住民の命を奪わないという提案に対し異議を唱えたのだ。
『承知いたしました。それで、何故に難しいと?』
「精力の吸収について、人間の命を奪わないという事と人間の安全が必ずしも一致しないからです」
 女子生徒に指導をする若い教師のように齋藤はこほんと咳ばらいをし、言葉を続ける。
「もし仮に人間側が生命力の摂取を受け入れたとしましょう。死なないように生命力が奪われた。そして、弱っていた時に不幸が重なりその人は倒れる」
 生命力の提供者、提供者の身内や知人は土蜘蛛を指さして叫ぶだろう。
「『精気を騙し取られたせいで体調不良、病気になった、あるいは死亡した』、と」
『……!』
 国見と、彼女を心配していた八仙は目を見開く。今まで学校という未成年者の集団に紛れていた土蜘蛛達は老人や病人ことを考えていなかった。
『成程。その点は考慮できていませんでした』
「あと考えられるトラブルの種は、土蜘蛛と人間の人口比が逆転して一人頭の負担量が増大する場合でしょうか」
 土蜘蛛オブリビオンを今以上に増やせば、それは即ち人類への脅威となる。捕食者と被食者のバランスも考慮しなければならない。
『……不要な衝突は避けましょう。土蜘蛛側として宣言いたします。これ以上の土蜘蛛オブリビオンを繁殖させないと』
『国見様!』
 思わず声を上げた八仙を静止し、女王は続ける。
『その代わり八仙のような鋏角衆や蜘蛛童達の安全は保証してください』
「ええ、私の一存では決められませんが、何かあれば私の名を出して猟兵を止めても構いません」
 人間を襲う土蜘蛛オブリビオンに対しての対処法については土蜘蛛オブリビオンのこれ以上の繁殖を行わないことで合意された。
「オブリビオンである事については私は詳しくありませんが、万が一の場合でも個人の罪科を種に求める事はありません。ご安心を」
『恐れ入ります』
 土蜘蛛の女王であり、オブリビオンである国見はうっすらと微笑んだままで。
「さて、土蜘蛛と人間の人口比は変わらないとして……しかし、人をいつまでもB町に閉じ込めるわけにもいかないでしょう」
 人間も土蜘蛛も、銀の雨の降る世界で生きるのであれば旅行や転出入に対面する。
「旅先や仮にB町を離れる土蜘蛛が居て、彼らへの生命力の提供やその代償をどうするか」
『……流石は世界を渡って来た猟兵ですね。多くの世界を見て、それぞれの統治方法を熟知していますね』
 国見は齋藤の指摘で、もっと人間に寄り添った生き方が必要だと気が付いたようだ。
「今できないから受け入れない、などという気はありません。課題としてクリアしていくために忌避する理由は必要でしょう」
『わかりました。精力吸収を行う人間の基準を改めて考え、私達が最低限生きられる量の摂取を行い……』
「耐える、あるいは携行できる技術があれば尚いいかもしれませんね」
 猟兵達の持つ技術や他の世界からの智慧が役に立つのではと齋藤は淡々と続ける。
 誰よりも冷静に、そして、どちらの立場にも肩入れすることも無い中立な立場でいた齋藤と会話しながら国見や土蜘蛛はヒートアップすることも無くルールを作っていくのであった。

失敗 🔴​🔴​🔴​

大町・詩乃

【同盟】

町おこしのアイデア出しに盛り上がる場の片隅で、しゃがみこんで『の』の字を書く詩乃。
(Xで某奈良県民botさんのポストを愛読し、奈良県の実情を理解する身として、絶対確実な案である『イオ●を誘致』と言いかけた所で『さすがにそれは無理!』と気づき、妙案の無い自己嫌悪でいじけ中…)

奈良は良い所なんですよ、でも田舎なんです💦

誘致…💡(ピコンと何か閃く)

