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バトル・オブ・オリンピア⑦〜アイドルはつらいよ

作者：にゃあら

●お正月スペシャル！！！
　ウレタンポカポカ大海戦――それは、頭にトマトをつけた選手達がウレタンの剣を手にポカポカ殴り合う競技である！　不安定な足場の上で競技は行われ、バランスを崩した場合、海へとぼちゃん（もちろん失格）してしまう可能性も高いトンチキに視えて結構難易度が高いスポーツと謂えよう。伝統あるその他スポーツ『ウレタンポカポカ大海戦』にはひとつだけ特殊なルールが存在している。競技と競技の合間、休憩時間。たのしいおうたのコーナーが開催されるのだ！　これは通称「アイドルコンテスト」と呼ばれており、ゆらゆら不安定な足場で如何に歌って踊れるのかが肝となる。
　ちなみにアイドルコンテストは幕間なので勝負とはまったく関係が無い。
　如何に観客を虜にするか、個人的な戦いとはなるが。

　ところで、不安定な足場へと向かう前にフィールド横の補給エリアを見てほしい。お酒――未成年はそれに近い何か――が置かれている。その近くにはバットやら回転椅子やらクネプフェやらが生えている。もうわかるよね？
　お酒――未成年はジュース――を飲んで、ぐるぐるして、不安定な足場で歌ってくれ。これお正月のスペシャル番組かなんかじゃねぇか！！！

●グリモアベース
「隣人ちゃんですよ！！！」
　うわっ、隣人ちゃんだ！！！
「テメェ等にはたのしいおうたのコーナーを盛り上げてもらいますよ！　あ、現地に行けば何やるかはわかるんでとっとと向かってください。ウコンエキスと酔い止めは禁止だって言ってました。それじゃ頑張ってくださいね！！！」
　グリモアが輝いて。

第1章 日常 『お正月アイドルコンテスト』

POW   :    パワフルに歌う SPD   :    スタイリッシュに歌う WIZ   :    キュートに歌う 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

　ウレタンポカポカ大海戦！！！
　たのしいおうたのコーナー！！！
　お正月スペシャル！！！
　冬だ！　水着だ！　ぐるぐるだ！！！
　アイドル体当たり企画～～～～～～！！！

　さあ始まりましたこのコーナー！
　普段はたのしいおうたのコーナーですが、今回はお正月スペシャル！
　と、謂うワケで、アイドルの皆さんに集まっていただきました～！
　これからルールを説明します！
　まずアイドルの皆さんにはお酒を飲んでもらいます！
　未成年の皆さんはジュースでお願いしますね。
　そのあと、スタッフが用意してくれた古今東西様々な『回るもの』でぐるぐるしてもらいます！　バットや回転椅子はもちろん、珍しい｜遊具《クネプフェ》、時間が驚愕なやつまで取り揃えております。はい、しっかり目を回したところで！
　ウレタンポカポカ大海戦におけるフィールドへと向かっていただき、フラフラの状態で不安定な足場の上、歌を歌ってもらいます！
　アイドルならフルで歌いきる事が出来ますよね？
　あ、わかってると思いますがコレは『フリ』ですよ？
　それでは皆さん、頑張ってくださいね～！！！


