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サーマ・ヴェーダは異格の執行を示すか

#クロムキャバリア #ノベル #エルネイジェ王国

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ルウェイン・グレーデ
ルウェインがヴェロキラ・イグゼクターを受領し、メルヴィナの乗るシールドファンダーと戦闘演習を行うノベルをお願いします。

アレンジその他諸々何でもお任せします。

●時系列
ノベル【サーマ・ヴェーダは恋慕か忠義の物語か】の後です。

負傷も十分に治ってきた頃、ルウェインはソフィアに呼び出されました。
呼び出された先は、エルネイジェ王国のとある軍事基地です。

ソフィアはルウェインを格納庫に案内します。
「グレーデ卿、新任祝いを用意しました」
するとそこにはルウェインも見覚えのあるキャバリアがありました。
「これは……インドラ!?」
驚くルウェインにソフィアは言いました。
「七割方当たりと言っておきましょう」
「三割はインドラでは無いと?」
ソフィアはインドラそっくりのキャバリアについて説明を始めます。
「こちらのキャバリアはヴェロキラ・イグゼクターです。インドラと同じ部品を多数採用し、性能を飛躍的に高めた特別仕様機です。これが本日よりグレーデ卿の機体となります」
「は! 有難き幸せ! しかしよろしいのでしょうか? あまりにもインドラに瓜二つでは、機械神インドラの敬虔なる信徒の方々から顰蹙を買ってしまうのでは……」
「他ならぬインドラの巫女である私が許しているのです。誰が文句を言えましょう?」
「は! 出過ぎた発言を失礼しました!」
「よろしい。では早速乗りなさい。すぐに戦闘演習を始めます」
「すぐにでありますか?」
「ヴェロキラの搭乗経験はありますね? ならば問題無い筈です」
ヴェロキラとはエルネイジェ王国軍が採用している標準機です。
ルウェインには年単位で操縦経験があります。
「演習場で待っています」
ソフィアは行ってしまいました。

●ルウェインが来る少し前
その日のメルヴィナはソフィアに呼び出されていました。
場所はルウェインが呼び出された基地の演習場です。
そこでメルヴィナはシールドファンダーに乗せられました。
理由はリヴァイアサン以外のキャバリアにも乗れるよう訓練しなさいとソフィアに言われたからです。

「やっぱり私には必要無いのだわ……」
メルヴィナは不満そうです。
「内陸での戦闘では無理にリヴァイアサンを動かす訳にも行かないでしょう」
「そういう場所には行かないのだわ」
「行かざるを得ない場合はどうするのです」
頑固なソフィアにメルヴィナは諦めました。

●演習開始
「両者共、実戦のつもりで臨みなさい。始め!」
ソフィアの合図で演習が始まりました。

「シールドファンダーだと? 厄介な相手だ!」
「ヴェロキラ・イグゼクター? インドラにしか見えないのだわ……」
ルウェインとメルヴィナは、互いの機体に誰が乗っているか知りません。
イグゼクターとシールドファンダーは激しく戦います。
そして演習が終了しました。
結果はお任せします。

そして二機は格納庫に戻って来ました。
「とっても疲れたのだわ……」
メルヴィナは慣れない機体の操縦でくたびれてしまいました。
「メルヴィナ殿下!?」
機体から降りたルウェインは驚愕します。
演習相手はメルヴィナだったのです。
「あなたは……!」
メルヴィナは先日の事を思い出して背中を向けてしまいました。
そしてソフィアに詰め寄ります。
「姉上! どういうつもりなのだわ!?」
「何か問題でも?」
ソフィアは何食わぬ顔で答えます。

「メルヴィナ殿下! 先日の多大なる非礼! 誠に申し訳ございません!」
背後で大きな声がしました。
すると周囲からひそひそと笑う声がしました。
メルヴィナは少しだけ後ろを見ると、ルウェインが跪いて頭を下げています。
周りから笑われているルウェインに、世間から面白おかしく騒がれていた自分の姿が重なりました。
そして元婚約者を一方的に愛そうとしていた自分の姿を思い出しました。
「この人は同じなのだわ……相手に届く筈の無い好意を注いでいた頃の私と……バカみたいなのだわ……」
愚かなルウェインが少しだけ可哀想に思えて来ました。

そして考えたのです。
自分はルウェインに対し、元婚約者と同じ事をしてしまったのでは無いかと。

「私もちょっと言い過ぎたのだわ……」
メルヴィナは小さな声で言いました。
「メルヴィナ殿下……!」
ルウェインにはその声が聞こえていました。
話してくれたというだけでとても嬉しくなってしまいました。
もう口も聞いてくれないと思っていたのです。
「疲れたからもう帰るのだわ」
「は! お手合わせ頂き心よりの感謝を!」
メルヴィナは去って行きます。
ルウェインはその後ろ姿を見送っていました。
「メルヴィナ殿下が俺とお話ししてくださった……こんなに嬉しい事は無い! 嗚呼メルヴィナ殿下! 嗚呼メルヴィナ殿下!」
ソフィアは気持ち悪いなと思いました。

だいたいこんな感じでお願いします!


