●祝詞
捧げるは舞。
神楽は祀る髪に奉じられるものである。
神座を設けられた板間が軋む音が響く。
舞う巫女――神城・星羅(黎明の希望・f42858)は陰陽師であり同時に戦巫女だ。
全ての神楽の始祖であるアメノウズメこそが己が勧請する神。
舞う度に額に浮かんだ汗が飛び散り、朝日を受けて煌めく。
彼女は舞の奉納を欠かしたことはなかった。
己が力は奉じる神への感謝なくば成り立たぬもの。
しかし、星羅は己の家族からの大きな愛情に感謝を強める。
作法や芸事といったことは全て今の家族から教わったものばかりだ。
義理とは言え、義父母も義兄姉も全てがその道に通じ、生業としているものばかりである。
舞踊は義姉から。
雅楽は義父、義兄から。
いくつもの幸運が重なり合って今の自分がいる。
失伝してしまったものはあれど、しかし、今の自分は一人前と言える領域まで到達しているだろう。そうであるといいと思う。
戦いに赴く時は、いつだって不安だ。
けれど、そうした時にいつだって自分は新しい家族たちのことを思う。
彼らの言葉を思い出すのだ。
自分はちゃんとやれる。
今まさに己が加護をえられていることが何よりの証明だと。
戦うための力があることは良いことだ。
選ぶことができる。
力なくば逃げることしかできない。生きることも選べないかも知れない。
だからこそ、星羅は髪を振り乱し、汗の珠を弾けさせながら舞によってうちから溢れんばかりの熱を吐き出すようにして息を整える。
奉じた舞の性質上、どうしても着衣が乱れてしまうのは致し方のないことなのだろう。
神話に聞く所のアメノウズメがそうであったように星羅もまた舞い踊る度に帯が緩み、襟が乱れていくのを感じていた。
「仕方のないことですが……どうにかならないものでしょうか」
そういうものだ、で片付けられてはたまらないのだけれど、現状、星羅にはどうすることもできない。
いや、とも思い直す。
着衣が乱れるくらいがなんなのだ。
己が舞うは神楽の基礎を伝えてきた嘗ての家族の証明である。そして、今の家族の為にならんとするもの。
ならば、修行に音を上げている暇なんてないのだ。
「私は目指すのです。勝利齎す戦巫女を。そのためには」
自分はきっと挫けない。
修練の道に必ず朝日がさすと信じているから――。
成功
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