永遠のツリー・エルフヘイム
巨大樹木群を基に形成された都市国家『永遠の森エルフヘイム』。
リヴァイアサン大祭には水の星霊リヴァイアサンが飛び回り、その影響で雪が降る――この日は森の泉は温泉に、小川は甘い蜜の川に。
雪を、訪れた寒さを称える日。
冷たい夜空は一層と光が映える日。
「ワーオ! 見事なビッグサイズ・クリスマスツリーであります!」
大樹の丘へ続く道をのぼってゆく最中に見るは巨大樹木のクリスマスツリー。灯された光に照らされるは金や銀、赤に緑にと輝くオーナメントたち。それらの光が枝葉に積もる雪に反射して、エルフヘイムを幻想的な光の森にしていた。
「HAHAHA! とても綺麗に輝いてマスネー!」
輝きを取り込んだようなバルタン・ノーヴェ(f30809)の朗らかで明るい声。
メイド服の上にコートを羽織ってはしゃぐバルタンの様子に、リーゼロッテ・ローデンヴァルト(f30386)は笑みを零した。
「例年以上の規模らしいと聞いてはいたけれど、バルたんが喜んでくれてよかったよ」
皆はどうかな? とリーゼロッテは誘った面々を見遣る。
隣にいるシャルロッテ・ローデンヴァルトは「い、いくらなんでもビッグすぎじゃないかなぁ……」とツリーを巡るバルタンの視線を追っている。
「シャル殿、大きいことは好いことデスヨ!」
「えぇー」
寒さをものともしない元気で楽しそうなバルタンにつられて、シャルロッテもくすくすと笑い始めた。
「おおっ……! 見よ、見よ。丘の上のツリーも、すっごく綺麗なのじゃ~♪」
道の先の方を見た李・玉明(f32791)が皆の視線を誘う。
巨木のツリーとは明らかにレベルが違う丘上の世界樹も、今宵は美しく飾り立てられていた。
「おや? リーゼ、あそこを飛んでいるものは何なのじゃ?」
「ん? ああ、アイツが『水の星霊』だよ。リヴァイアサン」
水の星霊リヴァイアサンが飛び回る幻想的な光景に、玉明もバルタンも目を輝かせた。
「へぇあれが水の星霊……でっけぇ」
首元の半ば融合してる犬が頭をもたげれば尾守・夜野(f05352)から感嘆の声が零れた。そして空の方を向いた。
「あの者がこの地にクリスマスを――いやここはリヴァイアサン大祭じゃから、ツリーもリヴァイアサンツリーになるのじゃな」
玉明の言葉に「それな」と頷きを返すのは夜野だ。
「にしても美味そうな匂いがするな」
やはり犬の鼻は利くのか、五感を共有している夜野が言った。
「丘上の大樹のふもとではリヴァイアサンマーケットも開かれているんだ。ほら、もう到着だよ」
リーゼロッテが示した丘上のマーケットには色んな食べ物屋台があるようだ。
積もる雪でアートを描くアーチをくぐれば、「水の星霊のマーケットへようこそ!」と声が掛けられた。
永遠の森を冠する国家と集落らしく、木造りの屋台が並ぶ。お祭りらしいランタンや光り輝くツリー、樹の幹をくりぬいた大きな灯篭、出張遊園地もあって、エルフヘイムの住民や遊びに来た旅人で賑わっている。
「おや? おやおや? リリー先生、いつの間にデスカー? ジュースorアルコール?」
リーゼロッテの手元に気付いたバルタンが、抜かりなきからかいの軽やかさで彼女に問う。
「これ? ホットワインさ、ナリは小さくてもオトナだし」
「HAHAHA! 何気に最年長でありますな!」
温かく甘い香り漂うホットワイン。果実とはちみつも使っているのだろう、赤い防寒着を纏っていた体はもうぽかぽかだ。ちなみにシャルロッテは、リーゼロッテとお揃いで色違いの蒼。
「ほーん、ほっとワイン……気にはなるがこの見た目だとあれよな」
首を伸ばしてホットワインの香りを嗅ぐ犬だが、夜野の声はやや気まずげではある。なんとゆーか、その、なあ? という夜野の声にならぬ声をぶった切るのはバルタンであった。
「その状態だと酔いは回るのデスカネー?」
「いや……この形でそれ答えるのまずくね?」
「それはそれとして、今一番ホットなのはリリー先生でありますネ! ワタシ達も何かホットな飲み物を頂きマショウ!」
自身のアイをサーモグラフィーに切り替えていたバルタンがにこりと笑う。
冷たいままである夜野の体温は、熱を奪われたあの時からあまり変わらない。寒さは感じていないのだろう。だが刹那の熱は夜野にさりげない落ち着きをもたらすようだ。バルタンの言葉に「そうだな」と小さく頷いた。
ダッフルコートをしっかりと着込み、手袋やマフラーで防寒対策万全にした玉明は「ホット」にうんうんと頷いている。
