バレンタイン・コーデ
●甘い甘い
チョコレート。
それを聞くとヌグエン・トラングタン(欲望城主・f42331)はいつも決まって暦において2月のことを思い浮かべる。
ゴッドゲームオンラン上においてイベントは常に開催されているものである。
その中にはバレンタインデーというイベントがある。
「今年もやってきちまったか」
ヌグエンはゴッドゲームオンランのトイツオック地方のドラゴンプロトコルだ。
彼の仕事は多岐に渡る。
ときにはギルド組合員としてゲームプレイヤーたちとクエストの窓口を兼ねるし、またダンジョンを作り上げてボスとして鎮座することもある。
つまり、有り体に言って忙しいのである。
毎日毎日イベントの準備に追われている。裏方稼業というのはそういうものであるが、それにしたって忙しい。
「此処が初心者向けのエリアだっつっても、限度があるだろう」
「まあ、そう言われてもね」
ヌグエンの言葉にとあるノンプレイヤーキャラクターは息を吐き出す。
別に嫌なわけじゃあない。
ノンプレイヤーキャラクターにとってゲームプレイヤーとは楽しませるべき存在である。時に立ちはだかることもあるし、時に助けを求めることもある。
そして、時にこうして彼らのためになるアイテムを販売することだってある。
そう、初心者難易度であり、同時にイベントクエストである『カカオ集め』の依頼主がこのノンプレイヤーキャラクターなのである。
通称『カカオハスクの人』。
本当の名前があるのだが、ゲームプレイヤーたちには此方のほうが通りがいい。
それもそれでどうなんだと思わないでもない。
「期間限定の『カカオハスク取扱所』の準備は滞りなく済んでるぜ」
「わかっている。今回はどれだけ交換品を用意していればいい?」
「いくつかピックアップしていた。選んでくれ。トリリオンとの交換上限は慎重に設定してくれよ。ゲームプレイヤーの連中、やるとなったら再現がないからな」
「違いない。と、今回のお助けNPCは?」
「ちゃんと頼んであるぜ。だがまあ、ソロでも回れるように難易度を調整中だ。『カカオ』をドロップするモンスターは去年のでいいかと思っていたんだが、バグプロトコル化していたりで一から用意しなくちゃならなくってな」
「忙しいと」
そういうこと、とヌグエンは嘆息する。
そう最近頻出しているバグプロトコル。猟兵達の助けもあってなんとかなっているのが現状ではあるが、それでも手が回らないこともあるのだ。
「カカオモンスターと言ってもチョコレート色にグラフィックをいじれば良いってもんじゃあないしなぁ……」
「去年は色だけ違うのかよ! と総スカンだったからね。今回は匂いも付けてみたら?」
「匂い?」
「そう、チョコレートの匂い。そしたらバレンタインイベントらしくなるんじゃあない?」
「それは面白そうだ。けれど、甘い匂いがそこら中に漂っていたら胸焼けするんじゃあねぇか? 逆にそれも織り込み済みか?」
「案外リアルで良い! みたいなことにならないかしらね」
うーん、と脱ぐ年は頭を悩ませる。
今からフレグランスデータを習得してきて微調整するっていうのは、仕事が増えるだけな気がしないでもない。
ともすれば、イベント失敗だってあり得る。
けれど、それでも妥協できないのがヌグエンの性格であったことだろう。
確かにドラゴンプロトコルは管理者としての仕事が多い。
けれど、それ以上にどのドラゴンプロトコルもそうであるようにゲームプレイヤーたちに楽しんでもらいたいという思いが強いのだ。
だから、それは自分の首を自分で締めるようなものだった。でも、仕方ない。そういう性分なのだ。
「ああ、忙しい――!!」
成功
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