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バトル・オブ・オリンピア①〜夢のように早く

作者：真空。

　一年中雪に覆われ、ひとりでにゴンドラが稼働し続ける謎の霊山「ウインタートライアスロン山」。色々考えるときわめて怪奇な山だが、アスリートアースの人々は特に気にせず、「スキージャンプ・スキー大回転バトル・スピードスケート」の三種目からなる「冬季トライアスロン」を考案し、技量を競い合っているらしい。
　そして、冬季トライアスロンの第二競技「スキー大回転バトル」。とてつもない斜度のゲレンデに立てられた沢山の旗門をスキー、もしくはスノーボードで滑走する。また、この競技は私達の知る一般的なアルペンスキーと違い「バトル形式」で、他猟兵やダークリーガーとのバトルが含まれている。旗門をひとつでもスルーしたら即失格で、選手同士はユーベルコードも含めたあらゆる攻撃が認められている。どんな手段を使っても、麓のゴールテープを一番早く切ったものが勝者となるのだ！

「お疲れ様です。スポーツで戦う、というのも中々に難しいものですね」
　杜崎・紅祢（翠光纏いし癒し手・f36019）は僅かに苦笑いを浮かべたものの、すぐに表情を戻し真面目な顔で予知の内容を告げる。
「今回はスキーです、いやスノーボードでも全然良いんですが大回転バトル……旗門を通りながら斜面を滑り降りて、最速で麓へと着いた者が勝利となります。タイムを競うのではなく一斉スタートで、攻撃や妨害で相手を足止めしつつ、自分はゴールを目指すという感じです」
　ゲレンデの斜度自体もなかなかのもので、スタート地点からは絶壁にしか見えないかもしれない。その坂を滑り降りるというのだから、スピードはかなりのものとなるだろう。
「危険は危険ですが、今回の敵はスピード勝負を仕掛けてくる相手ではないのでそこに関しては安心出来るかもしれません。相手は『睡眠アスリート』レム。相手を寝かせたり、寝る事で身体能力を上げるアスリートです」
　物理的な攻撃があまり来ないのなら、寝かされなければチャンスはあるかもしれない。
「大変だと思いますが、応援しています。頑張って下さいね」

