12
花知らず、命知らず

#ダークセイヴァー #疫病楽団

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ダークセイヴァー
🔒
#疫病楽団


0




●死に至る演奏
 清き水の代わりに想いを注いで、花は咲く。薄桃色や淡い紫、白の柔らかな色で。
 野に咲く花ではないけれど、人の手でしか生み出せない幸せの花。
 匂やかな春の気配は無く、粘土や布の香りばかりが、村にふんわり漂う。
 陽の恵みも与らない薄闇の村では、人の手でつくられた花が日々の生活を彩っていた。
 かつて見た花を思い出しながら、村人たちは今日も手を動かす。
 たとえ幻めいた夢の色であっても、彼らは慎ましく平穏を享受していた。
 稀に見る嵐で花々が無残に散ったとしても、過ごし方は変わらない。だからこそ。
 ――それはどんな香りなの。
 頭を無くし彷徨う者たちは、その村を求める。
 持て余した手でハープやリュートを弾き、美しい音色を響かせながら。
 ――それはどんな色なの。
 知ることが叶わないものを欲し、わからないものを羨む。
 そして自分たちならではの愛を、わからないものへ注ぐ。
 ――わからないから、大事にしましょう。
 慈しみ抱えるように、かの者たちが奏でる音楽は村の日常を朽ちさせていく。
 姿なき病魔で侵し、絶望に拉がれた人々の嘆きや涙も音色のひとつに換えて。
 ――だいじに、だいじにしましょう。
 訪れた村で、甚く大切そうに壊すだけだ。花も命も、見境なく。

●グリモアベース
 花を作りにいきましょう。
 ホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)は、そう切り出した。
「行き先は、山間にひっそりとある小さな村よ」
 村とその周辺は土地も痩せ、なかなか花が咲かない。
 風の流れの影響か、花香につられた獣の群れに、村は幾度となく襲われてもきた。
 それもあって、ここ十数年、村人たち自ら花の種や球根を植えていない。
 おかげで本物の花を見たことがない子どもも多い。
「それでも、やっぱり薄暗い日々で花の彩りは欠かせなかったのね……」
 だから村人たちは作り続けている。粘土や布、紙を用いて、花を。
「ただ、外に飾っていた花が全部、先日の嵐で散っちゃったみたい」
 花飾りで溢れていた村も、嵐によって殺風景になってしまった。
 そのためいつも以上に、花を作るのに人手が要る。
「と言っても、大人が知る花の種類も多くはないらしいの」
 つくる花の色や形は、いつも決まり切っている。
 だから様々な花を知る猟兵がいたら、ぜひ村人に教えてあげてほしい。
 花をよく知らなくても手伝ってくれるなら、村人と一緒に作ってほしい。
 そうホーラは告げた。そして。
「……もちろん、花を作るためだけに転送するんじゃないわ」
 猟兵が動くからには当然、オブリビオンが絡んでいる。
「近ごろ感知されてる『疾病楽団』が、その村を標的にするのよ」
 平和に暮らす人々を探し、不治の病を感染させるオブリビオンの群れ――疫病楽団。
 村が彼らの襲撃を受けるのはわかっている。
 だからこそ、村を救うため動いてほしいのだと、ホーラは言う。
「できれば花作りと平行して、村の防護を固めておいてほしいの」
 対策を施す際に、ひとつ注意を払わなければならないことがある。
 疾病楽団がターゲットにするのは、『慎ましくも平穏に人々が暮らす村』だ。
 村人が自ら、敵を警戒したり備えのために動いてしまうと、今回襲われるはずの村が標的から外れる可能性も出てくる。
 疾病楽団を確実に倒すため、村人には普段と同じ一日を過ごしてもらうのが良い。
「正確な数はわからないけど、襲来するオブリビオンの数も多いわ」
 単体であれば然程こわくない相手も、数が数だ。油断は禁物だろう。
「それと……ひとつ、なんとなく引っかかることがあるの」
 具体的な光景は見えずとも、覚えた予感は拭えない。
 だからこそホーラは、飾ることなく猟兵たちへ感じたものを伝える。
「恐れるほどの相手じゃなくても、ぜんぶ倒しきるまで気を抜かないでね」
 説明を終え、彼女は笑顔を猟兵たちへ向けた。
「さ、準備ができた方から声をかけてね。転送するわ!」


棟方ろか
 お世話になります、棟方ろかと申します。
 シナリオの主目的は『オブリビオンの殲滅』です。
 第一章は村で過ごし、第二章、第三章でオブリビオンを殲滅します。

●一章について
 オブリビオンの襲撃に備えつつ、村を手製の花で飾っていきましょう。
 やってみたいことがあれば、思い思いにどうぞ!
 なお、日常パートではありますがオブリビオンの脅威が去っていないため、グリモア猟兵のホーラは同行不可です。予めご了承くださいませ。

 それでは、皆様のプレイングお待ちしております!
146




第1章 日常 『闇を彩る花飾り』

POW   :    粘土で花飾りを作る

SPD   :    折り紙で花飾りを作る

WIZ   :    布で花飾りを作る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

花を作り続ける村。
暖かみを覚えるそれに頬が自然と緩むのを感じます。
私で良ければ、その幸福の一端になりたい。
村人へは『礼儀作法』に則って旅人と自己紹介。
村に滞在する短い時間の間、花を作るお手伝いを申し出ます。
村人から教えてもらいながら折り紙で造花を作っていきます。
合間に私の魔力で氷の造花、アリウムやゼラニウムを生み出したり、
私が持つ刺突剣【氷華】の鞘部分のゼラニウムを披露しても良いかもしれませんね。
「ええ、母はアリウムが好きで――」

防衛にはホワイトナイトを私から一番離れた場所に配置させ、見張り・警戒させます。
あとは万が一の時を考え、村人の避難場所を、周りを散策し見つけておきましょう。


矢来・夕立
SPD
折紙ならオレの独壇場です。

山あいの村にありうる花、というと。オレの故郷では、まずウメの樹。
それからヤマアジサイ。テッポウユリ。泉には小さなハスが咲く。
……千代紙を多めに持っていきます。色も、少なくとも七色は。

ついでです。『紙技・彩宝』。
これで飾るも紛い物ではありますが、より本物に近い花をお見せしましょう。

こうしてごく平和に過ごしていれば……この世界では平和というのも貴重に思えますが、おいといて。
例の疫病楽団を釣れるんですよね。

グリモア猟兵の予知能力は無視できないな。いつ何があってもいいように『聞き耳』を立てておきます。これくらいなら警戒しているようには見えないでしょう。


タロ・トリオンフィ
咲く花は、それだけで心を動かす事があるけれど
――人の手で造られた花も同じくらい美しいと思うよ
それはきっと、望んだ人の心に咲いたものだから

こうして自由に動ける身を得てから、まだそう長くはないけれど
冒険した各世界で見た印象的な花を絵に描いて見せる
陽光に咲き誇る太陽のような花
夜風に揺れて咲く星の如き花
もしよかったら、こんな花を一緒に作ろう
僕、花を作った事は無いから、教えてくれるかな?

…さて
自分が作る花の中に、小さな鈴を仕込んでおこう
此れを外に飾って
襲撃の際には音が知らせるよう

もし、不思議に思う者がいれば誤魔化しておこう
ああ、鈴の音はね
野生動物は嫌がるものも多いから、獣除けになるかもって、
そう思ってね


鵜飼・章
鴉を村中に放って隠れて四方を見張らせ
敵が来たら鳴いて警告するように言う
村の人は屋内に籠って花を作ってもらえれば
興味を持ってもらえるように頑張ろう…

UCで小学生の『ぼく』を呼び出して
【コミュ力/優しさ】を使い
主に子供達とその親に
手分けして声をかけ屋内に集める

花作りは正直自信が…
代わりに色鉛筆やクレヨンをあげて
白い紙に絵を描くことを教えたいな

皆はどんな花があったらいいと思う?
花びらの色や形
葉っぱの数や枝の長さ
見たことない花だって
自由に描いていいんだよ
…と言われても戸惑うだろうから
『ぼく』が一緒に描いて遊ぶ
うん、上手
描けたら綺麗に切ってお家に飾ろうね

何らかの報せがあれば僕だけ外に出て
敵を討ちに急ごう


海月・びいどろ
本物の花も、そうでない花も
ヒトをしあわせにするのは、変わらないんだね
…映像だけでも、見せてあげられない、かな

電子の海から喚び出したのは
ぼうっと光を浮かび上がらせるスクリーン
ボクが見てきた森や、花畑の風景
これをしあわせと呼ぶのかは分からない、けど
花の姿を伝えられたら、いいな

その映像の中の花を参考に
レースの布を貼り合わせて
生成りと白い花を、作ってみよう

……へんなとこ、くっついた
それに、せんさいで、すぐ破れる…

うまく花弁にならないね
キミたちが作る花は、かわいい、のに
どうやって作るのか、教えてくれる?

大事にするというのは、むずかしいね
この花にも、こころは、宿るもの…?


レイン・フォレスト
【アイビス】
この世界は殺風景だからな…せめて花を飾りたいって気持ちは分かるよ
ただ、花の種類ってよく知らないんだよな
うん、でも
フィリアが作り方教えてくれるなら頑張るよ

【WIZ】選択
挨拶しつつ、髪の花を千切るフィリアを見て
あれ、千切って大丈夫なのかな…身体に悪影響とかないといいけど
と心の中で

春の花?
フィリアの言葉に少し考えて
僕が知ってるのはチューリップ、あとは桜、とか

そうだね、枝も作ってたくさん作った花を付けたら華やぎそうだ
針仕事ってあまり得意じゃ無いんだけど……

つ……っ
案の定指刺しちゃったよ
でもたくさんできた花を見て痛さも忘れる

飾るときの見回りは「第六感」や「聞き耳」で
気配や音に気をつけながら


フィリア・セイアッド
【アイビス】
花は私も大好き
優しい気持ちになれる花を 手作りするというのも素敵
少しでも役に立ちたい
がんばろうねレイン 傍らにいる友人ににっこり

「WIZ」を選択
村の人ににこりと笑顔で自己紹介した後 お手伝いさせてくださいなと
小さい子が髪の花に興味をしめせば 
見たことない?おひとつどうぞ と
折角だから 春の花を作りたい
タンポポ、レンゲ、菫…他に何があったかしら
一生懸命に針を動かしながら 春を待つ歌を口ずさむ
桜はどうかなというレインにぱっと表情を輝かせ
素敵 沢山作って満開にできないかしら
様々な色合いのピンクの花を枝に飾る

花飾りを飾る場所を探しながら 村の周りを点検
どうか災いを退けられますようにと祈る


三ヶ月・眞砂
幸せの花…うん、いい響きっす
人の手が作る希望
たくさん咲いたところ俺も見たいっす
よーし張り切って手伝うっすよ!

念のため竜槍スティルにこっそり辺りを警戒してもらう

SPD
千代紙は俺の故郷でも大衆的な遊びっすから
ちょっとは心得があるっすよ
最初は村の人たちがいつも作る花を教えてもらう
うわ~手際いいなぁ
きみも上手っすねぇ
小さい子が一生懸命折ってたりするのを見てると
何だか感動しちまうなぁ
じわっと目に涙が浮かぶもぐっと堪え

じゃあ今度は俺の番っすね!
紙を何枚か組み合わせて…できた!
これはキキョウっていうんすよ
星の形で可愛いっすよね

あなた方が込める思いにはきっと及ばないっすけど
俺はこの平穏を絶対に守ってみせるっす


キトリ・フローエ
本物じゃない、けれど、人の手でしか咲けない花
それならば、あたし達にも咲かせられるはずよね

一緒の人や、知っている人がいたら、皆で頑張りましょ!
もしあるなら、この針金の束を緑にしたいの。そういうテープはあるかしら?
緑の針金を茎にして、先端に布で作った白い花を絡めて固定
それを【早業】でいくつも作ったら、(白詰草みたいな)花冠くらいは作れないかしら
あたしはまだ初心者だけど、家のドアとかに飾れるような物ができたらいいな
作る花には【破魔】と【祈り】の力を込めて、少しでも誰かを守れるように

村の防護を固めるにはどうすればいいかしらね?思いつかないけど、
もしフェアリーの力が必要だったら、遠慮なく読んでほしいのよ


稲成・ヒゴ
折り紙か!ヒゴは得意だ、沢山作るぞー

ここのわらしらは花をあまり知らないのかー
花と言っても、色も形も様々だと言うのをわらしらに教えたいな
「よーし。ヒゴがお主らに折り紙を教えてやるぞー」

誰でも作れる平面の花から、組み合わせて立体になる物まで様々
色紙が足りなければ、ヒゴ持参のも使って作ろう
赤、白、黄色、カラフルなチューリップ。これは春の花
黄色くて大きな花、これはヒマワリ。暑い夏に咲くぞ
桃色や白のコスモス。秋の花だ
冬の花…?あ!椿はどうだ?真っ白な雪に映える赤い花だ
他にも、バラに水仙、桔梗に菖蒲

そしてこれはとっておき。桜柄の千代紙だ!ヒゴの宝物
わらしらと手分けしてパーツを作り繋げたら、花くす玉完成だー


アイシス・リデル
村の中を、こっそり、ちっちゃなわたしたちに見てきてもらう、ね
わたしは村の人たちの前には出ないで、どこかに隠れてる、よ
せっかくきれいなお花でいっぱいなのに、わたしが出てったら、台無しになっちゃうもん

わたしたちが見たお花作りを真似して、わたしもちっちゃなお花を作ってみる、ね
わたしたちの中には材料になりそうなスクラップが色々あるから、それを使う、よ
本物のお花はきれいで、それにいいにおいがするんだよ、ね
近くで見たことない、から、ちゃんとした形はわからないし
スクラップで作ったお花だから、いいにおいもしない、けど……

……こっそり置いてってもいい、かなぁ?
すぐ、棄てられちゃうかも、知れないけど


レザリア・アドニス
いろいろな色の布で春を告げる花を作ります。
福寿草のほかに、椿、梅、フリージア、クロッカス、スノードロップなども。
まずは紙に花の形を描いて、そして布から花びらを切って、糸で縫い合って作り上げる
白、桃、黄色、紫…このいつもいつも暗い空の下にも、色鮮やかな花が咲くといい
興味ある子がいれば、作り方を教えてあげる(というか、交流はあまり上手くないので、とりあえず見せる)
花の名前と花言葉を紙にも書いて、後の見本になるかも
筆と鋏の音は、とても心地いい
周りを埋めるほどに花を作って、安らかな一時を過ごす
いつかにダークセイヴァ―の人も、私が別の世界に見た、青い空の下で咲く花が見えれば
その日がきっと来るでしょう



