鳥獣人の少年、あめ(勇者の翼・f42444)が木箱を引きずりながら皆の前に現れた。
小脇に抱えているのは「あやかしと伝説図鑑」。
UDCアースで売られている妖怪を児童向けに描いた図鑑だ。
ぴょんと木箱に飛び乗り、少し賢そうな顔を作って話し始める。
「今日の作戦は、オレも初めての場所だぜ。
予知の夢の雰囲気は、カクリヨかな……って思ったんだけど、ちょっと違うみたいなんだ」
皆をまっすぐに見つめ、声を張る。
「場所は、アヤカシエンパイア。
UDCアースの昔話に出てくる世界みたいなトコだぜ。
討伐対象と思われるオブリビオンは――断言できない。だから、話を聞いて欲しいぜ」
「予知……夢があやふやなんだ。
アヤカシエンパイアは、ボロボロな世界に結界を張って平和を作っている世界。
美しい世界は貴族たちが頑張って維持している幻だって話だ。
今回の敵も――幻覚を使うっぽい……オレにはその幻の見分けが今ひとつ付かなかったんだ」
歯切れが悪くなる。
少し困ったような顔をしながら、もう一度皆の顔を覗く。
「予知夢の流れを説明するぜ。真偽はその場で、しっかり見定めてくれ!
オレは一羽の鳥として、金色に輝く豪華な建物の前に居たんだ。
えへへ、最近ベンキョーしてUDCアースの文字も覚えたから今回は読めたと思う!
そこは"極楽堂"って書かれた場所だ」
ふん、と偉そうに鼻息1つ。自慢げな顔。
「そこの扉が開くと……中は超広い空間。
黄金色の空に黄色っぽい雲が浮かんでて……でかい池がある。
池はピンクの花で埋め尽くされてて、甘い香りがした気がする。
でも、音が噛み合わないんだ。
ガサガサって枯れた草を風が揺らす音がするんだぜ。
風音もヒュウウって、嫌な感じの音」
うーん、と首を捻る。
手に持った「あやかしと伝説図鑑」を開いてページを皆に見せる。
「見た目は、この極楽って奴そっくりだ。絵のまんまって感じだぜ。
夢の中でどうやって進んだか分からないけれど……違和感を感じたら、突然お屋敷の庭に居た」
話を聞く猟兵達が、首を傾げる。話が飛んだ――予知が曖昧、というのはこういうことか。
「お屋敷の庭から中を覗くんだけど……人は居ないんだ。
アヤカシエンパイアの偉い人の家そっくりの感じなのに……誰も居ない。
でも、ずっと音はガサガサ聞こえてて……さっきと違うのは、サーッって草の間を抜ける風音がしたこと。
オレは台風だからなんとなく分かるんだ。枯れてる草の中に生きてる草が生えてる感じ」
ごくん、と喉が音を立てる。より真剣な顔になる。
「――あと、何かが腐った匂いがしてた。オレだって猟兵だから……なんだか分かる。
でも、そんなものどこにもなかったんだ。
皆も自分の得意な感覚で集中すれば……きっと違和感があると思うぜ。
夢ではここまでしか、感じきれなかったけどさ」
へへへ、と苦笑いを1つ。
「気配ってのは、時々してるんだ。
誰も居ないお屋敷の中なのに……なんだか何人も固まって歩いている、そんな気配。
でも……それも見つけられなくて。
オブリビオンだ!……って直感が言うんだ。でも――なんだか分からない。
この空間に何体かオブリビオンは居る……そいつらと雰囲気が違うやつも1体。
夢の中の景色や感覚で分かったのはここまでなんだ」
再び「あやかしと伝説図鑑」を開いて、皆に見せる。
「険しい山の谷に咲く花。山の中に美しい宿の幻覚を作り、旅人を誘い込む。
帰ってきた旅人は、まるで年老いた老人のようになっていた。
桃色の花を疑え。その花からは手が開く――。
……ってのがあったぜ。
世界は違うけど、UDCアースの漫画とかお話は、アヤカシエンパイアで通用することが多いんだ」
ぱたん、と本を閉じて話を続ける。
……閉じた本の一部にテープが見える。
まるで封印された禁書……そこには見てはいけないものが……。
もとい、大嫌いなオバケのページだろう。オバケと妖怪とアヤカシは違うものだ。覚えて帰って欲しい。
「後は、歌の話だぜ!」
バっと、両手を広げ。
喉をクルル、と一度鳴らせば、夢で聞こえてきた歌声を真似る。
それは、幼い童の声。
「とうさま つくった ほとけさま、
やさしい きぼりの ほとけさま、
ふたりは ちゃあんと もってます、
とうさま かあさま てをつなぎ、
いっしょに かえって くるからね、
おやしき いいこで まってたら……」
伸ばした声が掠れながら消えたあとに、言葉が続く。
「やだ!もうずっと帰ってきてないもん!
とうさま かあさま さがします、
ごくらくなんて いかないで、
ここにはいない かえってくるの、
あたしと いっしょに かえってくるの、
だから おやしき、あれ、ここは……おやしき……」
目をぱちり、と閉じて歌をやめる。
「オレでも関係あるって分かるぜ……。
任務とは違う、でも、ちっこい子が迷ってたら助けてやってくれよな!」
元気な声で大きく頭を下げる。
「まとめるとこうだ!
極楽堂っていう派手な建物から、突然貴族の屋敷に出る。
進み方は分からない……疑うのが肝かもしれないけど、皆なら何かしらバシっと決めるだろ!
貴族の屋敷に入った後も変な感覚は続くから気をつけて調査し……敵が出たら対処してくれ。
図鑑だと、花みたいなやつかな、って思う。
でも、それじゃないオブリビオン……アヤカシも居そうだ。気をつけてくれよ。
オレのわがままは……巻き込まれてるヤツが居たら助けて欲しいって事だ!見過ごせねえぜ!」
再び頭を下げたあと、木箱から飛び降りて走りながら叫ぶ。
「曖昧な予知で悪いけど……ここまでしか情報はないぜ!
だから、今すぐ出発……皆に任せた!
どんな幻覚の中でも必ず待ってる。安心して戻ってきてくれよな!」
同時に、小柄な身体が一瞬光りに包まれると、巨大な鳥の姿に変わる。
その背に皆が乗れるように屈めば、一段と大きな声で鳴く。
「行くぜ、勇者の翼――目的地はアヤカシエンパイア、極楽堂前。
チョッパヤで行くぜ、振り落とされないでくれよな!」
巨大な翼が部屋いっぱいに広がる。
この皆に頼れば、助けられる気がする――だから、もっと速く。グリモアで開いた道を飛んでいく。
日向まくら
ちょっと準備に手間取りました!お久しぶりです!
アヤカシエンパイア、めちゃくちゃ好きな世界観です~!
●1章
いわゆる「極楽」の幻覚を見抜いて先に進む章です。
調査をすると、この先の章の情報が少し出ます。
プレイヤー情報ですが、キャラクター達も「ここは平安結界の外だ」と気づいても構いません。
●2章
「偽物の平安結界」を作り出すアヤカシを倒して、幻覚を解くのが目的です。
平安結界に見えますが、平安結界を模した幻です。
違和感に気づいたら戻れ、などお好みの看破を決めて敵を見つけて倒して下さい。
迷い人が1人居るかも知れません。探したり保護するプレイングでも遊べるシーンになります。
●3章
シナリオ画像にしているアヤカシがボスですが、現時点でキャラクターは何も知りません。
1章や2章で情報を集めることも出来ます。
以下、プレイヤー情報です。
父と母が戦いに赴く時に持ち込んでいた木彫りの仏像に、
結界の外で渦巻く、邪念や怨念が宿ったタイプの敵です。
オープニング時点の救援対象は娘だけですが、
動きによっては「この二人」もなんとかなるかもしれません!
第1章 冒険
『結界・偽浄土』
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POW : 視る。これは紛い物だ。
SPD : 聴く。これは紛い物だ。
WIZ : 識る。これは紛い物だ。
イラスト:日向まくら
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ベロニカ・サインボード
なんだ…ここは…極楽にしか見えない場所だ…
フォースオーラ『ワーニン・フォレスト』で地面や花に看板をつけても「極楽」としか表記されない。これじゃ情報にならないわ
幸いというか、これも聞いた通りだけど、まるで幽霊屋敷の近辺のような音がする。ほぼ賭けだけど、この音が現実なのね
今ならわかる…目と鼻を捨てろ…恐れに満ちた音から|耳《・》を逸らさない
『ワーニン・フォレスト』!看板をつける能力!
私は|夢の国の民《時計ウサギ》だから、本能的に、さっきまでの夢のような結末に惹かれるのかもしれないな
だが…たとえ本物でも、一人で極楽に行ってる場合じゃあないわ
今いくわ、|要救助者《アリス》!
黄金の光が漏れる。
時間の感覚を失うような、異質な空。
黄昏時に残る光だけが世界を埋めるような……全てが黄金に輝く場所。
「なんだ……ここは……極楽にしか見えない場所だ……」
ベロニカの視界に飛び込んでくるのは、説法や物語に頻出する"極楽"というイメージ。
アヤカシエンパイアに踏み込めば、いつかは耳にする言葉と世界。
一度でも聞いた事があるなら、その景色は間違いなく"極楽"そのものだ。
1歩踏み出してしゃがむと、そっと地面に手を触れる。
「フォースオーラ――『ワーニン・フォレスト』」
――ぽん、と軽やかな音と共に地面に看板が突き刺さる。
ユーベルコード、その力は視界内の対象の情報の開示。
看板に現れる文字はもちろん。
『極楽』
少し歩いて、水辺に咲く桃色の花に触れれば、看板が生まれる。
『→極楽の蓮』
「極楽……ね。
これじゃ情報にならないわ」
黄金色の反射に揺蕩う池も、流れる空の雲も"極楽の"という枕詞で説明は生まれないだろう。
流れてくる空気は穏やかで甘く……風も無いのに蓮池は美しい波紋を生み出している。
「幸いというか、これも聞いた通りだけど――」
ベロニカの耳がスッと左右に開き、角度を変える。
ウサギの耳は360度全ての音を聞くことが出来る。
吹き抜ける風音はガタガタと何かを揺らす。
壊れた小屋が音を立てるような。
「まるで幽霊屋敷の近辺のような音がする」
カサリ。
今まで聞こえていなかった足音が耳に届く。
それは枯れ草を踏んだ音。
景色と辻褄が合わない音。
「ほぼ賭けだけど――この音が現実なのね」
ふ、と息を吐き出してから冷静に。
それでいて――情熱的に、想いで聴く。
「今ならわかる……」
視界に広がるのは美しい絵画のような極楽の世界。
立ち込める蓮の花の匂いは甘く――感覚を阻害する。
だから、遮断する。
目を閉じ、花の香を意識から消す。
――目と鼻を捨てろ……恐れに満ちた音から耳を逸らさない!
「『ワーニン・フォレスト』!看板をつける能力!」
膝を着いて、ふわふわの雲のような地面に"カサリ"と触れる。
生み出される看板。
吹きすさぶ荒野の風の音。
滅んで朽ちた貴族の家。
かつて、結界ではなく本当の平安の景色が広がって居た場所。
目を開けば、飛び込んでくる看板の文字列。
「←平安結界 ↓亀裂の外・屋敷の廃墟 →女の子」
そして、くるり、と看板は回る。
開示される情報が、跳ねるように刻まれていく。
『妖作った夢の世界!
あれあれ大変、ここから一人で帰れない!
ほんとのほんとは、こんな極楽、荒野原!
でもでも妖、静かそう!
走っていけば間に合うのかも!』
ベロニカは再び目を閉じて、荒野の風を感じ取る。
「私は|夢の国の民《時計ウサギ》だから、
本能的に、さっきまでの夢のような結末に惹かれるのかもしれないな」
さ、と耳を手で掻き上げながら呟く。
「だが……たとえ本物でも、一人で極楽に行ってる場合じゃないわ」
再び目を見開いた時――世界は正しい姿を現――、
現さない。
そこに広がるのは平安結界……貴族の屋敷。
極楽でもなければ、荒野でもない。
――音は正しく聞こえている。
間違いなく、ここは荒野だが……さながら、偽の平安結界。
「やってくれるわね……。
冗談キツイわ、でもね!」
耳は確かに足音を捉えている。もうその足取りは聞き漏らさない。
「今いくわ、|要救助者《アリス》!」
大成功
🔵🔵🔵
七織・岬
※アドリブ連携歓迎
あん?この世界は妖怪が斬り放題って話じゃねェのか
お守りもお目付けもゴメンだから、とっとと来たんだがなぁ…
ま、話に乗ったのは俺だ。きっちり斬ってきてやるさ
方針:ぶらついて怪しい所を探す
俺には術だのなんだのはよく分からん
けどまァ、俺が極楽だかに行けるわけがねえんだ
最初から摘まみだしにくる事を想定しちまうな
…来ねェのか?
どっかの獄卒が、幻を見せて気づけば血まみれ針山の中なんて刑があるとか言ってた気がするが、その手かね?
辺りをぶらつきながら【第六感・気配感知・心眼】で妙な気配や手がかりを探っていく
花が怪しいって事だし、いつでも【早業・カウンター・居合】をできるようにしておくが、さて
「あん?この世界は妖怪が斬り放題って話じゃねェのか」
岬の声が、黄金色の空と雲の中へと消えていく。
帰還に備え、遠くで待機している巨鳥が小さく頭を縦に振っているが……。
カクリヨでは、暴走しているだけの妖怪が殆どだ。
負の感情だろうが、イタズラだろうが、なんであれ斬り捨てる相手ではないワケアリ。
所謂UDCアースで描かれる妖怪の形をした敵は、この世界――アヤカシエンパイアでなら斬れる。
だが、その期待を裏切りのはこの景色だ。
まるで倒す相手なんて居そうもない。
平和……というか、気持ち悪いくらいの穏やかな雰囲気だ。
「お守りもお目付けもゴメンだから、とっとと来たんだがなぁ……」
ため息混じりに、極楽へ踏み入る。
「ま、話に乗ったのは俺だ。きっちり斬ってきてやるさ」
ぐぐ、と身体を伸ばしてから、岬はゆっくりと歩を進める。
こんな景色なのだ。
ぶらぶらと散歩する――どこかで聞いたような話も分かるような気がする。
「俺には術だのなんだのはよく分からん」
遠くを見れば黄金の雲。
眼の前に広がる蓮池は、美しい桃色の花に溢れている。
雲はまるで庭園の道のように繋がって……心地の良い散歩道を生み出している。
しかし、決定的な違和感がある。
「けどまァ、オレが極楽だかに行けるわけがねえんだ」
――人斬りの言葉。
神や仏の話に出てくる、死後の楽園。
そこへ至るには、なんだかクソめんどくさいルールがある。
殺生なんてもってのほか。
救済の糸なんてのは物語も物語……どっかの獄卒が書類の束を抱えながら、
青筋立てて怒りそうなルール違反だろう。
だから、この景色に至れる理由が1つも見つからない。
景色はただ、甘い香りの蓮の花と美しい黄金の雲の地面のままだ。
「最初から摘みだしにくる事を想定しちまうな」
背を丸めて、眉間にシワを刻みながら周囲を伺う。
……揺らいだ。
第六感は嘘をつかないものだ。
幻覚や作り出された場所で見られる……幻のゆらぎ。
何かをしようとした……それを感じ取る。
「……来ねェのか?」
景色のゆらぎが元に戻る。
また、そこは穏やかな極楽だ。
「そういや、どっかの獄卒が――、
幻を見せて気づけば血まみれの針山の中なんて刑があるとか言ってた気がするが、その手かね?」
花が怪しい、という情報を得ていた。視線は自然に蓮池へと向いている。
その時、水面が揺れ――その中。まるで水の底に……針山が視えた。
「へェ……そういう」
ぶらついて散歩、というにはあまりにも分かりやすい視界の中での変質。
敵からの強襲を想定し、いつでも居合による一撃での反撃を意識して歩く。
人斬りは気配を探る。
誰も居ない極楽の景色。
言葉か想いに反応して――極楽ではない何かを望んだ、と想定された。
妖が迷っている……そんな。
「極楽に行けねェとは言ったが、それを見てェとも言ってねェんだわ」
幻が揺らぐ。
まるで景色を張り替えるように――空間が一瞬、本来の姿を晒す。
「だろうねェ」
その一瞬に、剣豪は全てを視た。
ここは――結界の外、妖の世界。
ボロボロになった屋敷の廃墟、枯れた草、荒れた土地、真っ黒い雲、遠くで見える稲光。
……滅んだ、と称するのが正しいような景色。
そして、遥か遠く。
赤い……衣の童。
その目は確実にその姿を捉えた。
瞬間、景色が張り変わる。
極楽から、貴族の屋敷へと。
一瞬見えた人影へ、たどり着くのを遮る迷路のような。
「ったく、かかってくるなら斬って終わりなんだがなァ」
――お守りからは離れらんねェものかねェ。
ため息1つ、踏み出した時……気配を感知した。
居る――1匹や2匹じゃない、でも動物的な殺気も化け物的な殺気もない……花ってのは、これか?
大成功
🔵🔵🔵
白霧・希雪
「ここは…?」
周囲を見渡す。
五感から得られる情報に違和感はない。
本当に?
