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鏡は真実を写さない

#UDCアース

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#UDCアース


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「それじゃ、みんな、聞いてくれ……作戦……」
 いつものように、木箱に飛び乗って目線を揃えて話す鳥の少年。
 しかし、歯切れが悪い。

「なぁ……オレさ」
 眼に光がない。死んだような顔。
 顔をくしゃくしゃにしながら、あめ(召喚獣『始まりの雨』・f42444)は声を絞り出して叫んだ。

「オバケ怖いんだよォ!!」

 ……皆は察する。
 あっ、予知夢にオバケが出てきて怖かった奴だ……と。

「……目標は、UDCアースの暗い家。二階建ての家で、階段の上の左の部屋にある三面鏡。
 ここで怖いことになって、飛び起きちゃった……。
 最後まで予知を見られていないかも……でも、鏡はオブリビオンだ。
 感覚的で確実ではないけれど、それ以外にも"居る"と思うぜ」
 困った顔で唸りながら話を続ける。

 怪談に怯えながら、怪談を話す小学生のような雰囲気。

「どの部屋も変な声するし、うめき声するし、気配がするし、全部ダメだよ、あの家!!!」
 ピィー!と自分の話に驚いて、叫び声のような鳴き声をあげる。
 ビビりやすい――そう……勇者の翼とてデビルキングワールドの出身、びっくりはダメなのだ……。

「家と……カガミを調べて、オブリビオンなら|対処して《ぶっこわして》欲しい」
 作戦を伝えれば、心に少しだけ余裕ができる。ようやく、グリモア猟兵の顔になる。

「……怖いモノもちゃんと話すぜ。
 影みたいな人の形をした黒い固まりが、そこらじゅう歩き回ってる!そいつらは何してるか分かんないけど!
 叫び声や物が割れる音も聞こえるんだ。一番怖いのは笑い声!女の人の笑い声が聞こえるんだよ!
 絶対オバケだぞ!」
 やっぱりダメだった。両耳を翼で塞ぐ仕草。ぶるぶる、と大きく震えるのが分かる。

 呼吸が荒い。本当に苦手そう……。
「夢の流れは、オレがさ。それらと一緒に一階を回って二階に行く夢。
 勝手に身体が動く感じで、無理やり引っ張られるみたいな……!」

「一階は玄関から入って、和室、キッチン、トイレの前を通って和室、そして階段って順番に歩いていく」

「オバケみたいなやつらも同じルートだ。UDCアースでの作戦だから、これは守ったほうがいいと思う。
 オレを召喚するルールがあるみたいに、あの世界のオブリビオンはおまじないやルールを守ることが多い。
 オブリビオンを見つけたり、あぶり出して倒すヒントになるはずなんだ」

 深呼吸して、何とか話を続ける。
「それで、二階の鏡に辿り着くと。影は頭をペコペコ下げ始めるんだ。
 その影たちがさ、何か小さな声で呟いてるけど、怖くてよく覚えてない。
 大きさは、この木箱に乗ってるオレくらい。人間の男の人くらいの大きさの影だよ。
 そして……突然泣き出すんだ」
 怖いだろ?と引きつった顔で付け加える。

「で、でも!この夢の間、ずっと聞こえてた歌は覚えてるぜ!覚えておいてくれ!」
 小さな子供が楽しげに歌う、そんな声色を真似る。童歌、とでも言うべきか。

「うそつき、うそつき、おかあさん。
 おかあさんなんて、いないじゃない。
 いなくて、さみしい、それならば。

 じぶんをみてみて、ふこうかも。
 だからおしえて、あしたのことを。

 おしえて、おしえて、かがみさん。
 だいじなひとと、あえること。
 あしたからずっと、いっしょ」

 歌い終わればまた、涙目に戻る。
「嫌だああ!絶対ダメだ、オレ家の前行くのも嫌だ!でも頑張るからな!」

 こほん、と咳払い。大事なことを伝えようとする顔。
「それとさ。二階の鏡、オレ、ここにいる皆の顔が見えた」
「で、鏡の中から言うんだ。……連れてきたな。お前のせいだ。うそつき。ここには何もないのに……って」
 苦笑いして、ゆっくりと話す。

「そうすると。女の人の声がするんだ。こわいね、こわいね、みんながせめる、たすけてあげるって」
 ――顔つきがキっと鋭くなる。
「だからオレ、その声に答えたんだ。皆はそんなこと言わない。
 "何も無くて良かったじゃないか!"って言うんだって」

 あめは頷く猟兵達に、笑顔で嬉しそうに頭を下げる。

「女の人の声はどこかで聞いたことがあった。でもさー、オレが忘れちゃうくらい昔から知ってる人なら、
 "何やってるの!良い子にしたら怒られちゃうわよ、しっかり悪い子しなさい"、
 そう言うに決まってる」

 UDCアースの良い子とはちょっと違う、悪い子を推奨する世界の出身。
 オバケにはそんな世界、想像も出来なかったのかもしれない。

「たぶん、あの家に呼ばれた人たちが、鏡に騙されて、
 邪神ってやつを呼び出すイケニエにされちゃってるんだと思うんだ」

「だから!」
 デカイ声。
「今回の作戦!家を調査して!鏡とかオブリビオンを退治して!この夢二度と見ないようにして!」

 よく頑張ったな、後は任せろ、そんな猟兵達の言葉が聞こえた。
 あめは、満面の笑みで腕を掲げて、
 「任せたよ!信じて待ってる!家の前で!ゼッテー怖いから入らないから!」
 元気に泣き言を返す。
 さあ、出発だ。小さな鳥獣人は綿雲を纏いながら、部屋いっぱいに翼を広げた巨鳥に姿を変える。

「さっさとオレの背に乗って、なんとかしてきてくれ!ゆ、勇者のちゅばさ!目的地はUDCアース!」
 猟兵達を送り届けるため、翼が開く。ちょっと前口上を噛んだけど。


日向まくら
 シナリオ2作目です!
「呪われた家にある、怪しい鏡が何かやってる!
 こいつも敵だけど、その親分が居るんじゃないか!?」
 というシナリオです。

 ホラー描写も致しますが、グロテスクな描写は避けます。
 和風怪談テイストでちょっと怖い!
 ですが、戦って倒せる化け物という形で安心してご参加ください!

●第一章
「この家、幽霊が出るんだって!」「二階にある鏡は未来を写すんだ!」
 みたいな怪談がある、いわゆる呪いの家の探索です。
 (怖がるプレイングで成功率は下がりません!叫んでくれて大丈夫です!)

●第二章
 二階にある呪いの鏡との戦闘になります。
 ギミックとして「グリモア猟兵の姿になって」という能力を使う鏡ですが、
 うちのトリことグリモア猟兵は「怖がって絶対に家に入らない」と皆知っててOKです。

 ゴキゲンに叩き割ってください!

●第三章
 第一章時点で猟兵は知りません。ですので以下はプレイヤー情報です。

 三章では、二章で砕いた鏡の破片から「概念系の女性型邪神」が現れます。
 精神攻撃、「過去に繋がりがあった女性」(母や妹、友人、恋人など)
 の記憶を改ざんして傷跡に変える精神攻撃をする相手です。記憶がない場合も、
「心の隙間に欠片を突っ込んで、そんな幸せな記憶があった。
 しかし具体的な顔が思い出せない」
 のような演出を行います。

 メンタルぐわー!でも負けない!みたいなロールや、効かないぜ……!とか、抗ってみせる!とか。
 精神攻撃相手を突破するロールで遊べる章になります!
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第1章 冒険 『お化けが出ると噂の館』

POW   :    お化けなんて怖くない!正面突破だ!

SPD   :    お化けに見つかったら大変!俺は床下や天井裏を行くぜ!

WIZ   :    お化けなんてバカバカしい!…おい、もう帰ろうぜ…?

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ベティ・チェン
「…|貴族《ヴァンパイア》の、手下」
影を見た瞬間
一瞬だけ鼻に寄るシワ
第四層の恐怖が
あっという間に怒りと嫌悪に塗り替えられる

貴族がいるから
隠れ住まなければいけなかった
ここは貴族の手下だらけだ

嗚呼
壊してしまいたいなあ
表情も速度も変えず
言われた通りの順序で部屋を回る

今すぐブッ壊したいなあ
手が滑ったって言ったらダメかなあ
ダメだろうなあ
依頼は完遂してこそだもんなあ

生霊かな
死霊かな
空間記憶の投影かな
どうしたら効率よく消せるかな

「依頼を、受けた理由?」
笑う
「ボクの、記憶を。サルベージしてくれるかも、しれないから」
顔も思い出せない家族
その記憶も
ボクのものじゃないかもしれないけど

「会うの、楽しみ」
虐殺計画を
練る



 家屋――いや、屋敷。

 ベティがそこへ踏み込めば、予知にあった影はすぐに姿を現す。
 人の形をした黒い何か。

「……|貴族《ヴァンパイア》の、手下」
 暗い世界の記憶の断片が、胸に残る棘として顔に浮かぶ。
 怖い?――いや、憎い。

 何も知らないこの世界の民達は、悪霊だとか幽霊だとか、呪いだとか。
 言いたい放題に言う"怪奇現象"。
 好き勝手に想像して、話を作って……怖がって。喜んですらいる。
 それは、知らないからだ。
 結局、怯えたって「そうはならない」から聞いていられる怖い話。

 例え民がこの場に居たとして、彼女の顔から想いを読み取ることなんて出来なかったろう。

 予知が伝えた順序を守って、ベティは進む。

 もちろん……黒い影もその道を歩いている。
 影は彼女を気にすることもなく、ただ……動いている。

 キィィィ!と何処かで"扉"が軋む音。

 貴族、支配者――。
 ダークセイヴァーのそれらは、怪談なんてものとは違う。
 住むのも生きるのにも――隠れるしかない。
 往々にして、奴らは霧や蝙蝠、影を眷属として侍らせる。
 人を支配する監視者として、自らの目の代わりに放つものだ。

 ここは貴族の手下だらけだ――

 キィィィ!と再び"扉"が軋む音。

 彼女は心で想いを転がしながら、歩き続ける。
 畳の上、そしてフローリングのキッチン。

 影が視界に入るたび、その思いは回る。
 ――壊してしまいたいなあ。

 表情も変わることはない。

 ――いますぐブっ壊したいなあ。

 猟兵としての任務を淡々と遂行し、歩く。
 言われた通りに部屋を抜けていく。
 前にも後ろにも例の影。

 ――手が滑ったって言ったらダメかなぁ

 依頼は完遂してこそ。ダメだと自分を納得させる。
 廊下を歩く。

 遠くで、キィィィ!と"扉"が軋む音……。

 ――生霊かな、死霊かな、空間記憶の投影かな。
 影を見ながら、猟兵として彼女は分析を始める。
 どうしたら効率よく"消せる"かと。

 歩く。もうすぐ、最後の和室。

 ――館の前で、怯えながら巨鳥が、
「こんな依頼受けるのすげーよ!なんでだよ、めっちゃ怖いし」
 とか騒いでいたっけ。

「ボクの、記憶を。サルベージしてくれるかも、しれないから」
 そう答えた。
 顔も思い出せない家族……例え引き上げても、
 それがボクのものじゃないかもしれないけど――。

「忘れてること、思い出すためなのか?
 オブリビオンなんて嘘つきだよ。信じちゃだめだぞ」
 "それに怖いから信じないぞオレは"と付け足した鳥に、笑ってやったっけ。

 キィィィ!!――聞こえてくる音。
 ベティは気づいた。階段の前で。

 繰り返し鳴っていた音。
 こんな音がする扉"どこにも"ない。

 洋館で響く扉の音のような。UDCアースで聞くには違和感のある音。
 この乾いた扉の響きはダークセイヴァーの。
 この世界へ滲み出したオブリビオンが、そんなものをどうやって真似る?
 知りもしない、経験もしていないことを?