●花咲う
 霞たなびく山間に、花知らずの村はひっそり存在する。
 浩々たる月明かりに照らされて浮かぶ、色濃い森と大地に囲まれた小さな村。
 街ならば当たり前に目撃する石畳や建造物もなく、くたびれた民家と家畜小屋が疎らにあるだけの長閑なところだ。
 家から手招く橙の灯りをよそに、アイシス・リデル(下水の国の・f00300)は村の外れに佇んでいた。
「いってらっしゃい、わたし」
 タールの身から零れ落ちたのは、アイシス本人を模した小さな追跡体たち。
「いってきます、わたし」
 誰の耳にも届かぬ挨拶を交わし、散り散りに駆けだした追跡体の後ろ姿を見送る。
 夜闇に紛れていれば、追跡体が見つかったとして、村人が見咎めることもないだろう。
 そしてアイシスはすぐさま、ぺたりぺたりと足早に納屋へ身を隠す。
 どんなに外の世界を目の当たりにしてきても、やはりアイシスが慣れないのは人間の眼だった。
 彼女が慣れ親しんだ、地下に伸びる水道の暗がり。それを彷彿とさせる薄い闇に呑まれたこの世界も、まだアイシスにとって慣れない明るさで。
 ――せっかく、きれいなお花でいっぱいにするんだもん。
 訪れた目的を、彼女はひしひしと感じ取る。
 ――わたしが出てったら、台無しになっちゃう。
 だから少女は底へと沈む。納屋の片隅で、膝を抱えて。

 薄紗を思わせる夜の明かりが、村一帯を覆う。
 揺蕩う水面に似た双眸で世界を映しながら、海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)が微かに唸った。
 ――映像だけでも、見せてあげられない、かな。
 花畑も鮮やかなる森の輝きも、びいどろはよく知っている。天然の花を知らぬ子どもたちへ伝えるなら、視覚による効果が絶大だろうとびいどろは電子の海を展開した。
 明滅する電子から、彼が喚び出すものは決まっている。水面を切り取ったかのようなスクリーンだ。
 それぞれの家から覗ける位置に垂らせば、蛍に似た淡い光を纏うスクリーンは、びいどろの記憶を映写する。いつか見た想い出の欠片をひとつひとつ繋げて、終わりなき世界をそこに生む。
 ――ひとときの羽休めを。みんなに。
 わあ、と歓声があちこちから零れた。
 沃土で溢れんばかりに咲き成長する草花や作物が、木漏れ日に微睡む神秘的な森が、水の幕に次から次へと映し出されていく。
「すっごいのね! なんだか、そこに森があるみたい!」
 村人たちと一緒に映像を眺めていたキトリ・フローエ(星導・f02354)が、小さく拍手をする。
 映像とはいえ鮮明な色と音が広がり、森をよく知るキトリにとっても郷愁を覚えるものだった。
 同じく三ヶ月・眞砂(数無き星の其の中に・f14977)もまた、琥珀色の双眸に感心を宿していて。
「たまげたもんっすね!」
 猟兵たちの反応も上々で、びいどろは僅かばかり目を細めた。
 ――これをしあわせと呼ぶのかは分からない、けど。
 誰かの瞳を煌めかせ、誰かの瞳に夢色を灯す、びいどろの力。
 すごい、きれい、と闇の中でもはしゃぐ子どもたちを遠目に、びいどろは花づくりの材料を見下ろす。
 ――花の姿を伝えられたら、いいな。
 目にしたものが、村の人たちの助けとなることを願いつつ、レース素材へ手を伸ばす。
 村人たちの興味が心開き、猟兵たちを迎え入れた頃。
 鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は紫の双眸にもうひとりの自分――少年期の章を映した。
「ここにいるぼくは、僕と同じで、でも違うことを」
 握手やハイタッチを交わさずとも知れる。
 触れるまでもなく、章と『ぼく』は歩み出した。村人たちを、屋内へ集めさせるために。

 春爛漫。冬を乗り越え芽吹いた緑の瑞々しさを全身で表して、ひとりのテレビウムが跳ねる。日課の散策は世界を跨いでも変わらない。
 ぴょこんと弾けた稲成・ヒゴ(空籤・f15074)の着地した一軒の家で、草臥れた木のテーブルを囲う子どもたちがいた。
「ここのわらしらはどんな花を作るのかー?」
 子よりも目線低くから尋ねてみれば、人馴れした好奇の眼差しがヒゴに降る。
「「おりがみ!」」
 口を揃えて答えた子どもたちに、ヒゴがこくこくと頷く。
 液晶に吉の字を浮かばせて。
「折り紙か!」
 得意分野に、ヒゴの耳も子どもたちの足と同じようにぴこぴこ揺れる。
 色紙を手元に広げて、ヒゴは花の姿かたちを思い浮かべた。
「沢山作るぞー。なんの花にしよう。好きな花はあるのかー?」
 尋ねてみると、子どもたちは顔を見合わせてきょとりと瞬く。
 ――ここのわらしらは、花をあまり知らないのだったな。
 薄い反応に現実を感じて、ヒゴは窓の外から仰げる花畑のスクリーンを指し示す。
「よーし。あれ見ながら、ヒゴがお主らに折り紙を教えてやるぞー」
 初めは誰もがわからぬもの。ヒゴは幼子たちに混ざって、折り方を模索する小さな手の平たちの面倒を見た。
 村の誰もが懸命に、多少歪であっても、ゆっくり花を作っていく。
 頑張りましょ、と励ましながらキトリは、針金の束を緑のテープでぐるぐる巻きにする。あえて真っ直ぐにはせず、つくり上げたのは花の茎。
 蝋燭の灯りを頼りに、針金が顔を出さぬよう注意を払い、先端には布製の花を固定する。
 月光を浴びても青白くはならず、火に照らされても橙には染まらず、柔らかな白をくっつけていく。
 すごいすごい、と同じ言葉ばかり繰り返す子どもたちに囲まれながら、キトリの早業は見事に炸裂していた。白い花冠が続々と並べられ、子どもたちが手に取っていく。
 ふふ、と得意げに鼻を鳴らしたキトリは、傍で布を広げるレザリア・アドニス(死者の花・f00096)を見遣った。
 レザリアは唇を引き結んだまま、様々な色の布を切りとる。予め引いておいた線を辿って鋏を滑らせていけば、簡単に花弁の形に切れる。それをレザリアは、子どもたちに実演してみせた。
 彼女の花作りを見物していたキトリも、幾度か頷いて、鋏を手にする。針金を束ねた茎に、切り取った花弁を重ねていくのも良いかもしれないと思いつき、すぐさま実行に移す。
 そうして鋏の音が重なる中、レザリアの髪に咲く福寿草をひとりの子どもが見つめる。
「おねえちゃん、それ髪飾りなの?」
 とうとう堪えきれなくなったのか、ねえねえ、とレザリアへ尋ねてきた。
 あまり外界との交流も為されていないであろう山間の村だ。この村の子どもたちにとっては、髪に花咲くオラトリオも物珍しい部類なのかもしれない。
 こくん、とレザリアが小さく頷けば、その拍子にさらさらと黒髪が靡いた。愛らしく髪に咲く福寿草も、ふわりと薫りを漂わせて咲う。
 布や針金で模る猟兵もいれば、折り紙の束を手繰り寄せた者もいる。
 ――折紙……それなら、オレの独壇場です。
 矢来・夕立(無面目・f14904)の白皙の指が編むのは、いつか見た花。
 強い風にも負けずに咲き、移ろう季節をも知らせてくれる梅の樹が、真っ先に思い浮かんだ。故郷で鮮やかに開花する姿は風物詩のひとつでもある。
 脳裏に浮かべながら近い色の千代紙を寄せ、折り込んでいく。言葉を然程必要としない指先の動きだからか、手際よく折っていく夕立の流れを眺めていた子どもたちが、瞳をきらきら揺らしていて。
「ねえ、おにいちゃんこっちはなあに?」
「これはヤマアジサイです。もうひとつはテッポウユリ」
 夕立が多くを語らずとも、色と形から感じてくれるものはある。
 折っては跡をつけ、向きを変えては折り畳んで、似た仕草の繰り返しはやがて見物人たちの指をも動かす。夕立の動きを真似て、同じ花を折ろうとするものの、やはりなかなかうまくはいかない。
 ――千代紙、多めに持ってきて正解でした。
 持参した千代紙は折りやすく、子どもたちにも勧めながら夕立は花を咲かせ続ける。
 逸早く順応した子どもたちとは別に。大人たちもまた、猟兵のつくる花が気になるらしい。
 タロ・トリオンフィ(水鏡・f04263)が揺らめかせたのは、白のローブの裾と絵筆。絵筆の色は決してローブを汚さず、宙に走らせた筆圧と勢いままに、夢を描く。
 ――自由に動ける身を得て、まだそう経っていないけれど。
 七色で収まりきらない色彩が、多くの世界を織りなしているのを、タロは知りつつあった。冒険した世界ごとに、印象に残る色も花も異なり、だからこそ描く筆も進む。
「これは、陽光に咲き誇る太陽のような花」
 へえ、と観衆の唸りが重なった。
 近くにいた猟兵たちも、浮かび上がる絵に自然と目がゆく。
「これは、夜風に踊る星の如き花。……僕が見てきたものだよ」
 深い紺を背にしたら、さぞ美しく映えるであろう。そんな輝きの花をも、タロは丁寧に描き出す。
 すると、若者や子どもたちと折り紙を進めていたアリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)が、タロの芸術に暫し魅入って。
「……そのような花も、あるのですね」
 冬に凍てつく澄んだ青が生み出す光とはまた違う色に、アリウムも心奪われた。
 タロが描く様子を見て、章も色鉛筆とクレヨンを広げる。そして、折り紙や布に触れていなかった子どもたちへ、温和に声を傾ける。
「白い紙に絵を描くのも、すばらしいことなんだよ」
 花を作る方法はたくさんあると教えたくて、おそるおそる腕を伸ばしてきた少年少女へ、章が道具を差し出した。
 みな思い思いに創り出す花を見て、キトリが呟く。
「本物じゃない、けれど、人の手でしか咲けない花、なのよね」
 たとえ同じ花をつくろうとしても、まったく同じものは、そこにはない。
 ――あたしたちにも、咲かせられるはずよね。
 魔を打ち破る祈りを花弁へ籠めながら、キトリは口端をあげた。
 話で耳を震わせていたレザリアも、ゆっくりまばたきを繰り返しつつ、切った布の花弁を縫い上げていく。
 レザリアの前にあるのは、福寿草だけではない。ツバキにフリージア、梅やスノードロップなど多様な布の花。
 ――いつもいつも暗い空の下、だから。
 彩り豊かな花を咲かせたくて、レザリアは心地好い鋏や衣擦れの音に浸る。子どもたちに、作り方を教えながら。
 なんて穏やかな時間なのだろう。
 花を作り続ける村というだけで緩んでいたアリウムの頬も、広がる光景の最中に居ることで、いっそう柔らかくなる。
 はじめに村人への丁寧な挨拶と自己紹介を連ねたアリウムは、老齢の村人たちからも声をかけられるようになっていた。
 おかげで周りには、折り紙の造花と共に、集まる大人たちも後を絶たない。
「このような花も、作れるのですよ」
 黙々と作業しがちな造花の合間、アリウムが披露したのは透き通り輝く氷の花。
「まあ、魔法の花なのね。……それにしても可愛らしい花ねえ、なんてお名前なのかしら」
 老婦人が嬉しそうに笑う。花が纏う冷気も気にならないのか、手の平で掬いとる老婦人に、こちらはアリウムと言います、と花の名を告げる。
 すると老婦人は、驚いたように瞬いて。
「あなた、花のお名前なのね」
「ええ。母はアリウムが好きでして……」
 和やかに流れる時間と言葉は、幸福の一端となることを望むアリウムの胸をじんわりと温めた。
 ゆるいひとときに身も心も浸していたフィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)は、髪に鏤められた花をじっと見つめていた少女へ、白い茉莉花をそっと差し出す。 
「見たことない? せっかくだから、おひとつどうぞ」
 限られた種類の花しか知らず、また子どもたちにとって生きた花は初めて拝むものだ。
 フィリアが小さく笑うたび、あるいは子どもと目線を合わせようと首を傾ぐたび、揺れる髪の花もまた、子どもたちの好奇の的となっている。
「おねーちゃん、なにつくるの?」
「んー? 春のお花をね。タンポポ、レンゲ、菫……あと何があるかしら」
 子どもの無邪気な質問にも、平時と同じ穏やかさで応じつつフィリアは歌を口ずさむ。リズムに合わせて指が指揮するのは針だ。
 そんな友の姿を、レイン・フォレスト(新月のような・f04730)は微笑ましく眺めて。
「春の花というと、僕が知ってるのはチューリップ……あと、桜とか?」
 春を待ち焦がれる歌に喉を委ねていたフィリアは、レインのさりげない発言にぱあっと表情を輝かせた。
「素敵。たくさん作って満開にできないかしら」
 白混じりの薄桃や、ピンクの色味が濃い花。
 濃淡が波打つ花を一輪ずつ生み出していく。春の花が爛漫と誇る美観を想像して、レインも口許を思わず緩める。
「そうだね、うん。枝も作ってたくさん花を付けたら、華やぎそうだ」
「よかった! がんばろうねレイン」
 互いの声にも、喜びの花が咲う。
 針仕事に覚束ない手つきのレインも、ほろほろと零れ落ちるフィリアの笑顔と歌声に寄り添えば、難無く進む気がして心強く感じた。
 よーっし、と後ろの方で張り切る眞砂の声が響く。どうやらまたひとつ、千代紙の花が完成したらしく、眞砂の手には美しく形を成す折り花があった。
 そして眞砂の周りには、彼から千代紙の花作りを教わる子どもたちが多く集まっていて。
「あっ、上手っすねぇ、そうそう、その調子で」
 小さい子どもたちと接するのにも慣れているのか、眞砂のかける言葉と声は一音一音が明瞭でありながらも、優しげだ。
 おにーさんおにーさん、と群がる子どもたちにも慌てず応じる。
「ぼくのは? ぼくのはどう?」
「わたしのは!? じょーず??」
 評価を期待する子どもたちの眼差しが眩しくて、蝋燭ぐらいしかない控えめな部屋の灯りの中で、眞砂は頬へふくふくと歓喜を詰める。
「おおっ、きみも、きみも、手際いいなぁ。上手っすねえ」
 幼いながらも、村を飾るべく自ら花をつくっていく姿は、眞砂の二粒の琥珀を思いのほか濡らした。
 そんな仲間や村人たちのやりとりを眺めて、びいどろは瞼を伏せる。
 ――変わらないんだね。本物の花も、そうでない花も。
 ヒトをしあわせにする。肌身から滲みだすように、じっくりそれを味わった。
「つ……った」
「レイン、大丈夫?」
 針先で指を指してしまったレインを、フィリアが覗き込む。
「あっ、ねえレイン、さっきより綺麗にできてるっ」
 経過を窺ったフィリアは、少しずつ慣れてきている友の様子に、また笑顔を綻ばせた。
 ――そんなに嬉しそうな顔をされると。
 つい今しがた感じていたはずの痛みも、疾うにレインの指から飛んで行ってしまったようだ。

