●滞在一日目:皇女と王女と王宮時間
これまで、色々な未知を見つけに行ったり楽しんだりと、一緒に旅してきたふたり。
でも今回はちょっぴりだけ、これまでとは違った旅になりそうで。
その地へと降り立ったティタ・ノシュタリア(夢を見る|宇宙《 そら 》・f38779)は、すぅっと大きく深呼吸。
だって、わくわくそわそわ、それに心がいつもよりドキドキしちゃうのは。
「……ふぅっ。ここがラモード! マシュマローネの故郷なんですねっ!」
今回訪れたのはそう、マシュマローネ・アラモード(第一皇女『兎の皇女』・f38748)の故郷・ラモードの地なのだから。
そんな、きょろきょろと自分の故郷の星の景色を見渡すティタに、マシュマローネも嬉しくなりながらも。
お出迎えに来てくれたその人の姿を見つける。
「マシュマローネ、話は聞いている。ティタ王女様、此度は御訪問頂き感謝しております、ラモード王国の御案内役を仕りましょう」
ラモード王家十二皇子・皇女の第三皇であり、女武門の長にして軍隊を指揮する長女のトランザを。
軍隊口調であるが、マシュマローネへの優しさは感じるし。けれどやはりお出迎えの第三皇女さまの姿を見れば、はしゃぎたい気持ちを抑えてきりっとまじめに!
「お出迎え感謝いたします、トランザ殿下。ティタ・ノシュタリアです」
客人として、王女として。ふうわり、カーテシーで応えるティタ。
いや、本当は、話に聞いていたマシュマローネの姉君と、すぐにでもあれこれお話してみたい気持ちなのだけれど。
でもまずは王女らしくご挨拶!
だってこのラモードをティタが訪れたのは、観光だけが目的ではなくて。
(「お父様の代理でもあるのですから!」)
ノシュタリアの王女として、王である父の代理としての来訪でもあるから。
そしてそんなティタの振る舞いに、マシュマローネは勿論確信している。
彼女の丁寧な振る舞いを見れば、きっと両親……ラモード王や王妃も、快く今回の来訪を受け入れてくださると。
ということで、トランザの案内でまっすぐ向かうのは――王宮の謁見の間。
やはりちょっぴりだけ、どきどきとしてしまうティタだけれど。
(「でもこれは、いい緊張感だと思うのです」)
……だって、何度もイメージしてきたのですから、と。
見上げるは、1000年の時を生き、身の丈5mを超す巨人にして、ラモード星開闢の神――豪放にして豪胆なるルモード大王。
そんな偉大なる王の前でも堂々と、そして優雅に。
「御意を得ます、ルモード陛下。ティタ・ノシュタリア。ノシュタリア王国王女です」
王女として、ティタは今回訪れた目的と願いを王に告げる。
「ノシュタリア王ヴィラールの代理として、マシュマローネ殿下の友人として。此度の機会が友好のための第一歩となれば、これに勝る喜びはありません」
「お父様とお母様、ティタはノシュタリアからいらした由緒あるプリンセスですわ。そして今回ラモード星を訪問していただいたことを機に、ノシュタリア王国との友好を結びたいとわたくしも思っておりますの」
マシュマローネからもそう今回のノシュタリア王女の訪問の件を話してから。
その後、マシュマローネにとってのティタのことを、両親へとこう伝える。
「ティタは、この世界に在る物語、『素敵』なもの『好き』を探求する心を持ち合わせた旅する星。そして――わたくしの大切なひとつぼしですわ」
そんなふたりの言葉を真剣に聞き、その姿を見つめて。
「マシュマローネ、友好の件はお相手があってこそ、余も十分に手を貸そう」
楽にしてよい、とルモード王から告げられれば。
ティタはにこにこ、今度はいつもの自分として改めて、友達のご両親にご挨拶!