 彼女は黒い影を凝視する。
 ――情報屋見習いってのは洞察力も想像力も、記憶力だって優れて繋がるもの。
 脳内でパラパラ、と知っている事が繋がっていく。

 嗚呼。
 ――こんなものを見たら、人は何かを考えてしまう。
 そして。
 ――"そんな音がしたら"っていう未来の予想や無意識を拾って、再生しているだけか。

「会うの、楽しみ」
 扉を開く音。貴族が来る音。手下が入ってくる音。恐怖の再生……|否《それはちがう》――

 ――扉から入って来るのは、ボク。怖がるべきは、キミたち。
 虐殺計画を、練る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐倉・理仁
オバケ? あー、よくいるよな……変な家の前とか。

冗談は置いといて、ここは死霊使いの出番だろ、任せてみ。こんな術でも、役に立つ。

こーゆー時はビビったら負けだ、ガンドコ進んで何でもズンドコ触って調べてみよう。『第六感』
実際出会うのがオバケなら俺の問題にゃならねぇ、俺に操れないならやっぱりオブリビオンなだけだ……あ、それは危ねぇわ。

予知ん中では鏡が写して見せるものは、嘘なんだろ。どんだけイイ趣味してるかは知らないが、それが分かってりゃあ。家が倒壊でもしなきゃ大丈夫だろ、たぶん。

亡霊だかなんだか知らんがね、お前らみたいな夢見の悪い奴らは邪魔なんだよ。とっとと消え失せな『呪詛』



「オバケ? あ~、よくいるよな……変な家の前とか」

 いわゆる冗談――
「ピィ……」
 予知夢のフラッシュバックに目の光が完全に消えた鳥。

 転移先――着陸する位置が目的の家から凄く遠い。
 ケータイで撮影して拡大したら分かるんじゃない?くらいの場所。
 猟兵達が潜入の為に、結構歩かされたのは間違いなく彼のせいだ。
 さて、ようやく辿り着く。

 所謂UDCアースの一般的な家の玄関を開け、躊躇いもなく理仁は中に突入する。
 ――こーゆー時はビビったら負けだ。

 突入すれば、すぐさま下駄箱の扉を開ける。
 ガンドコ進んで何でもズンドコ触って調べる、その気概でバン、と。

 UDC探索のプロは、心が強いのか、それとも好奇心なのか……進むし触れる。
 潜伏しているUDCが活性化する条件。
 ――それは、相手の罠に嬉々として触れること。
 罠やヒントの目星をつけて、触ってみる。
 超自然的な物を感知する感覚は、生まれつきでも、経験の悪寒でも明確に力を示す。
 第六感が囁いた事は"確か"だった。

 開いた下駄箱の中。
 何もない。
 ……何も、ないのだ。
 乱雑に散らばった汚れた靴、片方だけしかない子供のスニーカー、地に濡れたハイヒール。
 そんなものはどこにもない。ガラガラ、何もない棚。
 "ゲームでプレイヤーが触ると想定されていない場所は、作り込まれていない"、
 そういうやつだ。

 そのとき、気配。
 背後で黒い影が生まれ……家の奥へと、ゆっくりと歩いていく。

 振り向いて、それを見つめて理仁が呟く。

「実際出会うのがオバケなら俺の問題にゃならねぇ――」
 ――作られた黒い影。人型に見えるようにモヤモヤと動いている。
 死霊ではない。
 好きなゲームは往々にして答えをくれる。
 これは、表示の負荷を抑える為に"それっぽく"作られたエフェクト。

「俺に操れないならやっぱりオブリビオンなだけだ……」
 ふぅ、と小さく息を吐く。
 ――あ、それは危ねぇわ。

 入り口周囲の探索を終えて、予知のルート通りにとりあえずは進む。
 影達が向かっていく和室の隣には、扉が半開きの洋室っぽい場所がある。

 ズンドコ触っ――
 開かない。そもそも、何か透明の壁のようなものがある。
 ここは"雰囲気作りで入れません"、そんな感覚。

 遠くでガシャァァン、と皿が落ちて割れる音。キッチンの位置。
 誘っているような……何かのイベントの予兆のような……。
「皿か……。つっても、女の声なんて聞こえねえ……」

 夢見では、もっとオバケ屋敷のテンプレみたいな話だった。
 怖がりの鳥が話したのは、盛りだくさんの心霊現象――。話と食い違いがある。
 思考を巡らせながら、黒い人影を横目に家財を触り。
 壁のシミを見て。

 キッチンへと辿り着く。

 ――皿なんて、割れてない。
 流し台に乱雑に積まれているだけ、落ちそうにもない。

 その脇に唐突に置かれた、写真立て。
 父と子供と母に見える。ただ、母の顔だけが黒いペンで塗りつぶされている。
 "明らかな視線誘導"。

 彼は気づく。
 入り口からの探索、聞こえる音や、蠢く影……全てが"よくあるホラーゲームの屋敷パート"だと。
 グリモア猟兵の予知夢は、もっと派手なお化け屋敷とホラー映画の怖さの詰め合わせ。

「感覚や無意識から来る、期待や恐怖をそれっぽく作ってるのか……?」
 怖がりにはオバケの家に。恐怖なく冷静に家を調べれば、この前遊んだゲームっぽい家。

 ――予知の中ではこの後、鏡が出てくる。そいつがオブリビオンだ。

 オバケの家なら、もうUDCは人を襲ってくるはず。喰らうために。
 しかし、明確に「道」を示してくる。"想像"を再現するような家の現象。

 怖がる奴は帰る、怯えて帰る――じゃあ、此処に何かを求めて来たら。
 俺達は、グリモア猟兵からオバケの話を強調して聞いてきた。

 あいつが伝えた歌……UDCの中には、怪しげな儀式や歌で人を誘う者が居る。
 アイデアが、情報と探索と考えをしっかり繋ぎ合わせた。

「呼んでるってことか」
 鏡に頼らせ、鏡に甘えさせ。求めた何かの景色で二階へ誘われ、そこで何かを奪われる。
 きっと、その思いが強いほうが"捧げ物"になる。
 鏡だけじゃないオブリビオン……邪神、後ろで復活を狙うもの。

「予知ん中では鏡が写して見せるものは、嘘なんだろ。
 どんだけイイ趣味してるかは知らないが、それが分かってりゃあ。
 家が崩壊でもしなきゃ大丈夫だろ、たぶん」
 ――おっと、これこそ危ねぇわ。
 苦笑いして足を進める。

 眼の前には、例の二階への階段。
 黒い影達はそこを上に歩いていく。

 どん、と一歩階段に足を踏み込む。

「亡霊"ごっこ"だかなんだか知らんがね、お前らみたいな夢見の悪い奴らは邪魔なんだよ。
 とっとと消え失せな」

 死霊術師の言霊。
 辺りの温度が一気に下がる。
 本当の『呪詛』が、階段を一歩先に登って行く。冷たい風がゆっくりと階段を冷やし、上へ上へ。
 それに触れた影が霧散し掻き消える。

 何かの気配が強まっていく――放たれた呪詛が、オブリビオンに噛み付いた。敵はそこにいる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒江・式子
仕事柄、この手の雰囲気にはもう慣れました(死んだ目)
昔なら人並みに怖がったでしょうけど
今は……ちょっとした恐怖心程度は茨が喰ってしまいますしね
大事になる前に片付けてしまいましょう

今いるこの家も、学生時代に肝試しに行った建物も
邪神だの何だのが絡む場所の雰囲気など大体どこも似たか寄ったか
予知通りのルートを淡々と進みます
一応最悪の事態を想定して、拳銃を直ぐに撃てる状態で構え、足元からは影の茨を広く延ばしておきます

(かつて肝試しの場所を決めたのは自分自身
結果、その建物は邪教集団の施設であり、自分達は儀式に巻き込まれた
UDC組織の介入によって救助されるも、その後社会復帰できたのは式子一人だけだった)



「仕事柄、この手の雰囲気にはもう慣れました」
 彼女の目には光が無い。

「マジかよ!うぇぇ……」
 目的地が点に見えるほど遠くに転移して、猟兵に平謝りしている鳥が答える。
 同じく目に光はない……ま、これは怖がりすぎているだけだ。

「昔なら人並みに怖がったでしょうけど――」
 任務に向けて歩き出す式子を、羽毛をボンボンに膨らませて見送る巨鳥。

「今は……ちょっとした恐怖心程度では茨が喰ってしまいますしね」

「凄い技があるんだな……!」
 家に入ってすら居ないのに、正気が失われつつある鳥が頷いている。
 ――。
 なんだか、冷たい感じがする。
 オレが頼りないせいかもしれない。がんばらなきゃ……。
 しょぼん、あめは頭を垂れた。彼女の気なんて露知らず。

 歩みを進め、式子は家に辿り着いた。
「大事になる前に片付けてしまいましょう」
 エージェントの顔。
 ジャケットを整えてから扉を開き、家に乗り込んでいく。

――中から、冷たい風が吹き出してきた。

 足元の影が、ズズ……と反応を始めた事に、意識を調整する。

 今いるこの家も、学生時代に肝試しに行った建物も――
 邪神だの何だのが絡む場所の雰囲気など、大体どこも似……

 茨が。何かを求めて蠢くのを感じる。
 胸の中で揺れる言葉。学生時代の肝試し。
 強い感情の源泉。
 それを……封じて掻き消す。
 つまらなそうに、"それ"はまた、制御下に戻った。

「こういう現場は、どこも変わりません」
 手慣れた動きでホルスターから拳銃を引き抜き、セーフティを外す。
 彼女はもう、冷静だ。
 静かに、正確に任務に向かう顔。疲れた表情はいつもの事で、問題はない。

 翳喰らいも彼女に従う。
 ――隠者の瞥見。
 黒い茨は四方に広がっていく。感情を求め、ズルリズルリとその身を揺らしながら。
 家中を視て、感じ、聴く。五感の共有は1階の全景を式子に伝えた。

「違いますね」
 こぼれた言葉。
 中へ進む前に吐き出された言葉。

 黒い、影じゃ、ない。
 茨が捉えた家を歩く"例のオバケ"。
 予知夢で泣き叫んだ鳥の少年が言う"黒い影"、もやもや。そんなものは1体も居ない。

 |制服《ともだち》?

