それは、世界でただ一つの|贈り物《奇跡》
「ええっ!? サンタさんって本当にいるんですか!?」
「あら、ご存じないですの?」
巨大な宇宙船の中にそびえる孤城。そこで話に花を咲かせるのは女子二人。そしてその傍に男が一人、静かに紅茶を飲んでいる。
クリスマスパーティから帰ってきたエリル・メアリアル(|孤城の女王《クイーン・オブ・ロストキャッスル》・f03064)からサンタの話を聞いたローズウェルは驚き、その様子にエリルは得意気に微笑んでいた。
「サンタは噂ではなく実在する人物ですわ。けれど彼は多忙の身。ですから一般家庭では、親がサンタの代わりを務めていますのよ」
「なるほど、そういうことだったのですね! ダニエルさん、それはフィクションだって言ってたからてっきり……」
「あらダニエル、見栄を張ってたんですの? まぁ信じないのも仕方がないですわね」
「……」
どうとでも言ってろ、と言いたげな視線だけを向け、男、ダニエルは反論しなかった。そんな彼を余所に、ローズウェルとエリルは話を続ける。
「眠っている間に素敵なプレゼントが置かれている……いいなぁ、ロマンチックですよね。私も体験してみたかったです」
「ローズ様はヤドリガミ……でしたわね。実は私も、物心ついたときから体験したことはないですの」
少し眉を下げ苦笑いを見せるエリル。
「わたくしも両親がいない身。代行人がいませんの。ま、当然のことですわね!」
「そっか。そう、なんですね……」
可哀想だと感じたが、ローズウェルは顔に出すのを我慢した。気高く優雅に振る舞うエリルに対して、それは失礼だと思ったからだ。
ダニエルは飲み干したカップをテーブルに置くと、静かに立ち上がり、そっとエリルの背後から声を掛ける。
「……お嬢、夜更かしになるっす。続きはまた明日で」
お茶会はお開きになり、ローズウェルは帰っていった。女王の寝室にて、エリルの長い髪を梳くのは従者代わりのダニエル。
「ねぇダニエル!」
パーティーやお茶会の熱が冷めないのか、随分と機嫌が良さそうなエリルが口を開く。
「サンタは何でも用意してくれる御方だと聞くけれど、それは本当ですの?」
「現実的なものであれば、っすかね。望むものが必ず、とは言いませんが」
「だけど一人一人に違うプレゼントを用意しているのでしょう? 優しいですのね!」
ウキウキと話し続けるエリル。だが、それだけ思いを寄せる|紳士《サンタ》がここへ訪れないことを彼女は理解している。
「明日は何処かへ出かけたいですわ。わたくしもプレゼントを買いに行きますの」
自分へのご褒美か、誰かへ渡すためか。それは彼女のみぞ知る。
「素敵な所があるなら貴方が決めていいですわよ」
「はいはい、分かりました」
互いに慣れた|偉そうな口調《頼まれ方》と|無礼な《気力のない》返事。それなら早く寝なければね、とエリルは就寝の準備が終わるのを待った。
暗くなった部屋で眠りにつく女王が一人。聞こえるのは環境音と微かな機械音。それもそのはず、この宇宙船に自分以外の住民は存在していない。訪れるのは外界の者だけ。
廃墟と言っても過言ではないこの場所に幼き女王がいることを、多忙なサンタは気付かないのかもしれない。親すらいないのだから、それも仕方のないことなのだろう。
だけど、もし自分に両親がいて、この城でクリスマスを一緒に祝えて、次の日にはプレゼントが用意されていたら。……それはどれだけ楽しいことなのだろうか。
だが所詮それは夢で、自分の中ではそうではない現実が当たり前。
(「そんなことを考えすぎては女王が務まりませんわ」)
そうやって自分のプライドを自分に言いつけつつも、ちょっぴり憧れを抱くのは許そうと思った。
……ここはどこかしら?
確か……そう、城でクリスマスパーティーをしていたところ。
わたくしは幼くて、そしてこの方たちは、ええと……。
『|xxx《エリル》』
温かい雰囲気のある部屋に、大人の男性が一人、女性が一人。
『|xxxxxxxx《メリークリスマス》』
そう言ってわたくしに差し出したのは、大きなリボンのついた箱。わたくしはそれを知っている。
これは――。
「…………」
カーテンの隙間から差す、朝を告げる光。それで目が覚めるのはいつものこと。
懐かしさを感じる楽しい夢を見たような気がしたけれど、そういうものに限って内容は覚えていない。
(「怖い夢は記憶に残るのに」)
眩しさを覚えながら腕を伸ばす。そこまでは普段と何も変わらない日常だった。
「……?」
伸ばした腕に何かが当たる感触。お気に入りの大きな枕ではなく、もっと硬い何か。エリルは身体を起こし、枕元を確認する。
それは、まだ寝ぼけている頭でもハッキリと分かるものだった。突然訪れた|非日常《・・・》に、エリルは驚きと嬉しさを同時に感じ取る。
「……ダニエル! ダニエルはいますの!?」
女王は、真っ先に自慢したい相手の名を叫んだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