「えへへ、ではでは改めて! マシュマローネとはこちらこそ仲良くさせてもらってますっ!」
「いつも余の大切な娘、マシュマローネが世話になっているそうだな」
ルモードも次はマシュマローネの父として、ふにゃっといつも通りに笑むティタへと言葉を向ける。
「ティタ殿、滞在中ゆっくりとこのラモードを楽しんでいってくれ」
「はいっ、ありがとうございます!」
そんなやり取りを聞けば、両親もすっかり安心して、良い友人をお迎えできた事を喜んでくれたことがよくわかって。
マシュマローネも、とても嬉しく思うから。
「ティタ、ラモード王国の素晴らしさを是非感じて頂きたいので、今夜はわたしが歓迎の晩餐会で手腕をふるいますわね!」
「マシュマローネ、ご友人に失礼の無いように存分に腕をふるいなさい、母も期待しておりますよ」
王后ラモード……母の言葉に頷くマシュマローネに、ぱあっと宿した笑顔を向けるティタ。
だって、無事挨拶を終えた後は。
(「ずうっと楽しみにしてたラモードのお食事!」)
それに、その歓迎の晩餐会だけでも嬉しいのに。
「あとは楽になさってお過ごし下さいね、ここからは私の成果をお見せする番ですから」
……それもマシュマローネが腕をふるってくれるのですから! と。
そして晩餐会が始まれば、順に並べられる料理の数々。
まず運ばれてきた前菜は、『ラモードの温野菜と満月人参のラペ』。
「まずは、ラモード自慢のお野菜を召し上がって下さいね。このまんまる満月ニンジンは、スープにも、おくすりにもなるすごいお野菜ですわ! 今回はラペにしてみましたわ!」
それから、『アルダワ風、七色ポテトのカラフルスープ』。
その不思議な七色のスープを見て、ティタは思わずほわり。
「あっ、この七色お芋、アルダワの諸王国連合の市場の、ですよねっ?」
「ええ、ティタと旅した時も市場で購入した、七色ポテトですわ」
運ばれてくるお料理を楽しみつつも、いっしょに探した食材を見つければ、気持ちもあったかくなって。
ひとくちいただけば、あの時と同じように口に広がるのは、色々楽しめる虹のような美味しい味わい。
そしてポワソンは、『ラモード産マスラオ白身魚のポワレ、お魚野菜のビスクソース添え』。
さらに口直しにと並べられたのは、『プリンセス・マルスとふわふわ雪のソルベ』。
「プリンセス・マルスは小さい林檎ですけれど、ギュッとした甘酸っぱさがとても美味ですわ」
「あっ、ふわふわ雪のお砂糖、アルダワではお星さまフルーツのジェラートとしていただきましたが、このプリンセス・マルスのソルベも美味しそうですっ」
それからお待ちかねのメイン・ヴィアントは『青空ダイナー風ビーストステーキ、ラモードスパイス&夜燈蜜のソース』。
「わ、これはあの時の……飛空艇港の町、オルダナ円環島で立ち寄ったダイナーのステーキみたいですね!」
「あの時のダイナー風なステーキに、ラモードのお料理には欠かせない、入れると美味しくなるラモードスパイスと、キラキラした夜燈華のお花のハナミツで作ったソースを合わせてみましたわ。そしてこのスパイスは、わたしのオリジナルスパイスですわ!」
「マシュマローネの……! それは、じっくり味わいつついただかないと!」
そして、おなかいっぱい……になっても、デザートは別腹。
「デザートは『ねこねこフォンダンショコラ』ですわ。いかがしょう、ティタ」
「わぁっ、ニャンピエールさんのお店のねこねこスイーツを思い出します!」
猿のお兄様が作ったマルシェをはじめとしたラモードの食材は勿論、アルダワ世界やブルーアルカディアのものなど。
一緒に旅した事を思い返し伝えるような……そんなマシュマローネが腕を振るった、とっておきのフルコースは。
「――ごちそうさまでしたっ! えへへー、おいしかったですっ。とっても素敵なメニューでしたっ!」
ティタも花丸大満足、心もおなかもしあわせも、いっぱいになりました!
食事が終われば、マシュマローネがティタを案内するのは。
「わあっ……すごいすごい! ほんとにみんなおっきいんですねっ!」
全部が5m級の巨人サイズの調度品の――大きな来賓用の客間にご案内!
そして勿論、ふわふわのベッドやソファも大きなサイズ!
通された部屋を見回し、ぱあっと楽しそうにあれこれと、ティタははしゃいで行ったり来たり、
それから、そろりとベッドへと視線を向けて、次いで彼女を見つめれば。
「あのあのっ、マシュマローネっ。……いいでしょうかっ!」
「えぇ! ティタ、存分に楽しんで頂けると!」
頷く様を確認すれば――ぽふっ!