 ――エージェントの経験が、それ以上のアイデアのひねり出しを拒絶する。
 思考を一旦停止し、冷静に感情をコントロールする。

「やにこーいややな……」
 ばちん、と目を閉じてから開き直す。
 割り切った振る舞い。
 自らを知るものは、その傷跡を触る攻撃にも強いものだ。

「さて、進みましょう――」
 歩き始める。
 和室を抜け、キッチンへ。
 オブリビオンの痕跡を目星をつけて探してみるが、
 気になるものはない。

 いつも通りの光なき目が、屋敷を見通し。
 その目を共有する黒い茨達もまた、異常は伝えてこない。

 危険を警戒しながら――"必要以上の理解をしない"ことを徹底する。
 意識の分断、無意識のコントロール。
 途端、見える世界が変わっていく。

 いつか見た制服の人、今やそれはただの黒い影。
 怖がりの鳥が必死に説明してくれた、それ。

「そういうことですか」
 自らの茨へ目を向ける。
 ネガティヴな感情を好んで喰らう……感情に反応する。

 この屋敷の影は、それに近い……意識を変えれば、動き回る影の形も変わる。

 UDCは心理や精神に強く作用してくる物が多い――情報を得ることは危険に直結するのだ。
 しかし、彼女は数々の現場で仲間を支えてきたエージェントであり、強力なサポーターだ。
 この場での分析が戦況を大きく有利に展開することを知っている。

 敢えて。
 試す。

 ――「~~~!」
 声にならない声。でも知っている声。玄関から聞こえる悲鳴。
 ――「来てくれたんだ!待ってた!」
 嬉しそうな声。知っているような声。階段付近で聞こえる。
 ――「ずっと、怖かったんだよ~?」
 知っている声だ。でも……そんな言い回し、してたっけ。階段の上で聞こえる。

 影が歩き回っている。
 制服を纏う。知っている……だって、その制服の学校に居たから。
 影が呟く。
「へぇ……いいね、肝試し!怖いけど行ってみようよ」
 そんな返事だっけ?影の顔は揺らめいて見えない。

 脳の中で情報を閉じ込めている牢獄を開いていく。
 逃してよい情報。
 決して繋げてはいけない情報。

 ――帰ってこれたのは自分だけだった。
 何から?

 ――ガシャン!と脳内で扉を蹴り飛ばして閉じ、|情報《かんがえ》を止める。
 リスクとメリットの瀬戸際、境界線。

 このやりとりはUDCとの戦いでは必ず起こる。
 それに"勝つ"のが、UDCから人々を守る者なのだ。

 当然、式子は勝利する。

「――敵UDCは意識や先入観、想像を読み取って虚像とそれに伴う音声を生成。
 本体と想定される二階のオブジェクトへ誘導していると考えられます。
 生成される虚像からの攻撃・汚染は認識出来ません。
 しかしながら、精神状態に強い影響を与え、
 何らかのUDCの活性化を促している可能性があります」

 懐から取り出したデバイスへと情報を告げる。
 屋敷の全容も同時に伝える――。
 デバイス機器を扱える猟兵達には1階の情報が正確に伝わっただろう。

 彼女も歩む。銃を構え、茨を張り巡らせて。
 階段の前で、その先を見据える。

「――突入します」
 もはや、蠢く影もただの黒い煙。
 グリモア猟兵が泣いて叫んだ影のオバケを演じることすらできない。

 茨の群れが二階へと滑っていく。
 その先を捉え、オブリビオンを滅するために。
 冷静な声と感情を殺す顔の下で、誰かの為と温めた心が強い力を生み出していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

白霧・希雪
「この依頼は…他の猟兵に任せた方が良かったかな…」
影を見て、少し後悔する。

「ホンモノ?それともただの記憶のコピー?」

そこに立つ影は、かつて自分の殺した、殺してしまった人物にそっくりで…
恐怖、後悔、そして、不快感。

「もう彼らの魂は解放した。ここにいるはずがない」

次々と現れる影を、淡々と呪いの炎で追い払い、早く終わらせてしまおうと、次の部屋へ急ぐ。

「師匠の言うとおり……私の進む道は大変なものになるらしい。」

「もう、深く考えるのもやめよう」

少しだけ勢いの増した黒い炎が、次々と現れる影を燃やし、怨嗟の声を聞く。
もう動揺することはない。



「この依頼は……他の猟兵に任せたほうが良かったかな……」
 希雪の後悔が漏れたのは、その屋敷に入ってすぐ。
 足が玄関から進まない。

 蠢く黒い影が、情報のとおりに歩き回っている――はずだった――。

 影。
 扉を開けて、玄関から踏み込んだ時に彼女が見た景色には、影が居た。
 家の奥へと歩く影が居たはず……だ……。

「――ホンモノ?」
 顔に苦しみが浮かぶ。
 深く重い、彼女を形作る沢山の想いの根源。

 影なんかじゃない――。
 確かに、それは自分が"殺してしまった"人。

 彼女のせいじゃない。それは、呪いのせい。
 彼女を蝕んだ呪いは――彼女ではなく、彼女と関わる者の命を奪うものだった。
 呪いは、世界にいくつも存在する。
 世界ごとに。立場ごとに。

 ただ、多くは被害者自身の命や力を奪うもの。
 ――自身ではなく周囲に作用し、その心を蝕む呪いは――どれほどの苦痛なのだろう
 
 助かった後も。想いは深く深く心に根付いていた。
 自分が殺したのだと、贖罪として。

「それともただの記憶のコピー?」

 溢れ出してくる恐怖。
 手を繋いだ人の最期。
 優しく微笑んでくれた人の最期。
 共に歩んだ人の最期。
 救おうと手を伸ばしてくれた人の最期。
 最期。
 最期。
 最期――。

 溢れ出す後悔……苦しみ。優しさが牙を剥き、自分の心へ噛み付いてくる。
 不快感が、その牙を払い除ける。

「もう彼らの魂は介抱した。ここにいるはずがない」

 鈴の音のような美しい声が、静かに屋敷に広がった。
 顔つきが精悍に整う。
 止まっていた足が、一歩進んだ。

 そして現れる影――それは、友のような。
 ゴゥ――黒い呪いの炎が影を焼き尽くす。絶命の声、でも噛み合わない言葉。
「ひさしぶり!」
 優しい声をあげながら、影は炎に消える。

 現れる影――それは、家族のような――。
 躊躇いもない。
「おかえり!」
 声をあげる優しそうな男性に見える影は――燃え尽き、消え失せる。

 淡々と彼女は歩いていく。
 和室の影を焼き――キッチンを回る影を焼く。

 後悔。苦しみ。かつての記憶。
 それを模す……それを焼く苦痛。でも。
 彼女の贖罪の意思は、そんなまがい物の影では揺らすことすらできない。

「師匠の言うとおり……私の進む道は大変なものになるらしい」
 先へと急ぐ彼女の口からこぼれ落ちた言葉。

 ――過去の後悔の姿で、空っぽの言葉を呟く。傷を抉るには、敵は彼女を知らなすぎたのだ。

 贖罪の意思は、殺した恐怖より真っ直ぐに未来を見つめている。
 だから。
 影が写したのは、死に震える影ではなく。
 覚悟と思いの根本にある、嬉しかった記憶なのだ。

 敵たるUDCは、その記憶を見間違えた。
 甘える心。過去への執着。やり直したい。再び出会いたい……そんな。
 自分が求めている、邪神復活の足掛かりになる感情なのだろうと。

 彼女が、ただ救いを求めていると錯覚し、自らの力にしようと手招いたつもりだった……。

 それは誰かに救いを求める心ではなく。
 自分自身で切り開く未来へ進む強い想い。
 骸の海から染み出した過去は、所詮過去だ。
 過去を乗り越える心には到底敵わない。

「もう、深く考えるのもやめよう」
 自らを自らで贖罪と呪い、黒き炎を従える白い少女は、凛と突き進んでいく。
 放たれる呪いの炎は、心を惑わそうと歩き回っていた影を焼き尽くしていく。
 さながら――天へ還すように。
 聞こえるのは怨嗟の声……自らを罰する天使への嘆き。
 
 歩き、燃やして。
 さあ、ここは階段の前だ。

 強い気配が伝わってくる。
 痺れを切らしたオブリビオンが、小細工を諦めたような。
 もう、動揺することはない。
 彼女は真っ直ぐに階段の上を見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『正直者の鏡』

POW   :    無貌は笑う
【広範囲に虹色とモノトーンが混じった光】を放ち、命中した敵を【不運を与える硝子状の刃】に包み継続ダメージを与える。自身が【シナリオ担当のグリモア猟兵に内面含め変身】していると威力アップ。
SPD   :    無謀に嘆く
【鏡に映らない死角に染み出す闇】を放ち、命中した敵を【生命力を奪う光を反射しない刃】に包み継続ダメージを与える。自身が【シナリオ担当のグリモア猟兵に内面含め変身】していると威力アップ。
WIZ   :    無望を憐れむ
【今までの犠牲者の恨みの視線】を放ち、命中した敵を【精神的重圧と不運を与える呪いの声と視線】に包み継続ダメージを与える。自身が【シナリオ担当のグリモア猟兵に内面含め変身】していると威力アップ。

イラスト:唯々

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 一方その頃。

「まだかよ……」
 ため息混じりに、全然見えない距離の目標地点、家を見つめる、巨大な鳥。

 ポン、と羽毛が膨れる。
「みんな、大丈夫か……?ビビって泣いてるかもしれない!助けに……行って……」
 言葉が切れる。やっぱり怖い。
 考えるのをやめて、皆を待つ事にした。

 舞台は戻って幽霊屋敷。
 ビビリ散らかしている、もはや自称勇者の翼を尻目に、猟兵達は順調に2階へと歩みを進めていた。

 影はどうやら、2階にいる存在が生み出している。
 影は攻撃してこなかった。
 その真意は「誘うこと」。

 2階の鏡へ誘い、誰かへの思いを捻じ曲げて受け取り、心を貪る。
 自分の強化の為に……?

 目的は未だ不明。
 しかし、それがいかなる物であれ、オブリビオンかつ"何かを企んでいる"。

 皆が階段を登る。

 2階の和室へと辿り着いた猟兵達が目にしたのは……。

 自分達を此処へと連れて来た、怖がりの鳥の少年へと変身する鏡。

 ……グリモア猟兵が1人。
 三面鏡は何処にもない。
「未来、間違ってるよ!!鏡が本当、だから帰って!」

 ブリーフィングの時の声じゃない。直近に聞いた、どうしようもない声。
 正確に思い浮かべるほど、それは鳥の少年に見えるし、聞こえてくる。

「偽物が出てくる!」
 そう聞いていれば、想像されるのは彼なのだ。
 わかりやすい偽物。

 違和感……。
 もっと怖がるし、腰抜けて動かなくなるんじゃないかな……と……。

 心を読み取って作り出された幻影の怖がり方が物足りない……。
 すぐ、倒すべきオブリビオンだとわかる。
 幻影と本体、鏡を破壊するのがこの場所での第一目的だ。
 ――作戦開始!!

