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0■7-ウシロサマ

#カクリヨファンタズム #【Q】 #戦後

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#カクリヨファンタズム
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#【Q】
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#戦後


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「それじゃ……ぶりーふぃんぐ、話すぜ」
 身長を補う小箱に飛び乗ったグリモア猟兵、鳥人の少年あめ(勇者の翼・f42444)は皆を見つめて声を張る。

「今回の予知はUDCアース……から繋がったカクリヨファンタズム。
 目的は、|ヤバいアイテム《呪物》の回収。相手は……巻き込まれたガイコツの妖怪サンだぜ」

 UDCアースだ!と言わなくて良い安心感。
 いや、カクリヨなんて言わば全部オバケなのだが……。
 自然への畏怖や自然そのものの擬人化など、
 生まれや成り立ちが自分に近い存在が多い妖怪は不思議と怖くない。

「オレが見た夢は、苦しそうに叫ぶガイコツサンが暴れまわる夢なんだけど」
 そう話した後、ぐちゃぐちゃに丸めた――いや、テキトーに畳んだメモを手元で開く。

「オレの予知と……この前UDCアースの組織の隊員サン?のえっと……。
 山背サンって人から来た依頼が繋がったみたいでさ。
 山背サンが言うには、自分が所属している支部に昔|ヤベー道具《呪物》があったらしいんだ。
 でも、その詳細が分からないように黒塗りにされていたり、正確な情報がつかめないようになっている。
 その情報の中で|ヤベー道具《呪物》は、サイコロの形をしてるって話でさ。
 で、組織で封じて管理する為に見つけたら報告、もしくは回収して欲しいって依頼なんだ」
 こほん、と咳払いして再びクチバシを開く。

「オレの夢の中で、ガイコツサンの真ん中に……紫色に光るサイコロが浮かんでたんだよな。
 異様な状態で……まー、そのガイコツさんってのがちょっとネガティブな感じの妖怪サンなんだけどさ。
 なんかハッピーな叫びをあげながら暴れてて。苦しんでるのに、しあわせ、シアワセって繰り返しててさ。
 身体を作ってる骨が光になって消えながら、暴れている……んだ。
 その内容を山背サンに確認したら、どうもそれが、その|ヤベー道具《呪物》……サイコロの影響っぽいって。
 だから、それを回収してきて欲しいって任務になるぜ」
 開いていたメモを再び丸めると、懐にしまう。

「んで、そこまでの夢なんだけどさ。
 UDCアースから始まるんだよ……」
 テンションが急降下していく。ざわ……と猟兵達が声を漏らす。
 あっ、オバケ案件もあるんだ、と。

「オレはスズメかな……ちっこい鳥として、縁日を上から見てるんだ。
 そうすると、楽しそうな人々と違う……スーツのおっさんがさ。その中を必死に走ってる。
 神社の境内への道にたくさんお店が並んでるんだけど……その中を走っていくんだ」

 ばさばさ、と両手を動かして走る様子を真似て見せる。

「で、鳥居の前で……横の森に飛び込む。
 そして呟くんだ――『あちらへ』って。
 その時……視界が回るような感じがして――UDCアースじゃない雰囲気になる。
 邪神のいる空間とも違う感じで……景色はあまり変わっていないけど、空気が違うみたいな。
 暗くて怖いような、肝試しみたいな空気感。
 カクリヨファンタズムに入っちゃった、感じ……だな……。
 でさ!」
 顔にシワを寄せて、大きな声で叫ぶ。

「そのスーツの人……骨になってたんだよ!マジでそういうのやめてほしいぜ!
 ボロボロのスーツの破片を着た、骨になってた」
 妖怪のガイコツサンは大丈夫で、突然出て来た動く骨はダメらしい。

「もってるスーツケースもボロボロで……そこから、紙みたいのがバサバサ落ちていくんだ。
 その人は、誰も居なくなった縁日を入り口へ逆走して歩いていく。
 でもさ、提灯が逆さまだったり、お面が表裏逆だったり……うん、オレ普通に怖くて直視できてないぜ」
 あ、そうですね……見れなかったねー、仕方ないねー、という諦められた空気感。

「人影が歩いているし、カクリヨでも縁日みたいなコトだったのかも。骨は時々誰かや何かと話してた。
 鳥居は何処だ?だっけかな……で、此処を真っ直ぐですよ、と教わるんだ。
 はい、と返事をして――逆の方向に走っていく」
 夢だから、正確じゃないのかな……とため息を1つ。

「その時に、骨の手から紫の光が見えて……たぶん、例のサイコロだったんだな、って今は分かるぜ。
 そのまま入り口まで走っていった骨は……ガイコツサンと出会うんだけど。
 ふらふらとガイコツサンに近づいて、取り込まれてしまう。
 まぁ、ガイコツさんはそういう妖怪サンなんだけど……。
 そこから、おかしくなって、さっきの話になるんだぜ」

「あと……オレの予知、歌とか声が聞こえるんだけど……今日は声だ。
 謎解きは下手くそだから、皆に任せる!やるぜ!」
 クルル、と喉を鳴らして声を真似る準備。
 すう、と大きく息を吸い込むと鳥の少年は少女の声で囀る。

「じゃ、占いするよ!
 カンタンカンタン!
 ウシロサマ、ウシロサマ教えてください!
 リョーマくんは、ミキちゃんに興味がない?」

「1か~!1なら本当かぁ……残念だね。でもさ!
 このサイコロをひっくり返しておまじないするんだ、やり方は分かる?
 うん!一緒に言おう!」

「『あちらへ』」

「偶数はいいえ。6になったし、ミキちゃんのこと好きだよ、良かったね!」

「あっ、まって、タクヤくん、そういう質問ダメだよ……!」

「死ぬって……!3だから本当だよ、ひっくり返さなきゃ!」

「えっ……3はだめなの?4になるから……でもこれじゃあ!」

「やだよおおおおおおおお!」

 ――同時に、鳥の少年の声が元に戻りつつ同じ様に絶叫する。
「やだよおおおお!マジで怖いからこういう予知やめてくれよ!オレはUDCアース以外の任務をするんだ……」

「多分、|例のヤベー道具《サイコロ》についての情報だと思う。
 山背サンも情報を探してるけど、詳しい情報が何もなくて……まるで誰かが持ってったみたいだ、って」
 ばさり、と両翼を開いてお手上げ、のポーズ。

「任務を確認するぜ。
 いち、ガイコツサンを良い感じに倒して中から|サイコロ《呪物》をもってくる。
 に、サイコロの情報を調査する。スーツの骨の落とした物や……影みたいなふわふわとか、隠れてる妖怪とか。
 ガイコツサンは友達になった死んだ人の記憶も持ってるらしいから、直接話せば分かるかもしれない。
 この二つをお願いしたいんだぜ!
 ――これで、ぶりーふぃんぐは終わりだぜ」

 覚えた言葉を自慢気に放ち、ぴょんと木箱から飛び降りた少年は走り出す。
 フロアの開けた場所で、巨鳥へと姿を変えると言葉を続ける。

「皆を送るのは、カクリヨファンタズムの鳥居の前。そこから参道を入り口まで逆走してくれ!
 道がめちゃくちゃ怖いから、オレは鳥居の前から絶対に動かない!いいな!絶対だからな!
 それじゃ……出発の準備が終わったら、オレの背に乗ってくれ」

 ひょこり、と身を小さくして。

「勇者の翼、目的地はカクリヨファンタズム!……の怖い感じのとこ。
 行きたくないけど、行くぜ……!」
 グリモアの光が道を開く。
 一度羽ばたけば世界は変わり――降り立つのは昏い参道。

 吹き抜ける風は、まるで肝試しのように生暖かい。


日向まくら
 8作目です。
 いつもお便りありがとうございます、励みになります!
 今回は「UDCアースからカクリヨに紛れ込んでしまった呪物を回収してくる」シナリオです。
 呪物を回収すれば任務完了です!
 が、調査したりすると「なんかちょっと分かる!」形でお待ちしています!

●一章
 なんだか景色が気持ち悪い感じになっている、縁日の参道を入り口へ向かいます。
 金魚すくいとか、りんご飴とかの屋台も「不穏な感じ」になっています。
 ヤバい縁日をするもヨシ、駆け抜けるもヨシ、「呪物」の情報を探す事も可能です。
 情報は出ます!

●二章
 呪物に侵されているボスを倒して救助、呪物を回収する闘いです。
 ボスが「スーツの人」を取り込んでいますので会話ができる可能性があります。
 調査すると、情報は出ます!
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第1章 冒険 『昏い参詣道』

POW   :    ただ心を強く持って進む。

SPD   :    惑わされる前に突破すればいい、急いで駆け抜ける。

WIZ   :    耳を塞いで進む。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

白霧・希雪
アドリブ等歓迎。

「景色のところどころが不気味…あめさんが怖がる気持ちもわかりますね。」

「いくらカクリヨと言っても…私の|知り合い《被害者》たちはいないでしょうし…」

しばらく周囲から隠れながら呪物の反応を探しましょうか。
|おかしいもの《呪物》があれば金羽の髪飾が探知してくれるでしょうし、もしかしたらサイコロに関連する何かも見つかるかもしれません。
UCを発動して周囲の景色に溶け込むように隠れます。触られたらバレるので気をつけます。

「にしても、縁日なんて久しぶりだな…|こうなって《呪われて》からは来たことないから何年間来てないのかわからないけど…」

急ぐことなくのんびりと景色を堪能しながら動きます。



「景色のところどころが不気味……あめさんが怖がる気持ちもわかりますね」
 希雪が静かに呟く。

 その、あめさんではあるが……境内で羽毛を逆立てた巨大な毛玉になり、もはや何も喋らなくなって暫く経つ。
 巨鳥に関してはいつものことであるが……。

 音の外れた祭り囃子が遠くから聞こえ……飾られた提灯の文字は逆さまに描かれている。
 首のない道祖神が道に背を向けている。

 空気も分かりやすくおどろおどろしい。

 きっとUDCアースでなら……この進む先にあるのは楽しい屋台。
 焼きそばやら、じゃがバターやら、りんご飴やらの美味しそうな香りが立ち込めているだろう。

「いくらカクリヨと言っても……私の|知り合い《被害者》たちはいないでしょうし……」
 いわゆる現世という言葉と幽世という言葉は多くの存在の中で対になっている。
 死者の国、と呼ぶものもいるが……猟兵から見れば妖怪達の世界、と他の世界と並列されている。

