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目ん玉かわいいね

#UDCアース

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#UDCアース


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「ここなんだよなぁ……」
 デカいため息。皆の前で作戦を説明する時間。
 デカい――ため息。

 鳥の少年の姿をしたグリモア猟兵、あめ(勇者の翼、召喚獣『始まりの雨』・f42444)は深呼吸する。

「予知を……説明するぜ――」
 ぐいぐいと押してきた箱。身長を補う台に飛び乗ると力ない声で頭を垂れる。
 この空気感。オバケ案件だ!

「予知の地点はUDCアース……場所は、何かカワイイお店の中……だ……」
 違和感。オバケなら叫ぶ。間違いなくビビる。だが、何か違う雰囲気だ。
 ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「オブリビオンと思われる敵は……ヒヨコ」
 静寂。猟兵達が生唾をごくり、と飲み込んで。何かを堪える顔に変わる。

「だから!敵はヒヨコなんだよ!ヒヨコ!」
 真剣な顔で話を続ける。

「ぬいぐるみみたいな可愛いヒヨコなんだ」
 説明しようにも、そういうビジュアルだった。

「うっせーよ!指を差すな!オレはヒヨコじゃねーからな!」
 黙って指を差してくる猟兵に、ムスっと頬を膨らませて叫ぶ。

「話続けるぞ!このヒヨコは……お菓子を沢山置いてるとこ。
 ピンクでキラキラしたノートとか、飴玉みたいな色のバッグとか、ぬいぐるみとか。
 そういうのを売ってる店みたいな所に居る」

「オレの予知では、昼間はそこ――廃墟なんだよ」
 空気が変わった。

「どこかの街の廃墟になったビルなんだ。その辺の電線の上からそこをずっと見てる夢だった」
 その世界の鳥として予知夢を見ることが多い。今回はスズメか何かだろうか。

「昼間は誰も来ない。夕方……遠くで音楽が流れてた。んで……電気がつくんだ、その場所に。」
 まるで怪談の語り始めだ。鳥の少年はビビらず話を続ける。

「あたりが暗くなったけど、夢だからかな……全部見えてた。
 人通りはゼロじゃないけど、灯りがついたことを怪しむ人間は居なかった」

「――でも、中に入っていくヤツがいる。多分、子供だ。
 この世界でこんな時間に、オレくらいの大きさのヤツが出歩いてるなんておかしいんだ」

「気になって、明るくなった廃墟に近づくと……小さな店だった」

「お菓子屋さん……ってのか?カクリヨとかでも見る、綺麗なお菓子を沢山置いてる店になってんだ」
 駄菓子屋……雑貨屋、おもちゃ屋。子どもたちが好きそうな物を売っている、そんな雰囲気だと話す。

「その後なんだ。その店の中には誰も居ない。
 お菓子や玩具をカゴに入れて歩いたあと……そのヒヨコのぬいぐるみの前で――」

「突然消えたんだよオオオオオオオ!!!!!」
 絶叫。やっぱり我慢できませんでした。

「だから、消えたんだ。消えたんだって!」
 はいはい、そうだね……という視線。分かりきっていた流れ。

「消える前にその子は、変なことをブツブツ口にしてたんだ。
 かわいくない、かわいくない、こんなの、かわいくない」
 って。

「変……だろ?ヒヨコかわいいじゃんかよ!」
 言い切った。

「ああ、そうだ――!昼間のことも話さないと。ウワサ話っぽいのを、子どもたちが廃墟の前で唄ってた」
 それは童歌のような雰囲気。
 クルル――と喉が膨らむ。歌による予知――世界の標の一つ。
 声を真似て、楽しく歌い出す。

「しってる?しってる?かわいいおみせ!
 とりさん、とりさん、まってるおみせ!
 ぜーんぶとって、いいんだよ。とりさんのとこで、つかっていい!
 とりさんのとこでたべていい!

 さみしくってもだいじょうぶ。
 とりさん、とりさん、みせてくれるの!
 わたしのともだち、ひっこしたこ!

 でもわすれないで。
 あそこには、あのこがずっといる。
 だから、すきま、のぞいちゃだめ。
 みてるあのこのめんたまは、かわいくなくても、かわいいんだよ」

 ――その時……あめの顔がくしゃくしゃに歪む。恐怖に満ちた顔。

「かわいいのは、あたし」
 ノイズのような声で歌う。

「これも、あれも、それもこれも、あたしがかわいいから、かわいいの」
 ノイズが重なる。気味の悪い声の歌。

「めんたまかわいい、かわいいでしょ」

「かわいいでしょかわいいでしょわたしぁたしあたしあたし」

「どこ、みてんのよ」
 鋭く重い声。脅迫するような、凄みのある声。老婆のような枯れた声。

 ――こほん、と咳払いして歌は終わる。そして同時に響くのは。
「いやだああああああああああ!こわすぎだろ!
 なんでオバケもいるんだよ!オバケ勘弁してくれ!またかよ~~!!!」

 泣き出して役に立たない。
 見かねた猟兵が、背中をさすりながら話を聞いて纏めてくれた。

 予知夢は「UDCアース」の廃墟になったビルで起こる事件。
 夕方になり、流れる"子供に帰宅を促す歌"の後、廃墟のビルに突然明かりが灯る。
 その時に近づくと、廃墟はまるで駄菓子屋のように変化して、店内に入れるようになる。

 店内は、お菓子や玩具、特にカワイイグッズでいっぱいだ。人は誰も居ない。
 今回の作戦中も、人は誰も居ないだろう。

 その時に見えた子供は、カゴいっぱいにそれらを突っ込んで店を楽しんでいた。
 最後に、机にヒヨコが現れる。そこに子供が近づくと、姿が消えた、という予知夢。

 まず、突然現れる「駄菓子屋」の調査する。
 店内のお菓子や、廃ビル。また邪神由来の幻影やトラップの可能性もある。

 店内に居るヒヨコはオブリビオンなので、調査して破壊する必要がある。

「そうそう!そんな感じだぜ!――でも、一番やべえのは歌の方だと思うんだ」
 元気になった鳥の少年が声をあげる。

「ヒヨコ以外にオブリビオンがいる。間違いなく。
 隙間から覗いてくる、とか目ん玉、とか。あとばーさんの声」
 ブルブルと全身を震わせて、それでも話す。

「この廃墟や店とヒヨコの繋がりは分からないし、"あの子"ってのも変だ。
 邪神が共生している例もある。
 オバケとオバケを重ねたらオオバケだろ!超怖いじゃんかよ!大概めんどくさいことになってんだ!」
 話をやめたそうな顔。そろそろ泣いちゃいそう……という目線が痛い。

「だ、だから!皆は気をつけて、謎の廃墟とかわいいヒヨコ、そしてヤバそうなヤツ。
 いや、ヒヨコもやべーけど。
 調査して、倒してきて欲しいんだ。気は進まないけど、送るぜ」

 でかいため息を一つ。
 箱から飛び降りて――部屋の中央へ。その身を綿雲が包むと、ポン!と。
 室内では邪魔なので縮んでいる姿が元の巨鳥に戻る。

「えー。あー……乗ってくれよ……。目的地はUDCアース、勇者の翼、出発するぜ……」
 背中に乗るよう皆に促す。それを確認すれば翼が開く。グリモアの道が、UDCアースへと繋がっていく。

「あとよろしく……」
 小さな声で現場から目をそらして、着地した巨鳥は呟くのだった。


日向まくら
 4作目です!ホラーあります!ひよこさんはラスボスではない!
 ラスボスがクリーチャー系のグロテスクな攻撃・見た目をしますので、多少描写が重くなります。
 気をつけてください。

●第一章
 廃墟に夕方灯りがついて、狙った人間だけを誘い込む!
 いわゆる都市伝説的なものです。
 中は「駄菓子屋」
 お菓子をみたり調査をしたり、ヒヨコを探したり――。
 それと。
 "見てはいけない"隙間は、三章のボスの影響です。
 調べてみますか?

●第二章
 ひよこさんのオブリビオン戦です。

 小さな鈴に吸い込んで、幻影の中に閉じこめる力などを持ちます。
 子供が喜びそうな能力で、誘い込んで幸せからエネルギーを奪っているイメージの敵です。
 その3つ目の能力「普段なら言わないことを言いたくなる」がラスボスへの布石です。
 一章の秘密とともに、探ってみてください。

●第三章
 邪神戦!
 キャラクターは第三章まで正体を詳しく知りませんので、ここからはPL情報です。

 いわゆる口裂け女系の「わたしかわいい?」をしてくるグロテスクな邪神です。
 ひよこさんとの対比で出てくるヤバイやつ、と認識しているといいかも?

 一章・二章で正体に近づくことも出来ますので「ひよこさん以外」に気づくのもアリです!
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第1章 冒険 『ミテはイケナイ』

POW   :    気合で見ない様にする

SPD   :    素早く動いて見てしまう事を無くす

WIZ   :    道具や地形を使って賢く見ずに済ませる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

御園・桜花
「生命は全て、他の生命の糧と成ります。可愛いも美味しいも、普通の事では無いのでしょうか」
首傾げ

「魚の目玉周りは、美味しいし滋養が有りますでしょう?ですから先ず年寄りに食べさせて、残った物を皆で分け合いますけれど」
野球の硬球より少し小さい大きさ示し
「新鮮な鮪の目玉が手に入りまして、煮付けて御裾分けしましたら、お子様に泣かれたお家がありまして。ただ|半助《鰻の頭》鍋にも慄くようでしたから、一寸変わったお家なのでしょうけれど」
首傾げ

「GGO以外でも食材依頼があると聞いて嬉しくなりましたの。頑張って集めますね?」

花燕(165cmニート系おっとり少女)連れ参加
宵っ張りの子供には積極的に帰宅促し目玉探す



「生命は全て、他の生命の糧と成ります。可愛いも美味しいも、普通のことでは無いのでしょうか」
 静かに首を傾げる桜花に、翼をぽんぽんに膨らませてグリモア猟兵は答えていた。
「食べる、んだな……そうだよな、食べられるよな――」

 手羽先をそっと畳んだ後、ふわりふわりと頭に浮かんでくるのは"目玉"の話。
 鳥の少年は血走ったバケモノの目が自分を見つめてくるのを想像してしまう。
 みるみる顔がクシャクシャになり、ピィと小さな声を漏らした。

 廃墟が姿を変える刻を待ちながら、桜花は話す。

「魚の目玉周りは、美味しいし滋養が有りますでしょう?」

 カクリヨで出てくる豪華なごちそう。
 UDCアースでも海沿いの地域で見かける、甘辛く煮た新鮮な魚。
 その目の部分の話。たしかに美味い。
 任務で"宿"に行った時に食べた味を思い出す。
 恐る恐る口に入れ――それの周りの美味しいところ。ゼラチン質をちゅっ、と吸った記憶。

「ですから先ず年寄りに食べさせて、残ったものを皆で分け合いますけれど」

 美しい皿の上に1匹の魚の煮付けが乗っている――刻んだ生姜を添えて。
 赤い鱗を剥がして、柔らかく煮たそれには目が二つ。
 家族で突くには、全員分はない。確かに……と鳥は頷いて返す。

 皆を送り出し、これから帰還を待つ鳥は少しだけお腹が空いてきた。
 優しい声色で響いてくる、温かいご飯の話のせいで。

 話を聞きながら目を動かせば、その傍らには少女が一人。
 少女――?
 猟兵達の姿は様々だ。だから偏見はない、そればかりか、この子は。
 普段、小柄な鳥の少年の姿で居ることが多いグリモア猟兵は思う。
 きっと、桜花をサポートする大きな力をその身体に隠しているのだ、と。