第1章 ボス戦 『『睡眠アスリート』レム』

POW   :    スリーピングオーラ 【極度の眠気オーラ】を纏わせた対象1体に「攻撃力強化」「装甲強化」「敵対者に【ここ一番のタイミングで寝落ち】を誘発する効果」を付与する。 SPD   :    スリーピングリアクション 【眠りに落ちる】事で【睡眠覚醒モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。 WIZ   :    スリーピングマインド 【眠気を我慢すること】の継続時間に比例して、自身の移動力・攻撃力・身体硬度・勝負勘が上昇する。 イラスト：天和 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「うな？　お昼寝のスポーツがあるのら？　出るのら！　出るのら～～♪」
　楽しげに現れたのは、ノラ・ネコカブリ（ダークエルフの眠りの歌い手・f35214）。どうやらみんなでお昼寝をする大会だと勘違いして参加してしまったらしい。
　一応普段被っているねこかぶりの帽子を、競技用のモフモフヘルメットに変えて出場だ。
「な、なんか寒いのらね。この板に乗って寝るのら？　変わってるのら。うな！？　試合が始まるのら！？　無理なのら！　こんな板じゃ眠れないのらぁああ！」
　山の天辺まで上がったところで、問答無用に足にボードを取り付けられ、ようやく事態を把握。生まれてこの方、スキーやボード等滑ったことがない訳で。しかし、無情にもスタートのブザーが鳴り背中を押されて急斜面を滑り始める。
　どうにかこうにか一つ目の旗門をくぐったところで、ノラは隣に誰かが滑っている事に気付いた。
『来た』
　並走しているのは『睡眠アスリート』レム。いかにも寝れそうな軽装のまま、スキーで滑走している。
『眠いなら、寝ちゃえばいい』
　ふわりとレムの周囲から魔力が立ち上る。その力はノラを包み、本人の眠りに対する意思が働いたのかどう頑張っても瞼が落ちてしまう。
「あれ？　眠気が……うなな……ｚｚｚ」
　しかし、ここでノラの睡拳が発動した。雪面を滑りながら眠ってしまうという不利すぎる行動に、ノラの身体能力が有り得ないほどに上昇していく。ノラの乗る板がゲレンデを滑らかに下りていく。本人は寝たままなのに勘が働いたのか旗門を通り抜け、見る間にスピードを上げて……レムを抜き去り一気に麓まで一直線。
　最後は真っ直ぐにゴールを抜けて、減速のために作られた雪の山へと突っ込んでストップ。被っていた帽子がふかふかのクッションへと変身しノラの身体を柔らかく受け止めた。
「んー……着いたのら？」
　衝撃に目が覚めたのか、顔を上げるとどうやら勝負に勝ったらしい。ノラは周囲の人達の拍手を受けて、にこにこしながら手を振るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「よーし、頑張るりん☆」
　フリル満載のウェアに身を包んだ、宵空・鈴果（星と月のエアライダー・f37140）。鮮やかな黄色のスキー板をつけると、スタートのブザーに合わせゲレンデへと飛び出していく。
　淡い茶色のツインテールを靡かせ楽しげに滑り出す。勢い任せのように見えてしっかりとコースを読んでいる鈴果、得意のダンスを生かした身のこなしで凸凹を器用に避け、深い雪も悪路走破で通り抜ける。旗門を次々とクリアする内に、並走者が斜め後ろあたりに見えてきた。
『私が勝つの……！』
「あ、来ちゃったりん☆　それっ☆」
　パジャマ姿のダークアスリートに追いつかれても鈴果は動じない。スターライト・エアリアル☆でティンクルスターを召喚し、相手が通らなければならない旗門の一つを塞いでしまった。ついでに自分の通り難い旗門の手前にティンクルスターを設置し、片方のスキーで蹴って方向転換。急カーブをかけて通り抜けると観客から歓声が沸いた。
『な、なにこれ……！？』
　しっかり旗門にはまったティンクルスターを退けるために、スピードダウンした『睡眠アスリート』レムを後目に鈴果はぐんぐんと降りていく。
　しかし、最後の旗門手前、レムが追い付いてきた。ぎりぎりで眠気を我慢する事で、勝負勘と移動力を飛躍的に向上させていたのだ。
『ま、待つの……！　それ以上先に行かせないの……！』
「あらら、追いつかれちゃったりん☆　なら、こうするりん☆」
　鈴果は残りのティンクルスターをレムの前に設置。受け止めるようにふわふわのクッションで包んでしまう。
『な、何……今こんなのに包まれたら、眠ってしまう……！』
　眠気の限界を迎えていたレム。ふわふわ温かな感触に包まれて、とうとう寝落ちしてしまった。その隙に最後の直線を一気に滑り降りてゴールへと到着。
「勝ったりん☆」
　観客の声に、ピースサインで答える鈴果。コースの途中で眠ってしまったレムは、暫く後になってティンクルスターが消えた頃に回収されたらしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「私雪女ですから、ウィンタースポーツはそれなりに得意ですよ。高所恐怖症でもないですし」
　きゅっと髪を束ね、色付きのサングラスに薄手のスキーウェア。細めの板を装着しとんとんと軽く跳んで感触を確認すると、八坂・詩織（銀誓館学園中学理科教師・f37720）は斜面を覗き込んでコースを目でなぞった。ジグザグに置かれたカラフル旗門が、雪の中にいくつも並んでいる。
「ただ……方向音痴なので旗門をスルーすることなくゴールするのが一番の鬼門かもしれません……」
『旗門と鬼門……ナイス？』
　さりげないダジャレを拾ってくれたのは、パジャマにスキー板だけを身に着け隣でスタートを待っていた『睡眠アスリート』レム。そろそろ出番らしい。詩織は苦めのホットコーヒーを飲んで眠り耐性を上げ、ぎゅっとストックを握ってスタート位置へ。
