ＨＡＰＰＹ❤ＢＢＡレンタイン😘
其処は幽世――現代社会で居所を失った過去の郷愁が織り成す儚き幻想の世界。
現役バリバリのナウでヤングな行事たるバレンタイン様など存在しないのだ。
……などという事はなく、日本におけるバレンタインの起源は1958年頃とされているので、そうでもない。めっちゃ昭和である。割と最近ですね！
『その頃はＢＢＡも若かったのじゃ……』
なんか聞こえた。
そうかな、とミカエラ・マリットは首を傾げた。山田枠（なぜか宿敵が大勢いる人の通称）として、何かに決着つけた方がいいかもとも思ったが、悲しいかな事件を予知したグリモア猟兵当人は現場に出向けない。山田だし。
そう、今でこそドローン入れ歯を発射したりやたらクッキーを焼いたりしている『最恐・妖怪ババア』だが、かつては恋するＭＯＢＡ（モダン・ババア）だった時期もある。多分ある（非公式設定）。そして今、秘められしモバ心でドキがムネムネしてしまってる。12歳女児に何見せとんねん。
『これ――あなたが落とした入れ歯ですか？』
さっき、そう言ってなくした入れ歯を拾ってくれたイカしたナイスガイの妖狐、ＢＢＡもう一目惚れしてしまった。妖狐って大体イケメンだから仕方ないよね。
『ま……待っとくれ！ お前さ……』
グキィィィッ！！
追いかけようとした瞬間腰が逝った。
ＢＢＡは悶絶した。最恐妖怪も腰と膝の劣化には耐えられなかった――ＢＢＡにはもう、スローモーション演出と良い感じのＢＧＭを背負ってイケメンと追いかけっこするヒロイン力が残っていなかった。ＢＢＡは泣いた。己の老化に涙した……乙女心がクッキークラッシャーである。もっと優しくクリックしてあげてほしい。
第一、あのイケメンの妖狐とＢＢＡは釣り合うのだろうか？ 白ならぬ黒い恋人、いやグロい恋人とか言われかねない。だがそこは最恐妖怪、年齢の壁如きに屈するＢＢＡではなかった。
『これ、そこの骸魂！ 儂に若さをよこせぇぇぇっ！！』
『ええっ！？』
「はい？」
予知を視せられていたミカエラも思わずキョトンである。確か骸魂が妖怪を飲みこむんだったよね？ 妖怪側がそのへんの骸魂をとっ捕まえて合体することあるの？？？？
とにかく、ＢＢＡなんか適当な美女の骸魂と合体したらしい。ご覧ください。この、ふわり風になびく艶やかな白髪、枝のように細い手足、黒いドレスからこぼれそうな豊満な肉体、キラリと白く輝く――入れ歯――！
『ＢＢＡじゃ！！！』
美女の成分がＢＢＡに勝てなかったよ。残当ってやつですね。でも美女どこ行ったの？
急転。だがその時、ＢＢＡは気づいた――常日頃悩まされている関節痛や腰痛肩こり、その他の体調不良がすっかり消え去っていることに！
『おお、若さじゃ……若さが漲っておる！』
ＢＢＡは喜びに震え、走り出した。すごい、膝が痛くない。筋肉痛が時間差で来たり、歩くだけでよろめいたりしなさそう。それどころか、自分史上最高速度で走れている気がする。やだ、イケメン追うどころか、車と並走しちゃえそう……っ！
『ヒィーッヒッヒッヒッ！ 貴様の力は儂のものじゃあ、妖怪ターボ美女！』
『イヤーッ！ ＢＢＡはイヤーーァァッッ！！』
解説。
ＢＢＡに吸収された骸魂がターボ美女であったため、ターボＢＢＡが完成したらしい。
骸魂は泣き叫んで嫌がっていた。暴走したＢＢＡの恋心はもうノンストップである。駄菓子屋に置いてあったチョコレー刀を躊躇なく万引きし、今まさにイケメン妖狐の背へ迫っていく――！
「これってだれがひがい者さんなんですか？」
ミカエラは考えた。この事件、誰にどう解決を頼んだらいいのだろう。
まあ、とりあえず殴ればいいかな……って。
成功
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