　酢の物は美容によろしいと何処かの誰かが説いていたが、さて、臓腑よりやってくる酸い物は如何か。咽喉を焼くような、胸を焼くような思いに、反芻に、頭痛を覚えるのは仕方のない事。コトコトと煮込まれた、詰め込まれた深夜番組の枠にアイドルグループが殺到する。うーん、取り敢えずお酒飲んでぐるぐる回って、どぼーん、すればよいのねぇ。そう、酔いだけによろしいのだ。……どの辺りがアイドルっぽいのか謎だけどまぁ良いわぁ。細かいところを気にしないのはオマエ、好感が持てるではないか。これが仙人としての、寵姫としての、｜答え《アンサー》である。なんとなく目についたお酒を手に取った。これは……九頭竜？　また随分と大仰な名前のお酒ねぇ……。ラベルに描かれているのは大渦巻きを発生させる、蛸と蝙蝠と竜のキメラ。キマイラが目にしたらきっと発狂間違いなしな代物だ。ところで水着は貸してもらえるのかしらぁ、あるなら、ビキニでも着ていくけどぉ……。素晴らしい！　司会者がOKサインを出した。先に着脱して、コップ一杯の九頭竜をグビり。
　飲み易い酒と謂うものは、如何してこうも、女を滅茶苦茶にしてくれるのか。ほんのりと赤くなったオマエは野球と運動会を思い出す。意識していたのか無意識だったのかは不明だが、握り締めたのはバットだ。ここで司会者からストップがかかる。ちょっと君、なかなか良さげな道具を持参しているじゃないか。鞭である。アスリート達がオマエを囲んで、束になって巻き付けてきた。……元の服装の方が映えるんじゃないか。兎にも角にもシュートするべし。呆れと驚きの狭間で、ぐるぐる、止まるのを待つ……。
　目線をしっかり合わせて歌って踊るなんて最早、スケート選手でも不可能だろう。真っ赤だった顔も蒼くなりそうで、それでも尚、オマエはマイクを握った。気持ちの悪さを抑制したのはきっと客席に向かって流した馥郁のオカゲだ。たいへんな盛り上がりをみせている。……目が回るきつさは最近味わったけど、あの時よりつらいわねぇ……。自分で回るのと他人に回されるのとでは大きな差だ。バランスを崩して、ぐらり、頭から海へと落っこちる。
　さむい～……。こんな季節に海でやろう、水着でやろう、なんて考えた人は狂っている。天狼ちゃん助けて～……。狼っぽい愛玩動物にしがみついて、ぐったり、陸地へと戻る。
　まだ目が回ってるわぁ……。

成功 🔵​🔵​🔴​

　乙女の秘密を探ってはいけない。箱庭の君はとてもか弱く、ダンス程度ならば、お歌程度ならばいつもの事だが――ぐるぐるするのは聞いていない。
　香りで誤魔化すのが正解だ。
　寒空の下、渡されたのは水着一枚。熟達の忍で在れば暑さ寒さを如何こう謂う事はないが、此処で問題点がひとつ。男の水着やアイドルダンスに需要はあるのか？　観客席の方に視線を向けると思っていた数倍ほどの歓声。僕はないと思うのですが、アスリートの皆さんは漢らしさがお好みなご様子。まぁ、それならやっちゃうけどね！　そう、面白ければ何だって構わない。自他ともに楽しく、満足出来るならば最高だ。と、ゆーことで……ぐるぐるするですよー。その前に猟兵よ、何かを忘れてはいないか？　運動会の障害物競走、ぐるぐるバットで引き起こした大惨事――僕もお酒を飲んだ方がいいっぽい？　まったくイケる口ではないか。白湯の如くに熱燗をするり、するり……。
　つまらないかもしれない、けど、僕ってお酒に強い方なんだよね。それもその筈。オマエはひとり蟲毒めいて大百足の呪詛を、蠢動をお抱えしているのだ。故に僅かなアルコールでは寧ろ、調子が良くなるとも考えられた。加えて、埒外を極めた体幹によるバランス感覚！　このツヨツヨ三半規管め。司会者は素直な反応、驚きの声をあげた。そしておうたの時間だと渡されたマイク。アイドルっぽいことは……そこは専門外だよね。此処は適材適所だと発揮されるユーベルコード。不安定な足場に起立したオマエ、リリスちゃんとの一体化だ。これで歌もダンスも補えるっぽい！　ところで憑依したと謂う事はオマエの状態を理解すると謂う事で……。手取り足取りついでにリリスちゃんもぐるぐるおめめ。
　カワイイヤッター！
　よくないよね。

