トイロボバトルVSプラクト!
●君が思い描き、君が作って、君が戦う
『プラモーション・アクト』――通称『プラクト』。
それはプラスチックホビーを作り上げ、自身の動きをトレースさせ、時に内部に再現されたコンソールを操作して競うホビースポーツである。
それを知っている。
未だ公式化はされていないが世界大会が開かれていることは神谷・マリー(自称トイロボバトル伝道師・f37810)も知るところであった。
「『プラクト』ね。バトル・オブ・オリンピアでも何回か耳にしたわね」
「マリーお姉ちゃん、こっちみたいだぜ」
新谷・むと(闇夜照らすトイロボバトラー・f37795)は、とある商店街にやってきていた。
よくある商店街の作りである。
アーケードがあって、両脇に店舗が連なっている。
その商店街の一角に彼女たちの目的地がある。
「確か、遠目にでも見える商店街にあっていいものじゃない背の高いビルの斜向いって言ってたよね」
「ええ、そう言ってたわね。待ち合わせにするんなら駅前にしておくんだったわ。わかりやすい目印があるから大丈夫だってナクタ君は言ってたけど……え、あれがそうなの?」
マリーの視線の先にあるのは、確かに商店街という立地から考えると、どうしてこんな場所にあるのだろうかと思うほどの高層ビル。
それは巨大玩具メーカー企業『株式会社サスナーEG』のビルであった。
その斜向かいに目的地『五月雨模型店』が存在しているのだ。
なんともへんてこな立地である。
普通、こんな場所に高層ビル建てる? 建築法とか大丈夫? と思わないでもなかったが、しかし目印としてはわかりやすい。
「そうみたい。あっ、ナクタだ! おーい!」
むとが『五月雨模型店』と呼ばれる模型屋の前に立っていた迅瀬・ナクタ(闇を抱くトイロボバトラー・f37811)が、その声に顔を上げた。
「早かったな」
「おかげさまでね。わかりやすいったらなかったわ。最初聞いた時はなんで? って思ったけれど、本当に商店街の中に高層ビルが立っているんだもの」
「はー……でっけぇ。『株式会社サスナーEG』って言えば、『鉄球バスター』とか『インセクトボーガー』が有名なんだよな!」
「むと君、詳しいわね?」
「だって学校で遊んでる奴らいるもん」
『鉄球バスター』は文字通り鉄球を打ち出すプラスチックホビーである。
また『インセクトボーガー』はモーター駆動の昆虫を模した車輪を搭載したホビーである。激突させて遊ぶ、という意味ではどちらも頑強な素材を使っているのだ。
そんな多種多様なホビーを使って一緒くたに競い合うホビースポーツ。
それが『プラモーション・アクト』、通称『プラクト』なのである。そして、それこそが今日三人が『五月雨模型店』にやってきた理由なのだ。
「恐らく中にいるだろう。彼女たちが」
ナクタの言葉に促されてマリーと、むとが店内へと足を踏み入れる。
懐かしいような雰囲気がある。
独特の匂い、とでも言えば良いのだろうか。塗料の匂いや他の匂いが混ざりあった不思議な匂い。どこか心が浮足立つような気がした。
店内には所狭しと多くのプラスチックホビーの商品が並び、展示棚には常連の猟兵たちが作った作品が並んでいた。
奥には制作スペースも完備しているようだった。
「あれがそうなの?」
「ああ、彼処に在るのがフィールドだ。自分で作ったプラスチックホビーを投入して、自分で操作して競い合う」
マリーが指さしたのは実際のプラクトフィールドである。
『プラクト』は自分で作成したホビーを操作して競い合う。
操縦方法は二つ。
自身の動きをトレースする『モーションタイプ』とホビー内部に作り込まれた操作系統をもって操縦する『マニューバタイプ』。
一般的に人型のホビーは『モーションタイプ』で動かす事が多いようだが、例外は存在している。
また人の動きでは再現しきれない動物や怪獣、はたまたカーモデルや戦車、飛行機と言ったミリタリーモデルは『マニューバタイプ』で操縦するのだ。
そういう意味では多くの公式競技をも取り込むことができるのが魅力の一つであるとも言えた。
「これなら……『トイロボバトル』の機体も」
「ああ、問題ない」
マリーは一つ頷く。
そう、彼女たちは『トイロボバトル』アスリートなのだ。
こうしてやってきた目的は唯一つ。
『プラクト』と『トイロボバトル』の異種格闘技戦を挑むことである。
「おっ、ナクタじゃねーか。よっ、久しぶりっ!」
そう言って店の奥のスペース、制作スペースからやってきたのは『アイン』と呼ばれる少女だった。
年の頃で言えば、むとよりも年下であろう。
彼女はナクタの顔を覚えていたのだろう。人懐っこい様子で駆け寄ってくる。
「どうしたんだよ、今日は」
「世界大会……『WBC』準決勝おめでとう」
「ありがとなっ! へへっ!」
そう、彼女達『五月雨模型店』はチームとして日本代表の1チームとして世界大会である『WBC』に出場している。
