フューチャークリスマスパレード
●配送開始!
「じゃじゃーん、サンタさん!」
「わ、メリルちゃんサンタさんだ! 可愛い~!」
もこもことした赤白基調の衣装に身を包んだメリル・チェコット(ひだまりメリー・f14836)の姿に、歌獣・苺(苺一会・f16654)が歓声を上げる。年がら年中色んな仕事に駆り出される猟兵達ではあるけれど、今回の|ミッション《アルバイト》はサンタクロースに倣った配達人だ。
「二人でサンタさんになるのってなんだか楽しいね、苺ちゃん!」
「ふふ、そうだね! しあわせをお届けするお手伝いさせて貰えるなんて、私たちラッキーかも!」
そんな風に胸を躍らせながら、苺もまたサンタ服に袖を通す。お届け先の指定されたプレゼント袋を担いで、後はトレードマークの真っ白な付け髭を装着すれば準備万端。
「……ん?」
ふと視線を感じて振り返れば、今回のお手伝いとしてついてきた羊のココが、メリルの方を興味深げに見つめている。
「ふふ、あなたがつける?」
「意外とお髭似合うねぇ? トナカイさんの角と赤鼻も付ける?」
せっかくだから、この子もおめかししていかなくては。苺の提案でさらなるオシャレ装備が追加され、トナカイカチューシャにピカピカ電飾の白髭トナカイヒツジが爆誕した。
「さあ、みんなにとっておきのプレゼント、ひとつ残らず届けにいっちゃうよ!」
「わーい! れっつごー!」
二人に任されたのは、キマイラフューチャーのとある図書館からの依頼だ。何でも図書館では今、クリスマス特集の真っ最中であり、該当の本を借りたお子様の所にお菓子が届くという企画をやっているのだとか。「それじゃ、配達よろしくねえ」という黒フードの司書に見送られて、お菓子の詰め合わせの袋を担いだ二人は、クリスマスの街へと繰り出していった。
イベント好きなキマイラ達に、バズり狙いの配信者やパフォーマー、いつだって賑やかなキマイラフューチャーだけれど、この時期ともなればその盛り上がりは最高潮に達している。華やかに、鮮やかに、飾り付けられた街並みは、宝石箱をひっくり返したように輝いていた。
普段とは一味違う街の光景に見惚れながらも、時折行先の書かれたメモを見比べて二人は行く。しかしお祭り騒ぎのこの街は、そう簡単に素通りなどさせてくれないだろう。
飾り立てられた広場や、スクリーン状になったビルの壁面が見せる煌びやかなビジョン、そういったものに気を取られていた彼女等は、気が付けば交通渋滞みたいな行列に嵌っていた。
ノリの良いキマイラ達の中でも、とびきりお祭り好きの者達が集まっているのか、この通りを歩く人々は皆クリスマスらしい、赤白の装いをしていた。
「わあ、サンタさんがいっぱいだね」
ねえ苺ちゃん。そうして隣へ同意を求めたメリルだったが、そこに居たのはよく似た別のキマイラさんだった。
「……あれ?」
「メリルちゃーん、こっちこっち!」
SNSだか配信者の呼びかけで催されたパレードの類だと思われるが、メリルと苺にはその辺りは知る由もない。人の波に呑まれかけていた二人は何とか合流を果たすが。
「あれ、あれあれ? ココがいない!」
一緒に居たはずのココもまた、姿を消していた。サンタ服だらけのこの状態で、誰か別の人に付いていってしまったのかもしれない。
「どうしよう、あの子またはぐれて……!」
「さ、探さなきゃ……!」
「おーい、どこ行っちゃったのー!?」
トナカイ風味のコスチュームで来ている者も多数居るため、少々難儀はしたけれど、二人はほどなく迷子のココを見つけ出した。まあ、探されていた当のココは、「何かあった?」くらいの顔で平然としているようだが。
「まったくもう……」
「はー、焦ったわね」
何にせよ合流できてよかった、と苺が溜息を吐く。いや本当に。どれくらい焦っていたかと言うと、担いでいたプレゼント袋の重みを忘れるほどで。
「……ん?」
背負っていた袋の重みを感じないことに、苺はそこでようやく気付く。焦りで急に力持ちになったとか、そういうものでは勿論なく、ただただ袋に大穴が空いていた。
「わわー!? め、メリルちゃん大変!!!」
「え!?」
空っぽになった袋を見て、二人は慌てて後ろを振り向く。歩いている内に少しずつ零れ落ちていたのだろうか、この人ごみで、見つけられたのは最後に落としたと思しき一個だけ。
『やったープレゼントだ!』
「あっ」
手を伸ばしかけたそこで、通りがかった子供がそれを拾いあげてしまう。
『サンタさんありがとうー!』
「ど、どういたしまして……!」
めりーくりすます。どうにかそう口にするが、こんなきらきらした目の子供に、「間違いだから返してほしい」などと言えるはずもなく。二人は手を振って少年キマイラを見送った。
「ど、どうしようメリルちゃん……!」
「う、うん、何とかしないと……!」
本来の受取人がプレゼントを待っているのだから、「配達失敗しました」なんてことになるのだけは避けなければ。
配達元に新たなプレゼントを用意してもらう時間はないだろう。ならばこの世界特有、コンコンコンに賭けるのはどうだろう。繰り返せばいつか、お菓子とラッピングセットが集まるかも――。そんなギャンブルに打って出るべきか、それともさらなる妙案を思い付くのを待つか。立ち止まって考え込む二人の懊悩を他所に、周囲のパレードは能天気に盛り上がり、半ばイベント会場となっているらしい広場からは、様々な催し物の声が響く。
『――賞品はクリスマススイーツの詰め合わせだよぉ、視聴者の皆も応援よろしくね~』
そんな中で聞こえたその言葉に、メリルと苺は顔を見合わせた。
●残りは現地調達で!