 ……。
 ……。
 ……おっと。

「■■■■だよ」
 声が届いた猟兵がいるかも知れない。
 感じなければ、相手は鳥だ。

 あらあら君は、
 聞こえてしまった?

 あらあら君は、
 探し物……?

 ホントのホント、此処にいるから。
 おいでよおいで。

「■■■■」
 君にだけ話してるんだ。

 鏡は姿を変える。
「私はだぁれ?」

 誰も気づかない。
 誰かが、鳥の少年以外を見てしまったかもしれない、なんてことは。
ベティ・チェン
フィクサーを通さない依頼は
クライアントとの音声チャットを録音してるから気付いた
これは他の人に聞こえる
「ボクの声、だ」

偽物と言う嘘を乗り越える資質がないと贄に足りないからだろうけど
「インガオホー。今日は、キミがサンズ・リバーを渡る日だ」
笑う
「ドーモ、ニセモノ=サン。ベティ、デス。ゴートゥ・アノヨ」
やっと壊せる
自分と似た姿をした誰か

一足飛びに接敵し自分の身長ほどある大剣(偽神兵器)を叩き込む
触れた場所が捻れて爆砕する
「ブッダに会えば、|殺す《サヨナラ》。キミが姉でも、母でも、妹でも、自分でも。会えば、|殺す《サヨナラ》。それが、シノビ」

「|貴族《ヴァンパイア》アトモスフィアが高まった。楽しみ」
微笑



 敵対するのは、グリモア猟兵の姿。
 鳥の少年――そうであったはず。
 しかし――。

 これはクライアントの声ではない。音声は録音している――明確に別人。
 そのシルエットが蠢く。姿を変質させていく鏡。

 声の分析が終わり、ベティは小さく呟いた。
「ボクの声、だ」
 ゆらり、と構えるのはニンジャ。
 ベティのような――ニセモノ。

 鏡は贄を選別している。
 この嘘を乗り越える資質や……逆に盲信する資質。
 なんらかの条件を満たしていない。

 けれど。
「インガオホー。今日は、キミがサンズ・リバーを渡る日だ」
 湧き上がってくるのは、笑顔。
 見事なトウチホーのザナドゥスラング。

 美しい立ち姿で両手を合わせ、湧き上がる破壊欲求からのアンブッシュは行わない。
「ドーモ、ニセモノ=サン。ベティ、デス。ゴートゥ・アノヨ」

 あからさまにニンジャな奥ゆかしいアイサツ。
 しかし、鏡が変じたニセモノはアイサツを返さない。
 シツレイ。
 しかし……このイクサはニンジャのイクサではない。
 この世界のオブリビオンは、シツレイを知らなかった。
 スタリオンイヤーにネンブツ、同じタタミの上だとしても、ザナドゥとは違う世界。
 そのとき、ニセモノは、闇を放った――アンブッシュだ。
 触れれば命を奪う刃に変わる、染み出す闇。

 しかし。
 アイサツを終えた彼女が翔び出す。
 先に仕掛ける、動く……そんな話ではない。疾すぎた。
 ニセモノの闇は、もう届かない。

 一足飛び――その瞬発力、目視は不可能。実際疾い。
 空間を飛び越える縮地のごとく、疾風としてニセモノの懐に飛び込んでいく。
 構えた偽神兵器は巨大な大剣。振り下ろせば、空間が軋む。
 速度も威力も兼ね備えた破壊の一撃が、棒立ちのニセモノに直撃する。

 斬り捨てた、のではない。
 剣が触れた――直撃した部分が。
 歪む。空間ごと捻れたような……圧縮されたような。同時に急激な膨張。
 爆発する。
 木っ端微塵に――触れた場所が爆散する。
 同時に。
 ゴオオオオオオン!
 轟音が響く。
 遅れて聞こえてくる、彼女の移動が巻き起こしたソニックブームの爆発音――。
 カネを鳴らすような。
 重なってもう一度。
 ズドオオオオォン!
 全てを劈く爆音が辺りを包み込む。偽神兵器が巻き起こした破壊の音。
 視界が土煙に包まれ――すぐに晴れる。
 そこには――彼女の姿をした敵など居ない。
 目に飛び込んでくるのは、三面鏡の1枚が粉々に砕け、崩れ落ちた姿。
 ガタガタと動く、蠢く、軋む。何かに"為"ろうとする。
 ――敵の反応は消えてはいない。

「ブッダに会えば、|殺す《サヨナラ》。キミが姉でも、母でも、妹でも、自分でも。会えば、|殺す《サヨナラ》。それが、シノビ」
 彼女は己を惑わす存在を決して信じたりしない様を、愚かなUDCに見せつけたのだ。
 ショッギョ・ムッジョ――奥ゆかしさなど分からない、世界から外れた過去の残滓に。
 彼女は真っ直ぐにハイクを詠んだ。

 空気が変質する。
 敵を倒した解決の傾向ではなく――寄り濃い、異質な気配。示唆されていたもう一つの敵の気配。

「|貴族《ヴァンパイアアトモスフィア》が高まった。楽しみ」
 彼女の微笑みは確かだ。

 壊れた鏡の残骸が、強いオブリビオン反応を示す。
 鏡が写し人や想いを食らっていたのは――奥に控えた邪神を蘇らせる為。

 ダークセイヴァーのヴァンパイアと変わらぬ、骸の海の波長。
 破片の中に……白い、顔が分からぬ女の姿が見える。
 これが、真なる敵だ――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐倉・理仁
おー、鏡はもう叩き割ったんか? いやまだ残骸が居るみたいだな

誰に化けるかと思えばよりにもよってクソビビりのちびっ子……あーいや、グリモア猟兵くんじゃねーの。まさかあんな歩かされるとはなぁ。
……なんだよ、もっとビビり散らかしてくれるかと思ったが、つまらねぇな。本物の方がこう、すごかったぞ。


そう怖い目で見ないでくれよ、まったくどれだけの人を取り込みやがったよ、え? 《骸の香》で『オーラ防御、除霊』
犠牲者の魂が囚われているなら、必ず解放してやる。このふざけた鏡も骸の海に叩き込んでやる。
亡霊騒ぎは終いだ、お前はもう、嘘もホントも何も写せない。【破願一声】曇って砕けて、朽ち果てろ『呪詛』



「おー、鏡はもう叩き割ったんか? いやまだ残骸が居るみたいだな」

 三面鏡の左の1枚は崩れ落ち――床で。違和感のある反射……写しているのは何処だ?
 ――鏡を見つめているのは?いや……鏡から覗いているのは?
 違和感の残骸が視界の隅に散らばっている。

 もしこれが――いわゆるウワサの都市伝説を模すなら。
 一枚が砕ければ力を失うはず。

 だが、これは違う。
 1枚が欠けた所で、その"合わせ鏡"の奥行きはずっと、ずっと続いている。
 その奥に――一瞬、白い女が見えた。
 同時に、空間が巻き付いて捻れ……形が変形するような。ぐにゃり、とした歪み。

 そこに立つのは。

「おい!やばいぜ……!ここは、危ない"です"から、帰る――ほうがいい!危ない!危ないぜ……!」
 最初に化けた、グリモア猟兵。外でブルっている、デカい鳥の……仮の形態。小さな鳥の少年だ。
 言葉の構成がおかしい。
 1枚が砕けた影響か――集めた思いや魂を何者かが喰らい、誰かとして生まれ出ようとしているのか。
 それはまだ分からない。

 分かること。
 "似ていない"。

「誰に化けるかと思えばよりにもよってクソビビりのちびっ子……あーいや、グリモア猟兵くんじゃねーの。
 まさかあんな歩かされるとはなぁ。」

 へぷしょんッ……遥か遠く、くしゃみの音が聞こえた気がした――。

「ここはダメだ!危ないぜ!ここに敵は居ない!罠だ!帰ったほうがいい!オレが連れて帰ってやる!」
 ピィピィと叫びながら、翼のような両腕をバタつかせる。

 しかし――怖がる"目"ではない。
 言葉や動きと、噛み合わない視線。

 死霊術師は、その目を知っている。
 恨み。
 死した後……人々が、世界を歩き続けてしまう理由の一つ。

 助けを請う声が聞こえる。
 騙された――嘘だった。誰も居ない、誰も助けれくれない。
 信じていたのに、本当だと思ったのに。きっと鏡なら助けてくれると思った。
 どうして。

 ふこうだった。
 ふこう――どうして?しあわせだって、たすけてくれるって。

 ――心を壊すため、手に取るように分かるありきたりの悲鳴が聞こえる。
 死霊が、無数の手を伸ばしてくるような。
 助けを求める手で、生者を引きずり込み……その群れに誘うような。
 希望を掴むため、自らを捧げた魂達の辿り着いた結末――無望。
 それを憐れむのは、慈愛か嘲笑か。
 鏡は力を放つ――『無望を憐れむ』と。

 放たれる邪眼。
 所詮――誰かの姿を借りた視線。
 もし、それが"拒絶されたくない相手"からの呪いの視線なら……?
 何にしろ、グリモア猟兵である彼は、この作戦の帰還の為の乗り物だ。失うリスクは大きい。
 ――きっと、人々をそうやって喰らった。
 理仁には手に取るように、その化け物のやり口が分かった。

「……なんだよ、もっとビビり散らかしてくれるかと思ったが、つまらねぇな。本物の方がこう、すごかったぞ」

 へぷしッ……どこかで聞こえる2回目のくしゃみ。
 本当なら、覗いた窓いっぱいに顔が見えるほどデカい巨鳥のグリモア猟兵は……点より小さい。
 ずるずる……と鼻を啜った後……。
 全身の悪寒に「変な感じするぞ!怖すぎんだろ!」と絶叫し羽に顔を突っ込んでいた……。

「そう怖い目で見ないでくれよ、まったくどれだけの人を取り込みやがったよ、え?」
 冷静で、穏やかな声。問いかけるような――悪霊と呼ばれる死霊も、理由があるから悪霊なのだ。
 オブリビオンは骸の海から滲み出した過去の化け物。
 霊もまた、現在に焼き付いた過去が彷徨っているとも言える。
 だから、尋ねたのかもしれない。話しかけたのかもしれない。
 目線を合わせるように、少し屈みながら前に出る。

 ふわり――と漂う香。それは、本当の死の香り。閉ざされた鏡の中で満ちた怨みの香りではなく。
 鏡の化け物ではなく……その奥の。呪いを謳う多くの魂へ向けられた道標。
 纏う意志の力は、その邪眼を通さない。シャリン……と何処かで鈴のような音が鳴る。
 ――正しい死へと誘う除霊。

「犠牲者の魂が囚われているなら、必ず解放してやる。このふざけた鏡も骸の海に叩き込んでやる」
 ハッキリとした声――力のある瞳が敵を見据える。静かに燃える、強い意思が空気を揺らす。

「亡霊騒ぎは終いだ、お前はもう、嘘もホントも何も写せない」
 宣告。そしてこれこそ呪言。
 吐き出された言葉は敵を蝕む――写せない。それは、敵たるオブリビオンの力の源泉の否定。
 中央の鏡が曇る。光を失う。
 |破願一声《イレイザー》――願いや奇跡を踏みにじったオブリビオンへの結末。

