1
🌟華やかなる万国食べ歩き祭典🎀

#UDCアース #ノベル

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
🔒
#ノベル


0



エリシャ・パルティエル




「エリシャさん、こっち、こっちですー!」
 万国旗のガーランドが飾られ、青空の下、風に吹かれひらひら舞っている。
 人が混みあうイベント会場で名を呼ばれたエリシャ・パルティエルは辺りを見回し、声の主を探した。
 本人(本猫?)としては精いっぱい声を張り上げているのだろう。猫に似た声域は人々の声にかき消され――だが、再度呼ばれたエリシャは直ぐに声の主を見つけた。
「イロハ!」
 広場に設置された大きな水車と周囲には色とりどりの花壇。その花壇ブロックの上に冬原・イロハは立ち、真っ白な手を振っている。
「エリシャさん、こんにちは!」
「こんにちは、イロハ。――ふふ、思っていた通りだわ。そのキャンプコーデ似合ってるわね」
「ふへへ。エリシャさんがプレゼントしてくださったウェア、とっても動きやすくってそれに可愛いです!」
 くるんと回ったイロハが着ているのは、彼女の二十歳の誕生日に贈った『めちゃキャンプコーデ🎀』だ。
 お花柄のレギンスとキュロット。そしてパーカーはどんなキャンプファイヤーにも対応できる耐火性である。……キャンプファイヤーに『どんな』と付加される、そんなキャンプファイヤーがこの世界にはあるのだ。
「今日の帽子は悩んだんですけど、ニイヅキさんにいただいたキャスケットにしてみたのです」
 落ち着いた色合いのリボンキャスケットを軽く持ち上げるイロハ。隠れていた猫の片耳がちらりとのぞく。
「さすがニイヅキね。イロハの可愛さを深く理解してる感じだわ。イロハもついに二十歳のおねえさんね……でもいくつになってもイロハは可愛いの!」
 出会った頃から変わらぬ容姿のケットシーにきゅんとしつつ、改めて「お誕生日おめでとう」の言葉を贈るエリシャ。
「ありがとうございます。あまり二十歳という感じはしませんが、もう大人のおねえさんなんですよね!」
「そうねぇ。それに、二十歳ってお酒が飲めるのよね。ニイヅキにも言ったんだけど、来年には三人でお酒を飲みながらガールズトークとか出来ちゃうわね♪」
「大人のガールズトーク!」
「……もうガールズじゃないかしら? でも、いくつになっても女の子は女子なのよ!」
「可愛いカクテルにもキュンキュンしてみたいですね」
 お酒はまだ飲んだことないのですが、お酒の解禁はニイヅキさんが二十歳になってからにしようかなぁ。
 と、呟くイロハ。
「ふふ、ニイヅキの次の誕生日が待ち遠しいわね。じゃああたしが二人のために可愛いカクテル候補を選んでおこうかしら」
 イメージカクテルを作ってみるのも素敵ね。
 にこにことそう提案すれば、嬉しそうなイロハの笑顔が返ってくる。きっと話題にしているもう一人の友人も、この話を聞けば嬉しそうな笑顔を返してくることだろう。
「ところで、イロハが一緒に遊びたかったところって『バトル・オブ・オリンピア』の会場近くだったのね?」
 2024年、年始にアスリートアース世界で開催されたスポーツの祭典。
 エリシャもお弁当タイムを楽しんだり、推し活ならぬ大好きな猫ちゃんを感じるキャンプをやったりと参加している。
 エリシャの言葉を受け、いそいそとチラシを取り出すイロハ。
「スポーツの祭典はアスリートアースの世界規模のもの――つまり、各国のご飯が集う祭典でもあるのです……!」
 ベースボール、サッカー、テニス、カードバトルなどなど。それぞれのスポーツを得意とする国も様々。アスリートやダークリーガーたちが集う今期では、近くの会場で万国の催事が行われている。
 今日二人が行くのは『万国食べ歩きイベント』だ。
「どんなご飯があるのか、探検しに行きましょう! あとですね、民族衣装も着れたりするらしいのです。これも体験してみたくって」
 チマチョゴリやサリー、レースの舞踊衣装やフラメンコ衣装、ディアンドルなどなど。
「どれも可愛らしいわね。ねえイロハ、お互い着て欲しいものを選んでみるのはどうかしら?」
「わ。素敵ですー! エリシャさんに似合いそうなもの、いっぱい……どれにしましょう」
 チラシを見て、それから衣装貸し出しの天幕へ。
 悩む時間も楽しい――そんな二人がお互いに選んだものは、

