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ガールズナイト・イン・ルーム

#アスリートアース #ノベル #猟兵達のバレンタイン2024

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#猟兵達のバレンタイン2024


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菫宮・理緒



サージェ・ライト




●ぱーりぃ
 朝。
 そう、朝、と認識できるのはカーテンの隙間から溢れる朝日が己の瞼に降り注いでいるからだ。
 身を捩るようにしてベッドの上を転がる。
 行き当たったように触れる温もりに知らず笑みが溢れる。
 久方ぶりのお休み。
 なんだかんだと猟兵というのは忙しいものである。
 戦える者が戦える時に戦う。
 世界の悲鳴に応える。
 そういうものなのだ。だからこそ、予知する者が必要なのだ。
 世界をまたぐ、というのは多大な集中を要する。直接戦うことはできないし、己の予知にしたがって戦いに赴いてくれる猟兵たちには感謝の念は絶えないし、また己の疲労とは比較に成らぬことは承知している。
 けれど、やっぱり疲れるのは疲れるのだ。

 タイミングが合わなければ、休むことだってままならない。
 だからこそ、グリモア猟兵ナイアルテは久しぶりの休みに惰眠を貪っていた。
 体力が底をついた、と言っても良い。
「ん、んんっ、んー……」
 ふぅ、と背筋を伸ばす。ベッドの上のシーツが乱れるのも構わなかった。
 足を伸ばす。
 触れる。
 ゆっくりと身を起こす。カーテンの隙間から差し込む光が鬱陶しいと思ったからだ。
 けれど、起きてしまえば陽の光が恋しい。
「……起きましょう」
 本当はもう少しベッドの中が恋しいけれど。
 でも、と一念発起して彼女は起き上がり、カーテンに手をかけようとして、インターフォンが鳴り響く音に身をすくめた。

 え? と思ったのだ。
 誰かが訪ねてきた? 何故?
 ぴんぽんぴんぽん、ごんごんごんごん。
「なっ、えっ!? な、何事ですか!?」
 慌ててナイアルテは玄関口のインターフォンの画面を見やる。
 其処に居たのはサージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)と菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)の二人であった。
 無論、猟兵である。
 彼女たちの活躍でオブリビオンの齎す悲劇を幾度となく阻んできた。
 ナイアルテにとっては顔なじみの猟兵だ。
 けれど、なんでまた? と思わなくもない。
「お呼びとあらば参じましょう」
 呼んでない。
 というか、今前口上いる?
「私は……」
 はいはい、クノイチね。
「チョコ警察だー!! チョコ肌たゆんパイ独占禁止法違反の容疑で容疑者の確保にきたー! 逃げようとしても無駄だぞー!」
「ナイアルテさーん! チョコパしよー!」
 ごんごんごんごん。
 それ理緒のノックの音だったのか、とナイルテは思った。
 というか、え、なに? チョコパ?

 たじろいでいると更にサージェが叫ぶ。
「すでにこの部屋は私とりおりおで方位されている! でてこないと『WARU』に掲載された『菜医愛流帝』……」
「ちょ、ちょっとまってください!」
 ごすん! と勢いよく開けた扉にサージェの顔面がヒットする。
 なんか何処かで見たような光景であった。
 そう、『WARU』とはデビルキングワールドで発行されているワルによるワルのためのワルの雑誌である。
 そこに掲載されていた謎の番長の名がナイアルテにとってはキラーワードであったのだ。
 そして、それだけじゃあない。
「……ふっ。ナイアルテさん。もう逃げることはできないよ!」
「えっ、な、何がでしょう?」
 ナイアルテはぶかぶかのワイシャツ姿である。
 とてもじゃないが、気安い仲とは言え、友人たちの前に出るには些かだらしがなさすぎる格好であった。

 寝起きだから仕方ないね、と言ってくれるのは家族だけである。
 だからナイアルテは慌てて扉を締めて引っ込もうとしたのだが、理緒はすかさず足を挟み込む。
 逃さないと言ったのだ。
「逃げようとしたら、この『例の男性キャラクター』モチーフのチョコがどうなるか……」
 具体的には溶けてしまう。
 理緒が用意したチョコレートは繊細なディティールが崩れ、見る影もなくなってしまう。
 そんなチョコレートが忍びないと思うのならば、此処を開けろと言わんばかりに理緒は笑むのだ。
 なんともやり方が汚い。
 だが、それだけ彼女たちが共にチョコパ、チョコレートパーティをしたいという意気込みだけは十分に伝わってきたのだ。

「……あの、今、部屋が、その大変に見苦しいことになっておりまして」
 ナイアルテが曖昧な笑みを浮かべている。
「いいよー。そういうのわたしたち気にしないから」
「そういって実際片付いていそうですもんね」
 理緒とサージェはうんうん、と気にしない気にしない、と頷いている。
 だが、ナイアルテは顔を横にふる。
「いえ、本当に! その! 本当に! あれ! あれですから!」
 まじで見せられないやつだから! とナイアルテは必死である。
 理緒は気がついた。
 これは時間稼ぎしてない? と。
 どうにかして此方を言いくるめようとしてない? と。
 だからこそ、理緒は最後の手段にであた。
「いいのかなあ。今日は冬とは言え、春先みたいに暖かいんだよねー。チョコ溶けちゃうなー早くしないとーチョコ溶けちゃうなー? どうしようかなーわたしがたべちゃおうかなー」
 ね、ほら、と理緒は『例の男性キャラクター』のチョコレートを示す。

