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嫦娥の受皿

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夏霜・ルア





「この旅行、楽しみにしてた!」
 まだ、この時の私――夏霜・ルア(朧・f42570)は、呑気にそんなことを言っていました。
 高校卒業を間近に控えていた私は、友達二人と卒業旅行に繰り出していました。全員、留年することもなく無事に卒業出来、それぞれに進学ないし就職も決まったからと。
「あっ、見て見て。こんなところに遊園地なんてあったんだあ」
 友達の一人が、ふと足を止めてそんなことを言います。
 彼女の視線の先には、確かに華やかで賑やかな遊園地があって。元々の旅行の予定にはなかったけれど、折角だしと遊んでいくことに決めました。
 園内の至るところで、可愛らしくデフォルメされたカエルが、着ぐるみなりデコレーションなり、ちょっとしたショーやパレードで出迎えてくれました。この遊園地の、マスコットキャラクターのようでした。
「結構混んでるねー。計画立ててた時にはこんな遊園地があるなんて気づかなかったけど。穴場なのかな」
「ううう、これじゃあはぐれちゃうかも……」
「もー。いつものように、身長高い私を目印にしていいんだからね?」
 三人の中でも内気で、引っ込み思案な友達が不安げに言うものだから、私はそう声を掛けました。折角の遊園地ですから、楽しめなければ損というものです。
「あっ、……へー、イベントやってるんだ……ほら。宝探しイベントだって。挑戦してみない?」
 丁度その時、着ぐるみのカエルが私にパンフレットを渡してきたのを見ると、そんなことが書いてあったから。
 明るい話題を途切れさせないよう、私は二人にそう提案したのです。……思えば、それが間違いだったわけですが。
 このイベントは、園内に隠されている『橙色のカエルのぬいぐるみマスコット』を見つけて、受付に持っていくと記念品が貰えて、特別室へ案内して貰えるのだとか。特別室でどんなサプライズが待ち受けているかは、入ってからのお楽しみ……と。
 記念品も勿論ですが、その特別室で何が待っているのか、興味を惹かれた私達は、疑問も抱かず宝探しを始めました。
 そして、幸運にも……いえ、不運にも。
 私達は、見つけてしまったのです。


「ひっ、いや、助けて……やだぁ!」
 特別室に案内された私達。
 そこで私は、涙ぐみながらも動けず、ただ助けを求めることしか出来ませんでした。
 薄暗い部屋で私達を待ち受けていたのは、橙色の巨大な|蟾蜍《ヒキガエル》。デフォルメされた可愛らしいマスコットのモデルなのでしょうが、実物は寧ろ醜悪で、それでいて人智を越えたモノであると、まだ何も知らない私でも、本能的に恐怖するような存在でした。
 頼みの友達は、一人はその姿を見るなり糸が切れたように倒れて動かなくなり、もう一人は腰を抜かしたまま、焦点の合わない目で口をぱくぱくさせるばかりでした。
 当の私はと言うと、何故かそのヒキガエルがまるで抱擁するかのように、背中にしがみついていて、全く動けずにいました。
 ゲロゲロとよく鳴くので、雄かも知れない、なんてこの時の私に考える余裕はありません。
 私達をここに連れてきた遊園地スタッフ――もとい犯人ですが、彼らにとってもどうやらこれは想定外だったようで、ひそひそと話す声が聞こえました。
「ど、どうする……? ……様はこの娘をいたく気に入られたようだぞ」
「いっそこのまま巫女としてこちら側に引き込むか……?」
 この時の私には意味が解りませんでしたが、どう転んでも碌な目に遭わないだろうということだけは理解出来ました。この場に鏡があったなら、そこに映る私の顔は蒼白になっていたことでしょう。
 その時でした。扉が蹴破られ、UDC職員が突入してきたのは。
 同時にふと、背後の気配とぶよぶよとした腹と手の感触が消えて、あのヒキガエルが何処かに消えたことを悟った私は、意識が薄れるのを感じました。
 受け止めてくれた職員の方の腕の中、友達二人も保護されているのが見えて――恐怖と安堵が綯交ぜになったまま、私の視界は暗転しました。


 保護された私は、UDC組織で検査を受けました。
 結果、恐ろしい事実が判明したのです。
「貴女の体内に、そのヒキガエルが巣食っていますね」
「……え……」
 そう告げられた時の絶望を、私は今でもはっきりと覚えています。
 更に言うのであれば、血管として偽装された加護『月影』が私の中で形成されてしまい、引き剥がすことも不可能だと。
 私はそのままUDC職員……エージェントになりました。
 ヒキガエルと、共に。

 ……後で聞いた話ですが、あの遊園地は効率よく人を集め、イベントで怪しまれずあのヒキガエルに捧げる『生贄』を確保する為のもので。
 スタッフは皆、あのヒキガエルを信奉する教団の信者だったようです。
 友達は……一命は取り留めましたが、組織の運営する精神病院に入院していて。
 私は、いつか二人が正気に戻ると信じて、今日もお見舞いに行くのです。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年02月03日


挿絵イラスト