──違う。
「金羽の髪飾」が拾い上げる情報は希雪の意思も、感覚も介さない。
いつも、正確な情報を集めてくれる。
でも、今回はまだ足りない。
その情報を以てしても、感じられるのは僅かな違和感だけ。
「…?一瞬、不相応な空間が見えた気が…」
「とりあえず、歩き回って調査してみましょうか…」
にしても、極楽ですか…
私には…少し眩しすぎます。
私はずっと、他者の命を奪い続けて…その分、生き永らえて…
善い人も、悪い人も、関係なく…
師匠がいなかったら私はオブリビオンにでもなってたんでしょうかね…
暗い考えに頭を支配されつつも探索は順調に進む。
「ここは……?」
呟く希雪の前に広がるのは、黄金色に染まった世界。
雲海の床、波紋が広がる池、桃色の蓮、流れる金色の雲。
周囲を見回す――感覚との差異は、どうか。
広がる蓮は間違いなく蓮。
多少香りは強いかもしれないが、この香りは蓮の花と大差はない。
床……と表現するには怪しい床、地面だが、弾力的にもクッションのようなもの。
見た目との誤差は少ない。
もちろん、殺気も呪詛も感じない。
絵に描いたような穏やかな空気が、ゆっくりと流れているような。
五感は答える。
――違和感はない、と。
「本当に?」
小さく、声が漏れる。
違和感がない、という違和感。
幻や模倣品にありがちなこと。
左右対称過ぎる――歪みがない。
香りにバラつきがない、光源の反射が整いすぎている。
生体情報を常に集め、データとして伝えてくる道具"金羽の髪飾り"。
それは持ち主たる希雪の感情や感覚には影響されない。
常に正確に情報を取得し続ける。
つまり、精神影響を及ぼす幻覚の類には特攻とも言える。
だが――そこには、蓮がある。その構造は、蓮だ。
――違う。
「――違和感はある」
五感と髪飾りの情報から導き出されるのは、僅かな違和感。
揺らぎが、辺りに奔る。
極楽である、そのイメージに認識を引きずられなかった髪飾りが一瞬だけ何かを拾う。
まるで映像が二重に重なるかのように……荒れ果てた廃墟が辺りに"在る"。
枯れた草、焼け焦げた家の残骸。
遠く――遥か遠くから、人の生体反応を伝えてくる。
反応はすぐに消え。
まるで、何かの通信に紛れ込んだノイズのような荒れた光景も、美しい黄金色の世界に戻っている。
「……?一瞬、不相応な空間が見えた気が……」
間違いない。
だが、今は何も感じない。
「とりあえず、歩き回って調査してみましょうか……」
ぶらぶらと、極楽を散歩する……訳にもいかない。
集中力を切らさず、違和感の根源と先程のノイズを探しながら歩みを進める。
――にしても、極楽ですか……。
とん、と踏み出すたびに思考が進む。
――私には……少し眩しすぎます。
眉が垂れる。困ったような顔で、遠くを見つめて踏み出す。
――私はずっと、他者の命を奪い続けて……その分、生き永らえて……。
贖罪、その言葉の辿り着く先に極楽も天国もない。そう知っている顔で。
――善い人も、悪い人も、関係なく……。
殺した、のか?と。
「師匠がいなかったら私はオブリビオンにでもなってたんでしょうかね……」
つぶやきが漏れる。
骸の海の呼び声も手招きも……この空間にはない。
穏やかすぎる。
オブリビオン。
言葉を漏らした時に、違和感の答えが1つ生まれた。
「時が進んでいない。光の角度が変わらない。水の反射も同じように繰り返している……」
暗い考えに頭を支配されることが、猟兵にとって悪いとは限らない。
乗り越えた過去を切り捨てずに、抱えて歩くというのなら背負う荷物は増える。
だが……暗い過去や考えは、敵を知る1つの指針に成り得る。
オブリビオンは過去の化け物……ならば、その反応は。
「此処から先へは、進まないですね」
その瞬間。
極楽の絵画が崩れ落ちるように、世界は綻びだらけの荒れ地に姿を変える。
取り繕うように……過去が遅れて世界を再編する。ここは貴族の屋敷。
「……花だけが蕾を開くという、時間を表現する動作を行っていた」
無人の屋敷に開いた花もまた、桃色だけだ。
あれは牡丹。
大成功
🔵🔵🔵
ルナ・キャロット
わ、金ぴかでふわふわしてて…安心するような落ち着かないような…。
東方エリアが実装されたらこんな感じなんですかね。
極楽っていうくらいなんだから良い物があるはずです。怖いものと出会う前に極楽を堪能しますよ!
なにか宝箱とか…情報になりそうなものがないかなとうろうろ
写真映えしそうな景色があったら自撮りスクショしながら探索
変なものが写ったら泣いちゃいますが大丈夫ですよね極楽ですよね…?
いい感じの写真が撮れたら【聞き耳】に集中して本格的に違和感探しです。
なんで変な音が?もしかしてグラフィックかサウンドどちらかバグってます?
ででーん、と広がるのは輝く黄金の世界。
ダンジョンの中で見つけたのなら、良い稼ぎになりそうな場所。
「わ、金ぴかでふわふわしてて……安心するような落ち着かないような……」
ルナは周囲を確認しながら、その空間へと踏み込んでいく。
「東方エリアが実装されたらこんな感じなんですかね」
極楽堂なんてテロップが表示される、黄金色の世界。
ゲーマー的に考えてこの空間は……"街の一部ではなく、戦闘フィールド"だ。
金色なんとか像とか、それこそ新しい術師クラスの敵が溢れている稼ぎ場。
とはいえ。
「極楽っていうくらいなんだから良い物があるはずです。怖いものと出会う前に極楽を堪能しますよ!」
ばん、と胸を張って宣言を1つ。
新しく実装されたダンジョンがあるのなら、ワクワクしないわけがない。
極楽の探索を開始する。
「んへへ……何か宝箱とか……」
もとい情報になりそうなものがないかな、と思い直しつつ雲のような地面の庭園を歩く。
視界に入ってくるのは桃色の花。
これは蓮だと分かる。
美しく金に輝く池の水面を飾るように、甘い匂いを漂わせている。
インタラクト出来そうなオブジェクト?
――いや、これは背景の一部のような感覚がある。
空の雲や足場の雲にも違和感はない。
よくある空中ステージや浮遊城の足場のそれ。
感覚的に、地面を割る技や振動を伝える技も問題なく作動しそうだ。
宝箱は……。
「ない、ですね……」
ない。
極楽、という肩書の世界に存在しているのは蓮と雲と水、黄金の光と空だけ。
しかも、どれもインタラクト出来そうにない……。
「景色としては抜群なんですけどね」
カメラを生み出せば、ひょい、と遠くへ設置する。
背後に広がるのは黄金の雲海。
左右を飾るのは蓮と蓮の花。
桃色と緑、黄金のコントラストの後ろで池がキラキラと輝いている。
「新エリアは撮っちゃいますよね!」
タイマーが視野の中でカウントダウンを告げる。
んに、と笑顔を作ってポーズを決めれば、
レアアイテムのエフェクトと重なって完璧なスクリーンショットが連続で撮影される。
ぱしゃん、ぱしゃん、と軽快な音――。
一瞬、脳裏を過る。
変なものが写ったら泣いちゃいますよ……?
大丈夫ですよね、
極楽ですよね……?
一瞬だけ、空間にノイズが奔った気がする。
"重くなった"と表現するのが適切だろう。
「あ゛っ……」
両手で耳を掴んで、きゅっと鼻先に押し付ける。
大丈夫な訳ないじゃないですか、と言わんばかりに1枚だけ混じりこんだ画像……。
東方エリアで言うなら、亡霊武者やら首なし弓兵やらが溢れ出て来そうな、和風の廃墟。
壊れた屋敷、枯れ草、焦げ跡、暗い雲に雷鳴。
後は……赤い服の女の子のような……影が……。
他のスクリーンショットはとてもかわいい。キラキラしているので大丈夫そうだ。
「い、いい感じの、いい感じの写真が撮れたので……本格的に違和感、違和感探しをしましょう……」
気を持ち直して、耳をぐぐぐ、と上にあげれば聞き耳の準備。
音に集中すれば、それは一瞬で分かる。
ピィイ……と鳴く風の音。
がさがさ、と何かが転がる音。
遠くで落雷のような音も聞こえる。
キィキィと建物が軋むような音。
枯れ草を踏むような足音は遠い。
「なんで変な音が?もしかしてグラフィックかサウンドどちらかバグってます?」
気づいていても一応口にする。
たぶん、あの写真の光景が正解だ。
音もこの「荒れ果てた戦地の痕から聞こえる音」が正解。
しかし、ここは安全な"平安結界"の中のはず。
亀裂の外のような音だ。
「平安結界でしたっけ……セーフエリア自体がバグってるってことですよね!?」
言葉が漏れれば……極楽の光景はシーンチェンジする。
ほんの一瞬、視界の中に荒れ果てた光景が見え、次の瞬間、広がるのは貴族の屋敷。
いわゆる「平安結界」の中そのもの。
「これは、良くないですね……クソゲーって言われちゃうやつです」
セーフエリアと偽ってプレイヤーを全滅させるタイプの雑な罠。
運営にクレームが降り注ぎそうな案件だ。
そんな思考の中、どこかで音が聞こえる。
キィン――剣がカタナか、それらに類する武器に石や木が当たったような。
あるかもしれない。平安結界の外で果てた侍が持っていた妖刀、なんてものが――。
「探索と討伐、続行です!」
少しだけ気を取り直して、ルナは貴族の屋敷を見つめるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
遠藤・修司
極楽堂か……
確か、末法の世だったかな?
僕の世界ではこの頃の人々はそう信じていた
この世界だと本当にそうなんだろう
花の香り、雲の流れ……とても幻とは思えないな
極楽を信じる人は、縋らざるを得ないのだろうね
『地獄の中に極楽を作り上げるなら、相応の力を加えなきゃいけない』
「それは分かるけど、どうしたらいい?」
『そこまで強固な幻じゃないよ。視る者の認識を利用しているから、それを否定できれば力を減じる筈だ』
なるほど、確かグリモア猟兵も違和感って言ってたね
とりあえず歩き回って不審な箇所を探そう
足元の感触や、風の音を聞きながら歩く
花は……危険かもしれないから、葉を1つ手折って感触を確かめてみよう
「極楽堂か……」
修司が静かに呟いて、見上げる。
その建物はUDCアースの豪華な寺院に近い。
「確か、末法の世だったかな?
僕の世界ではこの頃の人々はそう信じていた」
建築や暮らし、服装、そして地理。
修司の世界の「この頃」――平安と近い。
だが、争いや混乱を説く話は、歴史的にはややズレる。
「この世界だと本当にそうなんだろう」
その言葉が、"風音"に消えた。
末法の世――世も末。この世界は、その末の先。
結界を生み……生き残っている人々の世界。
その結界を守るために、豪華な建物も貴族も、雅といわれる習慣も続けてきている。
所謂、儀式魔術と呼ばれるものに近いだろう。
「本当に、そう、か――」
探索者と呼ばれる者は……目ざとく。聞き逃さない。
その小さな違和感から発想し、答えを導き、識ってしまう。
「はぁ……」
額に手を当てて小さくため息を漏らす。
扉自体か、寺院自体か、それとも中にあるのか。
これはアーティファクトの類である。
聞こえている音が、今見ている景色と異なる。
荒れ果てた荒野の風と壊れた家屋の立てる音。
この警笛は間違いないものだ。
警笛を感じれば、即座に修司のアイデアが溢れてくる。
「末法の世だと悟らせない事で維持されている結界のはず。
神仏の話も僕の世界と多少の差異がある、が――。
この世界で、この豪華で巨大な寺院に極楽の名前。
違和感がある」
まったく……と一度目を閉じてから、扉を開く。
開けば――そこに広がるのは黄金の空間だ。
「花の香り、雲の流れ……とても幻とは思えないな」
修司の言葉の通り、そこに"造り物"を感じさせるものは無い。
雲の床でさえ、そういうものだ、と思わせる説得力。
修司の世界の寺院に飾られた絵がそのまま現実になったような光景だ。
――極楽を信じる人は、縋らざるを得ないのだろうね。
黄金色の光は瞳に輝きを作らない。
淡々とした声で……その空間を見る。
『地獄の中に極楽を作り上げるなら、相応の力を加えなきゃいけない』
異世界の自分の声が届く。
修司は小さく頷いて答える。
「それは分かるけど、どうしたらいい?」
『そこまで強固な幻じゃないよ。視る者の認識を利用しているから、それを否定できれば力を減じる筈だ』
――なるほど、と顎に手を当てて納得する。
グリモア猟兵も違和感と言っていた。
既にこの"極楽"へ入る前に感じた違和感……音の事もある。風の音は――。
これは荒野の音。
先ほど聞こえた音。
とりあえず、歩き回って不審な箇所を探そう。
足元の感触は――。
「視るものの認識を利用しているから……ね」
ふわり、とはしなかった。
シャク……と枯れ草が折れる音と共に、靴底に伝わるのは土の感触。
舗装されていない、ハイキングコースの土のような感触だ。
瞳に飛び込んでくる極楽の光景は、もはや疑うべき景色でしかない。
感触も音も「滅んだ世界」の残骸を感じ取ってしまう。
違和感だらけの雲の道を、蓮の咲き乱れる池へと向かって歩く。
さくり、さくりと足元から鳴る草の音。
吹き抜ける風と揺れる廃墟の板の音。
そういえば、花の話も出ていた。
「花は……」
蓮の花の手前で足を止める。
危険かもしれない。
そう感じとれること、が探索や調査ではとても大切なこと。
花に直接触れることはなく、葉を選ぶ。
懐から取り出したハンカチで葉を掴かみ、そっと手折る。
パキン、という植物が折れる音――は響かなかった。
『くしゃり……』
枯れ草が折れるような音。
同時に、折れた葉が手元から雲散するように消える。
咄嗟に修司は手を引き、後ろへ下がる。
そして残された茎が、ズルリと蠢くように引っ込んで池の中に消えた。
不快感のある……"気持ちの悪い動き"で。
「……」
ため息。正解ではある。これが……問題の源だ。
直後に、世界が揺れ……景色が変わる。
寝殿造りの屋敷。
この世界で貴族が住んでいる屋敷そのもの。
今、立っている場所は庭園だ。
『ああ、やっぱりね。気をつけた方がいい。形は違うけど、同じような花が咲いてるじゃないか』
「――そうだね」
くい、と眼鏡を指で押し上げ整える。
視界の先に見えるのは、桃色の牡丹。けれど――葉が無い茎がある。
アレが「何か」だ。
大成功
🔵🔵🔵
臥待・月紬
幻術も謂わば化術の一分野。
この月紬さんには、当然幻術対策の心得がある!
秘伝の暗示にお薬。しっかり準備すれば幻覚なんて効かないッス!
――うん!
絵に描いたような極楽が見える!
ダメそう!
まぁ、幻術自体を破れないなら基本に立ち返るまで。
察するに、この幻は現実の音や匂いを隠しきれてない。
予知に出てきた『お屋敷の近くで感じた匂いと音』。それを辿るッス。
UCで化術を強化。
まずは犬に変化して嗅覚を強化。
さらに、兎の耳を生やして聴覚を強化。
鼻と耳を駆使して周囲を探りながら、慎重に進むッス。
……池に生えてる桃色の花、例の図鑑の内容と重なってすごく怪しい。
警戒がばれないように振舞いながら、重点的に見張るッス。
"極楽堂"の門の前。
豪華な装飾と威厳……この門の先にあるのは、極楽だと言う。
むむむ、と眉をしかめて見上げるのは月紬。
「幻術も謂わば化術の一分野。
この月紬さんには、当然幻術対策の心得がある!」
秘伝の暗示とお薬での幻術破り、準備は万全。
「しっかり準備すれば幻覚なんて効かないッス!」
ふふん、と自慢げな顔で勢いよく門を開けば――。
黄金の雲がふわ……と外に流れ出る。
蓮の甘い香りが鼻先を掠める。
穏やかな気候……煌めく空。
奥には池だろうか、輝く波紋が見える。
黄金の世界。
そこに広がるのは、話の通りの極楽。
「――うん!
絵に書いたような極楽が見える!
ダメそう!」
うんうん、と自分で納得しながら。
入念な準備を支えるノリと感覚を再び研ぎ澄ます。
むむむ、と顎に手を当て。
うーん、と声を漏らしたりして。
くるくる……とあたかも悩む雰囲気で回ってみたり。
明るくご機嫌な雰囲気の内で、思考は悩むより先に回答へと繋がっていく。
――まぁ、幻術自体を破れないなら基本に立ち返るまで。
トン、と一歩前に進んで極楽の景色を眺める。
――察するに、この幻は現実の音や匂いを隠しきれていない。
再び周囲を眺める。視界の情報は特に違和感は感じない。
――予知に出て来た、お屋敷の知覚で感じた匂いと音。
「それを辿るッス!」
ふわり、と空気が変わった。
口元で小さく声が響く。
「構造定礎――哺乳動物、食肉目、犬、嗅覚器官。続いて兎形目、兎、聴覚器官。
質量過程――調整、大型種。調整、身体適応。
認知侵食、防護――ヨシ!」
にん、と口元に笑みが浮かぶ。
足元を回るふわふわとした煙が、まるで絵巻の秘伝書のごとく。姿を変えて周囲を回る。
「あとは――気合で!
|陣中変化・808式《バケジュツノキホンニシテシンエン》!」
化術への理解、構成、感覚、全てが一瞬にして研ぎ澄まされる。
「まずは、嗅覚!犬ッスね!」
ぽん、と小気味の良い音を立てて鼻先で煙が弾ける。
ぴくり、と湿った鼻を動かせばヒトの数万倍の分析力で"乾いた枯れ草"の匂いが鼻に飛び込んでくる。
「続いて、聴覚!兎ッス!」
耳をそっと触れば、再びポン!と煙があがる。
するりと長い立ち耳が頭上で揺れれば――遥か遠くの"風音"さえ拾ってくれる。
「――慎重に進むッス」
小さく呟き、この不自然な極楽へと歩みを進める。
「いやぁ……話には聞いていたッスけど……」
一歩歩いて聞こえてくるのは、くしゃり、という枯れ草を踏む音。
遠くでガタガタと何かの建物を風が抜ける音がする。
前に見えるのは穏やかな蓮池、柔らかい光。
ふわふわとした雲……。
兎の耳が捉えるのは、雷鳴。
ゴオオオ、という強い風音。
「そうッスよね、うん。匂いは――」
くんか、と花を動かせば――甘い。ただ蓮の鼻の香りを強く感じる。
立ち込める香り……強すぎるほど甘い。
蓮の花からだけではない、のでは……?
辺り一面、蓮池の遠くでも匂いの起点になっている場所がある。
一番強く香るのは、やはり蓮池。
「けふ……ちょっと匂い、強すぎッスかね?」
……池に生えてる桃色の花、例の図鑑の内容と重なってすごく怪しい。
人を騙して誘い込む花……色は桃色。
蓮の形はしているが……花の色は該当する。
思考は早い。
ならば「あの花」がオブリビオンと仮定する。
幻覚で誘うタイプは、姿を見せない理由がある。
気づかれれば反応する――ならば、気づかれてはいけない。
「いやぁ、厄介ッスけど……花ッスねぇ」
なんら今までと変わりない声色。
化かし合いの土俵には乗らない。
そもそもここが幻術だと分かっている時点で、勝負にすらなっていない。
化かしているのは月紬。相手は既に、掌の上だ。
視界の中に常に花を入れて、散歩を装う。音は常に荒野を聴き、鼻は花の位置を探る。
「――とう、さま……」
声だけが聞こえた。それは蓮池の先。
花の強い香りの位置は、そこを囲むように。
救助対象の位置も認識した。
――花は、化かされた。
だから……動いてしまう。
桃色の花の中央で何かが蠢いた。
手で風を仰ぐような、ふわりふわり、と香りを流すような……蓮から感じることは無い動き。
あれは何かの器官……幻覚を広げている部分がある。
その時、花はようやく月紬の行動に気づく。
世界が壊れた荒れ地へと戻り……取り繕うように貴族の屋敷に変わった。
花の匂いの位置にあるのは、牡丹の花。
「いんやぁ、バレてから化け直すのは、ちょっとばかりカッコ悪いんじゃないッスかね!」
大成功
🔵🔵🔵
八秦・頼典
●POW
へぇ、これが極楽浄土ってものか
まるで寺社が説いている極楽そのものだけど…だから胡散臭いんだよね
死後の世界なんて宗教の数ほどあるけど、ここは仏法が説く世界その物過ぎるのさ
さながら熱心な仏教徒が思い浮かべる極楽浄土像と言っても良いほどにね
それに妖独特の妖気も微妙ながら感じれる
巧妙に姿を隠しているようだけど、頭隠して何とやらかな
しかし、この甘い香のような匂いで阿近と吽近の鼻も役には立てまい
なら『此の世に不可思議など有り得ない』と証明するまでさ
確か…桃色の花を疑えとか言ってたな
となれば、そこの蓮の花か
流石に触れるのは危険だが、符を乗せるだけなら大丈夫だろう
さて、一体どうなるか…オン!