 だが。
 この言葉に"何か"を感じたなら、それは猟兵もまた"そんな理の話を持つ"世界を歩いた者の一人である、
 ということ。
 真偽なんて些細なこと、死者への想いは加速するものだ。

 ――しばらく周囲から隠れながら呪物の反応を探しましょうか。
 想いは乗り越えている。
 だから、そっと。胸にしまって考えを巡らせて歩くことにする。

 境内から"帰る"道程の最初は階段。
 一段、一段……と下るたび。
 その姿は薄く、透明になっていく。
 ユーベルコード――|凶劇ノ呪纏・与奪《ノロイマトイ・ラヴィジェルド》の力。

 自ら呪いを纏い、目から見えず。匂いを残さず。
 神隠しでたどり着く、と言われる幽世で――自ら、神から隠れる。

 ただ――纏う呪いに触れられた際に及ぼす力もある。
 身を隠す、という面……今の状態ではデメリットだろう。
 希雪は油断なく、調査を開始する。

「|おかしいもの《呪物》があれば金羽の髪飾が探知してくれるでしょうし――」
 そっと、指で髪飾りを撫でる。
 生体反応を感知する髪飾り……ここは幽世。
 追跡する痕跡が"生体だった"ものならば……より強く反応するのは明らかだ。

「もしかしたらサイコロに関連する何かも見つかるかもしれません」
 周囲を注視して歩く。

 裏返しの文字の屋台。
 まるで串に刺さった人の指のようなソーセージが焼かれ、血糊のようにケチャップがかけられている。

 虚無が泳ぐ金魚すくい。
 金魚はいない。ただ水面を……何かが泳いでいる。
 もやもやした影のような男が、もやもやした小さな影に話しかけている。
「金魚、金魚……"すくえ"ますか……」

「にしても、縁日なんて久しぶりだな……。
 |こうなって《呪われて》からは来たことないから何年間来てないのかわからないけど……」
 不可解な縁日モドキを見て、少しだけ笑みを零す。
 なんとも不穏で、なんとも……怖い縁日、妖怪の縁日、神隠しで連れて行かれる祭り。
 想像するそれらと"ぴったり"噛み合う景色。

 ――急ぐことなくのんびりと……。

 外れた祭り囃子に足並みを合わせる。
 眺めた屋台のお面は裏表が逆だ。

 逆――。
 影が歩いているのも逆。

 亡くした友達の事を少しだけ思えば……気づく。
 あの世の物は左右を逆にしたり、裏表にする。

 ああ!と……心の中で静かに手を叩く。
 ここは正確な死後の世界ではなく、妖怪たちが「死後の世界」を再現した空間。

 そのとき。

 ――反応、ですか。
 希雪は髪飾りに触れる。
 屋台の裏の茂みの中、うっすらと生体反応の残滓。
 言い方を変えよう――存在自体が"生きていると信じている"からこそ残る、残滓を感知した。

 静かに、周りの影達に触れないように、茂みへと向かう。
 それは、手記のようなものだった。
 彼女は手に取り、中を見る。

『占い遊びの流行、相次ぐ小学生の失踪――その繋がりは?』
 古い新聞の切り抜き。スポーツ新聞のようだ。
 小学校での降霊術……いわゆるこっくりさんなどの流行と、
 その当時に小学生の失踪事件が多発した事の繋がりをセンセーショナルに書いたもの。

「UDCアースで儀式を行えば――来てしまう」
 記事を読みながら、希雪は呟く。
 邪神やUDCは……信仰やウワサを餌に育ち、姿を見せることが多い。
 多くの子供がそれを信じ、遊びという名の"儀式"を行えば……失踪に間違いなく繋がる。

 そこに添えられたメモのような文字。
『信じていなかったからこそ止められなかった』
『今なら分かる、出来る』

 ……スーツの男の言葉だと、すぐに分かる。

「やっぱり、呪物と関係がある……みたいですね」
 そしてもう一枚。
 これはUDC組織で見られる、呪具の管理の手法を記した書類の一部。

「これは――!」
 呪具の名はウシロサマ。
 形はサイコロ……UDCウシロサマの力が宿ったもの。
 儀式を行った存在の持つサイコロと突然入れ替わる。
 サイコロを使った占いの結果を現実にする改変能力――この先はない。

「ここまでしか分からない、ですね。
 呪物の力とこの場所の繋がりが、まだ――」
 そ、と書類と新聞の切り抜きを懐に居れ、茂みから戻れば……。

 そこは、屋台もなくなった、参道の"始まりの場所"。
 視界の中には、目的の存在。
 骨の妖怪がうめき声を上げている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友

第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
自身が悪霊の塊だとは黙ってた人。たぶん、ただの多重人格とか言った

さてまあ…こういうところを抜けるのは『私』でしてー。
縁日といえば、わりとめでたいものだと思うのですが…はて?どうしてこのように不穏な感じになってるのですかねー?「呪物」の影響でしょうか?
屋台の人がいましたら、その人に聞いてみましょうか。情報収集ですよー。

まあ本来、『私たち』はこういう不穏な感じこそ、相性がよくて居心地がいいのですがねー?



 境内で彼"ら"を見送るグリモア猟兵が、言葉もなく震えている。
 話に聞くには義透は多重人格、一人で"皆"と協力しているそうだ。
 すごいな、一人で百人力?四人力?
 ちがう……直感が言う。オバケセンサーで全身が膨らむ。
 ――たぶん、あのあんちゃんは――。
 何も考えなかった事にして、行きから怖い、帰りも怖い巨鳥は顔を羽に埋めた。

 境内。
 ふわり、と生ぬるい風が吹き抜けた。トン、と踏み出して男は呟く。
「さてまあ……こういうところを抜けるのは『私』でしてー」
 義透の"義"――『疾き者』が辺りを見回す。

 それは、知っている景色。縁日、祭りの日。
 ――とは少し違う。
 聞こえてくる祭り囃子は、音が外れている。
 っしょわ、っしょわ、なんて掛け声が混じる。

 提灯の祭の文字は逆さま。

「縁日といえば、わりとめでたいものだと思うのですが……はて?」
 義透、いや義紘は顎に手を当てて呟く。

「どうしてこのように不穏な感じになってるのですかねー?「呪物」の影響でしょうか?」

 不穏と言える確かな理由も、齢50歳の忍者にはハッキリと浮かぶ。
 いや、そもそも悪霊――そういう者なら、当たり前、かもしれない。
 UDCアースやカクリヨファンタズムに見られる文化の中で
 『死後の世界は、左右が反転していたり表裏が逆』という物がある。
 死に装束の合わせが逆なのが良い例だ。
 こちらの世、とあちらの世、あの世。

「文言は『あちらへ』でしたねー。呪物であの世へ……いやぁ、それでは普通すぎますかねー」
 逆さまの祭の文字を見上げて、境内から階段を降りていく。
 目的地はその屋台の終わる所――屋台が始まる所。

 ある意味にぎやかな世界が広がっている。
 屋台の人影から、小さな人影が何かを買っていたり。
 人影同士が手を繋いでいたり……お化け屋敷の縁日、と言った賑わい。

「おや――話せそう、な気がしますねー」
 ちょうど、客らしき人影が去ったりんご飴屋がある。

「ちょいとすみません、これを――」
 話しかける前に、被せるように影が喋る。

「三文!」

「ええ、かしこまりました」
 少し微笑んでしまう。想定通りの答えだ。
 だが、ちょうど懐で握っていたのはUDCアースの小銭。
 五円玉をチョイ、と見せる。

「三文はございませんが、それではこちらの五円――」
 このエリアの不穏さや空気感に合わせた気遣い。
 忍者は仕える身、機転も抜群なのだ。

「五円は、ございません」
 手渡さず、胸元にしまう。

 影は極めて嬉しそうに微笑んだ……ように見える。

「縁がねぇんじゃァしかたない、そりゃぁ、飴も渡さないとなァ」
 と――虫食いデザインのりんご飴を、屋台の影が手渡してくる。
 
 義紘が続けて話しかける。
「それで――ちょいとお伺いしたいことがございましてー」

「なんだィ」
 飴売りの影がまた、ニヤリと微笑んだ気がした。

「連れの者とはぐれてしまいまして。
 それがなんと、骨になってしまったそうで。人相が分からないんですよー」

「おっと、骨になっちまったと。
 そりゃあ良いことじゃァないか、おにいさん。ついさっき、来たぜェ。
 んだけど、その骨も人探しだぜ?
 子供を探してるそうだ。女の子と男の子……。
 話を聞いたがねェ、そりゃあ賽の河原で石でも積んでんじゃねぇかと教えてやったがよ」

 義紘が少しだけ眉を垂れて言葉を返す。

「死人探しですかね……?いやぁ、祭で出会って意気投合、酒を飲んだくらいの仲なんですよー。
 見失ってしまいまして、追いかけたら、こちらで」

「いんやぁ、こちらじゃねェ。あちら、だぜェ。なるほどなァ、そいつは残念だ。
 先生、だってなァ。今は別の仕事だが、何だか悪いことをしてでも……生徒を探してんだってよォ。
 にいちゃんも見つけたら話でも聞いてやんなよ、後悔やら怨念があるとよォ、ホトケさんになれねぇ。
 彷徨っちまうかもしれねェからなァ!」

「おや、それは大変ですね。それでは急いで探しに参りましょう」
 表情も顔色もそのままで、義紘が答える。

「待ってくれ、もうちょっとだけ」
 影が言う。
 情報収集の力を高めるユーベルコード、四悪霊・『改』の力か。
 義透達の纏う想いかもしれない。

「神隠しで辿り着いたら、まるであの世ってのはァ驚くだろ。そういう感情ってのは……助かるんだけどよォ。
 骨の旦那は、何にも感じてねえ感じだった。あっしらの腹も膨れねえ、どっちも良くねえ事なんだ。
 落としてった紙切れがあんぜ――もってきな、まるでオレもホトケ様、なんてな。
 じゃあな、おにいさん」

「これは――」
 言葉を言い切る前に、ふわり、と生ぬるい風と共に屋台の主は姿を消した。

 手元に残った一枚の新聞の切り抜き。
『小学生が失踪』
 ――流行の占いをしていた小学生が失踪した話。それを理由に担任だった男性教師は学校を辞めた。
 ――学校で流行っていた占いには精神に悪影響があるのでは?止めなかった責任が担任にあるのでは?