●春告げ
 いつからか深い深い夜を湛えていた空は、潤んだ色を村へ滴らせる。
 霞む月からの涙は無く、代わりに凪いだ湖面を連想させる静けさが人々を見下ろすばかりだ。
 納屋に籠っていたアイシスはひとり黙々と、花を編んでいた。
 窓から、何軒もの家を覗き込んできた小さな小さなブラックタールの少女たち。
 彼女たちは村人に気付かれないよう、伸ばした両腕で枠にしがみつき、あるいは枠の横からそっと覗き込みながら、アイシスにすべてを伝えてくれた。
 アイシスはそれを、ただ真似る。
 ――本物のお花はきれいで、いいにおいがするんだよ、ね。
 閉じた瞼の裏に思い描こうとしても、花の輪郭すらぼやけてしまう。
 アイシスもまた、村の子どもたちと同じく生きた花を間近で拝んだことが無かった。
 正確な形がわからない。天然の花から染み出す香りも美しい色合いも、わからない。
 それでも。
 ――つくり、たい。
 幼さを宿す柔らかなタールの指先でスクラップを摘まみ、アイシスは想いを紡ぐ。
 そして出来上がったスクラップの花たちを、家の脇へ置いていった。

 ぱちぱちと炉で弾ける火の舞いを子守歌のようにして、彼らは花を作り続けた。
 レースの布を張り合わせていたびいどろは、単純に「つくる」と思うだけでは為せないものに、首をひねった。
 ――大事にするというのは、むずかしいね。
 大事にする。
 重たいのか、軽いのか。難しいのか、簡単なのか。
 その言葉について、蒼を映すびいどろの瞳には、まだ定められずにいる。
 同じころ。
「他に、どんな花があったらいいと思う?」
 家にある程度飾り終えながらも、章と『ぼく』は少年少女への言葉を止めない。
 上手だよ、それもいいね、と短いながらも頻繁に声をかけ続け、人々の気を惹いた。
 家の中を見回しても、天然の花は無い。けれどタロは胸の内側で弾む心を、たしかに感じていた。
 ――人の手で造られた花も、同じくらい美しいよ。
 つくられたとしても、それは望んだ人の心に咲いた花。
 そこへタロが隠すのは、小さな小さな希望の鈴。悪意を報せる、未来への奏でだ。
 色彩も形も十人十色。それほどまでに、表情豊かな花が並んでいく。
 ヒゴはそれを子どもたちへ教えたくて、色紙を折っていく。
「そしてそして。これはとっておき」
 もったいぶったヒゴが次に織り出したのは、桜柄の千代紙。
 綺麗、綺麗、とはしゃぐ子どもたちの姿が液晶に映り込む。
「ねえねえ! これなんてお花??」
 ひとりの少女がヒゴを覗き込みながら問う。
 きらきらと双眸から溢れる光の粒を、ヒゴは真っ直ぐ受け止めた。
「桜という。ヒゴの宝物で、しあわせの花だー」
 春告げの花は、ヒゴのみならず子どもたちの表情をも咲かせていく。
 うんうんと、眞砂は一部始終を前にして頷いた。
 ――幸せの花……。いい響きっすね。
 彼がひっそり扉の外へ向けたのは、竜槍のスティル。
 自分たちの役目を、しかと果たすための一手を組む。
 ――俺は、この平穏を絶対に守ってみせるっす。
 それは猟兵が胸に秘める、決意の花。
 そのとき。
 本物に近い花をお見せしましょうと、立ち上がった夕立が舞わせた紙は実物を模す。
 夕立が思い浮かべたのは花。一輪だけではなく、花の嵐のように一枚ずつ精巧につくり、家の中を飾る。
 ――この世界では、このような平和も貴重に思えますが。さて、それはおいといて。
 いつ釣られてくれるものかと、夕立の意識は遠く疾病楽団へと飛んでいた。

●はじまりの音色
 夜の濃淡ばかりが占領していた村に、色彩が宿っていく。
 家々に飾られた花々は、猟兵たちがとりどり工夫を凝らしたものだ。ひとりひとりの想像や優しさが、形や色となって村を粧う。
 どれだけ厚い夜の闇が圧し掛かろうとも、村は明るさを損なわない。窓から射しこむ月明かりが変わらず白んでも。、炉にくべた赤は、暖かく村人や猟兵たちの手足に熱を通す。
 変化なき空でも深まる夜に、幼子の瞼はとろけだす。はしゃぎ疲れて、猟兵や椅子にもたれかかる子も増えてきた。
 花の絨毯に横たわるレザリアも、周りで寝息を立てる子どもたちに、静かに耳を傾ける。
 ――安らかなひととき……きっと、こういうことを言うのでしょう。
 ダークセイヴァーを彷徨い歩くうえでそれはきっと、貴重な平穏であり、かけがえのない時間でもあるのだとレザリアは痛感した。
 足を擦り合わせた子が風邪をひかぬよう、自らの羽をふんわりかける。手作りの花を敷き詰めた床は、木の板よりも温もりや柔らかさが増して見えた。
 いつか。いつかこの世界に住む人たちも望めるはず。
 レザリアが異なる世界で見てきた突き抜けるような空の青も、その下で満開に開く花も。
 ――その日がきっと。きっと来るはずです。
 祈るよりも願うようなか細い息を、レザリアは吐き出した。
 彼女のように村人たちと過ごす猟兵も多く、同じくらい警戒を怠らず動く者もいる。
 いくら静穏を湛える村でも、夕立は耳を澄ませていた。研いだ感覚は、澄んだ空気の冷たさを実感すると同時に、家畜の動きや木の葉が踊る音さえも拾いやすい。
 多くの家にはまだ灯りが点り、暗夜を謳歌していた。心許ない灯りだけを頼りに語らい、花を摘まんでみては、食事で胃を温めていく。
 そんな村人たちの賑わいを離れ、章は窓際に腰かけ鴉からの報せを待った。ちらりと視線を流した先、村人の輪ではキトリをはじめとする猟兵数人が話し相手になっている。
 ――討ちに急げる距離ならいいけど。
 広がる日常風景に表情は揺らがないまま、章が再び窓の外へ目を投げた。
 家の外にも、猟兵たちの気配はある。
 レインとフィリアが、家々は他の猟兵に任せて村を囲う柵を中心に花飾りをつけて回っていた。
 ――たしかに殺風景な世界だ。
 山のどこかで梟が鳴くのを、遠く聞きながらレインは夜空を仰ぐ。自らの手を離れた花は黒々とした景色の中でも、花としての輪郭をしかと保っている。闇に眼が慣れなくても、指の腹で撫でれば存在は伝わる。
 だからこそ飾りたくなるのかもしれないと、吐息と視線を地へ落として。
「どうか……」
 すぐ傍からは、祈りの言葉が落ちた。
 共に見回るフィリアが、翼を畳むのと同じように丁寧に指を折りたたみ、柵に連なる花飾りへ祈る。
「どうか、災いを退けられますように」
 襲い来る脅威は知れていても、願わずにいられない。
 一方、暗がりで眩く佇む白銀の騎士は、アリウムが呼び寄せたものだ。寝静まった夜の村で、入口を見張る騎士は沈黙を守り続ける。
 不意にチリリ、と何処かから音が零れた――タロが花に仕込んだ、小さな鈴の音だ。

 バサバサぱたぱたと、納屋の外に響いた音はアイシスの肩をびくりと震わせた。
 ひとつは明らかに羽ばたきで、もうひとつは控えめな靴音だ。
 身を潜める納屋から外を覗くと、アイシスと歳の近い少女が鶏を追いかけていて。
「もー! コッコだめでしょ、逃げちゃ!」
 小屋から飛び出した鶏を追ってきたらしい。
 あっ、と突然そこで少女の声が撥ねる。
 アイシスにもわかった。少女は、家の脇にそっと咲くスクラップの花に気が付いたのだ。
 見たことのない花だからか、少女がおそるおそるつついてから花を掬いあげる。本物の花弁のような柔らかさも、色も無い。硬くて、闇に沈むような色味の素朴な花。
「これもお花? お花かなあ?」
 首傾ぐ少女を、鶏がせっつく。すると少女は鶏の名を呼んで。
「コッコとぜんぜんちがう! ふわふわしてないし、まっくろ!」
 感じたままを口にする少女を隙間から見つめ、アイシスは居た堪れなさから静かに顔を離す。
 ――そう、スクラップで作ったお花だから、いいにおいもしない、よ。
 徐に抱え込んだ両ひざへ顔を埋めて、少女と鶏の光景を背に睫毛を伏せる。
「こんなお花もあるんだねコッコ!」
 けれど少女の弾んだ声は、否応なしにアイシスの耳朶を打った。
 きらきらしている、とアイシスは思う。花を知らぬ少女の発した声が、とても明るくて。
 ――けど、すぐ、棄てられちゃう、かな。
 拭えない不安はアイシスの芯にこびりついて離れない。
 そんな彼女の胸中など露も知らず、少女はスクラップの花を片手に、足取り軽やかに家へ戻っていった。
 澄ました顔で鳴きながら、鶏は少女の後を追う。
 まろい橙の灯りに吸い込まれていく少女を見送り、アイシスは立ち上がった。

 声がする。村のどこかで鴉が鳴き、鈴が歌った。
 村へ押し寄せたのは、花知らず、命知らずの――オブリビオン。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『喰われた神々』

POW   :    この世のものでない植物
見えない【無数の蔦】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    名称不明の毒花
自身の装備武器を無数の【金属を錆びつかせる異形】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    異端の一柱
【一瞬だけ能力が全盛期のもの】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。

イラスト:夏屋

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●奏
 各々で警戒をしていた猟兵たちは、届いた報せに立ち上がる。
 彼らが受け取ったのは、日常を壊すオブリビオンの音。
 村から飛び出した猟兵たちは、近づきつつあった群れを知る。
 村人たちはと言えば、戦いの気配に感付かれている様子はなかった。
 子どもは殆どが眠りに就き、大人たちはまだ食事や花作りの片付けで忙しい。
 村の中で騒ぎ立てなければ、彼らが家から出てくることもないだろう。
 もちろん、オブリビオンが村へ入ってしまえば、誰かしら気付いて騒ぎになってしまう可能性は出てくる。

「それはどんな香りなの」
 守るべき平穏と命、そして村を彩りはじめた数々の花。
 猟兵たちが背負うものなど露も知らず、頭を無くした者たちは訪れる。
 生気も無い白皙の肌は、生きる者が知る温もりすら持てずに。
 代わりに、ハープやリュートを悲しげに奏でる。
 猟兵たちの耳にも、はっきりと届いた。
「それはどんな色なの」
 同じ姿形をした群れは、ゆらり、ふわりと、漂うようにやってくる。
「大事にしましょう。わからないから」
 彼女たちに、理由など無いのかもしれない。
 それでも、捨てられた過去特有の冷たさを抱いて、ただただ壊そうとする。

 花知らず、命知らず、未来も知らず、かの者たちは――。
三ヶ月・眞砂
スティル、見張りご苦労さん
立派だったっすよ~!
頭を撫でて褒めちぎり

さーて敵のおでましっすね
すやすや眠る子供たちの顔を思い浮かべ
…村の中には絶対入れねーっすよ

離れてるとはいえ、あんまり目立っちゃまずいっすかね…
【灯火星】スティルに炎で援護を命じ俺は刀で戦うっす
戦闘知識を元に2回攻撃やカウンター、武器受けを駆使
他の猟兵さんに危機が迫ったら
力溜めて捨て身の一撃をお見舞いして助けるっすよ!

相手のSPD技は見切れるように警戒しつつ
万が一の時はスティルの炎で燃やしてもらうっす

本物の花がどんな香りかどんな色か
本当に知りたがってるのは
村の子供たちの方っす

俺の胸に咲いた決意の花
その熱さを知ってもらうっすよ!


矢来・夕立
※アドリブ/連携可
では、本業の時間です。
折紙の先生も楽しかったですよ。
ウソですけど。

オレにできそうなのはまず斥候、それから奇襲ですね。
『忍び足』と『暗視』で先行して様子を見ます。
戦闘前の段階で何か仕掛ける方がいらしたらどうぞ。待ちますので。いいですか?
…ハイ。待ちました。

『刃来・緋縁』。敢えての単体狙いです。
一匹派手に潰れたら慌てて目的を見失ってくれるのか。
それともあくまで集落を目指し続けるのか。
「“無い頭”がどのくらい良いのか」、探っておきたいんですよね。

躱しつつ当てつつ、『だまし討ち』を織り交ぜながら攻撃します。
…早めに済ませましょう。これだけでは終わらない気がします。


レザリア・アドニス
うるさいものですね
求めていれば、教えてやってもいいわよ?
それはお前らの命の香りで
それはお前らの血の色
…ああ、間違えたね、命も血もないものはなにも分からないよね(軽く嗤う)

後方で援護攻撃
可能の限り敵全員を嵐に巻き込んで、少しずつ、確実に体力を削る
可能なら花に炎属性を付けて、浄化してみる
生の花は、死の花に負けるわけなんかない
死霊の蛇竜にも近くの影に潜ませて、万一に蔦に掴まれる時は体にオーラを覆いつつ、迅速に噛み切って貰う
常に戦場全体を見渡して、強化しようとする個体を判明できればすぐに仲間に知らせ、同時に魔炎の矢を高速に乱射して敵群を動かせ、理性を失った個体の餌にすることを試す



