ノーサイド・モッチ・モッチ
●ノーサイド
戦いが終われば、ノーサイドとなるのはスポーツだけであろう。
故に猟兵達とダークリーガーが争ったバトル・オブ・オリンピアは終わりを告げる。
世界の破滅が防がれたということは猟兵たちの勝利で終わったということだ。
「いやぁ、今回の戦いはなんとも」
「久方ぶりに血潮が滾ったわ!」
「そりゃあ、あなたはそうでしょうけれどもねー」
「ともあれ、我が屋敷に無事戻ってこれたことを喜びましょう」
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)たちは、大いなる戦いを終えて己たちの屋敷へと戻ってきていた。
「ぷっきゅ~」
「クエエッ」
『陰海月』と『霹靂』もまた同様であった。
だが、彼らが急いで屋敷の中に駆け込んでいくのに四柱たちは顔を見合わせる。
そんなに急いでどうしたというのだろうか。
「おかえりなさいませー……って、わわっ」
出迎えてくれた『夏夢』の横を『陰海月』と『霹靂』は挨拶もそこそこに二階へと駆け上がっていく。
「まったくどうしたのでしょうか」
「あ、おかりなさいませ。急いでいるみたいでしたけれど……」
「なんなんでしょうねー?」
「それはそうと留守の間に変わったことはなかったか?」
義透たちの言葉に『夏夢』は頷く。
彼女は彼らが大いなる戦いに他世界へと渡っている間、屋敷の留守を任されていたのだ。
「それがですね……」
「にゃー」
「おお、『玉福』よ……と、なんだかスッキリしてはいまいか?」
眼下にはスッキリとした出で立ちの二股の尾を持つ猫『玉福』の姿があった。
正月前にはなんともふっくらとした姿をしていたはずだが、今の『玉福』は、スリムに……もっと言うならシュッとしていた。
つまり、筋肉質になっている。
「にゃー!」
「ふむ。『夏夢』が鏡開きの餅を全て食べてしまった、と……」
「あ、いや、えっと、それは、そうなんですけれど……美味しかったので」
いや、違う、と『夏夢』は手をふる。
『玉福』がスッキリしているのは、そういう理由ではないのだ。
「お猫様が日課のパトロールを寒いのでものすごい勢いで終わらせてしまうので……そのぉ、しっかり食事は決められた容量で……」
「なるほど。つまりは、健康になった、と」
「ははぁ。筋肉量が増えて、さらに、というところでしょうかー」
「にゃー!」
それでも餅を十分に食べられなかったことを『玉福』は不満に思っているのだろう。
抗議のの鳴き声に『夏夢』もタジタジである。
とは言え、確かに大いなる戦いのために義透たちは鏡開きなどの行事もまだである。
そういう意味では、と四柱は内にて互いを見合わせる。
「そういうことなら、今から始めますか」
「ああ、餅つきをな」
「ええっ、いいのですか? でも、もう一月も終わりを迎えようとしていますよ?」
「構わぬよ。十分に我らも食べることができなかった故。それに……」
「ええ、あの子らも毎年のこととは言え、我らの戦いに突き合わせておりますから。今一度ちゃんと鏡開きをしてもよいでしょう」
その言葉に『夏夢』は目を輝かせる。
けれど『玉福』がじっとりとした目で見ていることに気がついて、思わず身をすくませる。
恐らく、まだ食べ足りないのかという視線であったことだろう。
仕方ないのである。
あのお餅は大変に美味しかったのだ。
「それでは準備を始めましょうかねー」
「ああ、二人には後で手伝うように言っておいてくれ」
「わかりました!」
その言葉を受けて『夏夢』は二階へと飛んでいく。『陰海月』と『霹靂』は一体何をしているのだろう?
きっともう一度餅つきをすると言ったら喜んで飛んでくるかも知れない。
そう思って二階の彼らの部屋へと向かうと、そこにはパソコンを起動しカタカタやっている二人の姿があった。
「お二人~……って、あら、これは?」
「ぷっきゅ!」
見て、と『陰海月』がモニターを触腕で示す。
そこにあったのは、『陰海月』たちがバトル・オブ・オリンピアにて撮影してきた戦いの光景であった。
「え……戦いに行っていたんです、よね?」
だが、そこにあったのは戦いの光景ではなく。
あったのは、よく『陰海月』たちが作っている模型を大自然に溶け込ませたディオラマの写真だった。
どうやらこれを編集し、写真印刷して友達に見せようと思っているのだという。
「へぇ~……あすりーとあーす? という世界なんですね~。なんとも平和な世界だったんでしょうが、一体どんな戦いを?」
『夏夢』の言葉に『陰海月』と『霹靂』は意気揚々として撮影してきた画像を見せ始める。
階下では、義透たちの呼ぶ声が聞こえる。
きっと餅つきの準備が整ったのだろう。手伝ってくれ、という声に三人は応え、戦いの記録を背にバタバタと階下へと降りていくのだった――。
成功
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