 続く言霊。
「曇って砕けて、朽ち果てろ――」
 光を失った鏡に、呪詛が衝撃を与える。
 その全面にヒビが走り……バリィィィン!と爆ぜて崩れて残骸になる。

 三面鏡の中央の鏡が崩れ落ちた。
 同時に――崩れていた破片から……嘆きをあげる魂たちが立ち昇る。
 穏やかな光……浮き上がるそれらを、理仁は見たに違いない。

 ――歪ませられた願いの果てに、訪れた希望は――きっと、彼だったのだだろう。

 眼前のオブリビオンの力は削がれた。

 ……だが、動いている。
 鏡の奥。重く黒く、偽りの暖かさが蠢く。
 その身に宿す神性魔性が警笛を全身に伝えるだろう。
 神性を語る"それ"が――現れようとしていると。

大成功 🔵​🔵​🔵​

白霧・希雪
「これは……」
2階にある鏡を見つめながら苦々しい表情で動きが止まる。

「今までのは……ただの戯れ?それとも…」

「師匠…」

こんな時、師匠なら何をする?私がすべきことは?考えが頭の中を巡り、体は固まってゆく。

「いや、もう迷わないって、誓ったはずだ。」

希雪の雰囲気が変わる。
希雪の体は迷いで硬直している?
もうそれは違う。いつでも動ける、いつでも殺せる。達人の構え。静の臨戦態勢。

希雪は飛び出し、翼を展開する。本気の時にしか使わない独自の戦闘スタイル。3次元空間を自在に動き、追尾する呪いの炎で動きを制限し、大薙刀での最上の一撃を叩き込む。

「もう、壊れろ。粉々に。」



「これは……」
 辿り着いた二階――三面鏡。左と正面は壊れ、既に無い。
 だが――右に写る景色は、何処だ?
 奥へ奥へと続く二階の和室……の中。奥の奥の扉の一つ。
 ゆっくりと顔を見せる――顔?あれは顔?
 白い女性が、微笑んだ気がした。

「今までのは……ただの戯れ?それとも……」
 苦々しい表情で動きが止まる。

 聞こえてしまった声。
 聞こえるはずがない声。
 想像してしまった……?

「師匠……」
 希雪は、呟いてしまった。

 UDCたるオブリビオンは見逃さない。

 怪異や都市伝説にはルールがある。
 どうにも、この世界に滲み出したオブリビオンはそれらに縛られている。
 弱点にも武器にもなりえる、ルール。
 この相手には心の隙間を知られてはいけないのだ。

 力を削がれたとはいえ、それはオブリビオン。
 変身はゆっくりと。ぎちり、ぎちりと空間が軋み……巻き付いて……影に。
 一階で見た影――黒い霧に変わってから。

 "誰"か、になった。
 その構えは――その、立ち姿は。

 希雪の止まった時間を前に進めた"誰"か。
 戦う――それが人から見れば呪いであろうとも。
 呪いの贖罪の為――自身を呪う術を教えた……"誰"かだ。

 今のオブリビオンの力ではこれが限界。しかしながら……心を喰う化け物は笑っていた。
 獲物達に似ているのだから。
 今まで喰ってきた魂の後悔の形。怯えの形。大事なものからの拒絶。
 聞いてしまった、知ってしまった。
 不完全でも――心を蝕める。

 ――こんな時、師匠なら何をする?
 ――私がすべきことは?

 考えが頭の中を巡る。

 それを見て鏡は笑う、"知っているぞ"と。勝利を確信する笑い。

 身体が固まる。足が進まない――踏み出せない。

 鏡は確信した。崩れた、と。
 喰える!ここから……勝利出来る。好機……!

 これは、とてもとても短い時間。
 葛藤と迷いは身体を蝕む。
 動けない、と増長する不安。それは更に身体を縛る。

 猟兵にとって、それは致命的な時間。

 敵は隙を見逃さない。
 ――鏡が化けた大切な"誰か"。それは構える。
 知っている技――のような動き。
 その切っ先から虹色の光が溢れ出し周囲を照らす。
 落ちる光に色は無く――それは白と黒の世界を生み出す。

 偽りの虹色、真実はただのモノトーン。
 希望に彩られた世界の光、掴むならそれは――色なき苦しみの世界。
 ――『無貌は笑う』

 光に触れた猟兵を不運の籠で食らってやると。

 でもね。
 ――弱いだけの女の子が。
 ――過去に縛られて俯くだけの少女が。
 ――翼が折れた力なき天使が。

 こんな場所に、いるはずがないんだよ。

「いや、もう迷わないって、誓ったはずだ」
 響き渡る凛とした声。

 乗り越えた訳じゃない。
 動けない?――もうそれは違う。

 忘れた訳じゃない。
 震えているだけ?――いつでも動ける。

 捨てた訳じゃない。
 また"殺す"の?――いつでも殺せる。

 全部抱えて――進むんだって決めたんだ。

 瞳に宿る意思は、使い手そのもの。
 これは――静の構え。

 虹色の閃光が、希雪を捉える瞬間。
 美しい翼が開く――もう、そこに彼女は居ない。

 狭い空間、恐らく彼女の得意な戦場ではない。
 巨大な薙刀……そして、翼の機動力。そして獲物を追いかける黒い炎。
 本来――それは、広い戦場で生きる力。

 しかし、師匠の教えは場所を選ばない。

 飛び上がった彼女は羽ばたく。その身は、空中を滑るように動く。
 同時に幾つもの黒い炎が放たれ、ふわり――辺りに散らばっていく。

 光を避けられた"誰か"に化けた鏡は、追いかけるように飛びかかった。
 この速度なら掴めると。

 しかし。
 希雪は翼を閉じて壁を蹴る。
 トン、と静かな音。
 緩急が変わる――羽ばたく緩やかな動きから、三角跳びでの急加速。

 敵たる鏡、達人の贋作は、誰も居ない宙に手を伸ばしていた。
 外した……?そのまま着地するしかない。
 ――振り向き、再び希雪を狙おうと踏み出すその時、敵は気づいた。

 "前にしか歩けない"。

 先程放った黒い炎が、まるでチェスの盤面を埋め尽くすように。
 次の一手を"決めさせる"ように。
 火柱と変わって燃え続けている。

 黒い炎を避ける為に、前に飛び出すオブリビオン。

 その時――風が吹き抜ける。黒い炎が同じ方向に靡く。
 眼前に舞い降りるのは、再び翼を開いた天使。
 空間全てを掌握する、翼と炎の連携。

 もはや逃げ場などない。

「もう、壊れろ。粉々に」
 贖罪の大薙刀に力を込めて――振り下ろす。
 冷たく静かな声。
 人々の心を、そして自分の心も。侮辱し嘲笑おうとした敵への言葉。

 全力の斬撃。黒い半月――力と思いの一撃が敵を滅する。

 燃える斬撃が閃いた後。散らばっているのは鏡の残骸。
 右の鏡は砕けた。

 希雪は目を閉じ――手を胸に添え。想いを静かに吐息として吐き出す。
 静かに舞い降りた天使は瞳を開く――再び、その敵を見つめる。
 戦いは終わっていない。

 これで三枚――三面鏡は壊れた、はず、だ。

 キャアアアアアア!と甲高い女の声が響く。
 誰の声でもない。聞いたこともない。
 オブリビオンの反応が著しく強くなる――

 残骸の破片が浮かび上がり――ヒビだらけの鏡になっていく。
 ……最後の足掻き。まるで鏡のゾンビのように。
 何かを"守らされる"ように。

 鏡のオブリビオン、破壊まで、あと一歩――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒江・式子
予知ではグリモア猟兵の偽物が出ていましたね
なら、今から現れるのもそうでしょう?
……遠く離れてくれているのは幸運でした
躊躇なく攻撃する様子など見せられませんから

視線や声によって生じるのもまた心を揺さぶる|活力《エネルギー》
私には届きませんよ
足元から影の茨を噴き上げ、部屋全体に茨を延ばし敵を絡め取ります
拳銃を向けて引き金を引く
残存する敵が居ないか、茨を拡げて状況確認を

(後を追って同じ大学を受験、同じゼミへ入った程に大好きだった先輩
邪教の儀式に巻き込まれた折、仲間達の影にも茨が根付いてしまった
現在、彼らは昏睡状態
大好きだった先輩も、眠り姫のまま……)

「|式《しー》ちゃん」
──|声が聞こえた《まずい》



 かつり、かつり、と階段を昇る。
 情報を整理しながら、鏡に対する一手を考える。

 UDCと向き合うエージェントは肉弾戦で戦うだけではない。

 常に狂気や精神への影響に対して準備し、対処しなければならない。
 そもそも、理解をする事が危険である例が多い。
 だからこそ情報の管理は重要であり。
 情報を取得・整理・コントロールできる彼女は"命綱"だ。

 予知の情報の整理。
 脳裏に浮かべているのは、オバケだと騒ぐ鳥の少年。
 踏み込む前の思考誘導は完璧だ。

「遠く離れてくれているのは幸運でした。
 躊躇なく攻撃する様子など見せられませんから」
 ふ、と軽く息を吐き出す。

 辿り着いた二階。
 肉弾戦や浄霊での削り取りは功を奏し、敵オブリビオンは消滅手前だ。

「視線や声によって生じるのもまた心を揺さぶる|活力《エネルギー》」
 カツリ、と一歩を進める。
 足元の影がゾワ……と蠢く。

「私には届きませんよ」

 ガタガタ……と震えるヒビだらけの鏡。残された力を爆発させるように姿を一気に変異させる。

「やめろよ!ここは危ないんだぜ!オレ、きっと怖い夢見てただけ!ここには、なにもないぜ!」
 甲高い声。鳥の少年に化ける鏡。
 悲痛な感じが薄い――可哀想な小動物感が足りない。怖がっている真似、だ。

 光のある目から光が消えそうな出来栄え……まぁ、そもそも光はないのだが。

 足元の影が茨を噴き上げる。
 ズリズリと這いずるように蠢いたそれらは、部屋を包み込むように広がっていく。
 やめろよ!と言いながら走るグリモア猟兵モドキ。

 籠の鳥……四方から唸る茨を避けることもままならず、空中に縛り上げられる鳥の少年。

 やっぱり近くに居なくて良かったな、と思いながら。
 構えた拳銃から、その頭目掛けて銃弾が飛ぶ。
 発砲音に続いて聞こえるのは、鏡が割れるガシャアアン!という音。

 砕け散る鏡――本当に倒したのか?