●花房
 夜もすがら曲を奏でるには、あまりにも冷たく寂しい日だった。
 暗闇に目が利く矢来・夕立(無面目・f14904)は、草葉を踏むときでさえ音を殺し、群れへと忍び寄る。
 届きつつある悲しげな演奏。それを止める気配がない楽団は、口も持たぬのに声なき声を零していた。
 ――それはどんな色? どんな香り?
 投げる疑問は一辺倒だ。間合いが縮まっても変わらない。
 戦う前に何か仕掛ける人がいればと茂みで待機していた夕立は、羽ばたく音を頭上に覚える。
 滑空してきた小型ドラゴンは、嬉々として三ヶ月・眞砂(数無き星の其の中に・f14977)の元へ飛び込んだ。
 キュイ、キュイ、とドラゴンが控えめに鳴いて報せたのは、予め眞砂から、静かにするよう言いつけられていたのだろう。
「スティル、見張りご苦労さん。立派だったっすよ~っ」
 眞砂は頬をこれでもかと緩め、愛竜スティルをわしゃわしゃと撫で始めた。
 その傍らではレザリア・アドニス(死者の花・f00096)も、こくん、と首肯し準備が整っていることを伝えるだけで。
 一頻り撫でまわしてから、眞砂も敵に向き直る。
「さーてと。ようやく敵のおでましっすね」
「……ハイ。待ちました」
 夕立が頷けば、猟兵たちの間に合図はなく――ただ各々の呼吸と視線のみが交差する。
 脇差の柄へ指を滑らせ、夕立は伏せていたまなこを緩く敵へ向ける。
「では、本業の時間です」
 宣言の狭間に式紙を指に挟み、襲い来る過去の骸へ飛ばす。
 拙くも紙を折る子らが居た。花をつくり喜ぶ姿が村にはあった。
 自然と夕立の脳裏に浮かんだのは、つい先ほどまで過ごしていた時間だ。
「折紙の先生も楽しかったですよ」
 ――まあ、ウソですけど。
 言葉の終わりは吐息へ交えるだけに留めて。
 蠢く群れを前に、眞砂は網膜にありありと焼き付いた子どもたちの寝顔を思い出す。
 想起した光景を遠くへ離そうと、胸の奥に一筋の輝きとして在り続けるものだ。だからこそ。
 ――村の中には絶対入れねーっすよ。
 彼は胸に咲いた決意の光明を、琥珀色の眸に宿した。
 どんな色なの、どんな香りなの、と休まず尋ねてくる白い人型の一団を睨み付ける。
 そして村で安眠に浸る子どもたちを起こさぬよう、灯り程度のものならばと、眞砂は再び相棒の名を口にする。
 喉を曝け出し、天高くへ息を吐いたスティルが、呼びかけに応じて舞いあがった。
「さあ、熱さを知ってもらうっすよ! スティルッ!」
 キュイィ、と迷わず答えたスティルは、旋回し炎を吐く。
 スティルが飛空する軌跡を蒼炎が辿った。炎は眞砂の周りに渦を描き、勢い殺さずオブリビオンを巻き込んでいく。
「星よ、希望の灯火を!」
 火の粉が蒼く、鏤められた。
 次から次へ敵を焼く竜の炎は、やがて大いなる空から星を呼ぶ。
 蒼銀の揺らめきは未だ、星に届かずとも。
「さぁ、燃やしてやるっすよ!」
 翼は、遥かなる天をつかむ。
 そうして竜と戯れるように放たれたのは、彗星のごとき炎の球――それは彼が灯す灯火星。
 流れ星の行く末を見守るよう、地を蹴り高く跳ねあがった眞砂が一体を捉える。
 ――どんな色? どんな香り?
 ゆらり、ゆられながら投げかけられる問いも。辺り一帯を覆う毒の花弁も。白磁を思わせる生気なき肌で彷徨う姿も。
「……うるさいものですね」
 レザリアにとって、耳障りなものでしかなかった。
 内側で死霊たちがざわついている。それが如何なる意味を持つのかは、レザリアにしかわからない。
 ただ鋏で布を切り、子どもたちの指で模られていく花の過程に身を沈めていたときとは、胸に渦巻く感覚が明らかに異なった。
 暗い空の下で満開に咲く、色とりどりの花。
 不得手であっても、子どもたちに作り方や花言葉を教えていた時間の、色や煌めき。
 それらを、オブリビオンは知らない。知るわけがない。なのに問い掛けながらも壊そうとする。
 そんな敵が、レザリアにとって小さな溜息の原因でもあった。
 だからレザリアは武器を広げ、鈴蘭の花弁に変化させる。胸中でざわつくものを解放するように、無数の花で辺りにいる敵を包み込んだ。
 乱舞する花に対抗したのか、敵の動きが機敏になる――まるでほんの一瞬、全盛期の姿を取り戻したかのように。
 無差別に荒れ狂う敵の群れもしかし、一帯を覆う花嵐からは逃れられない。
 鈴蘭の花弁はいつしか灰色の炎を纏い、レザリアの視界一面ではらりはらりと舞い踊る。炎は似た色をした彼女の翼をも照らし、次第に鎮まっていく。
 花の香りや色を求めているなら、教えてやっても良いとさえレザリアは考える。幾度となく問われるぐらいなら、一度答えて済ませるのが容易いと。
 ――ただし。それはお前らの命の香りで。お前らの血の色で。
 灰色の炎を帯びた花弁は、オブリビオンの皮膚や翼を焼き溶かし、浄化していく。

●花嵐
 オブリビオンが生みだすのは毒の花だ。
 金属を錆びつかせる無数の花びらは、夜の幕に包まれていても怯まず踊る。
 そしてオブリビオンは、その花をそっと包み込むように両手を胸へ重ねる。
 しかし花嵐の中を、夕立は既に駆けていた。式紙が花弁を受け流しながら。そうと敵が気づいたときには、もう。
「……遅い」
 闇にぼうと浮かぶ赤漆の拵が、秘めたる花を咲かせた。
 夕立の一振りは、両手もろとも無き心の臓を断つ。するとオブリビオンの身は、毒花の舞いに覆われて消えゆく。
 ――さて。
 鞘へ納めながら夕立は振り向く。
 群れの中、一体が派手に潰れた直後、他の個体がどう動くのか――それが彼は気になっていた。
 目的を見失ってくれるなら御の字。あくまで集落を目指し続けるのであれば、止まず揮うのみ。
 ――無い頭にも、それぐらいの考えはあるみたいですね。
 村へ迫るものと猟兵に抗うものとで、ばらつきながらもオブリビオンは二分した。
「どんな色? どんな香り?」
 声なき声と共に、見えない無数の蔦が滞空する眞砂へも伸びる。
 構えた刀身に眞砂の表情が明瞭に映り込む。彗星が蔦を焼けば辺りが青々と眩い線を生んだ。
 そして冴えた刃は、滾る彼の眼差しを連れて、大地めがけて飛び込む。
 花を、その生き様を知りたくて天を仰いだオブリビオンの胸元へと、彼は刀を突き立てる。
「……それを本当に知りたがってるのは、子どもたちの方っす」
 徒花を咲かせる敵に目も呉れず、眞砂は囁く。笑顔はここへ来ても弛まずに。
 花弁と化して散りゆく敵の余韻すら、己の刀で振り払った。
 全盛期の力を甦らそうとした敵めがけ、レザリアは魔炎の矢を編む。黒くなびいた髪は仄かな夜風を報せ、その風を味方にして、射る。
 乱射した矢が射抜けば燃え上がり、患部から一瞬で広がる炎の赤は群れの中でも相手を目立たせた。
 ――生の花は、死の花に負けるわけなんかない。
 レザリアが緩くまばたきをして戦場を見渡せば、魔の炎に焼かれた身が誘蛾灯のように群れを引き付けていた。
 もがき苦しむ明かりを目安に、理性を失った個体が向かっても、矢で軸を焼かれた敵はあっという間に消滅してしまう。
「花の香りも、色も。……教えるまでもないのかも」
 群衆が繰り広げる光景を前に、レザリアはかぶりを振った。
「……命も血もないものには、なにも分からないよね」
 薄く嗤ってみせれば、オブリビオンは悔しそうな悲鳴を落とした。
 夕立は躱したその流れに身を委ね、胸元を突き、次に肩口を切り裂いてと、一定の調子で素早く斬撃を見舞う。
「……早めに済ませましょう」
 夕立がかけた声に焦りは微塵もなく、ただ淡泊に音を紡ぐ。
 眼差しも脇差の刀身も、楽団からは逸らさずに。
「これだけでは終わらない気がします」
 空気が異様に冷たいと感じるのは、寒さゆえか。
 戦場に於いて熱に高ぶる人の息も、咎人を殺める夕立は持たず、ただ先を見据えるばかりだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイン・フォレスト
【アイビス】
花すらも見た事無く、それで懸命に生きる人々
あの人達を不幸な目には遭わせたくない
だから心穏やかに暮らせるよう、何も気付かせないように力を尽くすよ

僕は戦うしか能が無いからね
フィリアにはいつも助けられてるから
今回も頼りにしてるよ

【SPD】
「先制攻撃」で先に動く
【ブレイジング】を使い届く範囲の敵にありったけの弾丸を叩き込む
万が一敵の攻撃が当たれば銃は使い物にならなくなるだろうから
できるだけ素早く

まったく、やっかいな力を持ってるね
「見切り」で、喰らわないよう回避してみよう
錆びてしまったときは弓矢を使うしかないか
矢尻は黒曜石…石だからいけるだろう

弓矢を使う時は仲間への「援護射撃」を中心に


フィリア・セイアッド
アイビス】で参加
苦しい中でも 一生懸命生きているひとたちは強いと思う
あの人たちの笑顔も 小さな幸せも奪わせたりしない
レインの手をぎゅっと握る
貴女に風と花の加護を レイン、怪我をしないで
前に立ち いつも自分を守ってくれる友人に精一杯の幸運を祈る

「WIZ」を選択
菫のライアを奏でながら 味方を鼓舞する歌を
オブリビオンの歌に負けないよう
壊すのではなく守るため 春の嵐を呼ぶために
オーラ防御で敵の攻撃を防ぎ 「鈴蘭の嵐」で攻撃
本当の花の香りも色も わからないなら見せてあげる
なるべく沢山の敵を巻き込むよう
いつかこの地にも 本当の花が咲くでしょう
その時に 子どもたちが笑顔でいられるよう
災いの歌はここで祓おう


鵜飼・章
首が繋がっていたって
花の色を愛せる保証はない
目にみえるものが見えない人は多いから

突出しないよう留意し極力被弾回避
逃れる敵がいないか細心の注意を払い
村へ向かう敵を優先して撃破
間に合わない時は鴉を使う
つついて【挑発】し足止めを

UC【無神論】で複数の敵の動きを止め
攻撃しつつ仲間と連携できたら
問題は聴こえるかだけど
僕の笛は耳で聴くものじゃない
精神に響く無の音楽だ
彼女達が花を欲すなら
届くと信じて【楽器演奏】
桜咲く春の唄を奏でる
失敗したらごめん

魔導書から喚ぶ獣は
蝶、蜜蜂、花蟷螂
花に命の彩りを

逆に言えば
女神達には花が見えるかもね
要は気持ちが本物かどうか
花の価値は心が造るものだ

そこに人も獣もない
僕はそう思うよ


キトリ・フローエ
…壊すことでしか、大事にできないのね
それは、とても可愛そうだわ
でも、あなた達はオブリビオン
あたし達が猟兵である以上、ここから先へ行かせる訳にはいかないの

村に近づけさせないように、皆と一緒に戦うわ
…ベル、あんまり大きな音は立てないようにね!
花の精霊にお願いしてから空色の花嵐
お願い、聞いてもらえるかしら?
とにかく、村へ入ろうとするオブリビオンは、纏めて追い返してあげるわ
異端の一柱を使われたなら、皆の囮になれるように素早く飛び回って
攻撃は第六感による回避とオーラ防御で耐え凌ぎたいけれど
傷を受けたら自他問わずシンフォニック・キュアで回復
疾病楽団とかいう、人々の平穏を破壊する存在は、全て消えてもらうわ


アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

あの暖かい場所は、私の心に一時の春をもたらしてくれました。
あの場所を彼ら、オブリビオンに汚されたくありません。
迫りくる闇を祓い、色彩豊かな村の一助となりましょう。

先ずは数の多い敵をホワイトブレスの『範囲攻撃』で蹴散らしていきます。
前へ戦う猟兵を積極的に援護し、孤立しないよう注意します。
敵の花びらはホワイトブレスで可能な限り受け止めていきたいですね。
もし敵の勢いが激しい場合、苦戦する場合は前へ出ましょう。
ホワイトパスや『属性攻撃』ホワイトマーチを利用して戦線の打開を図ります。

花溢れる村に、あの音は似つかわしくありません。
創造せず、奪い壊すだけの存在を今ここで屠り打ち倒しましょう。


タロ・トリオンフィ
其れは過ぎ去り排出された過去の亡霊で、
つまりは、知る事も変わる事も叶わず
ただ徒に、今を懸命に生きる人々を蝕むだけ……哀しいね。

相手の数が多く強化もあり得るのなら
此方も共に戦う仲間達に支援を。
手元より一枚、引き出して翳すはUCの『Ⅷ』力のカード
先程までを共に過ごした小さな幸いを胸に
守り抜く心を花と手折られる事が無いように

オーラ防御や見切りで身を守り、
しかし状況により必要であれば敢えて受ける事も厭わない
例えばそうする事で、射線上の仲間とか、
或いは――想いの込もった「花」を守れるならば。
なに、本体さえ無事なら多少の傷は些細なもの。

そうしながら――楽団の中に、指揮者が居ないか
じっと目を凝らしてみよう。


アイシス・リデル
あなたたちも、わたしと同じ……なのかな
知らないから、わからないから
あこがれて、触ってみたい、って思うけど
……だめ、だよ
そんな事をしたら、きれいなものを汚して、台無しにしちゃうから
この先には、こんな世界でも、笑って生きてる人たちがいるんだから
行かせない、よ

病をわたしの中に取り込みながら、戦うね
ほんの少しでも、村の方へ流れちゃわないように
それに毒のお花なら、それも取り込める、かな?

他の猟兵の人たちのきれいな装備が錆びたら大変、だけど
わたしの武器は、もともと、スクラップだもん
錆びて壊れても、また、改造して作り直せるよ
その為の材料なら、収集体のわたしたちの中に、いっぱいあるもん、ね