「か、可愛いわ!!」
 原色鮮やかで重ねる裾の広いスカートは動けば大輪の花のよう。
 被った帽子は、イロハと同じ白を基調にカラフルなヘアティンセルを織り交ぜた三つ編み。
「はわ、三つ編みも可愛いですね」
 自身の毛並みでは三つ編みは作れないけれど、こういう方法もあるんだなぁとイロハは感心している。
「もふもふが更に暖かそうで良いわね。三つ編みなイロハも可愛いわよ」
 にっこりとする聖女な微笑みに、くうっとイロハは呻いた。きゅっと猫の手が丸くなり、姿勢を若干丸くする。渾身の悶えのポーズである。
「エリシャさん! エリシャさんも可愛いのです!!!!」
 エリシャのためにと選んだのは、コルトという美しい民族衣装だ。
 鮮やかな青のフェルト生地の衣装。袖や襟、胸元には暖色系――イロハが選んだのは赤と白のストライプ――の刺繍装飾があしらわれている。裾のフリルはプリーツが強めに。
 赤は太陽を、青は月を表現したものだ。
 ペンダントは大きな刺繍みたいに編まれたもので、その見事な技巧にエリシャは感嘆の息を零した。
「ブーツがもふもふなんですね」
「つま先がソリの形みたいで可愛いわね」
 雪国地方の衣装らしい。
「それぞれの国の歴史も後で調べなくっちゃね」
「エリシャさん、一緒に写真撮りましょう♪」
 お互いのスマートフォンで写し合いっこをして、さらにはスタッフに頼んでツーショットも。
 そのまま二人は食べ歩き会場へ――。
「あ、ちゃんと席も用意されているみたいですね」
 良かったです、とイロハが呟く。食べ歩くといってもそのままの意味ではなかったらしい。

 肉や玉ねぎ、じゃがいもやオリーブの実をあらかじめ煮込んだものを使うサルティーニャは、かじると旨みたっぷりのスープが溢れ出す。
「あらかじめゼラチンで固めてあるのね……!」
「……はわ、口の中で生地もしっとりしていくので倍楽しめちゃいますね?」

「エリシャさん、タピオカがありますよ」
「日本でよく売られている『タピオカ』じゃないのね? ――タピオカ粉をクレープ風に焼いているのね」
 専用の粉をフライパンに広げて焼いて、包むのはフルーツだったり、チーズやハムだったり。
 タピオカ生地のもちもち食感は一度食べたらやみつきになるものだ。

 タイガーナッツと水、砂糖で作られた豆乳みたいなオルチャータは栄養もたっぷり。
「スーパードリンクと呼ばれているのね」
 子ども食堂に取り入れられないかしら? と思案するエリシャに、イロハは同意の頷きを返す。

「今日もいっぱい写真を撮りました♪」
 ずらっと並んだ画像をエリシャに見せるイロハ。
 エリシャも倣って見せ合いっこだ。
「淡路島でもいっぱい写真を撮っていたわね」
 夜のグランピング施設でたくさんの写真を見せてもらったことは記憶に新しい。
 嬉しそうに頷くイロハの様子に、エリシャもまた嬉しく思って微笑んだ。
「故郷にいた時は写真なんて残せなかったけど、今はこうして思い出を見返すことが出来るのって本当に最高ね」
 遊びに行けばできる、たくさんの思い出。
 写真を見返せば鮮やかに甦る、大切なひと時を手にして。
「これからもたくさんの思い出を一緒に重ねていきましょうね」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年02月19日


挿絵イラスト