ここは少しだけ神の力を使いましょう。
天候操作で雨を降らしてこっそり《神域創造》。

一時的にB町全域を神域として絶対支配権を確立し、『竜脈使い』で未使用状態の龍穴を誘致。
無茶な変更は歪みを招くから、水の流れをわずかに変えるイメージで、極力自然な感じでB町に龍穴が形成されるように。

四方を山に囲まれ、水も十分なこの町は、実は風水が追求する 「蔵風納水」という吉地でもあるので龍穴を作りやすい筈。

これなら人々の頑張りを少しだけ後押しする形に収まるかな。

「お役に立てなくて申し訳ありませんが、皆さんの幸せとこの地の発展をお祈りいたしますね♪」と笑顔で。


数宮・多喜
【同盟】

(自然体で)
よう、女王さん。
アタシら猟兵が来るまで、良く持ち堪えてくれたね。
……ギリギリのタイミングでしか介入できなかったのは謝るよ、予知の精度にも色々な事情があるんだろうさ。
生き延びる為の餌場を増やすと聞けばそりゃカチンと来なくもないけど、アタシら人間も似たようなことはやってる。
それにたった今、四片ちゃんから素敵なアイディアも出たしね!

それを踏まえて、アタシからの提案や頼み事は次の3つかな。
ひとつ、檻と外界との出入りは自由にさせる。
ずっと精気を吸われ続けて弱るよか、時々リフレッシュしてもらった方がいいだろ?
ふたつ、全力でイベントなりブランド化なりで町おこしをして、観光客や移住者を増やす事に努める。
四片ちゃんの受け売りだけどさ、多分これが一番大事で大変だろ。
だから…みっつ、希望する土蜘蛛をパートナーとなる人間と二人で外界に出し、見聞を広めさせる!
今の流行とかを土蜘蛛と人間両方の立場から見て考えて、皆でどう盛り上げるか頭を捻ろうじゃないか。

新たな未来の為さ、アタシらも応援するよ!


酒井森・興和
【同盟】◎
猟兵と成っても僕はやはり鋏角衆
女王との対面は緊張するねえ
改めて
お目に掛かります、国見の女王様
賎しい鋏角衆が女王にご意見します事ご容赦を

有り体に申して僕は土蜘蛛領継続に賛成したい
土蜘蛛も八仙さんや人間の護衛についた同胞もまだ人を喰わない童達もこの世界の住人であって猟兵の敵では無い
でもヒトを害すれば猟兵と能力者は容赦無いでしょう
先程の「子」等にけして人を襲わず喰わないよう教育を
逸話するなら女王が海に還してでも。
銀誓館の支配が行き渡る今の世ではそれが最低限の鉄則…と
葛城戦の後、銀誓館に囚われ降った者として御無礼を承知で申し上げます

ですが人を狩らない為の檻の拡大ならば目零しされるでしょう
四片さんの案に乗れば
拙案ですが
園芸部がいる
この街各所の放置温室を復旧し緑花寄りの催しやバザー
もしくは温室を四季やさぼてん、種別に拵え鉢売り等…
それを再町おこしとして高校生徒会主催で提案しては?
地道でもいずれ地域や地方紙の記事に載り温室見学に遠足、交流会に利用され人の行き来も広がれば檻拡大も叶いましょう


剣未・エト
【同盟】◎女王に対して失礼にならない言動で
「初めまして女王。お会いできて光栄です」
丁寧に挨拶と自己紹介
四片さんもいるのでオブリビオンの説明、女王の言う通り敵対する関係なんだ。でも…
かつて僕の先輩達、銀誓館の皆は人々を守り戦い、志を共に出来る異なる種と手を結んで世界に抗い続けた
その果てに…
「生と死の境界線すら取り払った…女王、僕はゴーストです。でも僕には親がいる。生命のようにゴーストの親から生まれました」
|死《ゴースト》と生命は相容れぬ敵対関係、そんな変えられない世界の定めすら先輩たちは変えた。
「ただの想像ですが、貴女と剣を交えるしか無かった事を先輩達は後悔していたのかもしれない」
「牙無き者が害されるのは問題外です、そうじゃないなら僕は貴女達を諦めたくない」