「ふふふー、ふかふかですっ……!」
とっても大きなベッドにダイブ!
いえ、普段ならはしたないのでやらないことなのだけれど。
「こんなおっきなお部屋にお邪魔するのははじめてなので。しょうがない、ですよね?」
「きっと初めての体験になると思いましたので、異国の特別な趣を体感していただければ!」
これも、ラモードの楽しさをより知るためのことなのです!
そう、自分が小さくなったような錯覚さえも愉快なひとときに……。
そこまで思ったマシュマローネは、ふと思い出す。
「……そうそう! そういえば――」
「マロちゃんおひさー、この子がティタ王女様? アタシはダーラ、よろしくねー」
「今日はゲストとして、虎の第十一皇女のダーラお姉様にも来て頂きました!」
タイミングよくぷにぷにの肉球の手を振ってやってきたのはそう、5m級の大きなピンクと白の縞模様の虎のお姫様――第十一皇女のダーラ。
ゆるゆるふわふわした陽気でセレブな雰囲気の、マシュマローネの姉である。
ふかふかを楽しんでいたティタは、そんなやって来たゲストに目を輝かせて。
「わわわっ、はじめましてっ! ダーラ皇女さま! えへへ、お噂はかねがねっ!」
ぎゅっと握手すれば、なごんでほわほわ。そのぷにぷにふわふわの手に。
ということで、始まるのは夜の女子トーク……?
「そういえば、アタシの旅本のことが気になるって?」
「はいっ! ピンクの虎さんのお話ですよねっ! ……なんでも、聞いちゃっていいですか?」
「いいよいいよ、なにから話そっか?」
「じゃあじゃあ、まずは――」
そう、ダーラが大きな本を開きながら語る、旅トーク!
それは、ホログラムの映るピンクのデフォルメされた虎さんの大喜劇。
(「お姉様の面白くて不思議な旅の絵本のお話がティタの参考になれば良いのですが……!」)
マシュマローネはそう思うのと同時に。
「えっ! ええっ!? ま、まさかの驚きの展開ですねっ!」
「お姉様の旅のお話は、これからもっと驚くことがいっぱいですわ、ティタ」
「マロちゃんの言うように、アタシの旅はここからが本番よ」
「わ、わわ、続きはどうなるんですかっ?」
「あれはねー、確か――」
ふたり並んでうんうんと、一緒に童心になって旅本を読み聞かせてもらって。
愉快痛快で、そして時折そのはちゃめちゃでノリと勢いな内容にびっくりしたりしていたら。
一日目の夜が更けていくのも気付かないくらい、楽しくて、あっという間。
●滞在二日目:王都に香るは
ラモード滞在・二日目。
「今日は王都、ルモードのご案内を致しますわ!」
マシュマローネの案内でティタがやって来たのは、ラモードの王都・ルモード!
その風景は、UDCで言えば中世から近世あたりのスペインに似た雰囲気の、西洋風な中に独特な雰囲気を醸す街並みで。
「さすが王都! 活気がありますっ!」
うきうきごきげんで王都散策するティタの言うように、とても活気溢れた都。
そうきょろりと好奇心のまま見回す彼女に、マシュマローネは説明しながら並んで歩いて。
「王宮のある首都で、惑星の玄関口として宇宙港が開かれております。多様な交易品が市場におかれ、商業都市の側面もあり、旅人を歓迎するようにラモード料理や多国籍料理の店が軒を連ねる屋台や、新鮮なフルーツのマルシェは人気スポットですわ!」
「すごいですねっ、ラモードの玄関口というのも納得です!」
ティタもうんうんと説明を聞きつつ、改めて楽しそうに町並みを眺めていれば。
「そして、私のお気に入りは、こちら!」
マシュマローネが自信を持って勧めるのは。
マルシェといえば食べ歩き、そしてその中でも一押しなコレ!
「サンフレッシュホルンの粉で作る生地で、色んなお野菜やお肉を包む、パッケージBOX! 食べ歩きの定番ですわ!」
「サンフレッシュホルン……とうもろこしの一種、でしたっけ」
「ええ、サンフレッシュホルンというとうもろこしの一種から作られるきいろのパウダーで生地を作って、それに色んな好きなものをいっぱいいれるお料理ですわね!」
そんな、パッケージBOXをじいと見つめれば。
「むむっ、マシュマローネのお気に入り……! じゃあじゃあ、ぜひ! 体験しなくっちゃですっ!」
ティタも勿論、早速体験してみます!