 だんだん、空が暗くなってくる。
 話しながらも、彼女はきちんと建物に目線を送る。
 子供たちの動きもしっかり確認しているようだ。

 桜花は両手で、野球の硬球より少し大きいくらいの玉が入る形を作って見せる。

「新鮮な鮪の目玉が手に入りまして、煮付けて御裾分けしましたら、お子様に泣かれたお家がありまして」

 話の規模が変わった。
 たしかに、鮪の目玉は握りこぶしくらいはある。煮付けてあるなら、白い球にはなっているだろうが……、
 兜からゴロリ、と取り出されれば子供には怖いかもしれない。
 そこにいるグリモア猟兵には死ぬほど怖い。多分叫ぶ。

 桜花の表情は至って真面目だ。
「ただ|半助《鰻の頭》鍋にも慄くようでしたから、一寸変わったお家なのでしょうけれど」
 真剣な顔で困ったような言葉回し。
 天然、というのが良いのだろうか――綺麗な声で優しく淡々と疑問と感想を話す。
 なんせ、鰻の頭が主役。ごろごろと浮かぶ蒲焼の頭は美味くても、知らなければ驚くものなのだから……。

 日が沈んだ――定刻だ。
 辺りに、家に帰ろう、そんな意味の歌詞の歌が響く。
 遠くと近くの音が重なってズレた音が生まれ……やや、不吉な感じがする。

「GGO以外でも食材依頼があると聞いて嬉しくなりましたの。頑張って集めますね?」
 軽やかに歩き出す彼女の背を見つめるグリモア猟兵には、疑問が浮かび続けていた……。
 ――ヒヨコの話とオバケの話したよね?目玉食べる話とかしたっけ?っていうかヒヨコは?ヒヨコも食べるん?
 そういえば、オブリビオンをうまい飯にして振る舞う存在もいる。
 ああ、そういうやつだな!……と思考を止めた。

 廃墟は駄菓子屋に姿を変えている。
 桜花と花椿はそこを調査しつつ。
 どちらかといえば……食材たる目玉を探している気もするが――。

 近づいてくる子供を見かければ、優しく話しかけ帰宅を促す。
 そこに"引き寄せられる子供たち"にはお姉さんが二人だ。

 ――情に添えば、帰る子供は二人に話す――その子を"識る"。
 二人と話した子供は、やっぱりかえる!と声をあげて走っていった。

 その子は言っていた。
「ここが見つかったら、おもちゃもおかしも、全部もらえるの。
 おうちに帰らなくて、ここでずっと遊べるって」
「誰から――聞いたんだっけ。ひよこさんが、さみしくなくしてくれるの。
 でも、見ちゃいけないものがあるみたい。だから、しんぱいだったんだ」

 あまり、良い暮らしをしていない。家族関係も複雑で……友達も少なそうだ。
 個人情報は"まさに怪異が好んで手招きそう"だと理解できる。

「目玉のお話でしょうか、見ちゃいけないもの」
 二人は店内に戻る。
 サクラミラージュやカクリヨファンタズムで見られる、色とりどりな駄菓子の数々。
 UDCアースらしい蛍光色でハッピーな感じのお菓子も多い。
 目玉……目玉。目玉モチーフのお菓子もある。
 UDCアースの"カワイイ"文化の一つ、ちょっとキモくてカワイイ、そんな感じの目玉グミ。
 でも、これではない――。

 意識して探していれば――その"隙間"。
 棚と棚の間の黒い空間が意識に止まる。

「ぁたしかわいい――かわいい――?なによりも、かわいい」
 声。しゃがれた声――目玉はまだ見えない。何か蠢いている。この場所に居る。
 それは分かる。おぞましい気配……店の雰囲気とは繋がらない。
 子供が話した"見ちゃいけないもの"は……これだ。

 だが、次の瞬間にはその気配は消えている。

 刹那――オブリビオンの反応を察知する。
 それは奥のカウンター。会計をする場所のような所の卓上。

 かわいいひよこが、座っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ウルル・マーナガルム
これ何の曲だったかな
鴉が鳴くから帰りましょ、だっけ?
『検索しますか? ウルル』
んーん、大丈夫
それよりお仕事の方が大事大事
ハティ、ドローン展開してホログラム起動、よろしくね
『了解。|MNN《ムニン》を射出します』
(ムニン:北欧神話の主神に仕える鴉)

上空から建物を俯瞰した映像と実際の店内の間取りに違和感が無いか比べよう
不自然な空間は無いか
もしくは無いはずの空間に続く隙間は無いか
その他、無線通信への干渉は?
室内温度に変化は?
肉眼での目視とゴーグル越しの映像を切り替えつつ調べよう
子機達は周辺一帯に暗い廃墟のホログラム映像を張って
警察官のホログラムも合わせて、子供たちを寄せ付けない感じで人払いをよろしく



 日が沈み、音楽が流れている――。

「これの何の曲だったな、鴉が鳴くから――だっけ?」

 ハティがウルルの顔を見上げて、素早く答える。
『検索しますか? ウルル』

「んーん、大丈夫」
 キュィ、とハティは頷き、座った姿勢から立ち上がる。

 ――メロディが、静かに終わろうとしている。

「それより、お仕事の方が大事大事」
|主人と猟犬《ふたり》は、目標へと視線を向けた。

「ハティ、ドローン展開してホログラム起動、よろしくね」
 的確な指示を相棒に告げる。

『了解。|MNN《ムニン》を射出します』
 そこに一切のラグはない。
 ハティは調査用ドローンを射出する。夕闇を舞う一羽の鴉のホログラム。
 過去を知る者の名を冠した一機は飛び立った。

 ただ、神は時折悩んだという話もある。
 その名の鴉が中々帰ってこないこと、に。

 ――メロディの最後のフレーズ。
 合わせて――ドローンはその廃墟へと向かっていった。

 その時。眼の前の廃墟に電気が灯る。予知の通りの変化。
 空を舞うドローンカメラが捉えた廃墟にも電気が灯っている。
 廃墟、ではない。明確に1つのビル――としてそこに在る。

 追うように、ウルル達が進む。
 ドローンのカメラとウルル達が見る景色は同一だ。

 店舗のように変わった廃墟に近づけば扉は開いている。
 中を覗き――ハティがドローンの映像との比較を開始する。

『構造が異なります。ビル外周から想定される大きさより、極端に小さいです』
 解答までほんの数秒。

「うん――そうだね」
 目視で見える店内は、古い駄菓子屋のような一部屋。
 柱が在るべき位置が空間だったり――外から撮影すれば窓がある位置には何もない。
 スキャンせずとも全く別の空間、外に見えるビルとの整合性も全く取れていないことが分かる。

「ハティ、構造上不自然な空間がないかスキャンしてくれる?」

「了解。スキャンを開始します」
 ハティの瞳が輝く。周辺状況をスキャン、データ化して集積していく。

 菓子の棚、子供が好きそうな文房具、色々な玩具。四角い部屋を一周囲むように並んだグッズ。
 店の真ん中に部屋を二つに分けるように大きな棚。
 そして扉から一番遠い所にあるのが、会計台のような机。

 店内に生体反応、オブリビオン反応はない。

「ハティ、スキャン続行」

 至って普通の駄菓子屋ではある。
 しかし、最初に気づくことは。
 ――文字が読めない。どの世界の文字でもない。なんとなくそれのように見える記号の集合体。
 AIが生成したようなパッケージが並んでいる。

 UDC案件では比較的見かける事例。
 異界、異世界などの単語が出てくる"場所"に影響する案件では、いつものことだ。

 ハティのスキャンが終わり、店内の構造図が組み上がっていく。

 その間に、ウルルは通信機を手に取る。
 ノイズの混入や通信不能、もろもろ音声系への影響も多い。
 直近に居る――グリモア猟兵へ通信を飛ばす。

「んぁ!?……うわびっくりした!ウルルさんかー……聞こえてるかー?」
 素っ頓狂な声が返ってくる。臆病な悲鳴、問題なく彼に通信が伝わっ――

「ああああああああああああ!!かわいい!?いや誰だよ!?ばーさん!?うあああああ」
 絶叫と共に――通信を切断された。

 UDCからの干渉が想定できる。
 所謂、声や音声のノイズの反応があったと分かりやすい。

『ウルル、録音データを再生しますか?』

「まってハティ、先にサーモグラフィのデータをお願い」

『了解』

 手慣れた反応。
 音声データの再生は一部の儀式と同様の効果を持つ可能性がある。
 UDC活性化の危険があるため、他の調査での裏付けを先行する。

 UDCが姿を隠したり、実体を持たない場合、その周辺環境に温度変化を与える場合が多い。

『現在の店内の温度は全域21℃です、ウルル』

「10秒前」
 通信のタイミングへ遡る。

『カウンターと思われるエリアの正面、外からの映像では窓がある位置の付近――棚周辺の温度が8℃です』

 ウルルは無言でゴーグルを降ろす。
 ハティのスキャンデータやMNNの撮影映像も視界に並んでいる。デジタルの視界での調査。
 反応が見られた棚周辺を確認しても、特に何も見つからない。
 その時、ノイズが走る。
 視界いっぱいに、"目玉"が一瞬見える。
「かわいいぁたし、探してくれるのね」
 ――通信機から勝手に声が流れ……ノイズに変わって消えた。

「居る、ね。ハティ――立ち入り禁止、よろしく」
 ウルルが素早く指示を出す。

『了解』
 ハティが一声吠えれば、子機達が生まれ外へと飛び出していく。
 UDCの行動を察知した――周辺に散らばった子機達はビルの変質を見せないようホログラムを展開する。
 警官の姿のホログラムも同時に展開、見回りを装う――。
 子供たちが近づいて現象に巻き込まれないように、外の環境を整えた。

『ハティ、録音データの再生を」

『了解――"ぁたしかわいいよね、かわいい、これはあたしの、あたしよりかわ、あた――"』
 特に変化は起こらない。しかし通信機から聞こえてきた"何かの声"と周波数が一致する。

「あー」
 グリモア猟兵の悲鳴に納得する、UDC対策のプロ。
 彼の言うオバケ案件の中でも、らしい"オバケ案件"のボイスなのだから……。

 その時だ。
『ウルル、警戒してください。強いオブリビオン反応です』
 ハティが告げる。
 今まで存在していなかったオブジェクトが会計台の上にぽつり、と座っているのを認識する。

 ひよこのぬいぐるみ――。
 そのデータはさっきまでの変化と全く一致しない。都市伝説のようなまどろっこしい挙動を取るUDCでもない。

「そのUDC、さっきのやつじゃないね」
 まずは予知夢で確認された倒すべきUDCへと向かうウルル達。
 ――もう一体も分析しながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八街・リュウ
駄菓子!いいねえ、とにかく子供向けのちっさくてあまーいのも好きだぜ!
好きなんだが……さすがにこんなやべえ場所のものは、口に出来そうにねえなあ。目で味わうだけにしとくか……そうすりゃやべえもんにも目を向けずに済むだろ。
目は菓子に向けるが、耳や肌ではしっかり店内を探っておくぜ。ひよこは現れたら撃っておくとするか。



「駄菓子! いいねぇ、とにかく子供向けのちっさくてあまーいの好きだぜ!」
 赤い鱗に黄金の瞳――竜族の男が明るい顔で微笑んでいた。

「わかるぜ!オレも甘いの好きだから!よろしくな、リュウさん!」
 皆をこの世界に送り届けた大きな巨鳥、グリモア傭兵のあめが翼を振って見送っている。

 ガンベルトや数々の武器――その装備の全てを丁寧にチェックしながら、リュウは予定の廃墟に向かっていく。
 その所作は歴戦の傭兵そのもの。準備は万全の頼れる背中。
 咥えているのはシガレットでなく――長いクッキーの棒にチョコレートをコーティングをした菓子だが。