●提案
1.B町移住希望者を銀誓館の卒業生等事情がわかり対処出来る能力者から募る
2.ゴーストに性質が近い土蜘蛛族幼体の蜘蛛童に精気の代替としてゴーストの飢えを満たす無限の食糧『視肉』で補えないか試す(視肉の子は常駐できるくらい沢山いる)



●n測定不能領域
 土蜘蛛の女王『国見・眞由璃』はゆっくりと目を閉じ、しばし思案に耽る。
 思い出すのは始まりの日。意識が戻り、呼吸をし、己の手足が再び動くのを思い出し。
『──ああ。やりなおせる。こんどこそ』
 今度こそ土蜘蛛勢力を失わない。
 骸の海より蘇った直後、夜空を見上げそう誓った日から随分と時は流れた。
 殲滅戦を生き残った同胞の子孫にに匿われ、身分を偽り、学校を支配した。
 土蜘蛛の檻を作りあげ、ゆっくりと生徒や生徒といった民間人を閉じ込めた。
 小さな楽園の元、土蜘蛛の新たな子孫、土蜘蛛オブリビオンに餌を与え続けてきた。
 しかし。己と土蜘蛛オブリビオンは猟兵の不俱戴天の仇。
 彼ら達は学園に侵入し、民間人洗脳を解除しながらついに蜘蛛糸の繭の目前にまで迫った。
 もはや、『再度』の殲滅戦となっても仕方のない状況だ。国見は静かにその運命を受け入れる覚悟を決めていた。
 しかし。
「よう、女王さん。アタシら猟兵が来るまで、良く持ち堪えてくれたね」
 見知った顔なじみに挨拶するかのように猟兵数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は茶色の瞳を細めて笑った。
 彼女とは対照的に、恭しく一礼するのは猟兵酒井森・興和(朱纏・f37018)だ。
 国見が斃されたことが切欠で銀誓館へと下った彼は、蘇った女王とは初対面で在り、少し緊張した面持ちで口を開く。
「お目に掛かります、国見の女王様。賎しい鋏角衆が女王にご意見します事ご容赦を」
『顔を上げてください。土蜘蛛の血を引くものは全て私の同胞です。猟兵の皆様には、随分とご迷惑をおかけしました』
 酒井森に答える国見の声色から、段々と緊張の色は薄れていく。
 「初めまして女王。お会いできて光栄です」
 剣未・エト(黄金に至らんと輝く星・f37134)が恭しく礼をすれば、肩の上に乗った視肉の『くーちゃん』も畏まる。
 ここに集まった猟兵達が望んだ答え。
「皆様挨拶は終わったようですね~。折角ですから、落ち着ける場所でゆっくりとお話したいな、なんて」
 大町・詩乃(|阿斯訶備媛《アシカビヒメ》・f17458)が藍色の瞳を輝かせ、猟兵と女王に向け明るい声をかけた。