 その言葉にナイアルテの瞳が爛々と輝いた。
 あ、やべ、と思った。
「理緒さん、なんかナイアルテさん構えましたけど!?」
「あ、うそですごめんなさい。なんにもしないです。しないですから、構えを解いて!?」
 いのちがぴんちである。
 ナイアルテは、はっ、と己が自然と構えたことに我に変える。
「す、すみません。つ、つい……」
 頭を何度も下げる。
 その瞬間をサージェは見逃さなかった。
「隙ありです!」
 にゅるんと頭さえ入る隙間があればネコみたいに体も入り込める理屈があるようにサージェはナイアルテの部屋へと侵入を果たす。
 流石クノイチ。
 やり方が汚い。

「あっ、やめっ、だめ!」
「よいではないか、ですよ。おっと、お邪魔しますよ……ってなんだ、キレイじゃないですか……」
 サージェはナイアルテの静止も聞かずに部屋に踏み込む。
 理緒も当然のようにあとに続く。
 もう雪崩込むようであった。
 そして、その眼の前に広がっていた空間にサージェと理緒は宇宙の広大さを感じさせる表情を浮かべる。
 そう、そこに広がっていたのは普段のナイアルテの様子からは、少し外れた室内の有り様であった。

 いつも着ているジャケットや衣服が投げ捨てられている。
 ソファの上に乱暴に投げかけられているし、なんかこう、その、白い布切れとか、えっと、言葉にしていいのかなってなるようなものまで。
 そう、改めて今のナイアルテの姿を見てみよう。
 ワイシャツ一枚。
 寝巻きである。
 投げ据えられている着衣。
「流石にちゃんとしたほうが」
 サージェの言葉がクリティカルヒットであった。
 ナイアルテはこれまで見せたことない程のスピードで部屋中を駆け回った。
 それはもうユーベルコード、これ使ってね? となるほどの超スピード。
 一瞬で寝室に散らかったものを放り込んでいく姿は、なんていうか、こう、普段とのギャップがひどすぎて、あーってなるあれであった。
 
 見てはいけないものを見てしまった気分と言えばいいだろうか。
 カーテンが風でそよいでいたのを見やり、サージェと理緒は、なにも見てなかったよね、という風に互いに頷く。
「ともあれ」
「うん、なにはともあれ、チョコパしようよー♪」
「ええ、チョコパしましょう!!」
 二人は何事もなかったような顔をして言ったが、ナイアルテは無理だった。
 耳まで真っ赤にしながら瞳をうるませている。
「無理です。いけません。無理です」
「大丈夫大丈夫。これくらいみんなふつーだって。ね?」
「そうですよ。チョコは理緒さんが全力で用意してますので!」
「そうだよ。『Gディバ』とか『Wィタメル』とか『Pエエル』とか! ほら、ちゃんと用意してきたんだよ!」
 どれもこれも高級なやつである。
 この時期ならばなおさらのはず。
 それを理緒は多数調達してきたのだ。その努力は涙ぐましいものであっただろうし、同時に金に糸目をつけぬような散財っぷりであったことだろう。

「ほら、高品質カカオを使ったのやトリュフ、プラリネとかはもちろんだけど、チョコフォンデュだってセットもってきたんだよ!」
 理緒が慰めるとナイアルテも流石に頷く。
 べそべそしているけれど、それでも頷いたのだ。
「ささ、ナイアルテさん、こちらをどうぞ。フォンデュが飛ぶといけませんので、紙エプロンを」
 サージェはべそべそしているナイアルテの肩を掴んで紙エプロンを着せ、さらには人を駄目にする感じのソファに座らせる。
「おっと! 体勢が!」
 いかーん! サージェはナイアルテの胸元に倒れ込む。
 人を駄目にするソファは低いからね。
 仕方ない。
 座らせようとして体制を崩してしまうことなんて、ままることだからね。
 これは不可抗力。
「って、アガガガガガッ、ナイアルテさん、無言でアイアンクローは……!?」
「これがシャイニングなフィンガーというものです」
 力加減! とサージェがおめめぐるぐるしながら悶えている端で理緒は着々とチョコパーティの準備を整えていた。
 仕事ができる。