 目的地までの短い距離ですら、彼は警戒を怠らない。
 歩き方、目の配り方一つ一つがプロの動き。

 ――子供たちの帰宅を促すメロディがそろそろ止まる。
 定刻だ。

 廃墟に電気が灯り、その様相が駄菓子屋と変わる。

 すこし困った顔で、甘党の竜は呟く。
「好きなんだが……さすがにこんなやべえ場所のものは、口に出来そうにねえなあ――」
 わしゃり、と赤髪を掻くと。つまらなそうな顔。
 武器をしっかりと構え、いつでも発泡できる姿勢で店舗に突入する。

 廃墟内部……いや"店内"には色とりどりのお菓子達。
 彼の心が揺れないはずがない、そんな空間だ。

 ガラスの瓶の中には色とりどりのアメ。
 隣の瓶には腕が何本もあるクマの形をしたグミ。
 カワイイ……なんだこの動物……のパッケージのガム。
 混ぜれば膨らみそうなお菓子。
 パステルカラーの砂糖菓子。
 小さなカップ麺のようなもの。
 目玉を詰めた瓶……ちょっとグロテスクだが、最近の流行りのポップさだ。

 だが――何一つ、名前は読めない。UDCアースの文字のような……模様。
 一体どんなお菓子であるか、文字からは分からない。
 感覚的に、どんなものかは"経験"が教えてくれるだろう。
 どれも、パッケージ以外は存在している"お菓子"だと認識できる。

「目で味わうだけにしとくか……そうすりゃやべえもんにも目を向けずに済むだろ」
 目は菓子を見る――見てしまう、のが正しいだろう。
 だからこそ、問題になる棚の隙間には視線が行かない。

 だが。

『やばくないやばくないやばくぁたしかわいいかわいい!!』
 店内にしゃがれた老婆の声が響いた。
 懐にあると想定できる通信機も激しいノイズを響かせる。

 ――声の咆哮へ武器を向ける。
 店内全てに目配りしながら、その声の位置を探す動き。
 長い尾も、後方からへの攻撃に備え、いつでも薙ぎ払える位置に留まっている。

 鱗も空気を捉え……環境の変化を、肌感でも感じ取れるよう神経を集中する。

「――居ないわけがねぇんだけどな」
 パキィ、と咥えたチョコ菓子を噛み砕きながら。

「やべえもん……ね」
 何に反応したか、は甘いものが脳を活性化させ教えてくれる。
 呟いた言葉は否定、だ。

「ははぁ、そういうヤツってことか。嬢ちゃんは"かわいい"って言われないとだめなんだな」
 気さくな声。UDCの特性を見抜く――。

 その時だ。
 ――ひよこが視界に飛び込んでくる。
 それはカウンターの上……オブリビオン反応。

「生還後のスイーツの為に――戦場、楽しんでいこうか!」

 体重移動――重心を整え、黄金の目の動向がキュっと縦に伸びる。
 射撃体勢――いつでも撃てる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雁帰・二三夫
「わたくしも子供の頃は暗闇や怪談は怖かったですよ、あめさん」
おっさん笑った

「種族特性で大人になる速度は違いますし変化せぬ者もいます。それでも時間が経てば精神性は変わります。見る貴方がただ怖いだけなのは大変そうですから…早く怖がることを楽しめる域になるといいですね?」
あめぽんぽん

「これは…現代版お菓子の家なんでしょうねえ」
「作った貴方の労力には敬意を評します。貰うのも仕掛けのうちでしょう」
幾つかポケットに
終了後分析依頼し問題なければ供養がてら食べる所存

「お菓子しか食べないと背が伸びないし走るのも遅くなりますよ。今日はおうちに帰って夕飯を食べませんか」
UCで説得成功率上げ
目線合わせ子供達に帰宅促す



「わたくしも子供の頃は暗闇や怪談は怖かったですよ、あめさん」
 優しい笑顔の二三夫に、頬の毛を膨らませながら答える、送迎の巨鳥。

「子供じゃねえんだ~~もう子供じゃ……ウワーッ」
 目が泳ぎに泳ぐ。
「暗いのも怖いし、怪談は絶対やめてくれ!作戦なら耐えられ……耐える!怖い話は!駄目だ!」
 ピィーという甲高い声が、徐々に赤を帯びてきた空に響いた。

「種族特性で大人になる速度は違いますし変化せぬ者もいます。
 それでも時間が経てば精神性は変わります。
 見る貴方がただ怖いだけなのは大変そうですから……早く怖がることを楽しめる域になるといいですね?」

 ぽんぽん、と優しく励ましてくれる大きな手は安心感がある。
 響く声色も大人の男性、気が休まる……のだが――。

「お、オレは召喚された台風みたいなもんだから……多分ずっとこのままなんだけど……。
 怖がることを!?楽しむ!?そ、そういうのもあるのか!?……た、たのしい、ぜ」
 引き攣った顔で石化したように動かない、デカい鳥の彫像みたいになった……。

 ――そういえば、このおっちゃんは戦うスポーツをやっているんだっけ、と鳥は思う。
 スポーツとしての鍛錬、スポーツは試合、実戦と同じ。
 多くの実戦経験そのもの。障害物を利用した奇襲や、背後からのナイフアタックなどもあるだろう。
 恐らく、緊張や恐怖を感じる瞬間もあるのかもしれない。ただ、戦闘はアドレナリンも溢れる。
 ヒットを取り合う瞬間の感覚はスリリングでエキサイティング……。
 なるほど……と、もちもちとした羽毛に首を差し込んで納得する。

 その時、日が完全に沈む。
 耳に残るメロディも、同時に終わる。

 ひょい、と気さくに手をあげて作戦エリアに向かっていく二三夫の背中。
 任せられる……と安心して、グリモア猟兵はいつでも皆が帰還できるよう、準備を始める。

 廃墟に電気が灯った。
 作戦内容通り、その景色は一転し、まるで駄菓子屋――。
 カワイイグッズや玩具も置いた、子供が喜びそうな店舗へと姿を変える。

 二三夫は進む。
 おそらく、廃墟のほうが"慣れている"戦場だろう。

 今回の舞台は小型のショップ、
 どちらかといえば小さな部屋。室内でのゲームで言えば、中部屋。
 1対1を強いられる小部屋より広く、他の入り口や敵の揺動、大人数の待ち伏せを警戒する大部屋より狭い。
 踏み込む前に、中を覗く仕草。
 視認だけでクリア、と叫べないのはオブリビオン相手の面倒な部分だ。

「これは……現代版お菓子の家なんでしょうねえ」
 店内の棚にはびっしりと色々なお菓子やグッズ類。
 予知や、それに付随する情報――"子供たちが自由にそれらをカゴに入れ、最後に消えてしまう"。
 魔女が捕まえて食べてしまうのか。
 本当に魔女が居るのか。魔女だけ、なのか。

 正解は分からない。だが――正解に一番近い考えだろう。

「作った貴方の労力には敬意を評します。貰うのも仕掛けのうちでしょう」
 小さなパッケージに包まれたカワイイ飴や、小分け包装されているガム――。
 1つずつ手にとってポケットに幾つかしまう。
 読めない文字列、違和感のある動物のデザイン。
 手に取れば、自然にそれが視界に入る。
 作戦終了後に分析し、問題がなければ供養がてら食べよう、そんな感覚で。
 "いやいや、そのパッケージ絶対駄目だろ!ホラーすぎんぞ!"と叫ぶ、
 お世話が必要なグリモア猟兵の顔も過るかもしれない。

 ――貰うのも仕掛けのうち。
 子供はカゴに入れるのだ――。

 正解だ。

 ……一番奥の会計台、カウンター。レジがありそうな場所。
 ひよこのぬいぐるみが、ぽてん……と座っている。
 出現する条件を満たす。
 ――貰う。菓子を……貰うこと。

 もちろん、その状態に二三夫は気づく。
 オブリビオン反応も間違いない。第一ターゲットの出現、しかし攻撃行動は見られない。
 そこに、居る、だけ。

 選手として、足音を聞き取る力は一段と強い。
 誰かが入り口へ歩いてくる音に反応して、彼は即座に対応する。
 この足音は軽い音、保護対象――子供たちだろう、と。

 フォン、と温かい光のような物がその周囲に広がっていく。
 キャンプ――セーフティエリア展開。
 辺り一帯のダメージを与える全ての行動が弱体化されるユーベルコード。

 これで、ひよこが暴れる可能性は極端に下がる。他に潜んでいる存在が居ても、奇襲されにくいだろう。
 この状態なら、背後を見せても大丈夫だ。
 出会う子供が驚かないように、武器をしまい、ゆっくり落ち着いた動きを心がけ外に出る。。

 外に出れば、1人のこどもが光なき目で吸い寄せられるようにこちらへ歩いてくる。
 店から出てきた優しいおじさんは、優しく柔らかい顔で微笑みながらしゃがむ。
 こどもに目線を揃えて話す。
「お菓子しか食べないと背が伸びないし走るのも遅くなりますよ。今日はおうちに帰って夕飯を食べませんか」
 ――温かい守りの空間も、その肩を一緒にぽんぽん、と叩くように。

 子供の目に、光が戻る。
「う、うん!あ、あれ……?今日、ハンバーグだって言ってたのに……ママ遅くなるからって電話のあと……」
 元気の良い返事のあと、その子が呟いたのは、期待していたご飯が一緒に食べられなくなって悲しかった話。

「気をつけて帰りましょうね、お母さんも待っていますよ」
 大きく頷いた子供は走って家に戻っていった。

 ひよこのオブリビオンは、悪意での支配や攻撃、洗脳を行うタイプではなさそうだ。
 骸の海から滲み出したそれは……寂しさや不満、そんな心の痛みの過去が集まったもの。
 それを癒やすのではなく。
 進まない時間に送り込み、温かい心を養殖して喰らい続けている……。

 複雑そうな顔。
 そのサングラスの下で、瞳が鋭く輝く。
 武器を構えながら、店内へ戻る。

 二三夫の調査では、隙間に潜む謎のオブリビオンは接触して来なかった。

 これらから分かる情報は――この店は、ひよこのオブリビオンが作り出している空間。
 寄生しているのは、もう一体だ。

 その時、ひよこが小さく震え始める……ぴょこり。
 カウンターの上で立ち上がり、二三夫の顔を見た――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ひよこさん』

POW   :    誰かさんとあなたと
いま戦っている対象に有効な【誰かの魂】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
SPD   :    どこかのあなた
小さな【鈴】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【幻影を見せる異空間】で、いつでも外に出られる。
WIZ   :    あなたの言葉
妖怪【ひよこさん】の描かれたメダルを対象に貼り付けている間、対象に【普段なら言わないような事を言いたくなる】効果を与え続ける。

イラスト:猫柳ひま

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 カウンターの上に座っていた、ひよこさんのぬいぐるみの翼が、ぽや、と開く。

 一気にオブリビオン反応が強くなる。
 この店舗自体、このUDCが生み出しているエリアだと反応から明確に認識できる。

 だが、強烈な敵意や攻撃意志が見られない。
 飛びかかってきたり、はたまたカワイイUDCに見られる……腹が裂けてバケモノが!なんてこともない。
 ただ、かわいいひよこさんが……皆を見つめているだけだ。