『よし。準備できたよー。へへ、部費で買ったお茶が余ってて良かったねー』
 四片がテーブルの上に紅茶の入ったカップを次々に置く。がちゃりと音を立てれば、隣にいた八仙が咳ばらいをし注意する。
 洗脳から解放され温室に避難していた生徒や教員を一旦帰宅させ、温室にある休憩用のベンチには猟兵と国見、そして八仙と四片だけが居た。
『それで……これは、くーちゃんさんの分!』
『……!』
「ありがとうと言っている」
 剣未の肩から降りたくーちゃんが器用にカップを両手で抱え飲む。
 くーちゃんという人ならざる存在にはじめは驚いていた四片であったが、旧校舎からの移動やお茶会の準備中剣未から話を聞いていた。
『古民家の奥に、そのマヨイガっていうのが合って、くーちゃんはそこに……』
「うん。今はマヨイガの出入口は銀誓館学園のプール地下に固定されている。彼らは平和に暮らしているんだ」
 銀誓館、と四片は復唱する。
 自分と同世代の学生が人を『ゴースト』の危機から守るため戦い、世界に抗い続けたという話は最初酷く荒唐無稽だと感じた。世界結界がある限り人はゴーストを認識しないと教えられても未だに実感がわかないのだ。
「八仙さんには一度話したけど、僕は最初銀誓館学園の存在は知らなかった。彼らが土蜘蛛勢力と接触し、縁があって彼らの元で共存する道を選んだ」
 酒井森もまた身の上話をしながらこの世界の隠されてきた話を四片にしている。
 八仙もこれ以上は隠せないと土蜘蛛と銀誓館学園の接触、そしてその顛末を人間である四片に語った。
 人と来訪者の歩みについて漸く人間は知ることになり。
『……まだ、夢かなんかみてるのかなって。その、昔あった戦いは土蜘蛛が負けて終わった。だけどまゆりんは蘇っちゃった……でいいんだよね?』
『そうです。私はかつては土蜘蛛であり、そして今はオブリビオン。彼ら猟兵の敵です』
 ゴーストとオブリビオン。似て非なる人ならざるものの。
「……ギリギリのタイミングでしか介入できなかったのは謝るよ、予知の精度にも色々な事情があるんだろうさ」
 数宮は頭をぺこりと下げた。
「生き延びる為の餌場を増やすと聞けばそりゃカチンと来なくもないけど、アタシら人間も似たようなことはやってる。だから、今日のことは一旦水に流す……ってことでいいかい?」
 その問いかけに国見と八仙は頷く。かつて銀誓館学園と対峙し、滅びの道を選んだ土蜘蛛は今和解の道を選んだ。二人の土蜘蛛の様子に安堵したように酒井森が頷く。
「和解を選んでいただけて嬉しいです。土蜘蛛が生き延びて、そして新しい生き方を選べるのであれば、それを猟兵の僕としても受け入れたい」
「生と死の境界線すら取り払った……女王、僕はゴーストです。でも僕には親がいる。生命のようにゴーストの親から生まれました」
 剣未は改めて国見に向き合う。四片がシルバーレイン世界の真実を知り驚愕したように、国見はゴーストと人間の融和に驚き興味深げに彼女の話に耳を傾ける。
 |死《ゴースト》と生命は相容れぬ敵対関係、そんな変えられない世界の定めすら先輩たちは変えた。
「ただの想像ですが、貴女と剣を交えるしか無かった事を先輩達は後悔していたのかもしれない」
 温室に沈黙が一瞬訪れ。
「牙無き者が害されるのは問題外です、そうじゃないなら僕は貴女達を……諦めたくない」
 猟兵として、そして新たにシルバーレイン世界に生まれた命である剣未の問いかけに国見はわかりました、と深く頷きながら息を吐いた。
 こうして、猟兵と土蜘蛛の共存に向けた会談が始まった。