「へぇ、これが極楽浄土ってものか」
頼典は、眼の前に広がる空間に向けて呟く。
キラキラと輝く黄金の空間。
空の雲も、遊歩道がごとく連なる足元の雲も。
桃色の蓮の花が揺れる池すらも、金色に包まれている。
「まるで寺社が説いている極楽そのものだけど……だから胡散臭いんだよね」
――指が掻くように髪を撫でる。ルーティーンの1つ。
周囲に力場が静かに作られる。これは、布石。
妖事件の現場を見つめる目が、広がる極楽に指摘というピンを刺していく。
そして――1つずつ。状況を分析しながら証拠に変える。
雲、蓮、空、光の色。
違和感を静かに言い当てるように、頼典は言う。
「死後の世界なんて宗教の数ほどあるけど、ここは仏法が説く世界その物過ぎるのさ」
空間が揺らいだ。
彼――影に隠れ暗躍する妖の専門家――は、妖が焦り、汗を流した、と捉える。
犯人たる妖はこの場所に存在する。
この場所は、妖の隠れ家、現場そのもの。
如何なる者で、如何なる技を使うのか。
居るであろう犯人――妖に告げるように言う。
「さながら熱心な仏教徒が思い浮かべる極楽浄土像と言っても良いほどにね」
ふわり、と衣を揺らしながら彼は一歩を踏み出す。
足から伝わるのは柔らかな土のような感覚。
――トン、と一度こめかみを叩く。
そこに違和感はない。
ふむ……と目線を下ろして確認した後、辺りを再び見回す。
「――それに妖独特の妖気も微妙ながら感じれる」
空間の中に漂う妖気、プロはそれを見逃さない。
だが、それはどこだ?
――指がくる、と髪を絡める。
「巧妙に姿を隠しているようだけど、頭隠して何とやらかな」
優雅に一歩ずつ、頼典は蓮池に近づきながら言葉を刻む。
――トントンと、こめかみを指が二度叩く。
扇を開き、口元を隠すように構えて思案する。
――しかし、この甘い香のような匂いで阿近と吽近の鼻も役には立てまい。
式神の事を考えながら、しきりに指が髪やこめかみを触る。
そのたびに、思考がはっきりと……そして次の手の確実性を自身の中で感じ取る。
そして扇を一振り。
ぱたんと畳んで、蓮に向けて宣言する。
「――なら『此の世に不可思議など有り得ない』と証明するまでさ」
その言葉こそ、ユーベルコード。
感覚、情報、音、記憶。
一つ一つのルーティンのたびに刻まれた推理や考察が、脳の中で一気に繋がっていく。
世界の解像度が一瞬にして高まる。
大いなる力は解き放たれ、次に指す一手は、妖の懐に迫ると約束された。
「たしか……桃色の花を疑えとか言ってたな」
――となれば、やはりそこの蓮の花か。
擬態したり、化けた妖は特定の動作や行動に対して捕食、攻撃行動を行う例が多い。
流石に触れるのは危険だが、符を乗せるだけなら大丈夫だろう。
懐に手を伸ばし、符を挟む。
流れるような所作で符を離せば、蓮の花の中央へと飛び、音もなく留まった。
「さて一体どうなるか……オン!」
犯人は思っただろう。
陰陽師が符を放つのだ。
それに霊力が込められていないとしても、後に炸裂する可能性がある。
これは攻撃だ。
自分は見抜かれている。
対抗しなければならない――!
ユーベルコードの後押しは、犯人の焦りを見事に引き出した。
ざわり、と蓮の花が揺れる。
いや、蓮ではない――!
牡丹。桃色の牡丹の花。
その茎は枯れ木のようで、がさがさと動いている。
花は姿を現すと花弁の中央から、人の手のような器官をずるりと伸ばして……その符を握りつぶした。
同時に、花は幻覚を再構成する。
極楽のようであった景色は、寝殿造りの貴族の屋敷に変わる。
庭園に咲く花は桃色――牡丹。
証拠を見せた犯人はそれでも言い続ける。
「私はただの花です、やっていません」
「手口と姿、しかと見た。技は幻覚……他はなんだい?」
頼典は畳んだ扇を手元で回すと、バシと庭園の牡丹へめがけて突きつける。
もちろん、それは牡丹ではない。
頼典の瞳は、花の中央で蠢く人の手と……異質な茎をハッキリと写していた。
大成功
🔵🔵🔵
鬼伏・キサラ
「なるほど。確かに、話によく聞く極楽にそっくりですな」
"極楽堂"と名が示すように、覗いて見えるのはたしかに名の通りだ。
全体が黄金。咲いているのはハスだろうか。
だが、浮世離れした雰囲気とは裏腹に、嫌に現実感がある。たしかに妙だ。結界が行き届いている感じもしない。
この甘い香り。今まで嗅いだことのないものだが……
屋敷とやらにたどり着いたところで、別の匂いも混じってくる。
貴族の間では、香りは「聴く」ものだという。
この極楽も御殿も、特有の香りが満ちている。
ならば、この考え方も通用するはずだ。
香に関しては仕事で扱うこともある。うまく行けば、この空間の作り主も見つかるだろう。
そうして俺は、木箱を地に置いた。
ふーん、と小さく声を漏らすのはキサラ。
「なるほど。確かに、話によく聞く極楽にそっくりですな」
特に感情の起伏を感じない平坦な声。
淡々と状況を確認して、呟くような。
まずは状況の調査と確認だ。
――"鬼"を形作るピースを集める。
――"極楽堂"と名が示すように、覗いて見えるのはたしかに名の通りだ。
木箱を揺らしながら、キサラは雲の上を歩く。
「こりゃあ思ったよりしっかりしている……」
足でちょいちょい、とつつくように雲の感触を確かめる。
フカフカな土と言った所。感覚的な差異はない。
少しだけ興味が湧いてきた顔。何かを調べて楽しむ顔だ。
――全体が黄金。咲いているのはハスだろうか。
視線は空から池へと降りてくる。
目につくのは桃色の花。
これまた、違和感はない。
「だが――浮世離れした雰囲気とは裏腹に、嫌に現実感がある」
目のピントを合わせるように、眉間に小さな皺を浮かべて周囲を視る。
――確かに妙だ。
そ、と空間に手を伸ばしてみても、何か特異な感覚はない。
だが、幻覚だ、というのなら平安結界にも近い現実感を感じてしまう。
――だが、結界が行き届いている感じもしない。
平安結界に"近い"とすれば、平安結界の紛い物ってことだ。
「ここは結界の外だ、ってことかね」
――安全を装って……と言葉を続けようとした瞬間、辺りの香りが一層濃くなる。
同時に雲の散歩道、は庭園の飛び石に姿を変える。
蓮池はない。
そこに咲くのは牡丹の花。
横には貴族の屋敷――ただ、誰も居ない。
「お早い切り替えで。話に聞いた極楽からお屋敷ってのはこの事かい」
辿り着いた屋敷。
蓮の花の香りは消えたが、むせ返るような甘い香りが辺りに満ちている。
「この甘い香り。今まで嗅いだことのないものだが……」
薬草も扱う、だから花の香も分かる。
香にも多少知識がある、だがこんな甘い香りの物が存在するとは聞いたことがない。
つまり、この漂う香りは――牡丹の香りでも、炊いた香でもない。
「貴族の間じゃ香ってのは"聴く"、と言うらしいじゃないか」
極楽でも、常に甘い香りが漂っていた。
御殿にも、特有の香りが満ちている。
ならば、この考え方も通用するはずだ。
この香りを聴く――。
雅に言えば、香りだけじゃあないよ、という高尚さなのだろうが……。
匂いを聞いて目で追って、届く香りも分析しろって事だ。
「香に関しては仕事で扱うこともある――うまく行けば、この空間の作り主も見つかるだろう、ってね」
背負った木箱を屋敷の床に置く。
木箱を開けば何段もの棚、引き出せば薬草やら分からないものがゴロゴロと。
素早く道具を選んで並べれば……何やら、テキパキと混ぜて火を点ける。
ぱちり……と音と共に、浮かび上がった煙はその場で止まる。
「妖と組香って洒落込むのも悪くないがね、生憎こちらは仕事なんでね」
ふ、と息を煙に吹きかければ……香を辿るように流れていく。
同時に身を沈めれば、大きく息を吐いて集中する。
――鬼脈計り。
それは、時間の流れを遅くして視る……思考するユーベルコード。
香りへと向かう煙はスローモーションで漂い、全てが牡丹の花へと向かっていく。
他の場所には向かわない。
間違いなく――庭園に生えている牡丹。
または、極楽の蓮池に存在していた蓮の花。
そして。
この速度ならば――見え、聴こえる。
流れてきた煙を牡丹から伸びた腕が払った。
茎が音を立てて軋む音も耳へと届く。
その姿を妖が一瞬晒した瞬間、辺り一面が荒野原になる。
庭園周辺、群体で咲いている牡丹は……その本来の世界でも、同じように咲いていた。
「まったく、こいつはやっかいで」
花に向けて呟いたのか。
それとも――荒野原の奥に見た、小さな少女のことなのか。
キサラは道具を手早く片付けて、木箱を背負う。
此処から先の仕事のために。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『ウツツカサネ』
|
POW : 世の中は夢かうつつか
レベルm半径内を【平安結界を模した幻】で覆い、[平安結界を模した幻]に触れた敵から【生命力】を吸収する。
SPD : 幸ありぬべく
戦場内に「ルール:【平安結界の中と同じように暮らせ】」を宣言し、違反者を【生命力を奪う、中毒性のある幸せな幻覚】に閉じ込める。敵味方に公平なルールなら威力強化。
WIZ : 春の庭と思へば
レベルm半径内を幻の【貴族の屋敷や庭園】を生み出し内部を【毒霧】で包む。これは遮蔽や攻撃効果を与え、術者より知恵の低い者には破壊されない。
イラスト:日向まくら
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵達が今見ている景色は、貴族の屋敷。
だが、それは幻覚。
皆が気づいている――ここは結界の外。
滅んだ貴族の屋敷に重ねられた幻覚だと。
もはや妖もその姿を隠すつもりもない。
庭園に咲き乱れる牡丹の花は、気味の悪い人の腕を咲かせ……揺れる。
自らを隠し、生命を啜る。
花の姿をしているだけ。
それらは、跳梁跋扈している化け物たちと何ら違いなどないのだ。
その数は、多数。
まるで牡丹の花が咲き乱れる庭園。
全ての花が……この妖。
擬態できぬなら――戦うだけ。
茎を蠢かせ、より強い幻覚を放とうと力を使う。
今まで誘い込んで貪った……人々の命をリソースに。
――その時。
声が聞こえる。
「とうさま!……帰ってきて!かあさまも……!」
少女の声。
それは生きている少女。
赤い衣を着た子供――。
「極楽は死んじゃってから行くんだ!帰ってきて!行っちゃだめだよ!」
屋敷の奥。
何枚もの襖の先だ。
だが、妖は力を使う。
襖は連続でバン、バン、バン……と閉まり。
彼女は見えなくなった。
それは妖のユーベルコードで間違いない。
今すぐ捕食し……眼の前の敵と戦う力に変えようと、彼女を狙ったのだ。
幻覚の迷路は未だに牙を剥く。
それでも、彼女を救い、花を刈り取らなければならない。
――だが、それだけで事は済まなかった。
耳元で声が聴こえた気がする。
『とうさまが、私に話してくださいました。
どうか、ミヨをおまもりください。
死にたくない、どうしてだ。こんなもの』
『極楽に行けるようにと彫ったのに――それは、本心ではなかった。私は困りました』
聞いてはいけない。猟兵は即座に感じ取る。
話の辻褄もぐちゃぐちゃ、理解を拒むような内容。
優しい優しいその声は、少女に向けて話しかけている気がする。
この屋敷は、まだ敵が居る――。
しかし。まずは、花と少女だ。
妖「ウツツカサネ」――戦闘開始。
鬼伏・キサラ
ふむ……
ずいぶんと華の機嫌を損ねちまったようだな
それとこの気配、どうやらいるのは華の妖だけじゃないようで
あれは人の子のように見えたが……
いずれにせよ、まずはこの偽の結界をどうにかせにゃならん
とはいえ、あの量の草を刈ろうにも、あいにく道具の持ち合わせが悪い
仕方がないな、ここは緋月香を使うのが良さそうだ
こいつは、植えるとたちどころにしなる枝を伸ばす呪木でな
だが伸びるのは枝だけじゃない
こいつが深々と張った根は、周辺の草木の根に絡みついて腐らせるのさ
いくら妖といえど、植物なら根腐れりゃ枯れる
あとは根繁り香を焚いて成長範囲を広げりゃ、勝手に腐らせていく
待っていれば、自ずと隠れてるもんも見えてくるだろうさ
「ふむ……」
キサラは、こいつはやっかいだ、と髪をかきあげる。
「ずいぶんと……華の機嫌を損ねちまったようだな」
眼前に広がる牡丹の花園は蠢き――濃く、甘い香りが漂ってくる。
景色にあまり変化はない。
貴族の庭園を偽り、貴族の屋敷を偽り。
華の中央、伸びた手から香りが漏れるたび、生み出されるのは人々を救う幻の紛い物。
焼け焦げた世界を包み、人々を守る結界を語る偽りの幻。
それと――この気配。
「どうやらいるのは華の妖菓子だけじゃないようで」
――あれは人の子のように見えたが……。
鬼を知り、妖を知る男は思う。
人の子、というのは厄介なものだ。
ぽりぽり、と耳元を指で弄りながらため息を吐く。
厄介……それは、救う手間の話ではない。
人に仇をなす存在の多くが……その姿を疑似餌に使う。
子の声を真似て鳴く妖。
森を走る迷い子は巨大な黒い塊に繋がっていた。
いやいや、それが突然姿を変えて巨大蜘蛛になる例だってある。
家族へ送り届けるまで、人の顔をしていることすらある。
だから厄介なのだ。
「いずれにせよ、まずはこの偽の結界をどうにかせにゃならん」
揺れ動く桃色の華の化け物。
背後に広がる貴族の屋敷は、華の手が合掌するたびに姿を変える。
――全身の熱が奪われる感覚がある。
幻の質が変わった。こいつも――厄介だ。
「とはいえ、あの量の草を刈ろうにも、あいにく道具の持ち合わせが悪い」
どん、と木箱を再び下ろせば扉を開ける。
指先で棚を3段、タンタンタン、と引き出す。
「こいつは即効性がない、こいつは幻覚の華には未知数か……今試すのは好ましくない」
指先が掴むのは1つの乾いた植物。
「仕方がないな、ここは緋月香を使うのが良さそうだ。
こいつは、炊いて使えば万病の薬。だがね、こんな乾いた木片でも」
屈み込めば、地面に触れる。
枯れ草かい、そうだった――目を閉じて握れば、枯れ草を引き抜ける。
確かに土。香りを聴いた。
「植えるとたちどころにしなる枝を伸ばす呪木でな」
片手で払った土の中へ、緋月香を押し込み埋める。
華の幻覚は命を奪い続ける……が。
そもそも、死なない、のだ。
ちぃと寝る時間が伸びるんじゃあないかね、とため息が増えるのは確かだが、直接的な影響は薄い。
伸びるのは枝だけではない。
――枝が育つって事は、根を広げるってことでね。
――呪木と言われる所以の1つ、こいつの生える場所には雑草一本生えてこない。
「そろそろ頃合いかね」
足元……緋月香を埋めた場所から、
ぐねり、ぐねりと蠢いた枝が広がる。
地中から音が聞こえる。
根が、辺りへ広がっていく音。
「こいつが深々と張った根は、周辺の草木に絡みついて腐らせるのさ」
棚を閉じ、扉を締め、木箱をひょいと担ぐ。
「いくら妖といえど、植物なら根腐れりゃ枯れる」
ここは平安結界の外。このあたりに生きた草木はない。
この呪木ですら……自然にとってありがたい、と感謝されるほどの場所。
ならば、広げても問題はない。
「あとは根繁り香を炊いて成長範囲を広げりゃ、勝手に腐らせていく」
地鳴りが聞こえてくる。
桃色の華のいくつかが頭を垂れる……まるで萎れるかのように。
ただ――これは、妖の首を締めているようなもの。
首を刎ねる訳ではない……遅効性だ。
地鳴りのたびに華が萎びる。
しかし……その全てを始末するには時間が必要だ。
幻覚が揺らぎ、時折荒れ果てた世界が見えるようにはなった。
弱りは見えるが、妖とてそのまま枯れ果てる訳にはいかない、と幻に力を込め抗おうとする。
形勢に大きな変化はなかったように見える……。
しかし――この技は未来へと続く。
皆が帰った後、そこは桃色の蕾をつけた花の芽が……なんていう結末はもう起こらない。
種は1つも残させない。
「待っていれば、自ずと隠れてるもんも見えてくるだろうさ」
呟きながら、あたりの様子を伺う。
華への対処はした。
――他の気配へも意識を向ける。
大成功
🔵🔵🔵
白霧・希雪
SPD アドリブ大歓迎
「気味が悪い花と、少女の声…」
迷わず行動を開始する。少女を救うのが最優先だ。
だが、敵のユーベルコードが邪魔をする。
また、幻覚ですか…
同じように違和感を探ろうとして、気づく。
目の前に立つ人物に。
「師匠…」
眼前に現れる幸せな夢幻。
希雪を覗き込む優しげな瞳。
ただ、甘く。
でも──
「師匠が言ったんですよ?見るモノを間違えるなって。自分の道を違えるなって。」
「救える命があるのに、こんなところでのんびりするわけにはいかない。」
ついでに、生命力も返してくださいね?師匠。
呪を広範囲に放つ。(UC)
幻は晴れてゆく──
「確か、あの先に…」
薙刀を振るい、襖を斬り裂きながら駆ける。
「いた…少女だ」
「気味が悪い花と、少女の声……」
希雪は、まっすぐに花を視る。
気味が悪い花……もはや現世の花を模すものではない。
桃色の花の中央から伸びた掌が、開き……合掌する。
茎はメキメキと音を立てて蠢く。
妖……不気味な外見の割に、放つ気配は黄金色。
そのチグハグさがまた、気味が悪いのだろう。
――迷うことなどない。
今、するべきこと。
猟兵への攻撃範囲が広い。
幻の影響もわからない。
一番危険なのは――少女。
少女を救うのが最優先だ。
希雪は、駆け出す。
だが。
妖も、抗う。
ふわり、と掌から光の粒が舞い上がる。
キラキラと輝くオーブは……周囲に散らばり。
領域全体が黄金色の輝きを帯びた後――空気や香りすら、雅な貴族の屋敷。
この場所が、平安結界である、と自称してくる。
パン、と開いた両手が音を立てて閉じる――同時に。
耳元で声が聞こえる。
空間に文字が見える。
感覚がそう、悟る。
「平安結界の中と同じように暮らせ」
アヤカシエンパイアの貴族が強いられて居ること。
傷ついた世界を隠し、人々を守るために……雅に暮らせなければならない。
それが結界を維持する方法。
妖はその手法を盗む。
ならば――。
「この偽の平安結界の中で、同じように暮らせ」と宣言するのだ。
「また、幻覚ですか……」
希雪はため息1つ、違和感から幻覚看破を目指す。
その瞬間、空気がちくりちくり、と突き刺さるように纏わりつく。
声がする。
「結界を疑うか?」
「結界を疑えば、世界は元に戻る」
「結界を知られぬため、|花《我ら》は咲く」
敵の、ユーベルコードが作動する――平安結界ごっこでは、平安結界を疑わない。
ルールの逸脱だ。
瞬間、声が漏れてしまう。
「師匠……」
希雪の眼の前に、突然恩師の姿が現れる。
ルールを破れば、命を奪う幸せな幻覚が襲いかかる。
襲いかかる……と言うのもおかしなもの、かもしれない。
この技は、甘い夢の中で抗わずに養分となれ、と言われているようなもの。
夢を見たまま、目を覚ますな、ということ――。
良くやっている。
頑張ったな。
という笑顔。
まるで、全ての贖罪を終え……その元に、彼女が帰ったかのような顔。
優しい瞳は、ただただ穏やかで美しい光を湛えていた。
さあ、お茶でも飲んで話そう。
そんな態度で……師匠は、歩き出す。
甘い香り。
どこかで、嗅いたような、甘い香り。
意識の深層に潜り込み、視界を遮る。
まるで、その場に師匠しかいないような。
霧の中で、笑いかけ……。
深く、心は落ち。
花は笑う。
花は笑うはずだった。
凛とした声が、その幻想を打ち消す。掻き消す。
「師匠が言ったんですよ?見るモノを間違えるなって。自分の道を違えるなって」
幻覚。都合の良い幻。
だから――間違っていると分かるのだ。
幸せ、というのは笑う事、甘える事だけではない。
律してくれる存在を持つことこそ難しい。
それこそが、幸せなのかもしれない。
「救える命があるのに、こんなところでのんびりするわけにはいかない」
迷いなんて――そもそもなかった。
白き翼が開く。
舞い散る羽が、荒れ果てた荒野へ降り注ぐ。
焼け焦げた屋敷、枯れ果てた大地へと光を帯びて降る。
「ついでに、生命力も返してくださいね?師匠」
まっすぐに突き出した掌に力が集まる。
呪いとは、蝕む毒と同じ。
けれど――毒は、薬になる。
そう導いた師匠が、毒のまま腐れなど、言うはずがない。
「カース・ラヴィジェルド――!」
白き翼に相反する、黒き炎のオーラが周囲に広がる。
花々は黒き呪いに焼かれ……どんな、夢を視るのか。
呪いの味は、甘いか?