 シャァン――ひよこさんの尾の先に着いている鈴が、美しい音を奏でた時だった。
 店内に幸せそうな子供たちの笑い声が響く。

 どこかの空間から聞こえてくるような声。
「かわいくない!なーんにもかわいくない!えへへ、かわいくないよね!」

 ――店を否定するような、この場所を否定するような声が辺りに響いてくる。

 ……その時。しゃがれた声が聞こえる。
「そうよぉ、かわいいのはァあたし、ぁたしなの、いいこたち」
 ――隙間を覗いた時に現れる目……それの声。

 その気配はない、ただ嬉しそうに……嬉しそうに笑いながら、僅かな反応を空間に残すだけ。

 第一ターゲットは、このひよこさん。
 おそらく……心に影響する行動や空間変化を使ってくることが明確に分かる。
 鈴、も極めて目につく部位だ。

 第二ダーゲットの気配がする。
 だが……位置は分からない。
 先に倒すべきオブリビオンを狙うべきだ。

 自身をかわいい、と言わせる。
 それは、かわいいものをかわいくないと否定する事と同義。
 まわりがかわいくないなら、一番自分がかわいい。

 ひよこさんが持つ大いなる力……それを分析して戦えば、その敵の真実や弱点にたどり着けるかもしれない。

『餌を与えるな』『満足させるな』
 特定のUDCの力はそうして増強する。

 その時、ひよこさんの鈴から声がする。

「かえりたくない。ママにあいたくない」
 泣きそうな、辛そうな、幸せそうな声じゃない。嘘をついている……そう感じる声。

 このひよこさんのユーベルコードは――。

 UDCひよこさん、戦闘開始。
雁帰・二三夫
「見えない誰かを引っ張り出すのは比較的簡単そうですが、既に取り込まれた子供がいそうですね。わたくし、そちらの対処に行って
きます」
「お菓子を貰ったわたくしは、貴方の中に会いたい子がいるんです」
おっさん笑ってひよこの鈴に触れた

「貴方の声が聞こえました。声を出してくれてありがとう」
子供探す

「貴方のママは貴方ほど他人に頼るのが得意じゃなさそうです。だからわたくしが一緒に行きます」
おっさん子供に笑いかけた

「貴方が帰りたくなるおうち、会いたいママになって貰うために。貴方とママが幸せになる一歩は、貴方が一緒に行ってくれないと始められません。貴方とママの幸せを、一緒に掴み取りに行きましょう」
子供と一緒に外に出たら人化した巨神G-O-リアス|3号機《トレス》(170cmスレンダー美女)に子供を守って貰いつつ他の子供の声が聞こえなくなるまで鈴触り再突入繰り返す

「覗き魔のお嬢さん。世界は可愛い、世界中が可愛い。それは貴女が可愛くないからです。可愛くなくて、可愛い世界に出て来れないお嬢さん」
おっさん怪異を呼んだ



 ピョ、と卓上に乗ったひよこさんは鳴く。
 最初は1羽だった。
 一人に1羽ずつ見えている――そんな感覚だった。
 だが……少しずつ、店内にその数が増えていく。多くはないが、少なくもない。

「見えない誰かを引っ張り出すのは比較的簡単そうですが、既に取り込まれた子供がいそうですね。
 わたくし、そちらの対処に行ってきます」
 さわやかな笑み。
 そして、確かな確信からの行動開始。

 見えない誰か、は所謂アンブッシュ。この部屋で待ち伏せし……攻撃するタイプだろう。
 視認は出来ていないが、行動するタイミングがある程度読みやすい。

 現状で一番優先するべきこと――"この店舗に誘われ、消えてしまった子供達の救出"。
 二三夫の人質救出戦の始まりである。

 声が響いてくる場所は、ひよこの尾羽についた"鈴"。

「お菓子を貰ったわたくしは、貴方の中に会いたい子がいるんです」
 穏やかで優しい顔。
 その手は、静かにひよこの鈴に触れる。

 ひよこさんのユーベルコード――どこかのあなた。
 その鈴へ、抵抗しないものを吸い込み――しあわせを彩った異空間に誘うもの。
 それには強制力も、攻撃力もない。

 望んだものが、そこに居られるだけ、なのだ。

 チィイイン――と。静かな音が響く。
 ふわ、と暖かな風が吹き抜け、掻き消えるように二三夫の姿が消えた。

 ――。
 ――真っ白になった視界、そして色が戻ってくる。
 二三夫のサングラスに反射する部屋は――ひとつの子供部屋。

 入り口の扉、右手側にはピンクに白の水玉がついた布団。同じ色合いの枕には、ひよこのぬいぐるみが3つ。
 枕元にアナログな目覚まし時計。鈴付きの分かりやすいもの。
 文字盤は読めない……その真中に描かれているのもまた、ひよこ。

 見回せば、左側には本棚。タイトルの読めない色とりどりの本。
 となりは衣装タンスだろう。開いていないので中は分からない。
 正面には、一つの机。

 明かりや小さな棚、引き出し……学習机。

 そして、机の前に膝を抱えて震えている女の子が一人。
 小さなカゴに入っているお菓子。
 空いたパッケージは、きちんと奥のゴミ箱に捨てられていて、散らかっている様子はない。

「貴方の声が聞こえました。声を出してくれてありがとう」
 穏やかな声が部屋に響く。

 誰かが来るなんて思ってなかった。びっくりして顔をあげて、固まる。
 驚きか、安堵かは分からない。少女の瞳には涙が浮かんでいた。

「貴方のママは貴方ほど他人に頼るのが得意じゃなさそうです。だからわたくしが一緒に行きます」
 膝をついて、目線を揃える。ただただ、本当に優しい声。少女は口を抑えたまま。
 このおじさんは大丈夫。頼りたい、助けて欲しい。そう伝えたい。
 だから……彼女は口を開いた。

「誰か来るって思ってたんだ!帰ってくれたらうれしいよ……!」
 涙目で口を抑える。言葉とは逆のあべこべな動き。
 ――言わされたような。世話好きのおじさんだからこそ、一瞬でそれを見抜く。

 ならば――"ピーピング・トム"。
 ……ユーベルコードが真実を告げる。

 彼女は、母だけに育てられた。
 仕事で忙しく帰ってこない。自分と同じに一人で生きられるように、と教育も厳しい。
 約束も……仕事で破ってしまう。ご飯も母とは食べられず、一人が多い。
 そんな、家の事情。
 母は誰にも頼らず、一人で必死に向き合い続け……ただ、強く生き過ぎて。
 少女の弱さや嘆きに手を伸ばすのが……少し、遅れてしまっている。
 嫌っている。そんな母親が嫌いだ。もう会いたくないと、家を飛び出して此処に来た。

『もう怖いし、後悔している。帰りたいけれど、帰りたいと言えない』

 異質な情報――オブリビオンのユーベルコードの影響が情報から推察できる。

「ママは好きだけど!……誰かに頼ったまま。いつもすぐ帰ってくるし。早く帰ってばかりで毎日会っ……」
 がたがたの言葉。二三夫の温かい言葉に、涙しながら必死に伝えたいことを話す。
 出てくるのは――言おうと思っていなかったこと。
 口を抑える。頑張れば頑張るほど、変なことを喋ってしまう。

「怖かったですね、大丈夫です。側に行っても構いませんか?」
 安心できる表情。少女は頭を何度を縦に振る。
 ――その時、ふわり……と。かわいいひよこの絵が描かれたシールが、彼女の服から落ちて――。
 泡になって消滅した。

「助けに来てくれたの?」
 涙で目を赤く腫れさせた少女が、やっと笑顔になる。
「いえた!」
 オブリビオンの力だろう。おそらく――この場所の出入りは自由。
 帰ろうと思えば帰れる。ただ、帰る、と言うだけ。
 けれど、その言葉に嘘を仕込む力……幻想を幻想と気づき、帰ろうとしたものの帰還を妨害する……。
 別れの言葉を言わせないために。
 過去から滲み出したそれらは、共に……時間の停滞にいる者を求めているのだ。

「さっきのは間違い!ママは嫌い!うそつき、いつも帰ってこないし。遊園地にもいけなかったし!……」
 うんうん、と小さく頷きながら静かにその言葉を聞く二三夫が、言葉を返す。

「貴方が帰りたくなるおうち、会いたいママになって貰うために。
 貴方とママが幸せになる一歩は、貴方が一緒に行ってくれないと始められません。
 貴方とママの幸せを、一緒に掴み取りに行きましょう」
 低音で柔らかい声。それでいて真剣で……優しい。ただ、優しい人の声、と少女は感じる。

 少女が俯いたまま話す。

「帰りたくなかった。ここでね、お菓子と玩具で幸せだなって。ママなんて要らないって思った。でも……」
 かわいい部屋、の像が歪む。まるでホログラムにノイズが走るように。
 その入口が開き始める感覚。

「帰りたくなっちゃった。ママ嫌いだけど、心配してるって思って。いけないって思ったら」

「はい」
 ふわり、と柔らかい相槌。少女は安心して言葉を続ける。

「思ったことが言えなくなちゃった……!帰ってちゃんとお話する。
 会いたくなかったけど、やっぱり会いたい。
 おじさんが言う通りだよね、わたし、いっしょにいく。
 ちゃんと話す……怒られないように、言ってくれる?」

「ええ、もちろんですよ」
 頷いて手を伸ばす。救いを求めた心を夢の中で死なせない為に。

「かえる!ママにもちゃんと言う!……居ないとね、怖くて、寂しいんだって、もっとちゃんと言うんだ!」
 少女は手を掴んだ。"帰る"――その空間は掻き消える。

 二人は、元の空間に戻った。
 そこは駄菓子屋――ひよこたちが跳ね回っている。

「さて、おじさんは、お嬢さんと同じで困っている子供たちを連れに行ってきます」
 にこり、と微笑んで。

「でも大丈夫です。この強いお姉さんが守ってくれます」
 美しい170cnくらいのスラリとした女性がそこには立っていた。

「見た目以上に力も強いし重量――」

 余計な一言の途中で、トレスが被せて相槌を打つ。
「そうね」

 ――信じられないくらいの綺麗な笑顔。あまりにも綺麗すぎる笑い方。
 子供の前での大人の反応。
 任務の後にどれだけの距離、二三夫が吹き飛ばされるのか……それは巨神のみぞ知る。

 トレスが優しく少女を抱き上げ――入り口。安全領域まで運び……敵からの不意打ちを防ぐよう立ち塞がる。
 少女はキラキラした目でその後姿を見上げていた。

「それでは行ってきますね」
 少女に親指を立てて笑うおじさん。少女は嬉しそうに親指を立てるポーズを真似て、手を掲げた。

 ――次のひよこに、触れる。

「あああああ!かえりたかったよおおお!」

「おっさんじゃ信用できねーけど、ついてってやる」

「――うん。かえる」

「……やっぱり、おうちがいいな――」

 オブリビオンからの反撃はない。
 一人、一人とひよこから子供たちを救い出すたび、オブリビオンの反応が薄くなる。
 乾き愛を求める過去は……そこに"居て"くれなければ、力を保てない。
 このビルを越え、世界中がこの幸せな幻覚に包まれるまで続けるはずだった……。

 力が、削がれていく。

 子供達の声はもうない。
 そこに残るのは、ひよこのかたちをした、乾きという過去から生まれたオブリビオン。

 それらは――おそらく、他の猟兵との戦闘で完全に消滅する。

 もう一人隠れている。それは、オブリビオンだ。
 もう一人。敵であれ、それは一人なのだろう。

 二三夫は一歩踏み出して、サングラスの下で目を閉じる。
 すぅ、と息を吸い込むと――穏やかで柔らかく……それでいて、鋭く。諭すように、言葉を放つ。

「覗き魔のお嬢さん。世界は可愛い、世界中が可愛い。それは貴女が可愛くないからです。
 可愛くなくて、可愛い世界に出て来れないお嬢さん」
 ――その瞬間。

「アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
 カワイイわ!かわいいのよ、わたしは、あたしはね、ぁたしはかわいいの!」
 絶叫が響く。
 棚と棚の隙間にゆらぎが生まれ、オブリビオン反応が一気に高まっていく。