●共存共栄の道:土蜘蛛の今後
「有り体に申して、僕は土蜘蛛領継続に賛成したい」
 どちらかというと女王や八仙達にではなく、他の猟兵に訴えるようにまず酒井森が口を開いた。
 土蜘蛛達が根城にしていた檻は完全に解体されるが、B町から彼女達を追い出す、とはどうしても言えなかった。
「土蜘蛛も八仙さんや人間の護衛についた同胞も、まだ人を喰わない童達もこの世界の住人であって猟兵の敵では無い」
「ん~私の生まれた世界でも、色々な種族が住んでいます。土蜘蛛の皆さんも移住するなどは考えなくてもいいと思います」
 ヒーローズアースに住まう人々から祀られている神の大町にとっては地に様々な種族が栄える事はごく自然な事。
 無為に住処を奪う理由もないと意見する。
「となると。檻は残すで問題はないね。ただ……今回みたいに閉鎖空間が作られるのはトラブルの元さ。檻と外界の出入りを自由って訳にはいかないのかい?」
 数宮の問いかけに国見は頷く。
『精気を効率的に吸収するために檻を閉じていた故の密室でした。お互いに歩み寄れるのであればその必要はありません』
『あの……童達の食料は』
 彼らの世話人である八仙が心配そうに声を上げる。
 剣未や酒井森から外の世界の話は聞いているが、精気を吸うような捕食関係が現代のシルバーレインの世界で許されるわけはないことは理解していた。
「ヒトを害すれば猟兵と能力者は容赦無いでしょう」
 はっきりと言い切った酒井森は、不安げに顔を見合わせる土蜘蛛勢力に穏やかな声で言葉を紡ぐ。
「先程の『子』等にけして人を襲わず喰わないよう教育を行える体制を整えるのはいかがでしょうか」
 銀誓館の支配が行き渡る今の世ではそれが最低限の鉄則だ、というのが彼の意見だ。
「……葛城戦の後、銀誓館に囚われ降った者として御無礼を承知で申し上げます」
「銀誓館に一度連絡するのは僕も賛成だ。卒業生の中に移住希望者が居るかもしれないし、何より、食糧問題について解決の糸口をつかめるかもしれない」
 剣未が提案するのは二つ。一つはB町移住希望者を銀誓館の卒業生等事情がわかり対処出来る能力者から募る。
 そして、
「ゴーストに性質の近い蜘蛛童への精気供給に、ゴーストの飢えを満たす無限の食糧『視肉』で補えないか試せないかと」
『……!』
 その言葉に嬉しそうに跳ねるくーちゃん、視肉に一斉に視線が集まる。
『え、えええ……すっごい美味しくて、食べてもらうのが好きだっていうのは教えてもらったけど』
『世界にはこんなにも不思議な存在がいるのですね』
「煮て良し焼いて良し生で頂いても良し、さぁ召し上がれ!……だそうだよ」
 ユーベルコード:視肉大披露(クーチャンノシニクヲオタベ)の力により、生命への殺戮衝動を抑える満腹感と美味の感情が増幅される。
 真夜中のお茶会の茶請けにはぴったりだ。
『とても興味深い話です。私がこの世界を去った後も、銀誓館は様々な来訪者と出会ってきたことを理解しました。まずは彼らの元に参り、保護を受け入れてもらえないか交渉してみます』
 こうして土蜘蛛の檻を維持しつつ、現代の銀誓館に協力を仰ぐ体制がまず発足されることになった。

●共存共栄の道:人間との共存
 土蜘蛛が今後シルバーレインの世界で生きていくための方針は決まった。
「となれば、次に考えなきゃいけないのは町の活性化だね。四片ちゃんの受け売りだけどさ、多分これが一番大事で大変だろ」
『はい! 過疎化する町が活気づけば少しずつの元気補給でなんとか……なるんだよねまゆりん?』
『ええ、そうです』
 国見と四片の会話を聞いていた酒井森は自分の提案をいう事にした。
「町に人を集める、となると一般の人を相手にするのであれば、園芸部の力を借りるのはどうだろう」
 街に点在する放棄された温室の復旧や、緑化寄りの催しやバザーを開催する。
 温室内であれば四季の花やサボテンなど多種多様な植物が育てられる。
「いずれ地域や地方紙の記事に載り温室見学に遠足、交流会に利用され人の行き来も広がれば。檻拡大も叶いましょう」
「銀誓館との交流を深めるのであれば、卒業生のネットワークを利用して宣伝活動がより楽にできるだろうね」
 一般人と銀誓館、両方との協力をどのように進めていくか、園芸部としてどこまで活動できるか話し合いは白熱した。
 その片隅で。
「……ぅ、あうう」
『え、えっと大町さん?』
 いつの間にか花壇の隅に移動して『の』の字を書く彼女を見かねた八仙が手を伸ばそうとし──。
「う、う、奈良は良い所なんです……でも」
『でも?』
「田舎なんです……」
 様子を見に来た四片は、そうだよねえと苦笑する。
「なので、私が考えてしまったアイデアはですね……その……あまりにも、荒唐無稽で、実現が不可でして……」
 しどろもどろになる大町の様子に、猟兵達や国見もその様子を伺う。
「その……ン」
『え?』
「イのつくあれを……誘致すれば、なんて」
 思わず思いついてしまったことに自己嫌悪を抱えてしまった大町は更にのの字を増やす。
 温室内に風が吹く。その風を受けた全員の心に浮かぶのは、絶対的巨大スーパーモール。
『わ、わかるよその気持ち。映画館とかゲームセンターとかもあるし……ことねとも偶に遊びに行ったよね』
「にぎやかな場所だと娘から聞いているし、気持ちは分からなくもないかな」
 猟兵と土蜘蛛達が和気あいあいと盛り上がる中、国見だけは不思議そうに首を傾げていた。
『大町さん』
「はい?」
『皆さんの仰る施設の事ですが……四文字のあそこ、とは違うのですか?』
 国見が疑問を抱くのは当然の事であった。
 彼女が斃され、そして復活するまでの間に例のモールは今の名前へと変えたのであったから。
 女王はまだ知らないのだ。あのモールが地方に与える絶対的活力を。
『まゆりん知らなかったんだ……』
 四片の呟きに、ついに我慢の限界だとばかりに数宮は笑い、声を上げる。
「成程! 地域活性化も大事だけど、その前にもっと皆色々と勉強する必要があるんじゃないかい? だからさ、希望する土蜘蛛をパートナーとなる人間と二人で外界に出し、見聞を広めさせる! 今の流行とかを土蜘蛛と人間両方の立場から見て考えるのは」
 どうかなという数宮の提案に土蜘蛛の二人は勿論歓迎すると頷いた。

