震撼! ダークうさみっち様の恐怖のプレゼント作戦!
しんしんと雪が降り、寒さも深まる夜。
アルダワ魔法学園に存在するとある街では、魔導蒸気機関によるイルミネーションがきらきらと輝いている。
普段であれば消灯が少し遅い子供部屋も、今日はもう明かりが消えている。
――今日はクリスマスイブ。サンタクロースを待つ良い子達は、プレゼントに胸を躍らせながら早く眠る日。
そんな夜、空を舞うのはトナカイでもサンタでもなく、一体の謎のフェアリー。
黒い垂れウサミミ、褐色の肌。赤い瞳は爛爛と輝いて。
「ケケケケ! ダークうさみっち様だぞ! おそれおののけー!」
ブラックサンタ服を纏ったそのフェアリーの名はダークうさみっち。
猟兵である榎・うさみっちによく似ているが、極悪非道(※本人談)の全てが謎に包まれたすーぱーだーくなフェアリー様である。
極悪非道な彼が今宵目指すのは――
「今日はサンタより先に子供達に恐ろしいブツをプレゼントして、街を支配してやるぞ!」
クリスマスという子供達が目を輝かせる――もしかすれば一年で一番希望に満ち溢れたその日を恐怖のどん底に叩き落としてやるとくつくつと笑うのだった。
ダークうさみっちは小さな身体でギリギリ持ち運べる大きさの袋をよいしょと背負いながら、街の入口に一番近い家の煙突に入り込んだ。
(サンタめ、お前がゆっくりいろんな所にプレゼントを配っているうちに、このダークうさみっち様がこの街へ恐怖のブツをプレゼントしてやるぞ!)
まだ枕元にも靴下にもプレゼントがないことを確認したダークうさみっちはほくそ笑む。どうやらこの街にはサンタはまだ到着していないらしい。ダークうさみっち様の俊敏さには劣るようだなとご満悦。
しかし、いつサンタが追いつくかわからない。しっかりしているダークうさみっちは手早く子供のもとに恐怖のブツを置く。
「む、リボンが曲がってるのはダメだな」
きゅきゅっとリボンの角度を直す。折角の恐怖のプレゼントだ。完璧な状態で、完璧な恐怖を子供達に叩きつけてやりたい。|ダークうさみっち《恐怖の巨匠》に妥協はない。
子供を見ればすやすやと幸せそうに眠っている。明日の朝、恐怖のプレゼントにどんなリアクションをするのだろうか。泣くだろうか。怒るだろうか。あまりの恐怖にダークうさみっち様を崇めるようになるだろうか。
「ケケケ、お前のリアクションを楽しみにしてるぜ……」
超控えめウィスパーボイスで勝利宣言をしたダークうさみっちは急ぎ他の家へ向かう。
子供達のいる部屋も状況はまちまちだ。
ふかふかのベッドで眠る子供もいれば、簡素なベッドで眠る子供もいる。
(同じ街なのに、結構違うもんなんだな……)
どうしてそんな差があるのかはダークうさみっちにはわからない。だが、変わらないことは一つある。
(どんな部屋にいようがこのダークうさみっち様の恐怖のプレゼントからは逃れられないぞ!)
子供達が朝一番に見つけられる場所に置いてやる。たとえ後からサンタが来ても、サンタのプレゼントより先に開けるのはダークうさみっち様のプレゼントだ――子供達のクリスマスの朝を恐怖に叩き落とす為に、ダークうさみっちはせっせとプレゼントを運んでいく。
配るプレゼントの数も少なくなってきた頃、ダークうさみっちはひときわ殺風景の部屋で眠る子供のもとに辿り着いた。
(うう、滅茶苦茶寒いぞここ……)
部屋の広さに対し家具が少ないからか、部屋が冷えて感じる。僅かに身を震わせながらも、薄い布団に包まって眠る子供の枕元にプレゼントを置く。
「……サンタさん?」
「うぉ」
不意に声をかけられて思わず変な声が出たダークうさみっち。
振り返れば布団に包まったまま、少女が眠そうな目でダークうさみっちを見ていた。
「……うさぎさん、サンタさんなの?」
「俺はダークうさみっち様だ!」
「だーくうさみっちさま……」
うとうとしながらも、少女は言葉を繰り返す。寝ろ! とダークうさみっちが言うが、少女は目をこすって意識を保とうとする。
「わたし、プレゼント、もう貰えないと思ってたの。おとうさんもおかあさんもお仕事で忙しいし……」
サンタさんが来てくれて嬉しいと、微笑む少女にダークうさみっちはこれまでの行いを反省――なんぞするわけがなかった。何せ極悪非道(?)のダークうさみっち様である。
(ということは、久しぶりのプレゼントが恐怖のブツ……ケケケ、これは明日の朝に見せたほうがきっと良い……!)