 その姿が見え隠れする。
 ひよこがいるここは、誰も否定しなかったのに。否定しなかったのに。
 蠢く気配が店内を移動する。

 正体を言い当てた。
 UDCには――効く。
 ひよこの生み出す力に相乗りし、祈りと言葉を糧に密かに育ち続けていた邪神は力を削がれている。

 紳士で優しい、嘘も言わなそうなおじさん。子供たちを助けていたおじさん。
 否定されるのは――この邪神には、重い楔になったろう。

 オブリビオン掃討作戦は続いている。

 おじさんは、鋭い眼光をサングラスで隠し、じっと――怪異、もう一体のUDCの存在を見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「それではお願いしますね、花燕さん」
「…分かった」

「可愛いヒヨコさん、転生の希望はお有りです?」
首傾げ
「子供達を引き留めて食べ尽くされては困るのです」
「転生を望まぬなら、子供達が笑顔になる美味しい食材になって下さいな。大丈夫、貴方はとても可愛くて美味しそうですもの」

UC「食欲の権化」
「焼き鳥、照り焼き、鳥つくね!鶏ハム、水炊き、鶏南蛮!唐揚げ、クリーム煮、親子丼!…」
料理名叫びつつ敵を桜鋼扇でぶっ叩く
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
食材化した鶏肉は花燕が背負ってきたリュックからソフトクーラーボックス出しどんどん仕舞う

「私はオブリビオンと無機物しか食材化出来ませんから。誰を呼ばれても大丈夫ですよ」



「それではお願いしますね、花燕さん」
 透き通る声色。

「……分かった」
 こくり、と少女の形を取る巨神は頷いた。

 ひよこは1羽ではなかった。

 ぴぃぴぃと声をあげて、ひよこ達は走り回っている。
 数はそれなりに多く、サイズ的には両手で抱えるくらい。決して小さいわけではない。

 両手の羽をばさばさと動かし、カウンターや棚をぴょんぴょん跳ね回る。

「可愛いヒヨコさん、転生の希望はお有りです?」
 ゆるやかに首を傾げて微笑む。

 ひよこたちは、その動きを真似して首を傾げる。
 悪鬼とは呼びにくい動き。
 ぴぴっ!と再び鳴き声をあげると、ワタワタと走り回る。

「子供達を引き留めて食べ尽くされては困るのです」

 桜花の言う通り、だ。

 ひよこは最初1匹だった。
 子供を抱え――その想いを餌に、増えた。
 今この場にいるひよこ達はそうして増えた、のだ。
 世界をそうして埋め尽くし、壊す。
 優しく抱きとめる顔をして、喰らい。
 自覚なく滅びへと導く行動。

「転生を望まぬなら、子供達が笑顔になる美味しい食材になって下さいな。
 大丈夫、貴方はとても可愛くて美味しそうですもの」

 桜花は、優雅に取り出した桜鋼扇を一振りし開く。
 シャラン、と綺麗な音色が辺りに響いた。

 大いなる力が満ちる。
 吹き抜ける暖かい風が扇の周囲で回り――淡く輝く。花より団子、とはよく言うもので……。

 ユーベルコード、食欲の権化。

「焼き鳥、照り焼き、鶏つくね!」
 漲る食い意地を扇に乗せて……。

 ブッ叩く。

 美しい舞踊のように、舞いながら放つ一閃……というか……。
 その……。
 張り倒したひよこが吹っ飛ぶ。そのまま弾け飛ぶと――ぽん!と可愛らしい煙をあげて何かに変わる。

 いわゆる若鶏。調理前の肉そのものに変化する。

 皮との間の油も充分。串にさして炭火で焼けば……何杯でも飲めそうな焼き鳥の素材。
 想像すればユーベルコードの出力は高まっていく。

 もちろん、甘辛い垂れで仕上げればジューシーで肉厚。
 甘味も強しっかり感じられるボリューミーな照り焼きに。
 早くもお腹が鳴る。

 これだけつやつやの素材。ひき肉にして――捏ねる。
 鍋にしても、焼いても。焼いたなら卵の黄身を流したらもう絶品のつくね――。
 ごくり、喉も鳴る。

「鶏ハム、水炊き、鶏南蛮!」
 パン!パン!カァン!と三連続で扇が唸る。
 打ち上げられたひよこ達の姿がまた変化する。

 若鶏だ――。

 まずは塩で一晩。一度沸騰させてから、予熱で仕上げる――しっとりとして柔らかいハム。皮もまた絶品――。

 水炊き。たっぷりの鶏から染み出す出汁。野菜にも染み入る旨さ。
 ポン酢でさっぱり?……食べ終わった後の雑炊も格別だ。

 揚げたお肉をさっぱりとした甘酢で頂く。
 隠し味の唐辛子もばっちり――ぷりぷり食感に、卵で作るタルタルを飾ったらご飯が止まらない!

 食欲が力に変わっていく。
 美しい踏み込みで閃く扇が、ひよこを食材へと変化させる。

「唐揚げ、クリーム煮、親子丼!」

 定番、そして最強の鳥料理、唐揚げ。醤油を混ぜて竜田にするのか。
 それともシンプルなスタイルか?にんにく醤油も流行っているし、どれもまた美味い!

 白いミルクと小麦のリッチな一体感。冷えた冬の身体に染み入る味、オレンジの人参を添えて。

 そして。専用の鍋で作られる肉と卵の一体技。
 ふわふわの卵とじに、醤油とみりんのちょうどよい甘辛さ……ごはんが何杯でも食べたくなる。

 また3匹が弾き飛ばされる。
 何羽かは、つやつやの卵になって転がる。中には青い幸せの卵、アローカナが混じっていたり。
 あれは烏骨鶏だろうか。
 親子丼には欠かせない素材なのだから。

 花燕が、素早くそれらを手に取ると持ち込んでいたクーラーボックスに整理していく。
 食材は鮮度が命でもある。
 常温を感じさせる一瞬など無い。完璧な食材管理だ。

 加速する肉加工……ひよこ達は大分減った。

「私はオブリビオンと無機物しか食材化出来ませんから。誰を呼ばれても大丈夫ですよ」

 ひよこたちはワタワタと走り回る。
 時々――魂を召喚して手を弱めてもらおうと……意識は読んで力を使うのではあるが。
 今、彼女の周囲に満ちているのは食欲なのだ。

 意識に触れようとすれば現れ出るのはさらなる食材。

 きらん!と瞳の中に、しいたけ模様の光を作った桜花の扇で一閃されてしまう。

 ……ただ。愛されたい、必要とされたい、乾いている――そんな過去の生み出した鳥達は。
 倒すしかないオブリビオンだ。けれど、一番報われる形で倒されている、そんな景色かもしれない。

 クーラーボックスがパンパンになっていく。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

八街・リュウ
ひよこ……ね。可愛い奴だなあ、ここじゃなければ撫でることのひとつもしてやるんだがな。今くれてやるのは鉛玉なんだ、許してくれよ。

しかし……さっきの声は、まるきり言わせられた感じだったが。
もしかしてそれがこいつの能力か?ガキに泣かせてまでか。前言撤回、趣味悪くて可愛くねえわ。

そしてこのひよこ野郎に、謎のかわいい嬢ちゃんがひっついてる、と。
ま、実際はどんな顔なのかは知らねえが……

正直言って、可愛くはなさそうだなあ。他人が可愛くなければ自分こそが可愛い、とか。 妬み恨みでめちゃくちゃに歪んだツラしてそうで、元がどんだけ良くてもそれじゃな……。
あっ、聞こえてたら許してくれよ?嘘はつけねえ質なもんでね。



「ひよこ……ね。可愛い奴だなあ、ここじゃなければ撫でることのひとつもしてやるんだがな」
 ふぅ、と口元から息が漏れる。
 咥え直したチョコレート棒菓子をころり、と牙の間で転がしながら。

「――今くれてやるのは鉛玉なんだ、許してくれよ」
 傭兵の目。
 鋭く……そして輝きが増す。
 瞳孔が縦に伸び収縮し……敵との距離を正確に認識する。

 これより、10秒。

 ガチャリ、と――武器を、構える。
 1羽だと思っていたそれらは、あっという間にどこからか溢れてくる……!
 走り回るひよこたちを、一匹一匹ロックオンするように視線が激しく動く。

 ――しかし……さっきの声は、まるきり言わせられた感じだったが。
 ひよこから聞こえた声。言わせられた、で間違ってはいない。
 思ってもいないことを"言わせられた"――正解だ。

 ――もしかしてこれが、こいつの能力か?
 鋭く――1匹1匹を貫くような視線。大いなる力が、静かに高まっていく。
 敵の能力。
 それは――抵抗無きものを己の鈴に吸い込み……匿う、能力。

「ガキに泣かせてまでか。前言撤回、趣味悪くて可愛くねえわ」
 泣かないように。
 泣かせないように。
 泣く言葉にならないように。
 管理してきた……いや、そうであって欲しいとわがままを唱えていたひよこ。
 ……意志を上書きせずとも……言葉を。想いを操るならば。
 リュウの言うとおりだ。

 悪意があるほうが、幾分マシかもしれない。

 その時、何かが虚空で反応した。笑い声が耳に届く。汚い枯れた声、だが嬉しそうに喜ぶような笑い声。
 トリガーになったのは単純なことだ。
 リュウは呟いたのだ、ひよこが可愛くないと――。

 7秒が経過した。

「そしてこのひよこ野郎に、謎のかわいい嬢ちゃんがひっついてる、と」
 笑い声が更に反響する。
 ヒヒヒヒハハアァァァ……と、ただただ――気味の悪い残響と共に。

 ひよこ"野郎"、"かわいい"嬢ちゃん。
 興奮するように枯れた笑い声は大きくなっていく。

 10秒――経過。
 構えた武器が一瞬強い閃光を放つ。
 どちらかといえば、瞳――黄金の瞳がより強く輝いた。
 撃ち出された一撃。
 発動までに時間を必要とするとは言え、匠の傭兵はその時間すら使いこなす。

 刹那――視線が通過したひよこが一斉に……パン、パン、パン!と破裂し、消滅する。
 まるで風船が割れるように。中身は空っぽだ。
 その空っぽの中から、暖かい何かがふわり……と浮き出すのを感じる。
 ひよこが集めていた力……子供たちから奪った想い、そんなものだろう。

 カシャァン、と武器を再び構え直し、再装填する。
 素早い手際で隙など無い。

「正直言って、可愛くはなさそうだなあ。他人が可愛くなければ自分こそが可愛い、とか」

 瞬間。
「あああ゛アアア゛ッ……かわいいぁたしかわいい!!!」
 強烈な叫び声が空間に響き渡る。
 空間が歪む――その中に潜んでいた"それ"が動いた証。

「妬み恨みでめちゃくちゃに歪んだツラしてそうで、元がどんだけ良くてもそれじゃな……」
 ゴギリ。
 鈍い音――空間に裂け目が生まれる。
 それは奥の……リュウが好みそうな飴玉とグミが並んでいる棚の隙間。

 ジュル――と。粘性のある液体の耳障りな音。どぷん、と――。
 目玉。
 血走った巨大な目玉が、リュウを見つめている。
 いや、瞼も眉も無くても……"睨みつけて"いる。
 奥に……その本体は、見えない……。