●nの出口
 土蜘蛛と人間、それぞれが選ぶ道は定まった。
 話し合いがひと段落し、猟兵の出したアイデアを八仙と四片が纏める。
「……💡」
 二人に労いのお茶を出していた大町は、あることを閃いた。
 そっと温室を出て、ユーベルコード:神域創造(シンイキソウゾウ)を発動させる。
(「私に出来ることは、人々の頑張りを後押しする事です……♪」)
「おや雨だ」
 夜が開けようとしている中、植物を潤す慈雨に気が付いた剣未とくーちゃんが温室の天井越しに空を眺めた。
 誰かがユーベルコードを使ったかもしれない、とは思いつつその誰かが声を上げなければ見て見ぬふりをするのもまた一興。
 雨雲の無い空から降る水滴一つ一つがアシカビヒメの神域と同じ環境を作り上げ、B町全域を神域として絶対支配権を確立する。
「……いい風も吹いてきた」
 温室の扉を開け、葛城山から吹く風が酒井森の赤茶の髪を揺らす。
(「四方を山に囲まれ、水も十分なこの町は風水が追求する『蔵風納水』にかなった吉地です」)
 大町の考えた通り、未使用状態の龍穴が点在するB町周辺の環境を神域の中で作り変える。
 無理に捻じ曲げるのではなく、あくまでも水の流れを僅かに変えるように地脈の流れを変えた。
「完成です♪」
 B町がこれからにぎやかになるのを、そのために奮闘する人々を後押しできるよう大町は力を込めた。
「お役に立てなくて申し訳ありませんが、皆さんの幸せとこの地の発展をお祈りいたしますね♪」
 そう彼女が告げた時、漸く夜が明ける。
 不意に降った雨に濡れていた温室や旧校舎に朝日が差し込み──。
「新たな未来の……アタシらも応援するよ!」
 朝の空気、その清々しさのせいなのか、数宮もまた、ユーベルコード:ぶれる観測結果(マタナニカミョウナコトヲオモイツイタナアイツメ)を発動していた。
 このユーベルコードは別のユーベルコード:希望顕現(ウィッシュクラフト)を呼び。
『……みてみて! ほら、朝焼けと虹! まゆりん、ことね! すっごくきれいだよ!』
『ええ、そうですね。夜が明けて……本当に綺麗』
 人間と猟兵、土蜘蛛が見た光景は、朝焼けの中作り出される巨大な虹だった。
 それはまるで架け橋であるかのように輝いている。

失敗 🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:失敗

完成日:2024年10月09日


挿絵イラスト