メルヴィナ・エルネイジェ
以下は執筆時の参考資料として扱ってください。

●メルヴィナの心境について
「私にはリヴァイアサンさえいればいいのだわ……」
こんな訓練は必要無いと思っています。
ルウェインにはちょっと言い過ぎたと後悔しています。
「きっと彼もいきなりの事で混乱してたのだわ……結局、私は相手の事を考えられない我儘な人間なのだわ……」

●メルヴィナの操縦技術について
高く無いです。
基本的な操縦は出来ますがそれだけです。
「私は姉上や兄上とは違うのだわ……」
普段はリヴァイアサンのスペック頼りの戦いをしています。
「こうしたいと考えるまでもなくリヴァイアサンが動いてくれるのだわ。私は攻撃の時にトリガーを引いてるだけなのだわ」

●シールドファンダーについて
エルネイジェ王国や周辺諸国で採用されているゾウ型キャバリアです。
通常のキャバリアより大型です。
通常のキャバリア=人だとすると、シールドファンダー=ゾウさん程度のサイズ差です。
全身を分厚い装甲で覆い、更にパルスシールドを備えた鉄壁の防御を誇ります。
搭載する武装もガトリングキャノンやミサイルランチャーなど高火力のものを取り揃えており、拠点防衛や攻撃で威力を発揮します。
機動力は鈍重ですが、自在に可動する鼻型砲塔により死角をカバーしています。
接近戦時には機体重量を活かし、象牙の強烈な一撃を見舞います。

●喋るの?
人語は喋りませんが動物的な補助AIを有します。
敵に対して威嚇したりします。
ぱおーん。

●どうやって戦うの?
「動きの速い相手なのだわ……」
迎撃を主体とします。
パルスシールドを展開し、ガトリングキャノンとミサイルを連射します。
敵のミサイルはノーズビームキャノンで撃ち落とします。
接近を許した場合、象牙を振り回したりビームキャノンで攻撃します。


ソフィア・エルネイジェ
以下は執筆時の参考資料として扱ってください。

●何人合わせ?
ソフィア
メルヴィナ
ルウェイン
以上三名です。

同背後なので扱いの公平性は気にしないでください。

●ソフィアについて
ルウェインの実力が如何程のものか観察しています。
ついでにメルヴィナをルウェインに引き合わせ、仲直りさせようと試みます。
「我が国にはこのような言い伝えがあります。殴り合いなくして、その者を真に知ったとは言えない」
頭バーサーカーなのでキャバリアで語り合えば分かり合えると考えました。
「父と母も出会いは戦場だったと聞き及んでおります。つまりはそういう事です。私もいずれ母のように戦場で……いえ、なんでもありません」

●ヴェロキラ・イグゼクターについて
インドラの構成部品を多数採用する事で、飛躍的な性能向上を果たしたヴェロキラの特別仕様機です。
動力炉等の一部複製が不可能な部分を除き、機体構造の殆どがインドラと同一です。
コストを抑えつつも高性能な機体が欲しいというソフィアの要請を受けて生産されました。
「新型機を一から作るよりは遥かに安上がりですし、インドラで得られた豊富な実戦データがそのまま活躍出来ます。インドラと同じ部品が数多く使われているので、整備の沙汰も良好でありましょう」
インドラの部品自体は決して安い物ではありませんが、既製品なので供給が安定しています。

●性能について
全ての距離に対応しています。
遠距離から中距離ではミサイル。
近距離ではデュアルガンポッドと格闘攻撃。
対装甲目標と一対多数の状況ではハイパープラズマバスターを使用します。
背部と脚部に搭載したブースターにより優れた機動性能を発揮します。
しかしその分扱い難い機体となっています。

