ダンゴダンゴダンゴ・コーデ
●お花見イベント
ついに実装されたお花見イベント。
ヌグエン・トラングタン(欲望城主・f42331)にとっては、満を持して送り出したイベントである。
苦労も多かったが、しかし、リリースしてしまえばこっちのもんである。
「さて、評判はどんなもんだ?」
プレイヤーたちは楽しんでくれているだろうか。
期間は一週間。
この期間限定という言葉に大抵のゲームプレイヤーたちは弱い。
こぞってイベントエリアにやってきては、三色団子を集め出したのだ。
「ふむ……」
「どう?」
己の妻たちも興味津々である。
なにせ、彼女たちも三色団子を作り出すために協力していたのだ。それは言ってしまえば、料理の味が他人にどのように評価されているのか気になる料理人の性と同じだっただろう。
「結構好評みたいだね」
「わっ、勝手にイベントやってるって思ったけれど、三色団子早食い大会やってたんだ……」
「しかも優勝者は22本!? あれを!?」
妻たちはヌグエンが引っ張り出してきたリザルトやゲームプレイヤーたちのアクティヴグラフなどを見て喜んだり、驚いたりしている。
そう、ゲームプレイヤーたちというのは、運営側である自分たちが思う以上に想像力がたくましい。
ないなら作ってしまえばいい。
そう言うかのように彼らは自分たちが主催した限定イベントを大いに勝手に楽しんでいるのだ。
「お腹壊さなかったのかな」
「言ってもゲームの世界だからね、ここは。早食いだから……えっと、お腹より咀嚼のスキルがあれば……」
「なら、魔食者一強じゃない?」
「それもそうかも」
「いや、あれはモンスターを食べるジョブでしょ。三色団子はモンスターじゃないから関係ないよ」
ヌグエンはその時の様子を動画で引っ張り出す。
見ると霊鬼士のゲームプレイヤーが自身に憑依させた霊鬼を利用して高速で三色団子を咀嚼している様子があった。
「そんなのアリなの!?」
「アリなんだろうね……ゲームプレイヤーのみんなは本当に私達の予想を斜め上に行くね……」
「あ、これは何?」
妻の言葉にヌグエンは首を傾げる。
「なんだ、あの緑色の液体?」
よく見ると彼らは三色団子といっしょにこれを頬張っている。
水? ポーション?
いや、どちらでもない。
「そう言えば聞いたことがある。東方……未実装領域にあると言われている伝統的飲料『緑茶』」
「なんだそりゃ」
「玉露、新茶、抹茶……一つの茶葉からいくつも派生していく奥深い……茶道と呼ばれる求道者たちの習い事もあるそうだよ」
妻の言葉にますますヌグエンはよくわからんな、と思う。
しかして、ゲームプレイヤーたちが美味しそうに飲んでいる所を見ると、よほどの味なのだろう。
「ああ、どうやら三色団子がなんのお茶に合うのかって談義しているんだね」
「ふむ。ヌグエン、あれを再現はできないか?」
「つまり?」
「もう一回出張してくれ、ということだよ」
マジかよ、とヌグエンは思ったが、他ならぬ妻の頼みである。
きっと彼女たちはあのお茶も屋台エリアで出したいと思っているのだろう。ならば、行かねばならない。
「わかった。ひとっ飛びいってくら」
そう言ってヌグエンは訪れたことのある世界へと転移していく。
彼が戻ってきてからまたお茶の選定などもあったが、そうして再現したアイテムはやはり屋台エリアで飛ぶように売れて好評だったのだ。
加えて、この季節限定のイベントは、スクショ勢……詰まる所、ゲーム世界の光景をスクリーンショットに収めることを趣味にしているゲームプレイヤーたちにも好評だったようだ。
「なにしてんのかなって思ったけど、写真を撮ってたみたい」
「やっぱり桜がエモいんだって」
「エモいってなに?」
「えっと、感動した、とかそんな感じ?」
「映える! って言ってるゲームプレイヤーもいたよ?」
「本当にゲームプレイヤーさんたちの言葉って面白いよね。次から次によくもまあ、あんな思いつくものだよ」
妻たちはそんなゲームプレイヤーたちの行動の一つ一つに感心する。
それに、この世界が綺麗だ、と。
良いものだと思ってくれるのはノンプレイヤーキャラクターである自分たちにとっては、誇らしいことだ。
まるで自分たちが褒められているように思えてならない。
「ね、あれは何してるのかな?」
「なんか投げてる……えっ!? ダメージ表記!?」
見やれば、ゲームプレイヤーたちは三色団子を刺していた串を投擲して遊んでいる。
しかも、何故かアイテムとして残った串を魔改造して強化した謎の投擲アイテムが生まれている。
「どういうこと!?」
「あれってただのアイテムの付随マテリアルでしょ!? なんでダメージでちゃってるの!?」
彼女たちは大慌てである。
けれど、これもまた平和である。
他にすることないのか、と思うほどにゲームプレイヤーたちは飽きもせず多くの創意工夫でもって、今日も彼女たちを大いに困惑させるのであった――。
成功
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