呪いのオーラは力を奪い、与える。
奪われた生命力は希雪に返り……幻覚のリソースを奪い取る。
彼女の力に触れた花は、もはやただの蠢く草。
吐き出す香りは……腐臭。いずれ、枯れゆく残骸。
多くの花々を倒し、幻を弱めた。
幻が崩れる……だが、まだ敵は抗う。
荒野との景色が入り乱れる中、明確に何かを隠すべく幻が濃い場所がある。
「確か、あの先に……」
希雪は薙刀を構え、まっすぐに突撃していく。
1枚、2枚、3枚――襖を切り捨てれば、そこに――赤い着物の少女が蹲っている。
「いた――少女だ」
声に反応して、赤い着物の少女は顔をあげる。
「ねえさま、だあれ?……とうさまと、ははさまを探しに来たの……」
そのとき――気配がある。
オブリビオンが、視ている気がする。
彼女を誘い込んだのは……あの花じゃない――!
大成功
🔵🔵🔵
ルナ・キャロット
極楽もこの屋敷も幻で……?何が本当かわからなくなっちゃいます…。
ううう不気味です…がビビってる場合じゃなさそうですね。
高貴な姫騎士として早く守りに行ってあげないとです!
ルールは平和にしてろってことですかね?
無理です!ペナルティ覚悟で攻撃します
なるべく広範囲を一気に斬ります。人権ジョブの範囲火力を思い知ってください!
幻覚だとわかってれば騙されません!絶対に!
なにか起きてもこれは幻覚です仮想空間です。ログアウトすればいいのです!
(ゲーム系の幸せならこんなことありえない!って気付ける悲しき廃人)
(ケモ系の幻覚だと抜け出せないかもしれない兎)
(何でもお任せ)
黄金だらけの極楽から――所謂エリア変更のテロップすら表示されずに貴族の屋敷に変わるような。
そんな幻覚の中に咲く桃色の花を見つめながら、ルナは呟く。
「極楽もこの屋敷も幻で……?何が本当かわからなくなっちゃいます……」
ぎゅ、と目をつぶった後、気合を入れるように言葉を刻む。
「ううう……不気味です……が、ビビってる場合じゃなさそうですね」
両手を双剣に重ねながら、表情を整え――騎士らしい澄んだ声で一歩を踏み出していく。
「高貴な姫騎士として早く守りに行ってあげないとです!」
猟兵のその声と動きに、蠢く桃色の花は反応する。
掌のような器官をしきりに開閉し……中から黄金色の光の玉を辺りに放つ。
ぎしりぎしり、と茎が軋むような音を立てて揺れた後、一斉に。
花弁の中央から伸びた掌を、ルナに向けた。
同時に声が響く。
直接精神に介入されているような、耳元で囁くような。
空間にもクエストの内容を表示するウィンドウのように文字列が並ぶ。
これはウツツカサネのユーベルコード――。
この幻覚空間でのルールを押し付け……敵対存在の動きを制限するもの。
「ルールは――」
『平安結界の中と同じように暮らせ』
――ここは亀裂の外で幻覚の中にいる、だが――平安結界と同じように暮らし、
「この幻覚を維持しろ」――そう妖が言っているような。
「ルールは平和にしてろってことですかね?」
――無理です!
言葉と同時に、双剣を構えて走り出す。
ボスが制限を貸し、それに従わなければデバフやダメージなんてよくあることだ。
ペナルティを上回るリターンや対策があるのなら、それは逆にチャンスですらある。
視界の中で敵の配置を確認する。
ユーベルコード、クレセント・スラッシャーを放つ準備。
多くの敵を巻き込む位置へ走りながら、力を集中する。
近接攻撃職だが――この一撃は遠距離に届く技。
大概、この手の飛ぶ斬撃はサブウェポンで、敵視を集める程度にしか使われない場合が多いのだが……。
しかも、単体攻撃という例がほとんど。
だが、|聖剣士《グラファイトフェンサー》が扱うそれは、全く別物だ。
超火力を叩き出すDPS職の一撃――しかも、その斬撃は範囲攻撃だ。
「――なるべく広範囲を――」
空中に跳ねた後、サイドステップで横に滑りながら双剣を逆手持ちに切り替える。
「クレセント・スラッシャー!」
クロスするように振り抜く。
左右広範囲に美しいキラキラとしてエフェクトが広がり――その空間を刈り取るように斬撃が飛ぶ。
「――人権ジョブの範囲火力を思い知ってください!」
キィィィン、という甲高い斬撃音が響き、輝く粒子が舞うその場所に……もう、花はない。
桃色の花は首元から切り裂かれ、残るは茎の残骸のみ。
扇形範囲の花を一気に吹き飛ばす。
かなりの数の敵は倒せたが……残る花もある。
ルールを無視したペナルティが降り注ぐ。
生命力を奪う幸せな幻覚――。
「幻覚だとわかってれば騙されません!絶対に!」
しばしば姫騎士は言ってしまうものだ。
絶対に負けないと――。
ポン、と視界の隅に黄金の宝箱が生み出される。
周辺に紫色やオレンジ色の武器ネーム――。
ユニークやエピックやレジェンドなんて呼ばれそうな武器が転がり……。
「なにが起きても、これは幻覚です仮想空間です」
耐えている。
「ログアウトすればいいのです!」
ゲームとして、こんなアイテムの発生はしない。
チートやグリッチで出現させたスクリーンショットがあたかも本物のように出回る雰囲気。
こんなことはありえない!と否定できれば、幻覚には落ちない。
ぽん。
煙と共に宝箱が開く。
「あ゛ッ……」
中から、階段にして3,4段目。
ふわふわで、つま先立ち、髪のあるタイプのうさぎ獣人の少女が……1人……。
ぽん!となるたび、中から丁度よい雰囲気のうさぎちゃんが溢れ、笑顔で走ってくる……。
ルナの周囲にカメラが浮かぶ。スクショを連打する音……。
じゅる、と口元で音がした後……小さな舌打ちが響いた。
そして、幻覚は言葉通り打ち破られることになる。
花は幻覚を誤った……なんかカチューシャだけつけた平安の女の人みたいな存在を混ぜてしまった……。
無言で放った二回目のクレセント・スラッシャーが、正面を薙ぎ払った。
大成功
🔵🔵🔵
ベロニカ・サインボード
【平安結界の中と同じように暮らせ】というルールなら、花であるアンタ達は、摘まれても無抵抗よね
それとも妖だから、「好き勝手に暴れる」が正常なわけ?(不平等なルールね)
いずれにせよ私は妖を攻撃するわ
私は結界の中でも、オブリビオンが現れたなら戦闘する。だから戦う事は普通に暮らすのと同じ
通らない?そう。
生命力を吸われても構わない。生命力ごと、私のエネルギーから作られた『ワーニン・フォレスト』を取り込んでもらう
『|第二の扉《セカンドドア》』
一寸法師の戦いのように、幻覚の内側から殴り、看板をつけ、少女と両親の居場所を探すわ
…私の見る幻覚は、少女と両親の幸せな再会
現実にするために、私も命を使うわ
桃色の花は揺れ、抗う――。
咲いた掌からこぼれる光の粒は周囲の幻覚をより強く、濃く育てていく。
ベロニカの目前で揺れる花々もまた、猟兵に抗う。
舞い上がった光は、キラキラと舞い落ちて――ユーベルコードを発動する。
声で、響きで、文字で……ルールを宣言する。
「――【平安結界の中と同じように暮らせ】というルールなら、花であるアンタ達は、摘まれても無抵抗よね」
妖を見下ろしながら前に出る。
「それとも妖だから、「好き勝手に暴れる」が正常なわけ?」
――不平等なルールね、と小さなため息を続けて。
不自然に揺れていた花々が動きを止める。
光の粒子は花々の周りを漂い、自信の姿を牡丹に見せようと幻覚を生み出す。
効いている――言葉の指摘が効いた。
花の姿とは言え、妖――UDCアースの都市伝説ほどではないが、大概の化け物は自身の約束に縛られる。
自信の幻覚を生み出す行動に疑問を感じたいくつかの個体は、
ひたすらに自分を偽ろうと幻覚の範囲を狭めた。
「――いずれにせよ」
ベロニカが走り出す。
戦うことには変わりないのだ、と。
「私は結界の中でも、オブリビオンが現れたなら戦闘する」
――花の動きが止まる。
結界が破壊されたり、亀裂が生まれたらどうするか――。
庶民はそれを知らない。だから対応されない。
獲物はほぼ、対応しない――だが、猟兵は貴族たちと同じく、亀裂を塞ぐ者たちだ。
「だから戦うことは普通に暮らすのと同じ」
偽の牡丹の花園目掛けて、大きく跳ねる。
甘い香りが周囲で弾ける。
ルール違反を裁定しきれない……この手の手法に、妖は弱い。
ルール違反ではない……。
が、いくつかの花は……それを違反と裁定した。
ユーベルコードが徐々に染み込んでくる。
抗える、幻覚だと理解できる程度でしか、効果を示せない。
――通らない?そう。
ユーベルコードの影響が発生したことを視界の先で認識する。
襖が全て開いた先――。
赤い着物の少女が陰陽師に見える二人の影と手を繋いでいる。
穏やかな空気、嬉しそうな声と優しそうな声。
抱きとめられた少女が、安堵の声を漏らす。
同時に、気味の悪い花は一輪も見えない。
それこそが、幸せな幻覚。
――このお話のめでたしめでたしなのだ。
途端に、全身に虚脱感が広がる。
力を奪われている、そんな感覚。
――生命力を吸われても構わない。
生命力ごと、私のエネルギーから作られた『ワーニン・フォレスト』を取り込んでもらう。
自身が触れた物体、それは無論……自身の命に触れられるのも同じこと。
ベロニカの全身から吸い上げられた命は、逆に花を蝕む。
例え対象を目視できなかろうと……それが幻覚の中だろうと。
ユーベルコードへの礎と変わる。
『|第二の扉《セカンドドア》』
なにもない場所で狼の拳が生まれ、虚空を殴ると、ぐし……と植物が折れる音が響く。
まるで同士討ちのように、狼の拳が空間を殴り合っている。
その幻覚の外では、妖に生えた腕が別の妖を殴り、折っていく様が見られただろう。
幻覚の内側から、幻覚を砕く一撃。
続いてボン、とい鈍い音が響けば花に突き刺さるのは看板。
その記載は――、
「↓オブリビオン →少女 →オブリビオン・父母」
「そっち、ね」
放っておいても、生命を啜った花々は憑依したワーニン・フォレストが倒していく。
襖の先……少女の保護を目指して、踵を返してベロニカは跳ぶ。
看板が告げる場所。
そこには迷子の少女が一人。
「とうさま、かあさま……生きていて」
と、キョロキョロ周囲を探している。
そして……強いオブリビオンの気配が、隣の部屋から溢れている。
これは花のものではない。
ベロニカは……看板を思い出す。
「→オブリビオン・父母」
まだ、生きている。居場所は、となり。
「|要救助者《アリス》、もう大丈夫よ。もちろん、ご両親も助けるわ」
優しい声で、ベロニカが少女に話しかける。
「ねえさま……?ほんと……!」
少女は声をあげながら振り向いた。
何度と幻に囚われながらも、猟兵達の声は正気を維持する助けになる。
倒した花も多い。
少女の体調もだいぶ戻っていそうだ。
大成功
🔵🔵🔵
臥待・月紬
幻覚の強度が上がってる。
それにこの息苦しさ……毒ッスね。
生きた女の子が迷い込んでるようだし、あまり時間はかけられないッス!
式神化した縄を四方八方に伸ばして結界を形成。
花が探知に掛かったら縄を操作して絡め捕り、引き寄せて根元から引っこ抜く!
……一株ずつ潰してたらきりがないッスね。
縄で引き寄せたら一纏めにして、手榴弾投擲!
一気に吹き飛ばす!
迎撃と並行して、女の子の捜索も実行。
結界内に人間の反応があったら、その周りに縄を集中展開。
アヤカシの攻撃からガードする。
花のほかにも、猛烈に嫌な気配がするんスよね……。
遠隔で守るには流石に限界がある。
早く助けに行く為にも、さっさと道を開けてもらうッス!
ごぅ……と風が音を立てて吹き抜けた。
それは、幻覚の裏で吹き抜けた風。
咲いた妖から舞い上がる幻覚を生み出す光の粒を、辺り一面に届けるには充分な風。
――幻覚の強度があがってる。
月紬は、目線だけ動かして周囲を確認する。
空気が重い。
吸い込む空気の甘さが喉に張り付くようだ。
「それにこの生き苦しさ……毒ッスね」
息を吐き出した後、呼吸のペースを変える。
自身への対策は心得がある。
幻だけならまだしも、幻覚に毒が混じった事自体が大きな問題なのだ。
ユーベルコード由来の力なら尚更。
それは――。
「生きた女の子が迷い込んでるようだし、あまり時間はかけられないッス!」
生存者にも効果を及ぼしてしまう、ということだ。
「悩んでる暇は無さそうッスね――結界術」
目を閉じ、意識を集中し、パン、と1つ柏手を打つ。
「標縄張り・改!」
ぽぽん、と足元で生まれた煙がくるくる周りながら縄に吸い込まれていく。
これより、縄は式神と成る。
まるで蛇使いの蛇のごとく、自ら這い出た縄"達"は――辺り一面、四方八方に一気に伸びていく。
生き物の如く、縄達は素早く屋敷や庭園を目指し伸びる。
月紬の意志に応えるように、敵を探し――滑る。
縄は幻覚の中でも、現実の感触をフィードバックする。
庭園に見せかけている場所。
枯れ草や枯れ木、崩れた建物、石ころ――石が多い――池――だったであろう場所。
その時、一本の縄が反応を返す。
「そこッスね!」
指をちょい、と動かせば縄は妖の身体に巻き付き――締め上げ、絡め取る。
腕を横に払えば、縄はそれに応える。
引き寄せながら――根本から妖を引っこ抜こうと。
無論、妖も抗う。
毒も幻覚もこの縄への対抗策にはならない。
蠢き、捻じれ……植物のフリなどしている余裕もない。
もがき、縄を逆に引き返そうと動く。
「やっかいッス……」
再び指を払えば、一気に縄が滑る。
ぶちり、となにかを引き抜いたような反応が縄から伝わる。
結界の伝える反応が1つ消えた。
――倒した、事は分かるのだが……。
「……一株ずつ潰してたらきりがないッスね」
手元で印を結んで、パン、と再び手を打てば一斉に縄が動く。
反応があった縄全てが、先ほどと同じように絡みつき――引き寄せる。
ドクダミの地下茎が繋がるように、多くの株が繋がったまま……眼の前に集まってくる。
気味の悪い、のたうつような動き。
花から生えた手も、まるで呼吸をする口のようにパクパクと動く――。
「こいつで終わりッス!」
懐から取り出した手榴弾……口元でピンを引き抜きひょいと投げ込めば、器用に耳をパタン、と倒して塞ぐ。
数秒後。
ズゥゥン……という激しい轟音と揺れが辺りに響き。立ち昇る土煙の中……縄から伝わる妖の反応は消滅した。
「こればっかりに構って居られないッス」
同時に、屋敷の幻覚の中を滑っていく縄も情報を伝えてくる。
――屋敷はある。おそらく廃墟――壊れているが、間取りが分かる。
幻覚で閉じている襖の先……いや襖は無い。
縄がまっすぐに少女が居る場所……崩れた部屋目掛けて進み、場所を伝える。
「そこッスね……!」
部屋を囲むように縄を走らせれば、集まり、捻じれ――しめ縄の如く。
毒気を弾く結界と成る。
「花のほかにも、猛烈に嫌な気配がするんスよね……」
言葉と同時に。
尾が逆立つような――強い悪寒が、縄の結界から伝わってくる。
居る。
それは――少女が居る部屋の隣。
3mくらいか――オブリビオンと"複数の人間"の反応。
何人かの人間の反応と、オブリビオンの反応は重なっているように感じる。
食ったのか――取り込んだのか。
咄嗟に感じる。
縄を侵入させるのはまずい――。
縄が――切れていく感覚がある。
"それ"から遠隔で守るには……流石に限界がありそうだ。
結界に対しての攻撃を感じ取る。
何本かの縄が切れた――が、今の一撃は明確に防げた。
「早く助けに行く為にも、さっさと道を開けてもらうッス!」
庭園に放った縄が、再び妖を纏めて眼の前に引きずり出す。
爆破するたび、幻覚の範囲は狭まってきているようだ。
大成功
🔵🔵🔵
八秦・頼典
●WIZ
さぁて、遂に化けの皮が剥がれたようだけど…今度は妖に誘い込まれたであろう童女の声と誘う妖であろう声がしたね
一刻も早く追うべきだろうけど、妖花が放つ幻と毒霧で通せんぼされたら、だ
まやかしその物を破壊するのは骨が折れそうだから、ここは元を断つべきかな?