●喋るの?
人語は喋りませんが動物的な補助AIを有します。
敵に対して威嚇したりします。
がおー。

●インドラとそっくりな見た目だけど法的に問題無いの?
禁止されてはいません。
しかし機械神と同じ外観を持つキャバリアの生産は行わないのが暗黙の了解です。
ソフィアは巫女の立場を利用してその暗黙の了解を踏み倒しました。
「真に罪ならインドラが許さない筈です」
インドラ自身はどーでもいいやって感じです。

●イグゼクターはどうやって戦うの?
「並の攻撃じゃシールドファンダーに通らない……ハイパープラズマバスターの接射ならば!」
デュアルガンポッドで牽制します。
ミサイルが発射されたら引き付けつつ迎撃します。
ベクタードイオンブースターを使用し、機体の向きを維持したまま横や後方に推進移動する事で、敵を常に正面に捉えます。
シールドファンダーがパルスシールドを展開したらミサイルを発射します。
爆煙で視界を塞いだ隙に接近します。
パルスシールドで守られていない側面か後方から接近し、ハイパープラズマバスターの接射を行います。



●新任祝い
 言うなれば、聖竜騎士団員たる資格であるとも言える。
 眼の前に立つ威容放つ機体。
 ルウェイン・グレーデ(自称メルヴィナの騎士・f42374)は、その機体の名を知っていた。
「これは……『インドラ』!?」
 困惑の感情が込み上げてくる。
 これが新任祝いだと己の上官に当たり、なおかつ『エルネイジェ王国』の王族、その気品漂う凛とした佇まいを持つソフィア・エルネイジェ(聖竜皇女・f40112)は頭を振った。
「七割方は正答と言っておきましょう」
 彼女は微笑むでもなく、その言葉を向ける。
 そこには期待はなかった。
 あったのは純然たる物差しのみ。ソフィアの瞳が今、自分を値踏みしているのだとルウェインは自覚しただろう。
 新任祝い、というのは建前でしかない。
 聖竜騎士団に招致されたのは、己が猟兵に覚醒したからである。

 逆を言えば、ソフィアにとって己という存在は、その一点のみにしか価値がない。
 戦力的に無価値なる存在を聖竜騎士団は認めないだろう。
 そもそも『エルネイジェ王国』の気風から考えれば、実力無き者は如何に特別な境遇があろうとも放逐される。
 そういう意味では今、己は岐路に立たされている。

 あの日、海竜教会に転移してしまったことを契機に己は激動たる時間を過ごした。
 部隊の配置換え、軍部からの小言。貴族社会からの突き上げ。
 ハッキリ言って、男爵という爵位などまるで意味をなさないかのような激動。己の処遇一つはソフィアの一言で決定したものである。
 そこに己の意志は何一つ介在できない。
 そういうものだ、と過去の己ならば諦観を持って受け入れただろう。
 しかし、今のルウェインは違う。

「では、三割は『インドラ』ではない、と?」
「ええ、こちらのキャバリアは『ヴェロキラ・イグゼクター』。『インドラ』より複製された部品を多数採用することで、性能を飛躍的に高めた特別仕様機です。これを本日よりグレーデ卿の機体とします」
「は! 有難き幸せ!」
 ルエウィンは即座に礼を持ってソフィアの下知に意を示す。
『ヴェロキラ』は広く『エルネイジェ王国』に普及した機体である。操作系統はほとんど同じと言ってよいだろう。
 もとより『インドラ』や他の機械神をベースに生産された傑作機である。
 これを用いて、そこに『インドラ』の複製パーツ、謂わば、補修用に死蔵していたものを使用しているというのならば、その性能の高さは疑う余地もない。

 だが、ルウェインは一つだけ疑問があった。
 そう、『インドラ』とは『エルネイジェ王国』の奉じる機械神の一柱である。
 カテゴライズとしてキャバリアであるのだ。それは事実である。だがしかし、奉じる神の体の一部とも言うべきものを流用し、あまつさえは瓜二つの外観を持つ機体を新たに建造するというのは……。
「愚考、具申よろしいでしょうか」
「よしなに」
「あまりにも『インドラ』に瓜二つでは、機械神『インドラ』の敬虔なる信徒の方々から顰蹙を買うことになるのでは……」
 そう、偶像崇拝というわけではないが、『インドラ』は『エルネイジェ王国』においては象徴的な存在である。
 御伽噺になるほどに『インドラ』は正義の雷としての側面が国民には知れ渡っている。
 この『ヴェロキラ・イグゼクター』が衆目に知れる所になれば、敬虔なる信徒は眉をひそめることだろう。