成功 🔵​🔵​🔴​

　天まで届けと歌ったならば、それ即ち、シャボン玉か。
　優雅で儚い物とは違うのだと司会者は宣う。
　あの娘はとんぼだ。たぶん、指を回すだけでクラクラしてくれる。
　太陽と月の狭間から桃に乗ってやってきた、そんなイメージがお似合いなオマエに喝采が送られる。見た目は麗人、中身は少女とご挨拶にも有る通り、若干の幼さが残るオマエの水着姿はアスリート達にも好評であった。ああ、羽衣に水着とは中々に大胆なコーデだ。しかも、オマエ曰く、これが勝負服も兼ねていると謂う。元気溌溂とした振る舞いはたくさんのジュースを奢られるに相応しい。わーい♪　いただきまーす！　ジョッキになみなみと注がれた子供のビールにはちょっとした隠し味が仕込まれている。それは齢16でも摂取可能なカフェインの類であり、これに雰囲気が合わさって酩酊のような状態へと陥る。ばっちり補給できたから、えへへぇ、思いっきり頑張るのじゃー！　えっと、ウレタンポカポカアイドルグルグル……？　それとも、ウカレポカポカアイドルクラクラ……？　まあいいやなんとかなーれ！！！　イエーイ！　金色テールをフリフリしつつ不安定なステージへレッツ・ゴーだ。回る前に落ちないよう注意してください。
　あっはっは、楽しくなってくるのじゃー！　くるくる、ぐるぐる、国民的スタァらしく器用に、多め多めに回転している。ダンスなのか回ってみたなのか不明なほどに、前後不覚になりそうなほどにぐるぐるはぎゅるぎゅるとオノマトペを変えて。みんなー、はやいのじゃー！　早いのはきっとオマエの大回転だ。かなりおかしくなった三半規管を更に更に苛め尽くして、ハイ・テンションとやらに投身してみる。まわれ、まわれ、えーと、あはは！　ウレタンポカポカ、レッツゴー！！！　ぎゅるぎゅるうきうきした結果浮き浮きしている。サイクロンに巻き込まれた何かのように、ふわっふわな頭の方を滅茶苦茶に掻き混ぜて……飛んでる！！！
　ぎゅるぎゅるはぐるぐるへ、ぐるぐるはくるくるへ。
　そのまま、とぽんと、竹とんぼめいて海に落ちた。
　目が回るのじゃぁー……。
　あ、良かった。溺れてなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

　地球は回転しているのだと最初に気付いた人間、その、神への挑戦とも思える沙汰、現代を生きる人間からすれば当たり前でしかない。多様性が問われる今において、まさか、こんな番組が生き残っていたとは画面の前の誰かさんが驚愕するほどのカオスだろう。うわぁ、大惨事の予感。予感ではない。実際、先程まで大惨事が繰り広げられていたのだ。リタイアした者はゼロだが、目を回して、死屍累々な地獄である事に変わりはない。……笑うしかないや。とにかく。ビジュアルだけはアイドル顔負けな俺が来ましたよっと。観客席に座っているウレタンポカポカ大海戦の出場選手達がキャーキャー騒いでいる。ペンラ振って良いんだよ？　白いやつ。心底どうでもよさそうにファン・サービスを行う。だってこれお仕事だもの。仕方ないよね。膨れ上がった虚しさの数々に指の腹をつぅ、と、やれ。
　ぐるぐるする方法は｜九頭竜《おさけ》飲みながら考えるとして……。ランダムに視線をやったところで奇天烈なもの。地面から棒状のようなものが生えていて、未確認飛行物体めいたものが刺さっている。その傾きの具合からして一見アンバランスだが……え、なあに？　クネプフェって？　未確認飛行物体のようなところにしゃがんで、棒状先端の丸っこい部分を持って頭を近づける……ふぅん……ヤバそうだね？？？　まあでも全力でぐるぐるするしかない。だってほら、お正月だし。
　デッドマンのクセして、死体のクセして、回り始めて数秒後にやってくる強烈な後悔。ねえ、あのさ、俺思ったんだけどこのクネプフェってやつ？　どうすりゃ止まるのかな？？？　司会者曰く――誰かが止めるか吹っ飛ばされるかしないと止まらない、だ。は？　誰これ考えたやつ？　頭沸いてない？　沸騰しそうなのはオマエの脳味噌ではないか。脳震盪なんかよりも、メニエールなんかよりもずっと滅茶苦茶。ほんと死ねば良い。尻もちついて脱出には成功したが――歌？　アイドルっぽいの歌おうと思ってたのに、これ、軍歌？？？　って言うか無理無理無理目ぇ回る……。芸術点お高めな足場とのお友達だ。いやこんなに愛してるって思ったことはないし、愛されたことないよね。皮と肉を剥ぐのがお上手な毒舌系アイドル。あ、無理、落ちる。
　落ちた。惜しいのはオマエの顔色が最初から真っ白な事か。
　……アレだ。かわいそ可愛いとか言うヤツが一部の層にウケるんでしょ。
　俺知ってる。
　ひどい恫喝ではないかオマエ、未だぐるぐるしているおめめでドスの効いた一言。ほら可愛いでしょ？　何者かに大切なものを掠奪された気分だ、反吐が出るよね。

　ウレタンポカポカ大海戦、お正月スペシャル！
　如何だったでしょうか？
　アイドルの皆さんも頑張ってくれました。
　そろそろ次の試合が始まるようです。
　※※選手、意気込みを……。
　私も来年はそっちに参加してみたいですね。

成功 🔵​🔵​🔴​

最終結果：成功 完成日:2024年01月04日