それどころか、前回大会の覇者を一回戦で破り、準決勝にまで駒を進めているのだ。
しかし、バトル・オブ・オリンピアが勃発し、異星からの侵略者『ギャラクシィリーガー』たちによって準決勝が中断されてしまったのだ。
ギャラクシィリーグサッカーによって会場がサッカーコートに変えられた上に、儀式魔術テニスによって豪華絢爛ウィンブルドンのテニスコートになり、しっちゃかめっちゃかになってしまったのだ。
「ま、一応スタジアム会場が復旧するまでは中断された準決勝が再開されないから暇っていえば暇なんだけどな」
『アイン』の言葉にナクタは頷く。
「そうか。そうだ。紹介したい」
「ん? なになに?」
「こちらは『トイロボバル』普及委員会の会長、神谷会長と、むと。今日は……」
ナクタの言葉を引き継ぐようにしてマリーが一歩前に踏み出す。
「マリーよ。今日は急で悪いけど私達の『トイロボバトル』と『プラクト』で異種格闘技戦をさせてちょうだい」
その言葉に『アイン』は目をパチクリさせていた。
唐突であったこともあるのだろう。けれど、すぐに目を輝かせる。
「『トイロボバトル』ってあの『トイロボバトル』か!? デバイスで操作するあれ!?」
彼女は『トイロボバトル』のことを知っていたのだろう。
ホビースポーツであるから知っていても不思議ではない。『プラクト』とは違って、操縦者がホビーを俯瞰する戦況を見つめることができるのだ。
さらに言えば、『トイロボバトル』は既定のシャーシに合わせた人型オンリーである。
バリエーションは脚部にあるのだが、真髄は外装に使われる素材の自由度の高さである。メーカー製の外装はユーベルコード増幅性能を持つ強化プラスチックが多い。
しかし、フルスクラッチするのならば、規格の内であれば別の素材を使うのも許可されている。
ただし、この装甲の素材を変更する場合は作成者の高い技量が要求されることだろう。
「ええ、知っていて?」
「そりゃ知ってるよ! 人型ロボットってところがいいよな!」
「お、わかるか! ロマンだよなぁ!」
むとが早速『アイン』と意気投合している。同じホビーを暑かったアスリート同士であるから、気心が知れるところがあるのだろう。
「それで、勝負を受けてもらえるかしら? こちらが3人だから、そちらも人数を合わせて3on3でお願いしたいのだけれど」
「いいぜ! あっ、といってもこっちは……」
「他のメンバーも今日来ているのか?」
ナクタの言葉に制作スペースから様子を伺っていた他の『五月雨模型店』のメンバーたちも顔を出す。
「こんにちは」
「『トイロボバトル』との異種格闘技戦! これは心躍るな!」
「こ、ここんにちは……えっと、試合のフォーマットはどうしましょう。わ、私達のホビーは『トイロボバトル』と違ってプラクトフィールドで動かすことを前提としてまして……」
『ツヴァイ』、『ドライ』、『フィーア』と呼ばれた少女と少年がやってくる。
「そうね。フィールドはそちらで。私達の操作は『トイロボバトル』本来のものでやらせてもらうけれど、よろしい?」
「構わない! むしろ、その方が異種格闘技戦らしくっていいじゃあないか!」
『ドライ』と呼ばれた少年は、やる気に満ちている。
まだ3人のうちに選ばれるかわからないというのに。『五月雨模型店』は一人は必ずあぶれる形になってしまうのだ。
「それなら、私が審判するぜ!」
『アイン』が手を上げる。
「確かにチーム戦だというのならば、『ドライ』、『フィーア』さん、私の三人のほうがいいですね。『アイン』、あなたはいつも突っ込みすですから」
「チーム戦だしね。なら……」
「早速やろーぜ!」
むとの言葉に7人は頷きあう。
各々が持ち込んだプラスチックホビーを見せ合う。
「一言余計なんだよな。でもまあ、いっか。じゃあ、『レッツ・アクト』だ!」
『アイン』の言葉にそれぞれが己のホビーをフィールドに投入する。
「……手加減はしない」
ナクタのトイロボ『ON-NATAKU』がフィールドを疾駆する。
彼は『プラクト』の練習や試合で何度か『五月雨模型店』の面々と轡を並べて戦った仲である。
だからこそ、理解している。
彼らはちゃんと実力の在るチームなのだ。伊達に世界大会に進出することができるチームではないことは承知の上だ。
故に、飛び出す。
己のトイロボは金属パーツが多用されている。
装甲の硬さでいうのならば、随一であろう。しかし、油断はできない。
この超人アスリートひしめくアスリートアースにおいては、金属パーツは多少硬い程度でしかない。
油断はしない。
「ナクタ君!」
マリーの言葉にナクタは頷く。己が飛び出したのは、迫る『五月雨模型店』の三人のホビーの意識を惹きつけるためだ。
彼らの連携は見事だった。
『フィーア』のホビーが分身を生み出す『幻影装置』でもって視界を無数の人型ホビーでもって埋め尽くす。
本物と見分けがつかない程の精巧さ。