 そうなった時、この建造を許可したソフィアへの風当たりは批判となって吹き付けるのではないかとルウェインは思ったのだ。
 だが、ソフィアは頭を振る。
「他ならぬ『インドラ』の巫女である私が許しているのです。巫女は機械神の代弁者にして力の行使者。その私が許可し、また『インドラ』の雷がこれを打たぬのならば、この『ヴェロキラ・イグゼクター』は正統と言わざるを得ないのではないですか?」」
 その理路整然たる言葉は、一見すると正しくそうだった。
 けれど、言ってしまえば無理筋でもあったのだ。敬虔なる信徒であればある程に納得し難い感情的な部分をソフィアの巫女である立場だけでねじ伏せているのだ。
 だが、ソフィアが『そうだ』と言ったのならば、ルウェインは出過ぎた真似だと理解する。遠慮深謀たるソフィアの慧眼が曇っているとは思えない。

「は! 出過ぎた具申失礼いたしました!」
「よろしい。では搭乗を。すぐに戦闘演習を開始致します」
「すぐに、でありますか?」
 ルウェインはわずかにためらった。
 確かに傷は癒えている。やれ、と言われたのならばやる。しかし、唐突でもあった。
「『ヴェロキラ』の搭乗経験はありますね? ならば問題無いはずです」
 そういうことを聞きたいわけではなかった。
 だが、ソフィアは有無を言わさぬ雰囲気をまとっている。
 ここでまた何か問うことは不敬そのものであったし、今の自分は聖竜騎士団の団員である。そして、ソフィアは団長である。
 なら、何一つ己が言葉を挟むことは許されない。
「演習場にて待っています」
 その言葉にルエウィンは頭を下げ、見送る。

 ソフィアが去った後、見上げる『ヴェロキラ・イグゼクター』の装甲に触れる。
「これが、俺に与えられた機体……装甲は耐衝撃装甲か。靭性の高さが見て取れる……武装は……腕部の二連装機関砲、対空ミサイルは誘導弾か」
 謂わば、オールレンジに対応した機体であると見て取れる。
 顎部に内蔵された大口径過電粒子砲は、一点照射ではなくワイド照射……旋回照射によって広域に対応する武装なのだろう。
 四肢のクローは格闘専用だろう。スマッシャーテイルも『ヴェロキラ』から変わらぬ装備であると言える。
 だが、最も特筆すべきところは大型の推進装置である。
「ベクタードイオンブースター……可変翼と一体になっているのか。イオンスラスターも増設されている。低高度での制圧能力を必要とされているのか……?」
 いずれにせよ、己が今まで騎乗してきた機体のいずれにも勝る性能を持つ機体であることは明白であった。
 コクピットに乗り込めば、自然と高揚するようだった。
 コアユニットに搭載された補助AIが嘶くようにして目醒を示す。
「演習だとソフィア皇女殿下はおっしゃったな。わかっているさ。今の俺は品定めされている。猟兵という力一つしか、あの御方に俺は認められていない。己が武威を示せ。俺も、お前も、価値が問われている――」

●少し前
 メルヴィナ・エルネイジェ(海竜皇女・f40259)は陰鬱な気分だった。
 何故か、と言われたのならば彼女は全部ソフィアお姉様が悪いのだわ、と応えただろう。
「よいですか、メルヴィナ」
「……」
 何一つよくないのだわ、とメルヴィナは思ったが口には出さなかった。
 海竜教会より聖竜騎士団の詰め所である基地へと呼び出されたメルヴィナは、あまり外に出たがらないが故に、此処まで引っ張り出されたことに不満の色を顔から隠そうとはしなかった。
 人に会うことも、人の目にふれることも今のメルヴィナは厭う。
 それに姉であるソフィアは事ある毎に自分を聖竜騎士団の団員として扱うところがある。確かに王族としての序列は姉であるソフィアの方が上であるのは認めるところであるし、そういう慣習なのだから仕方ない。
 けれど、勝手に自分の進退を決める、というのは姉の僅かに煩わしいところであった。
 今回だってそうだ。

「確かに貴女は『リヴァイアサン』の巫女。ですが、猟兵でもあります。グリモア猟兵の求めに応じて事件解決に向かわねばならないこともあるでしょう。それは貴女の意思決定を尊重致しましょう。ですが」
 そう、ソフィアが次に何を言わんとしているのかをメルヴィナは理解する。
 次に姉はこういう。
『リヴァイアサン以外のキャバリアに乗れるように訓練しなさい』と。
「『リヴァイアサン』以外のキャバリアに乗れるように訓練しなさい」
「ほら、やっぱりなのだわ」
「何が、です?」
「こちらの話なのだわ。姉上、でも、お断りするのだわ」
「いいえ、なりません」
 姉の言葉はキッパリしていた。

