ユニオン・コーデ
●バレンタインイベント
ヌグエン・トラングタン(欲望城主・f42331)は、よし、と思った。思っていた。
何故ならば、今の彼はギルド組合員である。
世を忍ぶ仮の姿というか、こっちが本業というか。本性は『欲望竜』であろうが今のヌグエンはトイツオック地方にて行われているバレンタインイベントクエストの成否というものを見守る仕掛け人なのだ。
そう、バレンタインイベントというのは、はっきり言ってゲームプレイヤーたちを喜ばせるものでしかない。
自分たちノンプレイヤーキャラクター、ドラゴンプロトコルという者は、彼らが楽しくゲームができるように務めるのみなのだ。
「おー、あいつ確かこの間俺様をぶっ飛ばした『重戦士』じゃねーか」
ヌグエンがギルド組合員としてクエストの推移をモニタリングしているのだが、そこにあるのは一人の『重戦士』ゲームプレイヤーの活躍だった。
バレンタインイベントクエストのモンスターを倒して、ドロップしたアイテム『カカオ』を収拾している。
よしよし、とヌグエンは思う。
やはりモンスターのステータスの調整は上手く行っているようである。
「ふぅ……これがドロップアイテムか。確かに先輩の言った通りだ」
彼は初心者クエストをクリアしたその足ですぐさま別の地方に足を向けようとしていたのだが、先輩プレイヤーからトイツオック地方にいるのならば、バレンタインデーまでいたほうがよいとアドバイスを受けていたのだ。
「この『カカオ収穫』クエスト、すごい美味しい! 取扱所で『チョコ』も手に入るし、憧れの『高機動重戦士』になるための装備素材も手に入る!」
そう、彼は目指すべき目標がある。
タイミングが合った、とは言え運が良いのだ。
でも、と彼は思うのだ。
「チョコの香りってこんな感じなんだな……」
知らなかった、と現実世界では知ることも許されなかったチョコの香りを堪能して『カカオハスク取扱所』へと足を向ける。
そう、ヌグエンが調整したクエストに出るモンスターはチョコの香りがしている。
それがチョコの香りだと彼は知らなかったようだ。
未知なる香り。
新しいことは新鮮なことだ。新鮮ということは楽しいということだ。
「楽しんでくれているようで何よりだぜ。やっぱり俺様の調整は完璧だ。苦労した甲斐があったぜ!」
ヌグエンは彼の小さな呟きに満足気に頷き、このイベントの成功を確信するのだった――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