福を引き寄せる末に
●歳末商戦
おつかい、というのはよいものでる。
少なくとも面倒な、忌避したいものではない。巨大なクラゲ『陰海月』にとってはそういうものだった。
なぜなら、おつかいをするとお小遣いが貰えるからだ。
別段お小遣いに困っているわけではない。
あみぐるみは幸いに対価をもらっている。材料費が出れば良いや、と思っていたが、そうもいかないのが世の常である。
技術力というのは金銭に正しく換算されなければならないのだ。
それは自分のためである、というわけではない。
巡り巡って自分のためにもなるけれど、他のあみぐるみを品物とする者たちのためでもあるのだ。
と、脱線しかけた思考を『陰海月』は戻す。
おつかいはお野菜とお肉、あと『玉福』のキャットフード。
メモに視線を落とす。
買い物袋の中はしっかりとメモに記された品物を購入している。触腕で指して確認。
お野菜、人参、じゃがいも、キャベツに白菜、ヨシ。
豚肉、牛肉、ヨシ。
キャットフード、ヨシ。
「ぷっきゅ!」
それに加えて、今日は遂に『歳末福引』が引ける。
10枚集めることで一回抽選することが出来るのだ。
所謂補助券というやつだ。
「お、いらっしゃい。10枚集まったかい?」
「きゅ!」
商店街の仮設テントの前にやってくると係の人が手を差し出す。そこに補助券を手渡す。
「確かに。さあ、よいのが出るといいねぇ」
「ぷ~きゅっ!」
ガラガラとガラポンくじが回る。
からん、と乾いた音を立てて出てきたのは薄緑色の球。
白なら多分スカ。粗品というティッシュと交換だ。
金色ならきっと特賞とか一等だろう、
けれど、薄緑色?
「きゅ?」
「おっ、よかったね。4等賞だ。こっちの中から好きなのを一つ選んでおくれよ」
示されたのはワゴンの中にある多くの玩具だ。
「きゅ!」
その中から目ざとく見つけたのは『幻想シリーズ限定Ver. キャンプ! クラゲ』だ。
こんなシリーズも在るんだ、と関心仕切りである。
確かに一等賞じゃあないけれど。
それでも『陰海月』はご機嫌だった。
「きゅ……」
あ、でも、と思う。
おそらく年始は例年のことを考えれば大いなる戦いが始まる頃合いだろう。
これは世界の危機を救うまでお預け~……と思っていたのだが、思いの外早く組み上げる機会が巡ってくるとは、『陰海月』は思いもしないのだった――。
成功
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