「そうですか……感謝しますよ、少し分かりましたねー」

 此処に来たスーツの男、は恐らく……その教師だろう。
 妖怪は結びつきの在るもの、に敏感だ。手渡したこれが、意味のあることは間違いない。

「たとえ死んでもやらなければならない事は――皆、あるものですからね」
 穏やかな声で呟いて、懐に記事をしまう。

 その時――景色が一気にスライドする。
 縁日が一気に流れていき……眼の前に広がるのは参道の入り口。

 この場所が、この場所の存在が、猟兵を誘うように。

 義透の前には、苦しむ骨の妖怪が一人。
 その胸でサイコロが輝いているのが見える。

大成功 🔵​🔵​🔵​

午堂・七緒
◆閻天
今日はオフでカクリヨには来るつもりでしたが…
あめさんの勇気に免じて異物回収といきましょうか
…なんですかほしの、その生ぬるい視線は

さて、確かに現世のそれより地獄のものに近い不穏な店が多いですね
営業許可証は…いえ、今日はその辺の事は同僚に任せるとして、現世の迷い人の痕跡を探しましょう

方針:ほしのに付き合い(ツッコミ)ながら痕跡を探す

【狂気耐性・呪詛耐性・環境耐性・世界知識】で違和感がないか【気配感知・見切り】つつ進みましょう

予知からすると、男性はおまじない…呪物の合言葉を知っていた訳で
「声」は少女のもののみという事は、その関係者?
いずれにしろ因果運命を変えるような物は放っておけない訳ですが


吉浜・ほしの
◆閻天
七緒がオフだから屋台巡りのつもりだったけど、まあこれはこれで!
おー?真面目鬼の七緒もちょっとは融通が利くようになってきたのかな?
ほしのさん、ちょっとほっこり…あ、いたた脇はダメだって

方針:屋台を冷かしながら情報収集

さーて、いっちょ制覇していきますか!
あ、ほどほどにはするよ、大丈夫だって、その呆れた眼はやめて?

【道術・占星術・失せ物探し】で手がかりがありそうな店や場所に目星をつけて
【コミュ力・応用力・狂気耐性・勝負勘】で聞き込んでいこう

七緒はよく考えるなあ
ようはコレ、コックリさんと似た系統でしょ?
「声」が子供の頃のものだとしたら、男性は生き残りで合言葉を知ってたとか
や、ただのカンだけどさ



「……今日はオフでカクリヨには来るつもりでしたが……」
 七緒が、ふぅ、と小さく息を吐き出して振り返る。

 ベースから皆を送り届けたグリモア猟兵は、境内の隅……だと怖いのでド真ん中で丸くなって震えている。

「七緒がオフだから屋台巡りのつもりだったけど、まあこれはこれで!」
 七緒の顔を横から覗き込むように、ほしのが笑顔で肩に手をかける。
 ――へぇ……こういう感じ苦手なんだ、とクスっと笑って奥の羽毛玉を見つめた後、視線を七緒に戻す。

「あめさんの勇気に免じて異物回収といきましょうか」
 仕方ないですね、という保護者めいた顔。
 当の本人は皆の帰還のための準備で待機してるぜ、なんて言っているが直行直帰希望の様子である……。

「おー?」
 ほしのの声色が少しだけ高くなる。楽しそうな声。

「なんです……?」
 素っ頓狂な反応に、バシっとしたお役所顔に戻って首を傾げる。

「面目鬼の七緒もちょっとは融通が利くようになってきたのかな?」
 にへ、とゆるい笑顔を作ったほしのが、首を同じ様に傾けて目を合わせてくる。

「……なんですかほしの、その生ぬるい視線は」
 分かりやすくムっとした顔で、肘をほしのの脇腹にグリグリと押し付ける。

「ほしのさん、ちょっとほっこり……あ、いたた、脇はダメだって」
 眉を垂れて笑いながら、ぴょんと跳ねて七緒から少しだけ離れる。

 いわゆる真面目一点の彼女が呆れたり、柔らかい顔をするのを見て|安心した《たのしくなってきた》、
 そんな天狗的な気まぐれかもしれない。
 この不穏な雰囲気の中でも、穏やかで明るい空気が満ちている。

 ――遠くで震えるグリモア猟兵がチラ、と二人の背中を見ながら疑問符を浮かべる。
 UDCアースでクレープを食べながらふざけて歩く、制服の学生と姿が被って見えたから。
 ……やっぱり妹さん……なんじゃ……?ということは、ほしのサンはねーちゃんなのか……?

「ほら……行きますよ、ほしの」

「おー!楽しんでいこー!」

 陰鬱とし、生ぬるい風が吹き抜ける……所謂、神隠しの先の"あの世"を模した縁日。
 魑魅魍魎と怪しい屋台が溢れる参道。
 ゴキゲンで楽しげな声と、少しだけ肩の力を抜いた真面目な声が歩きだした。

 とん、とん!と階段を小走りに降りていくほしのの背を見ながら、少しだけ早足で階段を降りる七緒。
 なんだかんだ言っても、真面目なのは間違いがない。

 こういった案件、プロもプロなのだ。
 大丈夫と感じたり明るい気持ちになるのは狂気による影響の可能性、
 何かの行動で起動するする仕込まれた呪詛、
 もちろん吸い込むだけで眠りに誘ったり異界へ誘う環境もある――

「分かりやすいくらい、やりすぎあの世って構成ですね……」
 これもプロの目。
 そもそも、そういうお役所のお仕事をしているのだ。

 提灯の祭りの文字が逆さま――遠くに見える看板や、横を抜けていった人影の鼻緒が切れていたり。
 いわゆるUDCアースで噂になる死後の世界へ迷い込む話、の再現に見える世界の像。

 チラ、と先を行く天狗の背中を見る。
 彼女の在り方、もそういった声に応える部分がある。
 妖怪や怪異、眷属や八百万……。
 神隠しのあの世の縁日に"在る"ことで感情を集めている物たちの家みたいなものなのだろうか。

 世界知識は、空間を正確に捉えていた。

「七緒~!おいてっちゃうよー?」
 難しい顔をしながら階段を降りてくる七緒に、笑顔で手を振る。

「縁日には来ましたが、縁日と言うわけではなく仕事なんですから――」

「さーて、いっちょ制覇していきますか!」
 言い終わる前に、ほしのが屋台へと走っていく。

 気づけば階段は終わり……暗くて明るい屋台が立ち並ぶ参道に居る。
 文字が鏡文字だったりすることを除けばUDCアースと変わらない店の名前。
 読めない文字、のが狂気を誘う。違和感、怖い、不思議……分かることでの、おどろかし。
 そういう部分に妖怪達の思惑……というのがあるのだろう。

 いや……この屋台はちゃんとしているのだろうか?
「営業許可証は……?」
 ぴき、とお役所顔が戻る、が振り払う。
「いえ、今日はその辺の事は同僚に任せるとして……現世の迷人をの痕跡を探しましょう」
 きちんとメモには残す。
 きっと――後でこの場所にも監査がやってくる……。

 顔をあげれば、ほしのはもう屋台の中。

「それじゃ、一回!」
 ほしのの声が聞こえる屋台に、七緒が駆け寄る。
 そこは――金魚すくい。

「ほら、じゃ、この椀に……これで"すくって"くださいねえ」
 もやもやした人影が、ほしのに器とポイを渡す。

「うん――発想が斬新だよね」
 虚無――水が流れ、エアレーションされた金魚すくいの屋台のプールには赤色も黒色も白色も無い。
 金魚は……1匹も居ない――。

「でも、こういうトコ、怪異のお店っぽくて良いと思うんだ」
 何も居ない水を見下ろすほしのの目が、獲物を狙う猟犬の目に変わる。

 邪神が生み出す理解を拒む狂気ではない。
 狂気に抗うのは、触れてはいけない狂気だからだ。
 これは狂気ではなく、怪異の遊び。
 こんな時は安全にその術中に居ることが妖怪や怪異のコミュニケーションだ。

「ほしの、何か見えて――」
 追いついた七緒が見下ろした金魚すくいのプール。やっぱり何も居ない。
 が。

「ん」
 二人の声が重なる。

 水面に波紋がある。
 動いている――!