 確かにソフィアの言葉はうなずけるところがある。猟兵として力を求められたのならば、メルヴィナは向かうだろう。
 それは自分にも理解できる。
 きっとためらうことはないだろう。
 けれど、己は『リヴァイアサン』の巫女である。『リヴァイアサン』さえあればいいのだ。
 そもそも、訓練とソフィアは言ったが、己に必要であるとは思えないし、ハッキリ言えば無駄だとさえ思った。
 己は姉であるソフィアや兄ジェラルド、妹であるメサイアのようなキャバリア操縦の技量はない。凡庸そのものである。
 ただ操縦ができる、という程度でしかない。
 これまで自分がオブリビオンマシンに対して勝利することができたのは、『リヴァイアサン』の性能在りきである。
 己が、こうしたい、こうしなければ、と考えるより早く『リヴァイアサン』が動いているのだ。自分は引き金を引く役割でしかない。

 だからこそ、今更、とも言えたのだ。
「メルヴィナ。もし、今後貴女が大切なもののために戦う時、『リヴァイアサン』の力がなければ何物も護れぬというのでは、きっと後悔することになりましょう」
 その後悔をせぬために、というソフィアの言葉にメルヴィナは押し切られる形で演習場にてキャバリア『シールドファウンダー』のコクピットに押し込められるのだ。

 ため息が出る。
 姉の無茶振りは今に始まったことではない。
 メルヴィナは兄弟姉妹の中にあっては、比較的問題のない皇女である。
 他の兄姉妹が、ちょっとアレすぎるからか、離婚騒動が起こるまでは目立たぬ皇女であったのだ。だからこそ、ゴシップ誌に面白おかしく喧伝されるところとなったのだが。
 とは言え、である。
「やっぱり必要ないのだわ……」
 この機体『シールドファウンダー』はゾウ型キャバリアである。
 通常のキャバリアサイズ絡みても大型である。
 全身を分厚い装甲で覆い、更にパルスシールドを有しているため鉄壁の防衛型キャバリアであると言えよう。
 だが、防御一辺倒であるわけではない。
 ウェポンラックに懸架される多くのガトリングキャノンやミサイルランチャーと言った火器は制圧にも用いられる。

 唯一の難点と言えば、その巨体と装甲故に動きが鈍重である、ということだ。
 とは言え、その鈍重なる機動力を補うように鼻部に砲塔を備えている。自在に動く砲塔は死角をカバーすることができるのだ。
 また鈍重である、ということは機体の総量もまた活かすことができる。
 重量を活かしての突進や、踏みつけ、さらには象牙型の武装によって強烈なる一撃で敵キャバリアを吹き飛ばすことが可能となっている。
「そういう意味では『リヴァイアサン』と似ている、とも言えるのかもしれないのだわ……」
 己が乗騎『リヴァイアサン』もまた堅牢なる装甲を持つキャバリアである。
 仮に装甲を傷つけられたとしても水場であれば装甲が再生する。
 さらに鰭や顎部によって敵を切り裂くことも容易であるし、何よりオーシャンバスターの一撃は苛烈そのものである。
 巨体を活かす、という点においても陸上の『リヴァイアサン』とも言えるかもしれなかった。
 けれど、メルヴィナは陰鬱というか、憂鬱だった。
 演習場での訓練ということは聖竜騎士団の団員のいずれかとの模擬戦ということになるだろう。それだけで億劫だった。
 どうせなら、まだ見知った顔であるヘレナやエレインのほうがよかった。
 この際、兄であるジェラルドでもよかった。ちょっとアレだが、あの兄は己のことを一人の個人として見てくれる。
 己が一人で十分だということを彼ならば認めてくれるであろうと思ったのだ。

 だからこそ、メルヴィナはソフィアがジェラルドや見知った者たちを訓練相手に選ばないこともまた承知していた。
「仕方ないのだわ……」
「メルヴィナ、準備はよろしいですか。今回は相手に要らぬ感情抜きで仕合っていただくために、通信回線は遮断してあります。接触回線も同様です」
「わかっているのだわ、姉上」
「よろしい。では、両者共、実戦のつもりで臨みなさい」
 ソフィアが演習場の管理ブースで告げる。
「始め――!」