海月・びいどろ
あたまがないのに、音がする
ふわふわ、ゆらゆら、海月にも似てる
…大事の仕方が、わからないんだね

ボクも、電子の海にいたころ
香りや、色も、ほんとうのことは
なんにも知らないでいたけれど

…ううん、今も、わからないでいるけれど
それでも、散らしてはいけない花があるってことは
すこしだけ、知ったんだ
花が咲くと、しあわせになるヒトが、いるんだって

周りの風景に融けるような迷彩をまとって
弓矢の先は天の、彼女たちを射る
フェイントを混ぜて
星の飛礫をたくさん降らせるよ

その音楽は、どんな気持ちで例えたら、いいのかな
そっと声を乗せて、この歌をキミたちへ
遠い海の向こうに、さようなら



●花冠
 夥しいと、タロ・トリオンフィ(水鏡・f04263)は思わず眉根を寄せた。
 数の多さを耳にしていても、目の当たりにすると不気味さをよりひしひしと感じる。恐れなどは抱かずとも、夜に沈む山間で蠢く光景は。
 その最中に佇むタロは、真白の衣に運命を秘めている。
 徐に、懐から身を成す基のタロットカードを取り出した。
 軸となる体は悠揚に構えつつ、白皙の指で一枚選び取ったのは――Ⅷのカードだ。
「力には力を。強化には支援を」
 澄んだ声音でタロは紡ぐ。引き寄せた運命が示すものを。
「それは、強固なる信念に拠る……」
 表にした手札を誰に見せるでもなく翳す。
 天高くまで染みわたる夜も、彼のひらいた導きは覆せない。
「――力」
 はっきりと言葉に換えた。発した音は告知にも似た余韻を残し、タロ自身の耳朶をも打つ。
 そしてカードが示す未来を、彼は手元から解き放った。あるべき力は、彼が共に戦う仲間のために。揮う力は、読み手が託した仲間を支える。
 オブリビオンが一体、また一体と理知をかなぐり捨てようとも、弾き出した未来は揺るがない。
 一方、海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)は大きくまあるい瞳を隠していた。
 薄闇の向こう、暗がりの中にオブリビオンの輪郭を認めながらも、そうっと。
「……音。音がする」
 受け止めたままを口にする。
 届いたのは花の色を尋ねる女性らしき声。花の香りを尋ねる女性らしき音。
 少年にとって未知の響きだった。空気を伝う震動ではなく、回路の網に繋げて送り込まれた信号でもない。どのように聞こえているのかすら不思議で、けれど元を辿ろうとは思わなかった。
 ぱしぱしとびいどろが瞬けば、白い翼を揺らす敵の姿がひとつひとつ綺羅星のように映り込む。なのにそれを綺麗と喩えるよりも、悲しげと表した方が正しく感じる。
 ――ふわふわ、ゆらゆら。
 電子の海にくるまれて漂うのを思い起こす。似てる、とか細く呟いた。
 なめらかな光を屈折させ、分散させたかのようなびいどろの髪が、傾いだ首の動きに沿って揺れる。
「……大事の仕方が、わからないんだね」
 混じり気のない問いかけに、頭をもたぬオブリビオンが飽きずに重ねる。
 どんな色なの。どんな香りなの。
 単なる興味であれば良かったが、骸の海から蘇った過去の質問は、純粋に聞こえても、きっと相容れない。
 長く伸びた睫毛を揺らして、びいどろの姿は風景に融ける。迷彩を駆使し、少年は光と影を生む身の濃淡すらも、世界に紛れ込ませた。
 空の果ても星の煌めきも、かの者にはきっと『わからない』のだろう。
 かわいそうに。そうキトリ・フローエ(星導・f02354)は眉尻をさげた。
「……壊すことでしか、大事にできないのね」
 息を吸い込み、ベル、とすぐさま彼女が囁くのは綻ぶ花の愛おしさ。
 呼ばれた精霊は花蔦を纏う杖へと変化し、キトリの導となる。
「あんまり大きな音は立てないように。いいわね、ベル!」
 杖はキトリに応じたのか、夜の薄明かりをその身に滑らせる。
 フェアリーのキトリから見ると、オブリビオン一体一体は大きく、ハープやリュートも巨大に見えた。
 そんな姿かたちで迫る群れも躊躇いなく理性を飛ばす。色と香気を求める者たちは、贄として捧げた理に換わり、全盛の能力を掴む。
 けれどキトリに怯む素振りは微塵も無い。
「あなたたちはオブリビオン。あたしたちは猟兵なの」
 キトリは杖に咲く花で敵を示し、的確に風を招く。
 春の息吹を思わせる風は、はばたく彼女と杖を包み込み、瞬く間に花弁を遊ばせた。
 一片ひとひらが、荒れ狂う波のごとき勢いで攻寄る敵の群れを浄化していく。満天の青と白を、辺りにきらきらと降らせて。
 貼り付く青や白の光は、オブリビオンにとって苦痛でしかないのだろう。理性を失い奇声ばかりあげていた群衆に、悲鳴が混じりだす。
 キトリはふと後背を一瞥する。村から離れたとはいえ、女神を模した者たちの叫びが届いてしまわないかと、不安が過ぎった。
 しかし、風を起こして周囲の木々や茂みをざわつかせた猟兵も多く、また花の舞いそのものもお喋りに興じていた。
 彼女に限らず猟兵たちの抱いた懸念は、山と人とが織りなす光景のおかげで、氾濫を免れている。
 だからキトリは再び前へ向き直った。
 ――ここから先へ……あの村へ行かせる訳にはいかないの。
 きゅ、と杖を握り緊めて。
 同じころ、少女は考えるより先に走り出していた。
 レイン・フォレスト(新月のような・f04730)の足は乾いた土を蹴り、土塊が再び地に転がるまでの一瞬で、速射を連ね銃弾の雨を降らす。
 色よ花よとどよめくオブリビオンの群れも、彼女が披露した射撃の舞いに抗う術を持たない。
 自分たちの後ろには、花すらも見た事無く、それで懸命に生きる人々がいる。
 ――あの人達を、不幸な目には遭わせたくない。
 想いを足に乗せ、先制が叶い、注いだ恵雨は敵を貫き、花の色さえ知らぬ白が、金属を朽ちさせる花弁を招く。
 しかしレインは銃口を敵へ向けたまま、咄嗟に身を低め地を転がる。彼女が再び体勢を整えたときにはもう、頭上高くを花が過ぎ去っていた。
 肌身を弄ぶはずの毒の花は、レインの身に届くより一足先に夜風へと溶け消える。
 そんなレインの後方で、フィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)が奏でるのは菫のライアだ。
 白糸のごとく流れる弦を、細い指先が弾くたび、光の粒がはらはらと零れる。そうして彼女が音に乗せるのは、仲間を鼓舞する歌。
 彼女の歌を掻き消すかのごとく、オブリビオン数体が理性を犠牲にした。代わりに全盛期の力を得て、異端なる存在として追放された身が、凶悪な破壊力と耐久を取り戻し、暴れ出す。
 花の色や香りを問うていたときの素振りもなく、奇声をあげるだけの姿となり果てる。
 奇声と楽団の演奏が入り混じり、山間をけだもののような音が這う。
 ――あの奏者には、たぶんわからないのよね。
 壊すのではなく、守るための想いが。
 比べるまでもなく、音色は異なった。
 疫病と苦悶をもたらすため奏でるオブリビオンのそれと、春告げの白花のようにやさしく強く歌うフィリアのそれは。
 不意に鴉が一羽、濃い藍色の空を飛翔する。
 夜に鳴る山へと紛れた鴉の羽音と鳴き声は、そのまま弧を描いて滑空し、合間を抜けようとしたオブリビオンをつつく。
 ――させないよ。
 鴉を放った主、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は村へ向かおうとする敵を優先していた。
 佇む姿は端然たるもので、戸惑いも焦りも滲まない。そもそも章がそれを抱いたか否か、他者には覚らせずただただ虚空を見つめる。
 そして薄ら緩めた紫の双眸が映すのは、繋がらぬ首の上。
 ――たしかに、そこは失っているけど。
 過去の骸とはいえ頭無き人を模った姿は、目撃者の眼を鮮烈に焼くだろう。
 空気と溶けるように消えた部位のおかげで、かの者たちが色を拝めないと察するはめになる。
 それでもなお、オブリビオンの群れは異形の花弁を吹雪かせて望む。村にある花の色を。その香りを。
 飛び交う鴉も毒花を浴びる中、章は無神論を唱え出す。あまりに虚無的な言葉の代わりに桜花絢爛、春の唄を、オカリナで。
 聴覚が在らぬと予感していた章だったが、元より鼓膜を震わすものではない。
 ――僕の笛は精神に効くものだ。
 声なき声で色を求め彷徨う者にも、論じた思考はしかと届き、動きを凍てつかせる。
 届くと信じて正解だったと、章は密かに胸を撫で下ろす。続けてオカリナの音色につられて、魔導書から蝶と蜜蜂が飛び出した。
 色と香りを尋ねる者たちの視界を、幻想の蝶が惑わす。
 そして蜜蜂のけたたましい羽音が楽団の演奏を乱し、決死の猛攻が繰り出される。
 わからないから、だいじにしましょう。
 多くを語らないオブリビオンからあふれる念は、アイシス・リデル(下水の国の・f00300)の胸をちくちくと突き刺した。
 少女はそっと手を添え、しばらく沈黙を友に選ぶ。
「同じ……なのかな。わたしと」
 器が望むのは、触ってみたい欲と憧れ。
 滲み出す願いはじわじわとアイシスの身を焦がし、だめ、だめだよ、とすかさず首を振った。
 いくら同じに見えても。台無しにしてしまうのは、許せない。きれいなものを汚すのは良くないのだと、アイシスは理解している。
「行かせない、よ」
 少女が立ちはだかる理由は、明確だ。
 ――こんな世界でも、笑って生きてる人たちが、この先にいるんだから。
 どっぷり夜に浸かった世界でも、折れず生き抜く命の花をアイシスは守りたかったのだろう。
 吐いた息も、さすがに白く煙るほどではない。
 それでも、凍える心をアリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)は知っている。冬を耐える辛さも、アリウムはわかっている。
 けれど村で過ごしたひとときは、止まっていた時間が動き出すかのように、アリウムへじんわりと温もりを与えた。
 たとえ一時の春であろうとも、たしかにあの場所は暖かかった。凪いだ湖面にも似た穏やかさを、彼らは伝えてくれた。
 アリウムはそうして咲いた花を一片ずつ、喉の奥へ呑み込んでいく。
 ――尚のこと、汚されたくありません。
 あの場所を。村で接した人々を。
 きっ、と直視した先で、女神を模す存在が毒花を撒く。それは名も無き花なれど、血肉を侵す悪意の花弁。
 毒素にさえ塗れていなければ、オブリビオンの放つものでなければ、爛漫と誇る花の舞いは美しいものだったであろう。
 しかし今、アリウムの視界で踊る花の主は、他でもないオブリビオンだ。
「散らすのは、彼らが営む花ではなく……」
 構えた彼の氷刃が毒花を裂き、そこへ凍てつく波濤を呼び起こす。
 毒の花もろとも敵を押し流す極低温の魔力は、うねりながら敵の数を減らしていく。
「……似つかわしくない、過去の骸です」
 敵を目で示して発したアリウムの言葉は、耳を持たぬ敵にも明瞭に届く。
 だからだろう。
「だいじにしましょう、だいじにしましょう、だいじにしましょう、だいじに」
 理性を解いて荒れたわけでもないのに、アリウムの近くにいたオブリビオンたちは浅ましく繰り返す。
 歯止めが利かなくなった仕掛けのように。大事にしましょう、と。

●花開き
 美しいか否か。そうした基準はアイシスの両のまなこを曇らせる。
 群衆が招いた毒の花弁が舞い散る様も、果てに待つのが金属の輝きを錆びつかせ、痛みを施すのだと解っている。
 それを村へ流すわけにはいかない、他の猟兵の装いを汚すわけにもいかない。めまぐるしい思考の波に、アイシスは押しつぶされそうになっていた。
 だが日頃より湛える笑みに、情は出さない。タールで模られた小さな手で、アイシスは過去を掴む。
 縋る素振りは無い。彼女の心傾くがまま、花の毒素を取り込んでいく。
 アイシスの体内を巡る不浄は、仲間へ向かうはずだった毒をありのまま受け入れる。
 ――これなら、わたしにもできる、ね。
 そのために自分はここにいるのだと、アイシスは信じて疑わない。今もずっと。
 相変わらず理性が欠けた様相で闊歩し、求める者たちを、フィリアは真っ直ぐに見据える。
「わからないなら、見せてあげる」
 本当の花の香りも、色も。
 春の嵐は時に凄まじく、時にさらりと。それを連想させる風に、鈴蘭を舞わせて。
「……いつか」
 ライアを支える手に、自然と熱が籠もる。
「いつかこの地にも 本当の花が咲くでしょう」
 その時に、子どもたちが笑顔でいられるよう――フィリアは願いを音に含み、戦い続ける。
 猟兵たちに抗おうとしているのだろう。敵陣に芽生えた本能は、かつての栄光を手に掴む。そうして蘇った力は短い間ながら、かの者たちを強くする。集団で襲撃してきた分、連なればそれは脅威となる。
 そんな光景を前に、びいどろが迷彩のため溶かした指先は夜に透け、身を軽くさせた。
 とん、とつま先で枯れた大地をつつく。硬い質感もやはり、電子の海を泳いでいたびいどろにはまだ少し不思議なもので。
 ――ボクも、ほんとうのこと、なんにも知らないでいたけれど。
 香りも、色も。だから世界を渡り、見るものが真新しく感じることもあった。
 暫し思考の海に沈んだ後、ゆるくかぶりを振り、びいどろは矢を番える。
 ――ううん、今も、わからないでいる。けれど。
 天高くへと射出したのは、星降る夜をつくりだすため。
 きらきらと息衝く飛礫が宙を経由し、理性を失ったオブリビオンの群れを射貫いていく。
 願いの先を映し出したタロットは、何度でも仲間たちへ力をもたらす。
 手元からタロが択ぶカードはいつだって、望むままの絵が描かれている。
 彼が捉える視界内で騒ぐ、女神を模したオブリビオンの群れが、理性を喪失して襲い来る。惨いとも言えるその光景ですら、揺蕩うタロを脅かさない。
 僅かにカードをかざすタロは、顔に穏やかさを貼り付けたままだ。
「……哀しいね」
 落ちた呟きは雫のようにささやかで。
「ただ徒に、今を懸命に生きる人々を蝕むだけとは」
 過ぎ去りし日の亡霊が、知ることも変わることも叶わない。
 残酷なほど、続く現実はかの者たちを置き去りにしていく。
 神秘に寄り添いカードをなぞるタロの胸裏に、ふしぎと湧き始めたのは先ほどまで過ごしていた小さな幸い。溢れんばかりの夢や希望とは少しばかり異なっても、たしかに存在するもの。
 だからこそ。
 ――手折られることが無いように。
 心意は外へ零れることなく、伏せたタロの瞼が覆った。
 こうして戦闘が続く中で、キトリは痛感する。
 凶暴な突撃を繰り返す敵の衆に、心は無い。過去より生まれ出でた重苦しさを吐きながら、只管に命の花を求め歩くだけだ。
「あたしに任せて!」
 咄嗟にキトリが羽を煌めかせ、群れの中を縦横無尽に飛びまわった。
 凶悪な敵の暴走から仲間を庇うため、生気なき腕と腕の合間を、片翼と片翼の隙間を飛行し、翻弄する。
 目はなくとも、感知する範囲が敵にはあるらしい。素早い行き来を繰り返すキトリの姿は、かの者たちの気を惹く。
 その間、アリウムの足元から生じた清冽な漣は、俄かに怒涛と化して一団に被さる。同時に、敵が起こした毒花も浚う。
 ――私にできることは、もとより決まっています。
 前に出て戦う猟兵が群衆に囲まれないよう、暗夜を照らす白波は着実に呼び続ける。
 ――迫りくる闇を祓い、色彩豊かな村の一助となりましょう。
 浮流した毒の花弁は間もなく白に溶ける。そして女の様相を呈した命を、湖よりも深い死の底へ連れて行く。
 囮となったキトリへと振るわれた、狂気の細腕。霊気を帯びた杖ですかさずキトリが受け返す。
 防御の衝撃で宙へ吹き飛んだキトリは、くるりと器用に身を回転させた――空中は彼女の独擅場だ。
 そしてもう一度、彼女は杖を掲げる。明けが遠い空へ、真っ直ぐに。
「さ、あなたの花を見せてあげて、ベル!」
 吹いた花弁が映すのは空の色だ。
 異端に沈んだ一柱一柱へ捧げるそれは、アズール・テンペスト。
 周辺を包み渦巻く花嵐が、絶え間なく敵から未来を剥いでいく。
 突如、毒素に浸したかのような花弁が、オブリビオンの群れから躍り出た。
 無数の花弁は、集団で戦っているがゆえに脅威となった。何体かの首なし女神が生むだけで、花が満開に咲う。
 間に合わないと判断するより一瞬早く、章の鴉が飛んだ。仲間に纏わりつく敵の肩や腕をつつき、意識を鴉へ向けさせる。
 いかに毒花が翼を傷めつけようとも、鴉は章の意志に沿い翔けた。だから章も迷わずオカリナで、音の形をした哲学を吹聴する。
 ――彼女たちが、花を欲すなら。
 彼が振り撒く論考は、拙いと評するには上手く、上手と評するには拙い。だからこそ、受けた敵の精神を心ゆくまで削る。
 敵の内に生じた揺らぎへ、すかさず章の魔導書から花蟷螂が飛び出す。オブリビオンが放った毒花の嵐は、花蟷螂にとって恰好の狩場。花弁に紛れた花蟷螂が敵へ次々と斬りかかっていく。
 同じだ、と章は瞳を揺らす。花蟷螂が紛れたように、確かにそこにあって、見えるはずのものが多い世界で。
 ――目にみえるものが見えない人は多いから。
 憂うにはあまりに、世界が広すぎる。