 周囲で蠢く茨が四肢となり眼となり耳となり――その沈黙を確認する。
 伝わる情報――破片が、動いている。
 小さな振動……微弱なオブリビオン反応が残る。

 再び拳銃を構え直す――しかし。
 残骸が多い――全てが震えている。

 おそらく残骸が集まると鏡に戻り再生する。
 砕いて大きな力を削いだ後に、一つ一つを停滞させ……封じるのが正解だ。
 エージェントの経験は正確に対策を導いていく。
 放っている茨が、鏡の破片目掛けて畝る……諦観の泥濘、活力を奪い取る力で――

 キラ――。
 輝く破片。
 "翳喰らい"が視てしまう。聞いてしまう――。
 近づきすぎた。

「|式《しー》ちゃん、久しぶりやのぉ」

 脳が揺れる――。
 ――先輩?
 あの時。肝試しに一緒に行って――そっか、起きたんだ。
 明るい光。抑えている何かが一瞬、瞳で輝いてしまう。
 違う――!先輩も、ツレも――!

 ――|声が聞こえた《まずい》

 唇を噛み、感情を整える。
 再び眼の光は消え、エージェントの顔に戻る。
 精神干渉や意識への攻撃は乗り越えてきた。大丈夫だ。

 心拍数が跳ね上がる――心の傷と隙間へ鏡の破片が突き刺さる。

「式ちゃん、オシャレぶってよ、おもしゃい言い方しちゃあ」

 ――!?
 言葉、というのは思いに直結する物だ。
 だからこそ、それに対するプロテクトは入念に行ってきた。
 UDCとの戦いに挑む上で、意識への介入を防ぐ訓練は熟してきたはず。
 大学に入った時に、気をつけた方言。
 それからずっと――故郷の言葉は時々こぼしてしまうくらいだった。

 セキュリティホール……想定していなかったUDCからの心理攻撃。

 散らばる鏡の破片。
 茨が覗くその奥に、微笑む先輩の顔がある。
 先輩の顔がある――

「今より昔の式ちゃんしかええよ」

 いつか聞いた言葉。
 先輩を追って大学を受けて……ゼミで二人の時に言われた言葉。
 先輩もカッコつけて……方言を隠してたんだっけ。
 二人で笑いあった。

 あの後。
 そうだ――誘ったんだ。
 肝試しに――照れくさいから仲間も一緒に。

 過去が揺れる――。

 ずる……り。鏡を見つめていた茨が、式子へ頭を向け始める。
 視界が変わる――なんて酷い顔だ、と自分を眺めて思う。

 茨が心を欲しがっている。胸の傷。落ち込み。後悔……。
 好物を求める子供のように激しく揺れ動いた。

 肝試し……。
 あの時、あの廃墟の奥。|邪教《あいつら》の儀式に巻き込まれて……皆の影に茨が巣食って。
 そのまま、眠ったまま。先輩も……そう。
 暗い過去が胸を締め付ける。
 またそれも茨みたいなもの。

 痛みは――意識を取り戻すきっかけになる。

 眼の前にいるソレは偽物。
 どんな声でも偽物。

 それを打ち砕く為に、目の光が一瞬だけ戻る。ほんの一瞬だけ。
 それは――いつか。先輩が目覚めた時に、酷い顔と言わせない為に。
「――先輩のこと好きやっしょ」
 眠った王子に伝える言葉。肝試しの後にと、温めておいた言葉。
 小さく、呟いて――また、瞳を殺す。

「本当に趣味が悪いですね」
 それはエージェントの声。茨はまた、式子の支配下に戻る。
 部屋を覆う茨が一斉に動き出す。

 もう、鏡の残骸には幻影を見せる術もない。
「――その偽物とは行きません」
 ――諦観の泥濘。活力を奪う、茨による停滞。
 砕けた鏡の力を削ぎ――小さなオブリビオン反応を次々に消滅させていく。

「……目標、鏡型オブリビオンの全反応消滅を確認。調査を続行します」
 報告を告げる、その瞬間だった。

 キャアアアアア!という女の声。
 バキバキバキという何かが割れる音。
 キィィーーーーというドアの開く音。

 計器の数値がぐちゃぐちゃに乱れる。
 空間や現実証明の指数は異常値どころの騒ぎではない――何者かの出現を告げていた。

 拳銃を構え直し――叫ぶ。
「全数値にて異常を確認、邪神――発生します」

 その場所は、空間の歪み。
 合わせ鏡の奥だった場所。

 そこで力を蓄えていた……邪神。
 おそらく、鏡も気づいていなかった。
 鏡に寄生して――魂を喰らい続けた。

 今その隠れ家が崩壊し――この世界に。姿を現すしかなくなった"それ"が姿を現す。

 その姿は白い女。顔が曖昧な――。

 最終戦闘――これが、今回の倒すべき真の敵だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『あなたの思い出』

POW   :    心を傷つける現実
自身が戦闘不能となる事で、【過去に好意を見せた女性を自身の中に見る】敵1体に大ダメージを与える。【その女性は、決して敵の前に現れない現実】を語ると更にダメージ増。
SPD   :    優しい記憶による停滞
非戦闘行為に没頭している間、自身の【姿が見せる、対象の過去の記憶にある女性】が【対象の思考を奪い、自身を抱き留めさせ】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
WIZ   :    思い出を貫く棘
【優しい瞳で見つめる視線】が命中した対象の【記憶にある、親しい女性との思い出を語る舌】から棘を生やし、対象がこれまで話した【女性との思い出】に応じた追加ダメージを与える。

イラスト:透人

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アト・タウィルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 鏡のオブリビオンは倒された。

 だが――空間を裂き現れたのは邪神。

 鏡が生み出す無限の空間。
 合わせ鏡の中に寄生し、その力を奪い続けた邪神。

 それは、誰かの心に根を張って、誰かの神になる白い邪神。

 母を語り、妹を語り、恋人を語り、親友を語り。

 縋りたい相手。
 ソレの記憶を書き換えて――心と魂を奪う。

 ちょうどよかったのよ?鏡の中は見つからないもの。
 おいしかったわ、あのこたちみんな。
 本当はもう少し――食べるはずだったのよ。
 おかしい。
 なぜ、この子達は此処に来たの?
 あの鏡が上手に選んで居たでしょう?

 鏡が倒されること。
 鏡が見つかること。

 邪神が想定していなかったこと。
 予知は敵の成長を防いだ。

 骸の海から滲み出したその邪神は名乗る。

「わたしは、あなたの思い出」

 と。……過去は牙を向く。

 過去を乗り越えた者の懐に入り込み――、
 乗り越えた過去を書き換える邪悪。

 鏡は虚像で心を蝕んだ。
 次の相手は、存在しない記憶を書き込んで人々を信者に変える、偽りの神。

 最終戦闘、邪神――あなたの――討伐開始。

「呼んで?あたしのことを」
「呼んで?私のことを」
「呼んで?■■■のことを」

「だれにみえるの?」
「だあれ?だあれ?」
「あら!えらいわ!ちゃんといえたわね!」

「――ずっといっしょ、私が貴方の神様よ」
白霧・希雪
「本っ当に、趣味が悪い……!」

当初の目的は達成したはずだ。
館の探索、三面鏡の破壊。

不測の事態、全く心の構えのない状況。
それは...確かに希雪の心に一つのヒビを作った。

虚像が映すは「師匠」。それも...時間軸は問わない。
修行の間の姿、休息時の姿、私を救ってくれた時の姿。
蕩けるような甘い言葉。鋭い針のような辛い言葉。

何度も言葉を投げられた。その後、邪神は触れてはならない言葉を紡ぐ
師匠「お前は、奪われる側の人間だ。」

希雪の心に刻まれたヒビが広がり、割れる。

過去への執着で?違う
贖罪の心を弄ばれて?それも違う。

もっと単純な…そう、怒りだ。

「私から、師匠を奪うなら...全て奪い返してやる!!」
(UC発動)



 予知。
 オバケの出る家の探索、二階の鏡の破壊――当初の作戦は終了した。

「それ以外にも"居る"と思うぜ」
 ブリーフィングで聞いた言葉が、今まさに眼の前で形になっていく。

 ――不測の事態。
 予知にはない光景、伝えられていない正体不明の"邪神"。

 ここまで――彼女は何度となく心に伸ばされた邪悪な手を、消えない心の炎で押し返した。
 多分、それは贖罪という自らを呪う傷が放つ炎。

 天使であろうと、戦巫女と言われようと。
 少女である事は変わりない。
 大きな傷と苦難を抱えた、痛みを抱えた一人の少女だ。

 薪だけでは炎は起こせない。
 燃えた炎は薪がなければ消えてしまう。

 彼女の呪いの炎――例えそれが贖罪という自責であろうとも。
 その背を押す者が居たからこそ、消えること無く燃え続けてきた。

 空間を切り裂き、曖昧な世界の扉を開いて外に現れた……邪神――?

 別の世界ならば、竜となり破壊の限りを尽くしたかもしれない。
 別の世界ならば、支配者の顔をして横暴に振る舞ったかもしれない。

 しかし――この世界のオブリビオンは、心を喰らう術に長けている。

 邪神は笑顔を浮かべ、優しい手を広げ――力を行使する。
 その指が一本ずつ倒れていく。
 何かを数えている――けれど、そんな事を意識する余裕なんてない。

 白く、顔のない見慣れぬ女。
 空間にノイズが走る。干渉――邪神の領域に取り込まれたと"認識"はできる――が。
 心にヒビが入る。それこそ、付け入るスキ。

「良く頑張ったな」
 チャンネルを変えるテレビのように。
 その姿に虚像が写る。
 それは繰り返し。ランダムに――過去へ潜り込んでいく。
 ――師匠。

 虚像の指が、折れる。

「筋はいい」
 腕を組み、振り下ろす薙刀を見る姿。
 ――師匠。

 虚像の指が、折れる。

「それがお前の贖罪なのか」
 地に伏した時。
 立ち上がれずに、震える身体で見上げた顔。
 師匠――!

 虚像の指が、折れる。

「覚悟は――覚悟はそんなものか!」
 薙刀が弾き飛ばされる感覚。
 師匠……!!

 幻覚に誘われるように。
 カラン――持っている武器を落とす――。

 虚像の口元に笑みが溢れる。指が、折れる。

「良かった――心配したんだ」
 いつもは厳しい。それでも。
 危機に駆けつけ……脂汗を浮かべながら、慌てた顔。
 どんなに厳しくとも、師が見せる優しい困った顔は安らぎだった。

 師匠――。

 虚像の指が、また折れた。
 優しい顔。ただ優しい――弟子を見つめる眼。
 優しすぎる。不快な甘さ――不自然な顔。
 そして放たれる呪言。

「お前は、奪われる側の人間だ」

 希雪の目が見開かれる。
 その表情を邪神は良く知っていた。
 優しい顔のまま――希雪の顔を指差す。
 それは、邪神の力の一つ。言葉を貫く思い出の棘。
 心を砕き、心を残骸にする一言。

 ――!?
 ――激痛。声にならない悲鳴、吐き出される血。
 口内で何かの棘が弾け、突き刺さる。

 何度、呟いた?
 何度、呼んだ?

