●空間の裂け目
『平安結界』の裂け目。
それは強固な結界の外側に在りしものたちを呼び込むものである。
妖。
人に仇為すものたち。
人を殺め、人を喰らうものたち。
結界の外が死の大地へと変わり果てていることを市井の人々は知らぬ。
今日という日が明日も続くと信じている。
変わらぬ明日を思えば、変わらす明後日も当然にと思うだろう。一週間、一月、一年。不変たるものであると思うだろう。
それを愚かと笑うのが妖たちである。
「カカカッ! 愚か、愚か! この仮初の結界の中こそ世界のすべてと思う者たちの何たる滑稽なことか」
対する妖が嗤う。
人の営みを嗤う。
穏やかなる日常を嗤う。
それがどうにも神城・星羅(黎明の希望・f42858)には許せなかった。
己が陰陽師の末裔であるからではない。ましてや、稀代の音楽一家であるからでもない。
星冠する名を持つがゆえである。
生きることは生命の宿命である。
そして、死せることもまた生命の結末。
その最期がいかなるものであったとしても、己は誇り高く生きねばならない。
「幼子が我等を止められると思うてか!」
「はい、止めて見せます!」
手にした指揮棒の形をした声楽杖。
振るえば、現れるは『金鵄』――己が思念が形となった式神である。
平和へと、調和へと導かんとする意志が具現化した姿。
白と青の祭服が風に揺れる。
裂け目から荒ぶ死の大地の風が己を揺らしている。
「私には絆の力があります。調和の力とは偉大なものなのです!」
「不出来にして未熟なる身でなんとする! いや、馳走として己が身を食らわせようというのならば!」
震える己の足を見透かすように妖が言う。
けれど、構わない。
この恐れもまた己と世界を絆ぐ調和である。
なら、棄てる必要はない。
「いざ、参ります」
弓引く。
今の自分は全ての幸せの音を護るため、できることを為すのみ。
祝詞が響き渡る。
舞の足取りは力強く踏み込まれていた。
恐れは全てを震わせる。
どんなに調和取れた音であっても、ずたずたに引き裂くほどの強烈な音。
けれど、音だ。
義父に譲られた杖が震える。
そして、義兄が教えを胸に抱く。
「導きの音律をここに!」
煌めくはユーベルコード。
己を絆ぐものの全てが、己の力となる。
悲しみあれど前に進むと決めたのだ。
「その裂け目は封じさせていただきます。これ以上、悲しみに濡れる血潮が流れ出ぬためには――!」
成功
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