 敵の数もだいぶ減ってきた。
 おかげで度重なる毒花の乱舞が、猟兵たちの心身へ影響を及ぼす機会も抑えられつつある。
 それでも錆びかけた金属の匂いは、徐々に戦場へと零れだしている。アイシスも感じずにいられない。
 だから彼女は毒の花弁を避けるのではなく、受け入れていく。
「……わたしの武器、もともと、スクラップだもん」
 錆びても、たとえ壊れても。また作り直せばいいのだと彼女は微笑む。敵の群れを前にしても、臆することなく。
 握るスクラップの錆びが広がっても躊躇わず、やがて内側で毒素を清めていけば、アイシスの身は聖者の加護を宿した。
 強力であるがゆえに代償も大きいが、やはり少女の双眸は陽射しにも似た橙を映すばかりだ。
 名も無き毒花がバレルに絡まる。レインは眉根を僅かに寄せ、銃を振って奇怪な花弁を払い落とそうとした。
 しかし銃身に融けて浸みこんだ毒が、握るレインの指先をも痺れさせる。
「まったく……厄介な力だね」
 疼痛が肌の下を走る。だが痺れる痛みに迷う暇は持たない。
 レインの手は躊躇いなく銃から離れ、毒が回らぬ裡に弓を引く。
 ――これなら、いける。
 鏃を飾るは闇よりも深い黒曜石。
 レインはその矢を、仲間を援護するために射た。
 傷ついた身を癒そうと、キトリが声を張る。
「大丈夫、聞いてもらえるかしら?」
 銀糸をなびかせ、キトリは胸いっぱいに夜気を吸い込んだ。
 喉を駆けあがる息に声を乗せ、響く音楽をも拭う歌で己を、そして仲間を癒していく。
 金属へ錆を齎す異形の花弁は、断続的に猟兵たちを襲う。その度にアリウムも白き波濤を出現させた。
 アリウムたちの眼前を闊歩するのは、なにひとつ創造せず、奪い壊すだけの存在だ。
「今ここで屠りましょう」
 彼の発言に首肯し、敵の視線を切るようにタロは身を挺した。
 微かな隙間をもすり抜けようとした花弁を、己で遮る。
 招かれざる客が村へ近寄らぬため。募る想いが籠もる花を守るため。
「なに、本体さえ無事なら多少の傷は些細なもの」
 手の平を押し当てた胸の内、カードは今も綺麗なまま。
 そして七色ゆらぐ白で、彼は楽団を眺め目を凝らす。
 ――これだけの数がいるならば。
 探し求めた色はない。けれど意識を逸らさずタロは探す。
 居てもおかしくはない指揮者の姿を。
 だが有象無象のごとく、同じ容姿のオブリビオンたちの中に、指揮棒を振るう姿は見受けられない。
 観察眼を巡らす仲間がいる、その一方。
「レインっ!」
 悲痛な情が張り裂けんばかりに、声に乗った。振り向いたレインは、まだ痺れが残る腕を取った友の姿を間近に捉え、ぱしぱしと目を瞬く。
 フィリア、と思わず名を呟けば、揺れる瞳がレインを見上げた。
 常より浮かんでいた笑みも少しばかり控え、フィリアの頬はやや強張っている。
 戦いの場で、フィリアが見続けてきたのは友の背だ。
 いつも守ってくれる頼もしい後背は、フィリアの手の届く距離を離れ、敵を倒す。
 同じ地に立ちながらも、戦いの最中、友の表情を常に視認できるとは限らない。
 だからこそ、フィリアは伏せた睫毛に祈りを寄せる。
「……貴女に、風と花の加護を」
 ぎゅっとレインの手を握り、フィリアは無事と幸運を綴る。
 怪我をしないでと紡いだフィリアの声に震えはなく、春の陽だまりのように温かい。
 レインは薄い笑みを溢した――この温かさに支えられ、彼女は前へ進めるのだ。
「ありがとうフィリア」
 だから返す言葉は、わかりやすく。
「今回も頼りにしてるよ」
 レインからの贈り物に、フィリアも目を細めて頷いた。
 菫の竪琴は小さな幸せを謳い、弾き手のフィリアは春を歌う。
 吟じる言葉は、土に埋もれた命を芽吹かせるように温かい。
 強くたくましく生きる人々へ想い馳せれば、ますます優しさが歌声に乗る。
 ――あの人たちの笑顔も 小さな幸せも奪わせたりしない。
 覚悟が空気と声に融け、戦場を包み込んだ。
 それでも、無差別に暴れる女神の姿は、数が数だけに哀れさを駆り立てる。
 毒花を一片掬うまでもなく、びいどろの手の平は求める者たちが奏でる命の音を握り込んだ。
「散らしてはいけない花があるってこと、すこしだけ、知ったんだ」
 村で見て、触って、聞いて、びいどろは思った――花が咲くと、しあわせになるヒトがいる。
 自らの内側に沸き上がったものを、びいどろ自身、無視することなどできない。
 だからオブリビオンへ手向ける言葉も、すんなり纏まる。
 気持ちの喩え方は未だわからなくても、告げる挨拶はわかりやすい。
「おやすみ」
 明ける前に贈った。朝を迎える前に、泡のごとく儚い音で。
 良い夢を、と歌の代わりにびいどろの音色が薄闇を漂う。
「遠い海の向こうに、さようなら」
 甘く煌めく安らかな眠りへと誘った。

●終の花
 数を減らした一団は、当初よりもだいぶ静かになった。
 それでもまだ、姿は闇に浮かぶ。ぽつぽつと疎らなシルエットが、ハープやリュートを奏で続ける。
 アリウムは短く息を吐いた。諦めの悪いオブリビオンを前にして。
「……花溢れる村に、あの音は」
 ふさわしくないからこそ、辿り着かせはしないと得物を握り直せば、何が来ても大丈夫、とキトリが胸を張る。
 ――人々の平穏を破壊する存在は、全て消えてもらうわ。
 未だに、楽団は問いかけを止めなかった。花の色を。花の香りを。執拗に。
 そんな有様に心持ち目を細めて、章は冷え切った夜気を吸う。
「……あの女神達には、花が見えたのかもね」
 天然の花か、命の彩りか。オブリビオンの考えは解らずとも、予想なら叶う。
 ――要は、気持ちが本物かどうか。
 花の価値は心が造るものだと、章は乾く風にそっと囁いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『堕ちた死体』

POW   :    噛み付き攻撃
【歯】を向けた対象に、【噛み付くこと】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    一度噛まれると群れる
【他の堕ちた死体の攻撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【追撃噛み付き攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    仲間を増やす
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【堕ちた死体】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。

イラスト:井渡

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●一変
 手で数えられるまでに減ったオブリビオンを、猟兵たちは村から遠ざけていた。
 数の暴力で村へ迫っていた一団を、少しずつ押し返した結果だ。
 合間を抜けようとする悪意をも、猟兵たちの決意が断じて許さなかった。
 だから村は未だに安眠の中にあり、騒ぎに気付きやってくる人の気配もない。
 猟兵たちはひとつ、あることを念頭に置いていた――最後まで気を抜かないこと。
 何処かで生じるわずかな綻びも、また微かな異変も察知できるよう、ある猟兵は只管敵を倒し、ある猟兵は敵の気を惹き、ある猟兵は仲間を支え、ある猟兵は村への道を断ち。
 交わさずとも各々の動きが大群を追い詰め、楽団の企てを着実に阻んでいた。
 だからこそ、疫病を齎し人々を苦しませようと動く楽団は、焦ったのだろうか。
 白皙の細腕で弾いたハープの弦が。冷えきった指で奏でたリュートが。
 穏やかだった――と言い切れはしない。
 しかし少なくとも今この瞬間に至るまで、楽団が奏でる音色は穏やかな方だった。
 そう猟兵たちが感じるほど、支離滅裂な音をオブリビオンたちが披露する。
 劈く音に思わず耳を塞ぎたくなった。
 あるいはリズムも構わず狂ったようにかき鳴らされ、不快感を覚えた。

 いったいこの山間で何が起きたのか、猟兵たちはすぐに理解する。
 ほんの一瞬、たった一度のまばたき。それが分かれ目となった。
「アァ……アアァァ……」
 次に猟兵たちの双眸が捉えたのは、それまで戦っていたオブリビオン――首の無い女神を模した姿――の名残も面影もない、別種のオブリビオン。
 まるで、地の底より蘇ったかのような朽ちた死体。
 生き残っていたオブリビオンが、それに変わり果てたのだ。
「ガ、グゥゥ、アァァ……ッ」
 意味を持たぬ声で呻き、変貌したオブリビオンは猟兵たちへ殺気をぶつける。
 窪んだまなこから放たれた視線と、纏う殺意の気配に、猟兵たちは眉根を寄せる。

 数は確かに減った。
 だが、今まで対峙していた存在よりも、侮れない。
 交戦するより一瞬早くそれを察してしまう程度に、敵は強さを増していた。

 戦いの夜は、まだ終わらない。
矢来・夕立
夜中に騒ぐんじゃありませんよ。

難しくとも短期決戦、遅くとも早朝。
それまでに終わらせないとマズいですね。
……多少の無理はしましょう。
【刃来・慈正紅衣】。詠唱はしない。
オレが痛い目を見るぶん、あちらにも相応に死んでもらいます。もう死んでても何回でも死んでもらいます。

今更暗殺も何もないな。
引き続き回避や逃走に見せかけた攻撃、【だまし討ち】を繰り返します。
位置取りは前衛。後衛の皆さんに対して、できうる限りの足止めをできればいいですね。

問題は追撃噛みつきですが、速さ勝負なら負ける気がしません。避けます。避けますよ。
当たったらもうその時はその時ですね。
大丈夫ですよ。殺すまで死にません。


鵜飼・章
これは…?
まさか昔獣に襲われた村の人の…
考えすぎかな

【早業/先制攻撃】で
相手より速くUC【閉じた~】を発動
先の戦いで倒した女神達は
叶う限り全て僕の支配下に置き
これ以上敵が殖えることを阻止する

敵は近接攻撃しか出来ないようだ
女神のゾンビを群がらせて進軍を止め
僕自身は離れて攻撃指示を出す
味方は後衛型が多そうだし壁にもなれば
途中倒されたり等して数が足りなくなった分は
魔導書から肉食獣等を出し【早業】で補う

ゾンビって脳を潰さないと蘇りそうだし
噛みつきの阻止も兼ねて頭を狙うね
手が空いたら僕自身も針の【投擲】で【目潰し】して支援

村に墓地があるなら
後で花を飾りに行こうかな
忘れられているのかもと何となく思ったから


三ヶ月・眞砂
楽団のアンコール、っすか?
見るからにヤバそうっすね
…スティル、本気でいくっすよ
槍型に変わった相棒をひゅんと回し

みんなが穏やかな朝を迎えられるように
花ある未来のために
俺は希望の火を灯し続けるっす
狂った演奏会はここで終わりっすよ!

おお、歯並び綺麗…でも、ないっすね!?
戦闘知識と見切りで攻撃を避け
隙を見てカウンター・2回攻撃
【灯火星】でしっかり燃やす
また増えたら厄介っすからね

他の猟兵さんがピンチなら
炎で自分におびき寄せられるか試す
駄目なら素直に正面突破!
耐性有るしちょっと噛まれても平気っす
寝ぼけたスティルに噛まれる方が痛いんすよ

槍でなぎ払い距離を取り魔力の鱗を放って
【一等竜星】でガブッとお返しっす!


キトリ・フローエ
けたたましい不協和音に思わず翅を震わせて
そうして目の前に居たモノが別の存在へと変わり果てれば、不快な感情を隠さずに
…そうまでしてこの村に病の種を芽吹かせたいというの
けれど、そうはさせないわ
あたし達がいる限り、何度蘇ってきたとしても、この先へは絶対に行かせない

全力籠めた夢幻の花吹雪を【範囲攻撃】でお見舞い
少しでも敵の群れの動きを阻んで、他の猟兵のみんなが攻撃するための隙を作るわ
倒れても立ち上がるのならエレメンタル・ファンタジアの聖なる炎で燃やしてあげる

…村の人達がどうかこのまま、騒ぎに気づくことなく明日の朝を迎えられますように
みんなで作ったたくさんの花が、小さくとも、希望を咲かせてくれますように


レイン・フォレスト
【アイビス】
こいつら……変身した?
変身前よりやっかいそうだ
でもやることは同じ
村の方へ行かせるわけにはいかない

フィリア、君の側にいられなくなるかもしれない
ちょっと走ってくるよ
信じてるから、無茶しちゃダメだからね

【SPD】
上着を脱ぎ捨ててダガーを構える
【シーブズ・ギャンビット】を使い敵へ向かって駆けよって攻撃
敵の攻撃は「見切り」「第六感」で回避

初撃さえ凌げれば、あとは何とかなる
攻撃を当てては離れる、ヒットアンドアウエイ戦法で確実にダメージを

一体に拘らず、離れた先に別の個体がいればそいつにも攻撃
敵の間を駆け回って的を絞らせないように動こう

ささやかな幸せを大切にしてる人々
彼らを僕は守りたいんだ


フィリア・セイアッド
【アイビス】
どうして彼らは 歌で音色で
命あるものを怖そうとするのかしら
壊しながら 花の色や香を知りたいと歌うのかしら
…もしかしたら本当に 花を知りたい?
命あるものが咲き誇る姿を みたいの?
そう思えば 恐ろしい姿も悲しくみえる
今度は あなたたちのために歌うわ 
村の人のものではない あなたたちだけの花が見つかるよう

「WIZ」を選択
あなたこそ無茶はしないで 駆けだすレインの背中に声をかける
偽りの生に縛られた命の解放を祈りライアを弾く
自分への攻撃はオーラ防御
破魔の力も乗せて 仲間を鼓舞する「雪雫の円舞曲」
仲間が誰も傷つかぬよう 村の人たちが守れるよう
レインの怪我が癒えるよう 「春女神への賛歌」を


タロ・トリオンフィ
姿形は変われど本性は変わらない……
『過去』である彼らが、最早望んでも得られぬ今を壊す、その災い
……ならば
あるべき『海』に返すのみ。

示された一枚はUC『XIX』、太陽のカード

どれ程苛烈に牙を剥こうとも
刈り取ろうと群がっても
誰一人膝をつかせはしないから

立ち位置は意識的に、
村を背に、死角に入られないように
決して突破されることの無いように

自身が狙われるならばオーラ防御で身を守り、
追撃を出来る限り防げるよう
癒し手が倒れる訳にはいかないからね。

――ささやかな平穏
彼らの暮らしを『過去』にしない為に
手折る死者の手は、何処にも触れさせない。

……花を作る彼らの心が、咲き続けるように。


海月・びいどろ
その目には、もう、何も映っていないんだね
花の色も、ヒトのかたちすらも、忘れてしまって
それとも、知りもしないまま?