「あっ、聞こえてたら許してくれよ?嘘はつけねえ質なもんでね」
 気さくな声で追い打ちのように、目玉に声をかける。

「あああああああ!かわいいかわいいよ、かわいいのォ!」
 不気味な声は、その隙間から直接聞こえてくる。
 ……ずぽん!
 目がまたその隙間に消えていく。

 邪神に近づいた。
 興奮状態――冷静さを欠いている。
 いずれ潜むことも忘れ、不完全な状態で――全身を現すだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ウルル・マーナガルム
狭い屋内だから拳銃の方が取り回し易い
銃口に|減音器《サプレッサー》を付けながら相棒に指示
スキャンモードを維持して|待機《ステイ》
ひよこさんにマーカーを設定、もし外へ出そうなら合図して
『了解』
よろしくね、ハティ

──犬の鳴き声が返事した
クリーム色のラブラドール
小ちゃい頃からずっと一緒だった
|虹の橋《ビフレスト》の袂へ旅立ってしまった〝ハティ〟
……同じ位置にマーカーが見える
一呼吸おけば十分、銃を構える動作が集中のトリガー
私情を廃し任務を遂行する
それができるのが|死神《私》だから

『バイタルサインに変動あり。大丈夫ですか、ウルル?』
ボクは平気だよ
続けて警戒してて、ハティ
増援があるかもしれないしね



 眼の前のひよこは、1羽だった。
 が――明らかに数が増えていった。同一個体……とは違う。
 同種、と表現するのが良いデータの差。
 サイズやオブリビオン反応にバラつきはあるが、基本的な構成は同じだと判断できる。

 この空間での戦闘を意識するなら、大型の火器は取り回しが悪い。

 狭い室内――ウルルは環境に合わせ武装を適切に選択する。
 拳銃を引き抜き、手早く銃口に|減音器《サプレッサー》を取り付け、同時に|相棒《ハティ》に指示を出す。

「スキャンモードを維持して、|待機《ステイ》――、
 ひよこさんにマーカーを設定、もし外へ出そうなら合図して」
 ゴーグルのデータをチェックしながら、冷静な指示。

『了解』
 キュィ、と一度頷く。
 ゴーグルの視界内、ひよこの位置にピンが刺さる。

 ハティは待機の姿勢でスキャンを続行する。

 ウルルは、何気なく。いつものように言葉を続ける。

「よろしくね、ハティ」

 争う気配もなく、ただ湧き出して走り回っていたひよこが……一斉にウルルの顔を覗いた。
 懐かしいもの、大事なもの、会いたいもの。
 自身を帰るべき場所と誤認させる力……子供たちが、失った家族を見た力の一つ。

『アォン!』

 答えた声は――今の相棒の返事では無い。
 良く通る懐かしい声。

 幼い頃から共に過ごした、ラブラドール・レトリーバー。
 クリーム色の短毛と、垂れた耳。
 尾がゴキゲンそうに左右に揺れている。

 小さい頃から一緒だった、|虹の橋《ビフレスト》の袂へ旅立ってしまった|"ハティ"《家族》。

 優しい目。濡れた大きな鼻がくんくん、と動いている。
 その子が――そこに居る。

 フローリングは床、黒い爪がかちり、と音を立てて走り出そうと――。

 ……|ハティ《家族》と同じ場所には、|ハティ《相棒》が付けたマーカーが点滅している。
 一度、ゴーグルを上に戻す――大きく息を吸い込んで、吐く。
 ゴーグルを落ろせば、再びデジタルの視界の中でマーカーが敵を知らせている。

 一呼吸で十分。
 ウルルはオブリビオンに向けて銃を構える。
 コンパクトかつブレのない、軍人の素晴らしい射撃姿勢。

 精神集中のルーティーン、それはユーベルコードのトリガーそのもの。

 躊躇いなどない――。
 パシュン――!
 マズルブラストが抑えられた発砲音。
 ひよこが1羽、パンという炸裂音と共に風船のように爆発し跡形もなく消える。

 私情を廃して任務を遂行する――。

 そのゴーグルの中で破裂したのは一体何だったのか――。
 ピィン――|相棒《ハティ》がウルルの心拍の反応に気づく。

「それが出来るのが|死神《私》だから」
 飲み込むような。自分に向けた、ほんの小さな呟き。

 パシュン――!パシュン!
 狼の箴言は――素早く正確に、オブリビオンを殲滅していく。
 的中し続ける射撃は、ひよこたちを吹き飛ばす。

 無駄のない動き。連続射撃はまるで薙ぎ払うように敵を消し飛ばす。

 最後の一匹。パァン――。爆発し、消滅する。
 ――第一目標のオブリビオン、ひよこ……ひよこさんを全て消滅させた。

 |相棒《ハティ》が主人の顔を見上げ……声をかける。
『バイタルサインに変動あり。大丈夫ですか、ウルル?』

「ボクは平気だよ」
 ――間髪入れずに、いつもの声で|相棒《ハティ》に答える。

 きっと、マーカーなど無くても彼女は撃てただろう。
 ただ――そのマーカーは彼女を間違いなく守った。
 |相棒《ハティ》もまた、彼女と共にある|家族《ハティ》だ。
 彼女の背を押す前足は|家族たち《ハティ》なのだから。

「続けて警戒してて、ハティ。
 増援があるかもしれないしね」

 優しい声で相棒に指示を出す。

『了解、ウルル』
 キュイ、と待機の姿勢。

 その時。駄菓子屋を作り出していた力が消滅する。
 景色が廃ビルに戻る――空を舞うMNNを目視できる。

『――強度のオブリビオン反応です』
 ハティが告げる。

「……増援、だね」

 時空が歪む――空間を割って腕を伸ばし、這いずり出てきたのは――邪神だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『世界でいち番かWAいイぁた死』

POW   :    ねぇ、ぁたしが一番可愛いでしょう?
対象への質問と共に、【服の影 】から【血色の悪い骨張った無数の腕】を召喚する。満足な答えを得るまで、血色の悪い骨張った無数の腕は対象を【奇怪なネイルを施したボロボロの爪】で攻撃する。
SPD   :    ねぇねぇ、私が一番いちばんかわいい可愛いでしょ?
対象への質問と共に、【下半身の眼球 】から【涙のように零れ出る血のゲルで出来た少女】を召喚する。満足な答えを得るまで、涙のように零れ出る血のゲルで出来た少女は対象を【執拗に顔を殴り続けること】で攻撃する。
WIZ   :    私がぁたしが私がわたしがぁたしが私がぁたしが私が
戦場内に「ルール:【私より可愛くなるな 】」を宣言し、違反者を【血塗れの肉と骨で出来た、腐臭に満ちた牢獄】に閉じ込める。敵味方に公平なルールなら威力強化。

イラスト:K96

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は火奈本・火花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――ビルの明かりは消えた。
 ――そこに駄菓子屋も玩具もお菓子もない。

 ポケットに入れたお菓子は……大丈夫。それは存在したもの。
 持っているもの以外――ひよこ達が作り出したそれらは消し飛んだ。

 最後の1羽が撃たれた時に……その駄菓子屋のドアベルが同時に砕けた。
 恐らく――これも力だったのかもしれない。

 ただ、そのオブリビオンはもう居ない。
 子供たちを誘い……増え続けていたひよこは、皆の戦闘の末殲滅された。

 だが――。

 夜の廃墟のど真ん中、崩れたビルのそこの次元が割れる。
 ばきりばきり、と。

 棚の隙間なんてもうない。

 邪神は……そこに出てくるしかない。

「ねぇ――ぁたしが一番可愛いでしょう?」
 声が響き……その姿を現す。

 見つめてきた目。
 聞こえてきた声。

 ひよこさんのユーベルコードで"言わないこと"を言わされていた子供達。
 彼女を見れば「かわいい」って答えたんだ。

 それは信仰。
 邪神を強化する言葉。
 ――彼女はあの駄菓子屋に潜み、その言葉を貪り力を高めてきた。
 白い肌、ツインテール、大きな目。ほら、かわいい。

 彼女は美しい指先の、かわいいネイルを見せつけながら……皆の前に姿を現す。

「――かわいい、でしょ?」

「ねぇ」

 オブリビオン反応が一気に跳ね上がる。
 ひよこさんとは全く違う――これは、邪神。

 予知の先、倒すべき本当の敵。

 邪神――"世界で一番かわいい――"彼女の討伐開始。
八街・リュウ
へえ、それが嬢ちゃんのご尊顔か。予想よりはマシだったが……ある意味もっと救いのねえ顔かもな。
なんつーか、執念すら疲れて惰性に落ちたーー死兵の表情って感じだからよ。
私が1番可愛い、なんて……てめえでまず信じてねえだろ?

痺れるスリルのためにも、そして有効打のためにも、【勇気】あえて接近するかね。【UC】をぶちこんで隙を作れるか試してみよう。銃で弾幕も張っておくか。近づけたら銃での化粧か目薬か……【二回攻撃】両方だな。

次、なんてもんが実在するのかは知らねえが、もしあったら。
今度は、可愛いなんて事に囚われなきゃ良いな。案外、そっちのが可愛くなれるぜ……多分な。



「へえ、それが嬢ちゃんのご尊顔か。予想よりはマシだったが……ある意味もっと救いのねえ顔かもな」
 ふっ、と口元がら息が漏れる。
 赤い髪をくしゃ、と掻き分けながら。

 眼の前の邪神は静かに揺れている。

 可愛いティアラみたいな頭部の飾りもの。
 烏の濡羽色のツインテールがずわ……と動く。
 首元のもこもこ、ファーは全体のシルエットを整えて――。

 下半身から繋がる赤黒い肉片が、巨大な目へと繋がる視神経を包み込んでいる。

 どくり、どくりと脈を撃てば辺りをぎょろり、ぎょろりと見つめる巨大な目玉の焦点が。
 リュウを正面に捉えた。

「ねぇ、ぁたしが一番可愛いでしょう?」
 邪神は問う。
 ギチギチ……と遅れて表情が変わる。白い顔が、笑みを浮かべ――口元をつん、と突き出す。
 風もないのに揺れているアウターの中……影。
 中で何かが蠢いた。

 リュウは目を閉じ首を横に振りながら、呆れた声で答える。
「なんつーか、執念すら疲れて惰性に落ちた――死兵の表情って感じだからよ」

 その時だ。
 邪神の服の影から腕が何本も伸びてくる。
 "そんなこといわないで"
 影の中から、枯れ木のような腕。骨と皮だけ。
 痩せようと無理しすぎた……ハリもない、ツヤもない。可愛くなりたかった細い腕、まるでミイラのような。
 5本の指を開き。
 まるで梵字。まるで血しぶき。目玉。"血色"……。
 可愛いとは微塵も呼べない異質なデザインのネイルがシャキン、と広がる。

「私が1番可愛い、なんて……てめえでまず信じてねえだろ?」
 竜の傭兵は黄金の目を見開き――その腕を退いて避けるのではなく。
 真正面、懐へ飛び込むように避ける。

 ――戦いに身を置いてきたもの。戦いは……楽しむものでもある。
 有効打のために勇気を力に踏み込むのだ、と話すだろう。
 けれど、痺れるスリルに酔いたい……戦いへの快楽は隠しきれない。

 何本も伸びてくる邪神の腕。
 彼はあえて真正面に突撃することで避ける。想定される"避ける位置"へと放たれた腕は全て空を切る。
 振り抜かれた指のネイルが弾け飛び、荒れて変形した爪が顔の横を通過していく。