ということで。
「トッピングはどうなさいます?」
「トッピングですか?」
「お菓子風なら、濃厚でいてさっぱりとしたプレリークリームとドライ・マルスとアプリコが相性がよろしいかと!」
「んー、迷っちゃいますけど、まずははおすすめですよねっ。ではでは、マシュマローネの言ってたそれを!」
ここはまずはお勧め通り、プレリークリームに小さな林檎のドライ・マルスと杏のアプリコで注文してみれば。
出てきたのは、見た目クレープっぽい食べ物。
差し出されたそれを受け取った後、ティタは珍しそうな顔で眺めてから。
そうっとひとくち――はむりと口にしてみれば。
「んんっ、おいしいっ!」
「ダーラお姉様は、すごい分厚い全部いりを一口で食べていましたわ」
「えっ、全部いりを一口! でも、あのダーラ皇女さまならわかるかも……」
こくりと小さく頷きながらも、ルモードスイーツをはむはむと美味しく味わって。
次にマシュマローネが案内するのは。
「ハーブのお店は面白いかと思いますわ!」
「ハーブのお店ですか? 気になりますっ!」
様々なハーブを扱っているお店。
でも、ただ一言にハーブと言っても、その用途は多彩で。
「スパイスになるものに、お茶になるもの、さまざまありますが、やはりお料理のお供には欠かせませんわ」
「お茶とか見てみたいですし、スパイスだって最近興味が出てきたんですから!」
そしてマシュマローネへとくすっと笑いかけながら、ティタは続ける。
……お料理、教えてくれたひとの影響ですねっ、って。
ラモードスパイスは、ラモードのお料理には欠かせないキッチンアイテムということは聞いているし。
昨夜振舞われた料理の美味しさも、この魔法のようなハーブやスパイスが一役も二役も買っているし。
そんなスパイスも勿論だけれど。
マシュマローネは大きくひとつ頷いて、胸を張って告げる。
「……やっぱりラモードを説明するには、食材ですわ! こうした豊かな食材の香りや味が、この国の雰囲気を感じるには一番わかりやすいと思いますから!」
そんな彼女の声を聞いた後、改めてぐるりと見回してみれば。
ティタもこくりと一緒に頷いて紡ぐ。
「ふふふ、そうですねっ。ラモードは食が豊かな国だって。聞いてたとおりですっ」
そこに並ぶいろんな食材や眺める多国籍なお店の看板に。
そして、静かに息を吸えば感じる、漂うお料理のおいしそうな香りや、果実の甘い香りに。
いや……もっと、ほかにもいろいろと。
(「これがラモードのにおい、なのかもしれません」)
マシュマローネの言うように、ラモードという国の雰囲気や空気を感じれば、ティタは自然と笑顔になって。
そんなティタの様子に、マシュマローネも嬉し気な笑み向けながら。
「明日はもっと、自然の中にある、この国を支えるひとつをご紹介しますわ!」
わくわくと心躍らせつつ、王都を案内しながらもふたり並んで歩く。
もっとたくさん、ティタに故郷のことを知ってもらうことが嬉しくて楽しみだから。
●滞在三日目:豊穣の大地と夜燈華
一日目は王宮で、二日目は王都で過ごしてきたけれど。
ラモード滞在・三日目の今日、マシュマローネが案内するのは。
「モワ! ここがラモードの食を支える、この王国の自慢の場所ですわ!」
「すごいっ……農業都市プレリー! 自慢なのも頷けます……!」
王都から離れた農業都市プレリー。
活気ある王都とはまたがらりと変わった牧歌的な雰囲気の、豊かな農地が広がる雄大な農業都市圏である。
ティタがその景色に目をぱちぱちと瞬かせるのも納得。
農業試験場で目の当たりにするのは進んだ農業技術、採れたての野菜や果物は勿論、畜産なども盛んで。
ふとティタは以前見せて貰った、マシュマローネの幼い頃のフィルムを思い出す。
「そういえば確か、マシュマローネのお兄様やお姉様も、新種の植物の研究をされていましたよね?」
「牛と猪のお兄様、お姉様は、収穫された新種の植物の発表会をしておりましたわ! 」
第十皇子である牛のお兄様ことアマルフィと、第八皇女の猪のお姉様のラプラスは、口調こそ印象が違えど。