悲鳴のような音が、呻き声が
村に届いてしまわないように
たくさん、たくさん、
海月の機械兵士たちを喚び出して
取り囲んで、塞いでしまおう

……おなかが、空いてしまったの、かな
なかまが、欲しい?
噛まれると、危ない、よね

海月たちにも、迷彩をまとわせたら
マヒの毒針で、ぎゅっと捕まえて
ボクも、この、にびいろのナイフで
いっしょに戦うよ

いたみは、少ない方が良いのだけれど
知らなければいけないことも、あるから
もう、なにも、わからなくても
その身に、刻んで


アイシス・リデル
……また、変わっちゃった、ね
あの音楽のせい、なのかな……
あなたたちはもう、きれいなものを知りたい、とは、思わないのかな
ただ、壊して汚したいだけ、なのかな

さっきまでに取り込んだ毒とか病で
身体をおっきくつよくして、戦うよ
今のわたしは、ただ、きたないだけじゃ、ないから
噛みついたあなたたちの方が、あぶないかも、だけど
それで止まってはくれない、よね

武器を新しく、作り直して
錆びて朽ちた分からも、毒素を取り込んで身体に回して、戦うよ

戦いが終わったら、残ったものはわたしの中に取り込む、ね
わたしが出した分も、全部、ちゃんとお掃除していく、から
こんなところに残しておいたら、あぶないもん、ね


アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

敵の姿形が変わろうとも私達のする事、すべき事に変わりはありません。
現在の平穏を守るため、過去の躯を氷葬いたしましょう。

数が減ろうが油断する愚は犯しません。
未知の敵に突貫は危険です。
最初は『属性攻撃』ホワイトファングで動きを止めて、味方の援護にまわりながら様子を見ましょう。
距離を取りながら倒せれば最良ですが、上手くいかない場合は私が前へ出ます。
味方を『かばう』よう立ち回り、ホワイトパス、ホワイトホープで村へはこれ以上近づけさせません。

花が本物でなくとも、そこに宿る想いは本物です。
村や村人が闇に飲まれる光景は見たくありません。
暖かさをくれた村人達のためにも、迫る闇を切り開きます。


レザリア・アドニス
今度は、死体…ですか(眉を顰め)
無頭の天使のほうがまだ可愛く見えてしまうわ
しかしどんな形でも
オブリビオンには、生者の世界に侵入させないよ
ここはお前らの来るべき場所ではない
一度死んだお前らは、もう大人しく、あっちの世(夜)に眠りなさい

引き続き灰炎の矢で敵の群れを掃射
常に敵と距離を取るように気を付けて、囲まれないように側面や背中も注意
全員燃やせれば、後は一体ずつ集中攻撃して、早く数を減らす
命中率を保証することを前提に、可能なら頭部を狙う
そんなに噛みつくが好きですか?ならばその歯を、口を砕けてあげるわ
囲まれた猟兵がいれば、その者を攻撃している死体を優先に叩く
最後は討ち漏らしがないかを確認



●夜の底で
「……変身、した……?」
 常より落ち着いた顔のレイン・フォレスト(新月のような・f04730)は、驚愕を隠しきれずにいる。
 死に堕ちた身。
 端的に表すならば、それが妥当かもしれないと思う。
 衣服はきちんと纏い、やせこけ骨と皮が目立ちながらも、肌が腐りびらんした様子も無い。言わば綺麗な死体だ。
 魂と目玉だけ刳り貫き持ち去ったかのごとく、内なるものを失った器は立っているのに、ぽっかりとした印象を猟兵たちへ与えた。
「望みたくないアンコールっすね、これは」
 三ヶ月・眞砂(数無き星の其の中に・f14977)は口端を引き絞る。
「姿形が変わろうとも私達のする事、すべき事に変わりはありません」
 続けてアリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)が淡々と話せば、そう、と小さくタロ・トリオンフィ(水鏡・f04263)も呟く。
「姿形は変われど、本性は変わらない……」
 彼らがつなげた話に、少し離れたところでレインも顎に指を軽く添え、唸る。
「変身前よりやっかいそうだ。でも……」
 ――やることは同じ。
 仲間の発言は仲間へ伝わり、顔を見合わせ頷いた。
 やがて眞砂は唇で名を呼ぶ。
「……スティル」
 双眸に宿る光は真っ直ぐ、真剣に。
「本気でいくっすよ」
 蒼銀の竜槍に変化した相棒を闇夜にかざせば、死体の群れが奇怪な呻き声をあふれさせる。
 異様な光景を前に、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は絶句していた。
 むかし獣に襲われたという、村人たちの成れの果てではあるまいかと。可能性を、考えずにいられない。
 ――まさか、ね。
 考えすぎであればと望みたい想いから、章は自然とかぶりを振る。
 他の猟兵と同じようにキトリ・フローエ(星導・f02354)も、一部始終を目撃して思わず翅を震わせた。
 けたたましい不協和音は、耳だけでなく肌にも心にも、嫌というほど響く。
 さらには変わり果てたオブリビオンの姿が、視覚の暴力として目の前にある。不快な感情を隠せない。
「そうまでして、この村に病の種を芽吹かせたいというの」
「ガァァ……ウ、グゥ……」
 ゆらり、ふらりと揺らぐ頭はうたた寝で意識が飛んだ人のようでもある。
 しかし見つめてみれば、彼らはまるで死の底から蘇ったかのようだ。
 両のまなこに空いた窪みは、深い闇を抱き生者のそれとは思えぬ。
 朗笑を忘れ半開きのままでいる口からは、耐えず乾いた呻きが零れている。もはや声と呼べるものか、とんと見当もつかぬ。
「あの音楽のせい、なのかな……」
 仲間から少し離れたところで、アイシス・リデル(下水の国の・f00300)がぽつりと零した。
 無頭の白き天使の次は、蘇った死体。
 眉根を寄せたレザリア・アドニス(死者の花・f00096)は、暗闇に炎を浮かび上がらせる。赤でもなければ白でもない、狭間の灰炎を。
 ――どんな形でも、オブリビオンには、生者の世界に侵入させないよ。
 炎で戦場を焼く間も、死者の群れは揺れ動く。
 死体は死体を欲するのか。共生する死霊たちが少しばかり騒ぎ出すのを、レザリアは胸を押さえて感じた。
 悲鳴のような音。呻き声。
 痛ましい音のすべてが村に届いてしまわないよう、海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)はたくさんの機械兵器を呼ぶ。
「たくさん、たくさん、来て」
 兵器の軍団もまた敵に劣らぬ数存在し、山間は妙な賑わいを見せる。
 そうしている間に矢来・夕立(無面目・f14904)は詰襟の衿元を開き、敵陣へ告げた。
「騒ぐ時間じゃありませんよ」
 明けぬ夜が明ける前に、終わらせたい。
 焦りは無くとも短期決戦を望みたいと、夕立は思い始めていた。
 ――多少の無理はしましょう。
 夕立は自身の首を掻き切った。傷口が燃えるように熱い。そうして彼は重ねた過去の悪事、生み出す怨念を力に換える。
 死者が夕立に群がり始めた。矢継ぎ早に彼らを撥ね、代償による苦痛を感じさせない眼差しでオブリビオンへ仕掛けていく。
 フィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)は睫毛を震わせる。
 ――どうして彼らは……歌で、音色で、命あるものを壊そうとするのかしら。
 大事にしたいと言うのに。壊しながら歌い、壊しながら奏でるのを当然として動くのか。尋ねる言葉も喪失したかの者たちの耳朶を打つ術はなくとも、拭えぬものが彼女にはある。
 春の空のような瞳に映す敵の有様は、彼女にとって不思議さの塊でもあった。

●夜を走る
 たった一手、ほんの一瞬、相手より速く、章は閉じた時間的曲線の存在可能性を発動した。
「……死神は気まぐれみたいだ」
 気まぐれさにかぶりを振って、夜の底を刳り貫いたネイルカラーで、指し示す――先の戦いで果てた女神の名残を。
 繊細な容貌からは想像もつかぬほど淡々と、章は脅威を取り除いていく。わずかにでも死者に与する存在を減らすために。
 噛み付いてきた死者を薙ぎ払った眞砂が、距離を取りながら魔力の鱗を解放する。鱗の礫はまるで星屑のように宙を走り、潤いも生気も無い死体へ突撃した。そこへ。
「ガブッとお返しっす!」
 眞砂が仕掛けたのは、一等星の輝きを持つ竜。じゃれるように死体を噛めば、眞砂の言葉通りそれは反撃となった。
 その少し後ろ、夜より遥かに明るい蒼氷色の瞳の奥に、アリウムは張り詰めた緊張に似た感覚を灯したままでいる。
 ――数が減ろうが、油断する愚は犯しません。
 なにせ対峙するのは未知の敵だ。数にも姿にも、彼が惑わされることは、ない。
 長身の身で構えたのは、純白の花弁から伸びた刀身。アリウムの内に眠る凍てつく魔の力を、剣先が編んでいく。吸い込んだ息を吐く頃にはもう、氷の魔弾が一体の額を貫いていた。
 すると楽団の残党は、戦場で死した首無しの女神の残滓を、堕ちた死体へと変貌させる。
 同じころ。
「フィリア、君の側にいられなくなるかもしれない」
 ちょっと走ってくる。
 彼女の言葉が示す意味を、フィリアはゆっくり飲み干していく。
 そんなフィリアに、レインも気持ちを重ねた。
「信じてるから、無茶しちゃダメだからね」
「あなたこそ無茶はしないで、レイン」
 フィリアが声をかけると、レインはしがらみのように纏わる上着を脱ぎ棄て、ダガーを構え駆けだした。
 助ける相手は後ろにあって、見守り支える友は前にある。
 頼り頼られる状況下、フィリアは凛と佇むばかりだ。
 そして命の解放を祈り、菫のライアを弾く。偽りの生に縛られたことを、哀れみながら。
 ――もしかしたら本当に 花を知りたい? 命あるものが咲き誇る姿を みたいの?
 なにげなく脳裏に浮かんだ言葉を、フィリア自身、無視できずにいた。花知らずのオブリビオンの真意はわからずとも、やはり思考は止められない。
 本気で知りたいと、片隅にでも思っているのであれば。そう思えば、恐ろしい姿も悲しく見えてしまう。だから胸でざわつく念を、フィリアはライアへ導く。
「今度は、あなたたちのために歌うわ」
 発した言葉に偽りはなかった。
 彼女自身の人柄や生い立ちを表すかのごとく、真白の輝きでもって彼女は告げる――村の人のものではない、あなたたちだけの花が見つかるように、と。
 天高く掲げた花蔦が絡む杖の先端から、キトリが光り輝く花弁を解き放つ。
 それは無数の花、煌めく数多の光。
 身体の芯、心の底から震わせた感情を、彼女は夢幻の花吹雪に篭める。
 一瞬にして辺りを包み込んだのは、キトリが招いたフルール・ド・リュミエール。
「花よ、舞い踊れ!」
 隙間を埋め尽くすほどの花吹雪は、視界を埋め尽くすだけでなく、呼気をも侭ならなくさせるようで。
 増えた屍体を、春待ちの嵐がそうして攫ってゆく。
 迫りくる死者を前にして、びいどろは首を傾いでいた。
 ――おなかが、空いてしまったの、かな。なかまが、欲しい?
 咬んで増やして。増やしてはまた咬んで。むなしい繰り返しを試みる死者の姿は、やはりびいどろには不思議だった。不思議ではあったが、ふたごの海月を視界に入れてびいどろは瞬く。
 巡る考えには果てが無い。だから気を奪われすぎぬよう、ふわふわ浮かぶ海月を敵陣へ流した。
 波間のようにゆったり満ちては引いた海月が、死体一体一体に毒針を突き立てていくのを、びいどろもしかと見届けて。そして、にびいろの刃で仕掛ける。
 毀れた刃も、鋭い切っ先も。ましてや言葉すら届かないのなら、一振りに全霊を尽くして。
 仲間たちが動く間、先ほどまで戦場に散りばめられていた毒の花を掻き集めているのはアイシスだった。
 闇夜に沈んだ毒花の効力も、アイシスにとって立派な糧となる。
「いっぱい食べて、いっぱいおっきくつよくなる、よ」
 あの人みたいに。
 最後は胸中に秘め、言いきらず終えたアイシスの宣言。誰が聞くでもない言葉をも彼女は呑み込み、自身の強力なものへ変化させる。
 ――今のわたしは、ただ、きたないだけじゃ、ないから。
 それでもオブリビオンは、止まってなどくれないのだろう。
 広がる現実にゆっくり首を振って、アイシスは高めた力をありのままに揮い、死体を叩いた。
 その頃、タロがめくった先に示されていたのは太陽のカード、ル・ソレイユだった。
「遍く命の象徴たる、太陽の光を」
 もたらすのは光。生命を育む眩しさ。
 夜の世界の根幹を揺るがすほどの陽光は、タロの意向に沿って、ほかの猟兵たちを癒していく。
 ――誰一人として、膝をつかせはしない。
 決意はタロの顔に宿る。どれほど苛烈に牙を剥こうとも、刈り取るべく群がろうとも、それは揺るがない。
 だからタロの立ち位置もおのずと決まった。村を背に、突破されぬようオブリビオンの行く手を阻む。
 それが必ず未来を掴み獲ると、カードが示すものとは別にタロは感じ取っていた。