【形代召来】で幾百の形代を放って毒霧の中へと突入させ、ウツツカネクサに貼り付かせていくよ
一枚一枚はたいした事ないだろうが集団となって纏わり付けば、さながら蜜蜂の熱殺蜂球が如し【浄化】さ
攻撃に加わっていない形代らは渦を巻くように回転しながら飛ばし、溜まった毒霧を上空へと霧散させようか
鬼が出るか蛇が出るか
もし仏が出たら、世も末と良いところだろうね
穏やかに見える屋敷に、頼典の凛とした声が響く。
「さぁて、遂に化けの皮が剥がれたようだけど……」
さり、と一歩踏み出し、畳んだ扇を手元でくるりと回す。
「――今度は妖に誘い込まれたであろう童女の声と誘う妖であろう声がしたね」
この場に存在するのは、花の妖だけではない。
常に次の一手を意識して歩き出す。
轟々と暴れまわる妖とは違う、闇や影に身を隠し悪辣を尽くす妖の気配。
このタイプの妖は、総じて芽のうちに摘むのが最適解。
放置すれば放置するほど、面倒な悪事を働き始めるものだ。
つまり――。
「一刻も早く追うべきだろうけど、妖花が放つ幻と毒霧で通せんぼされたら、だ」
ふむ……と小さく呟いて、周囲の状態を見回す。
咲き乱れるのは妖花。
眼の前の庭園では腕を伸ばした奇っ怪な花が蠢いている。
目線だけを動かして、屋敷の状態を確認する。
無人だが、それ以外に違和感はない精度の幻。
扉や通路も違和感なく、寝殿造りの屋敷として成り立っている。
空気は、先程よりも重く、甘い。
喉に張り付いて焼け付くような――毒気が増してきた、か。
――扇を開くと口元を隠す。
――まやかしその物を破壊するのは骨が折れそうだから、ここは元を断つべきかな?
極楽、屋敷と歩んで分かることは幻覚の強度。
妖花が群れているからか、それとも何体でも変わりなくこの精度の幻覚を生み出すのか。
なんにせよ、幻覚の破壊は手間がかかる。
しかし、元凶たる妖花自体は、欺き隠れる妖……本体の耐久は低いと想定できる。
ならば、と指を組み印を切る。
「――形代招来!」
しなやかに伸びた指が術を編めば、ばさり、と紙音を響かせ幾百の形代が周囲に浮かび上がる。
次の印を切れば、形代達は指示に従い一斉に行動を開始する。
渡り蝶のように列を成し、空へと舞い上がり、一直線に妖花へと降り注ぐ。
「一枚一枚はたいした事ないだろうが集団となって纏わり付けば、さながら蜜蜂の熱殺蜂球が如し浄化さ」
ミツバチは群れで外敵を包みこみ、48度を上回る高音を発し熱殺する。
形代もまたウツツカサネの身に張り付き、埋め尽くす。
がさりがさり、と紙でその身を包まれ、蠢くことすらできなくなった妖花へ、形代達は力を放つ。
発するのは温度ではなく、浄化の力。
一枚一枚が放つ浄化の光が重ねれば、それは閃光のごとく。
ばきり!と中から音が聞こえ――集まっていた形代達は空へ戻る。
そこに残されたのは妖花の残骸、灰と変わり崩れ落ちる。
光の粒子を残し……そして全てが消え失せる。
「こちらも――オン!」
眼前で再び印を切れば、形代の一軍が再び空に舞い上がる。
屋敷の上をぐるりぐるりと回れば、それはつむじ風の如く。
風を起こし、空へと毒霧を吸い上げる。
紫のような桃色のような濃く甘い霧が空へと浮かべば、浄化の力が霧を消し飛ばす。
当面、毒の問題は発生しない。
童女もまた、毒に倒れることはないだろう。
形代は舞い、次々に妖花を倒す。
庭園の妖花は浄化の力に消えていく。
妖花が倒されれば、幻覚が揺らぐ。
先へ進む為に、元を断つ。
それは見事に童女への道、そして潜むもう一つの妖への道を切り開いた、と言える。
襖の幻覚が次々に消え、通路が繋がっていく。
その奥に赤い着物の童女が見える。
頼典は呟く。
「鬼が出るか蛇が出るか――もし仏が出たら、世も末と良いところだろうね」
彼がまっすぐに見つめる先は、さらに彼女の後ろ……一枚の襖の裏。それは屋敷の深奥か。
漂う妖気が濃い。
もう一体の妖、声の主が居る――誰もがそう分かる、禍々しさ。
ここは結界の外、一度終わった末の世界――それこそ世も末。
解決の未来へ向け、
仕事の大詰めへと陰陽探偵は歩き始めた。
大成功
🔵🔵🔵
七織・岬
ははん、花ってのはこういう事か
ほーん、どういう仕組みになってんだこりゃ
――斬ってみるか
あー、ただガキが一人迷ってんだよな
妙な声も聞こえたし、ったくしょうがねぇ
とっとと保護して他の猟兵に任せちまおう
方針:少女を保護【護衛】し、味方に引き渡す
【集中力・気配感知・心眼・第六感】で少女のいる方向に検討をつけたら【指定UC】で集中して向かっていくぜ
邪魔する奴は目もくれず〔剣気〕でぱっぱと斬り払ってく
あ?ルール違反?
何言ってんだ
俺はいつだって斬ること斬りかかられる事を考えてるし、いつどこだろうと、斬ろうと思ったら斬るぜ
それが俺の里の常識で日常だ
ま、おかげで子供には〔不殺の誓約〕があるんで意識しちまうし、あんましほっとけないんだがな
おう、迷子はお前か
こんなトコまで一人で来るたぁ、やるじゃねぇか
しっかし一体何がお前さんを動かしたのかね
ま、少しだけ我慢しな
頼れる兄さん姉さんがくるまで、俺が居てやるよ
それまではそうだな、帰ったらやりたい事でもあるか?
おっと、後は任せてよさそうだ
じゃ、俺はちょいと斬ってくるぜ
ふわり、と幻覚の揺らぎが辺りに広がる。
庭園に広がる花畑も規模を縮めてきてはいる。
――だからこそ、このタイミングの妖は油断できない。
足掻く、と言えば良いのだろうか。
隠していた力を放ったり――全てを巻き添えにしたり。
何にせよ、いける、と焦るのは得策ではない。
だが、ガチガチに緊張し……神経質に構えるのもまた、命を危険に晒す。
ざ、と庭園の幻覚が砂音を立てる。
岬は、屈み込んで花を覗く。
「ははん、花ってのはこういう事か」
目を細めて、じっとそれを覗く。
ぱかり、ぱかり、と掌のような器官が花びらの中央で蠢いている。
「ほーん、どういう仕組になってんだこりゃ」
少しばかり興味があるような、そんな声を漏らしながらじっとその様子を伺う。
ふわりと光の粒が掌から生み出され……辺りに散らばる。
花は、花のフリを続けるつもりなのか、そのまま特に大きな動きは見せない。
花、葉、茎……掌。
――斬ってみるか。
一瞬、空気が震えたような気がした。
岬の姿勢に変わりもなければ、蠢く花にも変わりはない。
幻覚の庭園に荒れ果てた地の音が届く。
ヒュウ、と風が吹き抜ける音が聞こえた直後、花は地面に落ちた。
花びらの中央から開いた掌はビクビクと痙攣し、そして動かなくなる。
そして黒ずみ、灰になり、切り落とされた花は消滅した。
そして……"咲いているつもり"の茎はまだ、蠢いている。風に揺れるような素振り。
ぐしゃり……崩れ、同じように灰に変わって消えた。
「ったく、正体見たりなんとやら……ってか」
呆れたように声を漏らし、気だるそうに立ち上がる。
再び斬撃を放とうか――と思ったところで、ふと脳裏に過ることがある。
「あー、ただガキが一人迷ってんだよな」
くしゃくしゃ、と前髪を掻き上げてため息を1つ。
面倒見が良い、のだ。
だからこそ、そんな面倒事もいつもながら降りかかる。
「妙な声も聞こえたし、ったくしょうがねぇ」
ぶらり……と。
何気なく歩き出すような。
「とっとと保護して他の猟兵に任せちまおう」
大きなため息を漏らして進む彼の目は、態度とは異なり優しい男のそれだった。
「っと――」
カッと目を見開く。
集中力が漲り、霊的現象すら感じ取る第六感。
剣豪としての気配感知――そして、幻覚すら見抜く心眼。
屋敷の幻覚など、存在しないかのごとく。
眼の前にあるのは廃墟の屋敷。
構造は幻覚と同じ……ただ、壊れている、古ぼけている、焼け焦げている。
襖なんてない。
吹きっ晒しのボロボロの壁。
しゃがみ込む少女。
そして、妖気。
少女の後ろの部屋から、濃いオブリビオンの気配がする。
「んだよ、まっすぐじゃねぇか」
呟けば、気だるそうな態度は消え走り出す。
同時に、ユーベルコードが力を示す。
|無念無想【心剣】《セツダン・メディテーション》。
少女の保護が目的ならば、それは戦闘行為ではない。
ただ、目的地へと歩むだけ。
屋敷へと根を飛ばした花が隣に咲こうとも。
彼の足取りはまっすぐに進んでいく。
外部からの攻撃を遮断し――生命維持すら不要。
ルールに背いた。
平安結界の中で――と、花は繰り返していた。
ずっと……繰り返していたのだ。
今、ようやく岬の耳に届いた。
ユーベルコードの精神異常無効など無くとも、彼はそのまま歩み続けただろう。
そういう、男なのだから。
「あ、ルール違反?」
舌打ちと共に言葉を返す。
「何言ってんだ」
呆れたような声。
「俺はいつだって斬ること斬りかかられる事を考えてるし、
いつどこだろうと、斬ろうと思ったら斬るぜ」
らしくあれ……そう決めたのは妖そのもの。
覚悟無き一般人を食らう罠……だから、この意志に返す力はない。
「それが俺の里の常識で日常だ」
ドン、と大きく飛ぶ。
廃墟の崩れた床から、隣の部屋へ。
「ま、おかげで子供には〔不殺の誓約〕があるんで意識しちまうし、
あんましほっとけないんだがな」
その言葉と共に、飛び込んだのは少女がいる部屋。
「おう、迷子はお前か」
言葉遣いは悪い。態度も、ちょっと怖い。
けれど暖かい声が少女の耳に届く。
「迷子じゃ、ない。とうさまと、かおさまが迷子なの」
――少女は、男の顔を見上げる。
頼れる――安心感がある。雰囲気とは違う、心のなにか。
それを感じて、凛とした顔を作る。
「こんなトコまで一人で来るたぁ、やるじゃねぇか」
こんな環境、こんな状況。
それでも、岬は笑みを作りながら少女の前に胡座を掻く。
照れたように、目を伏せる少女。
「しっかし一体何がお前さんを動かしたのかね」
少女は顔を上げて、まっすぐに岬の目を見る。
「わたし。帰ってこないから、探しにきたの」
岬は思う。
――あの声の奴が誘ったワケじゃねぇな。
「ま、少しだけ我慢しな」
にし、ともう一度笑って。
「頼れるお兄さん姉さんがくるまで、俺が居てやるよ」
少女はじっと目を見て答える。
強く保っていた意志が、安堵で切れる。
目に涙を浮かべて、うん……と頭を下げて。
「それまではそうだな、帰ったらやりたい事でもあるか?」
「そう、だなぁ……。ごはん、みんなでたべたい。
でも、とうさまとかあさま、あぶないかも、しれない。にいさま、いないから……」
涙を拭って、少女は再び岬の顔を見る。
「そりゃあいい、うまいモンは元気になるからな。
あぶないか――そりゃ、違いねえ」
ゆっくり、岬は立ち上がる。
「それじゃあ、行ってやらねぇとな。
後は任せてよさそうだ」
周囲の気配に気づく。
まもなく、猟兵達がたどり着く。
結界や防御術、多くの力が少女を守り始めた。
「じゃ、俺はちょいと斬ってくるぜ」
少女は、お願いします、と頭を下げた。
――岬は扉を開け、閉める。
踏み込むのは、オブリビオンの待ち構える屋敷の深奥。
そこに居るのは――巨大な木製の仏像。多腕……まるで千手観音のような。
第六感が語りかけてくる。
あの腕――"人間"だ。
――これは、皆がたどり着くほんの、ほんの少し前の話――まもなく、全員が集まる。
大成功
🔵🔵🔵
遠藤・修司
見慣れた探偵事務所の一室が見えた
ああ、これは……そう、なんだ……
何も起こらなかった
悪い夢を見ていただけ……
無性に眠たくてならない
眠ればいいと彼の声がする
煙草の匂いがする、掛けられた毛布が温かい
こんな幸せな気持ちは久しぶりだ
そうだね、眠ろう
なんだか頭の中が喧しいけど、眠ればきっと静かになるはず……
【UC使用】
倒れた修司の傍らに狩衣姿の男が佇んでいる
やれやれ、なんとか間に合ったか
僕に手を伸ばすのは、助けを求めているのか
それとも……
ま、何にせよ、まだ現実を認識できるなら話が早い
ちょっと手荒いけど、頭を掴んで目を開けさせる
目を逸らしては駄目だよ
幻で五感がやられていても視える筈だ
ほらそこ、葉の一枚分だけ幻が欠けているよ
さ、もう解っただろう?
それが縋る先にはならないってことを
じゃあ妖退治といこうか
幻を見せようとしているけど、無駄だ
僕を平安の理を知らぬ民や稀人と同じと思うな
紅炎を纏わせた式を操り、蠢く花々を灼き尽くす
平安の理とは結界を守り妖を討つこと――それこそが貴族がすべきことだよ
一方その頃。
穏やかな日差しが、デスクに差し込んでいる。
カーテンが静かに揺れ、柔らかい影が動く。
これは人影――いや、思い過ごしだ。
まったく――こんな仕事ばかりしているせいだ。
見慣れた部屋。
探偵事務所――いつもの景色。
窓、開けていたかな……ほんの僅かな違和感は、優しい空気に溶けてなくなる。
ああ、これは……そう、なんだ……。
修司はふわりと思考を回す。
いつも、仕事の後の景色はこう――。
こうだった、と思う。
『こうであったら――』
そうだ。
依頼は来ていなかったのだ。
なに、よくある話だ。
きっと人は笑いながら言う。
――あなた、疲れているのよ。
何も起こらなかった。
そうだ。
悪い夢をみていただけ……。
甘い香りが、ふわりと鼻先を掠める。
ああ、この前の――いつの――誰から。
窓際に置かれた花瓶。
美しい桃色の花が開いている。
――なんて、名前の花だっけ――。
風が吹き抜ける。
やっぱり、開けっ放しだ。
窓を……締めなきゃ――。
ま、ど――。
香りが強くなった気がする。
優しい光。温かな部屋――無性に眠たくてならない。
構わないか、今日は依頼もないのだ。
『眠ればいい――』
彼の声が聞こえる。
ああ、そうだ――そう……。
気づけば、椅子に腰掛けている。
ギィ――と背もたれにより掛かる。
眠い――瞼が世界の窓を閉じようとしている。
これは……煙草の匂い、か――。
視界は狭く……ぼんやりと揺れている。
毛布か――そんなに、気にする事はないのに。
掛けられた毛布は温かく、安らぐ。
普通の一日。
普通の一日――。
こんな幸せな気持ちは久しぶりだ。
カーテンが揺れている。
ああ、窓――窓を――。
『眠れば――いい』
そうだね、眠ろう。
なんだか頭の中が喧しいけど、眠ればきっと静かになるはず……。
甘い、香り。
――違和感。
窓を閉じ――ては――。
閉じては――ならない。
……どさり、と。
膝から崩れるように、修司は倒れる。
そこは――アヤカシエンパイア。
桃色の花は静かに揺れている。
――命を奪い取り、より鮮やかに香り高く。
そこは荒れ果てた屋敷の庭園。
枯れ草の上。
「――やれやれ、なんとか間に合ったか」
その声は修司と同じ声。
その男は狩衣姿――静かに修司へ歩み寄る。
それは――この世界の彼。ユーベルコードが繋ぐ縁。
男は倒れた修司に歩み寄る。
修司は――無意識に手を伸ばす。
デスクでうたた寝をしながら……無意識に。
「僕に手を伸ばすのは、助けを求めているのか」
修司より、凛とした――迫力、というのだろうか。
それを持つ男が呟く。
「それとも……」
――助け……それ、とも……?
修司は、探偵事務所――窓の位置、その外からうっすら聞こえた声に、ハっとする。
目覚めなければ……!
探索者の経験は、今一気に繋がっていく。
極楽――庭園。花、葉を折った――草。あれは……。
くそ、身体が動かない――。
「ま、何にせよ、まだ現実を認識できるなら話が早い」
――どうしたらいい――。
開かない瞼に力を入れながら修司はつぶやく。
「ちょっと手荒くなるけれど――」
男は、修司の頭を掴んで目を開けさせる。
「くっ……」
目を開けば、そこは探偵事務所。
「目を逸らしては駄目だよ」
横から声がする。誰も、居ない。誰も……居ない?
「幻で五感がやられても視える筈だ」
男の声。
修司は席を立つ。
男は隣を歩く。
窓際、風に小さく揺れるのは花瓶に飾られた桃色の花。
眼の前の荒れ地、風に小さく揺れるのは桃色の妖。
「幻で五感がやられていても視える筈だ」
囁く声。もう――誰だか分かっている。
両手でスーツの襟を正す。
修司はまっすぐに花瓶へと歩く。
男もまた――妖へと歩く。
「ほらそこ、葉の1枚分だけ幻が欠けているよ」
――ああ。そうだった、そうだったね。
手折った葉、これは2度目の幻覚だ。
その瞬間、世界が崩れるように、穏やかな探偵事務所は崩れ去った。
「さ、もう解っただろう?」
「――ああ」
「それが縋る先にはならないってことを」
「ああ」
その言葉の先には、何も見えなかった。
辿り着く先。
一般人に戻ったら――ただの探偵、なら?