●激突
 演習場に響き渡る轟音があった。
『ヴェロキラ・イグゼクター』が低高度でありながら、しかして空を疾駆する。
 対する『シールドファウンダー』は大地を踏み鳴らすようにして一歩を踏み出していた。
「『シールドファウンダー』だと? あの装甲……やはりソフィア皇女殿下は俺を推し量っているか。それも、試金石にあの重装甲機体を……!
 ルウェインは『シールドファウンダー』を厄介な相手だと判断した。
 そう、己の『ヴェロキラ・イグゼクター』は高機動を旨とする機体である。たしかに遠距離、中距離、近距離とオールレンジに対応することのできる機体であるが、重装甲を誇る『シールドファウンダー』には分が悪い。

 だが、『シールドファウンダー』を駆るメルヴィナにとっても『ヴェロキラ・イグゼクター』が相手である、というのは驚きを持って迎えられるものであった。
 乗り手が誰なのか、ということも気がかりではあった。
「『ヴェロキラ・イグゼクタ』?『インドラ』にしか見えないのだわ……いえ、それよりも、一体誰が乗っているのだわ?」
 あの『ヴェロキラ・イグゼクター』は聖竜騎士団の団員であっても、おいそれ乗りこなせる代物ではない。
 高機動故に速度Gによる負荷が凄まじいのだ。
 並大抵の騎士では即座に速度に体が保たないだろう。それを持ち出してきた、ということは乗り手に相応しい者がいる、ということだ。

「堅牢堅固なる要塞地味た機体……だが、やってみせねば、ソフィア皇女殿下の顔に泥を塗るということ。メルヴィナ姫殿下の姉君に恥をかかせるわけには!」
 ルウェインはスロットルを全開にする。
 加減は為しだ。
 戦いが長引けば長引くほどに己が不利となるだろう。それは強靭な装甲を持つ『シールドファウンダー』の乗り手も理解しているはずだ。
 故に、速攻なのだ。
 噴出するイオンスラスターによって『ヴェロキラ・イグゼクター』が空中を急旋回と急制動でもって凄まじい軌道を描きながら『シールドファウンダー』の死角へと回り込もうと飛ぶ。

「速い、のだわ……! あの加速、急制動で……パイロットは耐えられるのだわ!?」
 だが『シールドファウンダー』もまた堅牢堅固たる要塞と称されたキャバリアである。 
 敵が視覚を狙うであろうことは容易に想像できた。
 想像できた、ということは対処することができる、ということでもある。
 即ち、搭載された火器による『ヴェロキラ・イグゼクター』の誘導と、その誘導した一点でもって敵を打ちのめす方策がある、ということである。
「なんたる火器……! 火力では負けるが!」
「やっぱり速いのだわ。牽制にもならないのだわ……! でも!」
 メルヴィナはいつのまにか鬱屈たる思いが吹き飛んでいることを理解した。迫る『ヴェロキラ・イグゼクター』は凄まじい加速と急制動でもって、ハリネズミの如き弾幕を躱している。
 
 並大抵のことではない。
 あの動きは直感的な動きではない。長年に渡って戦場にて練り上げられた経験則に基づく動きだ。
 それ故に、機体性能に頼り切った空中での機動制動ではなく、地面を蹴り、多角的な……それこそ三次元的な動きを持って弾幕をかいくぐっているのだ。
 恐らく、地味な、と言われるたぐいの技術なのだろう。
 泥臭い、と。
 けれど、泥もまた磨き続ければ玉の如き輝きを見せるように、『ヴェロキラ・イグゼクター』の動きは洗練されていた。
 未だ機体に僅かに翻弄されている節はある。
 それでも。
「よい動きなのだわ……私とはやはり違うのだわ」
 ソフィアのように強靭ではなく。
 ジェラルドのように天性ではなく。
 ソフィアのように苛烈でもない。
 けれど、其処にあるのは、確かに人の武の結晶であった。荒削りだが、その削られた部分が光を反射して煌めいているようにさえ思えたのだ。

「パルスシールド、その囲いの中ならば!」
 ルウェインは理解した。
 確かに『シールドファウンダー』は凄まじい防衛性能を持つ機体だ。以前の己の乗騎と技量、そして心持ちであったのならば、為すすべもなかっただろう。
 ただ手をこまねいて、ジリジリと弾幕牽制に押されてすり潰されていた。
 だが、今の己は違う。
 己には愛がある。
 そう、例え折られ、砕けたのだとしても、その確かな愛がある。
「そう! これは! 正しく愛! 愛の勝利だと言わせてもらおう! メルヴィナ姫殿下への愛は!!」
 ルウェインは叫ぶ。 
 それに呼応するように『ヴェロキラ・イグゼクター』のコアユニットが反応する。