「みっけた!」
 これに気づくこと。これも勝負勘の1つ。
 ほしのが動く。
 音もなく、斜めに水に滑り込んだポイが何かをすくいあげる。

 透明な何かを椀にぽちゃり、と入れれば波紋が広がり――淡い光になって浮かんで消えた。

「おひとり、おすくいになりました」
 店主の影が穏やかな声をかける。

「そっかー、おひとりかー。
 そうだ、おばちゃんさ、スーツ来た骨のおじさん、って見なかったかな?」
 嬉しそうに微笑んでから、自然に物を尋ねる。
 怪異同士の貸し借り、みたいなもの。おばちゃんと呼ばれた黒い影は、優しい声で答える。

「そうですねぇ。金魚より、先におすくい頂くほうがよろしいですね。
 その旦那様は、失せ人を探しておられます。
 後悔していらっしゃった……あの世にいけず、現世で縛られてしまった者たちと同じくらい」

「奥さんとか友達なのかな、ほしのさん、その骨のおじさん関係の心配事解決にここに来たんだ」
「私達はそのような者です」
 七緒が横に並んで頭を下げる。

「それはそれは。
 生徒だとおっしゃっていました。学校の先生とのことで……。
 ご自身の教え子だそうです、助けれれず消えてしまった2人がこの場所を彷徨っているのでは、と」

 ――ほしのが、出発前に七緒とした話を思い出す。

「予知からすると、男性はおまじない……呪物の合言葉を知っていた訳で――。
 声は少女のもののみという事は、その関係者……?」

「七緒はよく考えるなぁ」

「っても、ようはコレ、コックリさんと似た系統でしょ?」

「ええ、間違いないと思います。
 現世で流行していた降霊術の類、時期的にはUDCアースで数十年前程度にしばしば見られたもので……」

「長くなるやつでしょー、分かった分かった。
 声が子供の頃のものだとしたら、男性は生き残りで合言葉を知ってたとか?」

「なるほど――確かに。予知の声は一人だけでしたし……声は少女のもののみ……その関係者が男性――」

「や、ただのカンだけどさ!」

「いずれにしろ因果運命を変えるような物は放っておけない訳ですが」

「占いが本当になっちゃう、なんてのはよくある妖怪のイタズラだけど……。
 これ、その妖怪を呼ばなくても、呪物が使えたでしょ。
 違和感、なんだよねー」

「……ほしのは、そういうところ鋭いですね。妖怪や怪異の仕業ではない、と」

「カンだよ。言い切れない。でもこれ――」

「邪神案件ですか……」

 七緒もまた、その話を思い出していた。
 二人で顔を見合わせて頷く。

「関係者、だったねぇ。片側の男の子の方がスーツさんかと思ったんだけどなぁ。先生、か」
 お気楽な顔が少し曇る。武芸の道にも在る幼子の守り手……気持ちの察しがつく。

「そう、ですね……。その後に失踪したか、その場で消えたかは分かりませんが……事件を見てしまった。
 その後悔で幽世まで彷徨いに来てしまったのでしょうか……」

 その時、店主の影が口を開く。
「お二人のように、皆が心を痛めたのです。ここは私達が存在するための神隠しのお祭り。
 この場所への不安や恐怖、驚き、はたまた楽しむ感情が欲しい。
 彼の後悔や不安の感情は……私達をつなぎとめてくれません。
 後悔や迷い、不安を共に抱えるため自らへと誘う、がしゃどくろさんも心配されていまして。
 成仏を選ばず嘆くことを許す妖怪ですから、
 早とちりして、皆さんと話す前に何かしてしまっているやもしれません」

「あー。そういうこと。
 あるよね、そういうこと。」
 ほしのがポン、と手を打つ。
 チラ、と七緒の顔を覗く。

「そうですね、あり……ありません。
 そういうことがないように、ほしのが言う真面目に、お仕事しています」
 ふんす、と息を吐いてほしのの顔を見返す。

「それじゃ、次行こうか。
 おばちゃん、ありがとねー!」
 ほしのが明るい声で微笑めば、ゆるやかに影は頭を下げたように見える。
 七緒も頭を下げて返す。

「さーて!次はー!」
 辺りの屋台を見回す。

「あの、ほしの――」

「あ、ほどほどにはするよ、大丈夫だって、その呆れた眼はやめて?」

「いえ、まぁ、その……」
 情報も完全ではない。
 まだ調べたほうが良いかもしれない。
 ほしののやり方のほうが、話は聞けそうだ。少し……肩の力を抜いても良いだろうか。

「んー?」
 心の中を見るような笑顔が、ほしのから返ってきた。

 ――何件か歩けば、教師が教え子を探しに来た。自ら、あの世に来てまで……と分かる。
 妖怪の神隠しではなく、邪神の片鱗での生死反転……彼が帰れないことも分かる。

 ……歩みの先、たどり着くのは参道の入り口。
 叫ぶがしゃどくろの中にはサイコロ。

 二人の術は、その中に教師の男性を捉えている。
 話も出来そうだ。

 今の問題は、あの|呪物だ《サイコロ》。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カネリ・カルティエ
危険な呪物、ですか。それは是非、拝見したいですね。まずはカクリヨの参道で情報収集を行いましょうか。

SSW出身なので、縁日の屋台で買い物をするのは初めてですね。お金はUDCのもので良いのでしょうか。
りんご飴をひとつ頂きましょう。こちらはお持ち帰りで。ヨモツヘグイだと困りますから。
屋台の人影に質問ができそうであれば、
「人を探しているのですが、スーツの男性がこちらに走って来ませんでしたか?」
また、サイコロと紫の光についても聞ければ。
技能【催眠術・言いくるめ・失せ物探し】使用。
相手の反応を見て様子がおかしい場合は深追いせず次へ。

不審な者・物をみつけた場合は
【地形の利用・闇に紛れる・追跡】で追います。



「危険な呪物、ですか。それは是非、拝見したいですね」
 ローブを風にゆらしながら、ふわりと歩み始めるのはカネリ。

 あらゆる世界の呪具を集める――UDCアースから流れ着いた呪具ならば期待は大きい。
 あの世界由来の呪具は癖が強い。
 単純な死や呪いではなく、複雑な結果や過程、儀式や封印がついてまわる。
 そもそも、エージェントなのだ。
 "集める"ことも仕事の1つ。

 ぼう、と揺らめく手元のランタンが道の先を照らしている。

 とろりと1歩を進めれば、面を片手で触りながら思案する。

 ――まずは参道での情報収集を行いましょうか。

 今居るのは、神社の境内。
 そこから下り、参道を遡って屋台の前を抜けていく、のが伝えられた予知のルート。

 UDCアースで言えば|宇宙《そら》から来た存在のカネリには、縁日を――楽しむ、と言って良いのだろうか?
 ともかく、縁日での買い物は初めてである。
 階段を下りながら、思案を続ける。
 ここはカクリヨである。
 ――お金はUDCのもので良いのでしょうか。

 呪術的な知識から考えると、UDCアースの存在との繋がりが色濃く、古代からの儀式や呪術には同一のお金が使われていた気がする。
 星々の共通通貨とはニュアンスが違うが、隣り合う文化圏の同じ星、と考えるのが正解そうだ。

 その手で揺れるランタンの光が、この空間自体に歓迎されるように明るすぎず、暗すぎず美しく揺れている。
 吹き抜けていく生ぬるい風が、まるでその明かりに喜んでいるかのごとく周囲で踊る。

 参道を逆に進めば、違和感のある灯籠が並び、後ろ向きに歩いているように見える人影とすれ違って。
 ふと気づけば、階段が終わる。
 目の前に広がるのは屋台と揺らめき歩く影たち。

 もちろん、周囲の看板を読むことはできる。
 鏡文字である、ということを除けば正しくUDCアースの言葉だ。
 その中に、りんご飴、の文字を見た。

「りんご飴をひとつ頂きましょう」
 屋台に近づくことなく、小さな声で呟いたはず。
 が――眼の前には屋台がある。
 突然現れた店主も嬉しそうな顔で微笑んでいる"ような気がする"。

「はァイ、かしこまりましたよォ」
 並んでいるのは林檎。
 人影の店主の手元には木の棒。
 思い切り棒を突き刺せば……まるでりんご飴の形。
 林檎に空いた穴からは虫のような何かがするり……と這い出して消える。
 人影がそれを一振りすると……つややかにコーティングされた、虫食いりんご飴の完成だ。

「代金は十分ですねェ」
 嬉しそうな声だ。その風貌がこの場所の妖怪には好ましい、そんな声だ。

「はて――それでは、こちらはお持ち帰りで」
 おや、と小首をかしげて飴を受け取る。
 虫食い林檎、というデザインが奇抜なだけで、しっかりと美味しそうな飴。

「――ヨモツヘグイだと困りますから」
 柔らかく言葉を付け加える。
 UDCアース由来ならば、死者の国の食べ物を食べる、ということは死者の国の存在になる、という話もあり得る話。
 呪術やUDCを知る探索者である以上、この選択は的確だ。

 その言葉にりんご飴屋の店主が豪快な笑い声をあげる。

「はっはっは、そう言ってもらえるのは嬉しいですねェ。それに……お客さんの明かりも良い。
 その面も素晴らしい。あっしらの祭りを楽しんでくれる装束だ。
 それに、ヨモツヘグイだなんて言われちまったら、そりゃぁ十分にあっしらを認めてくれてる事になりやすよ」
 心なしか、影のゆらめきが大きい。
 感情や元気のバロメーターみたいなものかもしれない。

「それはそれは。人を探しているのですが、スーツの男性がこちらに走って来ませんでしたか?」

 尋ねれば影は機嫌よく答える。

「ああ、走って行くというよりも、あっしのところに来やしたね。
 少女と少年、お弟子さんか何かを探してるみたいでねェ。あっしらはそのお弟子さんは知りませんぜ。
 そう伝えたら、慌てて走って行きやしたね」
 あの方向だ、と言わんばかりに影が指差しする。

「なるほど、ありがとうございます。そうですね、もう一つよろしいでしょうか?
 紫色に光るサイコロをご存知ありませんか?」
 不穏な雰囲気。
 この場の存在に合わせたような空気感を纏う。
 催眠術、といえば催眠術。
 言いくるめ、といえば言いくるめ。
 カネリの纏う空気に、店主が飲まれた。
 ――親近感が強く溢れてくる。
 だから、つい、頼りたくなる。

「ああァ、その人が手に握ってたけどなァ。骨だったし隙間から落ちてねぇといいが……。
 ありゃぁヤバい道具だね。あっしらがどうこうするものではないが、嫌な感じがするのは違いねえ。
 あと――こいつを落としてったぜ」
 店主の影が力なく左右に揺れる。
 紙切れを渡すつもりはなかった。
 だが……空気に飲まれた人影は、カネリに頼る。

