ディオラマティック・サンライト
●キャンプ地
戦いの記憶が全て忌まわしいものであったのかと問われたのならば、それは異なるものであると応える者がいるだろう。
戦いに何を見出すのか。
全てが悪しきものであったかだろうか。
ならば、『陰海月』は、全てがそうであったとは応えないだろう。
ケースを触腕でもって抱えて運ぶ姿はふよふよといつものように宙に浮かぶものであったが、どこか足取りの軽さを感じさせるものであったように馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)には思えたのだ。
「張り切っていますね」
「ぷっきゅ!」
おじーちゃん、早く! と急かすような声が聞こえて四柱は苦笑いするしかなかった。
『陰海月』は巨大クラゲであるが、宿した精神性はまだ子供のようであったし、少年のようでもあった。
だからこそ、かもしれない。
アスリートアースのとある商店街。
その中にある『五月雨模型店』へと向かう足取りは軽い、というより、スキップを踏むようであったし、同時に足早になるものであった。
「そんなに急がなくっても逃げはしませんよ。きっと彼らもこの時間ならば集まっているでしょうし」
彼らとは『五月雨模型店』のメンバーたちだ。
いつもの、と言えるほどに馴染みになっている彼らに『陰海月』は、バトル・オブ・オリンピアの最中に作り上げたキャンプ地を模したディオラマの写真と作品を見てもらおうと急いでいるのだ。
「ぷっきゅ!」
こんにちは! と元気に『陰海月』が『五月雨模型店』の扉を開く。
「よー! バトル・オブ・オリンピア、お疲れ様! 応援してたんだぜ!」
『アイン』と呼ばれる少女たちを始めとしたメンバーたちが、やはり此処に集まっていたのだろう。『陰海月』の姿を認めて集まってくる。
「きゅ」
「おっ、なになに?」
「これは写真……? キャンプ地のようですが……」
「えっ、これ、プラモデルだぞ!?」
「じゃあ、これってミニチュアですか!?」
『陰海月』は自信作だと言わんばかりに写真を見せる。
そこにあったのは、アスリートアースの『めちゃひなたキャンプ場』の一幕だった。
二匹のクラゲとヒポグリフ、人間がテントセットを前に空を見上げている情景。写真で見れば、本物のように見えただろう。
芝生も植えてあるし、木々もしっかりと園芸用ワイヤーとエポキシパテで再現されている。
葉っぱにいたってはパンチングされ、癖をつけた一枚一枚を接着してあるのだ。
中でも秀逸だったのが。
「ほう! これはすごいな。焚き火は電飾か!」
「す、すすすごい……夜に撮っても電飾でリアルに明かりが……」
「きゅきゅ!」
もう一枚の写真を差し出す。
そこにあったのは自然光……つまり、『めちゃひなたキャンプ場』の日差しを受けて撮られた写真だった。
こちらも雰囲気が違って良い。
「ぷきゅ!」
そして、これが実物! と『陰海月』は持ち込んだディオラマ模型を、じゃーんと『五月雨模型店』のメンバーたちに見せるのだ。
歓声が上がる。
子供たちらしい声を聞き、義透たちは笑む。
彼らは健やかに成長していっているようだった。
「この小さなミニチュアはどうやって塗装……えっ、筆!?」
「思った以上に細かいですね。とてもキレイに塗れていて。それに芝や木々の表現が素晴らしいですね」
「うむ! 電飾のアイデアもよいな。ぐっと模型らしさもあって!」
「し、ししし自然光で撮影するとこんなに違うんですね……」
わいわいと『陰海月』は彼らと、模型を囲んであーでもないこーでもないと話に花を咲かせている。
それはきっとかけがえのない時間だろう。
得難き時間。
きっとこの光景を見るために義透たちは一ヶ月に渡る戦いを駆け抜けたのだ――。
成功
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