 ソフィアは、その反応をモニタリングしていたが、コクピットの中の言葉もまた聞こえていたのだ。
「頭痛がします」
 確かにソフィアは拗れたメルヴィナとルウェインの関係をほぐすために、今回の演習を一計として講じたのだ。
 確かに、だ。
 確かに、エルネイジェ王国にはこういう言葉ある。
「殴り合いなくして、その者を真に知ったとは言えない」
 と。なんて脳筋な言葉であろうか。だが、事実である。
 ぶつかり合わずに、摩擦を厭うて人を知ることなどできはしまい。故に、とソフィアは思うだの。
 寝物語に聞かされた父と母の出会い。
 出会いは戦場。
 しかも敵同士。 
 死力を互いにつくして戦い……そうして紆余曲折のなんやかんやの、その紆余曲折はぼかされていたが、まあ、その想像に容易いことがあったのだと思う。
 そういう意味ではソフィアはメルヴィナを羨ましく思うのだ。
 いや、やっぱりヤだな、と思った。
 如何に回線が切られているとはいえ、ルウェインはコクピットでメルヴィナへの愛を連呼しているのだ。
 やばすぎる。
 兄ジェラルドと同じタイプだろうと思ってが、確信に変わる。
 兄に対する忌避感にも似た感情が湧き上がってくる。

 だが、同時に思うのだ。
「私もいずれ母のように戦場で……」
 彼らと同じような気持ちになることがあるのだろうか、と。だが、それは詮無きことだとソフィアは頭を振る――。

●決着
「――獲った!」
『ヴェロキラ・イグゼクター』が凄まじ弾幕をかいくぐり、その顎部のバイトファングを『シールドファウンダー』の喉元へと突き立てる。
 その瞬間、演習場に訓練の終了を告げるアナウンスが響き渡る。
「両者、よく戦いました。お疲れ様でした。第一格納庫へ」
「……よしっ! やはりメルヴィナ姫殿下への愛は何物にも折ることはできぬのだ!!」
 ルエウィンはコクピットでスーツの襟を緩める。
 汗が滝のように流れていた。
 肉体にかかる『ヴェロキラ・イグゼクター』の速度Gの負荷は凄まじい。だが、やりきった。やれた。やれたのだ。

 己が武威を示すことができた。
 これでソフィアも納得するだろう。そういう充足感があったのだ。
 だが、『シールドファウンダー』のパイロットが機体より降り立つ姿を見て、ルウェインは目を見開く。
 そこに在ったのは、今しがたまで自分がコクピットで愛を叫んでいたメルヴィナその人であったからだ。
「なっ、な!? め、メルヴィナ姫殿下!?」
「とっても疲れたのだわ……」
 メルヴィナは慣れぬ機体の操作でくびれにくたびれている。今すぐにでも横になりたい気分だった。

 けれど、メルヴィナは背筋を伸ばすことになる。
「メルヴィナ皇女殿下!」
 声にぎくりと身を震わせる。
 振り返れば、其処には『ヴェロキラ・イグゼクター』より降り立つルウェインの姿があった。
 まさか、という思いがあった。
 ソフィアに一計仕掛けられたことに漸く思い至ったのだ。
「あなたは……!」
 背を向ける。
 それは拒絶の意志だった。嫌な人だ。あれは、己の心をかき乱す存在だ。その忌避感が足早にソフィアへと詰め寄る形となって現れる。
「姉上!」
 メルヴィナにしてはあまりにも荒らげられた声に聖竜騎士団の整備を担当する者達からも目が集まる。
 だが、かまっていられなかった。
「どういうおつもりなのだわ!?」
「何か問題でも?」
 ソフィアは素知らぬ顔である。何をそんな、とメルヴィナは姉の思惑に踊らされたことに怒りを顕にしようとして、背より冷水を浴びせるようにルウェインの声が響きまた背筋を伸ばしてしまう。
「メルヴィナ皇女殿下! 先日の多大なる非礼! 真に申し訳ございません!」
 振り返れば、そこには膝を突いて頭を垂れるルエウィンがあった。
 銀髪が汗に塗れている。

