Plamotion Luggage Actor
●不在票
それは流通網の発達した現代に置いて、ある種の命題であった。
つまるところ、物流サービスが行き着く先にあるのは如何に効率よく確実に素早く物品が届くか、である。
とは言え、人の営みである。
揺らぎはどうあってもでてくるだろう。
受け取れるはずだった荷物が、その時間に在宅でなかったばかりに受け取ることができない。もしくは到着時刻を過ぎても届かない。
そこに介在する問題は多くの場合、人にはどうしようもないことばかりである。
例えば、天災。例えば、事故。
多くの不確定要素を含むが故に全てが予定通りに運ぶ、という確証はないのである。
どんなものにだって不意の事態はあるし、不慮の事故だって起こり得るのである。
此処まで語って、つまりは他人事なのである。
他人事だからこそ語れる事柄なのである。自分のことであったのならば、こうも冷静に語ることはできないだろう。
荷が届かぬと苛立つし、足踏みするし、貧乏ゆすりだって神経質に行ってしまうかもしれない。それが思い焦がれたものであったのならばなおさらであろう。
そういう意味では『陰海月』は己が予約注文した荷物が本日届くということを馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の猟兵としての仕事を手伝いながら、心落ち着かぬ様子であった。
「どうしたのでしょうね」
「ほれ、なんとかという、あの模型の」
「ああ、この間予約できたと喜んでいたものですねー」
「なるほどな。それで今日は朝から気も漫ろな様子であったのか」
四柱は、大分成長してきたとは言え『陰海月』もまだまだ子供であるな、と納得していた。
いや、そもそも戦いの最中に他のことに気を取られるとは、と注意してもいい位である。
しかしまあ、初孫めいた立ち位置にいる『陰海月』にどうにも彼らは強くでれない。
というか、普段はそんな小言を呈する必要がないほどに良い子なのだから、と思わないでもないのだ。う~ん、甘い。
猟兵としての仕事も終わりを告げれば、『陰海月』は早く早くと急かすようにして義透たちと共に屋敷へと戻って来る。
「あ、おかえりなさいませ」
屋敷に戻れば『夏夢』が迎えてくれる。
にゃー、と鳴く声が聞こえれば『玉福』が二股の尾を振っている。
「ああ、今戻りました。変わりありませんか」
「はい、特に……あ、そうだ。荷物届いておりましたよ」
そう言う『夏夢』に『陰海月』は一際高く鳴く。
もしかして! と鳴く声に『夏夢』は微笑むような気配を見せた。
「二階のお部屋に運んで……」
「きゅ~!」
ありがとー! と鳴く『陰海月』はびゅんびゅんと屋敷の中を走るようにして飛ぶ。
外から帰ってきたら触腕を洗う。
それが約束事だった。
忘れてない。でも、急ぎたい。逸る気持ちがある。どうしたって、いつだって、『陰海月』はそう思ってしまう。
荷物、と『夏夢』は言っていた。
つまりは、そういうことなのだ。
「ぷきゅー!」
触腕の水気を切ってから、『霹靂』と共にどたどたと二階へと上がる。
部屋に入ると、そこにあったのは『Jagzon』のロゴの入った段ボールである。
そう、『欲しいが手に入る』こと『Jagzon』である。
つまり、そういうことだ!
「きゅ~! きゅ~!」
触腕が震えるようだった。流行る気持ちを抑えきれないで段ボールの梱包テープを剥がすとして上手く行かない。
友よ、と『霹靂』が爪でテープをしゃーっと切ってくれる。即席カッターナイフである。
ありがとう! と一声鳴いて『陰海月』は段ボールの中の緩衝材を取り出す。
『霹靂』はぷちぷちするビニールの緩衝材を潰して楽しそうだ。
だが、本当のお楽しみはこれからなのだ。
『陰海月』は箱から取り出したまた別の箱を掲げる。
箱のマトリョーシカではない。
そこにあったのは以前予約サイトで、もう一つの戦争を制した結果得た品物であった。
そう!
『幻想騎馬隊限定Ver.飼育クラゲ』である。
なんとなくゆる~い雰囲気が子供にも大人にも受けた商品、その情景キットである。
神速のマウス裁きと高速クリックによって手に入れた予約商品。
パッケージアートからにじみ出る楽しさ。
ああ、手に入れられてよかった、と『陰海月』は箱に頬ずりする。
本当に良かった。
猟兵としての仕事を手伝うのは嫌ではない。
けれど、どうしたって今までは不在にすることが多く、不在票を手にしてまた電話をかけたりなんやかんやと煩雑な手間を掛けなければならなかった。
けれど、『夏夢』が屋敷を守ってくれているおかげで、不在票とは無縁になったのだ。
またもう一度『夏夢』に感謝しながら『陰海月』はパッケージを開ける。
開封の儀。
パーツチェック、ヨシ。
説明書、ヨシ。
備品、ヨシ。
「ぷきゅー!」
さあ、ご飯まではもう少しある。
この時間を利用して組み立てよう。『陰海月』は腕まくりするように触腕を振るう――。
成功
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