静かに、この世界の修司が肩を叩く。
「じゃあ妖退治といこうか」
――少しキザな顔。
どうにも、その表情は見慣れないな、と。
「僕は戦うのが仕事ではないのだが……」
もちろん、返ってくるのは少しカッコつけた笑顔。
修司は応えながら、一歩下がる。
「……サポートしよう」
幸せも、未来の話も、何かしらあるだろう。
いいんだ、そんなものだ。
そもそも、仕事の最中だ――意識を、戻せ。
「幻を見せようとしているけど、無駄だ」
陰陽師たるこの世界の修司が、印を結ぶ。
この世界の彼には、この幻が通じない理由がある。
「僕を平安の理を知らぬ民や稀人と同じと思うな」
衣が音を立てて揺れる。
九字が完成する。
「……最後の稀人ってのは、僕の事かい……?」
――ふ、と小さく笑いながら振り返る、もうひとりの自分。
「……まかせた」
もう一人の自分は、腕を真横に払う。紅き炎を纏う式は、一直線に花へと飛ぶ。
次々と炎は移り、庭園の妖を焼き尽くす。
「平安の理とは結界を守り妖を討つこと――それこそが貴族がすべきことだよ」
――平安結界を護ること。それが、貴族としてこの世界に暮らす物の理。
だから……幻覚は通じなかった。
「助かったよ」
「ほら――早く行きたまえよ」
懐から畳んだ扇を取り出して、奥の間を指す。
今の炎で、全ての花は耐えた。世界は、荒れ果てた屋敷と戻る。
少女と猟兵の姿――そして、よからぬ気配。
「――ああもう、調子が狂うな……」
くしゃくしゃ、と髪を掻きながら、修司は走り出す。
もう一人の彼、この世界の彼は――逆に。
その場にしゃがみ、花の残骸を見る。
「なるほど。他所にも、入り込んでいる可能性もある」
――この世界に生きる者が、妖を知ること。それは次の発生へを防ぐ最善手。
「――忙しくなるね」
――風のように、もう一人の彼は消えた。
走る修司が少女の元へ辿り着いた時、最後の妖が動き出す。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ウタカタボトケ』
|
POW : 彼や彼女の最期の祈りの話をしましょう。
【なぜか救いを感じる呪詛の掌】による素早い一撃を放つ。また攻撃直前まで対象と会話していれば、会話時間に応じて更に加速する。
SPD : 私なら大丈夫です。何度でも引き受けます。
1㎥以下の【移動能力を有する、小さな木偶人形や形代】を設置する。自分はいつでも[移動能力を有する、小さな木偶人形や形代]に転移でき、触れれば負傷回復するが、壊れると死ぬ。
WIZ : 一人で死なないでください。寂しいでしょう?
視界内の任意の全対象を完全治療する。ただし対象は【増幅される後悔を乗り越えないと、妖の言葉】に汚染され、レベル分間、理性無き【腕の一本として、妖の一部】と化す。
イラスト:日向まくら
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠畜生院・茶勒」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
世界は元に戻っている。
――ここは、壊れた屋敷。荒れ果てた場所。
話す時間は僅かだったが、皆は少女と話した。
聞くに、その目的は行方不明の父母の捜索。
だが――幻を使う妖に阻まれ、迷ってしまった。
この奥に父母は――居る気がする、と。
彼女のために、奥の間へと進んだ者も居る。
彼女のために守りを固めた者も居る。
彼女のために駆けつけた者も居る。
ありがとう、と彼女は皆に頭を下げた。
そして。
――少女は皆を信じて、父母たちを託した。
父と母が、世界に仇なす敵を退治していることも知っている。
敵と戦う際に、自分のような存在が弱みになることも知っている。
だから――猟兵のあにさまとあねさまに任せ。
自らは安全であること、が一番の戦いだと悟り守られることを自身から願う。
その時――彼女の背後の裏の扉が弾け飛ぶ。
それはオブリビオンが放つ、妖気のような力。
猟兵達の眼の前に現れたのは……木像。
顔を布で隠した、歪な像。
子どものような形。多腕を持つ。
全身はバキリバキリと木の軋む音を鳴らし、揺れている。
妖が言葉を発する前に、少女が叫ぶ。
「ととさまの仏さま――」
こんな、禍々しいものではなかった。
優しい穏やかな木彫りの仏。
戦いに赴く父が、お守りに彫ったもの。
見守ってくださる――我々が極楽にいけるように、と。
「――わたしは、死にたくないと、聞きました」
像から穏やかな声がする。
だが……不気味な揺れのある、気持ちの悪い言葉。
「――わたしは、極楽へ導くはずだった。ですが、死を拒みました」
ズゥン、と前に歩き出てくる。
猟兵達は感じ取る。
この言葉に意味はない。
オブリビオン――骸の海が染み込んだそれらと同じ。
持ち物に、過去の無念が染み込み動いているだけ。
「しぬために、ほったのに。しにたくないのを、かなえたい。救いたい」
声が何十にも重なって聞こえる。
『だからわたしになればいい。しなずにずっと、てをつないでいましょう。いましょう」
花との戦いの時に、猟兵達は気づいた。
あの腕――人だ、と。
人を取り込んで自らの体の一部として育っている。
死にたくない、という言葉を叶えるという口実。
捉えた魂を自らの身体として肥大化していく、仏像に染み込んだ化け物。
――幻覚の花を退治に向かった、夫婦の陰陽師。
二人は、なんとか幻覚を払いながら、この場所まで辿り着いた。
だが、花の情報は少なく、術中に落ち……死の瀬戸際に居た。
父は嘆いた。
「娘が居る。極楽など無い、現世こそが幸せ。死にたくない。死も極楽も望まない」
あの幻覚の中で命を蝕まれながら、男は最後まで抗った。
だが。
その言葉が、妖を生み出してしまう。
死の直前、極楽への拒否と生きたいという願いが、過去の化け物を引き寄せ……。
皮肉にも、心の拠り所にしていた、仏像に取り憑いてしまった。
そして、話は簡単だ。
意識を失う二人を取り込み腕に変えた……永遠に生きるように、と。
いまだ、都合の良い言葉が仏像から響く。
だが動きは殺意丸出し……自分の言葉に縋らないならば「救済しない」と腕を……人を振り上げる。
放置すれば、その腕は増え続ける。
人を取り込んで。
だが、猟兵達は素早く調べ、守り、踏み込んだ。
だからこそ、そんな未来は訪れない。
幻覚の花園の城に巣食う、主に至るであろうオブリビオン。
迷い込んだ人間を餌食にし育つのは簡単なのだから。
その思惑は砕かれた……だが、決して弱い相手ではない。
破壊し、消滅させるのだ。
――ウタカタボトケ、戦闘開始。
白霧・希雪
【氷海と連携】
私の罪は、救われるの?
私の贖罪は、終わるの?
つい、口からこぼれ落ちてしまった言葉。
言ってはダメな言葉。
いつもなら口にしないし、口にしたとしてもすぐに自責に囚われる、嫌いな言葉。
でも今は…なぜか忌避感なく口から零れ落ちた。
氷海の声が聞こえる。
氷海、私は──
重なるように、オブリビオンの声が聞こえる。
『死した先に極楽などありません。現世こそが、生こそが、永遠の安寧と幸福を──』
敵は事情を知らなすぎた。
そんなのに頼らなくても、永遠に近い命なら持っている。
だからこそ、ただ絶望を重ねていると言うのに。
永遠の命なんて「呪い」は、要らないんだ。
だよね、氷海。
背負うのは、私だけでいい──
UC発動
天黒・氷海
【希雪と連携】
これが…例のオブリビオン。
永遠の命だって?
くだらないわね。
命は散るから美しいのに。
ただ、この類の話は──
希雪を見ると、案の定、いつにも増して暗い表情をしている。
希雪…
希雪?貴方にはやることがあるのでしょう?ソイツが見せかけているのはただの絶望の延長でしか…
はぁ、これはあまり聞こえてないわね…
希雪!貴方の贖罪はこの程度で晴れるモノだったかしら?さっさと目を覚ましなさい!
こんな木偶人形は、壊すに限るわ。
私が動きを止めるから、希雪。貴方がやりなさい。
UC発動
黒剣が舞い、設置される人形を破壊し、凍結の状態異常で動きを封じる。
全く、世話が焼ける…けれど、頼もしい姉ですわね。
敵は、眼の前に居る。
居る――のだ――。
陽光のような暖かい光を纏い、穏やかな声が聞こえる。
「救済」「救い」「私が許しましょう」「生きましょう、共に生きましょう」
そこは、戦場のはずだった。
幻を抜け、眼の前に現れたのは巨大なオブリビオン。
邪悪な力を振るい、暴れるはずの存在。
「代わりましょう」
そう聞こえる。
すべて、引き受けてくれる。
許し――。
「私の罪は、救われるの?
私の贖罪は、終わるの?」
声が、漏れる――。
この歩みは贖罪の歩み。
自ら歩みを止めるような言葉を希雪が漏らすはずがない。
そんな言葉が漏れた事はあっただろうか?
自責――こそ礎。
口にしても、それは喉元を締め上げてくる――嫌いな言葉。
『かわりましょう。かかえます。いきましょう、ずっと』
――違和感がない。
不快感を感じない
瞳の光が影に変わり、淡い虚ろが降りてくる――。
「――救われるの――?」
遥か遠く。
足音が聞こえる。
幻覚の消えた、枯れ草の上を走る音。
ボロボロになった床を蹴る音。
「間に合ったかしら――」
それは、氷海の声。
――姉弟子の事を思えば、駆けつけざるを得なかった。
幻覚による攻撃が多いという情報。
外傷などなくても、痛みは常に彼女の側にある、と知っているから。
奥に巨大な木像が立ち上がり暴れている。
周囲で対峙する猟兵達。
「これが……例のオブリビオン……」
――氷海……?
反応するように、希雪が呟く。
「氷海、私は――」
しかし、オブリビオンは言葉を返す隙を与えない。
『死した先に極楽などありません。現世こそが、生こそが、永遠の安寧と幸福を──』
何重にも声が聞こえる。
『だから、生きましょう――私と共に』
「永遠の命だって?
くだらないわね。
命は散るから美しいのに」
キッ、と目つきが鋭くなる。
全く、オブリビオンというやつは……。
ただ、この類の話は――。
「希雪――」
瞳が暗い。
そりゃぁ、いつも明るいかって言われれば暗いんだけど――。
この顔は――。
……だから来たんだ。こんな顔をしているんじゃないかって。
――希雪?貴方にはやることがあるのでしょう?
「ソイツが見せかけているのはただの絶望の延長でしか……!」
希雪の反応は薄い。
はぁ――これはあまり聞こえていないわね……。
「希雪!」
響く声に、虚ろな赤い瞳が輝いたように見える。
「貴方の贖罪はこの程度で晴れるモノだったかしら?さっさと目を覚ましなさい!」
黒髪を揺らしながら、妹弟子は叫ぶ。
オブリビオンの声なんて掻き消すように。
聞こえた。希雪の瞳はもう――光を取り戻していた。
「――氷海、私は――」
息を吸い込む。
「――こんなものに頼らなくても、永遠に近い命なら持っている」
白い翼が大きく広がる。
瞳が、明るい赤を湛える。
宙に舞う白い羽が――雪のように一面へ降り注ぐ。
「終われないことも、絶望の1つ。
許されるために永遠を旅することも、絶望への答え。
その答えさえ、絶望になる。
――永遠の命なんて「呪い」は要らないんだ。」
静かに、そして重く――希雪の声が響き渡る。
「だよね、氷海」
氷海は、やれやれ、と微笑みを返す。
『絶望があるなら、終わりましょう。
なにもしなくていい。私と居ればいい。共に生き』
オブリビオンの声が再び聞こえる。
けれどもう――迷いなど生まれない。
「ったく――!
こんな木偶人形は、壊すに限るわ。
私が動きを止めるから、希雪!
貴方がやりなさい……!」
黒き翼が開き、全身で紅い魔力が胎動する。
同時に、溢れ出た力の本流が紅い輪を形作る。
氷海は、静かに佇むだけ。
紅き輪――ブラッドアニュラスAHは空へと浮かび、まるで血の魔法陣のごとく静かに回りだす。
「気配が増えているわね――そういう……ええと、この世界ならカラクリ、かしら。
つまらない手品みたいなものね」
瞬間、輪から黒き剣が何本も生まれ――木像へと飛ぶ。
「全部避けられるかしら――防げる壁など、この剣に存在しないわ」
巨大な木像は動かず、全身で剣を受ける。巨体こそ形代。
本体……妖と化する前の木像は、はるか後ろに転がっている。
巨像に突き刺さる――いや。
その身体を貫通した剣が、奥の小さな像へと飛ぶ。
その都度、それは転移し、位置を変える。
「――どうにも、触らせたくないみたいね、でもね」
巨大な木像を通り抜けた黒剣の力は1つだけではない。
氷結の力を帯び……凍らせ、動きを弱めていた。
「消耗すれば、充分なのよ」
――その言葉と同時に、希雪が飛び込む。
あとは任せて、といつも通りの声を残して。
「――|全於与奪《オール・ラヴィジェルド》!」
黒き呪いの炎が周囲で回る。
弾けた力が一斉に木像目掛けて飛ぶ。
炎は鎖に姿を変えて――木像を縛り上げる。
その鎖は――希雪自身も蝕むのだが。
「全てを奪う呪いの本流――生き続けるという苦しみ」
木像から力を吸い上げる。
ばきり、とその身にヒビが入る。
腕がだらり、と1本動かなくなる。
「背負うのは――私だけでいい!」
呪いの代償は全身の激痛。
痛みを掻き消すような絶叫と共に、その呪いは木像を食らう。
力を削いだ。
姉弟子を見ながら、氷海は静かに呟く。
「全く、世話が焼ける……」
毎度、痛々しい。
それに――脆い所も、弱みもある。
「――けれど、頼もしい姉ですわね」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルナ・キャロット
わ、私が守って差し上げますからね。安心してくださいね…!
頼れる背中と激レアSSR武器を見せて安心させてあげるのが姫騎士です!
うう、見た目も声もゾワゾワ恐ろしいです…っ
腕全部斬って解放して差し上げます!
永遠に生きれても手だけじゃゲームできませんしね…絶対嫌です
斬っても回復する…めんどくさいギミックボスですね
セオリー通り小さな木偶人形や形代から狙っていきます
攻撃の手数なら負けません!ボスを削って足止めしつつ隙があれば衝撃波でギミック削り
対処されちゃいそうなら装甲を減らして速度も範囲も拡大(きわど兎)
全方位にアクセルコンボを乗せた衝撃波です!これならワープされても関係ありません!
巨大な木像は、ゴキリゴキリと音を立てて動く。
振り上げた腕が床を殴り、轟音と土柱を巻き起こす。
『救います。大丈夫です。生きて、いきましょう』
多腕を振り回す化け物は、救済を説く。
再び振り上げた腕が、その扉の先を狙った瞬間。
――光り輝く粒子を空間に残しながら、青い残像と共に走り込む騎士。
良くある大振り攻撃。
繰り返すなら、これほど反応しやすいことは無い。
――両手の双剣をクロスさせ、難なくその一撃をパリィして弾く。
「わ、私が守って差し上げますからね。安心してくださいね……!」
響くルナの声。
颯爽と走り込んだ騎士の背には、輝く武器。
虹のオーラと光の粒子。美しい剣――。
少女は、キラキラとした目でその背中を見つめていた。
……ま、まぁ。
いい感じに防いだけれど、アンデッドなのか、それとも神族なのか、声もビジュアルもホラーゲームそのもの。
ひくり、と苦笑いで鼻先が動く――いい感じの背中を見せたのだ。大丈夫。
――うう、見た目も声もゾワゾワ恐ろしいです……っ。
両耳を抱えたい、が……視線も感じる。
今は、騎士であろう。ロールプレイはしっかり――維持できている。
「腕全部斬って解放して差し上げます!」
再び残像を残し、間髪入れずに走り込む。
巨像はその動きに反応するように、両腕を回すように振り回す。
――サイドステップ。
寸前で振り下ろされた腕を避ける。
再び回ってくる腕。
――右の刃でジャストパリィする。
弾かれた敵の巨体がよろめく。
「永遠に生きれても手だけじゃゲームできませんしね……絶対嫌です」
跳ねながら、腕へ飛び乗り――上空に跳ね上がる。
前方に回転しながらその腕の隙間をすり抜け、斬撃を与えながら着地する。
傷は与えた筈だ――だが、その再生が始まっている。
――!
斬っても回復する…めんどくさいギミックボスですね……。
同時に、視界に飛び込んでくるのは巨像の足元に転がる「仏像」。
木彫りの小さな仏像が転がっている――。
――セオリー通りなら、小さな木偶人形がギミック解除に関わるはず。
ゲームならば、大型敵の再生停止、もしくは……あれ自体が本体のパターンもある!
そう気づけば、動きは疾い。
大きく跳べば、一気に近づいて斬撃を放つ。
小さな仏像に命中した――?そう思った瞬間に、手応え無くそれは姿を消す。
明らかに何らかのギミックだ。
だが――この速度では反応を許してしまう……?
攻略を悩む。
巨像への削りダメージが起因?
戦闘時間の経過?
あれ自体が誘導で……破壊すべき別のオブジェクトがある……?
「もう一度です!」
床を蹴って舞い上がる。双剣で巨像を狙い、再生や仏像の条件を探る。
「攻撃の手数なら負けません!」
走り出せば、ボスと思わしき巨像へ飛び掛かる。
左、右と斬撃を繋ぎながら、振り下ろされる腕をステップで回避する。
回避と同時に移動斬りを放って、転がる小さな木像も破壊も狙う。
が……それはテレポートするように位置を変える。
「――グラファイト・スピード!」
巨像と仏像が直線に並んだ。その瞬間に、双剣を振り抜けば一直線に衝撃波が飛ぶ。
床ギリギリを掠めるように放たれたそれは、両方を巻き込んだように見えた。
仏像が消えた?消している――?
被弾直前に効果を消滅させているように見える。
――巨像が再生していない!
「あの小さい仏像が回復するギミック持ち……けれど判定が存在しないか、
それとも一番の弱点ってとこですね……!」
『いき、ましょう』
穏やかで気味の悪い声をあげながら、巨像が踏み出してくる。
先程のユーベルコード以降、小さな仏像は出現していない。
「対処されちゃうのはダメージが足りないからかもしれませんね……かくなる上は!」
周囲に一瞬だけUIウィンドが生まれ、
空間をタップする動きと共に、しゅん!しゅん!と音を立てて各種装備がインベントリに放り込まれていく。
一番重かったであろう背中でキラキラしている武器、を名残惜しそうにしまえば準備は完了する。
グラファイトスピードは装甲削減量で性能が著しく跳ね上がるユーベルコード。
決して、決して――装備を外したいわけではない。
かくなる上、なのだ。
身軽なふわふわと化したルナは双剣を構え、巨像を睨む。
瞬歩、縮地。
一瞬、土煙が見えた瞬間。
巨像の股の間をすり抜け背後に回れば、両手の双剣を左右に広げ、舞うように回転する。
空間全域に対しての連続の衝撃波――煌めく粒子と共に巨像と、発生するであろう小さな仏像を狙う――!
