ノットイコールなロールプレイ
●星の重さ
なんのために生まれたのか。なんのために生きるのか。
全ての生命に意味があるというのならば、自分は無為に生きているのではないか。
なにもわからない。
けれど、自分はきっと何かの役割がほしいと思ったのかも知れない。
それは英雄願望にも似たものであったのかもしれない。
寝たきりの身体。
究極のゲーム。ゴッドゲームオンライン。
アクセスすることは自分でもできる。
これが『統制機構』によって禁じられている遊びであることも知っている。
それでも、自分はなにかの役割を演じている。
胸のうちには苦しさがある。
けれど、ゴッドゲームオンラインの中でクエストをこなしていくことは喜びに満ち溢れていた。
誰かの役に立つこと。
誰かを助けること。
これが『勇者』という役割。
悲嘆にくれる人々の先頭に立つ者。降りかかる哀しみを切り払う者。
それが今の自分――ステラ・スターライト(星光の剣・f43055)だ。
毎日、毎日、毎日。
時間を忘れるほどに自分はゴッドゲームオンラインに没頭した。
次々と現れるクエスト。
モンスターを討伐するものもあれば、人助けをするクエストもあった。
「勇者様! なんとお礼を言っていいか」
「どうかお頼み申します。洞窟の奥に潜む魔物を!」
「失われた秘宝を取り戻していただきたいのです」
NPCたちの懇願から始まるクエスト。
これは用意された物語だ。
クエストをクリアしただけ。そこに言葉の重みはないように思えた。少なくとも自分にはそう思えた。
実感がわかない。
何をしているのかわからなくなってくる。
人間は慣れる、忘れる動物だという。
わかっている。あれだけ新鮮だったゴッドゲームオンラインの刺激も、慣れてしまったし、初めての感動も忘れてしまっている。
「次のクエストは……」
メッセージウィンドウをタップする。
無機質だ、と思った。
また次も似たようなクエストが発生するのだろう。そう思ったが、違った。
目の前に広がるは今まで見たことのないフィールドだった。
「なに、ここ……」
初めてのクエストだろうか?
それともスペシャルクエストだろうか?
よくわからない。
自分以外のゲームプレイヤーがいるように思えた。だが、なんだか体が重たい。
装備している剣もやけに重たい。
「デバフがかかっている?」
目の前が暗転する。
次の瞬間、目の前に広がるのは森だった。
こぼれ日が差し込む木々のざわめきを聞いたし、頬に当たる風の冷たさに、はっとする。
「げん、じつ……? でも、私」
そう、現実の自分は寝たきりだ。今もベッドに横たわっているはずだ。
けれど、この感覚は紛れもない現実。
ゴッドゲームオンラインでは感じられなかった重さ。
その感覚に戸惑う間もなく、ステラの耳を打つ声があった。
悲痛な声であった。
「誰か、誰か助けて……!」
声のした方角を見れば、木々の向こうから青ざめた顔で足をもつれさせながら走る幼子がいた。
切羽詰まった様子。モンスターに追われているのか、と把握すると幼子の背後から襲いかからんとする異形が見えた。
剣の重さ。
これが現実だという事実。
ステラはけれど、ためらわなかった。
此処が異世界だろうと現実であろうと関係ない。
己の体の意味を感じる。
動く。
ねたきりではない。
そして、誰かのために何をしたいと思う己がいる。
振るう剣が異形を切り捨て、手に伝わる感触を覚える。
これが、と。
だが、それは続く幼子の感謝の言葉に塗りつぶされる。
「ありがとう、ございます……!」
その言葉は他の生きた言葉だった。
何物にも代えがたい、ステラが初めて得た言葉だった――。
成功
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