 それを拭うこともなく、ただひたすらに頭を垂れているのだ。
 そのあまりにもな態度に周囲からは密やかな笑い声が聞こてくる。メルヴィナは動揺するしかなかった。
 眼の前のルウェインは世間から己が面白おかしく笑われていた頃の己と同じに見えたからだ。
 そして、同時に自身の姿にも重なる。
 婚約者を。
 ただそうであるという理由だけ、その一点のみにおいて愛そうとしていた己を思い出させるものであったからだ。

 眼の前の銀髪の男は、己とおなじなのだ。
 相手に届くはずのない好意を悪戯に注ぐだけの自分と同じだ。なんとも滑稽なことであろうか。
 あまりにも愚か。
 あまりにも愚直。
 なんて哀れな男だろう。今ならばわかる。これは、己の過去の咎である。同時に罪であるとも言えた。
 だからこそ、メルヴィナは思ったのだ。そして、それは自然と口に出ていた。
「私もちょっと言い過ぎたのだわ……」
 小さな、本当に小さなつぶやきだった。
 それはルウェインとソフィアにしか聞こえぬ僅かな言葉だった。それっきり背を向けてメルヴィナが立ち去ろうとするので、周囲にはなおもルウェインが拒絶されたように写ったかも知れない。
 
 だが! ルエウィンには関係なかった!
 そう! まったく意に介さない。他者の視線? そんなものが何の意味になる。
 今、ルウェインは得たのだ!
 最早お言葉すらいただけぬと思っていた己が身に降り注いだ天上の旋律、音色にも勝る御声が!
「メルヴィナ皇女殿下……!」
 感激である。
 お言葉だけではなく、慈悲の御心を持って下知くださったのだ!
 なんたる幸せだろうか!
 頭の中でメルヴィナの言葉が反響している。後で自室に戻ったら、何度も思い返そうと思った。
 可憐すぎる。
 なんということだろう。先程まで「ヴェロキラ・イグゼクター』の恐ろしいまでの速度Gで疲弊していた身が癒やされていく。
 今ならば、ソフィア皇女殿下にも勝てる気がする。
 いや、行ける! 俺ならば! とルウェインは完璧に調子こきはじめていた。

「疲れたからもう帰るのだわ」
「は! お手合わせ頂き心より感謝申し上げます! 御身をお休め下さい!」
 ルウェインの言葉に見送られてメルヴィナは去っていく。
 その姿が見えなくなるまでルエウィンは頭を垂れ続ける。最大限の礼である。これ以上無い、という程にルウェインは満ち足りていた。
 これほどまでの充足を味わったことはない。
「よかったですね、グレーデ卿。そして、『ヴェロキラ・イグゼクター』、やはり貴方に任せます。より一層……」
 励みなさい、と言いかけてソフィアはぎくりと身を震わせる。

「メルヴィナ皇女殿下が俺とお話してくださった……なんということだ。あの可憐なる唇が紡いだお言葉を? この俺の耳朶が受け止めたというのか? 我が身ながらなんと妬ましいことか。許しがたい。いや、あの御声を受け止める栄誉を受けたのだ。よくやったと俺からも褒めてやりたいくらいである。ああ! 今俺の心は歓喜に震え、充足に胸張り裂けんばかりだ! くっ、この胸の痛みはやはり、そういうことなのか! 恋の戦慄きとでも言うのか! ぐふぅっ! なんだ!? 本当に胸が痛む……! だが、メルヴィナ皇女殿下の御声を思い返せば、この程度の痛みがなんだというのだ! 嗚呼メルヴィナ皇女殿下! 嗚呼メルヴィナ姫殿下! やはり俺の忠義は、あの御方にこそ捧げられて然るべきものなのだ! 俺は騎士としての真髄を得たのだ! メルヴィナ姫殿下! 俺は!」
 ばた、とそのままルウェインは倒れ込む。
 恐らく、『ヴェロキラ・イグゼクター』の加速度Gによって身体が限界を向けたのだろうことは容易に想像できる。

 だが、ソフィアは担架を呼びつけるだけであった。
「……」
 ソフィアはルウェインの力を見定めることには成功した。
 だが、なんていうか。
 こう、釈然としない気持ちを抱えることになってしまったのだ。
 一瞬でも羨ましいな、と思った己を恥じたい。滅茶苦茶、恥じる。
 やっぱり、このルウェインという騎士は兄と同じだ。生理的に無理。
「……よしなに」
 そう言っておけばなんとかなる、とソフィアは嘆息を吐き出すしかなかった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年02月05日


挿絵イラスト