共に新種の植物の研究をしている、豊穣を司る穏やかな口調の兄と探求と発見を司るざっくばらんで明るい口調の姉である。
そんな皇子や皇女の中に研究者がいるところからも、この王国の農業技術が発展している理由が窺えるし。
マシュマローネが王国の自慢だというのも大いに頷けるし。
感心しつつも真剣に、ティタはマシュマローネの丁寧な説明に耳を傾けては、色んな植物や動物を見せてもらいつつも。
(「ノシュタリアの王女として、勉強になることがたくさんあります!」)
自分の目や耳で確りと見て聞いて、ノシュタリアの王女として視察する。
だが、このプレリーは農業都市圏であると同時に。
「自然を満喫したい旅行者にグランピングも人気です!」
そう、広大な自然を生かした旅行者にも人気のスポットが。
だからマシュマローネは、こんな提案を。
「オリゾン・フォレが原産の蒼白く輝く夜燈華の花園の側のグランピングで過ごす一夜はどうでしょう?」
「グランピング! ぜひぜひ! 夜燈華の光るところ、見てみたいですっ!」
「オリゾン・フォレは原生林が迷宮のように広がる、固有種の宝庫として保護区となっております。そこに生息する花なのですが、今は夏秋種、蒼白く輝くのが特徴ですわ」
勿論、ティタも大賛成!
向かうは、今夜過ごすグランピング施設。
プレリー産のとれたての食材を使った料理を楽しんだりとか。
オリゾン・フォレの原生林広がる自然に触れてみたりとか。
一日目や二日目とはまた違った楽しみを満喫していれば――日没はあっという間。
そしてひやりと夜の澄んだ空気を肌で感じながら、ふたりで並んで夜燈華を眺めつつも、その時を待っていれば。
「わあっ……」
刹那、見つめていたティタの緑色の瞳にも灯る、蒼白い明かり。
まさに夜燈華のその名の通り、夜に灯る光の華たちにちいさく感嘆の声を漏らすティタへと、マシュマローネは告げる。
「こうして眺める青の灯りは、街灯のない道でも、星明かりよりも明るく照らしてくれますわ……モワ、昔からずっと、星のようにみなさんに好まれている花でもありますわ」
それは天に輝く無数の星の様でもあり、夜に人々導いてくれる燈火でもあり、その心を照らす癒しでもあるという、華灯りたち。
その蒼白い輝きを眺めつつ、ティタも大きく頷いて返す。
「……はいっ。すっごく素敵な景色。お星さまが地上に降りてきたみたいですっ」
ふたり占めしている眼前の、美しくも幻想的な星の夜を共に見つめながら。
それに、輝くのはその華だけではなくて。
「モワ、花の蜜も、今の時期ならほの青い煌めきを宿します……」
「蜜も、なんですか? ふふっ、ほんとにふしぎなお花ですねっ」
「ええ、夜蜂が集めた蜜が煌めくのは不思議ですわ……! 温かいオレンジ色になることもあります」
そう説明しつつ、ハーブティーにそっと煌めく花の蜜を添えて。
マシュマローネは少し微睡みながらもそっと見つめる。
ゆっくりと流れる時間と灯りに――そして、何よりも。
淡く輝くハーブティーにほっと癒やされながらもゆらりと過ごす、すぐ隣のティタの存在に。
●滞在四日目:あなたが見る色
ラモード滞在・四日目。
この日は、スルスラックという湖水地方の別荘へと移動しているふたりであるが。
これまで活動的だったこともあってか、日中はゆったりと過ごして。
迎えたのは――鳥や虫の声が聞こえてくるような、自然の中に身を置くような、そんな穏やかな夜。
だって、スルスラックの地でマシュマローネが見てもらいたかったものは、まだ見られないものだから。
――明け方、ボートで漕ぎ出せば、朝焼けと水鳥たちの羽ばたきが見られます、と。
「ふふふー。明日は早朝からお出かけですからねっ! 今日は早めに休みましょう!」
そう話を聞いたティタの言うように、お目当ては明け方の景色。
けれど、早めに休まないとと分かってはいるのだけれど。
なんて思っていてもわくわくに目が冴えてしまって。
そんな悩みを相談してみれば、マシュマローネはふわりと言の葉と共にティタへと差し出す。