●死除けの花
 身軽になったレインのシルエットが、静かな夜空に映る。
 舞い降りると同時に、ダガーが敵を真っ二つにした。刀身は短くとも、生命の強さを示すかのごとく力強さで。
 薄闇が漆黒のチョーカーを照らしている――これを身に着けていると、勘が冴えた。
 レインは敏い感覚で、組み付こうとしてくる屍の腕を掻い潜り、下方から肩を斬り上げ、その勢いのまま飛び退く。
 ――行かせるわけにはいかない。この後ろには、村があるからね。
 初撃さえ凌げれば、あとは何とかなる。
 ちらりとレインが一瞥した先には、フィリアがいる。
 フィリアが奏でるのは、仲間たちへの鼓舞の音。楽団の演奏を上書きするように、音に音を重ね、音で音を掻き消す。
 それでもなお、オブリビオンは先に朽ちた死体を弄ぼうとした――だが章の手管がそれを阻む。
 章は朽ちた女神を操り、盾にして群れを山奥へ押し込んでいく。
 堕ちた死体が揺らめくのを視界に捉えながら、アリウムは指先で空気を摘まんだ。
 こすって天へ向けた指の腹に、凍てつく魔弾を生み出して。
「動かないでくれると助かります」
 彼が射出した氷の魔力は、ぱきぱきと音を立てて過去の躯をくるんだ。凍った命でありながらも、かの者たちは声を洩らす。
 彼らの撒き散らす感情が嫉みでも憎悪でも、レザリアには関係なかった。
 ここは死した身の来るべき場所ではないと、ただ念を押すだけだ。
 応じてあっさり帰るとも思えなかったが、伝えずにはいられない。けれど結局、言葉なき言葉を吐くばかりのオブリビオンは耳を傾けない。だからレザリアは狙い定めた。
 灰炎の矢を束にして、一体ずつ着実に倒していく。
「……もう大人しく、あっちの世に眠りなさい」
 幸福を招く福寿草を、はらはらと髪に咲かせて。
 夕立が駆けた。羽織に縫われた月の意匠が、夜特有の薄明かりに冴える。
 ――オレが痛い目を見るぶん、あちらにも相応に死んでもらいます。
 何回でも、何度でも。
 首から走る痛みもよそに、夕立は黒衣で狭間を抜け、オブリビオンたちの意識を翻弄していく。
 得物を握って振りかぶった片手も、振り切ることなく戻しては、一拍置いて斬り込む。
 そうした行動を繰り出す夕立の後方。
 飛散したオブリビオンの殺気を、タロは身に纏うオーラで防いでいた。いかに守りを固めようとも、襲撃を受ける覚悟はタロも有している。しかし。
 ――癒し手が倒れる訳にはいかないからね。
 真白の頬を微かに緩ませて、タロがまた守りを固める。
 喰らおうとした死者を間近にして、眞砂は目を瞠る。
「おお、歯並び綺麗……でも、ないっすね!?」
 胸元を押し返した拍子に槍で風を裂き、矛先に帯びる炎を夜に刻んだ。
 散った小火はあっという間に死肉を焼いていき、眞砂は延焼の度合いを強めつつ宣言する。
「さぁ、燃やしてやるっすよ! まーた増えたら厄介っすからね」
 ニッ、と笑ってみせた眞砂に死者たちが低く呻く。
 その頭上、星空を切り取ったかのような美しいフェアリードレスが、風に揺れていた。
 纏うキトリは夜空を舞い、羽根に空を透かす。
「させないわ!」
 そして立ち上がり覚束ない歩調を見せる死体へ、すべてを浄化する炎を撃つ。何度だって敵を倒し、何度でも道を阻むつもりでキトリもいた。
 絶対にいかせないと決めた村を、キトリをはじめ猟兵たちは背負っている。
 キトリは堕ちた存在の両腕を、小柄な身で凌ぐ。間髪入れず花の代わりに火の玉で嵐を招けば、猛威を揮う自然に、死体が山を築き始めた。
 どうか、とキトリは徐に祈りを寄せ始める。
 ――村の人達がこのまま騒ぎに気づくことなく、明日の朝を迎えられますよう。
 願掛けに近い情を吐息に乗せてから、キトリは凛々しく前を見つめた。
 オブリビオンの瞳は何も映さない。かの者たちの忘れた存在が、大きすぎたのか、ただ遠い過去となっただけなのか。
 びいどろは、心の底に眠る疑問を言葉にする。
「花の色も、ヒトのかたちすらも、忘れてしまって……それとも」
 ――いまも、知りもしないまま?
 忘れるのと知らないのはちがう。電子のみの世界に揺蕩うびいどろも、それは理解できた。
 迷彩に身を隠したふたごの海月を連れて、びいどろは群れへ向かう。桃色のゼリーに似た海月が、ふわり、ゆらりと宙を漂い標的へ毒針を突き立てていく。
 海月が流し込むのはもちろん毒だ。痺れてままならぬ身となった死者たちへ、びいどろが攻撃を重ねる。
「ボクも、いっしょに」
 電子のこどもは迷いなく刃を選んだ。にびいろの短剣が小さな手に握られ輝く。
 死の蕾がここに花開こうとしていた。

●死闘の果て
 ランタンを思わせる暖かな光。それを湛えた瞳でアイシスは屍を捉えた。
「あなたたちは……もう……」
 震える声は、恐怖からくるものではない。
 純粋に問いたい気持ちがタールならではの滑らかな喉を昇り、少女に色彩を与えた。
「もう、きれいなものを知りたい、とは、思わないのかな」
 きらきら。ぴかぴか。そうしたものを好むアイシスにとって、オブリビオンの動きは酷く悲しい。
 だから先程の戦いで毒に錆びた分も含め、スクラップを丁寧により集めた。新たな武器となったスクラップは、アイシスを守る武器となる。
 取り込んだ毒素を力へ変換し、風を切る音と共に武器を振り回す。叩かれても死体はのさばることを諦めない。だが。
 ――ただ、壊して汚したいだけ、なのかな。……本当に?
 アイシスは堕ちた命をまたひとつ、叩き割った。闇に死した花が色を失うように、じわじわと減りつつあるオブリビオンの群れを見据えて。
 同じころ、章は自らが使役したゾンビの数を確かめていた。死者が死者に絡みつく様を眺め、合間で書を開く。そして読み解く手間も要らぬため、すかさず肉食獣を呼び出した。
 自然の脅威となる獣とは異なり、魔力を練り上げた幻の獣は心を持たない。ゆえに章も静かに指示を向ける。山林や草原を駆け血肉を喰らう獣が死体をつつきだす。
 ――蘇ってきた死人って、脳を潰さないときりがなさそうだよね。
 明るい兆しは逃さない。浮かんだ思考が落ちつくより早く、章の手は針を投げ放つ。標本を、在りし日の思い出をそこへ留めるかのごとく死者の頭へ針を通し、獣が牙を立てる。
 オブリビオンが章の操るゾンビを叩き伏せる間に、章と獣の猛攻を受け死者たちが崩れていく。
 一方、黒衣なびく夕立を、数体の死者が囲いだしていた。似通った風貌の死者の群れが蠢く渦の中心に、彼はいる。
 そこへレザリアが矢を射った。
「そんなに、噛みつくのが好きですか?」
 魔法で模った鏃が一体の頭部を射貫き、炎が一瞬だけ夜を照らす。
 ――ならばその歯を、顎を、砕いてあげるわ。
 レザリアの双眸はしかと映す。灰色に霞んだ火矢の尾が消え、死体がひとつ頽れるのを。
 そして敵陣の中、高めた潜在能力は夕立の内で滾り、けれど焦がすほどの熱は帯びずに只管冷たく、敵の追撃をいなす。
 あんぐり明けられた死体の大口も、捕えようと伸ばされた両腕も、彼の瞬きさえ鈍らせない。
 大丈夫ですよ、と避けながら夕立は告げた。
 気散じとも取れそうな足取りは軽く、発する靴音すら削いだ夕立の身は、夜よりも濃い黒を纏って。
 ――速さで勝負するなら、オレが劣っているとは思えません。
 屍の背へ回り込み一太刀を浴びせた。
 彷徨う死体の首筋を鋭利に断ち、半身だけ振り返る。
「殺すまで死にません。オレもあなたも」
「……みたいですね」
 眼差しを伏せたまま応えた夕立に、レザリアも視線を外す。
 猟兵たちはそれぞれで動きながらも、仲間を信じて貫き通す者が居て、仲間の状態を気に留める者が居る。
 戦いの火花は彼らならではの形と色をもって、戦場に咲き誇る。
 一輪のみでは描き切れない色彩が、暗夜に煌めく。村人たちが花をつくり、村を飾るのと同じように。
 もしかしたらと、聖なる炎で敵を焦がしながらキトリは思った――自分たち猟兵が生み出したのもまた、かの者たちが欲する花なのだろうかと。
 別の方角で、レインは目を細めていた。
 この昏き世界で、とても小さな幸せを大切にしてる人々がいる。オブリビオンによる圧制や強奪に苛まれる世界で、耐えながらも。
 平穏に浸る日々は、この世界では諸刃の剣にもなり得るかもしれない。それでもレインは揮う。諸刃の短剣で、穏やかさの中に生きる彼らのために。
 ――守りたいんだ。僕は。
 月さえ見放す山の内側、木々の天蓋の下をレインは駆ける。
 紛れた闇の奥から飛び掛かり、一体を斬りつけるとそのまま圧し掛かり、傷ついた身を踏み台に別の一体へ突撃する。逃さぬよう次から次へ照準を定め、レインの身は軽々と舞った。
 臥した一体は仲間へ託し、間合いを取ろうとするもう一体へ攻める。腕に噛みつかれた痛みも捨て置き、一度飛び退いてからまた地を蹴った。
 素早く敵陣の綻びを縫い、かく乱する。
 そうしてレインが斬りつけた初めの一体へ、海月のふたごが毒針を刺し、びいどろが刃を向ける。
 痛みは少ない方が良い。哀しみも少ない方が良い。それでも目は逸らさず、竦むこともない。
 ――知らなければいけないことも、ある。だから。
 水にとけて、電子の海へと消えゆく身なれど。
 くらげのようにまろい衣で空気を包み、びいどろは死した過去を抱く生者を見つめる。
「もう、なにも、わからなくても……」
 にびいろのナイフに夜を映して、突き立てた。
 刃の一閃は決して弛まず、訴えかけるように堕ちた死体へ深く、深く喰いこむ。
「その身に、刻んで」
 苦悶に荒れた死者の剛腕が、びいどろをはたき落とす。けれど名残惜しむ間もなく、死肉は地へ還った。
 転がり落ちたびいどろへ、タロが手を差し伸べる。びいどろは一瞬の躊躇いののち、そろりと優しさへ手を重ね立ち上がった。幸いにも怪我はない。
 無事を確かめ離れたタロの手によって、運命は幾度でも示される。
 太陽の導きを、仲間への癒しでもって。
 ――此の世で紡がれる、ささやかな平穏。
 細い指先が村での思い出を辿った。唇で綴るのは、彼らの暮らしを『過去』にしないための呼吸。
 オブリビオンは『過去』だ。その『過去』が得られぬ今を望み壊すなど、タロには到底受け入れられるものではなかった。
 日常を手折る死者の手が彼らへ伸びぬよう、タロが手を伸ばした先。表にした太陽の恵みが仲間を癒し、背を後押しする。
「……返すんだ。あるべき『海』に」
 七色ゆらぐ双眸は、敵から逸れない。
 降りしきれとフィリアが綴る。麗らかな春色の歌声で、花弁の清らかさと地中深くで耐える根の強さを。
 言葉に換えた彼女の想いは、あたたかく仲間へ届き、寒さも痛みも拭っていく。それどころか戦場に充満する負の気でさえ、浄化していく。
 ――傷が癒えるように。村の人たちを守れるように。
 翼を折りたたむのと同じように、重ねた指をたたんでフィリアは祈り続ける。
 一方で、味方を庇うように立っていたアリウムは、切っ先で宙に円を掻いていた。
 魔力を纏った軌跡は弾丸と化し、生きる者を虐げるオブリビオンの胴を貫く。
 ――花が本物でなくとも、そこに宿る想いは本物です。
 弾丸は蘇った過去を凍らせる。躊躇いなど無い。
 アリウムの脳裏を過ぎる村での出来事が、彼をそうさせた。闇により切迫した村の未来を守るため、一体ずつ確実に撃ち抜く。
 そのとき空気を切り裂いたのは一条の光――勇躍する眞砂の炎だった。
 彼の笑顔はいつだって、明るい炎や星灯りと共に在る。回した穂先が炎陣を描き、そこへ誘き寄せられた死体は容赦なく命の灯へと噛みつく。
 寸分の狂いもなく穴をあけた歯に、しかし眞砂は怯まない。
「大丈夫ですか……っ?」
 仲間の負傷に敏感だったフィリアが後方から声をかけても、彼は片手を軽く掲げて笑う。
「だーいじょーぶっす! 寝ぼけたスティルに噛まれる方が痛いんすよ」
 癒しをもたらす歌声をフィリアが紡ぐ中で、眞砂は穂先をぐるりと返して屍を突く。
 矛に宿る炎が死した肉を伝い、球状の炎もまた追撃した。
 眩いぐらいに敵が燃え上がる。
 なにせ眞砂が点けたのは、花ある未来のため灯された希望の火。むざむざ消火される柔さは持たない。
「狂った演奏会はここで終わりっすよ!」
 穏やかな朝を迎えるのに、楽団が奏でる音は不要だ。最後の一体も、命が潰えていく。
 こうして猟兵たちは断ち切った。
 命の終わりも知らずに、彷徨いだした過去の躯を。
 亡骸が溶けるようにして地へ還るのを、アリウムも見つめる。ただそれを、朽ちた、と言い表すにはあまりにも。
 ――綺麗に止んだ。
 不意に、彼は吐いた息の白さを思い出した。

●散華の痕
 討ち漏らしがあってはならないと周囲を確認し始めたレザリアとは別方向の森へ、夕立も足を踏み入れた。猟兵たちも、大群に近かった敵の気配が完全に消滅したのを、肌身で感じつつある。
 戦闘の余韻が消えるのを待つ戦場の片隅に、アイシスはうずくまっていた。他の猟兵たちとの距離を保つ少女は、武器より欠けたスクラップの破片も招いた機械兵器たちも、掻き集めていく。
 ――こんなところに残しておいたら、あぶないもん、ね。
 後片付けは抜かりなく、そして人知れず行われる。
 残敵も悪意の気配も失せた山間は、ようやく元の静寂を取り戻した。
 夜の底でキトリは、作った花に手の平を重ねる。
 ――小さくとも、華奢でも、希望を咲かせてくれますように。
 みんなで作った、たくさんの希望の花。祈り通ずる未来が、村人たちをどこへ導くのかはわからない。
 だがキトリは願わずにいられなかった。そうせざるを得ない衝動こそがキトリを奮い立たせ、あるいは、はばたく力となるのだろう。
 彼女の両耳で青い花が、風に揺れた。
 その近く。
「知らず……」
 知るか、知らずか。
 そういった問答が繰り返された戦いでもあったように感じて、びいどろは呟く。
 か細いつぶやきを掬い取った眞砂が、ううんと唸った。
「疫病楽団の詳細というか正体というか……そーいうの、解らずじまいっすね」
 近頃になって蔓延り始めた存在だと知ってはいても、かの者たちが本当は何者なのか。
 それでも。
「それでも……村が闇に呑まれてしまう事態は、避けられました」
 アリウムが告げながら村を振り返れば、ほかの猟兵もつられて村を見遣った。
 戦いが起きたことも、村が襲撃の危機に瀕していたことも、村人たちは知らない。
 そう、知らないままだった。
 ただいつものように花を作り、村を作った花で飾り、珍しい異邦人と戯れ穏やかな日を終えただけ。
 夜と闇が支配するこの世界だからこそ、恙なく終えた一日の有難みは、より強いのかもしれない。
 帰りましょうか、とフィリアが言う。傍らではレインが頷いていて。
 まだ明けぬ夜の寒さに腕さすりながらも、猟兵たちは戦場を離れていく。
 そうして歩み出す後背で、タロもまた眼裏に村の穏やかな情景を映し、カードを一枚引いた。ゆるりと押し上げて、描かれた象徴を視認する。
 ――花を作る彼らの心が、咲き続けるように。
 示したカードを、彼は仄かな願いと共にそっと焼き付けた。
 温もりは今も村にあり、村の前途に曙光が射す。
 光明は前途にのみではなく、猟兵たちの視界の隅にも訪れた。戦いの場から遠く村の家に、ぽつぽつと小さな灯りが点り始める――早起きの村人が動き始めたようだ。
 章も村へ靴先を向けた。花を作っていたときは見なかったが、村にも墓地はあるだろう。
 ふと思い立っての行動ではなく、戦いの最中に絶えず考えていたことだ。
 過去に生きた命も、時を経るごとに薄れゆく記憶となる。
 声を忘れ、仕草を忘れ、やがてその人の輪郭さえ朧気になるのと似ていた。
 ――忘れられているのかもと、何となく思ったから。
 かつて村人の多くが知っていたはずの、花と同じように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月23日


挿絵イラスト