「じっとしてたら寒ぅなってきたのじゃ。ほっとな飲み物ときたら、何か食べ物も、じゃな! ではほっとな飲み物はバルタンに任せ、妾は菓子を……」
玉明の言葉にリーゼロッテはマーケットの分布を簡単に説明していく。
「ほう、ほう。おいしそうな焼き菓子も売っているのじゃな」
「焼き菓子いいな……玉明さん、ワタシも一緒に買いに行きます」
ということで、玉明とシャルロッテはお菓子を求めすぐそこの屋台に。
「夜野殿も何か見つけるのデスヨ」
「へぇい」
夜野と犬に発破をかけるバルタン。
離れるわけではないが念のためにと、リーゼロッテは四人を見守りながらホットワインを再びひとくち。
ハチミツとドライフルーツ、ナッツを使ったビスケットは噛み応えがあって甘みと酸味がしっかりと味わえる一品。
果実ジャムを入れ込んだ揚げドーナツはふわさく食感だ。
たっぷりバターで焼いたリンゴ入りワッフルは、ほろろと優しい味わい。
頬張ればどれも美味しい。玉明とシャルロッテは笑顔だ。
「お、こっちはシュトレンみたいなやつか」
「美味しいのぅ」
食べ歩いて、美味しい物をシェアすれば皆が嬉しそうに、楽しそうに感想を言ってくれる。
玉明に渡された焼き菓子を食べた夜野は何かを見つけたのか「あー」と呟いた。
ふらりとした歩みで近寄った店はいわゆる飴屋台。
「果物のやつ、野菜串系やらの飴もあんのな。やっぱ定番なんだな。皆もいるか?」
「うん、いただきます!」
玉明はフルーツ飴を嬉しそうに受け取る。
ついでにキャラメリゼされたナッツも購入する夜野。
「森の国ってこともあって美味そうだしな」
果物と、夜野が気になっているのはナッツ類である。デーツとゴマのペースト入り団子など様々な菓子類もあるのだ。
と、そこにバルタンが戻ってくる。
「あちらの屋台で温かいポタージュを買ってきマシタ! どうぞデース!」
バルタンが木盆に乗せていたのは人数分のカップ。夜空に向けてほこほこと白い湯気が昇ってゆく。
「ありがとうなのじゃ! 色が綺麗じゃの」
「ポタージュ! あんがとよ。なんか色んなやつが入ってんのな」
二色という変わったポタージュに気付く玉明と夜野。
赤パプリカと黄パプリカのポタージュはそれぞれ違う鍋で作って、器によそったのだろう。綺麗な色合いだ。
ジャガイモやタマネギ、ハーブがペースト状になっているらしい。
「ふー、ふー……おお、温まるのぅ」
それでいて飲みやすい。頬をピンクに染めた玉明のほっとした声。
「アタシにもポタージュ頂戴な、バルたん」
「勿論デスヨ!」
屋台の通りを抜けて、見晴らしの良い大樹のふもとでゲットした物をゆっくり味わうことにして。
「あー……やっぱこの視界だとなれねぇんだよなぁ。目が回っちまう」
喧騒を外れたら夜野がふとぼやいた。
出歩けば体格と体重的な意味で押し流されるのを感じるし、興味を惹かれるものに犬は吸い寄せられてしまう。
「夜野さん、ベンチで休みますか?」
「色々買ったし、ここでのんびりしていこうかねぇ」
シャルロッテに続きリーゼロッテがそう言った。
「そうじゃの。ゆっくりと周囲を見回せば、見えぬものも見えてくるのじゃ」
ほら、と玉明はマーケット通り、ツリーの数々、そして見上げれば天を覆う程に大きな広い樹を示した。
枝葉を飾るオーナメントやランタンが満天のよう。
「星霊たちも楽しんでいるようなのじゃ!」
飛翔したり弾んだりな星霊たちの動きはまるで踊っているみたいだ。
「とってもよい祭りなのじゃ! 誘ってくれてありがとうのぅ、リーゼ! シャル!」
一夜限りの氷の宮殿、氷原、巨大なリヴァイアサンツリー。
精霊リヴァイアサンが飛び、雪が降る。
エルフヘイムに在るものすべてに、平等に、『雪』が訪れる特別な訪れ。
儚き一瞬、けれども心にずっと残る一瞬の数々だ。
「~♪ ~♪ ~♪」
聖なる一夜に添う曲を作ってハミングする玉明。
夜野とバルタンは聴き入って、輝くツリーとリヴァイアサンを眺めている。
そんな三人を見て、大樹を見上げて。リーゼロッテもこてりと、シャルロッテの方へ頭を傾けた。
「やー、スゴイよねえ、シャル」
「うん、キレイだね、リーゼ……♪」
夜に輝く光たち。
みんなで過ごす特別な一夜はまだ続く。
けれども、今夜も、その先も『楽しい』は終わることなく降り積もっていくことだろう。
成功
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