甘香のヴィアベル・タイヴァイス
●再会
瑞波羅・璃音(元離反NPC・f40304)は懐かしいわね、と独りごちる。
己が召喚獣として召喚された世界、ブルーアルカディア。
本来は、とあるゲームのバーチャルキャラクターであるのが己である。その認識は猟兵へと覚醒した今も変わらない。
「確かここって今の時期だとチョコレートが集まるって話だったわよね」
彼女が降り立ったのはブルーアルカディアの浮遊大陸の一つ。
嘗て彼女が召喚された際に火炎竜の群れに襲われていた飛空艇港だ。
「あの『おチビさん』は元気にしているかしらね」
最初にこの世界に召喚されたたときのことを思い出す。
あの時は大変だった。
火炎竜の群れとの激戦に次ぐ激戦。
正直言って、自分だけの力ではどうしようもなかっただろう。たしかに己は水を操る力を持っている。
それでも一人で群れと戦うには足りなかった。
けれど、己を召喚した『おチビさん』の勇気と駆けつけた勇士たちと協力することで火炎竜の群れのボスを打ち倒したのだ。
あの冒険は活劇になっていてもおかしくない。
誰もが必死だった。
だからこそ、為し得たことなのだ。
「復興も充分ってところね」
あの激戦で港はボロボロだった。けれど、火炎竜の群れは、そっくりそのまま資材として活用することができる。
魔獣の心臓である『天使核』もそうであるが血肉だけでなく、骨、皮、牙、鱗、あらやるものが素材として使うことができる。
たくましい彼らの生き方に璃音は感心したものである。
戦いのあと、役目は終えたと召喚者である『おチビさん』と別れたのだ。
まだ彼は此処にいるのだろうか?
「ま、運命が巡れば会えるでしょ……それよりも、チョコレートよ。キマフュでも手に入れられない異世界チョコなんて動画のネタにしかならないでしょ」
そう、それが本来の目的なのだ。
けれど、どうにも璃音は落ち着かない。
なんだか視線が刺さるようなのだ。
街往く人々がソワソワしている。
「なんでかしら?」
「あーッ!?」
耳をつんざくような声が聞こえて璃音は思わず肩を竦める。
視線を向けると、其処に居たのは嘗ての召喚者『おチビさん』だった。
「アキネ!」
その言葉に街の人々がざわつく。
やっぱりそうなんだ、と。
「『おチビさん』じゃない。元気にしていた?」
「それどころじゃないってば! こっち!」
「えっ、なんで?」
いいから、と『おチビさん』は璃音の手を引いて走り出す。
なになに? なんなの? と驚くが路地裏に引っ張り込まれる。
「こんなところに引っ張り込んでなにするつもり?」
「おばか! ちげーよ! 今この街は大変なんだってば!」
「また魔獣?」
「また来るにしたって時期! 考えろよ!」
わからないことを言う。
今はバレンタインの季節だ。だって、チョコレートが集まるっていう港なんだから、そりゃあ、来るだろう、と思ったのだ。
だが、『おチビさん』は頭を振る。
「俺もアキネも英雄の一人として認識されてるんだってば! つまり!」
チョコレートを贈られまくっている。
それも尋常じゃない量を。
どれだけ断っても押し付けられる。
それが純粋な好意なだけに断りづらい! もういらないから、と言っても延々と贈り続けられるのだ。
「もう罰ゲームだよ、これ!」
だから! と『おチビさん』は璃音を人目のつかぬ路地裏に引っ張り込んだのだ。
「……あ、もしかして。あたしを見てた人たちって……」
「そういうことだよ! アキネ、あんたもやべーぞ。居場所なんか特定されようもんなら……」
「そういうことは早く言ってよ……あ」
突き刺さる視線。
振り返れば、そこにはチョコ贈りたい人々の視線がギラついていた――。
成功
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