あらざむる愛にあふこともがな
●血脈
己が生きているということが、脈々と紡がれてきたことの証明である。
脈打つ己が心臓の音を聞けば、それがどんなに永き歴史を紡いできたのかを知ることができる。
律音。
神城・星羅(黎明の希望・f42858)は、胸に当てた己の掌に伝わる鼓動に笑む。
「これで合ってますか、義兄さん」
星羅は師である義兄の教えにしたがって、己が鼓動というリズムでもって己が音律の陰陽師たる力を磨いている。
連日に続く鍛錬も苦にはならない。
彼女は生まれながらの貴族である。
尊き血脈の末端と言えど、しかして多くの愛に育てられて成長したと言える。
自分でもそう思うのだ。
未熟な身であれど、一生懸命にしていればきっと報われると家族に教えられてきた。
けれど、いつだってそうだ。
懸命さで報われるものは多くはない。
懸命になったらかといって、必ずということはないのだと。
それは残酷なことであったし、それでも美しき世界はそれ以上のことを己には教えてくれなかった。
愛は冷たい旋風のような悪意によって連れ去られてしまう。
「無理なんかしていません。大丈夫です」
義兄の言葉に星羅は頭を振る。
己の体のことをおもんばかってくれているのだと理解できる。これもまた愛の形の一つであろう。
彼女は一度愛を喪った。
目の前で無惨にも奪われた。
形があるものは崩れるというが、形なきものだって崩れるのだ。
ひび割れた心を慰める和歌も音色も、彼女の傷を癒やしてはくれなかった。
「いつだって奪われるのは当然なんです。もう私のような子を生まぬためには」
その懸命さが彼女の地位を確立していく。
邁進する、というのならばきっとそうなのだろう。
幼き身であるという言い訳を聞いてくれるほど、世界もオブリビオンも優しくはない。
だからこそ、己に優しさと今一度の愛を与えてくれた者たちに報いなければならないのだ。
「そのために私はがんばるんです」
何度喪っても貫きたいと思う心がある。
それが彼女の強さであろう。源であろう。
だから、今も義理とは言え家族たちとともにいる。
愛は一つではない。
様々な形があり、色がある。
義理の家族たちを見て、強くそう思うのだ。
「いつか」
いつか、その時が来るのかもしれない。
彼らのように将来を誓う唯一を見つける時が。
いや、できるのだろうか、とも思う。
それは朧げな希望。
されど、求めて止まぬ愛だった――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