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ティタニウム・マキアの望郷

#サイバーザナドゥ #ノベル #猟兵達のバレンタイン2024 #巨大企業群『ティタニウム・マキア』

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#猟兵達のバレンタイン2024
#巨大企業群『ティタニウム・マキア』


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ステラ・タタリクス




●バレンタインは通常運行
「あのさー」
「はい、なんでございましょう」
 亜麻色の髪の青年『メリサ』は、何か言いかけてやめた。
 何を言っても無駄だと思ったからである。
 というか、ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)はどうやって此処を突き止めたのだろう。巧妙に隠されたセーフハウス。
 自分は安穏とした日々を送るって決めたのだ。
 なのに、嵐のように彼女はやってくる。
 いや、本当にまじでどうやってんの?

「何しに来たの?」
「バレンタインなので|襲いに《チョコ渡しに》きました」
 ステラのまじりっけ無しの瞳に『メリサ』は一瞬固まる。
 クリスマスのことを思い出したからである。あの熾烈なるチェイス。六時間にも及ぶ追走劇。
 はっきり言って、あれほど身の危険を感じたことはなかった。
 六時間の記憶が飛んでいる。
 本当に逃げ切れたのか。
 いや、そもそも何をしていたのかも忘れてしまうほどの熾烈さ。
 化け物であった。
 ステラの体力が。いや、追跡スキルと言えばいいのだろうか。
 ヤバすぎる。
 メイドってみんなこうなの?
「大変におまたせしました。いえ、おまたせしすぎてしまいましたという自覚はございます。ですが『メリサ』様、貴方のステラが参上したのですよ。|ハッピーバレンタイン!《チョコ受け取って!!》」
「お、おう……なんかえらい今回はストレートだな」
『メリサ』はたじろぐ。

 なんか、いつもならこう、変化球というか魔球を放り投げてくるのに今回は直球であった。
 正直すぎるくらいのストレート。
 待て、焦るな。
 これはなんらかの罠の可能性だってある。
 ならばこそ、彼は亜麻色の髪のかきあげてまっすぐにステラを見据える。
「なーんか、普通すぎるんだよな」
「うふふ、毎回毎回そんな狂ったことをするわけがありません。押して引いて、を繰り返すのがよいメイドの務め……それよりも『ケートス』様からチョコ貰ったりしました?」
「なんで『ケートス』の名前が出てくる。いや、あいつからは貰ってないけど。『オルニーテス』からは、なんか放り投げられたけどさ」
 別にあんたにお姉ちゃんを助けてもらったとか、そんなわけないんだけど、義理っていうか仁義っていうか、兎にも角にもそういうことなんだからね! とかなんとかというやり取りは在った気がするが、『メリサ』は絶対口にしない方がいいなって思った。
 絶対にやぶ蛇であろうから。

「『オルニーテス』様が。飛んだ伏兵ですね」
 圧。
 ステラは己がチョコを『メリサ』に押し付ける。
「伏兵て」
「此方の話でございます」
「なあ、これって中にまた媚薬入ってない?」
「御安心ください。先程もお伝えした通り、毎回毎回そんなことは致しません。押したら引く。それが良きメイドでございますので」
 えぇ……と思いながら『メリサ』はラッピングされた箱を眺める。
 なんか変わった包装紙だな、と思った。
 なんかこう、表というか……。
「ええ、もってきました」
「……」
「婚・姻・届♡」
 そう、ラッピングは婚姻届。
 すでに妻の欄にはステラの名前が記入されている念入りようである。

「ヤバすぎでしょ。引いてみるって話何処行った!?」
 バリバリバリと一瞬で開封されるラッピング。
「ああっ?! 一瞬で紙くずに!?」
「ええい! たりめーでしょうが! なんでこれで行けると思ったんですかねぇ!?」
「ひどい、乙女の夢をなんだと思っているんですか『メリサ』様!」
「このメイドヤバすぎでしょ!」
「誰がやべーメイドですか!」
「自覚なしと来たよ」
「まぁ、ともかく。チョコは本当に手を加えておりませんので……ハッ! 気が利かず申し訳ございません。あーん、ですね?」
「言ってないからね?」

 そんなやり取りの後にステラは『メリサ』の横をちゃっかり陣取る。
「お伺いしたことがあるのは本当なのです。『メリサ』様、貴方様は分かたれた存在とか似た存在を感知できたりは」
「できないよ。俺は、『此処』にいた僕らとは違う。もう違う。決定的に違ってしまっている。だから、もうわからない。俺と彼らはもう『違う』からな」
 ステラは理解した。
 彼の言う所の『彼ら』とはステラの言う所の『メリサ』のように分かたれた存在を指さぬことを。
 今も新たなる世界が見つかる度に、その存在を感じる。
 それとは異なる所に『メリサ』は思いを馳せている。
 望郷めいたものを『此処』に見出しているようであった。
 
「今も繋がりは感じられないのですか」
「ないよ。寂しいけれど、『僕ら』にとってはそれが良いんだろうさ。こんな思いをするのは俺一人で充分だって思うからな。だから」
「どこからきてどこへいくのか。なにをして生きるのですか」
 わからないな、と『メリサ』は独りごちる。
 だが、ステラはその空気をぶち壊す。
「あ、『メリサ』様は逃しませんので、どこまでもステラついてまいります♡」
「今いい感じの話にしてたんですけど――!?」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年03月21日


挿絵イラスト