グリードオーシャン――数多の世界と繋がり、果てしなき欲望を波に抱く。
そんな風に言われる海の世界ではあるが、実のところ数多く浮かぶ島々とそこに住まう人々の生活は至って温暖温厚で、悪しき海賊の脅威を除けば実に平穏に満ちている。
島々はかつて他の世界から『落ちてきた』と言われ、多種多様の文化が色濃く受け継がれているらしく。
例えばこの島では、UDCアース由来の食文化が盛んとか何とか――。
「え、何これ、美味しそう」
ディルク・ドライツェーン(琥珀の鬼神・f27280)は店先に掲げられた季節限定メニューに目を奪われていた。
海辺のカフェは島の人々や島に立ち寄る海賊達の安らぎと憩いの場。美味しいスウィーツを供する店の噂に彼らはやってきたのだが――早速お目当て発見とばかりにディルクは笑顔で振り返ると連れの男に告げる。
「早速入ろう! なっ!?」
「……ははっ、慌てなくたって逃げも隠れも奪われもしないだろう」
「でもほら、数量限定って」
落ち着かない様子のディルクの様子にアルデルク・イドルド(海賊商人・f26179)は思わず肩を竦め、よしよしと窘める様にその背をこずいて入店を促した。
『バレンタイン期間数量限定! スペシャルジャンボチョコレートパフェ!!』
席に着くなり注文したのは今月の目玉パフェ。聞くとこの店では毎年恒例の大人気商品なのだとか。
「さっき見たイラストだけでも美味しそうな予感するしさ。ここは期待大だよな!」
「そうだな。そもそも一人で食える大きさでも無いらしいぜ?」
期待もサイズも大きいパフェは注文されてから供されるのに時間が掛かるのだと最初に告げられた。
約束された美味しいに胸の鼓動高まるディルクは嬉しそうな笑顔。その様子をいつもの様に見つめるアルデルクであったが――本人的には別の意味で心臓の高鳴りを覚えていた。
長くも短い待ち時間はあっという間に経過し。
「お待たせしました。当店自慢のマンスリースペシャルパフェです」
どん、と置かれたそのパフェのサイズに、ディルクもアルデルクも軽く度肝を抜かれた。
直径10cmはあろうかと言う広口のグラスにはこれでもかとたっぷり盛られた真白なソフトクリーム。その高さは15~20cmくらいはあるのではなかろうか。
更に惜しみなく注がれたであろう甘美なる黒――チョコレートソースがほろ苦さと甘さを主張し。バナナやイチゴなどのフルーツもまた、チョコレートとの相性抜群な甘みと酸味を以て彩り鮮やかに輝いていた。
底に沈むのもチョコアイスにリコッタチーズアイス。フレークやスポンジでカサ増しなんぞ以ての外なアイス尽くしのパフェであった。
「ご注文の品はお揃いですか?」
「あ、は、はい……」
「うふふ、ではごゆっくりお過ごし下さいませ」
ウェイトレスの問いかけには思わず生返事する程、パフェの迫力に圧倒されていたディルク。
そしてその含みのありそうな言葉と微笑みに目が合ってしまったアルデルクもまた緊張したかの様に唾呑み込んだのを――真正面の彼は気が付かなかったのは幸いだった。
「「いただきます」」
海賊とは思えぬ絵面だが、そこはご愛敬。今ここにいるのは甘味を欲する若いお兄さん二人に過ぎぬのだ。
長いスプーンでそっと白く渦巻いたアイスを掬う。ミルクの白とチョコの黒が溶けてほのかなグラデーションを描きつつあるそれを口に運べば――濃厚で優しい甘みとほろ苦い甘みとが混じり合い、最高の味わいが口いっぱいに広がった。
「ヤバい、すげぇ美味しいわこれ」
「ドンドン食っていいからな?」
スプーン持つ手が止まらない。お言葉に甘えるかのようにパクパクモリモリと巨大なソフトクリームの山を削っては胃に収めていくディルク。その食べっぷりを愛おしく見つめながらアルデルクもまた、ゆっくりとアイスを口に運ぶ。
「ん、美味いなこれ。甘いけどクドくねぇのが良い」
「だろ??」
まるで自分の手柄の様に笑ってみせたディルク。だがその顔を見たアルデルクは、思わずククッと笑って顔を背けてしまった。
「え、なに、どうしたんだ?」
「ディル、口拭け、口。鏡見てみろ」
「鏡??」
その口の周りにはチョコレートソースがイイ具合に付いて、愉快な黒ヒゲ海賊と化していたのだから。
「うわ、こりゃヒドいな我ながら」
「だろ?」
綺麗に口の周りを拭いた後も、二人は楽しそうにパフェを平らげる。七割方はディルクの胃袋に収められつつも、あっと言う間に大きなパフェグラスは空になった。
「あー、美味かった! しあわせ~~!!」
満足そうに食後の紅茶を頂きながら微笑むディルク。
そして。
「ああ、本当に――幸せだな」
アルデルクもまた口元に小さく微笑みを浮かべた。ああ、この瞬間こそがきっと――。
羅刹の青年は知らない。
このスペシャルパフェを大切に思い合う二人で一緒に完食すると、幸福が齎されると言う縁起があると言う噂を。
成功
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