アラビアン・バレンタインナイト!
やって来たUDCアースの世界に甘い雰囲気が漂っているのは、気のせいではないだろう。
だって今日はそう――バレンタインなのだから。
そして現代に近い世界では人形態で過ごしている笹乃葉・きなこ(キマイラの戦巫女・f03265)は、勿論UDCアースに赴いた今日は人の姿であるが。
クソダサTシャツにホットパンツ、まだ寒い時期だからその上からアウターなどを着込んでいるような、そんないつもの格好とはちょっぴりだけ違って。
化粧はリップだけで済ませ、出かける前はシャワーもきちんと浴びてきているのは、いつも通りなのだけれど。
今日の服装は、TPOは弁えた範囲内の露出にそこそこ抑えたキュートなワンピースと……それとあともうひとつ、さり気なく身に着けて。
それなりにお洒落をしてきたその理由は、ラピーヌ・シュドウエスト(叛逆未遂続きの闇執事ウサギ・f31917)から聞いていたから。
今回のお出掛けは、お洒落な店に行くのだと。
なので、そこそこお洒落をしてやって来たものの。
ラピーヌに連れられてやってきたその店に足を踏み入れれば。
「……!?」
瞳を見開いて、若干気後れしてしまうきなこ。
元々野生児であった彼女にとっては、オシャレすぎて。
だってそこは、まるで千夜一夜物語の中に迷い込んでしまったような、異国情緒溢れるお洒落すぎるプラネタリウムカフェであったのだから。
出かけようと誘われ、お洒落な店とは聞いてはいたものの……まさか、きなこの基準ではこんなおしゃれすぎるカフェには来るとは考えてもいなかったのだ。
だが逆にこの店は、美意識と自意識が高い、自分の美学に生きるラピーヌらしいチョイスで。
今回は模範囚としてのボランティアではなく、仮釈放ボーナス休暇で、きなこを誘って、この千夜一夜物語をコンセプトとした催しを楽しもうとやって来たのである。
そして入店すればまずは、千夜一夜な世界の装いに衣装チェンジ。
ラピーヌが選んだのは、上品な装飾がじゃらりと付いた豪華な王族風のもの。
おしゃれな彼女らしい男装の麗人な格好である。
「どうかな、似合うかな? 豪華な王族の衣装も、ボクなら上品に着こなせるけどね?」
ラピーヌはそういつものように得意気に口にしながらも。
同じように借りた衣装に着替えてきたきなこの姿を見て、うんうんと頷く。
「君の踊り子姿もよく似合ってるね。自分が似合うものをよく分かっていて、エキゾチックなデザインやしゃらりと鳴る装飾もなかなか洒落ているよ」
きなこの装いの美点や長所も、見つけ出してはあれこれ絶賛する。
そんなきなこの格好は、自前ならば露出度つよつよであったかもしれないけれど。
でも今回は店側が用意したコスだから、そこまで露出が高すぎる服はあるわけもなく。
それに元は野生児とはいえ、もう猟兵として5年も暮らしているから、露出度のTPOは弁えているのである。
ということで、王族と踊り子に変身すれば、お目当てのスイーツ……の前に。
「席、空いてないだべなぁ」
「じゃあ時間潰しがてらに、アラビアン風のキャンドルホルダー作りでもしないかい?」
想像以上の人気ぶりで席が空くまでまだ順番待ちだという事で、待ち時間まで暇になってしまって、そう提案するラピーヌ。
きなこも待ち時間に何もしないよりはマシと考えて、頷いて返せば。
ふたりでいざ、キャンドルホルダー作りに挑戦!
「ガラス製容器にモザイクタイルを貼り付けるだけなんて、ボクにとっては簡単すぎるだろうけど」
そういつものように言うラピーヌの声を聞きながらも。
出会った当初なら内心、毒を吐きながら作業していただろうきなこも、もう何度も付き合ってきたからか、彼女のそんな言葉にも慣れたように特に気にせずに。
実際やってみると結構頭を使うと、そう真剣そのものなラピーヌと一緒に、やはり同じように真剣に作業を進めて。
あーだこーだとしっくり来るデザインを試行錯誤して。
完成したその時……丁度空いたと、カフェの席へと案内される。
それから、席に落ち着けば。
「折角だから、作ったキャンドルホルダーをカフェの席で実際に使ってみようか」
「せっかく作ったからなぁ、そうするべ……、!」
ふときなこは目に入ったそれに、瞳を見開く。
キャンドルに火を付けるためにラピーヌが取り出したライター。
懐中時計の蓋のようなアンティーク調のデザインのそれは、ラピーヌっぽいものをと一生懸命選んで、誕生日に自分が贈ったものだったから。
いや、使ってくれている姿を見ても、何も言わない素面顔のきなこだけれど。
尻尾はゴキゲンに左右にゆうらゆら……内心はすごく嬉しいみたい。
そしてラピーヌも、会った時から実はお見通し。
きなこが、自分が誕生日に贈った甘い桜の香りな洋酒系の香水を使っていることは。
香りが洋酒系だからと、うすーく足首につけている程度であっても、ちゃんと。
でも下手に弄ると機嫌を損ねてしまうのでタイミングを見計らっていたのだけれど。
告げるなら今だと……キャンドルの灯りに照らされ醸し出されているムーディな空気の中で、ラピーヌはきなこへと送る。
「ボクのイメージにぴったりの上品なアンティーク調のデザイン、とても嬉しかったよ。きなこも香水も使ってくれて、ありがとう」
誕生日プレゼントを貰って嬉しかったことや贈ったものを使ってくれている、感謝の言葉を。
そして本来ならば、ムーディーな雰囲気は苦手で。
最悪興味がない他人と来店していたらイライラしただろうし、限界を超えて退店後気疲れしていただろうが。
でも……尻尾は相変わらずふりふり、ゆうらりゆらり。
「首とかにもつけたかったけど……せっかくのスイーツが台無しになってもだから、足首にちょっとだけつけてきたんだべ」
ラピーヌがいるからか、イライラはしなくて。むしろちょっぴり嬉しかったから。
そして、運ばれてきた宝箱をぱかりと開ければ。
「この財宝チョコレートはなかなかデザインが洒落ているね」
出てきた宝石や財宝の様なチョコを、そう紡ぐラピーヌと共にきなこも楽しんで――。
(「その見た目しゃれてるチョコは、コーヒーには甘すぎるかなぁ。けど、こっちの宝石のはどれも絶妙の味だべ♪ こっちのチョコには入ってる酒は、いいブランデー使ってるなぁ」)
……と思ったら、フードファイターでもある彼女は、真剣な顔でチョコを内心評価。
けれど、はっと我に返れば。
「……うん、どれもしゃれてて、美味しいなぁ」
ふたり一緒に、楽しくチョコを味わって食べて。
それから試しにやってみた、トルココーヒーの飲み物占いの結果は――。
「取っ手の方に流れてるのは……あ、ラピーヌ! 大きな幸運に恵まれる、だって!」
「飲み口の方に流れているのは……直感を過信せず、結論を急がずじっくりと考える、か。ボクはいつもそうしているからまぁ問題ないね」
なかなか上々、ふたり顔を見合わせて頷きあってから。
やはり店内はすごくお洒落だけれど……入店時よりは、きなこの緊張も少しほぐれて。
ふたつ並べた手作りのキャンドルホルダーの色に照らされながら、あれもこれもと。
ふたりで一緒に満喫する――千夜一夜の物語のような、ちょっぴり擽ったいバレンタインのお出掛けを。
成功
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