 ――ユーベルコードが届く間合いに入った。
 全身の力が満ちる。
 繰り出す腕を避けられ、次の行動までに大きな隙を晒した彼女へ、リュウの腕が突き出される。

 赤と黄金の光。曝気――オーラが腕から迸る。
 ドオオオオオン!という激しい爆発と共に、邪神は廃墟のビル壁まで弾き飛ばさ……れない。

 ジジジジ……という音。
 彼女の細い足。視神経に……リュウの瞳と同じ色。エネルギーで作られた黄金の鎖が繋がる。
 邪神は、大きく間合いを離す選択肢を奪われた。

「かわいい、かわいいから、手を繋いでくれるの」
 大きなダメージを受けようとも、にちゃり、と邪神の口元には笑みが浮かぶ。
 かわいいと言葉を貰うまで、その腕は攻撃をやめることはない。
 不利な間合いであろうとも、言葉を"掴む"ために、その枯れ枝の腕はリュウへと閃き続ける。

「次、なんてもんが実在するのかは知らねえが」
 構えた銃のマズルが輝く。3点バーストの銃弾が弾幕となり邪神へと飛ぶ。
 ――同時に全身のオーラで、つないだ鎖を操り邪神を引き寄せる。銃撃の間合いから、完全な接近戦へ。

「もしあったら」
 ふ、と息を吐く。
 弾幕に使っていた銃とは逆の腕で、リボルバーを引き抜く。
 眼の前にあるのは、邪神の顔。……きっと。この邪神の顔をこの距離で見つめた男は彼が初めてだ。

「今度は、可愛いなんて事に囚われなきゃ良いな」
 撃鉄を起こす。弾倉を回転させる指。特殊な弾き方――。

「案外、そっちのが可愛くなれるぜ……多分な」
 ドギュウゥン――!
 1発目の弾丸が頬を撃ち抜く。鮮血のチークが邪神の頬を染める。
 ギュリ……ドギュゥン……!
 2発目の弾丸がその目へと飛ぶ。撃鉄操作を駆使した、9mm弾の"2回攻撃"。

 邪神の片目が吹き飛ぶ……風穴。赤く垂れる雫はアイライナーか、血涙か……。

「かわいい、でしょ……?」
 蹌踉めきながら、オーラの鎖を引きちぎり、後退りして叫ぶ邪神。
 ……過去から滲み出した骸の海、オブリビオンに変わりはない。邪神、UDC……この世界の怪異。
 それでも……言われたことがなかった。
 罵倒でもない、肯定でもない。
 ……"可愛くなれるぜ"。

 怒れない、喜べない。その言葉は、強く邪神を縛り付ける……力が削がれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「鯨の目玉の煮付けも美味しそうと思ったのですけれど…鯨は哺乳類でした。魚の目玉でしたら美味しかったと思いますのに」
目玉注視
「花燕さん、食材集めは終了です。先にあめさんの所へ戻って貰えます?」
「…分かった」

「目玉は眼肉込みで美味しいのです。大人の女性で、きちんと化粧もせず心配りもなさらない方を、可愛いとは絶対に称しません。可愛いを追求したいなら、どうぞ転生を」

UC「幻朧桜召喚・因果改竄」
時速745kmで飛行しつつ敵の目玉と衣服に触れ使用不能又は破壊
衣服や目玉から増援出来ないようにする
敵に吶喊
高速・多重詠唱で浄化付与した桜鋼扇で消滅する迄バシバシぶん殴る
敵の攻撃は第六感で躱す

戦闘後
鎮魂歌歌い送る



 躍り出た邪神。
 下半身、細い足……に繋がる大きくてくりくりとした、可愛い目玉。
 目玉は大きい方が可愛いじゃない!

「鯨の目玉の煮付けも美味しそうと思ったのですけれど……」
 目を細めて、ぽわぽわと脳裏に大きな目玉の料理を思い浮かべる。

 桜花は、ぽん、と手を打つ。
「鯨は哺乳類でした。魚の目玉でしたら美味しかったと思いますのに」

 彼女の視線はずっと、揺れ動く大きな目玉に釘付けだ。
 邪神の目玉も、もちろん桜花を向く。
 だが――この感情は知らない。今までにない。侮辱も称賛とも違う。かわいいとも違う何かの想い。
 肯定的な気がする。ぎゅう、と巨大な目玉の瞳孔が縮み……視線のピントを桜花に合わせる。

「花燕さん、食材集めは終了です。先にあめさんの所へ戻って貰えます?」
 空気が変わった。
 ぽわぽわとした、暖かい春風。桜の下で食べる、重箱入りのお弁当の美味しそうな香り。
 そんな幸せを纏う、優しい春風が、止まった。

「……分かった」
 パンパンになったクーラーボックスを担ぐと、花燕は素早くグリモア猟兵の元へ移動を開始する。
 信頼のアイコンタクト。返事からの動きは至極早かった。

「かぁいい……」
 邪神は目を閉じて……微笑む。

 かわいい服で……おしゃれなヘアピン。
 黒いツインテールで。
 大人っぽいアウターがふわり、と揺れて。
 もうすぐ来る誰かが言う。
「今日も、かわいいね」
 そんな想いが邪神に満ちる。

 邪神がニタリ……と笑った気がした。
 しかし。
 ギリギリギリ……と突然歯ぎしりに変わる。
 かわいいね。誰に?となりの女?待ち合わせのあいつ?それともひとりのあの女?

「ねぇねぇ、私が一番いちばんかわいい可愛いでしょ?」
 ずる、り。

 下半身の巨大な目玉から赤く、重く、どろりとした雫が落ちれば、それは人の形になる。
 不自然な動き、ぐちゃぐちゃの顔、汚い見た目……生臭い。
 邪神は作り出す、自分より"可愛くない"増援を。
 彼女たちなら、あたしより可愛くないから、あたしはかわいい。
 血の人形が這いずりながら桜花に向かってくる。

 その時――。

 凛とした佇まいで、澄んだ声が響き渡る。

「目玉は眼肉込みで美味しいのです」
 ――風が静かに吹き抜けていく。ふわり。桜色の花びらが……空に1枚踊っている。

「大人の女性で、きちんと化粧もせず心配りもなさらない方を、可愛いとは絶対に称しません」
 強い意志を示す、整った表情。ふわふわとした雰囲気はなく……それは間違いなく猟兵。
 ――風が強くなる。冬を終わらせる最初の春風。ひゅうひゅうと鳴る風は、美しい色を帯びる。
 それは桜吹雪。

「可愛いを追求したいなら、どうぞ転生を」
 吶喊の声。
 意志が迸る。
 幻朧桜の香りが辺り一帯を包む。吹き荒れる春一番と共に静かに桜花は舞い上がり――翔ぶ。

 桜色の風が通り抜ければ、邪神の巨大な瞳が痺れたように動きを止める。
 暖かな風の斬撃は汚れた服を切り捨てる。

 ――幻朧桜召喚・因果改竄。

 敵の武器や道具を封じる春の突風。

 邪神の力を削ぎ取るユーベルコード。
 服や目玉からの召喚、変異攻撃を主軸に扱う邪神には効果覿面だ。

「かわいい、あたしはかわいいから」
 邪神は今や……一人だけ。比べるものを作れない。かわいくないものが側にいなければ、かわいくない。
 ガサガサの腕を振り回し、叫び声をあげて。
 飛び回る桜花を掴もうと、暴れまわる。
 だが、その手は空を切る。ただでさえ高速の移動……それに加えて、第六感。
 邪神は、暴れることしかできなかった。
 駄々を捏ねるように。

 シャン、シャンと回る春風の中で音が響く。
 開いた扇が柔らかな陽光を帯び……桜色の風の中で光が煌めく。
 バギィ!という鈍い殴打音。
 続いてガン、ガンと力強い……その美しい光景からは想像できない音が繰り返し聞こえる。

「アア゛……がアァ!!」
 邪神の叫び声。――浄化の一撃が何度も。重く。重く身体に叩き込まれる。
 兵がいれば。その……軍勢がいれば。反撃のチャンスもあった。
 だが、幻朧桜はそれを許さない。

 桜花は着地し、静かに邪神を見つめる。

 邪神は、諦めず、蠢く。
 諦める……いや、そう動くように。そう動くしか無い。過去、過去の残滓なのだから。
 ――戦いは続いている。
 もちろん、彼女は手を緩めない。

 けれど。
 邪神が地に伏した時、
 ――桜花は、静かに送るのだろう。
 優しい鎮魂歌で……傷だらけで暴れた過去の存在を、正しい輪廻に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ウルル・マーナガルム
こーいうタイプは、下手なこと喋って同じ土俵に上がっちゃうのを避ける方が無難
相手の得意な領域の外側から一方的に攻撃する、スナイパーの真骨頂を見せてあげる

ハティ、ホログラム多重起動
動き回るボクの姿を沢山投影して撹乱
その間に『対UDC用特殊コーティング弾』の|弾倉《マガジン》へ交換して、|指向性散弾地雷《クレイモア》『E.H.M.018』も準備
用意が出来たら隠密状態を解除する
ボクが何にも言わないから業を煮やしてるんじゃない?
殺到する少女達に向けてボクの足元のクレイモアを起動
真正面に射出される、特殊弾と同じ素材の散弾がゲルの波を割り開く
邪神への射線が通る
手勢を召喚し直される前に狙いをつけて
引き金を引く



「かぁいい、かあいいでしょう!かわいい……!」
 絶叫するように邪神が蠢く。
 鳴き声――泣き声。

 ゴーグルを指で上に押し上げ、裸眼で敵の状態を捉える。標的の位置の目測。

「相手の得意な領域の外側から一方的に攻撃する、スナイパーの真骨頂を見せてあげる」

 その時点で、この結末は決した。
 ――その一撃は邪神に風穴を空け、即時再生できないほどの致命傷を与えた。

 狙撃手というのは、そういうものなのだから。

「ハティ、ホログラム多重起動」

『了解』
 待機していた相棒が、連続でウルルのホログラムを生み出す。

 廃墟残骸の中、適切に走り込んで隠れる――半身を出して狙う。
 となりの障害物に転がり込む――息を潜めて拳銃で狙う。
 まるで一部隊が連携するような映像が邪神を撹乱する。

 ウルルは気配を消し――狙撃用ライフルの|弾倉《マガジン》に"対UDC特殊コーティング弾"装填する。

 静かに前進、地面に突き刺すのは|指向性散弾地雷《クレイモア》『E.H.M.018』。
 その扇が薙ぎ払う範囲は正面。
 敵の召喚攻撃による歩兵の突撃を誘い込み――消し飛ばすためのもの。

 設置位置や扱いが極めて難しい。指向性とは言え、もちろん周辺は危険だ。
 適切な距離が必要――。
 そして、その動作は所謂"地雷"とは異なる。リモコンなどによる手動爆破だ。

 素早くクレイモアを設置したウルルは、後退する。

 ホログラムはその間も、邪神の気を引き続けている。
 ――美しい白い肌。輝く琥珀色の髪。澄んだ黄金の瞳。
 しなやかで美しい戦士の像に、邪神は問う。

「ねぇねぇ、私が一番いちばんかわいい可愛いでしょ?」

「可愛いでしょ!」

 もちろん、ホログラムはそれに反応を示さない。
 ハティからの通信がある。

『返答を返しますか?』

「こーいうタイプは、下手なこと喋って同じ土俵に上がっちゃうのを避ける方が無難」
 静かな声。

『了解』
 相棒はホログラムを操作しながら返答する。

 ――問に、解答が無かった。
 邪神の力のトリガーだ。そのぶら下げた眼球から血の涙を流す。
 それらは人のような形へと変わり……禍々しい軍勢を作り出す。
 1人、2人、3人……ぐにゃり、ぐちゃり……と数は増え続けている。

