面影見やれば桜門出
●贈り物
親しき仲にも礼儀あり、という言葉がある。
当然のことだが、家族のように親しく……いや、家族そのものになってくれる者たちがいることは喜ばしいことだ。
血のつながりではなく、心のつながりを感じることができるのは得難きものであろう。
「ばれんたいんなる催しがあると聞きました」
神城・星羅(黎明の希望・f42858)は、そう聞き及んでいた。
バレンタイン。
それは親しき者たちに贈り物をする行事。
聞けば、チョコレートが最も良く贈られている行事であると言う。
けれど、そのチョコレートなる菓子でなくても、お礼の気持ちがこもっていれば何でも良いのだとも聞く。
「それはとても良いことですね」
お礼がしたい。
星羅は自然にそう思っていた。
新しい家族たちは、そんな気を使わなくて良い、と言うかもしれない。
けれど、自分がしたいのだ。
まず最初に思いついたのは義母であった。
「燃えるような炎」
それが彼女に対するイメージであった。
サクラミラージュのデパアトにて星羅は香水を手に取る。
薔薇の香りが心地よい。これにしよう。
次に義父である。
彼の言葉はいつだって己の心に響くものであった。
「雷鳴のようでした」
ならば、常に時が測れるような銀の懐中時計が良いだろう。
思い描く。
新たな家族たち。
「同じ星のあなた」
迎えてくれた同じ星として共に歩む義姉には、こんふぇくと……金平糖が良い。甘やかな優しい味わいは姉に似合っているように思えたのだ。
「優しく照らしてくれる月」
義兄のことを思う。
彼はいつだって己の道行きをそっと照らしてくれる。
小手鞠の花を象ったブローチを手に取る。
品位あふれる兄にぴったりだと思う。
「それと、これも」
星羅は甘い焼き菓子を手に取る。
それが最も彼女には楽しみだった。
今までがんばった自分に対するご褒美だ。
何故、これを選んだのかと問われたのならば、少し気恥ずかしい。
それは家族で共に食べたものだから。
今、一番自分が美味しいと思い、食べたいと思うもの。それがこれなのだ。
きっと一人で食べたって味気ないだろう。
「少し荷物が多くなってしまいました……けれど」
いいですよね、と己のが使役する狼と狛犬にも手伝ってもらいながらも、幻朧桜の花弁散る道を駆けていく。
その度に花弁が舞う。
「ふふふっ」
笑みが自然と溢れる。
年頃そのままの笑顔が、其処にはあった――。
成功
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