最初のアリウム・シーパ
●最新の中の最古
たまねぎ。
それは人類にとって最古の栽培植物の一つと言われている。
つまり、狩猟採取から農耕へ移る契機になった植物であると言える。古くは紀元前……とまあ、そういう小難しいことは今は語るところではないだろう。
いや、そういう文献資料を読み漁った所で、ノーチェ・ハーベスティア(ものづくり・f41986)の求める答えは得られないだろう。
「……あなた、結局の所なんなんです?」
彼女が農耕地エリアの直ぐ側に居住エリア、その小屋めいた家で問いかけているのは、歩く『たぶん玉ねぎ』である。
ノーチェの言葉に意志を見せるように緑色の、りん葉が揺れる。
特に喋ることはないが、何か意志のようなものがノーチェには感じられる。そうなってくると、薄茶色の保護葉は手のように思えるし、根は足のように思えてきてしまう。
玉ねぎを擬人化して見てしまうなんて、いよいよ持ってノーチェは自分が変になってしまったのかも知れないと思った。
けれど、ここはゲームの世界である。
究極のゲーム、ゴッドゲームオンライン。その中で彼女はこれまで現実世界では『統制機工』によって制限されていた何かを作る楽しさを謳歌していた。
とりわけ、彼女が今最も力を入れているのが、農耕である。
フィールドの土地を月額トリリオンでもって借り受けて、耕し、種子アイテムを使って作物を作るコンテンツだ。
「なにか言ってくださいよ」
つん、と『たぶん玉ねぎ』を突くノーチェ。
でも、反応が無い。
ゆらゆらと根というか、足を揺らめかせる『たぶん玉ねぎ』が左右に丸っこい体を踊らせるだけだった。
「食べて良いのかな。食べられるものなんですかね?」
その言葉に『たぶん玉ねぎ』がビクーン! と身を強張らせるように直立不動になってしまう。なんか震えてないだろうか?
「玉ねぎ料理って、確かありましたよね。それに玉ねぎの祝祭もあったような……ツヴィーヴェルフェスト、でしたっけ……」
まあ、なんにせよ作ったんなら食べるのが礼儀ってものだろう。
そう思った矢先、『たぶん玉ねぎ』の姿が卓上から消えていた。
「あれ!?」
なんで!? とノーチェが目を丸くする。
ちょっと目を離した隙に『たぶん玉ねぎ』の姿が消えてしまったのだ。
「あ! 外に出ていったんですか!?」
扉が開いている。
恐らくそこからだ。
「もしかして、食べるって言ったからです!? うそうそ、食べませんから!」
バタバタとノーチェは家から飛び出す。
扉を開ければ、農耕地にトコトコと歩いていく『たぶん玉ねぎ』の姿があった。
「待って待って! 冗談ですって、食べませんよ!」
そんな彼女の言葉を『たぶん玉ねぎ』が信用できるわけがない。
すたこらさっさと逃げる『たぶん玉ねぎ』。追うノーチェ。
だが、その追いかけっこは唐突に終わりを迎える。
本来なら居住エリアに出ないはずの鳥型エネミーが上空より、とことこ歩く『たぶん玉ねぎ』に急降下してきたのだ。
「ああっ! その子は!」
嘴に咥えられて、あっという間に連れ去られてしまう『たぶん玉ねぎ』。
ノーチェは、それを追いかける。
それは自分が作ったもの。
このゴッドゲームオンラインで初めて作ったものなのだ。記念品と言えばそれまでかもしれない。
でも、それだけじゃない。
「その子はうちの子ですから!」
彼女は走った。
それはもう一心不乱に。それこそ、現実ではこんなに息を切らして走ったことはないというほどに。
走って、走って。
鳥型エネミーの巣がある断崖絶壁の山もなんのその。
巣でエネミーにつつかれながらも、なんとか『たぶん玉ねぎ』を救出してみせたのだった――。
成功
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