「シウム、メリークリスマス」
「うんっ♪ 宗くん、メリークリスマス~」
藤間・宗一郎の言葉に応えたシウム・ジョイグルミットの声は、ほわほわふわふわと柔らかい。
グラスに注がれたワインは宝石のようなアメジスト色。雨の如く透き通った紫は乾杯にとグラスを掲げた宗一郎の腕――フォーマルジャケットの色と似ていて、ふふ、とシウムは微笑んだ。
返すように乾杯のしぐさをしたシウム。回ったグラスからは芳醇が香る。
「素敵なレストランだね~。宗くんと一緒に来れて嬉しいよ~」
ワインから宗一郎、そしてレストランの内装へと目を向けたシウムは目をキラキラと輝かせた。
特に目を惹いたのは金の果実のリース、クリスマスベルを携えたターコイズブルーのリボンがヒイラギと共にぐるりと室内を調えている。
運ばれてくるクリスマス・ディナーの前菜はキウイやグレープフルーツを使ったフルーツサラダ、カプレーゼ。
「どれもワインに合うな。ほら、シウム。これも美味しい」
活き活きとした酸味感じるフレッシュな辛口ワインは、どのディナー料理にもぴったりだ。舌に残る、ワインの仄かな苦みに合う料理をシウムにすすめる宗一郎。
「ホントだ~♪ このレモンソースも美味しいね~」
食べることが大好きなシウムは一口食べれば幸せそうな笑顔を浮かべている。ふわふわふかふかなウサギ耳はたまにぱたりと動いた。楽しい気持ちのなかリラックスしているのが分かる。
カシスソースが掛かったラム肉を食べてとろけそうになっている恋人の様子は、宗一郎にとって一番のご馳走なのだろう。眺める緑の瞳は優しく、愛おしさに満ちている。
食べている最中は表情で歓びを伝えてくるシウムの輝きは、先程散策して楽しんだクリスマスイルミネーションよりも眩しく思えてしまう。
腕を組み歩いた外は寒かったけれども、そのぶん街を彩るライトアップやクリスマスツリーの光が煌めいて見えた。
『綺麗だね~。あっ、宗くん、あの窓、サンタクロースの人形が登ってるよ~』
クリスマスならでは。窓に掛けるタイプの飾りつけに気付いたのはシウムだ。
楽しそうなもの、面白いものを発見しては宗一郎にその世界を共有してくれる恋人。
UDCアースの街の一角ではクリスマスマーケットが開かれていて、ふとそれを見掛けた宗一郎は手を添えていたシウムの背をそちらへと誘導した。
『宗くん?』
『まだ時間はあるし、クリスマスマーケットに寄ってみるか?』
面白いサンタ飾りを見つけたのなら、きっと他のクリスマス雑貨も気になっていることだろう。
そう言った宗一郎にシウムは『うん♪』元気に頷いて、そしてはにかんだ。
同じことを思い出していたのだろう、その時ぱちっと目が合う二人。
「えへへ~、オシャレして、楽しいものを見つけて、美味しいもの~。幸せだよぅー」
大人っぽいローズ系のピンク、ふんわり透け感のある袖をまとめるデコルテには白いリボン。
シウムのお気に入りポイントは、キャンディの形をしたボタンだ。甘い形状にひとめぼれ。ドレスの編み上げにも飴のような煌めきが並んでいる。
嬉しそうに、楽しそうに。さらには美味しいものが並べばちょっぴり夢中になってしまう恋人の姿に――宗一郎はふと手を伸ばした――どうやら、『ちょっぴり』ではないみたいだ。
「シウム、シウム。すっかり夢中になってるな。デザートもあるからな?」
お腹空けとけよ? とからかえば、わかってるよ~、とばかりにシウムはぷくっと頬を膨らませた。
「ほら、口元」
「ふぇ?」
伸ばした宗一郎の腕は――指は硬い義手。
けれどもシウムは怯むことなく、むしろ甘えるように顔を寄せ傾けた。
するりと彼女の口元からソースが拭われてゆく。
「……へへ、ありがと~。宗くん」
シウムにとって何よりも誰よりも優しい、彼の指先。
クリスマスディナーのデザートとカクテルも楽しんで。
どれも美味しかったね~とシウムはご満悦。
ホテルの上階で眺める夜景はキラキラ。星空のような、光粒を散らした宝石箱のような……きっと、ひとつひとつが大切な一夜の輝きなのだろう。
家族で、友達と一緒に、恋人と共に。幸せな一日を、思い出を、過去に未来にと想い馳せて。
愛の言葉を贈りあって、愛を紡いで。
「ね、宗くん。来年もまたクリスマスデートしようね」
「そうだな、また、来年」
未来への約束を交わす――とてもとても、幸せそうに。
聖なる一夜に、またひとつ、二人の時を紡いだ。
成功
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