 渡された紙は――UDCエージェントたるカネリには一発で分かるもの。
 それは、UDC組織の管理手法の書類の一部。失せ物は出てくるものだ。

 その呪物の名前は『ウシロサマ』。
 発生は、ウシロサマと呼ばれた占い。
 一時期、子供たちに流行し繰り返された結果、同名の邪神『ウシロサマ』が発生した。

 占いの手法はウシロサマ、ウシロサマ教えてください、と唱えてサイコロを転がす。
 で、奇数ならイエス、偶数ならノーだ、という占い。
 占いに不満があれば『あちらへ』と一言呟いて、机に置いたサイコロをひっくり返す。
 すると結果が反対になる、というもの。
 邪神発生以後、占いの最中にサイコロが紫の光を帯びた場合、
 占いの結果に沿った現実改変を引き起こすようになった。
 3の面をひっくり返すと4になる為、死を招くというウワサがあったが、
 邪神がそのウワサも取り込んだ為3の面を反転した者は死ぬ。
 発生したサイコロは以後、ウシロサマ占いを現実にする力を持つ。
 また儀式関係なく、転がした当サイコロを3から4に反転させた者は死ぬ。

 書類は千切れ、ここまでしか把握は出来ない。
 しかし……多くの情報が集まった。
 この書類を持っているスーツの男。
 カネリは、スーツの男がUDC組織に所属した元教員。
 教職の頃にUDC事件に巻き込まれ教え子を失った存在だと理解した。

「ありがとうございます。これは、とても助かります」
 ゆら、とランタンの光がちょうどよく面に影を作り出し、言葉に深みを与える。

 店主は静かに頭を下げると、静かに姿を消した。そう、するべきだと思ったのだろう。

「他に不審なものは――」
 見渡すと、世界が揺らぐ。
 もう隠れる必要も追跡する必要もない。
 それは――この場所が望んだように。
 伝えることは終わった、というように……屋台が消え、場所がズレていく。

 眼の前には、苦しむ骸骨の妖怪が立っていた。
 その肋骨の中、紫色のサイコロが輝いている。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『骸を萃める者『がしゃどくろ』』

POW   :    がしゃり、がしゃり
【さまざまな骨片】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    がらり、がらり
自身の【身体を構成する骨】を代償に、【生み出した大小さまざまな骨牙兵達】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【頑丈な骨の武器】で戦う。
WIZ   :    がらん、がらん
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【内に集めた骸に蓄積された亡者の記憶】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。

イラスト:猫背

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ファン・ティンタンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 皆の前で苦しむのは、がしゃどくろ。

「救われた、助かった、暖かい、前向きに――」

 怨念や後悔で集まった集合体のような妖怪。同じ感情を持つものを身体に取り込んでいく。
 そんなものがこんな言葉を吐くはずがない。

 一箇所……身体の中にスーツの破片を纏う骨が見える。

 猟兵達は皆の情報を交換する時間がある。
 彼がどんな人物か――きっと、皆が理解しているだろう。

「オオオオ……オ……アアア!」

 がしゃどくろの目から青紫の炎がボゥ……と漏れる。
 胸元のサイコロが強く輝く。

 アレさえ身体から取り除ければ、がしゃどくろが消滅することはない。
 例えそれが悪霊に近かろうが、そう在ることで回る世界もある。
 ポジティブに前に歩くのも歩き方だ。
 だが、ネガティブに後ろを向いて後ずされば前に進む。

 間違いなく、あのサイコロが根源だ。
 あれを回収するのが任務。

 妖怪たちは身体も強い。一度張り倒して動きを止めても問題ない。

 ――この妖怪は、取り込んだ者の記憶を持つ……。
 スーツの男……UDC組織からサイコロを持ち出して、命を賭して教え子を救うか、謝ろうとした男。
 話し、正しき終へ導くことが出来るのは猟兵達でもある。

 ――どうか、良い"未来"を。
白霧・希雪
あれが原因となったサイコロですか…
私の力でどうにかしたい気持ちもありますが、ここは動きを止めることに専念しておきましょう。
あのサイコロは邪神の力と寄り集まった使用者の集合意識で動いているモノ…なら私の力で抑えることはできる。
UC発動

骸骨は昔の私とよく似ている…全ての責任を背負い込んで、独りでどうにかしようともがいている。
その生徒を会った後のことを想像していない。
それじゃあ、誰にとっても良く無いことしか起こらない。

私にとっての師匠のように…あの骸骨の目を覚まさせる存在が必要なんだ。

その生徒たちがどんな気持ちで現世を渡ったのかは分かりませんが、あなたにまで同じ道を歩んでほしいとは思っていませんよ。



 動く巨大な骨の妖怪――その眼孔からは紫を帯びた青い光が揺らめく。
 がしゃどくろはカラカラと音を立てながら、その身体を希雪に向ける。

 肋骨の隙間から溢れ出る光は紫。
 ハッキリと呪物――サイコロを目視できる。

「あれが原因となったサイコロですか……」
 任務としては単純な話。
 眼の前のがしゃどくろを戦闘不能にし、影響を及ぼしていたサイコロを回収するだけのこと。
 もう一つの任務、呪物の情報もほぼ集まっている。

 集まっているからこそ。

「私の力でどうにかしたい気持ちもありますが――」
 思うことが沢山ある。
 それが、骸の海より滲み出した過去をなぞるバケモノ、というなら大きな気持ちの揺れは生まれない。

 知ってしまえば、そこから先は"考え感じる"事だ。
 ――今、あのがしゃどくろの中に居るはずの彼を救うことは、贖罪足り得るのだろうか。

「ここは動きを止めることに専念しておきましょう」
 いわゆる怨念や後悔、悪霊やら未練を持つ魂を取り込んで肥大化していくという理の妖怪。
 本来なら陰鬱な雰囲気やおどろおどろしい空気が周囲に溢れる、が。

 見れば見るほど――それは、アックス&ウィザーズで動く骨のバケモノのようで。
 幽世たるこの場所の妖怪、としてはあまりにも趣がない。
 がたり、と踏み出し希雪目掛けて走り出す姿も、安易なパニック映画のよう。

「あのサイコロは邪神の力と寄り集まった使用者の集合意識で動いているモノ……、 
 なら私の力で抑えることはできる」

 あの"サイコロ"。
 抑えるのは、半ば傀儡のように動かされているがしゃどくろ――達ではない。

 呪物自体の成り立ちを考える。
 遊び半分の占いが呼び寄せた邪神の力が宿るもの。
 邪神は信者をリソースにする――つまり、邪神の力の根源には使用者の意識や心が取り込まれている。
 ならば、"人として"理解できない、するべきではない邪神の思いや精神、呪いだけの呪物ではない。
 それは、介入する余地があるということを示している。

「干渉します――いかなる占いも、事象の反転も――自分で為すものです」

 |与奪粛声《ラヴィジェルド・コール》――!

 黒き呪いの炎が希雪の周りで静かに灯る。

 彼女は、自らの過去への贖罪として救済の翼を広げ、前へと進むもの。
 呪物の力があれば……やり直せる可能性すらある。
 死ななかった。呪いは無かった、と否定する事もできる。
 だが、それは選ばない。
 自分の歩みで、精算することが贖罪。
 自分で自分を罰し呪うこと――贖罪とは、きっとそういうものだ。
 だからこそ、黒き炎はより熱く、深く、漆黒に揺らめく。

 強い思いに呼び寄せられるように、黒き炎はがしゃどくろの胸目掛けて飛んでいく。
 この力は――呪いの炎で、魔力や強い感情で動く物の操作権を奪う力。

「――すく、われた――あれ……なんで、かなしかった――これで、いいのかな……」
 走り込んでくるがしゃどくろの周囲で柔らかな声がぽつりぽつりと響いている。
 しかし、その穏やかな雰囲気とは真逆に――豪快に振り上げた骨の腕が、希雪へと襲いかかる。

『がらん、がらん』とがしゃどくろの全身の骨が音を立てる。
 猟兵たる希雪は、感覚的に認識する。

「――ユーベルコード」
 あらゆる事象を成功させる一撃。
 その代償は、自身の存在を削ること。自らと共にある亡者たちの記憶をリソースに、何かを叶える力。
 亡者たちの記憶は後悔や怨念。憎しみ、呪い、苦しみ……嘆きの集合体。
 本来ならきっと……これこそが救済になる力。妖怪として……負の思いの精算をする力だろう。

 がしゃどくろの腕は、希雪の真横の地面に炸裂する。
 彼女は一歩も動いていない。

 足りて、いない。そのユーベルコードのリソースたる記憶が混濁し、迷い、力にならない。

 ……次の一撃も、次の一撃も。力の発動の片鱗は繰り返される。
 だが、彼女はしっかりと視ていた。
 振り上げない左腕は……必ず、自身の肋の中へと向かい、何かを引きずり出そうとしていることを。

 その隙間から、希雪の呪いの炎が染み込んでいく。
 サイコロの紫の光を包むように、炎が燃え広がれば――がしゃどくろの動きが止まる。
 呪物を一時的に抑えている。

「骸骨は昔の私とよく似ている……全ての責任を背負い込んで、独りでどうにかしようともがいている」
 その言葉は、がしゃどくろに向けられた言葉かもしれない。
 ――骨となってこの場所に辿り着き、過去の後悔への贖罪を望む一人の男性教師への言葉かもしれない。

「あなたは、その生徒と会った後のことを想像していません」

 そんな事、お前には分からない!……そんな叫びが返ってくる場面。
 それが……悲しい独りよがりの贖罪の話。
 けれど、彼女の言葉なら違う。
 放たれた呪いの炎に満ちる、焼け焦げそうなほど熱い思いは、彼に届いている。

「……救えるかもしれないと」
 がしゃどくろから、男の声が漏れる。

「――かもしれない」
 冷たく感じるような、鋭い言葉が男へと届く。
「それじゃあ、誰にとっても良く無いことしか起こらない」
 炎に想いを込めながら、動きを止めたがしゃどくろへと歩く。

 ――私にとっての師匠のように……あの骸骨の目を覚まさせる存在が必要なんだ。

「なら、どうしろというのだ!
 あの日から、ずっと――だからこそ、組織にも入り、似たような事件の犠牲者も防ごうと思った」
 がしゃどくろの瞳から漏れる光が、青紫から……水色の美しい光に変わる。

「何人助けても!私の前で消えた拓哉と――寄り添えず、力になれず。
 翌日に消えた美紀の二人を助けなかったことには変わりないんだ」
 ――希雪の歩む道の1つの答え。
 彼女の贖罪は、標を失えば同じ未来へと進む。

「そうですね。なら……"かもしれない"ではいけなかった」
 師匠なら、どう言うのだろう。
 どう、私の手を取ったのだろう。
 私の呪いで亡くなった友に……もし再会したら?
 どんな顔をする、どんな言葉をかける?