上げて落とすってヤツだ! と心の中で計算完了したダークうさみっちは、少女の頭を小さな手でぽふぽふと|叩く《撫でる》。
「そーかそーか。ダークうさみっち様は極悪非道だからな、起きてようとするヤツのプレゼントは奪っちゃうぞ!」
「や、やだ……!」
「とっとと寝ろ!」
慌てたように布団に転がり目を閉じる少女。ダークうさみっちの言葉に優しさはなかったはず。だが、その表情はどこか幸せそうだった。
(ここでタイムロスしてる場合じゃない、さっさと配って完璧な街の支配をしてやるぜ!)
しゅぽんと煙突から飛び出し、次の煙突へ。
僅かに空の色が黒から青に変わり始めた頃、ダークうさみっちはプレゼントを配り終わり――街を支配する準備を終えた。
「ケケケケ、恐怖のブツ、配達完了だ! ……流石に眠い……」
ダークうさみっち様といえど、眠いものは眠い。|支配完了《恐怖》の瞬間を見届けるのは断念した。
日が昇り、子供達が目を覚ます。彼らの枕元には可愛らしいプレゼントの箱。
「プレゼントだ! なんだろう?」
何が入っているのかワクワクしながら開ける子供達。中身を見るその瞬間まで、欲しいものが入っていたらと願う。
だがしかし、その箱の中身は等身大ダークうさみっち様ふわふわぬくぬくゆたんぽ!
子供達を恐怖と絶望に叩き落とす、ダークうさみっち様がせっせと夜なべして、街の子供達分作り上げた恐怖のブツである。
「うわぁ……!」
子供が声を上げる。恐怖故――ではない。歓喜の声だ。
ダークうさみっちは恐怖のブツを用意したつもりだったが、ダークうさみっちのぬいぐるみゆたんぽは子供達からしたら『とっても可愛いぬいぐるみ』でしかない。
「欲しいものとは違ったけど、可愛い!」
しかも抱き上げたらぬっくぬくだ。ゆたんぽの温かさがじんわりと伝わる。
温かさに思わず抱きしめれば、かちっと音がして――
『ダークうさみっち様だぞ! おそれおののけ!』
まさかのボイス入り。お腹を押すとダークうさみっち様のお声が聞ける逸品である。
「ママー! サンタさんからなんか可愛いぬいぐるみもらったー!」
どの家の子供達も、そのプレゼントに顔をほころばせる。
同じように、あの殺風景な部屋の少女もプレゼントを大事に抱きしめていた。
『ダークうさみっち様だぞ! おそれおののけ!』
「ふふ、サンタさん、サンタさんのあったかいぬいぐるみくれたんだ……」
何度もお腹を優しく押して声を聞きながら、少女は夜の幻のようなひとときを思い出す。眠気で記憶は曖昧だけれど、楽しくて優しいサンタさんだった。
「ありがとう、ダークうさみっちサンタさん」
子供達は|恐怖のブツ《プレゼント》に喜び、ダークうさみっちの望むような支配はできていなかった。しかし、|ある種の支配《魅了》には成功していた。
――そのどちらもダークうさみっちは知らぬまま、ベッドの中で夢の世界に旅立っていた。
成功
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