 フルーツやクラッカーを揃え、さらにはメインの鶏の煮込みやローストビーフ。それらに付け合わせるチョコソースまで取り揃えている。
「……良い香りがします」
「うん、もちろんコーヒーもこだわったよ!」
 豆も数種類。
 その香りにナイアルテは釣られるようにして、なんとかご機嫌が治ってくるようであった。
 ちょろい。
「豆はどこのものを……」
「ブラジル産地のものや、マンデリンだね。酸味低め、深煎り。ビターだから香りとチョコの甘さを充分に堪能できるんじゃないかなーって」
「あ、フィルターをご用意……」
「だいじょうぶ、ちゃんと用意してるよー」
 ふふん、と理緒は得意げである。
 ちゃんとこの日のために電脳魔術でもって下調べしてきているのだ。
 淹れ方だってちゃんと覚えてきた。
 ぬかりないのである。
「ささ、チョコ祭りをはじめましょう!」
 サージェは顔にナイアルテのアイアンクローの指の跡がしっかり残っているが、むしろ誇らしげであった。
 これは勲章なのである。
 せくはらを成し遂げたという勲章なのだ。なんか碌でもないな、と思わないでもないが、しかしてこの場に集ったのは乙女三人。

 女性が三人集まれば姦しいとは言うが、チョコパーティの難点はただ一つ。
 そう、カロリーである。
 熱量である!
 人はカロリーなくば生命維持できぬ。
 だがしかし! 過剰なカロリーは贅の肉としてついてしまうのである。
 それが難点!
「今日はそんなの忘れよう!」
「そうですよ。今日はチーチデイ扱いでよろしくおねがいします!」
 理緒は忘却の彼方へ。
 サージェは拝むことでなんとかしようとしていた。
 そして、ナイアルテは開き直る。
「運動すればいいだけのことですからね!」
 あ、ようやく元気出たな、と理緒は笑む。

「じゃあ、最初の一口は、はいあーん」
「えっ」
「理緒さん、それはずるくないですか!」
「サージェさんはさっきたくさんセクハラったでしょー?」
 そんなやり取りを皮切りに始まる女子会。
 チョコを囲んでの穏やかなパーティ。
 甘いものと香りよいコーヒーがあれば、もうそれだけでナイアルテは幸せであった。
 やっすいものである。
 しかし、徐々に女子会というのは楽しくなればなるほどに理性というか、タガが外れていくものである。

 最初は可愛らしく、あーんとかやっていたものがヒートアップしていくのだ。
「あははっ、なんです、それ」
「へんがおー」
 なんで変顔しているのかさっぱりわからない。
「ナイアルテさんはふわふわしていますねー。髪もなんだか良い香りがします」
 なんで寝チュラルに髪の匂いを嗅いでいるのか。
 なんていうか、なんとも言えない空気が漂っている。
 それはもう他人にはお見せできないあれそれとなっているが、しかして、サージェはこれらのシーンの前に立ちふさがるのだ。

「えっちなシーンはいけないとおもいます!」
 そう言っておけば、良いといものではないのだが。そんなもんはないのである。ないったらない。健全な女子会である。本当に。
 なんの言い訳かわからないが、そうなのである。
 さりとて、女子特有の空気感は部屋に充満していく。
 開け放たれている窓から風が舞い込んでも、それでも奇妙なテンションは変わらないのだ。
「恋バナとかしたのですが」
「えー、今、それー?」
「はい、気になる方がいらっしゃるとか、そういう他愛のないお話をしてみたかったのです」
 ナイアルテは普段の生真面目な態度を何処かにやってきてしまっていた。
 その場の空気というものに酔っていたのかもしれない。
 彼女にとっては、所謂普通の、という生活は経験がなかった。
 フラスコチャイルドとしての出自もそうであるし、猟兵としての使命もある。
 けれど、それでも普通の女性として遅ればせながらも、こうした穏やかな時間を得ることができる幸せを噛み締めているようだった。

 時にズボラで。時に甘いものに目がなくて。時にコーヒー求めて三千里だったり。
 そんな他愛のない日常というものが彼女の中にある。
「私はですね」
 ナイアルテは赤ら顔で笑む。
 あれ、アルコール入っている? と言わんばかりの顔つきである。
「理緒さん、りおりおし過ぎでは」
「えっ、うそ、ウィスキーボンボンなんて仕込んでないよ?!」
「じゃあ、あのナイアルテさんは……」
 二人は顔を見合わせる。
 赤ら顔。
 なんか呂律回ってない感じ。
 そう、ナイアルテはコーヒーとチョコレートと女子会の空気感に場酔いしているのだ!

 名付けるのならば、ふわアルテ。
「でへへ。言えませーん」
 うわぁ、とサージェと理緒は思う。
 同時に守護らなければ、とも。
 こんな無防備な生き物がいて良いのか。
 ていうか、戦闘力と裏腹に別の意味での戦闘力が高すぎる。
 程よい真面目さと、程よい無防備さ。
 隙がある、という愛嬌。
 これは、と。

「あー、お二人共、コーヒーが進んでおりませんよ。さあさあ、ぐいっと」
「……まあ、細かいことは」
「うん、いいっこなしだねー!」
 コーヒーってそういうものじゃないんだけど、と思いながらもナイアルテの押しの強さ、その並じゃないフィジカルに押されてなんていうか、きらびやかな映える女子会は、ダメダメな……けれど、なんとも賑やかな女子会の一日を終えて、ただただ笑い声ばかりが部屋に響き渡るのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年03月21日


挿絵イラスト