「救いに来た――そう答えられなかったのは、後悔です。
 後ろを見て、自分も"救いたい"という後悔です。
 今あなたと共にある大きな骨の中の人々と同じ心……だから、
 そのがしゃどくろが貴方を"救おう"としたのではないですか?」

 骨は答えない。
 燃える黒い炎がサイコロを焼き続ける。
 今……天邪鬼な嘘を話すことはない。

「その生徒たちがどんな気持ちで現世を渡ったのかは分かりませんが、
 あなたにまで同じ道を歩んでほしいとは思っていませんよ」

 男の思いに黒き炎が燃え移る。
 ――UDCの知識も対策も得た。同じことをすれば、同じ場所に行く可能性がある。
 ――あの二人がこの力由来で異界へと飛んだなら連れに行ける。
 ――救い出せるかもしれない、ダメでも……謝れる。伝えられなかった言葉をかけられる。
 ――二人を助けたい。だが……謝って許されたいと思う事から目を逸していた。

「――先生しか聞いてくれなかった。信じてくれなかった、と美紀はいなくなる前の日、笑ってくれた。
 あの後、何も出来なかった自分への……贖罪、か」

「ちゃんと、先生、出来ていますよ」
 優しく希雪が微笑めば、男はUDC組織の一員としての言葉を吐き出す。

「大きな迷惑をかけてしまったようだ。
 君の力が切れれば、また意識を失うだろう。
 このサイコロはUDC由来、そして人生の反転を望む魂がこの骨の中には多すぎる。
 擬似的な信者として、力を注いでしまう。
 だがきっと、救済を望んでいない。
 救済を望まず、ここで深く沈んで――落ち込む、呪う、憎むことを許されてから、このUDC……なのか?
 この、骨の存在の力で許され、消えるべきだ。
 必ず成功させる力のようだ、中にいるから分かる。
 ――機を見て、この私の記憶を骨に渡し、このサイコロの力を封じる。
 任務を」

 声が途切れ、呪いの炎が四散する。

「――わかりました」
 再び、炎を練る。

 組織の一人としての望み、先生としての望み、男の望みに向けて、闘いを続ける。
 希雪は、がしゃどくろも彼も"救いに来た"のだ。

 がしゃどくろの隙が大きくなった。猟兵達が出来ることが、大きく広がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

馬県・義透
引き続き『疾き者』にて
武器:漆黒風

『我ら』は、オブリビオンへの恨み、同日に受けた共通の致命傷、『外部認識』で固まってますがー…。

あの呪物を取り戻しませんと。
何があったとしても、一度は倒しませんと。
ということで、UC使用しつつ漆黒風を投擲していきましょうかねー。この狙いは外しませんよー。
そちらのは、戦闘知識からくる第六感で見切りつつ…四天霊障による風結界術にて受け止めるようにしましょう。大切な骨でしょうし。

あなたは、そのようになっても取り戻したかったのでしょうか。助けたかったのでしょうか。見つけたかったのでしょうか
物品の負の面の事は知っていたはずですから…知ってもなお、というところですかね?



「『我ら』は、オブリビオンへの恨み、同日に受けた共通の致命傷、『外部認識』で固まってますがー……」
 義透が、がしゃどくろへと足音無く歩きながら呟く。

 叫びを上げて暴れまわろうとしている、眼の前の骨で作られた巨躯も一人でないという点は近い。
 が、戦死者や弔われぬ孤独な亡骸が集って形を為したもの。
 無念や後悔、行き場のない思いの亡骸が、同じ嘆きに引き寄せられ妖怪と化した。
 人だけでなく、獣やオブリビオンすら取り込んだという話もある。
 体を作る骨達に強い共通点もなく、ただ――無念だけが集まり形を為したものなのだ。

 がしゃどくろの瞳から揺らぐ青色の炎が再び紫に変わりつつある。
 力の本流が起こり、その胸周り――肋骨の中でサイコロが強い光を放つのが見える。

 ――あの呪物を取り戻しませんと。

 トッ、と土を蹴れば小さな砂埃が残るのみ。
 駆け出した一陣の風は、あっとういまに敵の懐へと跳ぶ。

 がしゃどくろの周囲を円を描くように走りつつ、指に挟むのは棒手裏剣。
 致命傷――行動不能の一撃を放つため狙いを定めながら。

 第六感が訴える。
 連続攻撃が来る、隙は小さい――これは結界術で弾くべきだ。

 刹那、がしゃどくろの腕が何本もの小さな骨に分かれて、槍の雨のごとく降り注ぐ。

 ――大切な骨でしょうし。
 あの骨1つ1つが1人1人のようなもの。

 待ち構えるように、風がそれらを弾き、受け止める。
 四天霊障、『彼ら』4人の無念の集まりが結界を為し、
 意志の統一無き骨達の集まりの一撃を封じる。

 攻める好機、とは言いにくい。
 攻撃回数を増やし、隙を小さくした数多くの骨片での攻撃の合間に"一撃"を狙うのは最適解ではない。

 敵の大技を狙うため、加速して走り出す。
 戦闘知識で敵の姿を見上げれば、巨躯ならではの攻撃が想像できる。
 骨を射出するような小技ばかりではなく、
 その片腕を思い切り叩きつけるような、必殺の攻撃を持っているはずだ。

 ならば、と敵前方へと移動する。
 真正面、その全身を視界に収められる場所。
 無論、がしゃどくろの揺らめく炎の瞳からも、義透を見下ろせる場所。

『がしゃり、がしゃり』と――がしゃどくろの全身が軋みをあげる。
 両腕を高く上げ……組む。
 戦闘経験がその行動をまるでスローモーションのように捉える。
 間違いなく、振り下ろしが来る。

 隙を作るために、ギリギリまで引き付けようと――敢えてその場で待つ。

 すべて掌の上、予測と寸分変わるぬ行動。
 がしゃどくろは、義透の予測通りの位置に組んだ両腕を激しく叩きつけた。
 ゴオオンと、鈍い音が響き土煙が柱のように立ち上がる。

 だが――その僅か数cm横。
 義透の着物には土埃すらつかず。
 指に挟んだ棒手裏剣"漆黒風"を構えれば、一瞬、美しい緑の光を反射する。

「この狙いは外しませんよー」

 ――ユーベルコード、|四悪霊・風《シアクリョウガヒトリ・トノムラヨシツナ》。
 漆黒風の一撃が命中した箇所を破壊し――敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する大いなる力。

 がしゃどくろは、まさに大技の直後。
 その追加効果は、十全に発揮される。

 その軌跡を目で追うことはできなかった。

 義透が腕を払った次の瞬間、がしゃどくろの両足に棒手裏剣が突き刺さり。
 形作る骨を粉砕することなく、その結合のみを破壊する。

 がしゃん、と胴体から崩れ落ち……敵は今、動けなくなった。
 転がった足が、かしゃり、かしゃりと音を立てている。
 無論このような形の妖怪、部位の再生など当たり前。
 だが、致命的な一撃は次の再生を著しく遅らせ……その結合を弱くする。

 がしゃどくろの素早さを明確に削いだ。

「あなたは、そのようになっても取り戻したかったのでしょうか」
 義透がが問う。

 動けぬがしゃどくろの中の――スーツの男。教師がその問に答える。

「こうなるとは……考えても居なかった」
 自身を恥じるような、少し力のない声。

「いや――死ぬかもしれない、とは思っていた。
 だが……まるで地縛霊のように哀れみの目を向けられ、それら達に取り込まれるとは思っても居なかった」

 義透が続ける。
「――助けたかったのでしょうか。見つけたかったのでしょうか」

「助けたかった。連れて帰りたかった。例え、私も死んだとしても、一言救えなかった事を詫たかった」
 がしゃどくろの身体の中から、強い後悔の声が響く。

「見つけたかったさ、あの日からずっと。
 教員を辞め、組織にも入り、似たような案件の解決と向き合いながら、二人を探した」
 絞り出すような男の声。

「物品の負の面の事は知っていたはずですから……知ってもなお、というところですかね?

「なぁに、持ち出しも許されなければ使用も許されない。呪具自体、支部に封じられていた。
 その情報を得て――私は盗み出した。
 過去の後悔に決着をつけようと……愚かな独断で、ね。
 負の面……か、こうして私が――。
 "道徳や倫理に背いた"行動をとったのも、道具のせいに出来れば良かったがね」

 義透は穏やかな顔で、がしゃどくろの瞳の炎を見つめる。

「――まだ動けると、この身体が言っている。意識はまた消えるだろう。
 どうか、止めてくれ。呪物の力を消す案もある――。
 後悔と未練、聞いてくれてありがとう。二人に会ったら、伝え――」

 男の声が途切れる。
 蠢いていた骨が繋がり始め、また巨躯を地面から引き起こす。
 だが鈍く、先程までの力強さはない。

 呪物の引き離しの負荷を妖怪自体にも与えぬような正確な攻撃の結果だ。
 闘いは、有利に進んでいる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カネリ・カルティエ
呪物以外に興味はありません。
ガシャドクロからサイコロを取り出す、それが今回の目的です。

スーツの男性は別の方に任せるとして、ガシャドクロをどうにかしましょう。

地縛鎖を放ち、UC【黒き鎖】・技能【串刺し、傷口をえぐる】で攻撃。敵の頑丈な骨の武器による攻撃は【武器受け】で止めます。

事象を反転する呪具ですか。では死の衝動を与えたら前向きになるのでしょうか。
彼らは嘆きの集合体、でしょう。ちょっと試してみたいと思いませんか?(好奇心)
祭祀用刃物で自身を抉り流血沙汰を披露、UC発生条件を満たす。【死への願望】