「えぇ、色々な場所を巡ってきました。少し気持ちも高揚するかもしれませんが、そういう時はこちらを……安眠出来るようにブレンドしたハーブティーですわ」
「むむ。安眠効果のあるお茶、ですか?」
「ほんのり甘さと温かさが広がる味わいで、ゆっくりとお休みできると思いますわ」
そして、そう告げるマシュマローネが淹れてくれたハーブティーをひとくち。
飲んでみたティタは――ぽかぽか、ほわり。身体も気持ちも、あったかくなるようで。
ふと静かに耳を傾けてみれば、さわさわと聴こえるのは、草木の奏でる音、虫や鳥の声。
そう、ゆうらり覚えるのは――自然のなかにいる、という感覚。
それはとてもふわふわぽかぽか、心地良くて……次第にうとうととし始めて。
とろんとしてきた瞳をそっと擦りながら、ティタは紡ぎ落す。
……今日は、ゆっくりと眠れそうです、なんて。
もうすでに半分くらい、夢見心地で。
けれど、わくわくしていることには違いないから。
「おはようございます、ティタ」
マシュマローネの明け方にモーニングコールでぱちっと目覚めて。
昨日のお茶が効いたみたいで、元気いっぱい! ……なのだけれど。
「……おはようございますっ」
でもでも、まだ外は暗いから、あなたへの起床の挨拶も普段よりちょっぴり抑えた声で。
そんなティタと一緒に、マシュマローネは寒くないようにと暖かい上着を羽織って。
「出発しましょう、先導はお任せください」
いざ、お目当ての景色をみるために出発!
そして自分に続くティタを気遣いながらも。
「モワ、足元お気をつけて……そろそろ日の出ですわ……この時期は渡り鳥が来ていて、朝になると一斉に飛び立つのです……お静かに参りましょう」
「しーっ、ですねっ。ふふふ。渡り鳥さん、楽しみですっ」
マシュマローネと一緒に、ティタもしーっ。
小舟に乗り込んで、夜と朝の境目の清廉な空気を感じながらも、ゆうらりゆらり。
ゆっくりと小舟を湖に進め、ふたりで『そのとき』が来るのを待っていれば。
夜明けを待つ鳥達の声がわずかに聞こえて来た――そう気づいた、その瞬間。
「――ぁ」
ティタは、ついに訪れた瞬間に思わず息を呑んでしまう。
だって瞳が刹那捉えた光景は、しばしの間、目を奪われてしまうくらいに。
「……なんて美しいのでしょう」
朝焼けと、飛び立つ渡り鳥たちのつくる美しき景色。
山嶺の影から陽が差し込めば、湖面は次第に朝焼け色に染まって。
空へと向かって湖面から舞い上がるのは、朝日に照らされた白い鳥達。
それは、陽が登るまでの半刻ほどの間だけの彩。
そして空へと完全に陽がのぼれば、明け方から朝となる。
そんな朝を小舟の上で迎えれば。
「いかがでしたか?」
隣からそう問う声を聞きながら、まだ余韻に浸ったままで。
ゆるりと、向ける視線はあなたへ。
沢山いっぱいラモードのことを見せてくれたマシュマローネへと、ティタは感慨深そうに返す。
「……はいっ。素敵な国ですね、ラモードって」
ふわりと、屈託のない笑みを浮かべて。
「自然豊かな惑星ラモード、その一端に触れていただけたら、これ以上ない幸せですわ」
マシュマローネはそう紡いだ後、すぐにその瞳を細める。
……その答えは、ティタの屈託のない笑顔がもう証明してくださっておりますわね、って。
だって、ティタは心から思うから。
「ほんとうに、来れてよかったって思うのです」
今回のラモード訪問に対して。
「ここでの出会いは私にははじめてで、マシュマローネには馴染み深くって」
自分にとっては知らなかったことばかりだったけれど――マシュマローネにとっての、『当たり前』。
「それを知れたことが、私はいちばんうれしいのです」
その声に、マシュマローネも笑顔を宿して。
「ティタ、私の生まれた星と王国を感じていただけて、本当に良かったです!」
ラモードの青空の下、ふたり顔を見合わせて一緒に微笑み合う。
だって、すぐ隣にいるあなたの『当たり前』を知れて、あなたが自分の『当たり前』知ってくれたことが――とっても今、嬉しいのだから。
成功
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