威力は先程とは比べ物にならない。一本の腕が弾け飛び――奥へ転がる。
突然、巨像が屈む。
何かを抱えるような動きで全ての衝撃波を身体で受ける。
「――弱点、ですか!」
ルナはしっかりと行動を見抜いた。
小さな仏像は弱点。触れれば回復する。だから、隠しながら受けて耐えようとした。
だが、はね飛んだ腕の再生は不可能。そしてユーベルコードを繰り返すリソースもダメージで奪い取った。
「続ければ倒せそうですね!」
パターンに入った、と言うのが正しいだろう。
腕一本のダメージと、再生の妨害の成果は大きい。そして。
「ん!」
気づく。――仏像より奥。崩れた廃墟。あれ……?何か古びた刀っぽいの、ある……?
大成功
🔵🔵🔵
鬼伏・キサラ
お、気配の主がおいでなすったか
ってまたこりゃ厄介な相手だ……
死に際、心は死に損なったもんを救いたがるのは勝手だがね
そいつらへの救いを押し付けようってところが気に入らん
これだから鬼と違って、妖ってのは厄介なのさ
まあ、あいにくこっちは地獄も極楽も行けずじまいでして
少し本気で行かせてもらう
────"鬼還り"
お前さんも俺を救おうと考えてるんだろうが、
そいつらと違って、俺は現し世に縛られてるんでな
相当な徳の積み方でもしてなきゃ、その|手《・》には負えんのさ
徳も業も積めん身の俺とは、さぞ相性が悪いだろう
要するに、お前さんには勝ち目はないのさ
……。
流石に時間が経ちすぎたか
ここは一度引き、他の者に任せようかね
顔を隠す布を打ち付けた多腕の巨像が、ギシギシと音を立てて動く。
花の甘く濃い気配とは全く違う……悪寒に近い妖気。
「お、気配の主がおいでなすったか」
目を細めてキサラは様子を伺う。
単純に暴れる妖や、罠で待ち構える妖とは雰囲気が違う。
気味が悪い、と表現するのが一番であろうか。
頭を揺らすような震える声で、人語を話す。
しかし、この手の妖はそう『鳴いている』だけだ。
その言葉には妖気が籠もり、何らかの反応を待っている――面倒だ。
その上、腕力や巨体で戦うと想定できる。
「ってまたこりゃ厄介な相手だ……」
極楽から始まって、幻覚を生み出す花を抜けて立ち塞がるのは――。
正体不明に近い巨像型の妖。
『助けましょう。大丈夫です。私は不滅です。
つまり、永遠はここに存在します。死にません。死なないのです』
巨像は、まことしやかに嘘を話す。
表情も変えず、その言葉を耳から耳へと流す。
意味など無いと知っているからだ。
まったく、バチ当たりとでも言うのか、関係者には何とも嫌な外見だろうよ。
よ、と小さく声を出しながら、妖へと歩き出す。
死に際――死に損なったもんを救いたがるのは勝手だがね。
「そいつらへの救いを押し付けようってところが気に入らん」
どん、と背中の木箱をその場に下ろす。
「これだから鬼と違って、妖ってのは厄介なのさ」
理にも叶わない。
伝承や物語のような、夢幻の歩みを持つ鬼も多い。
だが、そこにあるのは何らかの道理だ。
騙して食らうために、嘯く鬼も居る。
だが――これは嘯きですらない。
腕を振り回し、殺意を纏い、救済を歌う。
神仏を語るモンがロクでもないことは良くあることだが……。
見た目のように仏を語ることさえしやがらない。
『共に生きましょう。極楽はない』
――まぁ、あいにくこっちは地獄も極楽も行けずじまいでして、ね。
「少し本気で行かせてもらう」
言葉と同時に、触れてもいない木箱の戸が開く。
ガタン、と中から棚が滑り出し――儀式用に見える短剣が転がり落ちる。
それは自然に浮き上がり――眼の前でピタリ、と停止する。
「嬢ちゃんには、見せるもんじゃぁないね」
目隠しに羽織る衣を高く投げる。
ふわり、と衣が落ちる間に――鈍い音が響く。
斬撃音――まるで侍が何度も刀を振り下ろすような。
自らの血で自らを包むために、全身へと刃が走る。
それは人体の急所を正確に貫く。
わずか数秒の話、衣が地に落ちるまでの間に。
生と死が裏返る。崩れ落ちる男の影はない。
まるで全身を着替えるように、踏み出した男は誰だ。
白目が黒く染まる。肌の色もまるで反対の褐色。そこに立つのは、鬼。
刹那、駆け出す。
もはやその速度は見えるものではなく。
「お前さんも俺を救おうと考えてるんだろうが」
巨体に拳がめり込む。生じた衝撃波がはるか後ろの壁を吹き飛ばす。
「そいつらと違って、俺は現し世に縛られてるんでな」
巨像に動くスキなど与えない。
話した言葉の分だけ、敵を引きずり込むユーベルコードでの強化など……、
一度の輪廻を捧げた力には遠く及ばない。
回し蹴りが腹部にヒビを入れる。
「相当な徳の積み方でもしてなきゃ、その|手《・》には負えんのさ」
両手を同時に突き出し、掌底を放つ。
ゴゥン、と内部から強烈な轟音が響く。
木箱の中で何かがガタガタと揺れている。
「徳も業も積めん身の俺とは、さぞ相性が悪いだろう」
再び回し蹴りが巨像を襲う。
腕を伸ばし……巨像はその一撃を防ぐ。
――防ぎきれない。腕はちぎれ吹き飛んだ。
「要するに、お前さんに勝ち目はないのさ」
あまりにも速く、あまりにも高威力の攻撃。
連続攻撃は、とめどなく続く。
巨像は全身にヒビを受ける……が。
何かを知らせるように、木箱から|お守り《呪物》――が転がり落ちる。
「……時間ってやつかい」
制限時間のある強化だ。
流石に時間が経ちすぎた――仮死状態ですっ転がってるわけにもいかんだろうよ。
ここは一度引き、他の者に任せようかね。
――お守りと木箱を拾うと、戦域から跳ねるように一気に離脱する。
グリモア猟兵まで辿り着けば、なんら問題はないのだから。
大成功
🔵🔵🔵
遠藤・修司
バケモノに取り込まれて永遠に生きる
死ぬことも許されない極楽か……
あの小さい仏像が弱点なのかな
仏像に取り憑いたということだし、アレが核になっているのかも
転移するなら、出てきた瞬間を狙うしかないか
【UC使用】して辺りにワイヤーを張り巡らせる
上手く掛かればそのまま引き寄せて壊せるし、巨像の行動をある程度誘導できるはず
引っかかっても、転移して逃げられてしまうね
それなら罠の張り方を変えよう
わざとワイヤーが薄い部分を作り、じわじわと追い込む
その先に大型のトラバサミを仕掛け、巨像の動きを止めて味方の攻撃につなげる
楽な方に逃げたら駄目だよ
もっとも、アンタの中にいる者はそれを止めてはくれないだろうけどさ
巨像が前へと踏み出す頃――男は駆けつける。
妖怪やモンスターと言ったモノよりも、UDC……邪神の類に近い。
正気を疑う、正気を侵しそうな風貌。
『生きましょう。極楽に行くと死んでしまいます。
死にたくないと皆言うのですから、死んでしまうことは間違いです。
生きていいのです。ずっと生きていればいいのです。
ここに、私と生きましょう。救います。
痛みも代われます」
だが。
聞けば聞くほど、邪神が囁く甘言の出来損ないだ。
信者にして力を引き出そう、とか――夢から蝕もうとか。
心を食おう……というのには雑。
結局、物理的にねじ伏せて食らうバケモノでしかない。
……それなら、よほどマシだ。
"それ"を見上げながら、修司は呟く。
「バケモノに取り込まれて永遠に生きる、
死ぬことも許されない極楽か……」
ふぅ……とため息を1つ。
だが、その瞬間も修司は巨像だけを見ている訳では無い。
探偵というのは……現場全てを多角的に捉え、真実を引きずり出す。
腕。それは人だと言う。
木製に見える身体。軋む音も木製……だが、動きは人体と変わらない。
布――顔を隠す意味……見てはいけないパターンかな。
――そして、時折視界の中で目に付く、地面を歩く木彫りの仏像……。
――あの小さい仏像が弱点なのかな。
仏像に取り憑いたということだし、アレが核になっているのかも……。
まずは分析――激しい爆発や炎、衝撃波で攻撃してくる妖ではない。
その仏像に目星をつけ、空間全体の変調を感じ取ろうと集中する。
「……移動した、ね」
その小さな仏像は確かにそれ単体で移動している。
だが、猟兵らの攻撃に晒されるたびに姿を消し――またどこかに現れている。
弱点なら、わざわざ見せる必要はない。
それを、出し入れする。動かし、逃がし、消し、また出す。
違和感のある動きだ。
――転移するなら、出てきた瞬間を狙うしかないか。
指先でメガネを軽く押し上げ、直す。
ユーベルコード、レプリカクラフト。
ふ……と軽く息を吐き出せば、周囲四方八方から鋼鉄製のワイヤーが生まれ、音を立てて伸びる。
まるで蜘蛛の巣のごとく、一瞬にして空間は囲われた。
重点的にワイヤーを設置するのは床付近。
狙いの仏像に当たるなら最善、そうでなくとも巨像の動きは制限できる。
『救い、ます』
巨像は――足元のワイヤーに反応して動いている。
明確に「邪魔だ」と認識していると想定できる。
動き回る小さな仏像はワイヤーに近づくと転移、別の場所に出現する、を繰り返している。
触れたと思っても、ワイヤーが絡みつく前に転移してしまう。
「引っかかっても、転移して逃げられてしまうね」
巨像の敵視が自分へ向いた事を察し、後ろに下がりながら動きを視る。
小さな像が出現していない間、ワイヤーでの裂傷が巨像に発生していた。
回復する効果の阻害にもなるようだ。
とにかく、仏像を狙われたくない、という動き。
「それなら――」
再び、四方からワイヤーが伸び、辺りを埋め尽くす。
"犯人"なら、こんな赤外線センサーの薄い場所を抜けて――物品を盗み出す。
ならば――誘導しよう。
シャララ、と音を立てて伸びるワイヤーを押しのけながら巨像が向かってくる。
その目の前には再び多量のワイヤー。まっすぐに抜けるには骨が折れる。
巨像は認識する。
この能力はムラがある――弱い所を狙おう、と。
漠然とワイヤーが少ない位置を両腕でかき分け、前へと進んでくる。
瞬間――ユーベルコードが真なる力を解き放つ。
「来たね」
偽物を作る力……その本領は"罠"を生み出した時に発生する。
レプリカクラフトが生み出すのは大型のトラバサミ。
精巧に精密に。罠の生成に――レプリカなんて言葉は似合わない。
オリジナルを凌駕する力。
設置するのはワイヤーの先。
それは――巨像が歩む先だ。
『救い、ましょう。大丈夫、私が引き受け』
巨像は、その声と共に最後のワイヤーを掴み引きちぎる。
修司へと腕が届く位置へと踏み出す。
その腕を振り下ろそうと一歩前に――。
ガシィィィン!という激しい金属音。
踏んだ。
巨像の足にトラバサミが食い込む――その構造は完璧。
模した、というより昇華したと言わんばかりの精巧さ。
巨像の足は粉砕されず……それでいて動きを著しく制限する……!
再生したところで食い込んだそれは外れない。
「楽な方に逃げたら駄目だよ」
修司の言葉が巨像へと響く。
同時に――このアヤカシエンパイアのどこかでも。
式を放ち妖を焼く男の同じ言葉が響いていた。
「もっとも、アンタの中にいる者はそれを止めてはくれないだろうけどさ」
修司の、修司"たち"の言葉は――行動を封じられつつある妖には届かない。
だが、わずかに腕が揺れている。"人"には――届いている。
敵は何にも気づけず――弱ってきた。
大成功
🔵🔵🔵
臥待・月紬
死にたくないって願いは至極真っ当。
だけど、その叶え方はヒトには受け入れられないッスよ。
押し売りするなら痛い目見てもらうッス!
逃げて回復を繰り返されたらジリ貧ッスね。
ならば、その能力を見越して罠を張るッス!
UCで人狼に化けて近接戦闘力を強化。
再生能力にものを言わせ、ある程度の反撃ダメージは許容して攻め立てる!
この攻撃はあくまで布石。
ダメージを蓄積させて何度も転移を使わせ、その兆候を見極める。
タイミングを見切り、転移直前に『破壊任務用工兵機材』の爆弾を敵の胴体に貼り付け、転移後に遠隔起爆!
木偶人形や形代が起点になってるなら、転移直後にはそれらが至近に存在するはず。
巻き込んで吹っ飛ばしてやるッス!
荒れ果てた屋敷の中で多腕を振り回しながら暴れる巨像。
震える声は優しい響きで辺りに反響する。
『救いましょう。死ななくていいのです。
極楽を祈ることは死ぬこと。ならば、救済はここにあります。
私として、私と生きましょう』
生を説く声と共に、振り下ろした腕が床を破壊し土煙をあげる。
「死にたくないって願いは至極真っ当。
だけど、その叶え方はヒトには受け入れられないッスよ」
音を立てて吹き抜ける風が土煙を飛ばせば、
真っ直ぐに巨像を見上げる月紬が静かに立っている。
「――押し売りするなら痛い目を見てもらうッス!」
月紬は両手を後ろに開き、一気に巨像の懐へと駆け出す。
――猟兵から受けた傷は何度も再生しているように見える。
だが、明確にダメージが累積しているタイミングがある――。
小さな足音が廃屋に響く。
巨像の周囲を回るように高速で走り、分析を続ける。
「逃げて回復を繰り返されたらジリ貧ッスね」
――ならば、その能力を見越して罠を張るッス!
アオオオオン、と甲高い咆哮がどこか遠くから聞こえる。
同時に、走った軌跡から土煙が渦を巻くように立ち上がる。
その色は土色から黒へ――辺りの色彩が夜へと変わっていく。
破壊され吹き抜けになった天井から煙は溢れ出て――入道雲のように天を埋める。
「オォォーーン!」
二回目の咆哮は、月紬の喉から迸る。
瞬間、辺りの黒き煙は雲散霧消……金色の月光が辺りに色を戻す。
天に浮かぶのは満ちた月。
魔性の力を持つという月の偽物――。
続けざまに指が素早く印を切る。
「――人狼変化・盈月」
各地に伝わる人狼伝説。
その身は二足歩行する巨大な狼、人が変異する狼、それだけではない。
特定の金属以外への耐性や、著しい再生能力、刃物を凌駕する爪。
人が狼へと変わる条件は多い。
狼の足跡の水を飲む、満月の下に晒される――。
だが諸説の中に、満月と誤認する物を見た場合も変化が起こる、そんな記述もある。
――化術の上に物語は編まれ、姿を為す。
今、浮かぶのは月。
そして――その下に立つのは月を見た人狼。
ドロン、と心地の良い音が響く。
再び吹き上がる煙、晴れれば――牙を向いて唸る人狼が一人。
動きは荒い。
洗練された眼や動きでの攻撃ではなく、強引な爪撃や噛み砕き。
人狼を正しく演じ、暴力的な乱舞で巨像を狙う。
「グルル――!」
踏み込み、大振りの爪が巨像の身体に深い傷を叩き込む。
抗うように振り下ろされる腕など、避ける必要もない。
バキリ、と肩の骨から音が響こうとも――満月の下の獣にはかすり傷にすらならない。
超再生能力が攻撃へと集中する時間を生み出す。
――飛んだッスね。
――また。
人狼の視力は、その激しい連撃中も走り回る仏像を捉え続けている。
怪我が深くなると現れ、触れる。そして消える――。
ユーベルコードのオンオフを繰り返し、回復だけ行い、直後にキャンセルしている――。
――出現時に巨像の位置も微妙に変わるッスね。短距離転移――。
人狼化による、超破壊力の近接攻撃。
だがこれはあくまで布石。
ダメージを蓄積、何度も転移を使わせ、その兆候を見極めるための、|掌《布石》。
――もう少しッス……!
連撃が加速する。仏像が――はるか後方に出現する。
――来たッス……!
巨像はダメージに耐えきれず、短距離転移の回復ではなく後方に避難して体勢を立て直すつもりだ。
そして、敵は――自分に対する単体攻撃、それも近距離の攻撃しか認識していなかった。
どろん!と再び煙が上がる。
人狼化を解除、くるくると回りながら着地すれば縮地。
一気に巨像の懐へと飛び込む。
軽やかな動きで跳ね上がれば、素早く破壊任務用工兵機材――爆弾を巨像の胴体に貼り付ける。
そのまま、巨像の胸を蹴り、仏像から一気に距離を取るように跳び。
着地すればボロボロになった畳を足で蹴り上げ、畳返し。
眼の前に立ち上げ壁とする。
「こいつが本命ッス!
巻き込んでふっ飛ばしてやるッス!」
その時、だった。もはやここからは掌の上。
後方の小型仏像へと転移した巨像が激しい閃光に包まれる。
ゴウウウウン、という轟く爆音。
『いぎ――ましょう……』
咄嗟に弱点たる小さな仏像を消滅させ、即死から身を守る巨像。
だが、出来たのはそれだけだ。
まさか自身が攻撃の発生位置になるなど想定していなかった。
全身に火が走り、焦げ目だらけ。その胸には風穴。
ズゥゥゥン、と巨像が膝を着く。
小さな仏像の出現が遅い。
警戒か、それとも力の減少か。明確に致命打……再生回数を大きく削った。
大成功
🔵🔵🔵
八秦・頼典
●POW
なぁるほど、禄でもないモノが神仏の像に宿った妖が犯人だったか
高名な仏師が掘った仏像には仏が宿るとは言うが、こうも成り果てれば人形供養せねばなるまいが…ま、事の顛末はこの子の居るので伏せておこう
残酷だけど妖に取り込まれた陰陽師をラクにしてあげるのも仕事の内でね?
なぜか救いを感じる呪詛の掌を向けられたとしても、御生憎様
ボクはボクなりの美学で美しい方々を救済しているのでね?
貴殿の世迷言には耳を傾けないさ
しかし、繰り出される拳はひとつではない
ひぃふぅみぃ…どれかひとつを防いでも外が襲ってくる
なら、『霊剣鳴神』の奇剣ぶりをお披露目して進ぜよう
霊気を練った剣であるからこそ、鞭のようにもなるからね?