 ウルルは、静かに走り滑り込むように配置に着く。
 邪神より遥か遠く。だが……邪神からも見える位置取りだ。

 全て、予測通り。
 伏せ……ライフルを構える。
 狙撃姿勢――相棒への信頼があるからこそ可能な交戦中にはリスクのある体勢だ。

「やるよ、ハティ――ホログラム解除」

『了解、ウルル』
 相棒はウルルの横で敵を睨みながら、ホログラムを解除。データ解析、予測を開始する。

「可愛いでしょう!かわいい!かわいい、のぉ!かわいい!!」
 邪神は狂ったように咆哮していた……が。その視野に入るのは……いまやウルル達だけ。
 血液のようなどろどろで作られた、邪神の考える可愛くない少女達の軍勢が一斉に向きを変える。
 まるで映画で押し寄せる、動く死体のごとく、全身を左右に揺すりながら走り出す。

『前方――全ての個体がクレイモア攻撃範囲に突入するまで――5秒』
 ハティがカウントダウンを開始する。
 ウルルがゴーグルを降ろす。予測範囲、速度……すべてのデータを読み取り。

 邪神の軍勢が走り込む。そして。

 ゴウウウウウウウウウン!!!
 轟音が轟く。ウルルが押したリモコンが、クレイモアを作動させる。
 扇状に広がる攻撃範囲……対UDC用特殊コーティングされた散弾が敵集団を一気に貫く。

 生臭い血人形が消し飛ばされていく。
 そして――切り開かれたのは1本の道。
 ゴーグルを跳ね上げる。

 狙撃手の目。腕前、経験――そして、大いなる力。
|ノルニル達の心得【巨人を屠る者の如く】《ノルンズノーレッジ・オクトール》。

「素早く、静かに、徹底的に」
 "過去"を知り、"現在"を計測し、"未来"を算出する、絶対狙撃。

 トリガーに指がかかる。――カチリ。
 刹那。

 ドギュウウン……!
 マズルが輝き――真っ直ぐに突き進む弾丸が白い帯を引く。正確に。
 その狙撃は1cmの狂いもない。

 ボギュゥ……という、水っぽい不快な音。
 ぐじゅ……と紅い雫が滴る。
 ……血走った目?

 いや――、
 ウルルの狙撃は、その蠢く巨大な瞳を一撃の元に吹き飛ばした。

「ああああああ、あ゛ア……!」
 邪神が叫ぶ。
 ――その一撃は邪神に風穴を空け、即時再生できないほどの致命傷を与えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雁帰・二三夫
「昔なら幼いや小さいが可愛いでした。今はそうあろうと努力をするものやギャップを可愛いと称したりしますが」
「所有者のいる地を不法占拠して他者の言うことを聞かず自分のことばかり主張するものは、|怪物《モンスター》と呼ばれるのですよ。やってることに欠片も可愛さがありませんからね」
「消えて下さい、可愛いの基準に掠らぬ怪物。貴方がこの地から消えるなら、可愛い悪戯と称してあげてもいいですよ」
おっさん笑った

「ここには強いお味方がたくさんいらっしゃいますから。制圧射撃がてら攻撃しているだけでも充分でしょう」
敵の顔・敵の胴体・敵の服・目玉・ネイルした無数の腕を対象に自動攻撃
ダメージを積み上げる
攻撃は腕の感覚に任せ自分は回避に集中

戦闘後
保護した子供達とUDC組織に接触
お菓子の分析依頼と子供達の家庭面談同行
記憶消去前に転職等含めた家庭環境改善依頼
「袖振り合うも多生の縁。偽善者も素敵な生き方でしょう?…ついでにこちらで、トレスさんの整備も出来ませんかね?」
おっさん、分析が済んだ安全な菓子を口に放り込んで笑った



 邪神は、満身創痍だった。
 ――ひよこさんの生み出した空間。
 ひよこさんが、別れを申し出られないように……甘えるように使った大いなる力。
 その恩恵を奪い取るように、そこに潜んでいた邪神。

 子供たちは、ひよこさんが居なくても……彼女に聞かれれば震えて答えただろう。
 "かわいい"と。
 駄菓子屋でもない、このボロボロの廃墟で泣きながら……恐怖で従うしか無い。
 邪神を崇める"かわいい"の声は、最後の切り札になるはず、だった。

 だが。
 ――子供たちは、二三夫が全て救い出した。一人残らず、長身の女性が守りながら避難させた。
 彼女の後ろからなら、どんなに怖くても。
「かわいくない!」
「おばけ!」
 と皆叫べる。
 だから、ニセモノの教団はもう残っていない。
 だから……邪神は力を取り戻す事はもう、できないのだ。

「あたし、かわいいでしょ……!」
 それでも、邪神は尋ねるしか出来ない。
 そういう存在だから。そう、生まれたのだから。

「昔なら幼いや小さいが可愛いでした。
 今はそうあろうと努力をするものやギャップを可愛いと称したりしますが」
 指を一本立てて。柔らかな声で諭すように、二三夫は邪神に話しかける。

「かわい――いでしょう!」
 邪神は蹌踉めきながら力を収束させる。オブリビオン反応が一気に跳ね上がっていく。

 泣き叫ぶような邪神に、優しい声が静かに強く語りかける。
「所有者のいる地を不法占拠して他者の言うことを聞かず自分のことばかり主張するものは、
 |怪物《モンスター》と呼ばれるのですよ。
 やってることに欠片も可愛さがありませんからね」

 邪神の全身がわなわなと震える。
 もはやボロボロのアウターが風に揺れれば、その中から何本もの細い……、
 荒れたシミだらけの腕が飛び出してくる。
 その爪先のネイルも傷だらけで。

「消えて下さい、可愛いの基準に掠らぬ怪物。
 貴方がこの地から消えるなら、可愛い悪戯と称してあげてもいいですよ」
 優しい声……丁寧な言葉。
 最後の宣告、それでも――この笑顔は、怪物への情けなのかもしれない。
 変わりもしない、そういう過去の残滓だと知っていても。
 "やっぱりごめんなさい"、そう言える選択を残すような。

 邪神の腕は止まらない。
 その言葉で……止まることもない。かわいい、そう答えさせるのが目的、存在する意味なのだ。だから……。

「ここには強いお味方がたくさんいらっしゃいますから。制圧射撃がてら攻撃しているだけでも充分でしょう」
 言葉の時間は終わった。
 例え改善されることもない、邪神に真摯に語りかけ続けた気さくなおっさんはアサルトライフルを構える。
 いかなる危険の中でも、ここまで指をかけなかったライフルのトリガーに指を添えて。

 突撃銃のトリガーを引きながら、二三夫は走り出す。ここから先はゲームフィールドだ。
 軍人の構えとは少し違う構え。スポーツライフルだからこその動き。

 ユーベルコード、バトロワ風拠点防衛・参――対象全員への自動攻撃。
 邪神のあらゆる部位を対象にして……撃ちながら走る。

 邪神正面、腕を伸ばしてくる空間はロング。
 普段飛び交う弾に比べれば対象は大きく、それでいて遅い。
 廃墟の残骸、バリケードまでの距離を考えても、かなりの時間引き付けながらヒットを稼げる。
 腕は常に邪神を狙い……二三夫は動き続ける。

 ロングを走って……敵のネイルの指が開く直前に、廃墟の残骸のバリケードへ転がる。
 物陰に入ろうとも、伸ばした腕のライフルは常に敵を向き。
 ――半身どころか銃だけ出してヒットをむしり取っていく。

 頭部NGなんてルールはない。邪神の顔に撃ち込まれた攻撃は蓄積し……ヒビを生む。
 当たり前のように攻撃を受け続ける服は千切れ……まるでヒットを伝えるように。
 伸ばした腕が上へと伸びて崩れ落ちる。
 力を失い、視界も召喚も行えない眼球も当然ヒット部位だ。再生を試みて蠢いている部位は完全に沈黙した。

 全ての部位は攻撃を自動攻撃に晒され続けている。

 なんとか抗おうと――邪神は腕を伸ばすが。
 二三夫は適正間合いをパルクールのように飛び越え、転がり……走り続けている。
 廃墟の鉄骨と針金が作り出すブッシュの隙間からも弾は常に撃ち出されてくる。

 ……派手なダメージはない。だが、その蓄積は確か。
 そもそも、一撃で"退場"なのだ。
 重ねたヒットは――もう、何度邪神をこの世界から退場させたのだろう。

 ――パン、と軽い音で当たった弾。
 削り続けたオブリビオンの力を削ぎきる最後の音。
 ヒット。

「かわいい……」
 何かを言い残すように。助けを求めるように、伸ばしたネイルの腕は光の粒になって消滅する。
 オブリビオンはそういうものだ。
 ――存在に意味なんて無い、ただ未来を圧迫し世界を壊す悪だ。
 だが――人はそれに、意味や何かを見てしまうのかもしれない。
 サングラスの下の瞳がじっと……退去する邪神を見つめていた。
 邪神の身体が、粒子になって消え、風に舞い上がっていく。

 ――戦いは終わったのだ。

 それを確認すれば……素早く彼は次の仕事へ向かう。
 面倒見がいい、なんて言葉で纏めてしまうには優しい男。
 おっさんから連絡の通信がグリモア猟兵に入った。

 ―なんだか、色々するらしい。細かいことは分からないけれど、皆を送り届けた後――また来れば良さそうだ。

「それじゃ、わたくしはやることがありますので!」

「じゃ、後で残ってる皆は迎えにくるぜ!」
 そう言葉を返して、巨鳥は翼を振る。

 彼は戦闘中とは違う、なんだか気の抜けた動きで……子供たちと、トレスの元に走っていた。

 ――。
「いやあ、わたくし――」
 優しく柔らかい声は、ちょっと胡散臭い気もする。
 だが、言葉の誠意が響けばUDC案件に関わる隊員達はハッキリと答える。
「了解した。配慮して対応しよう、また必要な引き継ぎは行う……助けてあげてくれ――」

「ええ、お任せください。ちゃんと同行致しましょう」
 微笑む二三夫。
 今回のUDC案件に巻き込まれた子供達……それは彼が皆助け出したのだから。
 子供たちの事情は、彼のユーベルコードが知らせてくれた。
 だから……彼は、本当に子供たちの救いの手になれる。

「あっ、これ!これなんですけど……食べられ、そうですかね?分析……」
 思い出したようにポケットに突っ込んでいたお菓子を、UDC組織の関係者に手渡す。
 笑顔を浮かべて。

「ええ?……ああ、分かりましたよ……」
 彼らは微妙な顔でそれを受け取った、らしい。

 さて。
 時は変わり、場所は変わり。
「胡散臭いおっさん何なのよ!」とか「はぁ!?何いってんだおっさんよぉ!」なんて怒鳴られたり。
「……関わらないでください」とか「迷惑です」とか冷たくあしらわれたり。
 沢山の面倒が降り注いでも――柔らかな笑顔のおじさんと話せば結局。
 最後は「助けてくれてありがとうございました……そうですね、おっしゃるとおりです」、
 なんて泣きながら親達に頭を下げられる。
 筋の通った温かい言葉は、被害者たちも一人残らず……"過去"に置き去りにしなかった。

 もちろんUDC案件は処置がある。記憶処理だ。被害者が、本来の生活に戻れるように。
 その生活が、ちょっとばかり良くなるように……と。
 おっさんは細かく組織に子供たちのプロフィールと出会って話した親たちのプロフィールも伝え。
 その先の暮らしを良くするアドバイスをしたそうだ。

「袖振り合うも多生の縁。偽善者も素敵な生き方でしょう?
 ……ついでにこちらで、トレスさんの整備も出来ませんかね?」
 彼は、そう告げながら解析されたグミを受け取ると。
 ひょい、と放り投げて咥えると。優しい笑顔で笑ったのだった。

 ――目ん玉かわいいですね。
 もちゅ、と……ポップな目玉のグミを舌の上で転がしながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年01月28日


挿絵イラスト