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スカルモルドのサガは惹起するか

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防人・拓也




●インドラ・ナイトオブリージュ
 小国家間の争いは全てキャバリアにおける戦闘の優劣こそが勝敗を分かつものである。
 鋼鉄の巨人たちは生産されては破壊さていく。
 旧きは淘汰され新しきが隆盛する。
 されど、隆盛は即ち衰退の始まりである。

 そうして幾つもの小国家が歴史の中に消えていった。
 百年前の争い。
 その多くを語る言葉はない。
 温泉小国家『ビバ・テルメ』もまた例外ではない。
 背後に鉱山を。眼前に停止した工場群を。
 さらに側面は湾岸に面している。守りやすく攻めがたい。立地としては最高に位置する天然の要害を持つ。
「加えて、温泉資源で観光で隆盛する、とは。クロムキャバリアにおいては、極めて稀なる小国家ですね」
 防人・拓也(独立遊撃特殊部隊ファントム指揮官・f23769)は小国家『エルネイジェ王国』の存在する大陸とは放たれた大陸である『ビバ・テルメ』周辺へとやってきていた。

 この大陸は百年前、『サスナー第一帝国』と呼ばれる他大陸にまで支配の手を伸ばした強大な小国家が存在していた。
 けれど、『憂国学徒兵』と呼ばれる集団によって滅ぼされた。
 たった9人の『エース』を興りとする戦闘集団は『サスナー第一帝国』を滅ぼし、続く『バンブーク第二帝国』さえも地底へと追いやった。
 俗に彼らが|『超越者』《ハイランダー》と呼ばれる者たちであることは歴史が証明している。
 そして、『ハイランダー・ナイン』と呼ばれた9人の『エース』を率いていたのが『悪魔』、『救世主』と呼ばれた『フュンフ・エイル』と呼ばれる存在であることは、この周辺小国家に百年経った今でも深く刻み込まれている。
「眉唾ものでしかないとは思いますが」
『悪魔』とはなんとも飾り気のない渾名である。
 己もまた『白い閃光』と呼ばれているが故に、シンパシーを感じていないと言われたのならば嘘になるだろう。

「白い『インドラ・ナイトオブリージュ』か、それとも黒い『インドラ・ナイトオブリージュ』か」
 拓也は、かのキャバリアが頻発して目撃されている場所へと急ぐ。
 白い『インドラ・ナイトオブリージュ』が多く目撃されているのは『エルネイジェ王国』である。
 しかし、海を隔てて湾にて繋がる『ビバ・テルメ』の領海近辺でも目撃されている。
 そして『ビバ・テルメ』……その前進である『フォン・リィウ共和国』から、さらに荒野を進んだ先にある小国家『フルーⅦ』でも士官学校を襲ったオブリビオンマシンが白い『インドラ・ナイトオブリージュ』であった。

 ならば、拠点めいたものが存在しているであろうと拓也は踏んだのだ。
 しかし、それは空振りというものであっただろう。
 拠点らしいものは直線上にはない。
 だとすれば、あまりにも神出鬼没が過ぎる。
 猟兵のように転移能力があるわけではないだろう。それはオブリビオンとしてはあまりにも規格外であるがゆえである。
 拓也は手にした十文字型のクナイを荒野に突き立てる。
「網にかかるか。いや、これは」
 大地が振動する。
 砂塵巻き上げ、大地を疾駆する一騎のキャバリアの姿を拓也は認めただろう。
 己を感知しての出現ではない。
 おそらく偶然であろう。
 張った編み目に運良くかかった、というのが正しい。

「想定より早い。探す手間が省けたのはありがたいが」
 敵も己に気がついただろう。
 しかし、大地疾駆する一騎のキャバリア、黒い『インドラ・ナイトオブリージュ』は拓也を気に留めなかった。いや、捨て置いた、というのが正しいだろう。
 それは当然である。
 体高5m級の戦術兵器が闊歩する世界にあって、生身単身で戦いを挑むことは自殺行為に他ならない。

 故に、あの黒い『インドラ・ナイトオブリージュ』は拓也を敵とすら認識していない。
「何故、と思ってもこちらを脅威とみなしていないか。ならば!」
 ユーベルコードに輝く拓也の瞳。
 時空間魔術・迅雷天神(ジクウカンマジュツ・ジンライテンシン)によって、クナイでマーキングしていた荒野へとワープと共に拓也は貫手の如き疾風纏う一撃を黒い『インドラ・ナイトオブリージュ』へと叩き込む。
 敵がこちらを脅威として認識していないのならば、好都合である。
 この一撃で勝負を決めるつもりであった。
『インドラ・ナイトオブリージュ』の性能は知っている。
 拓也の知人たちから聞き及んでいたからだ。
 近接武装は無論のこと。
 腕部のショットガンや、顎部に内蔵された広域殲滅兵器。
 それらの全てが脅威。故に油断はない。
 こちらが敵の油断をつけるのならば、容赦なく突く。それが拓也の選択だった。