 師匠、師匠、師匠、師匠、師匠――邪神が指を折って数えた言葉。
 その数だけ。繰り返し、強く強く突き刺さる。

 痛い。
 痛い――!
 口を抑え膝を着く。

 でも、邪神は誤った。
 肉体的な攻撃は、痛みの実感を与えてしまう。

 この世界での浄霊では……霊を輪廻に戻すために、祭具で突き刺すことがあるそうだ。
 それは、痛みを感じないから。生きているということは、痛みを伴うこと。
 霊に霊だと伝えるために、そうする、らしい。

 希雪の心を砕き、そこに居座るには――安息を与えるべきだった。
 肉体に届く激痛は彼女の背を押す。目覚めろ、と。
 砕けた心の痛みを思い出せ、と。

 出血のない胸の痛み。過去への執着?
 裂傷のない胸の痛み。それは贖罪への冒涜?
 この感情はなに――?

 考える余裕。本当の師匠を。本当の自分を再び見つめるための時間。

 人は、複雑なものだ。
 この世界しか知らぬ邪神には……その数々の可能性を蝕むほどの知識はなかった。
 所詮、過去。

 大好きな師匠。
 でも――自分を呪うのも師匠。
 痛みを、痛みとして忘れない。贖罪とは……そういうものだから。

 そんな相反する意思の濁流など、模倣すらできなかった。

 希雪の肉体は確かに傷ついた。
 手首で口の血を拭う。

 でも――そんなのは、かすり傷。戦いの中で。いや、修行で血を吐いたことだってある。
 こんなものは、無傷と変わらない。

 痛かった胸を……ぎゅっと抑え。転がった薙刀を広い。それを杖のように……身体を起こす。

 邪神は、触れてはならない宝物を弄んだ。
 往々にして、少女というものはこのまま崩れると知っていたから。
 だが――彼女は猟兵だ。

 気づいた。この感情は、怒りだ。

「私から、師匠を奪うなら――全て奪い返してやる!!」
 彼女を蝕んだ呪い。始まりの苦痛。全てを抱える自責。
 その叫びを上げて、薙刀を邪神に突きつける。

 邪神が生み出した偽の記憶にヒビを走らせ、粉々に砕く。

 何度も心は砕けたんだ。だから――大したことじゃない。
 本当の記憶の破片が集まり、一瞬で修復されていく。

 それを繋ぐのが。溶接するのが贖罪の炎。挫けても、膝を着いても――。
 師匠は、私の師匠で。お前のものではない――!

 薙刀から真っ黒い炎が走り、邪神に纏わりつく。
 奪いとるのは偽の師匠。

「――ア゛――あ゛」
 その幻覚を奪い取られれば――その姿は白い女に戻る。
 思い出と名乗る邪神は、思い出でなければ、もはや誰でもない。

 偽りの思い出として認識されないのなら……力は急速に衰える。

「カース・ラヴィジェルド」
 希雪は小さな声で呟く。邪神の幻覚を焼いた炎が薙刀に戻る。それは奪い取った幻想という力。
 呪いもまた、過去。
 オブリビオンもまた、過去。

 ただ――過去は過去のままじゃない。
 彼女の過去は、踏み重ねる糧になる。

「師匠だって、後悔するんですよ」
 優しく微笑むと、偽の過去への解答をひとつ。
 奪い取った幻想を薙刀が吸い、一気に彼女の力が跳ね上がる。
 天使の翼が明るく輝く。
 皆を、未来へと導くように。

 戦いはまだ続く。
 しかし――思い出は、思い出で居られなかった。
 邪神への拒絶は力を削ぐ。それが、邪であろうと神で。UDCというルールに沿う存在だからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐倉・理仁
やさしい母、しっかり者の妹、久しく会わぬ友人、頼れる仲間たち。アンタはお前はキミは……そうだ、俺は確かに彼女を愛して──『第六感』が異変に叫ぶ


【ピアース】!
(記憶の改竄/縄張りへの侵入に反応して蜘蛛が湧き出す。手足が硬質化し鋭く尖る。背を突き破り無数の穿脚が伸びる。その毒が存在しない思い出を蝕む)
苦痛も歓びも、全て俺たちのものだ! テメェにくれてやるモンなんざひとっつも無ぇんだよ!


忘却の毒糸を撒き散らし、穿脚が自身に記憶を縫い付ける『なぎ払い、捨て身の一撃』

死者からも生者からも誰からも思い出されない、死よりも深い忘却の底へ落としてやる『呪詛』



 冷静に――丁寧に。
 淡々と一階から調査し、正確に鏡を砕き。
 囚われた魂すら開放した探索者は――触れてしまう。

 眼の前の空間を割いて現れた白い女。
 誰に、どう見えるのか?
 自分に、どう見えるのか?

 邪神は――ゆっくり、眼の前に現れ――。

 死霊の感覚でもない。
 異質な――胸の奥を撫でるような。
 握り潰したり刺すような、攻撃的な精神影響ではない。

 いつも家で待っていたっけ。
 やさしく微笑む母が、手を広げた気がする。

 一歩――理仁は前に歩かされる。

 そういえば、しっかりしてたなぁ……。
 頑張りすぎてるでしょ、ちゃんと休むんだよと妹が見上げてくる。

 一歩――また前に歩かされる。

 お、久しぶりだな。
 連絡して来ないから心配してたのよ、と手を振ってくる友人。

 アンタは!ああ……お前はさ。
 意識の奥底にある顔が、何人も何人も眼の前に現れる。

 邪神は探っている。
 その隙間を。一番心揺れる"思い出"を。

 ギギ――空間がこじ開けられるような。鈍い音が聞こえた気がする。
 邪神はその身を沈め――成り代わる席を見つけ出す。

「そうだ、俺は確かに、彼女を愛して――」
 走馬灯のように記憶が生まれる。誰だ?いや、彼女は。そうだった――。
 上書きされている?それとも掘り起こされている?
 モザイクのように顔が分からない、記憶が曖昧な――。

「――違うな」
 第六感。死霊術師としての腕前。
 探索者――UDCとの多くの接触、そしてその経験。
 違和感を違和感として認識して、それを拒絶する事が出来る。
 自分への精神分析。

 引きずられるように邪神へと歩いていた足が、ピタリ、と止まる。

「|魔身・思い出を縫う針と糸《ピアース》!」

 邪神が握ったリッパーが、理仁の思い出の縫い目を切り――別の記憶をパッチワークしようとした瞬間。
 魔蜘蛛が目覚め、静かに動き始める。
 蜘蛛の巣の糸は、その主に獲物の到来を知らせる振動を伝えると言う。
 邪神はそれに触れてしまった。

 理仁の手先もまた、金属のように硬質化し鋭く尖る。
 両足も鋭く、固く。変異が始まる。
 ただの探索者?死霊術師……?違う。オブリビオンと戦うUDC兵器――それが本質。

 背中が膨らみ、ぶちり、と服を突き破り何かが伸び出てくる。
 四肢と似た穿脚が何本も何本も。背を覆って蠢く。

 この邪神は記憶や過去と成り代わる。記憶を綻びに変え、別の布を縫い付けて。
 しかしそれは――つまらない並縫い。
 結局それは、仮縫いでしかなく。強い意志の上では解けてしまう。

 とっさの判断。
 蠢いた理仁の穿脚は――自らの記憶へ突き刺さった。
 "そうであった"と認めてしまわぬように。

 魔蜘蛛はその導きに従い、毒糸を放つ。その毒は偽の思い出を蝕み崩し、あるべき感覚を繋ぎ止める。
 毒とは薬と表裏一体だ。

 刷り込まれた偽の笑顔や家族の声が、記憶の中で焼け落ちていく。

 叫び――。
「苦痛も歓びも、全て俺たちのものだ! テメェにくれてやるモンなんざひとっつも無ぇんだよ!」
 赤い髪が揺れる。目を見開き――誰かに成り代わろうとした邪神を見つめる。
 その姿は、白い女。顔がなく微笑み――正解を探すように誰かの言葉を繰り返し続ける邪神。

 理仁の魔蜘蛛が蠢いている。
 その毒糸は苦痛と快楽を繋ぐ糸――捨てる思いも感情も。都合のいいだけの快楽も存在しない。
 今までの道程を再び繋ぎ直し。強固な衣として心に纏う。

 カサリ、と鋭い四肢が音を立て、前に進む。
 呼び出された蜘蛛もまた、彼を追う。

 邪神が、後退りする。
 理解できない。そう――理解できない。
 安楽の腕を広げ抱きしめて握りつぶす邪神には、苦楽が共にある事を認められない。
 彼が感じた、思い出の名前の数を数えられなかった。
 数えていたはずなのに。そこに居座ったはずなのに。

 力を発動――できない。
 あれは術師だ。舌を、口を、喉を破壊しろ……そう認識したところで、もうその技は届かない。

 ――糸。きらり、と光った。
 その空間に。透明で澄んだ糸が張り巡らされていた。
 見えない蜘蛛の巣。獲物には――感知することすらできない。
 静かに。丁寧に。縫い物は進んでいた――邪神の後ろで。

 彼が動く。
 全身の穿脚で跳ね、飛びかかる。
 ハエトリグモのような――驚異的な瞬発力。
 全身を武器のように、まるで捨て身で。白い邪神を薙ぎ払い、弾き飛ばす。
 肉弾戦を予期しなかった邪神は見事にその真後ろに吹っ飛び――。

 捕らえた。

 この糸は――。忘却の毒糸。
 動けず藻掻くオブリビオンへ、理仁の喉が言葉を奏でる。
 呪詛の調べ。

「死者からも生者からも」
 空気が冷える――室温が下がる。吐き出した言葉が辺りに漂うように反響する。

「誰からも思い出されない」
 邪神に痺れが走る――オブリビオンの傷跡。滲み出した意思を的確に突き刺す言葉。

「死よりも深い忘却の底へ」
 言葉が重なる。多重に――まるで、同時に言葉を再生するように。
 何重にも積み重なっていく。

「――落としてやる!」
 思い出を名乗るオブリビオンへの一番の恐怖。呪い。
 "誰からも忘れ去られること"

 存在そのものへの拒絶。

 邪神が苦しむ。効いている――!
「ガアアァアア――アァァ……アアアア!」
 鈍い咆哮から甲高い女の声、そして子供のような絶叫。

 オブリビオンの反応が薄くなる。
 ――暴れている理由。滲み出した理由。元になった過去。UDCのルール――。
 何かを失った。どれかと、どれかを失った。

 心と心の戦いは。
 思い出を操る技の戦いは――猟兵の勝利だ。

 思い出。
 自分を思い出と呼んでくれれば――。邪神は"縋る"ように立ち上がる。
 その甘い言葉で、人を喰ってきた報いを自ら知るように。

 力は削いだ。
 しかし、まだ――戦いは続いている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒江・式子
「先輩……」
思わず言葉を零した口を咄嗟に押さえる
それでも思い出が湧き立つのは止まらない
身を委ねたくなる衝動を、後悔を懐旧を寂寞を感傷を郷愁を嘔吐きながら呑み込む
これ以上自分の感情を喰わしたらあかん
銃をリロードし、構える
茨を噴き上げて視界を遮ります

……童話の茨姫みたいなものです
王子様にはなれなくても
例え百年待つ事になっても
|私《魔法使い》は、もう一度皆に……先輩に会いたい

|思い出《あなた》では駄目なのです
浸るのではなく、取り戻さなければならないのです
悲劇の幕を開いたのは私
その幕を下ろすのが私の責務
その為なら、影に巣喰う|UDC《怪物》だって飼い慣らしてみせますとも
(無表情のまま涙)



