小国家『レンブラント・ラダー』
●梯子の国
小国家『レンブラント・ラダー』は何故そう呼ばれるのかという由来さえ定かではない程に戦火にさらされ続ける小国家である。
何故か、と問われたのならば、その理由は明白である。
それは国土の大半が平原であるからだ。
天然の要害たる山脈や川、そうしたものが存在しないまっ平らな平原が国土の殆どを占めているのならば、敵対する小国家からすれば攻めやすいという判断を下されるのは間違いないだろう。
クロムキャバリアにおいて遺失技術でもって作られた生産施設『プラント』は小国家なくてはならぬものである。
保有数は潤沢、とまでは行かぬまでも永きに渡る戦乱を戦い抜いて来たことからも相応の数が稼働状態にある。
「んで。なんで我が国がこんなにも平原ばかりなのかって話だったか」
ファルコ・アロー(レプリカントのロケットナイト・f42991)は頷く。
彼女は常々疑問に思っていたのだ。
小国家を興すのだとしても、もうちょっと良い場所があったのではないか、と。
けれど己が所属する部隊『ゴッドレイ』の隊長である『ジャコヴ』は言葉を紡ぐ。
言うまでもなくクロムキャバリアにおける部隊とは即ちキャバリア運用を行う戦闘員で構成されている。
彼もまた嘗ては優秀なキャバリア乗りであったが、戦闘で視力低下の負傷を受けて部隊指揮を行う隊長のポジションに収まったのだという。
彼と共に指揮車両にファルコは収まっていた。
また自分も戦えると飛び出さぬようにと、今回は指揮車両にて『ジャコヴ』の補佐をするように言いつけられたのだ。
その合間に、己が所属する小国家の成り立ちについて尋ねたのだ。
そういうのはさぁ、と『ジャコヴ』は面倒くさそうであったが、しかし、彼女の疑問に応えるだけの知識と教養は持ち合わせているようだった。
「昔此処が、大規模な……ええと、ファルコ、お前は飛行船、知っているな?」
「はいです。低高度をノロノロ飛ぶ運搬の」
「そうだ。はるか昔には、あれよりも巨大で早く飛ぶ事のできる飛行機というものがあったそうだ。我らが小国家『レンブラント・ラダー』は、その飛行機の大規模発着場だった、という話がある」
その言葉にファルコは、眉唾だなーと思った。
「眉唾だと思っただろう」
「ぎく、です」
「お前は嘘つけないな。まあ、俺もそう思ったものだ。そんなもんあるわきゃない、とな」
だが、と『ジャコヴ』は『レンブラント・ラダー』の主力キャバリア『サンピラー』の上げる土埃を見やる。
広がるは真っ平らな大地。
「だがな、飛行機ってのは長い滑走路というものが必要だったらしい。我が国は、その名残なんだそうだ。そして、この空の向こう側にはさらに空気のない世界が広がっているんだと。故に」
「ラダー……梯子、と?」
「そういう名の成り立ちらしい、という伝承があるってわけだけだがな。本当かどうかはわからんが」
でもまあ、とキャバリア『サンピラー』をまた見上げる。
「あの機体だって、地上における高速機動に特化している。アンダーフレームが華奢なのは、オーバーフレームを如何に大地から浮かせて立体的な軌道を行わせるかに主題を置いているからだ」
「確かに。頼りない足してますですもんね」
「たまに曲芸みたいなことをやりだす隊員がいるだろ。本来なら、あれはもっと高度の高い場所で戦うための機体だったんじゃないかっていうのがもっぱらだな」
今は違う。
ファルコは『サンピラー』を見やる。
「じゃあ、この小国家は元々空を飛ぶ多くの機体で溢れていた、ですね。そういうことも在り得るのかもしれないって言いたいです?」
「そういうことだ。だがまあ、本当かどうかは知らん。というか、今生きている連中では、それが正しいかどうかもわからん」
だが、と『ジャコヴ』はファルコの頭をまた撫でるような、こねるような、ぞんざいな手つきで金色の髪をくしゃくしゃにしてしまう。
「時代が違えば、ファルコ。お前のような存在は俺達のようにキャバリアで地を這うようにして戦うものたちを助け、さらには戦場の主役になっていたかもしれんってことだ」
その言葉にファルコは暗に慰められた、と理解する。
なんて言葉を返していいかわからない。
「やーめーろーです!」
「ふはははっ!!」
盛大に笑う『ジャコヴ』にファルコはごまかされた、と憮然としてしまう。
けれど、思う。
航空戦力としての性能しかない自分が、この嘗ては空飛ぶ機械の大規模な施設……所謂空港と呼ばれる場所であった小国家『レンブラント・ラダー』に生まれたことは、なんのつながりもなく因果無きものではなかったのだと知る。
時代が違えば、と『ジャコヴ』は言った。
ファルコは、それを嫌だと思わなかった。
今の時代でよかった、とさえ思うだろう。
そうでなければ。
「あなたたちに逢えなかった」
なんて、そんなこと恥ずかしくて言えないけれど――。
成功
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