　ブザーが鳴り、ぐっと身体を前へ押し出す。スキーは得意なため、滑り出しは順調。揃えたスキー板が音を立てて雪を削りながら進んでいく。そして、ひとつ目の旗門を通り抜ける際に、未だ並走者が追いついてきていない隣のコースに向かって一度手を伸ばした。
「網にかかると動けませんよ」
　鬼門の前後、白い雪の中に白いファンガスの網を張り巡らせる。触れたものの動きを止め、ついでに運動能力も吸収してしまうそれが、通り抜けようとしたレムを捕えて減速させているのが僅かに視界の後方を掠めた。
『えー……力が抜けるぅ……』
「少し可哀想な気もしますが、これも世界を救うためなので。悪く思わないでくださいね」
　足止めをしてしまえば、後は自分がコースを間違えずにゴールまで全力で滑るだけ。集中してコースを見極め、旗門を一つも見落とすことなく最短距離で進めるように脳内で演算。その通りにスキーを滑らせていく。
『せめて、眠気オーラを……』
　レムがせめてもの抵抗と放ったスリーピングオーラ、訪れる極度の眠気を詩織は事前に飲んだコーヒーのおかげでどうにか堪え。
　そのまま、ゴールを一気に滑り抜ける。
「勝ちました！」
　ストックを握った手を上げて勝利のポーズ。ふう、と息を吐いて振り返った後ろでは、ようやくレムがゴールに辿り着いたのが見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　久留米・圓太郎（自称魔法使いの一番弟子・f00447）は後悔していた。山の頂上まで来るのは良かった。板を渡された時も、まだいけると思っていた。
「……オレが甘かった、かもしれない」
　スタート位置から見下ろしたゲレンデは、直角に落ちているようにしか見えなかったのだ。
「箒の飛行でスピードや高所には慣れてるし、スケート勝負ならここまでやってきてたから、滑りなら行けるつもりではいたんだがなぁ」
　最初から空を飛ぶなら問題は無い、スケートも速度だけなので大丈夫だった。しかし、この斜面を滑り降りるのか。
「サーク・ファクズ・ロクバ」
　まずは準備として、自らの足を人のものへと変える。板を装着しながら、ここに来る前に聞いた言葉を思い出した。
（師匠は、「足の裏に聴け」と言っていた）
　装着した後は軽く歩いたり滑ったりしてその感覚を確かめる。
「体幹は箒の騎乗で鍛えたつもりではいるけども、どこまで持つか」
　魔力を巡らせ、脚の感覚と力を強化しておく。スタートラインに着くと、隣には有り得ないほどに軽装のダークアスリートの姿。
『負けない、の……』
　欠伸をしながら圓太郎の方を見た『睡眠アスリート』レムが、前に向き直った時。スタートのブザーが鳴った。
「先手必勝！！！」
　気合を入れ、逃げ切るつもりで一気に飛び出す。体重を前に乗せて速度を上げると、最初の旗門を通過。
『待つの……！』
　レムの声がする。思ったより差が開いていないのは、眠気を我慢する事で身体能力を上げてきたかららしい。スキー板がじゃっと音を立てて雪のこぶを削った、次の旗門をくぐったときに並ばれてしまう。これ以上妨害されたりしないように、身体の周囲に念の為の結界を張るだけで、後は勝負に集中。
「まだまだ！」
　圓太郎の目が細められる。先のコースを読み、野生の勘で起伏を避けて最短ルートを進んでいく。このままぎりぎり逃げ切れるか。
「どっちだ！？」
　ゴールに飛び込んだのは、ほぼ同着に見えた……しかし、改めて確認すると最後の直線で発揮された逃げ足の早さで、圓太郎が僅かに早かったようだ。
「勝ったぜ！」
　拍手の嵐に両の拳を突き上げる圓太郎。その後ろで、頬を膨らませたレムも小さく拍手を送っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「北欧の雪深い山や森がボクの｜故郷《ホーム》、ちっちゃい頃からスキーで遊んでたもん」
　任せておけ、と胸を張るウルル・マーナガルム（｜死神の後継者《ヴァルキュリア》・f33219）。スタイリッシュなウェアを纏い、試合用の板の装着も手慣れたものだ。
「今は訓練とか｜軍務《仕事》でしか滑ってないから、命のやりとり無く楽しむのは久しぶり。張り切っていこー！」
　スタート位置で隣に立つダークアスリートの様子を窺う。武器等を持っている様子は無い、それなら自分の方が有利だろう。
　まずはスタートと同時に｜『フィルギア』《映像投影型応用光学迷彩》を発動。わざとに大きく巻き上げた雪煙に姿を隠すと、レムの後を追うように滑り出す。
「高い所から撃ち下ろす方が有利だし、相手のコース取りを見れるから狙いを定めるのも簡単」
　旗門を通る時だけは違反を取られないよう姿を現しつつ、基本は隠れながら進んでいく。そして、二つ目の旗門手前。
（｜減音器《サプレッサー》をつければ発砲音は滑走の音に紛れる）
　滑りながらスナイパーライフルを構え、狙うのは。
『わ、何……！？』
　レムのスキー板が外れた。そう、ウルルが狙ったのは踵の留め具。
「お先に失礼ー」
　雪煙を立てて転倒する様子を横目に、さっと追い抜いていく。滑らかにスキーを操り旗門を通り、直線ではスピードを上げて差を開く。ゴールが見えてきた、その時。
『待って……！』
　眠る事で睡眠覚醒モードへと変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大させたレムが追い駆けてくる。
「負けない！」
　最後は純粋にスキー勝負。その点においては滑り慣れているウルルが若干有利か、一気にスパートをかけると一気に麓を狙う。
「やった！！！」
　ゴールテープを切ったのはウルル。ざしゅっと音を立ててスキーを止めると、直後にレムが滑り込んできた。
「お疲れさま、いい勝負だったね！」
　ウルルが差し出した手を頬を膨らませたレムが軽く握る。
『次は、負けない……』
　白いゲレンデに大きな歓声と拍手が響いた。このスキー大回転バトル、猟兵達の勝利だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2024年01月09日