「先輩……」

 式子は、咄嗟に口を抑える。
 零した言葉は思い出。湧き上がってくる感情は、それだけで鎮まるものではない。

 身を委ねたくなる衝動――。
 あふれる後悔。
 懐旧、寂寞、感傷、郷愁――。
 嘔吐きながら、呑み込む。

 感情の脈動。
 それは、茨の一番好む味。力が増長するのがハッキリと分かる。
 蠢き、溢れ。
 あの時の出来事。皆に潜んだ茨が脳裏に浮かぶ。

 ――これ以上自分の感情を喰わしたらあかん。
 意識がクリアになる。
 これが、エージェントだ。
 彼女は強い。それでも小さなスキはある。けれど、それを乗り越える思いもある。

 ――鏡から続く夢物語。
 UDCが作り出す、精神攻撃。戦いは、まだ終わっていない。
 どこまでが「鏡」との戦いだったのか。

 敵は変わった。それでも――攻撃は似ている。
 現実への侵食、記憶への介入。

 意識や思考を巡らせれば巡らせるほど、滲み出してくるのは過去の思い出。
 全てのターニングポイントである、肝試し――広がる思いが、正面で揺れる邪神を形作る。
 どんなに心が軋もうと、その暗い瞳は真っ直ぐに敵を捉えている。

 今、目の前に居る邪神が何者なのか?
 誰で、あるのか。

 ズズ――ゴアアアアッ……畝る茨が、影から吹き上がる。
 視界を遮る。
 見ないことはリスクだ。だが――見て、知ることもリスクなのだ。

 彼女は静かに考えを回す。
 見ていない、知っていない。それは――今、邪神の干渉を受けていないということ。
 だからこそ――これは、自分の手番。

 "一方的に考えられる"。
 静かに……過去を見つめ直す。
 想いが胸に広がる。

 これは――。

 ……童話の茨姫みたいなものです。
 王子様にはなれなくても――。

 例え百年待つことになっても。

 |私《まほうつかい》は――、

 ……魔法使い。
 暗く苦しい過去の回想。
 でも、100年の魔法は未来への魔法。
 先輩も、友達も。死ぬことはなく――100年間の眠りにつく。

 紡ぎ車の針が指に刺さって死ぬ――それが呪い。
 呪いを弱めた魔女の――希望こそが"茨"なのだから。

 |私《まほうつかい》は――、もう一度皆に……先輩に会いたい。
 ――強い意志。
 彼女の一番強い根幹。

「|思い出《あなた》では駄目なのです」

 茨が開ける――城へ王子を誘うように。閉じていた茨が道を作る。
 眼の前に立つのは――誰?
 眠った皆の顔はもう見えない。
 それは、倒すべきオブリビオン。白い女。

「浸るのではなく、取り戻さなければならないのです」
 過去の停滞に喰われはしない。
 拒絶の言葉は邪神に刺さる。
 風に揺れる衣が、千切れて消える。

「悲劇の幕を下ろすのが私の責務」
 カツリ、一歩前に出る。無表情――光のない目。
 宣言する。覚悟を。
 思い出は、正しく彼女の思い出として。
 力に変わった。
 それは――付け入るスキなんてない。

「その為なら、影に巣食う|UDC《怪物》だって飼い慣らしてみせますとも」
 でも。
 覚悟も、意思も。
 どんなに強くても。

 無表情の瞳から――暖かな光の粒が影に落ちる。ぽつり――と。

「|13番目の贈物《さいごのおくりもの》」
 ――知らないわけがありません。思い出ですからね。

 影の茨が一斉に活性化する。
 彼女は、敵の動きを見逃さなかった。
 "攻撃"が来る――待ち構えるように配置されていた茨。

 分析、そして経験。全ての情報をつなげるには、充分に思考は整っていた。
 恐らく邪神が放つのは、自身の影響を受けた記憶や感覚を伝って相手の肉体を攻撃するユーベルコード。
 蠢く茨が――その反応を敏感に感知する。
 "喰らう"
 まさに、そんな動き。
 ざわめいた茨が一斉に白い服の女に纏わりつき、生み出される力を全て吸い尽くしていく。
 ゾワ――と茨が広がれば、邪神の姿が見える。

 美しかった衣はボロボロに崩れ……その力の損失が見て分かる。
 美しかった衣?そもそも……この邪神はこんな風だったのかと。

 あと一息。
 ――邪神の反応は弱くなっている。消滅までの抗い。

 拳銃で終わるかもしれない。
 しかし発砲することはない。

 やはり、彼女はUDCと戦うエージェントだ。
 バケモノ、というのはルールの上で縛り上げて動きを封じるのが得策。
 小さな変化や衝撃は……変異を誘発させる。
 想定しない動きを取らせぬよう……手のひらの上で始末するのだ。

 サポーターたる目が敵を捉え続ける。
 有事の際に動く。充分な余力を残し――任務が終わるその時まで、拳銃を構えて立つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベティ・チェン
「…ヤバレカバレ…スゴイ・バカ」
小さい笑いが哄笑へ

「|貴族めいた何か《ヴァンパイア・アトモスフィア》に期待した!キミも、ボクも…スゴイ・バカ!」

「ボクは|最下層《デッドエンド》じゃ、同性に会わなかった。だから。キミのサルベージする誰かに、期待した」

「キミの能力不足か、ボクに記憶があったと思ったことすら嘘だったのか。分からないなら、どっちも同じ、だ」

「ドーモ、ウソツキ=サン。ベティ、デス。キリステ・ゴーメン!」
自分の身長ほどある大剣(偽神兵器)に破魔の属性乗せ何度も敵に叩きつける
敵の攻撃は素の能力値で避ける

戦闘後あめに
「キミなら、全部洗い流せる、だろ?自分より弱いモノの、何が、怖いんだ?」



「……ヤバレカバレ……スゴイ・バカ」
 小さかった笑いは哄笑へと変わり、部屋中に響く。

「|貴族めいた何か《ヴァンパイア・アトモスフィア》に期待した!キミも、ボクも……スゴイ・バカ!」
 ベティの強い声。

 鏡が化けたニセモノも。
 白い姿の女も。それは――記憶を辿るには考えを察知しきれなかった。
 ザナドゥ技術で骸の海に抗う世界も、貴族的な存在が闊歩するダークセイヴァーも。
 この世界だけを知る邪神らの変身では届かないのだ。
 実際浅い。

「ボクは|最下層《デッドエンド》じゃ、同性に合わなかった。だから。キミのサルベージする誰かに、期待した」

 ニセモノのカガミも――思い出を嘯く邪神も、結局ライアー・スタイル。
 "同性に合わなかった"、それは確信の否定。
 受け入れられて力を発揮するそれは……その拒絶に著しく弱い。
 ユニーク・ジツは簡単に破られてしまったのだ。

 しかし、猟兵でなければ、サウザンド・デイズ・ショーギの古事となるニセモノだったろう。

「キミの能力不足か、ボクに記憶があったと思ったことすら嘘だったのか。分からないなら、どっちも同じ、だ」

 この場合。サンシタは邪神だ。
 ベティが1階を歩いていたその時から、カガミも邪神も彼女を測れなかった。
 幽霊やオバケ、怪異なんてものは……知ってるから。知っているから心を侵すのだ。
 その生き様は実際ニンジャ。シノビの素性は分からないものだ。

「ドーモ、ウソツキ=サン。ベティ、デス。キリステ・ゴーメン!」
 先手を打った正しいアイサツ。
 ベティはその身ほどある巨大な大剣、偽神兵器が開放される。破魔のジツを乗せて構える。
 敵のヨワミに良く効く力を宿す、強力な武器。

 邪神は動こうとした。だが、ユーベルコードを放てない。
 それはセプクすることで、相手の心を蝕む強力な力だった……。
 成り代わった誰か、記憶の誰かとして彼女を蝕むはずだった。
 その作戦は見事に失敗した。
 セプクしても、ベティにダメージはない。
 ならば――。
 ヤバレカバレ、アイサツもなしに、その手をベティに伸ばした。直接……力を注ぎ込めるかもしれない、と。

 おっと、これはアンブッシュ!

 もう、ベティが止まっている理由はない。
 アイサツにアイサツを返さないのも、アイサツを待たずに戦うのもスゴイ・シツレイ。
 ザナドゥの奥ゆかしいニンジャは、邪神に攻撃を開始した。

 懐まで飛び込むと、ベティの振り上げた大剣は素早く空中で円を描いてウィンドミル回転斬りを放つ。

「アアアアア!」

 叫んだ邪神がキリモミで弾け飛ぶ。
 ベティはそれを追う。縮地。
 浮かんだ邪神に再び偽神兵器が思い切り叩きつけられる。

「イアアァ……!」

 反撃も出来ず、地面に当たった邪神はバウンドして再び空に浮く。
 疾い――浮き上がった邪神を追いかけて飛ぶ。
 今度は真横に。斬撃はその胴体の中心を捉え、弾き飛ばす。
 ボロ雑巾のように――その空間の中で。

 力を奪われ続けた邪神がオテダマされる。
 ――再びベティの剣が、邪神を吹き飛ばす。

 オブリビオンの反応はその一撃が炸裂するたびに小さくなっていく。
 破魔の力は所謂――オバケの在り方をする邪神には効果覿面だった。
 もはや、その身をどうすることもできず――消滅するまで殴られるだけ。

 ゴォン!
 最後の一撃が邪神の中央に炸裂する。
 輝く破魔の光の柱――ギュウウウンという何かが収束するような音と共に。
 あなたの思い出を名乗る邪神――それは消しとんだ。

 もう――そこには誰も居ない。
 敵の消滅を完全に確認。

 この任務は、これで完遂。
 素早い。
 ベティはニンジャスタイルで飛び出していく。
 立つ鳥跡を濁さず、あとには風が吹くのみだ。

 ――。
 ――皆の帰還を待つ巨鳥が、素早いニンジャの姿を見つけ。嬉しそうに首をあげた。

 戻ってきたベティの言葉。
「キミなら、全部洗い流せる、だろ?自分より弱いモノの、何が、怖いんだ?」

 目が皿のようになる。
「効く!?のか!?……水が!?弱いのか……!?いや、無理だぞ、オバケはめっちゃ怖いから!」
 そして続く言葉――。

「デビル映画で!オバケめっちゃ怖いからな!!」

 恐怖の根源は、雑なジャンプスケア映画。
 ワールドギャップ。世界の差。フィクションと現実。
 きっと、皆違うのだけれど。

「――映画のどんなやつよりも、みんなツエーからオレは安心して待機してられるぜ!それじゃ――」

「もう絶対こんなとこ来ねぇ!勇者の翼、帰還を開始だ!いいから早く乗ってくれ!
 オブリビオンは倒してもオバケはいるかもしれないだろ!」
 
 鏡は真実を写さない――いや。鏡はもうない。

 いわゆる、怖い話は終わったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年01月24日


挿絵イラスト