 だが、黒い『インドラ・ナイトオブリージュ』は反応していた。
「反応した?」
 振るうナイトランスが拓也の放った貫手と激突する。
 有りえぬことであるが、生身単身の人間の一撃がキャバリアの武装と打ち合う。そして、あろうことか、ナイトランスの刀身を引き裂いたのだ。
「その槍をまずは!」
「――」
 だが、即座に黒い『インドラ・ナイトオブリージュ』はナイトランスを棄てる。
 サーブアームがうなりをあげるようにして拓也へと迫る。
 しかし、次の瞬間、拓也の姿はそこにはない。
 術式を施したクナイのマーキングは一箇所だけではない。
 即座にワープでもってサブアームによる殴打を躱し、離脱した拓也は即座に編み目のように張り巡らせたマーキングへと転移し、さらに踏み込むようにして黒い『インドラ・ナイトオブリージュ』へと迫る。
 
 一方的な攻勢。
 移動手段と攻撃の手段が噛み合った拓也のユーベルコードは圧倒する。
 確かに獣脚もつ『インドラ・ナイトオブリージュ』は人型のキャバリアが主流たる戦場に置いては奇異なる存在である。
 しかし、拓也は先日すでに『インドラ』を参考に作られた『ヴェロキラ』に搭乗し、その動きや性能を理解している。
 全く同一であるとは言えない。
 しかし、機構が参考にされているのならば、そこに動きの癖があるはずなのだ。
 そして、最大たる要因は己が生身単身である。
 敵はキャバリア。
 元より敵と認識すらされていなかったのだ。

 ならばこそ、己が放つクナイの一撃を黒い『インドラ・ナイトオブリージュは躱さないだろう。
 躱す必要すらない。
 人が携行できる武器などキャバリアには殆ど通用しない。
 躱す、という大げさな動きなど必要ないのだ。
 その一点こそが拓也の狙いだった。
 クナイがマーキングとなって取り付くことができる。そうなれば、己が目的は達せられる。
 故に、これは必勝への一手。

 だが。

 死角より放ったクナイの一撃は『躱され』ていたのだ。
 意志など感じられない気配。
 だが、確かに拓也は理解しただろう。
 この黒い『インドラ・ナイトオブリージュ』に乗るのは『天才』の類いであると。
 己が意図を数手先まで読み切っている。
 背面への一撃も、クナイが伏せられた罠であることも、全て敵は即座に見切っていた。
 それまで敵とすら認識していなかった存在を即座に脅威へと認識を改めているのだ。
「何故、広域殲滅兵器を使わない?」
 そう、こちらを脅威として認識したのならば、広域殲滅兵器こそ最大の一手であるはず。
 なのに、それを使わない。

 確実にこちら理解している。
 黒い『インドラ・ナイトオブリージュ』のアイセンサーが煌めく。
 サブアームが懸架されていたコンテナめいた武装を掴む。
「あれは、なんだ?」
 知らない武装である。少なくとも『ヴェロキラ』にはなかった。
 さらに拓也は驚愕するだろう。
「変形、いや、変身……!?」
 眼の前で黒い『インドラ・ナイトオブリージュ』は姿を変える。アンダーフレームの獣脚はそのままに。されど、オーバーフレームが変貌していく。
 その姿は人型。
 そして、彼が知ることがあるのならば、それは『セラフィム』と呼ばれる機動兵器であった。

 黒い『セラフィム』の肩部に懸架されたコンテナが煌めき、空を埋め尽くすほどのクリスタルビットが飛翔する。
 拓也は即座に判断する。
 あれは、こちらの荒野にマーキングしたクナイの全てを面で虱潰しにするための方策であると同時に、己から逃げ場を奪う一手。
 一手で全て覆された。
 煌めくはアイセンサーの熾火。
 空を埋め尽くすクリスタルビットが大地に降り注ぎだ瞬間、拓也は即座に選ぶ。
 敵の思惑を理解し、己が深追いすることへの危険性を知るのだ。

「『天才』じみた戦術……なのに、意志は感じられない……一体どういうことだ……?」
 故に拓也は空埋め尽くす弾幕兵器の範囲から逃れ、そして、あの『黒騎士』が己の編み目からまんまと逃げおおせたことを知るのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年03月17日


挿絵イラスト