聖夜の賑やかさが満ちる中、虹目・カイ(○月・f36455)はひたすら悩んでいた。
いや、外を見つめる瞳に煌びやかなイルミネーションの色は映っておらず。
頭をそっと抱えては、もう何度目かわからない溜息を吐く。
だって、気付いてしまったのだから。
(「……過去のことは綺麗さっぱり吹っ切る……と決めたものの」)
やっぱりひとつだけ、未練がある――と言うか未練が出来てしまった、と。
そして誰にも聞こえないくらいの呟きがぽつり、溜息と共に漏れる。
「……『心当たり』で咄嗟に思い出してしまった時点でもう言い訳も出来ねえよ」
吹っ切ろうとは思っていても、でも潜在意識の中には残っていることを、自覚してしまった。
だから、カイは頭を悩ませているのだった。
――『彼』に『 』の無事を伝えるべきか、否か。
(「優しい子だから、連絡が途絶えた時点では心配してくれてただろうし。今も少しでも心の中に、稀に思い出す程度でもその気持ちがあるなら、もう忘れていいって意味でも出す意義はあるだろうが……それこそ吹っ切れて忘れることにしてたら藪蛇以外の何物でもないんだよな」)
でもやはりどうしても性分的にも、うだうだとこうやってつい色々考えてしまうのだ。
そんな『彼』の姿をたまたま一方的に目にすることはあるのだ。
所属している団体の広告塔として、メディアなどの露出もそれなりにしているようだから。
(「と言うか風の噂で結婚したとか聞いたような気も……あれ違ったっけ?」)
そういう話も何となく耳にした気がするけれど、だからこそ尚思ってしまう。
(「何にせよ私の存在が何かしらの不利益を彼に齎すなら控えるべきだが……」)
さて、どうするか……と。
ということで、彼と連絡を今も取っているっぽい『あの先輩』に相談してみれば。
「いいんじゃないか? てか絶対喜ぶと思うぞ!」
拍子抜けするほどに、あっさりとそう言われる。
いや、まずは相談するにあたって、諸々の事情などなどを話す事から始まったのだが。
最初はさすがに驚かれはしたものの、いざとなれば昔の話をして色々あれそれ証明しようとまで思っていたけれど特にその必要もなく。
迷惑ではないかと恐る恐る言っても、迷惑? 何がだ? みたいに首を傾けつつも。
早く言ってくれたらよかったのに、水臭いじゃねーの! とか馴れ馴れしくも言われるくらいで。
あまり深く考えない先輩の単純さにホッとしつつ、本題を切り出せば。
「いいんじゃないか? てか絶対喜ぶと思うぞ! てか、そんな難しく考えなくていいんじゃないか? 普通に嬉しいと思うし、性格的にもあいつは意外と深く考えるようなタイプじゃねー気するし」
彼は品があって真面目な印象ではあるものの、確かに先輩が言うことにも何となく一理ある気はするし。
色々と懸念していた断念ポイントもあっさりとクリアできた……ように思うから。
前向きすぎる先輩に散々背中も押して貰って、色々聞きたかった必要事項も教えて貰って、礼を告げて別れた後。
「……ええい儘よ! 迷惑だったら見なかったことにするだろ多分!」
そう言いつつも、でもそうなれば分かってはいるのだ。
(「律儀だからどの道読んでしまいそうな気もするけど!」)
でもとにかく、意を決して筆を取るカイ。
まずは時候の挨拶をしたためて、そして――本題。
(「突然連絡途絶えて心配かけたことへの謝罪と、ちゃんと生きてることの報告と!」)
最後に結びの挨拶を添えれば、完成!
いや、何度も何度も、こう書くべきか、いやそれとも……みたいに悩んだし。
「……簡潔に終わらせるつもりが最低限のマナーとか考えてたらそこそこ手紙が埋まったな」
結局、それなりに思ったよりも長くなってしまった気もするけれど。
(「後は聞いた住所と、名前と……差出人の名前、と」)
それからふと少しだけ考えて、再び筆を走らせる。
「……返信は期待しちゃいないけど」
一応これもマナーとして局留めくらいはしておくか、と。
それをそっと投函すれば、大きくカイはひとつ頷いて。
「これで私も心残りはなくなるし、彼にとっても心のつかえはなくなるだろ」
――よーし、清々しい年明けを迎えるぞ!
クリスマスカラーに彩られる街へと歩き出しながら、美味しそうな和風のクリスマスケーキを何となく買って帰ろうと思うのだった。
そして――数日後。
「住所教えたことは言っておいた方がいいかなーって連絡したら、もう返信の手紙書いて送ったっていってたぞ!」
「……っ!?」
あの先輩から言われたその言葉に、思わず瞳を見開いてしまって。
相変わらずの律義さとあれでいてフットワークの軽さに、何となく懐かしくもなるし。
「やっぱすげー喜んでたぞ。そのうち顔も見せてやれよ、もっと喜ぶんじゃねーか?」
「そ、そんな簡単におっしゃられても……!」
とりあえず、急展開に動揺しつつ、先輩には改めて御礼を言ってから。
きっと達筆で、生真面目に書いてある手紙なのだろうな、なんて予想しながらも。
ちょっぴり逸るように……無意識的に足早に、郵便局へと向かうのだった。
成功
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