それでは説明しよう。こちらで開催されているのは『ホログラムツリーデコレーション』。広場に立った樹木を一人一本担当し、飾り付けていくというものだ。
勿論ガチで飾り付けると人手が要りすぎるので、専用のホログラムツクールソフトの入った端末を使い、デザインしたものを投影する、という仕組みになっている。参加者はこの世界特有の動画配信者やパフォーマー達、最終的な完成品に対して来場者や視聴者に投票してもらい、一番いいねのついたところが勝者となる。
『――っていう感じなんだけど、準備はいいかなぁ?』
「はいはい!」
「わたし達も参加しまーす!」
『おっと、かわいいサンタクロースさんも飛び入り参加だー! それじゃいってみようかぁ!』
主催らしきキマイラが苺とメリルの声に応じて、専用の端末を届けてくれる。二人で一本の木を担当することにして、共にその大きな樹を見上げて――。
「がんばろうねメリルちゃん!」
「うん! ……ところでこれ、どうやって使うか分かる?」
飛び入りだから説明があんまり聞けていない。うーん、どうかなあと頭を悩ませつつ、二人は手元のタッチパネル式のタブレット端末に視線を落とす。
オーナメントの前にとりあえずモコモコしたあれを巻き付けてみようと、初見のそれを色々触ってみる。
「これちゃんと出来てる?」
「ちょっと確認してみようか」
なんか右下の方のボタンを苺が叩くと、画面上と同じ飾りが、ホログラムとなって樹の上に投影された。二人は揃って「わあ」と歓声を上げて――。
ようやくコツがつかめてきた、とメリルが微笑む。いつかの日、手作りのドレスをデザインしていた時も、こんな感じだったろうか。全体像を見たり細部に着目したり、飾れるデザインパーツを順に見て行ったり、それはやっぱり楽しいもので。
「この飾り、メリルちゃんに似てない?」
「そうかなぁ……それじゃこっちは苺ちゃん風に――」
操作にも慣れて調子が出てきたのだろう、二人は和気藹々と、ツリーを飾り付けていった。
『さーて残り三分だよぉ、皆そろそろ採点の準備は出来てるよねぇ?』
「え!?」「もうそんなに経ってた!?」
時間を忘れて遊び倒してしまった、とそんな風に慌てて、二人は担当したツリーに端末のデザインを反映する。夢中になっていただけあって、中々に凝った作品が出来上がっていると思うのだが、天辺の飾りがまだ付けられていなかった。
普通の星じゃなくて、ココちゃんみたいな飾りが良い。作業途中で苺の言っていた、そんな言葉を思い出す。
メリルはココの姿をじっと見つめて、ココも「なに?」と言った様子で見つめ返す。トナカイでもなく羊でもない、そんなシンボルを今から見つけられるだろうか。いや、それならばいっそのこと。
「い、苺ちゃん!」
「うん、わかった!」
以心伝心、言葉少なにそう交わして、ココを抱き上げたメリルが駆ける。苺もまたそちらへと駆け寄り、大きく翼を広げ――。
『タイムアーップ!!』
タイマーがゼロを指した時、ツリーの天辺にはココを掲げたメリルと、それを抱き上げた苺が三段重ねで飾られていた。
「これだけあれば……大丈夫だよね?」
ぜえはあと肩で息をしながら、メリルが苺へと声を掛ける。二人の前には、大量のプレゼントボックスが積み上げられていた。
最後のあれこれもパフォーマンスとして評価され、ツリー対決を制した彼女等だが、その後も広場のあちこちで催される配信企画――『エレクトロクリスマスキャロル演奏会』、『コンコンコンデジタルスイーツコンテスト』、『カロリー消費! エクササイズセッション』などに次々と挑戦し、クリスマスグッズを大量に確保していたのだ。
「むしろちょっとやりすぎたかも?」
「途中からもうそれどころじゃなかったからね……」
若干目的を忘れかけていた気がするが、こうしてプレゼントを集めることができたので良しとしよう。空いていた穴を縫い直し、中身も復活した袋を担いで、今度こそサンタクロースは配達に向かう。
「「メリークリスマス!!」」
当初予定よりも遥かに豪華なプレゼントが届いたことで、子供たちは大喜び。メリルと苺の配達は、無事大成功を収めた。
成功
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