 巨躯の動きは鈍り、大いなる力の予兆も見えない。

 力は削がれて見える。

 それは、がしゃどくろから削いだのか。
 それは、呪物から削いだのか。

「――呪物以外に興味はありません」

 所謂、暴れ狂う妖怪との闘い。
 どちらかと言えば物理攻撃で暴れまわるスタイルのがしゃどくろ。
 その空気感は、"戦い"そのもだ。

 その中で、どろりとした重々しい空気と瞳が静かに動く。
 がしゃどくろの胸の奥で紫色の輝きを放ち続ける呪物に視線を向けたまま、カネリは呟く。

「ガシャドクロからサイコロを取り出す、それが今回の目的です」

 この場へ呪物を持ち込んだ男から溢れる言葉や感情がこの空間を温める中、
 それは火を起こす程の熱を持たない。
 成り立ちは呪物的な要素を持つ"ヨウカイ"種ではあるが、
 宇宙の中には同じような一つの体に統合意志を持つ存在も多い。
 星自体がそのような生命体である可能性もしばしばある。あくまで、そういった存在である。

 やはり。

 黒き身を燃やすほどの情念は、どちらかと言えば間違いなく呪物。
 その呪物を識る、視る、聴く――得る。
 合理的かつ、そして自身の熱にも繋がること。

「スーツの男性は別の方に任せるとして、ガシャドクロをどうにかしましょう」
 いや――サイコロを、どうにかしましょう――そう聞こえるような。

 ぞわり、と周囲の空気が揺れる。
 黒き身を小さな泡が流れ――呪いを編む。

 こぽり、こぽりと言葉の泡を刻むたび、地縛鎖はがしゃどくろへと突き進む。
 長い長い10秒の秒針が1つずつ進んでいく。
 その詠唱は聞き取れなかった。
 無論、がしゃどくろも認識できる詠唱ではない。

 ただ認識できるのは――込められた呪詛。
 禍々しい言葉に従うかのように、蛇のように蠢く鎖が、がしゃどくろに届いた。

 ――これを避けられますか?
 詠唱の最後の一言。
 脳を揺さぶるような呪言の末の理解できる言葉。

 じゃらら、と音を立てるのは骨ではなくカネリの鎖。
 その鎖は巻き付くのではなく――巨大な大腿骨に突き刺さる。
 そのまま骨を貫き巻き付き、締め上げ、蠢く。

 まるで串刺しにされた骨……その鎖は暴れ、みしりみしりと周囲へと亀裂を広げる。
 血が溢れることもなければ、肉が削がれることもない骨の身体。
 だが、それは傷口と呼べる穴。骨粉を生み出すように、鎖は身を削っていく。

 動きを封じられたがしゃどくろは、新たな動きを起こす。
 自ら腕を落とし、骨の塊に戻す。
 『がらり、がらり』と音を立てて。
 その瞬間、山積みになった大小の骨は人の背丈ほどの動く骸骨と姿を変え走り出した。
 手には骨の刀や槌、鍬……各々に武器を振り上げながら――。

 だが。
 術師、というのは幾つもの布石を仕込むもの。
 地を這っていた鎖が静かに浮き上がり――蛇が、尾で薙ぎ払うようにそれらを武器ごと弾き飛ばす。
 弾き飛んだ骨の兵士は欠片に戻り、本体へと集まりつつある。が。
 今、敵の攻撃は止んだ。

「事象を反転する呪具ですか。では死の衝動を与えたら前向きになるのでしょうか」
 声色が、少しだけ高い気がする。
 興奮するような響き。

「彼らは嘆きの集合体、でしょう――」
 面の前で、1本の指を立てるような仕草。笑みが漏れた、ような。

「ちょっと試してみたいと思いませんか?」
 好奇心という小さな着火剤は、流れ出す思いを燃やすには十分過ぎた。

 懐から出した刃物で、迷うこと無く自身を突き刺す。
 ぼとり、ぼとりと黒き雫が大いなる力の礎と為す。
 ――儀式は完成する。
 |死への願望という名の《甘き死を願う》。

 呪具――サイコロ、ウシロサマの周囲に"無惨な死の渇望"が広がっていく。
 サイコロが紫色の激しく輝く。

「生きたい、となるのでしょうか?」

 男の声が響く。
「――死なせたくなかった――死んでいるなんて、信じたくなかった――
 死す罰より生きる罰が欲しい――」
 男の声は消えた。
 あの男だった、のかもしれない。多くの意思の中で明確に彼だとは分からない。

 続いて、声が響き渡る。
 呪具から広がる「無惨に殺されたくなかった、無惨に死にたくなかった生への願望」に従うように。

「いやだ、生きたい。後悔なんてしていない!生きたかった!
 生き――なんで死んだ?死んだのか?誰も悪くない。いや、あいつの、悪くない――」
「生きてるんだろ――あいつのせいじゃない、
 オレが悪いんだ、オレが悪いんだ、だから生きたい、生きたかった」
「――みんな世界が悪い時間が悪い場所が悪い、自分は何も悪くない、なんで生きていないんだ」

 ――集まった嘆きは……結局、表裏一体。
 恨みの先が、呪いの先が変わっても。理由が反転しても。
 結局――後悔を隠すための思いが真実になり、隠していた本心を知れてしまうだけ。
 見ないことで突き進めた想いは、恨みから後悔に。
 後悔は恨みに変わるだけ。

 なにも、変わりなんてしない。
 前向きも、後ろ向きも――後悔や恨みすら、この塊に取り込まれている存在達の炎。
 後ろを向いたまま進んでいる事象が――前への言葉にすげかわっただけだった。

「ちゃんと反転するのですか、興味深いですね」
 ほう、と声を漏らしながら面を抑える。

 その面の下で思考は進む。
 ――反転しきれていない気もしますね。
 勿体ない……どうやら、呪具に残る力を纏めて使わせてしまったようですね――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吉浜・ほしの
◆閻天
事情は分かったし、あとはやる事をやるだけだね!
とはいえ七緒に獄卒たちを呼んでもらって、丸ごと取り押さえちゃえば一件落ちゃ――
…この鬼マジメーっ!
まあオンオフできるようになっただけでも良しとするかぁ
それなら私の一計に、乗ってもらうからね!

方針:元教員と縁を繋ぐ

〔万里の朱紐〕を伸ばして、端を七緒に持ってもらい【軽業・陽動・受け流し】でがしゃどくろの周囲を飛び回る
要所に〔天狗の杖〕を突きたてて紐を引っかけていき、タイミングを合わせて【道術・結界術】で行動を制限
準備が整ったら【指定UC】で相手に肉薄、スーツが残る骨に「橋を架ける」!
編む型は流星、橋を渡れる対象は味方ともう一人――「元教員男性」!

そんなところで何してるのかな?
ほら、子供たちが待ってるよ!

上手く橋を渡れたなら護衛しつつ、呪物が悪さをしないよう味方の支援だ!

――自分を責めたくなるのは分かるけど、残した生徒も悲しませちゃダメじゃない
こういうときは、おねーさんを呼びなさいって…おっと、なんでもない
ま、しばらくおねむしてらっしゃい


午堂・七緒
◆閻天
事情は分かりました
目標は2つでしょうか
1、取り込まれた元教員の説得・奪還
2、がしゃどくろ氏から呪物を取り出す
これをこなすには――
あ、今はオフなので、同僚を呼ぶのはナシです
身分も明かすと仕事になるのでダメです
…仕事になったらこの一帯を査察しない訳にいかなくなりますし
なので、ええ、ほしのの案に乗りましょう

方針:支援重視

ほしのの紐をきっちり掴み、要所に〔術符〕を放ち術で杭に変化させ紐が陣を描くよう突き立てる
タイミングを合わせ【道術・結界術・捕縛】
味方と橋に〔念糸〕を結び、強化支援と共に男性と縁を結んで全員と意思疎通を可能に

邪法を用いた彼岸への干渉は許されるものではありません
ですが命をも賭ける貴方の責任感と覚悟は尊いものです
だから一度だけ、彼岸の者として貴方に機会を
――その救世糸が貴方を導くでしょう

事が終わったら【指定UC】で周囲から呪物の力を浄化・鎮静化します
できれば閻魔庁で封印したいところですが、今回はヒトの可能性を信じましょう
後は…がしゃどくろ氏に見回り獄卒への相談を周知しなくては



 がしゃどくろから放たれる力が、大きく削がれたのを感じる。
 戦いの合間に漏れる声を受け、二人は同時に言葉を漏らした。

「事情は分かったし――」
「事情は分かりました」

 ほしのが、七緒の顔を覗いて続ける。

「あとはやる事をやるだけだね!」

 こくり、と七緒が頷く。
 ゆっくりと目を閉じて、強く見開く。

「目標は2つでしょうか」

 指を立てながら、声に出して確認するように言葉にする。

「1、取り込まれた元教員の説得・奪還」
 人差し指を折り込む。

「2,がしゃどくろ氏から呪物を取り出す」

 うんうん、と横でほしのが大きく頭を振る。

「これをこなすには――」
 難しい顔。
 沢山の書類を抱え、入念に作り込んできた議題への案を今話そうとする、実に彼女らしい顔。

 その顔を見てなのか、それとも最初から考えていたかは定かではないが、
 ほしのが提案で割り込む。

「とはいえ七緒に獄卒たちを呼んでもらって、丸ごと取り押さえちゃえば一件落ちゃ――」

 ぴしゃり、とその言葉を止めるように七緒が重ねる。
「あ、今はオフなので、同僚を呼ぶのはナシです」

 二人の間の空気が一瞬停止したような……極めて短い一瞬を長い時間に感じるほどの間の後に。
 叫ぶのは、ほしの。
「………この鬼マジメーっ!」

 その声に止まること無く、淡々と七緒は続ける。
「身分も明かすと仕事になるのでダメです」

 ――仕事ではありませんので、と話す顔はどうみても役所のその顔なのではあるが――。

「……仕事になったらこの一体を査察しな訳にはいかなくなりますし」
 ほしのが、おっ、と何かに感心するような笑みを浮かべる。
 お役所仕事、感情や融通を挟む余地はない。
 あえて切り分けることで――変わることも大きく存在する。