さらに、その幻影を目眩ましにして『ドライ』のホビーが砲撃を行ってくるのだ。
「やるみたいだな! でも、俺たちだって!『ツクヨミ』! 俺の声に応えてくれ!」
むとの瞳がユーベルコードに輝く。
確かに『プラクト』のホビーに対する操縦性の高さは言うまでもない。ダイレクトにアスリートの身体能力を反映する。
けれど、『トイロボバトル』はユーベルコードによって操縦者の力を増幅していくのだ。
『ツクヨミ』と呼ばれるトイロボより放たれた勾玉型のビットが飛び出し、凄まじいビームの乱射でもって幻影を貫いていくのだ。
『NATAKU』は、その援護を受けてフィールドを疾駆する。
「げ、げげ幻影が……!」
「レーザーの乱れ打ちだぁっ!」
「打ち合いならば! 負けはしない!」
『ドライ』の言葉と共に、むとの勾玉型ビットに負けじと砲撃が飛ぶ。しかし、幻影を突破したナクタの『NATAKU』が切り込むのだ。
ロングレンジライフルの銃身を『NATAKU』の二対の腕部が握りしめ、ねじりあげるようにして破壊したのだ。
「なんと……!」
「腕は飾りじゃあないんでな」
「カバーします!『ドライ』は後退。『フィーア』は撹乱!」
『ツヴァイ』の指揮が飛ぶ。
シールドを装備した『ツヴァイ』のホビーが躍り出て、『NATAKU』をシールドバッシュのように押し出すのだ。
「流石は一騎当千の『トイロボバトル』アスリートです。一気にこちらの陣形を突き崩して」
「褒めてもらってなんだけれど、押し込むわよ」
マリーの瞳がユーベルコードに輝く。
彼女のトイロボ『アマテラス』のアイセンサーが煌めく。
槍を構え、鏡を模した盾でもってナクタと『ツヴァイ』のホビーの間に割って入るのだ。槍の穂先が独特な構えから鋭く繰り出され、『ツヴァイ』のホビーがサブアームでもって構えていた盾を引きはがすのだ。
「くっ!」
「陣頭指揮は得意みたいだけど! それは逆を言えば、あなたを潰せば後の二人は連携ができないってことよね!」
追い込むマリーは操縦技術においては『ツヴァイ』の一枚上手だった。
槍の一撃がオリジナル・スタイルによって確立されている。そこに援護とばかりに、むとの『ツクヨミ』のビームが飛ぶ。
シールドを一枚失った『ツヴァイ』が距離を取ろうとするが、『アマテラス』が踏み込む。
振り抜いた一撃が『ツヴァイ』の機体を貫く。
だが。
「手応えがない!?」
「げ、げげ幻影です!『ツヴァイ』、今のうちに立て直して……!」
そう、『フィーア』の機体に備えられた幻影装置は己が機体の幻影だけを生み出すものではなかったのだ。
味方の幻影だけではなく、マリーたちトイロボの幻影さえ生み出している。
それが一斉に動き出すものだから、こちらも連携どころではなくなってしまうのだ。
「えっ、そんなのあり!?」
「ありなんだ。連中は強い。なにせ世界大会に出るような連中だ」
「でも、だからこそ戦い甲斐があるってものだよな! さあ、いくぜ!」
むとは楽しそうに笑っていた。
ビームの砲撃と共に剣を『ツクヨミ』が抜き払う。此処まで来たのなら、総力戦だ。
幻影によってこちらの連携は絶たれた。
しかし、相手も条件は同じだ。あちらは連携の代わりに武装を失いつつある。
「じつりょくはくちゅーってやつだな!」
『アイン』が審判係とは言え、もう完全に観客の気分でフィールドの中を所狭しと駆け抜けるホビーたちの姿を見つめる。
それはとても心躍るものであったことだろう。
「むと君、ナクタ君、いくよ!」
「マリーお姉ちゃん、仕掛けるのなら、合図よろしくな!」
「幻影で連携が邪魔されるというのなら……俺たちには絆がある。わかるはずだ。ユーベルコードの力まで幻影で再現できない……ならば!」
煌めく三人のユーベルコード。
トイロボのアイセンサーが、幻影では生み出せぬ輝きを解き放つ。
三人は互いの位置を、そのユーベルコードの輝きで知るのだ。
「来ます! トイロボの強みはユーベルコードを増幅させる性能です。連携を密にされたら、力押しでこちらが崩れます」
「なら、こちらは身体能力で圧倒させてもらう!」
「そ、そそそれが一番自信ないんですけど……」
『五月雨模型店』のメンバーも笑っていた。
楽しそうだった。
確かにホビースポーツとは言え、勝敗が必ず決する。けれど、それでも笑っていた。
健全な精神が其処には育っていた。
競技異なれど、共通することがある。
類似性ではない。
アスリートたちが高みを目指すこと。それに尽きる。マリーも、むとも、ナクタも。ただひたすらに己が競技という枠組みの中で自由を謳歌し、絆を深めていく。
その結実が勝利であったのならば、かけがえのないものとなるだろう。
だからこそ、邁進する。
脇目も振らず。
その勝利の栄光へと切磋琢磨し、手を伸ばすのだ――。
成功
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