歴史紡ぐ命、あるいは「ピヨピヨ」の奇妙で律儀な生態
年の瀬押し迫る12月25日。ファリシア・グレイスフェーンと白瀬・蝶子はアパートの一室でクリスマスパーティーと洒落込んでいた。
「乾杯」「かんぱーい!」
ワインのグラスを合わせ、一口飲む。コタツに並べられたのは七面鳥にピザ、寿司にシーザーサラダといった料理の数々。蝶子が大喰らいなのを差し引いてなお二人としては多過ぎるが、その答えは二人を取り巻く無数の黄色く小さな物体にある。
「「「「ピヨピーヨ!」」」」
数年前にファリシアが【ゴッド・クリエイション】によって創造したヒヨコっぽい生物、通称「ピヨピヨ」。|人間《蝶子》以上の知性を持つそれは、小さな体でアパートの管理や家事全般もこなし、今日もパーティの給仕や|メニューへの口出し《ニワトリはダメよ》をしている。当然、彼らにも料理に舌鼓を打つ権利を持つのだ。
「家族が多いと賑やかだねー」
「そうだな」
一丁前に給水皿に注がれたワインを啜り、七面鳥を突き時折取りあう。ニワトリじゃなきゃセーフなのかとその光景を微笑ましくファリシアに、「ねえ」と蝶子が囁く。その吐息は異様に湿っぽい。
「どうした?」
「カミサマ……子供、出来たんだよ」
ファリシアは突然の発言に驚愕はしないまでも、気が引き締まった。万事は尽くしている以上その日はいつか来る筈であったが、それでもついに人の親になると明言されれば――
「ほら」
蝶子は見せ付けるように手をゆっくり動かす。その先は自身の腹部……ではなく、明後日の方向。指差した先には二匹の一際大きなピヨピヨ。片方はおくるみに包まれたミニピヨピヨを抱いていた。
「って、ピヨピヨの方かよ!?」
毎度世話になってますと一礼する二匹を後目に、カミサマってこういうのに弱いよねーとコロコロ笑い出す蝶子。
「まあ確かにおめでただが」
ふとファリシアは思う。創造物が手を離れ、新たな歴史を紡いでいく。それはきっと自分達の未来もそうなのだろうと。そして不死なる神は、定命の者に必ず置いてかれる宿命にある。ピヨピヨは愚か、蝶子ですら例外ではない。だがそうだとしても、歴史は残り続ける。紡ぎし者達が、紡ぐ世界が残る限りずっと。
「もー、ショックだったー? 蝶子達もその内出来るって!」
「そうだな」
それはそれとして、まずは小さな一日一日を全力で楽しもうじゃないか。まだケーキが残ってるし、今夜も長いのだから。ファリシアは残ったワインをグイッと飲み干した。
成功
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