「まあオンオフできるようになっただけでも良しとするかぁ」
 うんうん、とお姉さん顔で頷きながら、ほしのが一歩前に出る。

「それなら私の一計に、乗ってもらうからね!」

「なので――ええ、ほしのの案にのりましょう」
 七緒も一歩踏み出し、ほしのの横に並ぶ。

 眼の前で、がしゃどくろが大きな咆哮を上げる。
 猟兵達へ力を使い続け――本体も呪物の力自体もこってり絞り出されている。
 この戦いは"倒す"戦いではない。
 だからこそ、一撃を叩き込む訳ではなく……丁寧に削り、丁寧に解決しなければならない。
 今、その解決への環境状態が整った、と二人は判断する。

「これ、任せるよ!」
 ほしのが、万里の朱糸を伸ばし、七緒へと手渡そうと。
「ええ、分かりました!」

 七緒が受け取ったのを確認すれば一気に宙へと舞い上がる。
「それじゃあ、一気に迎えに行こうか!」

 がしゃどくろが、それに反応して動く。
 鈍いとは言え、全身を使った大振りの攻撃は範囲も広く、暴れるだけでも相当な攻撃である。
 大きく吠え踏み込んだ後、がしゃどくろは右腕を鋭く横に薙ぎ払う。

「よっ」
 小さな声を漏らしながら、ほしのは空で軽やかに一回転して攻撃を避ける。
 伸ばされた腕に着地すれば、そのまま真っ直ぐに腕を身体目掛けて走る。
 がしゃどくろの胸元まで一直線、天狗の杖を骨目掛けて投げ込めば、まるでかぎ針の如く朱糸が絡む。
 戻ってくる杖を受け取ると、再び宙に戻り次の一撃を誘う。

 ――同時に。
 朱糸の端をつかんだ七緒もがしゃどくろの周囲を走る。
 その足取りを上から見れば、陣を描くように。
 予定の地点へと走れば呪符に霊力を注ぎ、杭として打ち込む。
 杭に朱色の糸が絡む。
 1本、2本、3本――連続して打ち込んでいく。

「遅れていませんか、ほしの」
 がしゃどくろが振り回す腕を飛び越えるように避けながら、七緒が声をかける。

「きっちりしてるなぁ、こっちも問題ないよ」

 七緒の作り出す陣をほしのが見下ろす――杭の配置はまるで5本の指。

 がしゃどくろが再び、ほしの目掛けて腕を伸ばす。
 もちろん、その一撃は届かない。逆にその腕先へと杖が閃く。
 朱糸を縫い込む――ほしのの糸もまもなく5箇所へと絡む。

 七緒の陣も5本。

「いけるね!」
「ええ、準備できていますよ!」

 ほしのが、パン!と大きく柏手を打つ。
 注ぎ込まれた道術が朱糸を伝わり、結界の力を帯びる。
 一時的な動きの制限。がしゃどくろの動きが止まる。

 本命は此の先。
 ――朱糸は生き物のように美しく絡み、形を生み出していく。

 同時に七緒っも柏手を返す。
 同じタイミングで注がれた道術は、がしゃどくろの動きをさらに制限する。
 捕縛と結界の力は強く重なり、がしゃどくろはぴくりとも動けない。

 七緒の念糸が杭とほしのへと伸びる。
 ――朱糸に沿うその念糸は力を注ぎ込む。
 二人の霊力が重なった朱糸は、組紐へと変わる。

 その時。
「|星天の縄橋【綾ノ橋架】《カレイドブリッジ・ストリングス》!」
 一気に、ほしのががしゃどくろの懐へと飛び込む。
 視界の先には、スーツの破片――目的の、人。

 くるり、と頭上で天狗の杖を回せばその場所を指し示す。

 大いなる力が注がれた二人の組糸が、流星を編み出す――星が、彼の元へと届く。

 同時に――がしゃどくろの体の部位に絡んだ組糸と、
 七緒の杭に絡む組糸が動く。

 流星が縫い上げるあやとりの形。
 一番最後に仕上がった形は――。

 それは、あやとりの橋。
 5つの杭と、がしゃどくろの身体を繋ぐ美しい橋。

「こんなところで何してるのかな?
 ほら、子供たちが待ってるよ!」
 明るい声が、男の元に届く。

 すすり泣くような声。かすれそうな声。
「――すまない」

 七緒の念糸は、彼の思いを皆へと繋ぐ。

 始まりは後悔だったかもしれない。
 何も出来なかったと自分を責めるだけの思い。
 そして、ここまで辿り着いた。

 今、彼の中から伝わってくるのは――謝罪の気持ちもある。だがそれ以上に。
 感謝のような。
 暖かく――救われたような思い。

 猟兵達の言葉も、行動も。戦いも。
 それに――この骨の中に居る別の者たちの思いとの差も。

「――自分を責めたくなるのは分かるけど、残した生徒も悲しませちゃダメじゃない」
 ほしのが、光に満ちるような。
 実像を取り戻した男の手を取る。橋の先へと歩むように。

「そこまで、考えていなかった」
 男は呟く。
 今、UDCアースでは、一人の男の行方不明のニュース。
 祭りで突然姿を消したと報道が流れている。……教え子達は気づくだろう。察するだろう。

「しかし、やらなければならないことがある」
 光の粒で形作られた男が呟く。

「こういうときは、おねーさんを呼びなさいって……おっと、なんでもない」

「ああ、次があれば――呼んではだめなのだな、ははは」
 魂が笑ったように見えた。
 二人は橋を渡る。
 迎えるように、凛とした表情で七緒が言う。

「邪法を用いた彼岸への干渉は許されるものではありません」
「ですが命をも賭ける貴方の責任感と覚悟は尊いものです」
 強い声色が、穏やかな声色に変わる。

「だから一度だけ、彼岸の者として貴方に機会を」

 この場所で彼女のこの声に、震えぬ魂など居ないだろう。
 だが――男は口を開く。

「……やらねば、ならないことがある。私はまだ――"彼ら"と繋がっている気がする。
 ならば、出来るはずだ。
 ……力を借りよう」

『がらん、がらん』と――動かぬがしゃどくろの身体から音がする。

「後悔や無念、怨念……そんな記憶を引き換えに。彼らが成功できる力だと、分かる。
 この出来事は、私が知るべきことではい。
 記憶を差し出そうとも――想いはもう、間違えないだろう。
 君達のおかげだが。
 それでは――任せよう、お役人さんも居るよう、だしな」

 がしゃどくろのユーベルコードが動く。彼の――多くの記憶を糧に。
 あらゆる行動の成功……行うのは――呪物の力の喪失。
 男の光が小さくなっていく。もはや、それはたった1つの小さなオーブのように。

 声は返ってこない。
 が――ころり、とがしゃどくろから転がったサイコロは光を失い、もはや呪物ではないこと、が皆には分かる。

「――その救世糸が貴方を導くでしょう」
 小さく、七緒が呟く。
 迷い込んだ神隠し……死してはいない、そういう運命へと戻す。
 ここは、死の世界ではなく、それを模した妖怪の拠り所なのだから。

「ま、しばらくおねむしてらっしゃい」
 ほしのの穏やかな声。光の糸が有るべき場所へと男の魂を届けるだろう。

「さて、と」
 七緒が大きく息を吐き出す。
 しかし、その顔はピシ、と整ったまま。やるべきことは山程あるのだ。

「――本来、この呪物を沈静化させる為に使うつもりでしたが――」
 七緒の周囲で桜の花びらがふわり、と舞い上がる。

 暗く、どんよりとした祭りの空間に……桃色の風が広がっていく。
 それは、彼と繋いだ縁が、記憶が導く場所へと吹き抜けていく。
 それが幽世のどこであれ、死者の場所であれ――再びUDCアースで歩き出した命の所であれ。
 生徒二人、教師一人。
 少しだけ早く届いた桜吹雪は、|魂《こころ》を優しく抱きとめるのだ。

「|天命の花舞【鎮魂桜】《輪廻の道に、光あれ》」

 ――そっと、傍に寄り添ったほしのが目を閉じてその花びらに想いを重ねる。

「閻魔庁で封印したいところですが、今回はヒトの可能性を信じましょう……そんな顔をしようと思ってた?」
 目を合わせず、ほしのが呟く。

「やめてください。もう解決していますし……その可能性、ほしのも見たでしょう?」
 少し恥ずかしそうに頬を染めたあと、お役所の顔をしっかり作って前を見る。

 その時。ほしのが素っ頓狂な声をあげる。
「お」
「……なんです」

「がしゃどくろ氏が……」
「……!」

 消えそうだ。
 何だか、穏やかな光に包まれて。骨の向こうが透けて見える――。
 鎮魂の桜は怨執に満ちた骨達を浄化して……。

「ネガティブな妖怪さんに光を当てすぎたみたいになってるよ」
「いや、ちょっと……これは想定外ですね……」

 がしゃり、と骨が動く。

「あ、なんとか耐えたみたいだよ」
「ええ……」

 はぁ、とため息を1つ。

「大丈夫そうですね……後は……がしゃどくろ氏に見回り獄卒への相談を周知しなくては」

「そうだねぇ、ぽんぽん取り込んでるとお役所に行かない魂が増えて……?」

「手続きが滞ってしまいますからね。
 オフなのに連絡が来ると……ほしのと出かける機会がなくなりますよ?」

 ――少し、柔らかくなったな。肩の力、抜けるようになったんだなぁ……と感心するように笑うほしの。
 それを見て、何を考えてるんですか?と少し頬をふくらませる七緒。

 眼の前のがしゃどくろも……ようやく正気に戻り、
 ブツブツと後ろ向きな言葉を漏らしながら元気な日常に戻ろうとしていた。

 力なきただのサイコロ、は――UDCアースに帰っただろう。

 これにて、一件落着である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年03月13日


挿絵イラスト