西恩寺家の闇と新たな家族との出会い
わしの名は西恩寺宏伸。
平安貴族の一人であり、妖から世界を守る陰陽師じゃ。
じゃが、わしは不出来な人間じゃった。
妖退治は貴族の責務。だのにわしは雑魚妖を倒せればいい方、所謂落ちこぼれじゃった。
特に実家である西恩寺家は優秀な陰陽師が多く、わしは腫れ物扱いじゃった。
――ただ、その実家にも黒い噂があったことを、わしは知らんかった。
ある日の事、久々に実家に帰って来た時、わしは両親が何者かと話しているのを見た。
いや、見てしまった、と言うべきか……その話し相手はヒトではなかったのじゃから。
最初は妖かと思ったが、違う。明らかに異質じゃった。
(これは流石に不味い……)
そう思ったわしは音を立てずにその場を去った。自分では敵わぬと悟っておったからな。
じゃが、事情を説明して他の陰陽師達を連れて来た時には、両親は……いやわし以外の一族は皆、変わり果てた姿になっておった。
「あなや!?」
「これは……!」
屋敷におったのは、全身が触手に包まれた異形の化け物。
幸いわしが連れてきた陰陽師達は腕が立つゆえ、それを難なく祓ったが……。
「やはりか……」
「やはり? 何がやはりなのじゃ?」
一人の陰陽師が呟いたのを聞いてしまったわしは、思わず質問したのだが。
返ってきた答えに、一生後悔する羽目になった。
「君の一族には噂があった。西恩寺家は妖の力を借りているのでは? という噂がのう」
今祓ったのは、妖の力に溺れた人間の成れの果てだと。
西恩寺家の一族はその力を使って、これまで陰陽師のふりをしてきたのだと。
信じられん、いや信じたくない話じゃった。
「では何故わしは、異形の化け物になっていない?!」
わしがそう聞くと、陰陽師はこう答えた。
「君が西恩寺家で初めて生まれた霊力を持った人間だから」
そう聞いた時、両親や兄弟が何故冷たい態度をとっていたのか分かった。
わしは落ちこぼれじゃが、それでも「本物の」陰陽師だった。
皮肉としか言いようのない真実に、わしは呆然とするしかなかった。
●
この事件はわしの名誉の為に揉み消され、公には「妖に襲われて全員が異形の化け物に変えられた」と上の人達から布告された。
じゃが、正直辛かった。家族は偽物の陰陽師、わしは唯一まともな陰陽師だったが落ちこぼれ。一体何の価値があるというのか。
この時のわしの年齢は29。
認めてほしかった家族は異形と化し、もはや生きる意味などない。
自らの命を断とうと思ったわしは都を離れ、とある森を訪れた。
「……うん? なんじゃ?」
そこで聞こえた赤ん坊の泣き声。
それが久恩じゃったのじゃ。
「まさか……妖の赤子、か?」
妖を退治するのが陰陽師の使命。
じゃが、そこにいたのはただ無力に泣いておる赤ん坊。
気がつけば、わしはその子を拾い上げておった。
流石に黙って育てる訳にはいかんかったが、皇族の人達に通したらあっさり許しを貰った時には驚いた。
久恩には最低限の生命維持に必要な分を除き、ほとんど妖力が無かったそうじゃ。
(皮肉にも、この子が妖力が無かったおかげで殺されずにすんだ……)
それを聞いた時、この子はわしに似ていると思った。
わしは家に居場所が無かったように、この子も妖達の世界では居場所は無い。
だから誓ったのじゃ。
(例え全てがこの子の敵になっても、わしが親としてこの子を守る)
と……。
「父様、どうかしました?」
「いいや? なんでもないぞ、久恩」
まあ、この子妖だから成長遅いので、わし今、65なんじゃけどね!
すっかり老いたわしに比べて、赤子だったあの子はまだ16程度の姿。
この分では、まだまだ長生きせんといかんのう――。
成功
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