巨像が蠢く。
禍々しく――それでいて、穏やかな気味の悪い声。
その姿は仏、顔に掛かった布は逆さま。
「なぁるほど、禄でもないモノが神仏の像に宿った妖が犯人だったか」
頼典は妖に向けてぴしゃりと言葉を放つ。
高名な仏師が彫った仏像には仏が宿るとは言うが、
こうも成り果てれば人形供養せねばなるまい――。
ぎちり、ぎちりと鈍く軋む音を響かせながら巨像は近づいてくる。
その多腕を振り上げながら。
頼典の後ろには、童女。
仏はその父が彫ったもの。
それに取り憑いた妖。
それが真、解き明かした真実。
――ま、事の顛末はこの子が居るので伏せておこう。
童女であれ、それは一人のレディだ。
瞬き1つ、物言わず。探偵は前に歩を進める。
精悍な佇まい。踏み出せば優雅に衣が揺れる。
纏う空気に、少女は憧れを見た気がする。
――残酷だけど、妖に取り込まれた陰陽師をラクにしてあげるのも仕事の内でね?
言葉にはせず立ち塞がる巨像――妖を真っ直ぐに睨み、彼は立つ。
『話をしましょう。
父は嘆きました。極楽を願い、旅立てる幸せの時。
父は嘆きました。私を呪いました』
ぺらぺらと饒舌に、妖は言葉を放つ。
床を殴り、再び構え――暴れながら、救済を説く。
『話をしましょう。母は嘆きました。
貴方だけは逃げなさい。逃げたら離れてしまうのに。
生きましょう』
あたかも意味があるように、妖は話を続ける。
まるで、全てを知った探偵に見え透いた嘘を吐き出すように。
ユーベルコードが静かに作動していく。
無駄な言葉を聞かせるたびに、その腕の先に青紫に輝く力が収束し――強まる。
その言葉は儀式。
妖の術。
どすん、と大きな音が響き、妖が跳ぶ。
巨体は宙を舞い、力を集めた1本の掌が頼典めがけて放たれる。
風圧と共に呪詛を纏うその掌は――温かな陽の光のよう。
それは優しい光を帯びて迫る。
「――御生憎様」
救いを感じる呪詛――ね。
なぁに、カラクリは自分から当たりたくなる物理攻撃ってだけの話さ。
「ボクはボクなりの美学で美しい方々を救済しているのでね?」
衣を風に靡かせ、最小限の一歩。
僅かに身を反らしその一撃を避ける。
「貴殿の世迷言には耳を傾けないさ」
通り抜ける拳をなんなく躱し、立ち姿は舞のよう。
しかし。
妖の掌は2つではない。
食った人間の数だけ、その腕は放たれる。
――頼典は振り下ろされる腕を、跳ねるように避ける。
ひぃ、ふぅ、みぃ――。
「どれか1つを防いでも他が襲ってくる、か――」
パン、と両手を鳴らすと頼典の周囲の空気がざわめく。
霊力を集中し――形作るは剣。
それこそ――ユーベルコード。
「なら、『霊剣鳴神』の奇剣ぶりをお披露目して進ぜよう」
この剣自体が霊気。
その形は変幻自在。
剣を掴めば、一振り横に薙ぎ払う。
その斬撃は――伸びてうねる。
霊力の残滓を空間に残しながら、しなり――迫る腕を弾き飛ばす。
剣の軌跡は止まらない。
戻るように閃けば、次の拳も弾き飛ばす。
「霊気を練った剣であるからこそ、鞭のようにもなるからね?」
頼典の言葉と共に、美しく孤を描き続ける霊剣は巨像の腕を弾く。
巨像が両腕を放てば、ひょいと飛び退き。
その場に残した斬撃が腕を狙う。
霊力の剣の切れ味は名刀。
妖の腕とて、繰り返し触れれば、ただでは済まない。
強力な一撃をしなる剣で繰り出すも、その立ち振舞は優雅で雅なまま。
ただ美しいと形容するのが相応しい。
抗うように巨像は両手に呪詛を込め、真っ直ぐに放つ。
だが。
引き戻した剣が拳を弾き、振り上げなおせば斬撃は回る。
戻り遅れた片腕に鋭く食い込み――斬り飛ばす。
跳ね上がった腕は遠くへと飛び、ごろり……と転がった。
気配はある――切断すれば、妖の影響から解き放てるかもしれない。
「うん――腕の方も、正体見たり、だね」
トン、と踏み出して霊剣を構え直す。
犯人の素性も、行動も、真実も解き明かした。
後は――解決するだけさ。
再び振るった剣が唸る。
妖の力は――削がれ続けている。
大成功
🔵🔵🔵
七織・岬
いやあ、花も大概だったけどよ
こいつぁまた悪趣味なこって
しっかしこいつは本来の姿じゃないってんなら
あの手でやってもいい、が…
方針:少女の願いと【覚悟】に応える
アレが何か言ってるが、そんな事より俺は聞くべき事がある
油断なく剣柄に触れながら、背後に声をかけるぜ
おい、迷子のガキんちょ!
お前さん、俺たちに「お願いします」って言ったよな?
「何を」願った!
この異変の解決か?
あの仏像の破壊か?
それとももっと、別の願いか?
任せるってんなら、遠慮なんかいらねぇ
ハッキリと言え!
もしそれが全部助けてって事なら
応えてやるよ!
〔竹光〕から手を放し〔千斬刀〕の鯉口を切る
アレの正体は仏像にとり憑いたモノなんだってか
なら憑き物もまた鬼
こいつを使う機会はそうそうないんだ
堪能させてもらうぜ!
【早業・切り込み・第六感・軽業・受け流し・カウンター・心眼・居合】で【指定UC】を仕掛け、仏像や取り込んだ連中との縁を斬る!
相手は妙な一撃を撃ってきてるが、俺にとって救いってのはな…
俺の中にしかねぇんだよ!
その鬼縁、斬らせてもらう!
「いやぁ……花も大概だったけどよ」
眼前に立つ巨像に向けて岬は呟く。
妖は、がたり、がたりと全身を揺すり――、
腕を広げ、まるで包容するように「握り潰そう」と構える。
「こいつぁまた悪趣味なこって――」
額に手を当てて、ため息を1つ。
神仏を模すが、神仏を語ろうとすらしない妖はただ――過去の亡霊のごとく呻く。
『すくい、ましょう』
言葉に壊れたスピーカーのようなノイズが混じる。
『話をします。救った男は今、生きています。
手を繋いだ女はここにいるのです。
いきましょ、う』
めんどくせぇ、という顔で再びため息を1つ。
「しっかし、こいつは本来の姿じゃないってんなら……
あの手でやってもいい、が……」
核である手掘りの木像。
それから吹き上がる妖の気配。
その心眼は成り立ちを捉え、読み解く。
――あの像は、こんな事を話すために作られた訳じゃねェな。
どんなに粗くれて見えようとも、芯は生き様にある。
見過ごせない、そんな甘い想いだけではなく。
もっと深い所にある感覚が燃えている。
その眼に映すのは、あんな過去の残滓でも妖でもない。
顔や姿を見ずとも、その瞳は一人の少女を捉えていた。
――アレが何か言ってるが、そんな事より俺は聞くべき事がある。
話す相手も――断ち切るべき事象も、妖ではない。
静かに腕は剣柄に伸びる。
隙などない。
――如何なる攻撃にも、その居合は反応する。
意識は決して逸らさない。
その構えのまま、男は口を開く。
「おい、迷子のガキんちょ!」
支離滅裂な救済を説く妖の声を掻き消すような、腹の底からの声。
――俯かず、その背を見続けていた少女が腹の底から声を返す。
「はい――あにさま――!」
ふ、と岬は鼻で小さく笑う。
こんな所まで来るだけはある、肝もしっかり据わってんじゃねぇか、と。
「お前さん、俺たちに「お願いします」って言ったよな?」
――剣気が周囲で揺れる。
少女は一度着物の袖で顔を拭う。
背中がボヤける――涙、ではない?あれは覇気だと――その表情を凛とし。
その気迫に応えるように、再び声をひねり出す。
「もうしあげ、ました――!」
精一杯の声。
だが、妖の声を掻き消すほど、の腹からの声。
「何を願った!」
岬は身体を少し沈め――構えたまま言葉を返す。
吐き出す息は、いつでも刃を放てるほど整っている。
「この異変の解決か?」
――少女は静かにその背を見つめる。
「あの仏像の破壊か?」
――ごくり、と喉を鳴らす。
「それとももっと、別の願いか?」
――大きく息を吸い込む。言わなきゃ、声にしなきゃと。
「任せるってんなら、遠慮なんかいらねぇ、
ハッキリと言え!」
岬の声が、妖の声の何倍も響いてくる。
だから――少女は立ち上がり、着物の埃を手で払う。
岬は、その動き全てを感じ取っていた。
決意も、想いも。
……戦いの最中。
敵を斬り捨てるよりも――嬉しそうな笑みが口元で生まれる。
いいじゃねえか、と。
「もしそれが全部助けてって事なら
応えてやるよ!」
戦場に響く声。
もはや、妖の音など、そこにあらず。
「――妖を滅し、とうさまと、ははさまを救って――いえ、取り返してください!
わたしと!帰れるように!」
「――おう!」
――よく言えたな、まで言わぬまま走り出す。
錆びることなき真剣、竹光を収め――手を添えるのはイサリ。
鬼や幽鬼を斬り続けた祓いの刀。
指先の動きに合わせ、カチャリと小さな音が鳴る。
鯉口を切って、身体を静かに落とす。
――アレの正体は仏像にとり憑いたモノなんだってか。
なら――。
一気に腹で息を吸い込む。
周囲の空気が放つ気迫で揺れる。
目を閉じ――感覚を跳ね上げる。
第六感が、刃の走る先を伝えてくる。
目を見開く。その心眼は妖の急所――いや。
悪縁を見抜く。
「憑き物もまた、鬼――」
重く、深い呼吸。
指が静かに動く。
眼の前に立つ悪鬼、妖も気配の変容に気づく。
この一撃はまずい。
そう感じ取り――なりふり構わず両手を振り回し、岬を吹き飛ばそうと走り出す。
「こいつを使う機会はそうそうないんだ――、
堪能させてもらうぜ!」
迫力に混じる歓喜の声。――人斬り、に類似する声。
その根底には快楽がある。
斬る感触――それは、至高のもの。
だが、理由も目的も最後には混じり――その刀で何を為したのか、ということだけ。
故に、この男の殺人剣……いや、祓いの剣は善と成る。
巨像の腕が眼前に迫る。
――目を見開いたまま、岬は動かない。
刹那。
静かに――チン、という金属音だけが鳴った。
振り下ろされた巨像の腕は岬の顔を掠める。
軽業、というにはゆっくりとした動き。
チン――と再び音。
二発目の腕が振り下ろされる。
首を傾け、避ける。
「いいねェ――」
一歩、ゆらりと前に出る。
チン、と三度目の音。
巨像は暴れ、多腕の連撃を続けてくる、が。
「救いねェ……。
妙な一撃だがよ、俺にとって救いってのはな……」
金属音と共に一瞬、銀色の孤が閃くのが見える。
「俺の中にしかねぇんだよ!」
叫びと共に、すり足で踏み込む。
引き抜いたイサリが閃光のように巨像へと唸り――鞘へと戻る。
ふぅぅぅ……と大きな息。
ゆらり、と巨像の横を歩いて抜ける。
――その鬼縁、斬らせてもらう!
――カチン、とイサリを鞘に収める音が響いた時。
巨像の腕が何本もはね飛ぶ――全ての斬撃は憑き物を祓う憑依体斬りの一撃。
今までの音全てが、悪鬼との縁を斬る斬撃。
ただ、見えぬだけ。疾すぎて。
――これぞ、|鬼縁断絶《カルマセパレーター》|【仁剣】《イサリ》。
「――安心しな、無事だぜ」
男の声が少女へと届く。
その背中がどれだけ広く見えただろうか。
妖から切り離された腕が、何人もの陰陽師へと戻る。
無論――少女の父母も、だ。
少女は、駆け出さなかった。
「妖の討伐」も願ったのだから。
その背中をじっと見つめ、終わりを待つ。
イサリは、本体たる木像との縁にも刃を放った。
もうすぐ――あの巨像は滅ぶだろう。最後の抗いの後に。
大成功
🔵🔵🔵
ベロニカ・サインボード
獣人型フォースオーラ『ワーニン・フォレスト』を具現化しオブリビオンと戦う
そして『|最後の扉《ラストドア》』相手の攻撃を予知し、少女と両親を守るために、ダメージを受ける事も厭わない
|腕《人》を傷つけないように、白刃取りよろしく優しく受け止め、攻撃は敵の頭部に集中させる
私の後悔は…救えなかったアリス、出会えなかったアリス…挙げたらキリがない
だけど一番の後悔は、誰よりも希望を持って歩いていった、一人のアリスを見送った事
彼女は私の中の希望を、『ワーニン・フォレスト』という形で拓いてくれた…同時に『なぜ彼女に最後までついていかなかったんだろう』という想いにもなっている
結局、振り切るしかないんだ…今やらなきゃいけない事を一つずつやる
全てを救う魔法なんてない、それがはっきりと|見える《・・・》し、本来は見るまでもない事
だから恐れない。それは『|最後の扉《ラストドア》』で勝算が見えるからじゃあない
恐れて逃げたら…誰も希望にたどり着けないから
巨像は拳を握り、言葉や鳴き声と言うには奇っ怪な咆哮で唸る。
その傷は確かに累積している。
だが――妖や魔物、はたまた不思議というものは、この最後の一手が危険なのだ。
見上げれば――巨像は腕を掲げ、頭上で組み叩きつけようと振り下ろす。
その瞬間、ベロニカの隣に気配が揺れる。
赤い影――それは妖の腕を受け止め、払いのける。
影は、美しい赤い毛並みを靡かせて、力強くその場に立つ。
フォースオーラ『ワーニン・フォレスト』――の実体。
具現化されたワーニンフォレストは、紅き狼人の姿を取る。
まさに相棒、そんな立ち姿でベロニカより前に立ち、両手の爪を構える。
巨像の一撃すら食い止め――その胴体へと拳を叩き込む。
狼は妖を力で抑え込む。
だが――拳を受ければ、激しい衝撃がその赤い身へと響く。
無傷では居られない。
たとえ、それが超能力だとしても――今は実体を持つ存在。
まやかしの言葉すら捨て、暴れまわる巨像と化した相手の拳は重い。
その精悍な身も、破れかぶれに暴れる妖に徐々に押され始める。
一撃を受け止めれば、後ろにズリ……と押され。弾いた腕にも負荷が降り積もる。
――最後の"扉"を開く覚悟。
道を繋ぎ、扉を開く。
1つ。2つ……そして3つ目。
ユーベルコードが第二の扉のその先、|最後の扉《ラストドア》を叩く。
紅き狼は、今より|未来《さき》を視て、
事象の枝葉すら|自由に掴む《えらぶ》のだ。
扉の先は知っている。
知っているなら選んで歩く。
――やるべきことは、決まってるわ。
赤い狼の眼が強く輝く。
腕が振り上がれば――ワーニン・フォレストは静かに歩く。
振り下ろされた拳には――かすりもしない。
そればかりか、次の一撃を簡単に受け止め――受け流す。
|腕《人》への攻撃は行わない。
次の一撃も避けて……反撃は、その布で隠した顔へ。
その時、何か巨像が話した、気がする。
『こうかい、しなくていい、のです』
――後悔……?
――私の後悔は…救えなかったアリス、出会えなかったアリス…挙げたらキリがない――。
きっ、と口を結んで敵を睨む。
それに気付いたワーニン・フォレストの咆哮が響く。
此処から先は決まった事象。
未来、それは扉から繋がった部屋。
道のりは示されている。
並ぶ看板を読めば、次の部屋は分かる。
相手より先に、次の部屋へ。
次の部屋の出来事は知っている。だから、当たることもない。
避けられることもない。
だが――声は届く。
妖の言葉はベロニカに届く、そう決まっていた。
|腕《人》は傷つけない。避け、受け止め……狙うのは顔だけだ。
狼の拳が巨像を捉え、よろめかせる。
「よろめかせる」と決まっていた。
攻撃を続けるワーニン・フォレストの裏で、ベロニカへと妖の呪詛が広がる。
――だけど一番の後悔は、誰よりも希望を持って歩いていった、一人のアリスを見送った事――。
思いが胸底から溢れる。
――彼女は私の中の希望を、『ワーニン・フォレスト』という形で拓いてくれた。
――『なぜ彼女に最後までついていかなかった』んだっけ――。
ぐぶぶ、という奇っ怪な笑い声が漏れた。
まだ……チャンスがある、妖はそう思った。
『一緒に生きましょう。それこそが、しあわせ』
ワーニン・フォレストは攻撃を続ける。
腕を捌き、懐に飛び込み、顔を狙う。
その布は千切れ……片目と口だけの歪な顔が顕になる。
狼の拳が顔を抉ろうとも、妖の言葉は止まらない。
――後悔、ね。
結局、振り切るしかないんだ……今やらなきゃいけない事を一つずつやる。
妖がまた何か喋る。だが。
出来損ないの甘言は、歩み続ける彼女には届かなかった。
後悔こそ乗り越えるべき力の根源。
後悔するから知り、先へと歩き、変えられる。
「全てを救う魔法なんてない、それがはっきりと見える。
――本来は見るまでもない事」
声が響き渡る。
「だから恐れない。それは『|最後の扉《ラストドア》』で勝算が見えるからじゃあない」
すぅ、と息を吸い込んで跳ねる。
「道を歩けば――看板が立つ」
ベロニカとシンクロするような動きで、ワーニン・フォレストの拳が妖の顔を捉え、上へと弾き飛ばす。
「迷ったら――少しだけ先へ、手を伸ばす」
それを追い、ワーニン・フォレストが高く跳ぶ。そのまま妖の頭へカカトを叩きつけ、はたき落とす。
「たとえ運命と決めつけたって――未来の枝葉は無限に選べる」
落下地点に生まれた看板が、妖の頭部に直撃し、轟音が響く。
「恐れて逃げたら……誰も希望にたどり着けないから」
自らを回復しようと這いずって後退する妖の上から――飛び掛かる紅き狼の爪が閃く。
頭部が、粉々に砕ける音がする。
木片があたりに散らばる――再生が、間に合わない。
巨体の影から遠くへと――小さな仏像が逃げる。
逃げていく。
だが、赤い狩人は見逃さない。
希望も道も止めるものではなく――繋ぎ、続いていくものだと。
真紅の斬撃は、静かに――妖本体だけを貫く。
……目を閉じた姿の仏像。その顔へ爪が走り……瞳が、開いた姿で動かなくなった。
巨像の頭を砕き、本体を倒した。
巨像だったもの、を見れば――腕の数だけ、人が倒れている。
――オブリビオン、討伐完了。
|少女《アリス》が声をあげて走り出す。
もう、行かせても大丈夫だ。
父も母もそこで――息をしているのだから。
最後の扉は、少女を部屋に閉じ込めず――この先の道へと誘った。
「一件落着、ってやつかしらね……いや、まだね……」
ベロニカは紅き狼と並び立ち、倒れた多くの陰陽師を見つめているのだった。
大成功
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